説明

赤外導波路

【課題】 2μm以上の波長の光を透過できる赤外導波路を提供する。
【解決手段】 導波路のコアにゲルマニウムを溶融・冷却して得たロッドを配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光を透過する光学部品として有用な赤外導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、赤外光を利用した装置の開発が進んでいる。該装置の一例として、放射温度計がある。該放射温度計は、物体からの熱放射エネルギー(赤外光)をとらえて温度を測定する方式であるため、熱電対のような熱伝導を利用する温度計と比べ、非接触で温度を測定することができる。
【0003】
また、熱放射エネルギーの波長分布は、温度に依存する。したがって、該放射温度計に使用される光学部品、例えば、窓材、レンズ材等としては、高温測定の場合は短い波長を透過する部品が、低温測定の場合は長い波長を透過する部品が選定される。
【0004】
ところで、上述した放射温度計には、熱放射をとらえるレンズが本体と一体になっているレンズ型と、熱放射を光ファイバでとらえ、本体に導光するファイバ型がある。後者のファイバ型における光ファイバの材料には、石英ガラスが用いられてきた。しかし、石英ガラスは、2μm以上の長い波長領域では伝送損失が大きくなる。このため、2μm以上の波長の赤外光を放射する温度範囲では、ファイバ型を採用することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、前述のような事情を鑑み、2μm以上の波長の光を伝送損失の懸念なく透過できる赤外導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、2μm以上の波長領域で高い透過率を呈するゲルマニウムを赤外導波路として採用することにより、上記の課題を一挙に解決するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明による赤外導波路は、2μmから20μmに至る長波長域の赤外光を導光し、特に、ファイバ型の放射温度計の導光部材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一態様を、添付図面に基づいて説明する。
【0009】
図1は、本発明に係る赤外導波路の斜視図である。
図2は、図1の赤外導波路1をファイバ型の放射温度計に適用した際の一様態を示す略線図である。
図3は、図1の赤外導波路1をレンズ型の放射温度計に適用した際の一様態を示す略線図である。
【0010】
図1において、1は赤外導波路で、2はゲルマニウムからなるコア、そして、3はクラッドである。
【0011】
コア2としては、ゲルマニウムの多結晶体が用いられる。赤外光の反射・散乱を防ぐため、ゲルマニウムの結晶粒子は大きい方が好ましい。また、結晶の粒界の幅は小さい方が好ましく、粒界を形成する不純物の量はできるだけ少ない方が好ましく、ゲルマニウム多結晶体の原料である粒状ゲルマニウムの純度は99.9%以上であるのが好ましい。また、緻密な多結晶体を得るために添加剤を加えてもよいが、添加剤も不純物と同じく粒界の幅を広げ、透過率を低下させる原因となるため、添加量は1wt%以下とするのが好ましい。
【0012】
クラッド3としては、石英ガラスが好ましく用いられる。
【0013】
上述の赤外導波路は、例えば、粒状ゲルマニウムを、一端が開放され且つ他端が封止された石英ガラス細管内に投入し、開放端から石英細管内の空気を排出して真空にした後、溶融後、冷却して得られる。このときの石英ガラス細管は、肉厚が0.01mm〜2mmで内径が0.02mm〜3mm程度であればよい。また、溶融条件としては、937℃〜1137℃の範囲から適宜選定すればよい。上記の石英ガラスは、所望の形状に容易に加工できる特性を有するので、内径が2mmから0.05mm前後にまでの細管が容易に得られる。このような細管中に溶融ゲルマニウムを導入・冷却することで、ゲルマニウムロッド径として、2mmから0.05mm前後までの細径化が容易に実現される。
【0014】
このような赤外導波路が形成された時点で、上記の石英ガラス細管は、コアであるゲルマニウムの溶融・冷却によるロッドを被覆するクラッド(図1の“3”)となる。ただし、このクラッドは、赤外導波路の最終用途においては、必要に応じて割愛してもよい。以下は、その理由である。
【0015】
一般に、導波路に入射した光は、コアの側面で反射を繰り返しながら伝わる。ここで、コアの屈折率が小さい場合、光が側面で反射するとき、光が外部に漏れて減衰するため、コアの外周にクラッドを設けて減衰を防ぐ必要がある。他方、ゲルマニウムは、屈折率が高いため、光漏れによる減衰はほとんど起きないからである。
【0016】
本発明の赤外導波路の両端面には反射防止コートが施されていることが好ましい。光が赤外導波路のコアに入光する際、光は端面反射により減衰する。端面反射による減衰は、コアの屈折率が大きいほど大きくなる。この点、ゲルマニウムは屈折率が大きいため、端面反射による減衰は大きくなる。したがって、その両端面に反射防止コートを施し、端面反射による減衰を抑えることで、赤外導波路全体としての光透過率が向上する。
【0017】
次に、上述した赤外導波路を光学ユニットに適用した例(図2、図3)について述べる。
【0018】
図2は、図1の赤外導波路1をファイバ型の放射温度計に適用した際の一様態を示す略線図である。
【0019】
図2において、4、5は反射防止コート、6はバンドパスフィルタ、7は赤外ディテクタ、そして、8はファイバ型の放射温度計である。
【0020】
このようなファイバ型の放射温度計8にあっては、熱源から放射されたエネルギー(すなわち赤外光)は反射防止コート4を介して赤外導波路1に入射し、反射防止コート5から出射され、バンドパスフィルタ6を通して赤外ディテクタ7に入射する。このように、赤外導波路1としてゲルマニウムコアを採用することで、2μmより長い波長領域において、従来の石英光ファイバ固有の伝送損失の問題が解消される。
【0021】
図3は、図1の赤外導波路1をレンズ型の放射温度計に内蔵した際の様態を示す略線図である。
【0022】
図3において、9はレンズ、10、11はミラー、そして、12はレンズ型の放射温度計である。
【0023】
このようなレンズ型の放射温度計12にあっては、熱源から放射されたエネルギー(すなわち赤外光)はレンズ9を介して放射温度計12に入射し、ミラー10によって赤外導波路1に導光される。そして、赤外導波路1を出射した光はミラー11によって再び光路を変えられて、赤外ディテクタ7で受光される。この場合は、温度計内部の光路を自由に変えられる特徴があり、したがって、内部構造の設計の自由が増加する。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
99.999%の純度を有する粒状ゲルマニウム10gを外径2.6mm、内径2.0mm、長さが300mm、屈折率が1.45の石英ガラス管内に投入し、該石英ガラス管内の空気を排出して真空にした後、937℃で溶融後、冷却し、ゲルマニウムからなるコアを有する赤外導波路(図1)を作成した。該石英ガラス管としては、一端が粒状ゲルマニウム投入のために開放され、他端が管内真空引きのために、酸素水素バーナーで封止されたものを用いた。
【0025】
作成した赤外導波路を長さ100mmにカットし、両端面に有効波長3μm〜12μmの反射防止コートを10層施し、厚さ2μm、透過率90%の反射防止コートを行った。
【0026】
このようにして得られたゲルマニウム導波路について、FTIR(フーリエ変換型赤外分光光度計)により透過率を測定したところ、4μmにおける透過率は30%に達した(ARコート無しの場合の透過率は15%)。これに対して、上記実施例において、粒状ゲルマニウムに代えて、屈折率が1.45の粒状石英ガラスを投入する点、溶融温度を1850℃とする点以外は、同様の操作を繰り返した。この導波路の透過率は1%に過ぎなかった。
【0027】
〔実施例2〕
石英ガラス管の外径を外径1.3mm、内径を1.0mmとする以外は実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたゲルマニウム導波路について、FTIRにより透過率を測定したところ、4μmにおける透過率は30%に達した。
【0028】
〔実施例3〕
石英ガラス管の外径を0.07mm、内径を0.05mmとし、作成した赤外導波路を長さ20mmでカットする以外は実施例1と同様の操作を繰り返した。得られたゲルマニウム導波路について、FTIRにより透過率を測定したところ、4μmにおける透過率は70%に達した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明による赤外透過用の導波路は、放射温度計や二酸化炭素検出装置など、赤外光を利用する様々な装置に応用することができる。特に、受光部と装置をつなぐ伝送路として用いた場合には、受光部を本体から分離することができ、受光部の小型化につながる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る赤外導波路の斜視図。
【図2】図1の赤外導波路1をファイバ型の放射温度計に適用した際の一様態を示す略線図。
【図3】図1の赤外導波路1をレンズ型の放射温度計に適用した際の一様態を示す略線図。
【符号の説明】
【0031】
1 赤外導波路
2 ゲルマニウムコア
3 石英ガラスクラッド
4 反射防止コート
5 反射防止コート
6 バンドパスフィルタ
7 赤外ディテクタ
8 ファイバ型の放射温度計
9 レンズ
10 ミラー
11 ミラー
12 レンズ型の放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウムからなるコアを有することを特徴とする赤外導波路。
【請求項2】
該コアの外径が2mmから0.05mmである請求項1に記載の赤外導波路。
【請求項3】
該コアの周りにクラッドが配されている請求項1または2に記載の赤外導波路。
【請求項4】
該コアの両端面に反射防止コートが施されている請求項1から3のいずれか1項に記載の赤外導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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