説明

赤外線ガス分析方法及び分析装置

【課題】基準CO2濃度に対する誤差補正を簡単に行なう。
【解決手段】セル8のガス排出口13側のセル8に近い方にはニューマティック型CO2赤外線検出器1、光学的後段にはニューマティック型CO2赤外線検出器2が設置されている。検出器1でセル8を透過した光を測定し、検出器2でセル8及び第1の赤外線検出器を透過した光を測定し、両検出器による測定結果の比から基準ガス濃度の検量線を線形化する補正係数kを算出して基準ガスの感度補正を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工場や製鉄所のガス濃度に関するプロセスモニター、ボイラーや燃焼炉の燃焼ガス分析、大気汚染の監視、自動車排ガス測定などに使用され、ガス分子固有の赤外線吸収効果を利用して、ガス及び蒸気中にある特定成分の濃度を連続的に測定する非分散型赤外線ガス分析計に関し、特にVOC(ガス状有機物)濃度測定などに利用される、所謂差量法形赤外線ガス分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
2つ以上の異なる原子から成る異核分子の多くは、波長1〜20μmの赤外光を照射すると、その化学種に特有の振動および回転の運動エネルギー準位の遷移がおこり、特定の赤外線スペクトルを吸収し、内部エネルギーや体積あるいは圧力の増加など、熱力学的な変化を引き起こす。非分散型赤外線ガス分析計は、この様なガス成分の特性を利用して、その濃度を計測する機器である(特許文献1参照。)。
【0003】
サンプルガス中の全VOC濃度測定に、VOCを燃焼炉で燃焼させてCO2に変換した後、CO2計で測定する方法がある。このとき、燃焼前のサンプルガス中にもともとCO2が存在する場合、所謂差量法の赤外線ガス分析計を使用して測定する。
差量法とは、基準ガスと試料ガスを電磁弁等で周期的に切り換えてセルに導入し、基準ガスと試料ガス中のCO2濃度の差を測定するものである。ここで、燃焼する前のガスを基準ガス、燃焼した後のガスを試料ガスとする。両ガス中のCO2濃度の差を測定することは、全VOCが燃焼することで増加したCO2濃度を測定することになるので、サンプルガスに含まれていた全VOC濃度と等しくなる。
【0004】
しかし通常、サンプルガスにはVOCとCO2(基準CO2と呼ぶ)が共存している。この基準CO2濃度が測定中に変動すると、赤外線吸収のLambert−Beerの法則に従い、CO2濃度とセルでの赤外線吸光量の関係の非線形性によって測定誤差を生じる。この測定誤差の一例を図4に示す。
図4はVOC濃度が一定で、基準CO2濃度を変化させたときの検出器出力変化を示したものである。基準CO2濃度が低いところでのVOC濃度は(1b−1a)であり、そのときの検出器出力は(1c−1d)となる。基準CO2濃度が高いところでのVOC濃度は(2b−2a)であり、そのときの検出器出力は(2c−2d)となる。このとき、その2点でのVOC濃度(1a−1b)と(2a−2b)は等しいにも関わらず、検出器出力は、基準CO2濃度が低い側の(1c−1d)の方が(2a−2b)よりも大きくなる。このように、基準CO2濃度によって測定誤差が生じる。
【0005】
低濃度のCO2を精度よく測定する場合は、試料ガスの赤外線吸収量を多くかせぐため、試料ガスを流通させるセルの長さを長くする必要がある。この場合、検出器出力の非線形の度合いが一層大きくなり、基準CO2濃度変化に対して大きな誤差を生じる。そのため、別途セル長の短い基準CO2濃度測定用CO2計を設置し、基準CO2濃度を測定して、この測定値を用いて差量法で測定したCO2濃度値の補正を行なっている。
【特許文献1】特開平9−49797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の赤外線ガス分析計では、基準CO2濃度変化による誤差を補正するためには、基準CO2濃度を測定するCO2計が別途必要なため、装置が大型複雑化する。
本発明は誤差補正を簡単に行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の赤外線ガス分析方法は、基準ガスと試料ガスの濃度差を測定する差量法形赤外線ガス分析計を用いたガス分析方法において、試料ガスを通過したセルの光学的後段に測定対象成分又は同成分と吸収領域が重なるガスを封入した第1の赤外線検出器を設置して、前記セルを透過した光を測定し、出力が測定対象成分に比例又はほぼ比例する第2の赤外線検出器を設置して、前記第1の赤外線検出器を透過した光を測定し、前記両方の検出器による測定結果の比から前記基準ガス濃度の検量線を線形化する補正係数を算出し、前記基準ガスの感度補正を行なう方法である。
【0008】
本発明の赤外線ガス分析装置は、試料セルと、基準ガスと試料ガスとを選択的に前記試料セルに供給する切り換え弁と、前記試料セルに赤外光を照射する光源と、前記光源からの赤外光を断続する断続手段と、測定対象成分又は同成分と吸収領域が重なるガスを封入したニューマティック型の第1の赤外線検出器と、出力が測定対象成分に比例又はほぼ比例する第2の赤外線検出器と、前記両方の検出器による測定結果の比から前記基準ガス濃度の検量線を線形化する補正係数を算出し、前記基準ガスの感度補正を行なう演算制御部とを備えている。
【0009】
前記第2の赤外線検出器がニューマティック型であることは本発明の装置として好ましい形態である。
【発明の効果】
【0010】
従来、誤差補正を行なうためには、基準CO2濃度を測定するためのセル長の異なるCO2計が別途必要であったが、本発明では差量CO2濃度を測定する透過型ニューマティック型CO2検出器を使用したCO2計に、ニューマティック型CO2検出器を一台追加する構造変更だけでよいため、装置全体が小型で簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明による分析方法の一実施例を説明する。
図1に装置構成図の概略図を示す。
試料セル8はガス導入口12とガス排出口13をセル8の両端にそれぞれ有している。セル8のガス導入口12側には、赤外光を発する光源9が設置され、セル8のガス排出口13側のセル8に近い方にはニューマティック型CO2検出器1、光学的に遠い方にはニューマティック型CO2検出器2が設置されている。
CO2検出器Bは、CO2の吸収波長(4.25μm等)の赤外線強度を測定できる検出器であればよい。例えば、検出器Aと同様のニューマティック型CO2検出器や、オプチカルフィルタを用いて波長選択した焦電形などの半導体赤外線センサでもよい。
【0012】
サンプルガスをセル8に導入するための流路3及び流路4は、流路の途中にバルブ6及び7を有しており、セル8に導入する試料の流量を制御することができる。流路3の途中には燃焼炉5が設置され、ここでサンプルガス中のVOCを完全燃焼することができる。
CO2検出器1は、測定対象成分CO2又は同成分と吸収領域が重なるガス(以下、単にCO2ガスという)が所定の濃度で充填されており、光源9からの照射される赤外線を検出する。CO2検出器2は、検出器1と同様にCO2ガスを所定の濃度で充填しており、CO2検出器1を透過した赤外線の吸収波長を検出する。検出器2にとって検出器1はCO2ガスフィルタの役目を担っている。
【0013】
検出器1及び2の内部は光学的に前後の2室に仕切られており、その2室にはガス成分が入れられている。光学的距離によってガスが吸収する熱量は変化するため、両室に温度差を生じ、ガスの収縮のため隔膜が変位する。この隔膜の変位による圧力変化は、コンデンサマイクロホンやフローセンサなどを介して取り出される。
【0014】
図1において、サンプルガスは流路3又は4のいずれかから装置内に導入され、バルブ6又は7を介してガス導入口12から試料セル8内に供給され、ガス排出口13から外部に排出される。このとき、燃焼炉5を通過してVOCから変換されたCO2を含んだものを試料ガス11、燃焼せずにそのままセル8に導入されたものを基準ガス10とする。
基準ガス10及び試料ガス11の両方には、サンプルガス中のCO2が同じ量だけ含まれており、試料ガス11にはさらにVOCが燃焼して生じたCO2も含まれている。
【0015】
検出器1では、セル8に含まれるCO2ガスによる吸収を検出し、検出器2では、セル8、及び検出器1に含まれるCO2ガスによる吸収を検出する。
基準CO2濃度を変えて、基準ガス10を検出器1及び検出器2で検出した出力を、図2(A)に示す。
検出器2は検出器1より多くのガスを透過していることから検出感度は低くなるが、線形の度合いは基準CO2濃度に比例した直線的な線形に近づく。
検出器2の出力が線形に近いことに着目し、検出器出力を基準CO2濃度が0のときの出力を基準にして正規化したものを図2(B)に示す。
図2(B)より、検出器2の出力Bnはほぼ直線的に線形化される一方、検出器1の出力Anは非線形であることがわかる。
【0016】
次に図2(C)に、検出器1の出力Anと検出器2の出力Bnの出力比An/Bnと、基準CO2濃度の関係について示す。An/Bnは基準CO2濃度との関係が1対1に対応していることがわかる。
すなわち、検出器1と検出器2の出力からAn/Bnを演算することによってサンプルガス中の基準CO2濃度を知ることができる。得られた基準CO2濃度を用いて、差量法で得られたVOC濃度に相当する検出器1の出力を補正することにより、より正確にVOC濃度を測定することができる。
実際には、予め、装置に濃度の異なる数種類のCO2標準ガスを基準ガスとしたときのAn/Bnを実測する。この値を用いて、検出器1の出力が線形になるように、標準ガス毎に補正係数kを計算し、最小二乗法でAn/Bnと補正係数kの関係を図2(D)に示すように多項式等に数式化しておく。
【0017】
図3は、検出器1の出力に図2(D)で求めた補正係数kを乗算したときの出力を示している。この場合、CO2濃度に対して検出出力はほぼ線形になるため、基準CO2濃度の変化の影響を受けることなく試料ガス中のCO2濃度を測定することができる。
試料ガス11と標準ガス10の濃度差を求めることにより、精度良くVOC濃度を測定することができる。
【0018】
本実施例は、VOC濃度測定のためのCO2濃度計に関するものであるが、CO2以外でも基準ガスに対して増大したガス成分の濃度を測定する場合に利用可能である。例えば、NO2を触媒でNOに還元し、増えたNO濃度、つまりNO2濃度を測定するNO2計や、NH3とNOを等モル比で還元して、減ったNO濃度、つまりNH3濃度を測定するNH3計にも適用することができる(特許文献1参照。)。
【産業上の利用可能性】
【0019】
化学工場や製鉄所のガス濃度に関するプロセスモニター、ボイラーや燃焼炉の燃焼ガス分析、大気汚染の監視、自動車排ガス測定などに使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施例の装置の概略構成図である。
【図2】(A)検出器による出力と基準CO2濃度の関係、(B)検出器による出力との関係にで基準CO2濃度を基準した関係、(C)検出器による出力比An/Bnと基準CO2濃度の関係、(D)補正係数kとAn/Bnの関係を示す図である。
【図3】検出器出力に補正係数kをかけたものを示した図である。
【図4】検出器1のみで出力した場合の、基準CO2濃度との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0021】
1 検出器1
2 検出器2
3,4 流路
5 燃焼炉
6、7 バルブ
8 セル
9 光源
10 標準ガス
11 試料ガス
12 サンプル入り口
13 サンプル出口
14 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準ガスと試料ガスの濃度差を測定する差量法形赤外線ガス分析計を用いたガス分析方法において、
前記試料ガスを通過したセルの光学的後段に測定対象成分又は同成分と吸収領域が重なるガスを封入したニューマティック型の第1の赤外線検出器を設置して、前記セルを透過した光を測定し、
出力が測定対象成分に比例又はほぼ比例する第2の赤外線検出器を設置して、前記第1の赤外線検出器を透過した光を測定し、
前記両方の検出器による測定結果の比から前記基準ガス濃度の検量線を線形化する補正係数を算出し、
前記基準ガスの感度補正を行なう赤外線ガス分析方法。
【請求項2】
試料セルと、
基準ガスと試料ガスとを選択的に試料セルに供給する切り換え弁と、
前記試料セルに赤外光を照射する光源と、
前記光源からの赤外光を断続する断続手段と、
測定対象成分又は同成分と吸収領域が重なるガスを封入したニューマティック型の第1の赤外線検出器と、
出力が測定対象成分に比例又はほぼ比例する第2の赤外線検出器と、
前記両方の検出器による測定結果の比から前記基準ガス濃度の検量線を線形化する補正係数を算出し、前記基準ガスの感度補正を行なう演算制御部と、
を備えた赤外線ガス分析装置。
【請求項3】
前記第2の赤外線検出器がニューマティック型である請求項2に記載の赤外線ガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−112900(P2006−112900A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299993(P2004−299993)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】