説明

赤外線センサ出力データの温度補正

【課題】温度制御をされていない二次元アレイ状に配置された赤外線検知素子からの出力データの環境温度変化等による温度ドリフトを補正する。
【解決手段】二次元アレイ状に配置された赤外線検知素子に含まれる入射赤外線に対し感度の低い欠陥素子から出力されるデータの変動値によって、入射赤外線に対し十分な感度を持つ素子からの出力データの環境温度変動等で発生する温度ドリフトを補正し、センサ素子の温度制御をしないでも安定した出力を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変動に対し補正機能を持たない2次元赤外線センサアレイの出力データ補正に関し、温度変化による出力データの温度ドリフト補正を行い、温度変化に対し安定した出力データを得ることができる赤外線センサ出力データの温度補正に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の温度補正方法として、あらかじめ、2次元赤外線センサアレイに入射する赤外線に対し感度をまったく持たないダミーの素子を設け、そのダミーの素子からの出力を制御回路に入力し一定の出力が得られるようにコントロールを行っている。
【0003】
赤外線センサは測定物から放射される赤外線によるセンサ素子表面の温度変化を検出し、電気的信号に変換して出力する。しかし、この測定物から放射される赤外線で変化するセンサ表面の温度変化は非常に小さく、たとえば、対象物の温度変化が1℃であったとすれば、センサ素子表面の温度変化は0.001℃程度である。このとき、赤外線センサ素子表面の温度が赤外線入力以外の要因で変動した場合、この変動が電気信号に変換され大きな誤差信号が出力されてしまう。そこで、赤外線入力以外の要因によるセンサ素子表面の温度変化を検出し、補正してやる必要がある。
特開2003−198931では赤外線に対し感度を持たないダミー画素を赤外線センサ内に設け、ダミー画素からの出力に基づいて、赤外線センサからの出力レベルが一定になるよう制御する回路を設け、温度が変化しても出力が変動することがないように制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−198931号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術のようにあらかじめ温度補正用のダミー画素及び温度補正用の制御回路が赤外線センサ内に組み込まれている場合は温度補正が可能である。しかし、このような機能が組み込まれていない赤外線センサに対しては、冷却を行う温度制御素子と温度コントローラを用い赤外線センサ素子の温度を一定に制御してやる必要がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、あらかじめ温度補正用の機能が組み込まれていない赤外線センサであっても、センサの温度を一定にコントロールする制御機能を追加することなく、赤外線入力以外のセンサの温度変動に対し、センサ出力データの変動を補正し一定の出力データを得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係わる赤外線センサからの出力データの温度補正方法は、2次元アレイ上に配置された多くの赤外線検知素子を持つ赤外線センサの作成上発生してしまう欠陥素子に注目し、中でも、入射赤外線に対し感度の低い欠陥素子に注目する。製造過程で発生する入射赤外線に対し感度の低い欠陥素子からのデータは通常であれば画像データとしては使用できないため、画像処理によって、その不良画素にもっとも近い入射赤外線での感度が良好なセンサ素子からのデータと置き換えられる。本発明では、この感度の低い欠陥画素からの出力データに注目し、複数個存在する場合はその出力の平均値を算出し、その平均値の変動を温度補正のデータとして利用することで、センサ素子の温度変化による出力の変動を補正する。
【発明の効果】
【0008】
測定物から放射される赤外線で変化するセンサ表面の温度変化は非常に小さく、たとえば、対象物の温度変化が1℃であったとすれば、センサ素子表面の温度変化は0.001℃程度である。仮に、環境温度が0.1℃変化すれば、一定温度に温度制御を行っていないセンサの場合、センサ素子表面の温度も0.1℃変化し、センサ素子からの出力は測定物の温度が25℃であっても100℃変化したものとして計測され、100℃以上の計測誤差を含んだデータを出力してしまう。請求項1に関わる温度補正方法は、このような温度変化による出力データの補正を行い安定した出力データを得ることができる。実際に正常な感度に対し15%から30%程度の感度しか持たない感度比D=0.15から0.3の欠陥素子を選択し、本発明の処理を行ったところセンサ自身の温度が変化した場合でも安定した出力データをえることができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本考案の形態を説明する図
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
実施の形態1、以下、本発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。図1は説明を簡単にするために3×3でn=9個の二次元アレイ素子を例に感度の低い欠陥素子が1素子存在する場合について説明する。最初に、2次元アレイ状にn=9個のセンサ素子をもつセンサからの出力を出力水平、垂直方向に内部回路でスキャンし第一画像出力データB1nを得、続けてスキャンし第二画像出力データB2n、第三画像出力データB3nと順次スキャンしていき出力画像データを得る。温度制御を行っていないため、B1nのデータを得たときからセンサ自身の温度が変化した場合、B2n、B3nのデータは入射赤外線の変化による出力とセンサ自身の温度変化によるドリフト出力を含んだ出力となり、センサ自身の温度変化での出力の補正をする必要がある。ここで、この出力画像データB1n中に含まれる感度の低い欠陥素子からの出力データをB15とする。同様に第二画像出力データB2nに含まれる感度の低い欠陥画素からの出力データをB25とする。これらの欠陥素子からの出力は正常なものからの出力データより低いため、この感度比をDとし、B15中に含まれる入射赤外線からの正常な感度の場合の出力データをC15とすると、B15中に含まれる実際の出力データはD*C15となる。同様にB25では正常な感度の場合の出力データをC25とすると、実際の出力データはD*C25となる。ここで、温度変化によって画像出力データB15からかB25を得るまでの過程でドリフトした値をA1とすると、その差、B25−B15はB25−B14=A1+(C25−C15)×Dとなる。この様に単純に欠陥画素からの出力の差分をとっても、欠陥画素といえども感度を持つため温度ドリフトによる出力データA1を得るためには(C25−C15)×Dを除去する必要がある。
そこで、出力データB1n、B2nに含まれる欠陥画素の周囲画素の出力データのうち上下のデータB12、B18、B22、B28に注目して、欠陥画素B15が正常であれば出力される赤外線入力による出力データC15,C25を推定する。まず、B15に含まれる欠陥画素に隣り合う上下の出力データのC12、C18と出力データの連続性からC15≒(C12+C18)/2と推定できる。同様にC25については、C25≒(C22+C28)/2と推定できる為、感度比D1=B15/((B12+B18)/2)、D2=B15/((B14+B16)/2),D=(D1+D2)/2でもとまり、B25−B15=A1+(C25−C15)×D=A1+((C22+C28)/2−(C12+C18)/2)×D・・1)式となる。
【0011】
次に、((B22−B12)+(B28−B18))/2を求めると、(A1+(C22−C12)+A1+(C28−C18))/2=A1+(C22+C28)/2−(C12+C18)/2・・2)式が求まる。
1)式から2)式を減算すると、(B25−B15)−((B22−B12)+(B28−B18))/2=((C22+C28)/2−(C12+C18)/2)×(D−1)・・3)が得られ、3)式にD/(D−1)を掛けると、((B25−B15)−((B22−B12)+(B28−B18))/2)×D/(D−1)=((C22+C28)/2−(C12+C18)/2)×D・・4)式が得られる。1)式から4)式を減算すると、
B25−B15−((B25−B15)−((B22−B12)+(B28−B18))/2)×D/(D−1)=A1・・5)式となり、5)式でドリフト値A1を求めることができる。
最初に欠陥画素に隣り合う上下の出力データに注目したが、同様に左右の出力データB14、B16、B24、B26に注目すればB25−B15−((B25−B15)−((B24−B14)+(B26−B16))/2)×D/(D−1)=A1と2個のドリフトデータA1を得ることができこの平均値を真のドリフトデータA1として、このA1をB2nの各画素から減算することで、温度ドリフトを補正したデータC2nを得ることができる。感度比Dの温度変化によるドリフトでの補正精度の低下を防ぐため、D1=(B25−A1)/((B22−A1)+(B28−A1))/2,D2=(B25−A1)/((B24−A1)+(B26−A1))/2、D=(D1+D2)/2によって、感度比も補正する。
【0012】
説明を簡単にするため1画素の欠陥で説明したが、欠陥画素が複数ある場合はA1も複数もとめることができ、さらにその平均を取ることでより安定した補正を行うことができる。
次に、画像データB2nからB3nを読み込む過程で発生する温度ドリフトをA2とした場合、B2nからB3nの画像データを得る過程での温度ドリフトデータA2も同様の方法で求めることができ、求めた値A2にA1を加えたものをB3nの各画像データから減算してやれば、補正画像データC3nを得ることができる。
このように同様の方法で順次読み込んでいくデータB4n、B5nについても温度補正をかけたデータC4n、C5nを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度制御されていない二次元アレイ状に配置された赤外線センサ素子アレイからの出力データの環境温度変化等による温度ドリフトを補償する方法であって、2次元アレイ状の赤外線センサの製作過程で発生する、入射赤外線に対する感度の低い欠陥素子に注目し、欠陥素子からの出力データとその隣接する上下、左右の感度を持つ素子からの出力データを元に、赤外線に対し良好な感度を持つ赤外線センサ素子からの出力データの環境温度変動等による温度ドリフトを補正し、一定の出力データを得る温度補正方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−33565(P2011−33565A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182240(P2009−182240)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000229081)日本セラミック株式会社 (129)
【Fターム(参考)】