説明

赤外線分析装置

【課題】複数の半導体発光素子から射出される赤外光のスポット径を必要以上に広げることなく強度分布を均一にすることで、高い測定精度を維持することができる赤外線分析装置を提供する。
【解決手段】赤外線分析装置の一種である水分計は、検査対象物としての紙Pの一方側に配置されて紙Pに照射すべき波長の異なる赤外光を射出する複数の半導体発光素子21a〜21cと、半導体発光素子21a〜21cと紙Pとの間に配設されて半導体発光素子21a〜21cから射出される赤外光の各々を多重反射させて強度分布を均一化する多角形状のライトパイプ22とを有する上ヘッド11と、紙Pの他方側に配置されて紙Pを介した赤外光を検出する検出器31を有する下ヘッド12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光を用いて検査対象物の特性を分析する赤外線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線分析装置は、赤外光を検査対象物に照射し、検査対象物を透過した赤外光或いは検査対象物によって反射・散乱された赤外光を受光して透過特性或いは反射特性を求めることにより、検査対象物の検査を行う装置である。この赤外線分析装置は、検査対象物を破壊することなくその特性を検査することが可能であるため、様々な分野で用いられている。例えば、紙の製造分野においては、製品である紙に含まれる水分をオンラインで測定する水分計や、紙の厚みをオンラインで測定する紙厚計として用いられている。
【0003】
具体的に、上記の水分計及び紙厚計は、波長が異なる複数の近赤外光を検査対象物の紙に照射し、紙を透過した近赤外光を受光してそれらの吸収率を求め、予め測定されている近赤外光の吸収率と紙の水分や厚みとの関係等を参照して紙の水分や厚みを測定する。紙に照射される近赤外光としては、例えば水による吸収率が高い波長1.94μmの近赤外光、紙の80%を占める成分であるセルロースによる吸収率が高い波長2.1μmの近赤外光、並びに水及びセルロースによる吸収率が共に低い波長1.7μmの近赤外光が用いられる。
【0004】
従来は、上記の近赤外光の光源としてハロゲンランプ等のランプが用いられていたが、近年ではLD(Laser Diode)やLED(Light Emitting Diode)等の半導体発光素子が用いられる機会が増大している。LDやLED等の半導体発光素子は、ハロゲンランプ等のランプに比べて、寿命が長い、発光効率が高い、消費電力が低い、変調が容易である等の利点を有する。以下の特許文献1には、LDやLEDを光源に用いて紙等のシート製品中の水分等を測定するセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−539422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した水分計や紙厚計等の赤外線分析装置は、波長が異なる複数の近赤外光を用いて紙の水分や厚みを測定するものであるため、LDやLED等の半導体発光素子を光源に用いる場合には、各波長の近赤外光を射出する複数の半導体発光素子が必要になる。このような複数の半導体発光素子を備える赤外線分析装置においては、検査対象物に照射される各波長の近赤外光の強度分布が空間的に均一であり、且つ、揃っていることが測定精度を維持する上で重要になる。
【0007】
なぜならば、検査対象物としての紙に照射される各波長の空間的な強度分布が不均一で揃っていない場合には、半導体発光素子と受光素子との相対的な位置ずれが生じたときに、その位置ずれ量に応じて受光素子で受光される近赤外光の強度が変動して測定精度が悪化してしまうからである。また、搬送テンションの揺らぎによって紙が振動し、半導体発光素子と受光素子との間における紙の通過位置が変動する場合にも同様に測定精度が悪化してしまうからである。
【0008】
ここで、半導体発光素子は、射出される近赤外光の強度分布を均一化するために、放物鏡や楕円鏡等の集光光学系と組み合わせて用いられることが多い。集光光学系に対する半導体発光素子の組み合わせ方法としては、1つの集光光学系に1つの半導体発光素子を組み合わせる方法と、1つの集光光学系に複数の半導体発光素子を組み合わせる方法が考えれる。前者の方法は、各集光光学系から射出される近赤外光を検査対象物上の同じ位置に重ね合わせることになるが、このような重ね合わせを行っても強度分布が均一にならないという問題がある。後者の方法は、集光光学系から射出されて検査対象物上に照射される各近赤外光の径(スポット径)が波長毎に異なってしまい、強度分布が均一にならないという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の半導体発光素子から射出される赤外光のスポット径を必要以上に広げることなく強度分布を均一にすることで、高い測定精度を維持することができる赤外線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の赤外線分析装置は、赤外光を用いて検査対象物(P)の特性を分析する赤外線分析装置(1)において、前記検査対象物の一方側に配置されて前記検査対象物に照射すべき波長の異なる赤外光を射出する複数の光源(21a〜21c)と、該光源と前記検査対象物との間に配設されて前記複数の光源から射出される赤外光の各々を多重反射させて強度分布を均一化する多角形状の光学素子(22)とを有する第1ヘッド(11)と、前記検査対象物の他方側に配置されて前記検査対象物を介した赤外光を検出する検出器(31)を有する第2ヘッド(12)とを備えることを特徴としている。
この発明によると、検査対象物の一方側に配置された複数の光源から射出された波長の異なる赤外光が多角形状の光学素子に入射して多重反射されることにより強度分布が均一化され、この強度分布が均一化された赤外光が光学素子から射出されて検査対象物に照射され、検査対象物に照射された赤外光のうち検査対象物を透過した赤外光が検出器により検出される。
また、本発明の赤外線分析装置は、前記光学素子が、前記光源からの赤外光が入射される入射端(22a)と多重反射した赤外光が射出される射出端(22b)とを有しており、前記射出端が前記入射端よりも大に形成されたテーパー状であることを特徴としている。
また、本発明の赤外線分析装置は、前記複数の光源が、前記光学素子が有する前記入射端に沿う平面内でマトリクス状に配列されていることを特徴としている。
また、本発明の赤外線分析装置は、前記光学素子が、内面が前記複数の光源から射出される赤外光を反射する反射面とされた多角環状の内面反射鏡であることを特徴としている。
或いは、本発明の赤外線分析装置は、前記光学素子が、前記赤外光に対して透明な硝材を多角柱状に形成してなり、側面の各々が反射面とされた内面反射鏡であることを特徴としている。
また、本発明の赤外線分析装置は、前記第1ヘッドが、前記光学素子と前記検査対象物との間に配設されて前記光学素子から射出される赤外光を前記検査対象物上に集光する集光光学系(40)を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検査対象物の一方側に配置された複数の光源から射出された波長の異なる赤外光を多角形状の光学素子に入射させて多重反射させることにより強度分布を均一化し、この強度分布が均一化した赤外光を光学素子から射出されて検査対象物に照射し、検査対象物に照射した赤外光のうち検査対象物を透過した赤外光を検出器により検出しているため、赤外光のスポット径を必要以上に広げることなく強度分布を均一にすることができるという効果がある。これにより、高い測定精度を維持することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態による赤外線分析装置としての水分計の概略構成を示す斜視図である。
【図2】水分計が備える上ヘッド及び下ヘッドの内部構成を示す正面透視図である。
【図3】水分計が備えるライトパイプの具体的構成例を示す斜視図である。
【図4】第1変形例による水分計が備える第1ヘッドの内部構成を示すである。
【図5】第2変形例による水分計が備える半導体発光素子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による赤外線分析装置について詳細に説明する。尚、以下では、理解を容易にするために、本発明を赤外線分析装置の一種である水分計を適用した例に挙げて説明するが、紙厚計等の他の赤外線分析装置についても水分計と同様に本発明を適用することができる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態による赤外線分析装置としての水分計の概略構成を示す斜視図である。図1に示す通り、水分計1は、フレーム10、上ヘッド11(第1ヘッド)、及び下ヘッド12(第2ヘッド)を備えており、例えば製紙工場に設置された抄紙機に取り付けられ、抄紙機で製造された紙P(検査対象物)に含まれる水分の測定を行う。
【0015】
尚、以下の説明においては、図中に設定したXYZ直交座標系を必要に応じて参照しつつ各部材の位置関係について説明する。但し、説明の便宜のため、各図に示すXYZ直交座標系の原点は固定せずに、各図毎にその位置を適宜変更するものとする。図1に示すXYZ直交座標系は、X軸が紙Pの搬送方向D1に沿う方向、Y軸が紙Pの幅方向に沿う方向、Z軸が鉛直方向に沿う方向にそれぞれ設定されている。
【0016】
フレーム10は、外径形状が長手方向と短手方向とを有する略四角環形状の部材であって、その開口部OP内において上ヘッド11及び下ヘッド12を長手方向に往復運動可能に支持する。具体的に、フレーム10は、長手方向が紙Pの幅方向(Y方向)に沿う方向に設定されるとともに短手方向が鉛直方向(Z方向)に沿う方向に設定され、紙Pが開口部OPの略中央を通過するように配置される。
【0017】
つまり、フレーム10は、搬送される紙Pの上方に上ヘッド11が配置されるとともに、搬送される紙Pの下方に下ヘッド12が配置されるように、紙Pに対する位置決めがなされている。尚、図1においては図示を省略しているが、フレーム10は、上ヘッド11を紙Pの上面に沿って長手方向に往復運動させる機構と、下ヘッド12を紙Pの裏面に沿って長手方向に往復運動させる機構とを備える。これらの機構を同じように駆動すれば上ヘッド11と下ヘッド12とを同期させて往復運動させることができ、これらの機構を別々に駆動すれば上ヘッド11と下ヘッド12とを別個に移動させることができる。
【0018】
上ヘッド11は、上述の通り、紙Pの上面に沿って紙Pの幅方向に往復運動可能にフレーム10に支持されており、紙Pの上面に向けて波長の異なる複数の赤外光(近赤外光)を照射する。具体的には、水による吸収率が高い波長λ1(例えば、1.94μm)の近赤外光、紙の80%を占める成分であるセルロースによる吸収率が高い波長λ2(例えば、2.1μm)の近赤外光、並びに水及びセルロースによる吸収率が共に低い波長λ3(例えば、1.7μm)の近赤外光を紙Pの上面に照射する。
【0019】
下ヘッド11は、上述の通り、紙Pの裏面に沿って紙Pの幅方向に往復運動可能にフレーム10に支持されており、紙Pを介した近赤外光を受光する。下ヘッド11によって受光された近赤外光の検出結果に基づいて紙Pに含まれる水分が測定される。尚、搬送方向D1(X方向)に搬送される紙Pを挟んで上ヘッド11と下ヘッド12とを同期させて紙Pの幅方向(Y方向)に往復運動させることにより、図1に示すジグザグ状の測定ラインL1に沿って紙Pに含まれる水分が測定されることになる。
【0020】
次に、上ヘッド11及び下ヘッド12の内部構成について詳細に説明する。図2は、水分計が備える上ヘッド及び下ヘッドの内部構成を示す正面透視図である。尚、図2では上ヘッド11及び下ヘッド12の筐体の図示を省略しており、上ヘッド11については一部断面図を織り交ぜて図示している。図2に示す通り、上ヘッド11は、半導体発光素子21a〜21c(複数の光源)とライトパイプ22(光学素子)とを備える。
【0021】
半導体発光素子21a〜21cは、例えばLD(Laser Diode)又はLED(Light Emitting Diode)であり、紙Pに照射すべき近赤外光を射出する。具体的に、半導体発光素子21aは水による吸収率が高い波長λ1(例えば、1.94μm)の近赤外光を射出し、半導体発光素子21bはセルロースによる吸収率が高い波長λ2(例えば、2.1μm)の近赤外光を射出し、半導体発光素子21cは水及びセルロースによる吸収率が共に低い波長λ3(例えば、1.7μm)の近赤外光を射出する。これら半導体発光素子21a〜21cは、プリント基板やセラミックス基板等の平板状の実装基板SB上に一定の間隔をもって直線状又は平面状に配列されて搭載されている。
【0022】
ライトパイプ22は、半導体発光素子21a〜21cと紙Pとの間に配設されており、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光の各々を多重反射させて強度分布を均一化する多角形状の光学素子である。具体的に、ライトパイプ22は、XY平面内における形状が四角形状であって半導体発光素子21a〜21cからの近赤外光が入射される入射端22aと、XY平面内における形状が入射端22aと相似形状であって多重反射した近赤外光が射出される射出端22bとを有しており、射出端22bが入射端22aよりも大に形成されたテーパー状の光学素子である。
【0023】
具体的に、ライトパイプ22は、例えば、入射端22aの一辺の長さが数mm程度に設定され、射出端22bの一辺の長さが十数mm〜数十mm程度に設定される。ここで、ライトパイプ22から射出される近赤外光のスポット径は紙P上に設定される測定領域と同程度の大きさに設定され、ライトパイプ22から射出される近赤外光のスポット径は射出端22bの大きさに応じて規定されるため、射出端22bの大きさは紙P上に設定される測定領域の大きさと同程度になるように設定される。尚、ライトパイプ22は、実装基板SB上に搭載された半導体発光素子21a〜21cが入射端22aに極力近接し、且つ、紙Pとの間の間隔が数mm程度となるように、半導体発光素子21a〜21cと紙Pとの間に配設される。
【0024】
図3は、水分計が備えるライトパイプの具体的構成例を示す斜視図である。図3(a)に示すライトパイプ22は、台形形状の板状部材B1〜B4を貼り合わせてなる四角環状(中空の四角錐状)の内面反射鏡であり、図3(b)に示すライトパイプ22は、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光に対して透明な硝材を四角柱状(四角錐状)に形成してなる内面反射鏡である。尚、図2においては、図3(a)に示すライトパイプ22を図示している。
【0025】
図3(a)に示すライトパイプ22は、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光に対して高い反射率(例えば、90%以上)を有するアルミニウム板等の金属板からなる板状部材B1〜B4の斜辺を貼り合わせることにより形成される。或いは、一方の面に金や銀が蒸着されて半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光に対する反射率が高められた(例えば、90%以上に高められた)金属板又はガラス板からなる板状部材B1〜B4を、その面を内側にして斜辺を貼り合わせることにより形成される。
【0026】
尚、図3(a)に示すライトパイプ22は、4枚の板状部材B1〜B4を貼り合わせて形成する方法以外の方法を用いて形成することも可能である。例えば、外径形状が四角錐形状の金属ブロックの内部を、図3(a)に示す通りに四角環状に削り出し、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光に対する反射率が高くなるようにその内面を処理(例えば、鏡面処理)することによって形成することができる。
【0027】
図3(b)に示すライトパイプ22は、サファイア(Al)、フッ化カルシウム(CaF)、BK7、クラウンガラス等の半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光に対して透明であって、近赤外光に対して1.5前後の低屈折率の硝材を四角柱状(四角錐状)に研磨することにより形成される。尚、硝材としてBK7やクラウンガラスを用いれば、硝材としてサファイアやフッ化カルシウムを用いる場合に比べて安価に形成することができる。
【0028】
ここで、図3(a)に示すライトパイプ22は、半導体発光素子21a〜21cから射出されて空気中を進む近赤外光をその内面で反射するものであるため、反射時に近赤外光が数%程度減衰することが考えられる。これに対し、図3(b)に示すライトパイプ22は、半導体発光素子21a〜21cから射出されてライトパイプ22をなす硝材の内部を進む近赤外光を側面C1〜C4で反射するものであるため、近赤外光を全反射させることができる。よって、近赤外光を多重反射させた場合の減衰量の点からは、図3(b)に示すライトパイプ22の方が有利であると考えられる。
【0029】
また、図3(a)に示すライトパイプ22は四角環状であるため、近赤外光が入射端22aに入射する際の反射、及び、射出端22bから射出される際の反射は生じない。これに対し、図3(b)に示すライトパイプ22は、硝材を四角柱状(四角錐状)に形成したものであるため、近赤外光が入射端22aに入射する際の反射、及び、射出端22bから射出される際の反射が生ずる。但し、図3(b)に示すライトパイプ22は、BK7やクラウンガラス等の近赤外光に対する屈折率が低い硝材を用いているため、入射端22a及び射出端22bで生ずる反射を低く抑えることができる。
【0030】
図2に戻り、ライトパイプ22は、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光の各々を多重反射させることにより強度分布を均一化している。いま、図2に示す通り、ライトパイプ22の中心軸に沿う光軸AXから外れた位置に配置されている半導体発光素子21aから射出されて経路P1,P2を通過する近赤外光について考える。経路P1を通過する近赤外光は、光軸AXに対して、半導体発光素子21aからθ1の角度をもって射出されて入射端22aからライトパイプ22内に入射する。そして、経路P1を通過する近赤外光は、ライトパイプ22の内面で2回反射される度に光軸AXとのなす角度が徐々に小さくなり、最終的には光軸AXに対してなす角度がθ2(θ1>θ2)になって射出端22bから射出される。経路P2を通過する近赤外光も同様に、ライトパイプ22の内面で1回反射されることにより光軸AXに対してなす角度が小さくなって射出端22bから射出される。
【0031】
このように、入射端22aからライトパイプ22内に入射した近赤外光は、ライトパイプ22の内部で反射(多重反射)されることにより光軸AXとのなす角度が徐々に小さくされて射出端22bから射出される。このため、近赤外光が入射端22に入射する際の光軸AXに対する角度(半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光の角度)が異なっていても、ライトパイプ22からは光軸AXに対して略平行にされた近赤外光が射出される。このため、スポット径を必要以上に広げることなく均一な強度分布を有する近赤外光を紙Pの上面に照射することができる。
【0032】
図2に示す通り、下ヘッド12は検出器31を備える。検出器31は、受光面が光軸AXの延長線上に位置し、且つ、受光面と紙Pとの間の間隔が数mm程度となるように、紙Pの下方に配置されており、紙Pを介した近赤外光(紙Pの上面から裏面に向けて透過した近赤外光)を検出する。この検出器31としては、例えばPbS素子、Ge素子、又はInGaAs素子を用いることが可能である。
【0033】
ここで、上記のPbS素子は、硫化鉛を主成分とする光導電素子であって、約0.6〜3.0μmの波長域の光の検出が可能であり、波長2.0μm付近において検出感度が最大となる素子である。上記のGe素子は、ゲルマニウムを主成分とする光導電素子であって、約0.6〜1.8μmの波長域の光の検出が可能な素子である。上記のInGaAs素子は、インジウム、ガリウム、及び砒素を主成分とする三元混晶半導体素子であって、約0.9〜2.3μmの波長域の光の検出が可能であり、波長1.5〜1.8μm付近において検出感度が最大となる素子である。
【0034】
次に、上記構成の水分計1の動作について説明する。水分計1の動作が開始されると、フレーム10に設けられた不図示の機構によって上ヘッド11と下ヘッド12とが駆動され、上ヘッド11及び下ヘッド12は、紙Pの幅方向(Y方向)に同期して往復運動する。上ヘッド11及び下ヘッド12の駆動が開始されると同時に、上ヘッド11に設けられた半導体発光素子21a〜21cの駆動も開始される。これにより、半導体発光素子21aからは波長λ1(例えば、1.94μm)の近赤外光、半導体発光素子21bからは波長λ2(例えば、2.1μm)の近赤外光、半導体発光素子21cからは波長λ3(例えば、1.7μm)の近赤外光がそれぞれ射出される。
【0035】
半導体発光素子21a〜21cから射出された近赤外光は、入射端22aからライトパイプ22内に入射し、ライトパイプ22の内部で多重反射されることにより光軸AXとのなす角度が徐々に小さくされて強度分布が均一化されて射出端22bから射出され、その後に紙Pの上面に照射される。紙Pの上面に照射された近赤外光は、その一部が紙Pの上面で反射・散乱され、残りが紙Pを透過する。
【0036】
紙Pを透過した近赤外光は下ヘッド12に設けられた検出器31で検出される。ここで、波長λ1の近赤外光は、紙Pを透過する際に紙Pに含まれる水によって吸収され、波長λ2の近赤外光は紙Pを透過する際に紙Pの成分であるセルロースによって吸収される。これに対し、波長λ3の近赤外光は、紙Pを透過しても吸収が少ない。このため、波長λ1,λ2の近赤外光の強度は、波長λ3の近赤外光の強度に比べて小さくなる。
【0037】
近赤外光が検出器31で検出されると、その検出信号は増幅された後に信号分離されて、波長λ1,λ2,λ3の近赤外光に応じた測定信号S1,S2,S3がそれぞれ求められる。すると、これらの測定信号の比に基づく多変量解析によって近赤外光の吸収率が求められる。近赤外光の吸収率が求められると、予め測定されている近赤外光の吸収率と紙Pの水分との関係を示すテーブル等を参照して紙Pに含まれる水分が測定される。尚、水分の測定は、テーブルを用いる方法以外に、予め設定された関数等を用いて行っても良い。
【0038】
以上の測定は、図1中に示す搬送方向D1(X方向)に紙Pが搬送されている状態で、上ヘッド11及び下ヘッド12が同期して紙Pの幅方向(Y方向)に往復運動している間は継続して行われる。従って、図1に示すジグザグ状の測定ラインL1に沿って紙Pに含まれる水分が測定されることになる。
【0039】
以上の通り、本実施形態では、波長の異なる近赤外光を射出する複数の半導体発光素子21a〜21cと検査対象物たる紙Pとの間に四角環状(中空の四角錐状)又は四角柱状(四角錐状)のライトパイプ22を設け、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光の各々を多重反射させて強度分布を均一化しているため、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光のスポット径を必要以上に広げることなく強度分布を均一にすることができる。これにより、例えば上ヘッド11と下ヘッド12との相対的な位置ずれ、或いは、フレーム10の開口部OPにおける紙PのZ方向の通過位置のずれが生じたとしても高い測定精度を維持することができる。
【0040】
また、本実施形態では、実装基板SB上に搭載された半導体発光素子21a〜21cに対して入射端22aが極力近接するようにライトパイプ22の配置がなされているため、半導体発光素子21a〜21cから射出される近赤外光を無駄なく集光して有効活用することができる。更に、ライトパイプ22は、必要となる測定精度等を考慮して長さを設定すれば良いため小型化が可能であり、しかもコストの大幅な上昇を招くことなく作成することができる
【0041】
次に、本実施形態の変形例について説明する。図4は、第1変形例による水分計が備える第1ヘッドの内部構成を示すである。図4においては、図2に示した部材と同一の部材については同一の符号を付してある。図4に示す通り、本変形例による水分計が備える第1ヘッド11は、ライトパイプ22と紙Pとの間に平凸レンズ40(集光光学系)を備える構成である。この平凸レンズ40は、ライトパイプ22の射出端22bから射出された近赤外光を紙P上に集光するものである。
【0042】
前述した実施形態では、ライトパイプ22の射出端22bの大きさが紙P上に設定される測定領域の大きさと同程度になるように設定されていたため、単に射出端22bを紙Pに向けてライトパイプ22を配置するだけでよかった。しかしながら、ライトパイプ22と紙Pとの間隔を大きくしたい場合、或いは、スポット径を小さくして検出感度を高めた場合には、図4に示す通り、ライトパイプ22と紙Pとの間に平凸レンズ40を配置してライトパイプ22の射出端22bから射出される近赤外光を紙P上に集光させれば良い。
【0043】
図5は、第2変形例による水分計が備える半導体発光素子を示す図である。尚、図5においても、図2に示した部材と同一の部材については同一の符号を付してある。図5に示す通り、本変形例による水分計は、実装基板SB上にマトリクス状に配列された複数の半導体発光素子21a〜21cを備える構成である。具体的に、図5に示す例では、半導体発光素子21a〜21cが3つずつ実装基板SB上に搭載されている。尚、実装基板SBは、ライトパイプ22の入射端22aに対して平行となるように配設されるため、半導体発光素子21a〜21cは、入射端22aに沿う平面内でマトリクス状に配列される。
【0044】
半導体発光素子21a〜21cは、LDやLEDで実現されることから各々の出力を高めるのには限界がある。このため、図5に示す通り、半導体発光素子21a〜21cを複数用意してマトリクス状に配列することにより、各波長(λ1,λ2,λ3)の近赤外線の強度を高めることができる。このようにマトリクス状に配列された複数の半導体発光素子21a〜21cを用いても、ライトパイプ22の入射端22aの大きさはさほど変わらないため、ライトパイプ22による強度分布の均一化の効果を十分に得ることができる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態による赤外線分析装置について説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、ライトパイプ22の形状が、四角環状(中空の四角錐状)又は四角柱状(四角錐状)である場合を説明したが、その形状は六角環状又は六角柱状であっても良く、八角環状又は八角柱状であっても良い。つまり、ライトパイプの形状は、三角環状又は三角柱状以上の多角環状又は多角柱状であれば良い。また、ライトパイプの形状は、テーパー状である必要は必ずしもなく、柱状であっても良い。
【0046】
また、上述した実施形態では、4枚の板状部材B1〜B4の斜辺を貼り合わせることにより形成されるライトパイプ22(図3(a)参照)、及び、近赤外光に対して透明な硝材を四角柱状(四角錐状)に形成してなるライトパイプ22(図3(b)参照)を例に挙げて説明した。しかしながら、ライトパイプ22の内面又は側面(近赤外光に対する反射面)は平面である必要は必ずしも無く、必要に応じて曲面にされていても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 水分計
11 上ヘッド
12 下ヘッド
21a〜21c 半導体発光素子
22 ライトパイプ
22a 入射端
22b 射出端
31 検出器
40 平凸レンズ
P 紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光を用いて検査対象物の特性を分析する赤外線分析装置において、
前記検査対象物の一方側に配置されて前記検査対象物に照射すべき波長の異なる赤外光を射出する複数の光源と、該光源と前記検査対象物との間に配設されて前記複数の光源から射出される赤外光の各々を多重反射させて強度分布を均一化する多角形状の光学素子とを有する第1ヘッドと、
前記検査対象物の他方側に配置されて前記検査対象物を介した赤外光を検出する検出器を有する第2ヘッドと
を備えることを特徴とする赤外線分析装置。
【請求項2】
前記光学素子は、前記光源からの赤外光が入射される入射端と多重反射した赤外光が射出される射出端とを有しており、前記射出端が前記入射端よりも大に形成されたテーパー状であることを特徴とする請求項1記載の赤外線分析装置。
【請求項3】
前記複数の光源は、前記光学素子が有する前記入射端に沿う平面内でマトリクス状に配列されていることを特徴とする請求項2記載の赤外線分析装置。
【請求項4】
前記光学素子は、内面が前記複数の光源から射出される赤外光を反射する反射面とされた多角環状の内面反射鏡であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の赤外線分析装置。
【請求項5】
前記光学素子は、前記赤外光に対して透明な硝材を多角柱状に形成してなり、側面の各々が反射面とされた内面反射鏡であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の赤外線分析装置。
【請求項6】
前記第1ヘッドは、前記光学素子と前記検査対象物との間に配設されて前記光学素子から射出される赤外光を前記検査対象物上に集光する集光光学系を備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の赤外線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−173249(P2012−173249A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38246(P2011−38246)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】