説明

赤外線検知式ガスセンサおよびそれを用いた排気ガス浄化装置

【課題】 高感度かつ小型で車両等に搭載可能な赤外線検知式ガスセンサを提供する。
【解決手段】 赤外線を放出する光源と、前記赤外線の受光により電気信号を発生するサーモパイル方式の検出素子と、前記光源と前記検出素子との間に設けられた前記赤外線の特定の波長のみを透過させるバンドパスフィルタと、を有する赤外線検知式ガスセンサであって、前記検出素子の熱電変換部がBiTeを主成分とする材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の排気ガス中の特定のガス濃度を赤外線を用いて測定するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においてはCO排出量の削減、燃費の改善を目的として、ガソリンエンジンの希薄燃焼化(リーンバーン化)やガソリンエンジン車より燃費効率のよいディーゼルエンジン車へのシフトが活発化している。
【0003】
しかしながら、ガソリンエンジンでリーンバーン化をすると、エンジンから排出されるCO量は減少するもののNO(NOやNOなど)の排出量が増加することになる。さらにリーンバーンでは排気の酸素濃度が高いため、従来の三元触媒では効果的にNO低減することができない。また、ディーゼルエンジン車では、NOと黒鉛(PM)の排出がトレードオフの関係にあり、NOの排出量を抑制するとPMの排出量が増加するため、NOの排出を規制値限界内となるようにエンジンを制御し、PMの排出量を最小限に抑える必要がある。
【0004】
そこで、このNOを低減する手段の一つとして、排気ガス中に尿素水を還元剤として添加し、尿素の加水分解により発生するアンモニア(NH)により、NOを窒素(N)と水(HO)に選択還元するNO触媒、いわゆる尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を用いた、NO低減を行う排気ガス浄化装置が知られている。
【0005】
上記のような排気ガス浄化装置として、例えば特許文献1や非特許文献1に開示される、酸化触媒と、SCR触媒と、尿素水を還元剤として噴射する装置とを備える排気ガス浄化装置が知られている。
【0006】
この排気ガス浄化装置は、排気ガス中のNO成分の一部を酸化触媒にてNOに酸化した後、排気ガス中に尿素水を噴射し、その後SCR触媒によりNOをNに還元し浄化するように構成されている。
【0007】
また、現状の排気ガス浄化装置では、SCR触媒の後段にさらに酸化触媒が設けられている。これは還元剤として添加する尿素水の一部が使用されず、アンモニアとして大気中に放出されるおそれがあり(アンモニアスリップ現象)、当該酸化触媒で浄化するためである。そこで、排気ガス中のアンモニア濃度を常時モニタすることで添加する尿素水の量を制御し、この酸化触媒を省くことが検討されている。
【0008】
このため、排気ガス中のアンモニア濃度の検知速度が高速で、検出感度が高い車載用のガスセンサの開発が強く求められている。このようなセンサを用いれば、エンジンの運転状況に応じて刻々と変化する排気ガスの状態に合わせて適切な量の尿素水を噴射することができ、アンモニアスリップ現象を回避しつつ効率的に排気ガスを浄化することができる。
【0009】
上記のような特定のガスの濃度を検知するガスセンサとして、従来、例えば特許文献2に開示される、赤外線光源と、赤外線を検出する赤外線センサと、透過波長帯域が試料ガス中の測定対象ガス成分の吸収波長帯域に相当するバンドパスフィルタと、試料ガスを流すケースとを備える赤外線検知式ガスセンサが知られている。
【0010】
この赤外線検知式ガスセンサは、被測定ガスを流入させるケースの中に光源と赤外線センサを設け、光源から放出された赤外線を被測定ガス中に透過させることで、ガス種による赤外線吸収の度合いを測定できるように構成されている。具体的には、ガス成分の種類によって吸収される赤外線の波長帯が異なることを利用し、バンドパスフィルタを赤外線センサの前に設け、光バンドパスフィルタの透過波長帯域を測定対象のガス成分の吸収波長帯域と一致させることで、そのガス濃度を測定することができるように構成されている。
【0011】
上記の測定対象ガスによる赤外線の吸収は、測定対象ガスを構成するガス成分中に、電場に感応する電気的双極子モーメントを持つ分子によってなるガス成分が含まれているとき、このガス成分の分子の振動と振動に伴う回転運動とが、赤外線の振動電場によって励起されるときに生じるものであり、吸収される赤外線の波長帯域と吸収の強さは、当該ガス成分を構成する分子の構造によって定まる当該ガス成分に固有のものである。
【特許文献1】特開2007−100508号公報
【特許文献2】特開2005−208009号公報
【非特許文献1】平田公信ら,「大型車ディーゼルの尿素選択還元システム」,自動車技術,VOL,60,No.9,2006,PP28−33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現状の環境基準ではアンモニアの排出も規制されており、2〜3ppm以上のアンモニアを大気中に排出することが制限されている。
しかしながら、上記赤外線検知式ガスセンサはサーモパイル方式の検出素子を用いたものであるところ、熱電変換部分に多結晶シリコンを材料として使用しているため、その感度は10ppm以上と規制値より1桁程度大きく、そのままで上記目的でのアンモニア濃度を測定するためのガスセンサとして用いることはできない。
一方、数ppmオーダーの感度を実現しようとすれば赤外線が測定対象ガス中を透過する光路長を長くすることも考えられるが、多結晶シリコンを用いる限り、理論上1m以上もの光路長が必要となり、センササイズが極めて大きなものとなり、限られた設置空間に取り付けが必要となる車載用途として使用することが困難であった。
【0013】
本発明は、高感度かつ小型で車両等に搭載可能な赤外線検知式ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、第1発明に係る赤外線検知式ガスセンサは、赤外線を放出する光源と、前記赤外線の受光により電気信号を発生するサーモパイル方式の検出素子と、前記光源と前記検出素子との間に設けられた、前記赤外線の特定の波長のみを透過させるバンドパスフィルタと、を有する赤外線検知式ガスセンサであって、前記検出素子の熱電変換部がBiTeを主成分とする材料で形成されているものである。
【0015】
この発明によれば、光源から放出された赤外線が被測定対象ガス中を通過し、被測定対象ガス中の特定のガスに吸収される波長のみを透過するバンドパスフィルタを透過後、サーモパイル方式の検出素子に入光する。ここで、サーモパイル方式の検出素子の熱電変換部はBiTeを主成分とする材料で形成されており、受光した赤外線の熱により生じる起電力が多結晶シリコンより1桁以上大きいため、高感度で特定のガス濃度を測定することができる。また、高感度であるため、赤外線が測定対象ガス中を透過する光路長を短くすることができるため、ガスセンサをより小型にすることができる。
ここで主成分とは、その材料がBiTeを50重量%以上、好ましくは70重量%以上含有することをいう。
【0016】
また、第2発明に係る赤外線検知式ガスセンサは、第1発明において、前記光源と前記検出手段の間に集光部材をさらに備えている。
【0017】
この発明によれば、光源から放出される赤外線を検出素子へ集光することができ、入射効率を高くすることができるため、より感度を高めるができる。
【0018】
また、第3発明に係る赤外線検知式ガスセンサは、第2発明において、前記集光手段はレンズおよび凹面鏡のいずれか1つ以上で構成されている。
【0019】
この発明によれば、レンズを用いることで、光源から放出される赤外線を略平行光にするとともに、集光することもできるため検出素子への入射効率を高めることが可能となる。また、凹面鏡を用いることで、上記の略平行光や集光機能に加え、赤外線を反射させることで光路も変えることができるため、光源等の配置自由度が高まるとともに、限られた空間の中で光路長をより長くとることも可能となり、ガスセンサをさらに小型にすることができる。なお、レンズは複数のレンズから構成されていてもよく、レンズと凹面鏡を組み合わせた構成でもよい。
【0020】
また、第4発明に係る赤外線検知式ガスセンサは、第3発明において、前記バンドパスフィルタと前記レンズが一体として構成されている。
【0021】
この発明によれば、バンドパスフィルタとレンズをそれぞれ別々に保持する必要がなく構造を簡素化することができ、ガスセンサをさらに小型にすることができる。
【0022】
また、第5発明に係る赤外線検知式ガスセンサは、第3発明または第4発明において、前記レンズが硫化亜鉛により形成されている。
【0023】
この発明によれば、硫化亜鉛は赤外線領域において高い透過率を有しており、レンズでの光吸収を低減でき、高い透過効率を得ることが可能となる。このため、光源から検出素子までの光路中での赤外線のロスを低減することができ、より感度の高いガスセンサを提供することができる。
【0024】
また、第6発明に係る排気ガス浄化装置は、内燃機関の排気流路中に設けられ、該排気経路内の排気ガスに作用してその排気ガスを浄化するための排気ガス浄化装置であって、第1発明〜第5発明のいずれか1つの赤外線検知式ガスセンサを備えている。
【0025】
この発明によれば、上記の各赤外線検知式センサの特徴を備えるため、空間の占有率を小さくでき、かつ精度よく特定のガス濃度を測定することができる。
【0026】
また、第7発明に係る排気ガス浄化装置は、前記排気を浄化ガスするためにアンモニアを還元剤としたSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を備え、前記赤外線検知式ガスセンサが、該SCR触媒より下流側に配置されている。
【0027】
この発明によれば、上記ガスセンサでアンモニアのガス濃度を測定し、その測定値に基づいて還元剤であるアンモニアの添加量を調整することができるため、エンジンから排出される排気ガス中のNOを還元剤である尿疎水を用いて浄化する際、アンモニアスリップ現象を回避することができる。また、このガスセンサによりアンモニアスリップ現象を回避できれば、SCR触媒の後段にアンモニアを浄化するための酸化触媒を設置することも不要となり、当該装置をさらに小型かつ安価で提供することができる。
【0028】
なお、NOとNOは、化学反応などで相互に変換したり、比較的同様の特性を示すことが多く、一緒に取り扱ったほうが便利であるため、ここでいうNOとはNOとNOという2種類の気体を指す。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高感度かつ小型で車両等に搭載可能な赤外線検知式ガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る赤外線検知式ガスセンサの要部構成断面図である。同図に示すように、赤外線検知式ガスセンサ10は、被測定ガスが流入できるように設けられたケース11と、ケース11の外部に配置され、赤外線を放出する光源12と、光源12により放出された赤外線の集光部材であるコリメータレンズ13と、当該赤外線の特定の波長のみを透過するバンドバスフィルタ14と、バンドバスフィルタ14を透過した特定の波長の赤外線を受光し電気信号を発生する検出素子15とにより構成されている。
【0031】
ここでケース11には、被測定ガスを導入させる導入部16aと排出させる排出部16bが取り付けられており、図示しない流量制御装置により所定の流量で被測定ガスがケース11の内部に送り込まれると共に、排出されるようになっている。これにより、被測定ガスが順次入れ替わることになり、被測定ガス中の測定対象ガス成分の濃度の経時変化を連続的に分析することが可能となる。
また、ケース16にはさらに赤外線透過窓17aと17bが設けられており、コリメータレンズ13により集光された赤外線が赤外線透過窓17aを通してケース11内に入射し、被測定ガス中を透過した後、赤外線透過窓17bを透過して出射し、バンドバスフィルタ14を通過後、検出素子15で受光される。なお、赤外線透過窓17aと17bは波長が4〜14μm帯の赤外線に対して透過性を有していればよく、後述する硫化亜鉛の焼結体やゲルマニウム等で形成されている。
【0032】
光源12は、例えば通電によって発熱し、波長が4〜14μmの範囲内で所定の強度の赤外線を発するフィラメント、あるいはLEDやLDなどの半導体素子を有している。
【0033】
コリメータレンズ13は硫化亜鉛原料粉末をホットプレス法にて焼結してなる焼結体で形成されており、波長が4〜14μm帯の赤外線に対して透過性を有している。なお、コリメータレンズ13の透過率を向上させるべくそれぞれの表面にAR膜を被膜してもよい。さらに耐環境性を向上させるべく、それぞれ表面にDLC(Diamond Like Carbon)膜を被覆してもよい。このDLC膜は、ダイヤモンドに類似した特性を持つアモルファスの炭化水素膜である。なお、コリメータレンズ13は、波長が4〜14μm帯の赤外線に対して透過性を有しているゲルマニウム、セレン化亜鉛やカルコゲナイドガラスにより形成されていてもよい。
【0034】
また、図1では単一のコリメータレンズで説明したが、複数のレンズで構成されていてもよく、複数のレンズを組み合わせた1つのユニットとして配置されていても、複数のレンズが異なる場所にそれぞれ配置されていてもよい。例えば、光源12の直後にレンズを設け、赤外線を略平行光にするとともに、バンドパスフィルタ14の直前にもレンズを設け、検出素子15に集光させるように構成することもできる。
【0035】
本実施の形態における検出素子15は、サーモパイル方式の検出素子であって、アンモニアのガス濃度を測定するための検出素子で構成されている。なお、検出素子15は、被測定ガス中の測定対象ガス成分に応じて複数の検出素子により構成されていてもよく、複数のガス成分を同時に測定することができる。この場合、検出素子に対応してバンドパスフィルタも複数設け、赤外線をそれぞれの検出素子に受光するように分光させるビームスプリッタをバンドパスフィルタの前段に設置すればよい。
【0036】
図2は検出素子15の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面における断面図である。
【0037】
図2(a)及び(b)に示す通り、検出素子15は、基板20と、当該基板20に設けられた2つの電極21a、21bと、当該電極21a、21bにそれぞれの一方の端面が接続されたリボン状の熱電変換金属線22a、22bと、当該両方の熱電変換金属線22aと22bのもう一方の端面がそれぞれ接続された赤外線吸収膜23とで構成されている。
【0038】
基板20は、シリコンからなる半導体基板であり、中央部には空洞部24を有している。本実施形態において、空洞部24は矩形状の領域をもって開口されており、この開口面積が基板20の上面側に行くほど拡大され、基板20の上面では図2(a)に示されるような矩形状の領域となっている。従って、熱電変換金属線22a、22bと赤外線吸収膜23は、基板20に対して空洞部24上に浮いた状態で形成されている。
【0039】
基板20は上面からみて各辺約5mmの正方形の形状を有しており、周辺部の高さは約0.35mmである。また、空洞部24においては、基板上面から熱電変換金属線22a、22bあるいは赤外線吸収膜23までの高さは0.1mm程度であり、基板からの熱的影響を受けない範囲内で適宜調整され得る。
【0040】
電極21a、21bの材料はTiであって、蒸着法で基板20上に形成されている。電極材料としてTiが用いられているのは、Al配線(図示せず)との密着性を確保するためであり、高い接続信頼性を得る上で好適である。さらにTi上にはAuが蒸着法により形成されており、電極21a、21b上にそれぞれ熱電変換金属線22a、22bを接続する上でのオーミック性を確保している。
【0041】
熱電変換金属線22a、22bはいずれもBiTe系の合金により形成されており、より具体的には熱電変換金属線22aはBi1.5Sb0.5Te、熱電変換金属線22bはBiSb0.15Te2.85により形成されている。また、熱電変換金属線22a、22bは幅約5μm、厚み約1μmのリボン形状を有しており、熱電変換金属線22a、22bの一端はそれぞれ電極21a、21bに接続されている。
【0042】
赤外線吸収膜23はNiCr合金あるいはPtにより形成されており、赤外線を吸収する材料であれば、いずれの金属や半導体材料を用いてもよい。また、赤外線吸収膜23は上面からみて各辺約1mmの正方形の形状を有しており、厚みは約0.1μmと薄膜である。このため熱容量を小さくでき、赤外線の受光に伴う熱の応答性に向上を図っている。また、赤外線吸収膜23は熱電変換金属線22a、22bの他方の端面とそれぞれ接続されているため、基板20の空洞部24上に熱電変換金属線22a、22bによって支持されている。なお、熱電変換金属線22a、22だけで支持力が不足する場合、熱電変換金属線22a、22bの上または下に接触し補強するように、例えば、SiN、SiOまたはSiONを用いて支持体を形成してもよい。
【0043】
ここで、検出素子15は上述の通り、異種材料で形成されているため、熱電対を構成している(サーモパイル)。従って、赤外線吸収膜23側の接合部は温接点、電極21a、21bとの接合部は冷接点となり、基板20はヒートシンクとしての役割を果たしている。また、この検出素子はエッチングや蒸着法など一般的な半導体プロセスの常法で作製することができる。
【0044】
このように構成される検出素子15は図1に示すようにケース10の外の所定の位置に配置される。光源12から放射された赤外線は、コリメータレンズ13により集光され、赤外線透過窓17aを通してケース11内部に入射し、被測定ガス中を透過後、赤外線透過窓17bから出射され、その後、特定の波長のみを透過するバンドパスフィルタ14を透過して検出素子15に到達する。そして、赤外線吸収膜23にその赤外線が吸収されて、温度上昇が起こる。その結果、赤外線吸収膜23の下に配置された熱電変換金属線22a、22bの温接点の温度が上昇する。一方、熱電変換金属線22a、22bの冷接点は、基板20がヒートシンクになっているため、温度上昇は温接点に比較して小さい。このように、検出素子15は、赤外線を受光したときの温接点と冷接点との間に生じる温度差により検出素子15の起電力を発生させ(ゼーベック効果)、その変化した起電力に基づいて赤外線の強度を検出する。すなわち、図2(a)(b)に示す検出素子はサーモパイル方式であり、その起電力がAl配線(図示しない)を通じて電気信号として出力されることになる。
【0045】
また、一般にサーモパイル方式の検出素子の感度はκ√ρ/Sに比例することが知られており、この値が小さいほど感度が良いことを示している。ここで、κは熱伝導率(W/m/K)、ρは電気抵抗(Ω・m)、Sはゼーベック係数(μV/K)を表す。これより、熱電変換部に多結晶シリコンを材料として用いた場合の感度に対し、BiTeを主成分とする材料を用いた場合、約75倍も感度が高いことが分かる。
【0046】
また、赤外線は特定成分のガスによって吸収されることが知られており、ガス濃度に応じてその吸収度も異なる。これは測定対象ガスを構成するガス成分中に、電場に感応する電気的双極子モーメントを持つ分子によってなるガス成分が含まれているとき、このガス成分の分子の振動と振動に伴う回転運動とが、赤外線の振動電場によって励起されるときに生じるものであり、吸収される赤外線の波長帯域と吸収の強さは、当該ガス成分を構成する分子の構造によって定まる当該ガス成分に固有のものである。
一般に、アンモニアガスの吸収波長は10μm帯であることが知られている。その一例として、図3にアンモニアガスの赤外線吸収スペクトルを示す。
【0047】
ここで、検出素子15はアンモニアガス用の検出素子であるため、バンドパスフィルタ14は波長10μm帯の赤外線のみを透過するものである。上述の通り、光源12より放出された赤外線が波長10μm帯の赤外線が被測定ガス中を透過する際、アンモニアガス成分の濃度に応じて吸収された後、波長10μm帯の赤外線のみが検出素子15で受光され、その光強度に応じて電気信号が検出素子15から出力され、所定の解析装置(図示せず)にて計算され、アンモニアガスの濃度が算出される。
【0048】
ここではアンモニアガスの濃度を検出する場合について説明したが、同様にNOやNOガスの濃度も測定することができる。一般に、NOガスの吸収波長は5μm帯、NOガスの吸収波長は6μm帯であることが知られている。その一例として、図4にNOガスの赤外線吸収スペクトルを示す。従って、これらの波長に対応したバンドパスフィルタ14を設けることで、NOガスやNOガスの濃度測定へ適用することもできる。
【0049】
このように、サーモパイル方式の検出素子の熱電変換部において、BiTe合金の熱電変換金属線を用いることで、高感度かつ小型で車両等に搭載可能な赤外線検知式ガスセンサを実現することができる。
【0050】
図5は本発明の実施の形態1に係る赤外線検知式ガスセンサの変形例を示す要部構成断面図である。なお、図1と同一符号のものは、同一又は相当物であり、以下の説明を省略する。図5では、光源12、コリメータレンズ13、バンドパスフィルタ14、検出素子15がすべてケース11内部に設置されている点が図1と異なっている。
【0051】
これによれば、上述の通り、光源12等がいずれもケース11の内部に設置されているため、赤外線透過窓17a,17bが不要になるとともに、ケース11の外部で光源12等を保持する部材が不要となるため、高感度を維持しつつ赤外線検知式ガスセンサ10全体をさらに小型にすることができる。従って、当該センサを取り付ける空間が狭小な場合でも設置することでき、車両等の取り付け部の設計上の自由度が向上する。
【0052】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態1に係る赤外線検知式ガスセンサの要部構成断面図である。同図に示すように、赤外線検知式ガスセンサ10は、被測定ガスが流入できるように設けられたケース11と、ケース11内に配置され、赤外線を放出する光源12と、光源12により放出された赤外線の集光部材である凹面鏡31と、当該赤外線の特定の波長のみを透過するバンドバスフィルタ14と、バンドバスフィルタ14を透過した特定の波長の赤外線を受光し電気信号を発生する検出素子15とにより構成されている。なお、図1と同一符号のものは、同一又は相当物であり、以下の説明を省略する。
【0053】
ここで、集光部材としてコリメータレンズではなく凹面鏡11が設けられている点で実施の形態1と異なっている。凹面鏡11は表面にアルミウムのコーティングがされており、このアルミニウムのコーティングは蒸着法やメッキ法等いずれの方法で作製してもよい。また、ここではアルミニウムのコーティングを一例として説明したが、赤外線を反射する金属であれば、銀や金などの金属を用いてもよい。また、当該素子は透明性が要求されないため、コリメータレンズのように高価なゲルマニウムや硫化亜鉛を用いる必要はなく、ガラスなどより安価な材料を用いることが可能となる。
【0054】
さらに反射型の凹面鏡を用いることで、光源から放出された赤外線は凹面鏡で反射され、集光されながらバンドパスフィルタ14を透過して検出素子15に入射するため、被測定ガス中を透過する距離(光路長)を同サイズのケースを用いた場合、実施の形態1のコリメータレンズを用いたものと比べて約2倍長くすることが可能となる。従って、当該センサを小型にすることもさらに容易となり、高感度を維持しつつも狭小部への取り付けが可能となるとともに、低コストで提供することが可能となる。
【0055】
図7は本発明の実施の形態2に係る赤外線検知式ガスセンサの変形例を示す要部構成断面図である。なお、図6と同一符号のものは、同一又は相当物であり、以下の説明を省略する。図7では、バンドパスフィルタ14と集光部材であるコリメータレンズ32が一体となって設けられている点が図6と異なっている。
【0056】
本実施の形態では、平凸型のコリメータレンズ32がさらに設けられており、コリメータレンズ32の平坦なレンズ表面に接触するようにバンドパスフィルタ14が取り付けられ一体となっている。これによれば、コリメータレンズ32により赤外線をさらに集光することができるため、検出素子15における赤外線吸収膜23にピンポイントで赤外線を入射させることができ、より感度を向上させることが可能となる。また、コリメータレンズ32がバンドパスフィルタ14と一体となっているため、両者を一体として支持すればよく、個別の支持部材は不要となり、センサ全体の構造を複雑にすることなく、さらに感度を高めることができる点で有利である。
【0057】
また、図7においてこのバンドパスフィルタ14と集光部材であるコリメータレンズ32が一体とした場合の実施の形態を示したが、図1や図5で示す実施の形態においても同様の構成にすることができることはいうまでもない。また、集光部材としてコリメータレンズと凹面鏡を用いた場合を示したが、回折光学素子を用いることもできる。
【0058】
(実施の形態3)
図8は、本発明の実施の形態3における排気ガス浄化装置を模式的に説明するための図である。この排気ガス浄化装置40は、尿素を用いて排気中のNOを窒素ガス等に還元し浄化する尿素選択還元触媒を用いた装置である。また、同図において、エンジン41は、例えばディーゼルエンジンである。
【0059】
同図に示すように、排気ガス浄化装置40は、エンジン41から排出される排気ガス中のNOをNOに酸化する酸化触媒43と、その下流には排気ガス中のNOをNとHOに還元するSCR触媒47から構成されている。
【0060】
また、SCR触媒47の入口には、還元剤である尿素を添加するための尿素水添加装置45が設けられており、SCR触媒でのNO還元による浄化に必要となる尿素水の噴霧量を制御装置(ECU)46により制御している。なお、尿素水は尿素水タンク44に貯留されている。
【0061】
さらに、SCR触媒の後段には排気ガス中のアンモニアガスの濃度を測定するための赤外線検出式ガスセンサ10が配置されている。この赤外線検出式ガスセンサ10からの電気信号は尿素水の噴霧量を制御する制御装置(ECU)46に読み出され、アンモニア濃度に基づいて、尿素水添加装置19が作動して、最適な量の尿素水を供給することで、SCR触媒21におけるNOの還元反応に必要となる尿素水量を適切に制御することができる。これにより、反応に使用されなかった尿素水が、アンモニアとして大気中に放出されるいわゆるアンモニアスリップ現象を防止することができ、さらにスリップしたアンモニアを浄化するために設置されるSCR触媒後段の酸化触媒も不要となり、装置を小型にすることが可能となる。
【0062】
ここでは、アンモニアガス濃度を測定するためのセンサとして赤外線検出式ガスセンサ10を用いることについて説明したが、上述の通り、バンドパスフィルタの透過波長帯を変えることでNOセンサとしてNOガスやNOガスの濃度を算出するためのセンサとして用いることも可能であり、NOガスの濃度に応じて尿素水の噴霧量を制御することが可能であり、このNOガスの濃度をもとに尿素水の噴霧量を制御することもできる。
【0063】
また、このディーゼルエンジンは、排気ガス再循環装置(EGR)が設けられ(図示せず)、燃料噴射の制御のために制御装置(ECU)42が配置されている。従って、尿素水の噴霧量を制御する制御装置(ECU)46は、この制御装置(ECU)42と共通化することもできる。
【0064】
これによれば、上記の通り、当該排気ガス浄化装置40を用いた排気ガス浄化方法によれば、エンジン41の運転条件により刻々と変化する排気ガス中のNO濃度の状態にリアルタイムに追随して高精度で尿素水の噴霧量を制御することで、NOの浄化を行いつつ、アンモニアスリップ現象の発生を防止することができる。また、アンモニアスリップ現象防止のためにSCR触媒後段に設けていた酸化触媒も不要となり、装置全体を小型にすることができる。
【0065】
上記開示された本発明の実施の形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【0066】
上記各実施形態では測定対象ガスとしてアンモニアガス、NOガス及びNOガスの濃度を測定する赤外線検知式ガスセンサを示したが、この発明は、例えばCO、CO、HCガスなどのガス成分を検出する場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の赤外線検知式ガスセンサは、車両の排気ガス、車室内の雰囲気ガス及び工場におけるプラントなどのガス分析などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態1に係る赤外線検知式ガスセンサの要部構成断面図である。
【図2】検出素子の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面における断面図である。
【図3】アンモニアガスの赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】NOガスの赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態1に係る赤外線検知式ガスセンサの変形例を示す要部構成断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る赤外線検知式ガスセンサの要部構成断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る赤外線検知式ガスセンサの変形例を示す要部構成断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3における排気ガス浄化装置を模式的に説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
10 赤外線検知式ガスセンサ
11 ケース
12 光源
13 コリメータレンズ
14 バンドパスフィルタ
15 検出素子
16a 導入部
16b 排出部
17a 赤外線透過窓
17b 赤外線透過窓
20 基板
21a 電極
21b 電極
22a 熱電変換金属線
22a 熱電変換金属線
23 赤外線吸収膜
24 空洞部
31 凹面鏡
32 コリメータレンズ
40 排気ガス浄化装置
41 エンジン
42 制御装置(ECU)
43 酸化触媒
44 尿素水タンク
45 尿素水添加装置
46 制御装置(ECU)
47 SCR触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を放出する光源と、
前記赤外線の受光により電気信号を発生するサーモパイル方式の検出素子と、
前記光源と前記検出素子との間に設けられた前記赤外線の特定の波長のみを透過させるバンドパスフィルタと、を有する赤外線検知式ガスセンサであって、
前記検出素子の熱電変換部がBiTeを主成分とする材料で形成されていることを特徴とする赤外線検知式ガスセンサ。
【請求項2】
前記光源と前記検出素子の間に集光部材をさらに備える、請求項1に記載の赤外線検知式ガスセンサ。
【請求項3】
前記集光部材はレンズおよび凹面鏡のいずれか1つ以上で構成されている、請求項2に記載の赤外線検知式ガスセンサ。
【請求項4】
前記バンドパスフィルタと前記レンズが一体として構成されている、請求項3に記載の赤外線検知式ガスセンサ。
【請求項5】
前記レンズを形成する材料が硫化亜鉛である、請求項3または請求項4に記載の赤外線検知式ガスセンサ。
【請求項6】
内燃機関の排気流路中に設けられ、該排気経路内の排気ガスに作用して該排気ガスを浄化するための排気ガス浄化装置であって、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の赤外線検知式ガスセンサを備えることを特徴とする、排気ガス浄化装置。
【請求項7】
アンモニアを還元剤としたSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を備え、前記赤外線検知式ガスセンサが、前記SCR触媒より下流側に設置された、請求項6に記載の排気ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−2284(P2010−2284A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161079(P2008−161079)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】