説明

赤外線温度測定装置

【課題】ガステーブルで鍋の異常過熱を防止するための接触式の温度測定に代えて赤外線による温度測定とする際にサーモパイルから温度測定対象までの視野を最適化する。
【解決手段】鍋等の被加熱容器を加熱する加熱調理器具に備えられ、前記被加熱容器の外面から放射される赤外線により被加熱容器の温度を測定する赤外線温度測定装置30である。赤外線の放射強度を検出する2つのサーモパイル31と、赤外線を集光する集光レンズ19と、被加熱容器に対するサーモパイル31からの視野角を絞る開口を備えた遮光板35,36,37と、サーモパイル31から出力される信号に基づいて被加熱容器の温度を算出する温度演算ユニット20とを備える。遮光板35,36,37の開口は、2つの前記サーモパイル31それぞれの視野角を絞る2つの略円状の開口の一部どうしが互いに重なった形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガステーブル(ガスコンロ)といった外炎式および内炎式ガス調理器具等の鍋等の被加熱容器を加熱する加熱調理器具に備えられる赤外線温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガステーブル等のガス調理器具では、加熱される鍋の鍋底に当接する温度測定部を有する過熱防止装置を設け、当該過熱防止装置の温度測定部に内蔵されたサーミスタで鍋底の温度を測定し、所定以上の温度となった場合、すなわち、異常過熱と判定された場合に、過熱防止装置によりガスの供給を遮断していた。
このような過熱防止装置では、サーミスタを内蔵する温度測定部を鍋底に接触させるため、温度測定部を上下動可能とするとともに、上側にバネで付勢した状態としていた。そして、温度測定部は、加熱される鍋を支持する五徳よりも突出した状態とされ、鍋を五徳に載せた際に鍋の重さにより、鍋底に接触した状態で下降するようになっている。
【0003】
したがって、温度測定部のバネのバネ荷重に対して軽い重量の鍋を載せると、鍋を水平にできず、小さくて軽い鍋が使用できない。
また、複数のコンロを有するガステーブルにおいて、鍋を水平に移動させようとした際などに、不意に鍋を五徳より上に出た温度測定部にぶつけてしまうことがあった。これらのことから過熱防止装置によりガステーブルの利便性が損われていた。
【0004】
また、ガステーブル等の加熱調理器具ではないが、各種オーブンやレンジ、電磁調理器等の加熱調理器具では、被加熱物の温度を測定するのに、非接触で温度測定が可能な赤外線センサが用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
加熱調理器具で、このような赤外線センサを用いて非接触で鍋底の温度を測定するようにすれば、上述のような鍋底に接触する温度測定部を用いた場合の問題が解消される。
【0005】
ここで、特許文献1では、簡単な構造で、被加熱物の温度を測定可能とするとともに、光学系への異物の付着を防止するために、赤外線センサに孔のあいたキャップを被せ、当該孔を通した赤外線センサの視野内の被加熱物の温度を測定するようにしている。
また、特許文献2では、電磁調理器において、赤外線センサの熱の影響を避けるために、赤外センサを電磁調理器で加熱される鍋の鍋底から離れた位置に配置した際に、赤外線センサの視野が広くなってしまうのを防止するために、導波管や光学素子を用いることが提案されている。
【0006】
ここで、加熱調理器具では、様々な鍋が用いられており、鍋によっては赤外線の放射率が大きく異なるものがある。例えば、ステンレスやアルミなどの鍋は放射率が0.2〜0.3程度のレベルなのに対してホーロー鍋などでは放射率が1に近いものとなる。このように、鍋によって放射率が異なるので、例えば、上述の放射率が低い前者と、放射率が高い後者とが用いられる場合に、前者の放射率に設定を合わせてしまうと、後者の放射率の鍋を用いた場合に測定された温度と実際の温度との間に比較的大きな差が生じてしまう。この場合に、使用される鍋によって、放射率の設定を変更するような操作を行う必要が生じるが、一般の使用者が鍋の種類によって鍋の放射率を判断することは難しく、このような使用者が鍋の種類によって放射率の設定を変更することは困難である。
【0007】
前記鍋のように放射率が不明な測定対象の温度を計測する最も基礎的な方法として、2つの異なる波長で赤外線(相対的に波長が短い短波長の赤外線と、当該短波長より波長が長い長波長の赤外線)を測定する2色測定法が知られている。これは、測定対象の温度が上昇すると短波長の赤外線の放射強度が長波長の赤外線の放射強度に対して相対的に増大する特性を利用し、短波長用の赤外線センサで測定される放射強度と、長波長用の赤外線で測定される放射強度との放射強度比を用いて温度を算出するものである。しかし、この方法においては、測定対象物の短波長の赤外線の放射率と、長波長の赤外線の放射率とがほぼ等しい必要がある。
鍋によっては、短波長の赤外線の放射率と、長波長の赤外線の放射率とが大きく異なる場合があり、2色測定法は、全ての種類の鍋に適用することはできない。
【0008】
そこで、鍋の種類による放射率の違いや2色測定法が使用できない鍋の種類などの問題を解決すべく、短波長用の赤外線センサと、長波長用の赤外線センサとの2つの赤外線センサを用いて、多くの種類の鍋に適用可能な温度測定法の開発が進められている。
すなわち、ガステーブル等の加熱調理器具における被加熱容器としての鍋の非接触での温度測定においては、2つの赤外線センサを用いた赤外線温度測定装置が使われる可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−146701号公報
【特許文献2】特開2004−95316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述のような2つの赤外線センサ(赤外線検出手段:サーモパイル)を有する2素子搭載センサデバイスが開発されているが、このような2素子搭載センサデバイスを用い、例えば、一つの集光レンズで、鍋底からの赤外線放射を集光して各赤外線センサに当てる場合に、2つの赤外線センサが一部は重なるがそれぞれ異なる比較的広い範囲をそれらの視野(最終的に測定対象物上の測定対象範囲となるが、赤外線センサから前記測定対象物上の測定対象範囲までの空間も含まれる)とするので、赤外線センサが一つの場合よりも視野が広くなってしまう。これにより、状況によっては、燃焼ガスの炎やその他の障害物が視野に含まれたりして、正確な鍋底の温度測定ができない状態となってしまう可能性がある。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、二つの赤外線センサを用いて温度を測定する際に2つの赤外線センサの視野範囲を適正なものとして加熱調理器具に好適に用いることができる赤外線温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の赤外線温度測定装置は、鍋等の被加熱容器を加熱する加熱調理器具に備えられ、前記被加熱容器の外面から放射される赤外線により被加熱容器の温度を測定する赤外線温度測定装置であって、
前記加熱調理器具の前記被加熱容器の配置位置から離れた位置に並んで配置されると共に、互いに異なる波長の赤外線の放射強度を検出する2つの赤外線検出手段と、
前記赤外線検出手段と前記被加熱容器の配置位置との間に配置されて赤外線を集光する集光光学素子と、
前記赤外線検出手段と前記集光光学素子との間に配置され、前記被加熱容器に対する前記赤外線検出手段からの視野角を絞る開口を備えた絞り部材と、
前記赤外線検出手段から出力される信号に基づいて被加熱容器の温度を算出する温度演算手段とを備え、
前記絞り部材の開口は、2つの前記赤外線検出手段それぞれの視野角を絞る2つの略円状の開口の一部どうしが互いに重なった形状に形成され、
前記集光光学素子は、前記赤外線検出手段からの距離が当該集光光学素子の焦点距離より長く、かつ、前記赤外線検出手段からの視野角が前記集光光学素子と前記被加熱容器の配置位置との間で像を結ぶ位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載の本発明においては、2つの前記赤外線検出手段それぞれの視野角を絞る2つの略円状の開口の一部どうしが互いに重なった形状を有する開口を備えた絞り部材(遮光板)により2つの赤外線検出手段それぞれの互いに一部が重なる視野を狭くすることができる。さらに、光学素子によって、視野が加熱調理器具の被加熱容器の配置位置と、集光光学素子との間で像を結ぶことにより、被加熱容器と集光光学素子との間で視野が狭くなり、ガスバーナの炎等が視野内に入り込まないようになる。また、前記絞り部材により視野を絞るとともに、集光光学素子の焦点距離、被加熱容器の配置位置と集光光学素子の位置と赤外線検出手段の位置とから被加熱容器の表面上の視野範囲を適切なものとすることができる。すなわち、集光光学素子と被加熱容器の配置位置との間で、集光光学素子により視野に像を結ばせることと、絞り部材により視野を狭めることで、集光光学素子と被加熱容器との間に長い距離があり、かつ、2つの赤外線検出手段が離間して配置されていても、被加熱容器上の視野(測定対象範囲)が広がるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2つの赤外線検出手段(赤外線センサ)を用いて、被加熱容器として各種の鍋の温度測定に対応可能とした場合に、2つの赤外線検出手段の視野を狭くして、赤外線検出手段と鍋との間にある炎やその他の障害物が視野内に入ってしまうのを防止し、必要十分な精度で温度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の赤外線温度測定装置を備えたガステーブル内部の概略を示す図である。
【図2】前記赤外線温度測定装置のケースを開放し、その内部の断面を示す斜視図である。
【図3】前記赤外線温度測定装置を示す集光レンズを取り除いた状態の平面図である。
【図4】サーモパイルの視野を可視化した赤外線温度測定装置を示す斜視断面図である。
【図5】サーモパイルの視野を可視化した赤外線温度測定装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る赤外線温度測定装置を備える加熱調理器具を示す要部概略断面図、図2はケースを開いた状態で、かつ内部の一部を半分に切断した状態の赤外線温度測定装置を示す斜視図、図3は赤外線温度測定装置を示す平面図、図4は赤外線検出手段としてのサーモパイルの視野を可視化して図示した赤外線温度測定装置を示す斜視断面図、図5はサーモパイルの視野を可視化して図示した赤外線温度測定装置を示す斜視図である。
図1および図4に示すように、赤外線温度測定装置30は、ガステーブル等のコンロ部分の内部で、筒状のガスバーナ2の下側に配置される。そして、被加熱容器、すなわち、鍋としてのフライパン3を五徳上に載せた場合に、ガスバーナ2の中央部の空間を通してフライパン3の鍋底3a部分が見通せる位置に赤外線温度測定装置30が配置されている。
【0017】
そして、赤外線温度測定装置30は、図2に示すように、2つのサーモパイル(赤外線検出手段:赤外線センサ)31,31を備えた2素子搭載センサデバイス32と、当該2素子搭載センサデバイス32の上側で、二つのサーモパイル31,31を囲む用に配置されるとともに上側(測定対象側)に延出する光導管33と、当該光導管33内に複数段に配置される絞り部材としての複数の遮光板35,36,37と、光導管33の先端部内に配置され光導管33の先端部側開口を閉塞した状態の集光光学素子としての集光レンズ19と、2素子搭載センサデバイス32から出力される信号に基づいて測定温度の値を算出する温度演算ユニット20と、これら部材のうちの光導管33を除く部材を収納するケース41と、当該ケース41内で、光導管33等を支持するインナーケース22,22dとを備えるものである。
【0018】
2素子搭載センサデバイス32は、上述の2つの異なる波長の赤外線放射を検出する2つのサーモパイル31,31を備えている。そして、2素子搭載センサデバイス32は、これらサーモパイル31,31で測定される鍋からの赤外線の放射強度の比としての赤外線放射強度比を用いて温度を測定する2色測定法に用いることが可能である。さらに、2素子搭載センサデバイス32は、2色測定法に限られることなく、波長の異なる2つの赤外線放射強度を用いる温度測定法に用いることができ、波長の異なる2つの赤外線放射強度を用いるものならば、新たに開発される温度測定法にも適用可能である。
【0019】
また、2素子搭載センサデバイス32は、2つのサーモパイル31,31が配置された上面部分に有蓋円筒状のキャップ34が取り付けられている。そして、有蓋円筒状のキャップ34の蓋部分には、2つのサーモパイル31,31に対応して、2つの開口が形成されており、当該開口には、それぞれ異なる光学フィルタが開口を閉塞するように取り付けられている。これらの光学フィルタは、サーモパイル31,31に向けて放射される赤外線の波長を制限するものであり、これら二つのフィルタのうちの一方のフィルタは、赤外線の短波長領域をより透過し、長波長領域の透過を制限する。また、他方のフィルタは、赤外線の長波長領域をより透過し、短波長領域の透過を制限する。
【0020】
これらのフィルタにより、二つのサーモパイル31,31のうちの一方のサーモパイル31が赤外線の短波長領域の放射強度を検出し、他方のサーモパイル31が赤外線の長波長領域の放射強度を検出するようになっている。すなわち、サーモパイル31,31には、赤外線の波長の選択性がなく、フィルタにより検出する波長を制限するようになっている。
【0021】
また、赤外線の放射強度の測定にサーモパイル31,31以外の赤外線センサを用いるものとしてもよい。
以上のことから、2つのサーモパイル31,31においては、一方のサーモパイル31が赤外線の範囲内で相対的に短波長側の赤外線を検出し、他方のサーモパイル31が前記短波長より相対的に長い長波長側の赤外線を検出するものとなっている。
【0022】
そして、2素子搭載センサデバイス32は、ケース41内部で後述のように光導管33の基端側に固定されるとともに、温度演算ユニット20に配線接続されており、各サーモパイル31,31からの赤外線の放射強度を示す出力信号がそれぞれ温度演算ユニット20に入力されるようになっている。
温度演算ユニット20は、2素子搭載センサデバイス32の直下に配置される第1基板20aと、当該第1基板20aよりも下側に配置される第2基板20bとから構成されている。
また、2素子搭載センサデバイス32の基板上に左右に並んで配置されるとともに、間に僅かに間隔をあけた2つのサーモパイル31,31の周囲はキャップ34により遮光されている。
【0023】
また、2素子搭載センサデバイス32のキャップ34の外周部が円環状部材22aにより囲まれ、2素子搭載センサデバイス32の下端部が円板状部材22bにより囲まれた状態となっている。また、円板状部材22bの下側には、温度演算ユニット20の第1基板20aが遮光された状態に配置されている。
【0024】
光導管33は、光学素子としての集光レンズ19を内部に支持するとともに、集光レンズ19を介して入射される以外の光の入射を阻止し、集光レンズ19を介して入射される光が2つのサーモパイル31,31に至るようにするものである。
この例において、光導管33は、ほぼ円筒状に構成されるとともに、その下端が上側のインナーケース22dと一体に形成されている。
【0025】
なお、2素子搭載センサデバイス32の外周部の円環状部材22aと、2素子搭載センサデバイス32の下端部の円板状部材22bおよびそれらの下側の第1基板20aとが、上下に重ねられた状態で光導管33の下端と一体となっている上側のインナーケース22dにビス止めされている。したがって、2素子搭載センサデバイス32が下端側に固定された状態で、光導管33は、ケース41に固定されたインナーケース22dに固定されている。
【0026】
光導管33は、その軸方向に沿って複数段(例えば4段)の分割筒部33a,33b,33c,33dを重ねた状態となっている。したがって、光導管33は、複数段に分割可能な形状となっている。
各分割筒部33a,33b,33c,33dのうちの最下端となる分割筒部33aは上述のようにインナーケース22dに一体に形成されて固定された状態とされるが、その他の分割筒部33b,33c,33dは、それぞれ直下の分割筒部33a,33b,33cに着脱自在に固定される。分割筒部33b,33c,33dは、それぞれ上部、中部、下部の三つの部分からなっている。そして、上部は、中部および下部より内径が広く、中部と同じ外径を有するものとなっている。また、下部は、上部および中部より外径が狭く、中部と同じ内径を有するものとなっている。
【0027】
これらのことから、中部は上部と同じ外径を有し、下部と同じ内径を有するものとなっている。
これにより、上部は、外径と内径がともに広く、中部は外径が広いが内径は狭く、下部は外径と内径がともに狭い。
そして、分割筒部33b,33c,33dにおいて、その内周面には、内径の広い上部と、内径の狭い中部および下部との間に段差があり、その外周面には、外径の広い上部および中部と、外径の狭い下部との間に段差がある。
【0028】
また、最下端となる分割筒部33aは、その下部がインナーケース22dに一体に固定されており、下部の形状が他の分割筒部33b,33c,33dと異なるが、分割筒分33aの上部と中部の形状は、他の分割筒部33b,33c,33dと同じとなっている。
そして、上下に隣接する分割筒部33a,33b,33c,33d同士は、下の分割筒部33a,33b,33cの広い内径を有する上部に、上の分割筒部33b,33c,33dの狭い外径を有する下部が挿入された状態で、分割筒部33a,33b,33c,33d同士が連接されて筒状の光導管33となっている。
【0029】
また、分割筒部33a,33b,33c,33d同士の接続部分は、下側の分割筒部33a,33b,33cの上部外周から当該上部外周内に挿入された上側の分割筒部33b,33c,33dの下部外周に向かって止めねじ43をねじ込むことで固定されている。また、上側の分割筒分33b,33c,33dには、前記止めねじ43をねじ込むように外周から内周に貫通するねじ孔が形成されている。
【0030】
また、下の分割筒部33a,33b,33cの広い内径を有する上部と、狭い内径を有する中部および下部との間の内周側の段差面に遮光板35,36,37がそれぞれ配置されている。そして、遮光板35,36,37は、下の分割筒分33a,33b,33cの内周の上述の段差面と、上の分割筒部33b,33c,33dの下端面との間に挟持された状態となっている。
【0031】
また、一番上の分割筒分33dの上部の内周の段差上には集光レンズ19が載った状態に配置されている。また、一番上の分割筒部33dの上部の内周面には雌ねじが切られており、その雌ねじに、外周面に雄ねじが形成された止めリング23が螺合した状態となっている。そして、止めリング23と分割筒部33dの段差面との間に集光レンズ19の外周部が挟まれて締結された状態となっている。これにより集光レンズ19は光導管33に対して着脱可能となっており、集光レンズ19を取り外すとともに、各分割部分33a,33b,33c,33dを分解することで、集光レンズ19のメンテナンスと光導管33内のメンテナンスが可能となっている。
【0032】
遮光板35,36,37には、2つのサーモパイル31,31のそれぞれの視野となる2つの円形の開口の一部を重ねた状態の開口、すなわち、8の字の外形に近い形状の開口を有する。なお、基端側の遮光板35から先端側の遮光板37となるにつれて、各遮光板の円形の開口部分の内径が大きくなることから、基端側の遮光板35は、8の字状であるが、それより先端側の遮光板36,37では、略楕円状で短径と交差する部分が少し括れた形状の開口形状となるが、これも2つの円状の開口の一部が重なった形状である。
【0033】
そして、この光導管33の最も基端側となるインナーケース22d下端側に上述の2素子搭載センサデバイス32のキャップ34の上端部が配置されている。
【0034】
また、遮光板35,36,37が2つ円の一部を重ねて並べた状態の形状の開口を形成し、それ以外の部分を遮光するためのものなので、その外周において、必ずしも円形である必要はなく、円形以外の楕円、多角形、湾曲した線と直線の組み合わせからなる形状であってもよい。また、光導管33の内周面も円形の集光レンズ19が設置される先端部分を除いて、上述の遮光板35,36,37の外形に対応して、円形でない形状であってもよい。
【0035】
これらの遮光板35,36,37により、サーモパイル31,31の視野、すなわち、サーモパイル31,31に入射可能な赤外線の範囲が絞られることになる。すなわち、各サーモパイル31,31の視野が狭まることになるが、この際に、各サーモパイル31,31毎に視野を狭めるように、遮光板35,36,37に2つの円の一部が重なった状態の開口を設けることで、互いに近接して並んで配置される各サーモパイル31,31の視野を効率的に絞り込むことができる。これにより、視野を狭めながら、各サーモパイル31,31における検出効率が低下するのを抑制することができる。
【0036】
また、複数の遮光板35,36,37を設けることにより、視野の外側から光導管33内に入射して、光導管33内周面で反射して、サーモパイル31,31に至る赤外線を遮断することができる。すなわち、視野外から入射した赤外線の少なくとも一部は、光導管33内周面から突出した状態の遮光板35,36,37のいずれかに当たり、サーモパイル31,31に至るのを阻止させられる。
なお、光導管33内周面は、できるだけ赤外線を吸収して反射しないように例えば反射防止コーティング等が施されるものとしてもよい。
【0037】
集光レンズ19は、例えば、円形の凸レンズである。そして、この例においては、円形の凸レンズの焦点距離が光導管33の基端側に配置された2素子搭載センサデバイス32のサーモパイル31,31から光導管33の先端部の集光レンズ19までの距離より短くなっている。すなわち、集光レンズ19の焦点位置は、サーモパイル31,31の位置よりも集光レンズ19側となっており、サーモパイル31,31は、焦点距離から離れて焦点距離より遠くに配置されている。
【0038】
これにより、サーモパイル31,31の視野は、集光レンズ19の先側、すなわち、被加熱容器となるフライパン3側で像を結ぶことになる。また、この例では、サーモパイル31,31から集光レンズ19までの距離と、集光レンズ19からフライパン3までの距離と、集光レンズ19の焦点距離との関係が、上述のように集光レンズ19の焦点距離よりサーモパイル31,31が遠くに配置され、かつ、サーモパイル31からの視野が集光レンズ19からフライパン3の鍋底3aに至る距離となる前に像を結ぶようになっている。
【0039】
したがって、サーモパイル31,31から鍋底3aを見た場合に鍋底3aが点対称となるように反転して見えることになる。
ここで、赤外線温度測定装置30の斜視図において、可視化されたサーモパイル31,31の視野について説明する。
【0040】
以下において視野をサーモパイル31,31側から説明する。
図4および図5に示すように、サーモパイル31,31側から遮光板35,36,37に絞られた視野が集光レンズで屈折されて光導管33から出る。そして、視野は、結像位置へ向かって細くなる2つの円錐を一部合わせた形状となり、結像位置で最も視野が離れた状態となるとともに、結像位置では、2つのサーモパイル31,31がそれぞれ離れた状態で近接して並んでいる状態となる。
視野は結像位置を過ぎるとまた円錐状に拡がっていき、測定対象面である鍋底3aの面に至る。
【0041】
この際には、再び、2つのサーモパイル31,31の視野の一部同士が重なるので、鍋底3aのほぼ同じ位置を異なる波長を検出する2つのサーモパイル31,31でそれぞれ計測することになる。
サーモパイル31,31から集光レンズまでの視野は、図4に示すように、円の一部を重ねた状態の形状の開口を有する遮光板35,36,37により、各サーモパイル31,31側を頂点とし、集光レンズ側を底部とする概略円錐形状の2つの視野が互いに一部を重ねた状態となっている。
【0042】
以上のことから、上述のように遮光板35,36,37で、2つのサーモパイル31,31の視野がそれぞれ絞られるとともに、視野が鍋底3aに至る過程で、像を結ぶことで、集光レンズ19と鍋底3aとの間で視野の範囲が極小となってから、再び、鍋底3aで視野が広くなる。したがって、遮光板35,36,37で絞られた視野が例えば、ガスバーナの炎を避けるようにさらに狭くなってから鍋底3aの限られた範囲(鍋底3aに当たる炎を避けた範囲)を含むようになる。
【0043】
なお、鍋底3aでのサーモパイル31,31の視野範囲は、遮光板35,36,37の開口の範囲と、集光レンズ19での屈折角度(焦点距離)と、サーモパイル31,31、集光レンズ19および被加熱容器の鍋底3a(測定対象面)の配置とに基いて決められる。
【0044】
温度演算ユニット20は、2素子搭載センサデバイス32から入力される2つの放射線強度から以下のようにして測定温度を算出するものである。
すなわち、2つの異なる波長(短波長と長波長)の赤外線センサ(サーモパイル31,31)からそれぞれ出力される赤外線の放射強度を示す2つの出力値と、既知の黒体炉における赤外線放射強度と温度との関係から2つの放射強度の出力値を当該放射強度の場合の黒体炉の温度に変換する。次いで、長波長領域用の赤外線センサで検出された放射強度から求められた黒体炉の温度と、短波長領域用の赤外線センサで検出された放射強度から求められた黒体炉の温度とを比較する。
【0045】
そして、短波長側の黒体炉の温度の方が長波長側の黒体炉の温度より高い場合に、上述の2つの放射強度比(長波長側の放射強度/短波長側の放射強度)を求め、求められた放射強度比と、既知の放射強度比と温度との関係とから測定温度を求める。
また、長波長側の黒体炉の温度の方が短波長側の黒体炉の温度より高い場合に、長波長側のサーモパイル31で検出された放射強度と、既知の放射強度と温度との関係とから測定温度を求める。
なお、2素子搭載センサデバイス32を用いた温度の算出方法は、上述のものに限られるものではなく、長波長領域用赤外線センサと、短波長領域用赤外センサとでそれぞれ求められる赤外線の放射強度を用いる測定温度の算出方法ならば、どのような方法を用いてもよい。
【0046】
また、ガステーブルには、上述の温度演算ユニット20から出力される測定温度を示す出力値が所定の出力値以上となった場合に、赤外線温度測定装置30が設置されたコンロのガスバーナに対応するガスの配管に設けられたバルブを閉とするようになっており、これにより鍋の異常過熱を防止するようになっている。
前記ケース41は、ほぼ四角箱状で左右に2分割可能で、左右の分割部分を接合することでケースが成形され、分割することで開放される。また、ケース41内にはインナーケース22,22dが固定的に配置され、当該インナーケース22,22dに、上述のように2素子搭載センサデバイス32、遮光板35,36,37および集光レンズ19を搭載した光導管33や、温度演算ユニット20等が支持されている。また、ケース41の上面には、光導管33を露出するための円形の開口部が形成されている。
【0047】
以上のような赤外線温度測定装置30によれば、上述のように8の字状の開口を有する遮光板35,36,37と、集光レンズ19とにより、2つ近接して並んで配置されたサーモパイル31,31で検出される赤外線の範囲を示す視野を、サーモパイル31,31が2つとなっても、十分に絞り込んで、炎等の影響を受けることなく、鍋底3aの温度を必要十分な精度で測定可能となる。
【符号の説明】
【0048】
3 フライパン(被加熱容器)
19 集光レンズ(集光光学素子)
20 温度演算ユニット(温度演算手段)
20a 第1基板
20b 第2基板
30 赤外線温度測定装置
31 サーモパイル(赤外線検出手段)
33 光導管
35 遮光板(絞り部材)
36 遮光板(絞り部材)
37 遮光板(絞り部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋等の被加熱容器を加熱する加熱調理器具に備えられ、前記被加熱容器の外面から放射される赤外線により被加熱容器の温度を測定する赤外線温度測定装置であって、
前記加熱調理器具の前記被加熱容器の配置位置から離れた位置に並んで配置されると共に、互いに異なる波長の赤外線の放射強度を検出する2つの赤外線検出手段と、
前記赤外線検出手段と前記被加熱容器の配置位置との間に配置されて赤外線を集光する集光光学素子と、
前記赤外線検出手段と前記集光光学素子との間に配置され、前記被加熱容器に対する前記赤外線検出手段からの視野角を絞る開口を備えた絞り部材と、
前記赤外線検出手段から出力される信号に基づいて被加熱容器の温度を算出する温度演算手段とを備え、
前記絞り部材の開口は、2つの前記赤外線検出手段それぞれの視野角を絞る2つの略円状の開口の一部どうしが互いに重なった形状に形成され、
前記集光光学素子は、前記赤外線検出手段からの距離が当該集光光学素子の焦点距離より長く、かつ、前記赤外線検出手段からの視野角が前記集光光学素子と前記被加熱容器の配置位置との間で像を結ぶ位置に配置されていることを特徴とする赤外線温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−175347(P2010−175347A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17269(P2009−17269)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000177612)株式会社ミクニ (332)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】