説明

赤血球病原体の不活化のための改善されたクエンチング方法

本発明は、細胞活性度を維持しつつ好適な病原体不活化を提供する条件下で、赤血球組成物を病原体不活化化合物で処理するための改善された方法を提供する。赤血球の脱水を低減する方法ならびに処理された赤血球組成物も提供される。一局面において、赤血球組成物を処理する方法が提供され、この方法は、(a)(i)反応性求電子性基であるかまたは反応性求電子性基を形成する官能基を含む有効量の病原体不活化化合物と、(ii)上記病原体不活化化合物の上記反応性求電子性基と反応可能なチオール基を含む有効量のクエンチャーと、(iii)赤血球含有組成物とを混合するステップ、および(b)元の濃度のクエンチャーで上記混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、上記混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、上記混合物中の上記クエンチャーの濃度を十分に減少させるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2008年4月9日に出願された表題「Quenching Methods For Red Blood Cell Pathogen Inactivation」の米国仮出願第61/043,666号、および2008年8月7日に出願された表題「Quenching Methods For Red Blood Cell Pathogen Inactivation」の米国仮出願第61/087,034号の優先権の利益を主張する。これらの出願の両方の内容は、あたかもそれらが以下に完全に示されているように参考として本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明の分野は、存在し得る病原体汚染物質を不活化するための血液製剤の処理に用いられる反応性求電子性化合物をクエンチング(quenching)する改善された方法に関する。特に、チオールなどの求核性化合物を上昇された濃度で用いて、赤血球組成物中の反応性求電子性化合物をクエンチングし、その後、濃度を下げて、赤血球(RBC)脱水を低減させる。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
血液製剤および他の生物学的材料による疾患の感染は、依然として深刻な健康上の問題である。血液ドナーのスクリーニングおよび血液試験は、相当進歩しているが、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのウイルスは、ウイルスまたはウイルス抗体のレベルが低いため、試験の際、血液製剤中での検出から逃れ得る。ウイルスの有害性(hazard)に加え、現在、輸血における使用が意図される血液中の非ウイルス微生物(例えば、細菌または原虫など)の存在についてスクリーニングするための適格な認可試験はない。また、これまで未知の病原体が、輸血用血液中に蔓延(prevalent)した状態となり、疾患の感染の脅威を提示し得るというリスクも存在する(これは、実際、輸血によるHIV感染のリスクの認識以前に起こった)。
【0004】
血液製剤の臨床使用の前に、病原体を不活化するための化学試薬が血液または血漿に導入されている。典型的には、赤血球含量をほとんどまたは全く有しない血液製剤、例えば、血小板および血漿には、光化学的に活性化された化合物(例えば、ソラレンなど)が使用される。赤血球含有血液製剤には、光活性化を必要としない化合物が、病原体の不活化のために開発されている。このような化合物は典型的には、病原体と、より詳しくは病原体の核酸と反応する求電子性基を有する。例えば、特許文献1には、アリールジオールエポキシドを用いた細胞およびタンパク質含有組成物中のウイルスの不活化が記載されている。インサイチュで求電子体を生成する他の化合物を使用してもよい。LoGrippoらは、ウイルスの不活化のためのナイトロジェンマスタードCH−N(CHCHCl)の使用を評価した。非特許文献1。より注目すべきことに米国特許第5,691,132号;同第6,177,441号;同第6,410,219号;同第6,143,490号;および同第6,093,725号(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)には、病原体を不活化するために、核酸標的化成分ならびに該核酸と反応する求電子性成分を有する化合物の使用が記載されている。米国特許第6,093,725号および特許文献2(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)にも同様の化合物が記載されており、この場合、該化合物の核酸標的化成分が、反応性求電子性成分に加水分解性リンカーによって連結されている。特許文献3および特許文献4(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)には、病原体の不活化のために、エチレンイミンオリゴマーおよび関連化合物を使用することが記載されている。このようなエチレンイミンに由来する化合物は、典型的には、反応性求電子性成分を提供するアジリジン基、および該化合物の核酸標的化を提供するポリアミン成分を有する。核酸と反応性である求電子性基または同様の基を有する核酸標的化化合物の一般的類型は、血液、血液製剤および種々の生物起源の試料中の病原体を不活化するために使用される。
【0005】
これら化合物は、核酸を特異的に標的とするように設計されているが、タンパク質または細胞膜などの血液の他成分と反応し得るというある程度の懸念が存在する。これら副反応は不利であり、免疫系によって認識され得るタンパク質および細胞膜の修飾などの有害効果を引き起こし得る。かかる処理された血液製剤が繰り返し使用される場合、それは、処理された血液製剤に対するレシピエントの免疫応答をもたらし得る。それらの開示が本明細書中に参考として援用される米国特許第6,270,952号明細書、第6,709,810号明細書、および第7,293,985号明細書は、任意のかかる副作用のレベルを低減させるために、かかる病原体不活化化合物をクエンチングする方法を記述している。その開示が本明細書中に参考として援用される米国特許出願公開第2006/0115466号明細書は、病原体不活化化合物に対して発生した免疫応答に対処するこれらクエンチング条件への改善を記述している。しかしながら、クエンチング有効性における改善にもかかわらず、一部の場合では、処理された赤血球は、浸透圧脆弱性の低下および遠心ヘマトクリットの減少によって測定されるように、細胞脱水の増大に起因する寿命低下を示すことが見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,055,485号明細書
【特許文献2】米国特許第6,514,987号明細書
【特許文献3】米国特許第6,136,586号明細書
【特許文献4】米国特許第6,617,157号明細書
【非特許文献1】LoGrippoら,「Proceedings of the Sixth Congress of the International Society of Blood Transfusion」,Hollander編,Bibliotheca Haematologica,1958年,pp.225−230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、処理された血液製剤の活性度(vitality)および寿命に悪影響を及ぼさずに有害病原体を不活化する病原体不活化化合物の能力を維持しつつ、病原体不活化化合物の望ましくない求電子性副反応を低減する方法が必要とされている。具体的には、赤血球中の病原体不活化化合物をクエンチングする改善された方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、細胞脱水の増大などの副作用を低減または最小限にしながら、好適な病原体不活化および望ましくない副反応(赤血球の修飾など)の低減を提供する条件下で、病原体不活化化合物およびクエンチャーにより赤血球組成物を処理するための様々な方法を提供する。一部の実施形態では、該クエンチャーは、適正量の塩基で中和されるグルタチオンである。一部の実施形態では、該方法は、病原体不活化後にグルタチオンの濃度を低減させることを伴う。
【0009】
一実施態様において、本発明は、赤血球組成物を処理する方法を提供し、この方法は、a)i)もし存在するとすれば病原体を不活化するための有効量の病原体不活化化合物(これは、反応性求電子性基であるかまたは反応性求電子性基を形成する官能基を含む)と、ii)病原体不活化化合物の反応性求電子性基と反応可能なチオール基を含む有効量のクエンチャーと、iii)赤血球含有組成物とを提供するステップ、b)該病原体不活化化合物および該クエンチャーを、該赤血球含有組成物と混合するステップ、ならびにc)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルに比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャーの濃度を十分に減少させるステップを含む。これら実施形態の一部では、クエンチャー濃度を減少させることには、不活化中に使用される溶液を除去すること、および最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、もしくは4の任意の溶液などの本明細書に記載の任意の溶液)を添加することを含む。
【0010】
一部の実施形態では、ステップ(a)は好適な塩基を提供することをさらに含み、ステップ(b)は、該塩基と該赤血球含有組成物とを混合することをさらに含み、該塩基は、該塩基無しの混合物に比べて、該混合物中における該病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応のレベルを低減するのに十分な量である。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応とは、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の修飾である。一部の実施形態では、ステップ(a)は好適な塩基を提供することをさらに含み、ステップ(b)は、該塩基と該赤血球含有組成物とを混合することをさらに含み、該塩基は、結果として生じる混合物中の該処理された赤血球組成物と結合する該抗病原体不活化化合物抗体のレベルを、該塩基無しの混合物と比べて、少なくとも約5%(または、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%)低減するのに十分な量である。一部の実施形態では、該塩基および該クエンチャーは、該病原体不活化化合物を該赤血球組成物と混合する前、混合と同時に、または混合後約30分以内に、該赤血球組成物と混合される。一部の実施形態では、該塩基および該クエンチャーは、該塩基または該クエンチャーのいずれかを該赤血球組成物と混合する前に一緒に混合される。一部の実施形態では、塩基はNaOHである。一部の実施形態では、該塩基は塩基性緩衝液である。一部の実施形態では、該塩基は、約0.5〜1.5当量の塩基を含み、当量とは、該混合物中のクエンチャーのモル量と等価なモル量を意味する。一部の実施形態では、該塩基は、約0.75〜1.25当量の塩基を含む。一部の実施形態では、該塩基は、約1当量の塩基を含む。一部の実施形態では、ステップ(b)の結果として生じる混合物は、37℃で約6.0〜7.5のpHを有する。一部の実施形態では、pHは、約6.5〜7.1である。一部の実施形態では、pHは、約6.8〜6.9である。
【0011】
一部の実施形態では、該クエンチャーは、システインまたはシステインの誘導体を含む。一部の実施形態では、該クエンチャーは、グルタチオンまたはその薬学的に許容され得る塩である。一部の実施形態では、ステップ(b)の結果として生じる混合物中の該クエンチャー濃度は、2mMを超える。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約5mM〜約30mMである。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約15mM〜約25mMである。一部の実施形態では、該クエンチャーの濃度は、約20mMである。
【0012】
一部の実施形態では、ステップ(c)におけるクエンチャー濃度を減少させることには、該混合物を遠心分離し、その後上清を除去することが含まれる。一部の実施形態では、ステップ(c)は、サイズ排除分離を含む。一部の実施形態では、ステップ(c)の結果として生じる混合物中の該クエンチャーは、約10mM未満の濃度である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約8mM未満である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約6mM未満(または約4mM未満、または約2mM未満)である。一部の実施形態では、該混合物の保管は、4℃で10日を超える該混合物の保管である。一部の実施形態では、該混合物の保管は、4℃で42日(または、28日)を超える該混合物の保管である。一部の実施形態では、本方法は、添加剤溶液(例えば、表2に記載の任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)の添加を含む。一部の実施形態では、該混合物は、添加剤溶液(例えば、表2に記載の任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)中で保管される。一部の実施形態では、本方法は、処理溶液(例えば、表2、3、または4に記載の任意の溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む溶液)を添加剤溶液(例えば、表2に記載の任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)と置換することをさらに含む。一部の実施形態では、該クエンチャーの濃度を減少させる前の該組成物のクロライド(chloride)濃度は、約100mM未満(または、約75mM)である。一部の実施形態では、該クエンチャーの濃度を減少させた後のおよび/または添加剤溶液を添加した後の該組成物のクロライド濃度は、約100mMを超える(または、約125mM)。
【0013】
先述の方法ならびに本明細書に記載の他の方法の各々の一部の実施形態では、該官能基は、マスタード、マスタード中間体、またはマスタード同等物である。一部の実施形態では、該官能基は、アジリジニウムイオンであるか、またはアジリジニウムイオンを形成可能である。一部の実施形態では、該反応性求電子性基は、核酸と反応可能である。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、核酸結合リガンドをさらに含む。一部の実施形態では、該核酸結合リガンドはインターカレーターである。一部の実施形態では、インターカレーターはアクリジンである。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、該官能基および該核酸結合リガンドを連結する易壊性リンカーを含む。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル(chloroethy))アミノ]エチルエステルである。一部の実施形態では、ステップ(b)の結果として生じる混合物中の該病原体不活化化合物の濃度は、約0.1μM〜約5mMである。一部の実施形態では、該濃度は、該赤血球組成物中における、もし存在するとすれば少なくとも1logの病原体を不活化するのに十分である。一部の実施形態では、該濃度は、少なくとも3logの病原体を不活化するのに十分である。一部の実施形態では、ステップ(b)とステップ(c)との間の時間は、約1〜48時間である。一部の実施形態では、該時間は、約10〜30時間である。一部の実施形態では、該時間は、約15〜25時間である。一部の実施形態では、該処理は、該赤血球組成物中における、もし存在するとすれば少なくとも1logの病原体を不活化する。一部の実施形態では、該処理は、少なくとも3logを不活化する。一部の実施形態では、該方法は、該混合物中の該病原体不活化化合物の濃度を減少させるステップをさらに含む。一部の実施形態では、該混合物中の該クエンチャーの濃度を減少させるステップ、および該混合物中の該病原体不活化化合物の濃度を減少させるステップは、同時に生じる。
【0014】
先述の方法ならびに本明細書に記載の他の方法の各々の一部の実施形態では、ステップ(b)の20時間後に、結果として生じる混合物中の赤血球(RBC)は、同一条件下の同一方法に由来するが塩基を使用しない赤血球の抗病原体不活化化合物抗体結合能(anti−pathogen inactivating compound antibody binding capacity)(ABC)値と比較して、65%未満のABCを有する。一部の実施形態では、該RBCは、約50,000未満の平均ABCを有する。一部の実施形態では、該RBCは、約40,000未満の平均ABCを有する。一部の実施形態では、該RBCは、約25,000〜70,000の平均ABCを有する。一部の実施形態では、該RBCは、約35,000〜45,000の平均ABCを有する。一部の実施形態では、結果として生じる混合物のRBCは、ステップ(c)後に1%未満の溶血を示す。一部の実施形態では、該RBCは、4℃でステップ(c)の42日後(または28日後)の時点で1%未満の溶血を示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物のRBCは、ステップ(c)後に50%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示す。一部の実施形態では、該RBCは、4℃でステップ(c)の42日後(または28日後)の時点で50%を超えるPCVを示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物のRBCは、4℃でステップ(c)の42日後(または28日後)に140(または150)を超えるメジアン血球脆弱性値を示す。一部の実施形態では、病原体不活化化合物の量は低減されず、および/または該病原体不活化化合物は、化合物吸着デバイス(CAD)と接触しない。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、赤血球の脱水を低減する方法を提供し、この方法は、a)i)病原体不活化化合物と反応可能なクエンチャーおよびii)赤血球の混合物を含む赤血球組成物を提供するステップと、b)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャーの濃度(ならびに、随意に該病原体不活化化合物の濃度および/またはその副産物の濃度)を、十分に減少させるステップとを含む。一部の実施形態では、該クエンチャーは、システインまたはシステインの誘導体を含む。一部の実施形態では、該クエンチャーは、グルタチオンまたはその薬学的に許容され得る塩である。一部の実施形態では、ステップ(b)の結果として生じる混合物中の該クエンチャーは、約10mM未満の濃度である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約8mM未満である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約6mM未満または約2mM未満である。一部の実施形態では、結果として生じる混合物の赤血球(RBC)は、ステップ(b)後に1%未満の溶血を示す。一部の実施形態では、該RBCは、4℃でステップ(b)の42日後(または28日後)の時点で1%未満の溶血を示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物のRBCは、ステップ(b)後に50%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物のRBCは、4℃でステップ(b)の42日後(または28日後)の時点で50%を超えるPCVを示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物のRBCは、4℃でステップ(b)の42日後(または28日後)に140(または150)を超えるメジアン血球脆弱性値を示す。一部の実施形態では、該混合物の保管は、4℃で10日を超える該混合物の保管である。一部の実施形態では、該混合物の保管は、4℃で42日(または28日)を超える該混合物の保管である。一部の実施形態では、病原体不活化化合物の量は低減されず、および/または該病原体不活化化合物は、化合物吸着デバイス(CAD)と接触しない。
【0016】
先述の方法の各々により生成された赤血球(RBC)組成物が提供される。先述の方法の各々により調製可能なRBC組成物も提供される。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、a)病原体不活化化合物の求電子性基と共有結合で反応した赤血球、およびb)該病原体不活化化合物と反応可能であるチオール基を含むクエンチャーを含む組成物を提供し、該組成物は、4℃で42日(または28日)まで保管した後でヒトに注入するのに好適である。一部の実施形態では、もし存在するとすれば、少なくとも1logの病原体が不活化される。一部の実施形態では、少なくとも3logが不活化される。一部の実施形態では、該求電子性基は、マスタード、マスタード中間体、またはマスタード同等物である。一部の実施形態では、該求電子性基は、アジリジニウムイオンであるか、またはアジリジニウムイオンを形成可能である。一部の実施形態では、該求電子性基は、核酸と反応可能である。一部の実施形態では、該求電子性基を、赤血球の細胞表面と共有結合で反応させる。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、核酸結合リガンドをさらに含む。一部の実施形態では、該核酸結合リガンドはインターカレーターである。一部の実施形態では、該インターカレーターはアクリジンである。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、該求電子性基および該核酸結合リガンドを連結する易壊性リンカーを含む。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。一部の実施形態では、該クエンチャーは、システインまたはシステインの誘導体を含む。一部の実施形態では、該クエンチャーは、グルタチオンまたはその薬学的に許容され得る塩である。一部の実施形態では、該クエンチャーは、保管中の赤血球脱水を回避するかまたは最小限にするのに十分に低い濃度である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約10mM未満である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約8mM未満である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約6mM未満または約2mM未満である。一部の実施形態では、該赤血球(RBC)は、55%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示す。一部の実施形態では、該RBCは、60%を超えるPCVを示す。一部の実施形態では、該RBCは、約50,000未満の平均抗体結合能(ABC)を示す。一部の実施形態では、RBCは、約40,000未満の平均ABCを示す。一部の実施形態では、該RBCは、約25,000〜60,000の平均ABCを示す。一部の実施形態では、該RBCは、約25,000〜70,000の平均ABCを示す。一部の実施形態では、該RBCは、約35,000〜45,000の平均ABCを示す。一部の実施形態では、該組成物は、添加剤溶液(例えば、表2に記載の任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)をさらに含む。一部の実施形態では、該添加剤溶液および/または該組成物のクロライド濃度は、約100mMを超える(または、約125mM)。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、個体に赤血球を注入する方法を提供し、この方法は、a)先述の赤血球組成物のいずれか1つまたは本明細書に記載の方法のいずれか1つによって生成された赤血球組成物を提供するステップ、およびb)該赤血球組成物を該個体に注入するステップを含む。
【0019】
一態様において、本発明は、赤血球組成物を処理する方法を提供し、この方法は、a)i)反応性求電子性基であるかまたは反応性求電子性基を形成する官能基を含む病原体不活化化合物(例えば、もし存在するとすれば病原体を不活化するための有効量の病原体不活化化合物)、ii)該病原体不活化化合物の反応性求電子性基と反応可能であるチオール基を含むクエンチャー(例えば、有効量のクエンチャー)、およびiii)赤血球含有組成物を混合するステップと、b)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャーの濃度を十分に減少させるステップとを含む。これら実施形態の一部では、該クエンチャーの濃度の減少には、不活化中に使用される溶液を除去すること、および最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、もしくは4の任意の溶液などの本明細書に記載の任意の溶液)を添加することが含まれる。本方法は、上記で列挙されている実施形態および/または本明細書中の実施形態のいずれか1つまたは複数を含む。
【0020】
一部の実施形態では、本方法は、好適な塩基を該赤血球含有組成物と混合するステップをさらに含み、該塩基は、塩基無しの該混合物に比べて、該混合物中における該病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応のレベルを低減するのに十分な量である。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応とは、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の修飾である。一部の実施形態では、方法は、好適な塩基を該赤血球含有組成物と混合するステップをさらに含み、該塩基は、結果として生じる混合物中での該処理された赤血球組成物に結合する抗病原体不活化化合物抗体のレベルを、塩基無しの該混合物と比べて、少なくとも約5%(または、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%)低減するのに十分な量である。
【0021】
一態様において、本発明は、赤血球組成物の脱水を低減する方法を提供し、ここで、該組成物が、病原体不活化化合物と反応可能であるクエンチャーと赤血球とを含む混合物であり、この方法は、元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量に、該混合物中の該クエンチャー濃度を十分に減少させるステップを含む。
【0022】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の赤血球組成物を個体に注入することを含む赤血球注入方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例6に記載されているような初回クエンチャー投与後の、種々のレベルの塩基における赤血球の浸透圧脆弱性を示す。
【図2】図2は、20時間のインキュベーション時の、種々のレベルの塩基における赤血球密度を示す。
【図3】図3は、インキュベーションおよび36日保管した後の、種々のレベルの塩基における赤血球密度を示す。
【図4】図4は、クエンチャー濃度を減少させておよび減少させずに(つまり置換ステップを行って/行わずに)インキュベーションおよび36日保管した後の、赤血球の浸透圧脆弱性を示す。
【図5】図5は、中程度の初期クエンチャー濃度(置換ステップを行わない)と比較して、様々な初期クエンチャー濃度(置換ステップを行う)でインキュベーションおよび42日保管した後の、赤血球の浸透圧脆弱性を示す。
【図6】図6は、病原体不活化化合物と共におよび病原体不活化化合物を伴わずにインキュベーションおよび36日保管した後の、赤血球の浸透圧脆弱性を示す。
【図7】図7は、本発明の方法を使用して、いくつかの赤血球調製物に対する抗体結合能(ABC)値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、望ましくない副反応(望まれない免疫応答に結びつく赤血球の修飾など)を低減または最小限にしながら、処理中および処理後の細胞活性度および/または寿命に対する副作用(例えば、浸透圧脆弱性の減少および/または脱水の増大)を低減または最小限にしながら、存在し得る病原体を不活化するための赤血球組成物の処理方法を提供する。本発明者らは、病原体不活化工程中に好適な量のクエンチャーを併用してpHを適切に調節することにより、病原体不活化化合物で処理された赤血球の初期脱水を低減することができることを見出した。その後、該工程では、初期クエンチャー濃度の低減が続き、浸透圧脆弱性を著しく変化させずに細胞保存可能である健康な病原体不活化赤血球を提供することができる。これらの方法は、特に該組成物が臨床使用前にある期間保管される場合、臨床で使用するために病原体が不活化された赤血球組成物の調製に特に好適である。
【0025】
したがって、本発明は、一実施態様において、(1)該病原体不活化化合物およびクエンチャーを該赤血球含有組成物と混合すること、および(2)元の濃度で混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減するために、クエンチャー濃度を十分に減少させることにより、該病原体不活化化合物およびクエンチャーを含む赤血球組成物の処理方法を提供する。
【0026】
他の実施態様において、本発明は、脱水を低減させる方法および/または赤血球の浸透圧脆弱性を増大させる方法、ならびに赤血球をヒトに注入する方法を提供する。また、処理された赤血球組成物が提供される。
【0027】
赤血球
本発明の赤血球組成物には、これらに限定されないが、赤血球を含む任意の血液製剤(例えば、ヒト血液)が含まれ、該血液製剤は、例えば注入用などの、ヒト、哺乳動物、および/または脊椎動物に使用するに好適な赤血球を提供するか、または提供するように処理される。赤血球組成物には、例えば、全血、および濃縮赤血球(packed red blood cell)(pRBC;例えば、ヘマトクリットを増大させたおよび/または添加剤溶液を含有しない赤血球)などの赤血球濃縮物が含まれる。該赤血球組成物は、それらのヘマトクリットまたは赤血球沈殿容積(PCV)、該組成物中の赤血球濃度の尺度により記述され得る。赤血球組成物は、約1〜100%、より好ましくは約10〜90%、また約35〜80%、または約40〜70%の範囲内にあるヘマトクリットを示していてもよい。かかる赤血球組成物は、病原体不活化化合物およびクエンチャーなどの化学薬品を含んでいてもよい。また、かかる赤血球組成物は、塩または緩衝化された溶液を含む赤血球添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、もしくは4の任意の溶液などの本明細書に記載の任意の溶液)などの、緩衝液および他の溶液を含んでいてもよい。一部の実施形態では、本明細書に記載の赤血球組成物は、本明細書に記載の処理方法での使用前に、約70〜90%、または約75〜85%、または約80%の範囲内にあるヘマトクリットを示す濃縮赤血球である。一部の実施形態では、該赤血球組成物は、本明細書に記載の処理方法での使用前および/または使用中に、約50〜70%、または約55〜65%、または約60%の範囲内にあるヘマトクリットを示す非濃縮赤血球である。一部の実施形態では、該赤血球組成物は、本明細書に記載の処理方法での使用前および/または使用中に、希釈剤溶液で希釈され、約30〜50%、または約35〜45%、または約40%の範囲内にあるヘマトクリットを示す。一部の実施形態では、本明細書中に記載の赤血球組成物は、本明細書中に記載の処理方法での使用前に、白血球除去されている。一部の実施形態では、該赤血球組成物は、白血球除去されていない。生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物に接触するかまたは導入されることになり、かかる接触が、病原体の汚染により疾患を伝染するリスクをもたらす任意の赤血球組成物は、本明細書に記載されているように処理され得る。
【0028】
血中病原体
存在する場合、本発明の方法において不活化される病原体汚染物質としては、ヒト、他の哺乳動物または脊椎動物において疾患を引き起こし得る任意の核酸含有因子が挙げられる。病原性因子は、単細胞性または多細胞性であり得る。病原体の例は、ヒト、他の哺乳動物または脊椎動物において疾患を引き起こす細菌、ウイルス、原虫、真菌、酵母、かび、およびマイコプラズマである。病原体の一般的な物質は、DNAまたはRNAであり得、該一般的な物質は、単鎖または二本鎖核酸として存在し得る。表1に、ウイルスの例を挙げるが、本発明をなんら限定することを意図しない。
【0029】
(表1.ウイルスの非限定的な例)
【0030】
【表1】

存在し得る病原体汚染物質の不活化に加え、本発明の方法はまた、赤血球組成物中に存在し得る白血球を不活化し得る。白血球低減処理(leukoreduction)方法は、白血球がレシピエントにおいて望ましくない免疫応答をもたらし得るため、好ましくは、ほとんどの白血球を注入が意図される赤血球組成物から除去するために使用され得る。しかしながら、すべての血液が白血球低減処理されるわけではないか、または白血球低減処理方法により、すべての白血球が除去されるのではないかもしれない。したがって、本明細書に記載される本発明の方法によるあらゆる残留白血球の不活化により、かかる免疫応答のリスクがさらに低減され得る。
【0031】
病原体−不活化化合物
赤血球組成物中の病原体の不活化は、赤血球組成物中の病原体を病原体不活化化合物と接触させることにより行なわれる。本明細書に記載の実施形態のいずれかでは、該病原体不活化化合物(例えば、本明細書に記載のS−303)は、有効量(例えば、該赤血球組成物中における、もし存在するとすれば、例えば少なくとも1log、2log、または3logの病原体を不活化するのに十分な量などの、病原体を不活化するために有効な量)で存在し得る。本発明の方法により使用され得る病原体不活化化合物には、求電子性基などの反応基であるか、または求電子性基などの反応基を形成可能であり、例えばインサイチュで求電子性基などの反応基を形成した官能基を含む化合物が含まれる。一部の場合において、本発明の病原体不活化化合物は、反応性とするための光活性化を必要としない。例えば、該官能基は、マスタード基、マスタード基中間体、マスタード基同等物、エポキシド、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド合成物(synthon)であり得る。かかる官能基は、インサイチュで、反応性基、例えば、求電子性アジリジン、アジリジニウム、チイランまたはチイラニウム(thiiranium)イオンなどを形成することができるものである。マスタード基は、モノ−またはビス−(ハロエチル)アミン基またはモノ(ハロエチル)スルフィド基であり得る。マスタード同等物は、マスタードと同様の機構によって、例えば、アジリジニウムおよびアジリジン基またはチイランおよびチイラニウム基などの反応性中間体を形成することにより反応する基である。例としては、アジリジン誘導体、モノまたはビス(メシルエチル)アミン基、モノ−(メシルエチル)スルフィド基、モノまたはビス(トシルエチル)アミン基およびモノ−(トシルエチル)スルフィド基が挙げられる。ホルムアルデヒドシンソンは、ホルムアルデヒドに分解される任意の化合物であり、ヒドロキシメチルグリシンなどのヒドロキシルアミンが挙げられる。病原体不活化化合物の反応性基は、病原体の核酸と(例えば、核酸上の求核性基と)反応することができるものである。反応性基はまた、クエンチャーの求核性基と反応することができるものである。病原体不活化化合物はまた、該化合物を核酸に標的化する成分、例えばアンカー部分などを含み得る。アンカー部分は、核酸生体高分子(例えば、DNAまたはRNAなど)に非共有結合することができる部分を含み、また、核酸結合リガンド、核酸結合基、または核酸結合部分ともいう。かかる化合物の例は、米国特許第5,691,132号、同第6,410,219号、同第6,136,586号、同第6,617,157号、および同第6,709,810号(各々は、引用により本明細書に組み込まれる)に記載されている。本発明の方法によってクエンチングされ得る病原体不活化化合物の別の類型は、米国特許第6,514,987号(引用により本明細書に組み込まれる)に記載されているような、加水分解性リンカーによって核酸結合基に連結された上記の反応性基を含むものである。病原体不活化化合物のアンカー部分は、核酸に対する親和性を有する。この親和性は、核酸と非共有結合的に結合するいくつかの様式(限定されないが、インターカレーション、副溝結合、主溝結合、静電結合(すなわち、リン酸主鎖結合)が挙げられる)いずれかによるものであり得る。該親和性は、結合の混在様式(例えば、インターカレーションおよび副溝結合)にもよる可能性がある。該結合は、配列特異的であってもよく(つまり、他の核酸配列より1つまたは複数の特定の核酸配列に対して結合親和性が増大している)、または非配列特異的であってもよい。かかる核酸結合部分の詳細な例は、上記の特許を見るとよい。
【0032】
本明細書に記載の方法、組成物およびキットの各々の一部の実施形態では、病原体不活化化合物は、選択したクエンチャーの求核試薬と反応性である反応性求電子性基であるか、または該基を構成する官能基を含み得る。一部の実施形態では、病原体不活化基は、核酸結合リガンドと、求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む。
【0033】
本発明における使用のための適当な病原体不活化化合物の具体的な例は、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル(あるいはまた、本明細書において「S−303」ともいう)であり、その構造は以下の通りであり、その塩も含む。
【0034】
【化1】

一部の実施形態では、赤血球組成物およびクエンチャーを含む混合物中のS−303などの病原体不活化化合物の濃度は、約0.05mM〜4mM、約0.05mM〜2mM、約0.05mM〜0.5mM、約0.1mM〜0.3mM、または約0.2mMの範囲である。一部の実施形態では、病原体の不活化化合物に対するクエンチャーのモル比は、いったん両成分が赤血球組成物と混合されていると、約10:1〜約400:1、同様に約10:1〜約200:1、同様に約20:1〜約200:1、同様に約50:1〜約200:1、同様に約100:1である。
【0035】
クエンチャー
本発明の方法で使用するためのクエンチャーは、病原体を不活化する(例えば、望まれない免疫応答に結びつき得る、該病原体不活化化合物のRBC表面への結合)ために使用される反応性求電子種の望ましくない副反応を低減することを目的としている。本明細書に記載の実施形態のいずれかでは、該クエンチャー(例えば、本明細書に記載のグルタチオン)は、有効量(例えば、本明細書に記載の量などの、望ましくない副反応を低減するのに有効な量)で存在し得る。好適なクエンチャーは、病原体不活化化合物の該求電子性基と反応することができる求核性基を含むものである。非限定的な例は、米国特許第6,709,810号(引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている。一部の実施形態において、クエンチャーは、赤血球組成物における望ましくない副作用を有意に低減させることができると同時に、病原体不活化化合物が、赤血球組成物を汚染状態であり得る病原体を充分に不活化するのを可能にする。一部の実施形態において、改善された本発明の方法は、細胞の浸透圧脆弱性を顕著に改変せずに(例えば、低下させずに)かつ脱水を顕著に改変せずに(例えば、増大させずに)、望ましくない副作用(例えば、病原体不活化化合物の結合)の最適な低減と充分な病原体の不活化を同時にもたらす条件下で、有効量の病原体不活化化合物との組み合わせでの有効量のクエンチャーを提供する。種々の望ましくない副作用(例えば、タンパク質および/または赤血球成分と病原体不活化化合物との反応)が低減され得る。一部の実施形態では、クエンチャーは、赤血球の修飾、例えば、赤血球へのIgGの結合または赤血球への病原体不活化化合物の結合の最適な低減を提供する。本発明の方法は、エキソビボ赤血球の処理組成物を伴うが、一部のクエンチャーは、個体内への導入時に該組成物中に残留し得る。一部の実施形態において、したがって、本発明のクエンチャーは、注入に適したものである。好適なクエンチャーとしては、限定されないが、チオール基を含む化合物、例えば、アミノ酸であるシステインまたは適当なシステイン誘導体(例えば、N−アセチルシステインなど)を含むクエンチャーなどが挙げられる。かかるクエンチャーの例としては、システイン、および少なくとも1個のシステインを含むペプチド、例えばグルタチオンなどが挙げられる。一部の実施形態では、適当なクエンチャーは、さらなる化学薬品または添加酵素の使用を伴って、または該使用なしでインサイチュでチオール基を形成し得るシステイン誘導体、例えば、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステインのチオール由来プロドラッグ、またはS−アセチルシステインもしくは他の適当なシステインのチオール由来プロドラッグを含むペプチドなどを含むものである。好適なシステイン誘導体は、病原体不活化化合物の該求電子性基と反応することができるシステイニルチオールを含むもの、または該システイニルチオールをインサイチュで形成することができるもののいずれかである。
【0036】
一部の実施形態では、クエンチャーは、2〜10個のアミノ酸のペプチドであり、該アミノ酸の少なくとも1個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体である。一部の実施形態では、クエンチャーは、少なくとも3個のアミノ酸、例えば約3〜10個のアミノ酸、同様に約3〜6個のアミノ酸のペプチドであり、該アミノ酸の少なくとも1個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体である。一部の実施形態では、クエンチャーは、少なくとも3個のアミノ酸、例えば約3〜10個のアミノ酸、同様に約3〜6個のアミノ酸のペプチドであり、該アミノ酸の少なくとも1個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体であり、同様に、該アミノ酸の少なくとも2個または少なくとも3個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体である。
【0037】
好ましい実施形態では、該クエンチャーは、中和グルタチオン(L−グルタチオンおよびγ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシンとしても公知)である。グルタチオンは、グルタチオンをクエンチャーとして特に有用にする多くの特性を有する。グルタチオンは、通常すべての細胞型で存在する。グルタチオンは、細菌および脂質エンベロープウイルスの細胞膜または脂質コートを通り抜けることによって、または非エンベロープウイルスのウイルスカプシドを通り抜けることによってなど、受動的に病原体へと透過することができるとは考えられていない。ほぼ中性pHのグルタチオンは荷電されており、能動輸送の非存在下では、いかなる有意な程度でも脂質二重層を透過しない。これは、2mMを超える中和グルタチオンの濃度を使用することを含む、HIVおよびVSVなどの脂質エンベロープウイルスの不活化が、グルタチオンによって実質的に影響されないことと一致する。グルタチオンの使用は、Yersinia enterocolitica、Staphylococcus epidermidis、およびSerratia marcescensの不活化に対してある影響を及ぼす。しかしながら、これは、有効量の中和グルタチオンおよび病原体不活化化合物を使用することにより管理することができる。そのため、ウイルス性または細菌性の病原体による赤血球組成物の汚染が、少なくとも2log、好ましくは少なくとも3log不活化される好ましいクエンチング方法が提供される。一部の実施形態では、Staphylococcus epidermidisは、少なくとも3log、また約4log、または約5logまで不活化され得、VSVは、少なくとも4log、また約5log、または約6logまで不活化することができる。一部の実施形態では、S−303によるStaphylococcus epidermidisの不活化は、2mM酸性グルタチオンおよび0.2mM S−303により不活化された類似組成物の不活化の約3log、また約2log、または約1log以内である。一部の実施形態では、S−303によるVSVの不活化は、2mM酸性グルタチオンおよび0.2mM S−303により不活化された類似組成物の不活化の約2log、または約1log以内、またはそれと本質的に同じである。適切な条件下では、本発明により記載されているように、グルタチオンは、赤血球のin vitro保管とも適合しており、結果として生じる赤血球組成物は、in vivo導入に好適である。
【0038】
一部の実施形態では、クエンチャーが、その還元された形態においてグルタチオンである。グルタチオンの酸化された形態であるグルタチオンジスルフィドもまた、グルタチオンジスルフィドが溶液中で、該溶液を赤血球組成物を含む混合物に添加する前に溶液中で充分還元されるか、または赤血球組成物を含む混合物に添加した後に充分に還元される限り使用され得る。
【0039】
一部の実施形態では、クエンチャーは、グルタチオンの誘導体、例えば、グルタチオンモノアルキルエステルまたはジアルキルエステルなどであり、このとき、該アルキル基は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖基である。該アルキル基の具体例としては、限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、ペプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデシル基が挙げられる。例えば、グルタチオン誘導体の非限定的な例としては、グルタチオンメチルエステル、グルタチオンモノエチルエステル、およびグルタチオンモノイソプロピルエステルが挙げられる。一部の実施形態では、グルタチオン酸化ジエチルエステル(GSSG−(グリシル)−ジエチルエステル)が使用される。一部の実施形態では、グルタチオンのチオエステルを、赤血球組成物への添加後に加水分解してチオールを形成する。
【0040】
一部の実施形態では、クエンチャーが遊離の酸または塩基の形態で提供されるのに対し、他の実施形態では、クエンチャーが塩の形態で提供されることを理解されたい。クエンチャーが塩の形態である場合、該塩は、好ましくは、薬学的に許容され得る塩である。化合物の薬学的に許容され得る塩(水溶性もしくは油溶性または分散性生成物の形態)としては、例えば、無機系または有機系の酸または塩基から形成される慣用的な非毒性の塩または第4級アンモニウム塩が挙げられる。かかる酸付加塩の例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、カンフルスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、およびウンデカン酸塩が挙げられる。塩基塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(ナトリウム塩およびカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩およびマグネシウム塩など)、有機塩基との塩(ジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミンなど)、ならびにアルギニン、リシンなどのアミノ酸との塩などが挙げられる。また、塩基性窒素含有基を、低級アルキルハロゲン化物、例えば、メチル、エチル、プロピル、およびブチルの塩化物、臭化物およびヨウ化物;ジアルキル硫酸塩(ジメチル、ジエチル、ジ(did)ブチルなど);ならびにジアミル硫酸塩、長鎖のハロゲン化物(例えば、デシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルの塩化物、臭化物およびヨウ化物、アラルキルハロゲン化物(例えば、ベンジルおよびフェネチル臭化物)などの薬剤で第4級化してもよい。他の薬学的に許容され得る塩としては、硫酸塩エタノレート(ethanolate)および硫酸塩が挙げられる。
【0041】
例えば、一部の実施形態では、クエンチャーが、グルタチオンから形成された薬学的に許容され得る塩の形態である。一部の実施形態では、クエンチャーが、グルタチオンおよび1種類以上のカチオン(例えば、ナトリウム、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、亜鉛、またはテトラメチルアンモニウムなど)から形成された薬学的に許容され得る塩の形態である。一部の実施形態では、クエンチャーが、グルタチオン(還元型)であり、グルタチオン一ナトリウム塩(例えば、Biomedica Foscama(イタリア)から入手可能である)の形態で提供される。一部の他の実施形態では、グルタチオン(還元型)が、グルタチオン塩酸塩の形態で提供される。一部の他の実施形態では、グルタチオンが、グルタチオン(還元型)二ナトリウム塩の形態で提供される。さらなる実施形態では、グルタチオンモノアルキルエステル硫酸塩が使用される。一部の実施形態では、グルタチオンが、グルタチオン酸化二ナトリウム塩の形態で提供される。
【0042】
不活化およびクエンチングの方法
本発明の方法には、赤血球組成物を病原体不活化化合物およびクエンチャーと混合する際、結果として生じる組成物のpHが、適切な病原体不活化および望ましくない副反応(赤血球の修飾など)の低減を提供するのに好適な範囲内にあり、処理された血液製剤の活性度(例えば、浸透圧脆弱性および脱水)および/または寿命に対する影響が限定的であるかまたは影響がない条件下で、該組成物を該病原体不活化化合物およびクエンチャーと組み合わせることを伴う。さらに、本発明は、病原体不活化の期間後に該赤血球組成物中のクエンチャー濃度を減少させて、保管中の赤血球の活性度および寿命を維持することを支援することを記述する。本明細書に記載のような添加剤溶液も保管中の赤血球に使用することができ、病原体不活化中に使用される処理溶液および/または希釈剤溶液を置換するために使用され得る。
【0043】
改善された方法には、クエンチングに重要であり得るいくつかの特徴が含まれる。第1の特徴は、チオール基または他の好適な求核性基である。第2は、溶液のpHの調整である。溶液のpHを適切に調整することにより、あるレベルのクエンチングを提供することが可能である。そのため、本発明のクエンチャーは、該赤血球含有組成物にいくつかの緩衝能力を提供し、該緩衝能力それ自体が、クエンチングの改善を提供する。例えば、該赤血球組成物の好適なpH変化を提供するために適切に修飾する際に、クエンチャーとしてメチオニンなどのシステイン類似体を使用することは、該赤血球に対する該病原体不活化化合物の結合のあるレベルのクエンチングをもたらすだろう。メチオニンの硫黄原子が求核性でないため、メチオニンは、該溶液の必要なpHを提供する以外にいかなるクエンチングも提供しない。したがって、pH調整とチオール基との組み合わせは、クエンチングの改善を提供する。pHおよび塩基当量の適切な調整は、不活化期間中の赤血球脱水レベルを減少させることもできる。一部の実施形態においてクエンチングの改善を提供するのに重要であり得る第3の特徴は、ウイルスおよび細菌などの病原体の内部に実質的に透過しない好ましいクエンチャーの選択である。かかるクエンチャーは、細胞外環境における適切なクエンチングを提供し、該病原体内部に透過すると、病原体不活化化合物のさらなるクエンチング無しで、赤血球表面に対する結合などの有害反応が生じる。最後に、本発明の改善されたクエンチング法には、不活化した後、および一部の場合には保管用の添加剤溶液を添加した後で、クエンチャー濃度を減少させることが含まれる。該赤血球は、クエンチャーの全体的な濃度が好適レベルに減少する場合に、保管中の寿命の改善および脱水レベルの減少を示した。
【0044】
一実施態様において、本発明は、赤血球組成物を処理する方法であって、a)i)反応性求電子性基であるかまたは反応性求電子性基を形成する官能基を含む病原体不活化化合物(例えば、もし存在するとすれば、病原体を不活化するための有効量の病原体不活化化合物)と、ii)該病原体不活化化合物の該反応性求電子性基と反応可能であるチオール基を含むクエンチャー(例えば、本明細書に記載されているような有効量のクエンチャー)と、iii)赤血球含有組成物とを提供するステップ、b)該病原体不活性化合物および該クエンチャーを、該赤血球含有組成物と混合するステップ、ならびにc)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャーの濃度を十分に減少させるステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、ステップ(a)は好適な塩基を提供することをさらに含み、ステップ(b)は、該塩基と該赤血球含有組成物とを混合することをさらに含み、該塩基は、該塩基無しの混合物に比べて、該混合物中における該病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応のレベルを低減するのに十分な量である。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応とは、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の修飾である。一部の実施形態では、ステップ(a)は好適な塩基を提供することをさらに含み、ステップ(b)は、該塩基と該赤血球含有組成物とを混合することをさらに含み、該塩基は、結果として生じる混合物における、該処理された赤血球組成物に結合する抗病原体不活化化合物抗体のレベルを、該塩基無しの混合物と比べて、少なくとも約5%(または、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%)低減するのに十分な量である。一部の実施形態では、該混合物の保管は、4℃または室温で、7、10、14、21、28、35、または42日間より長い、それと同じ、またはそれ未満の保管である。一部の実施形態では、該混合物は、添加剤溶液(例えば、表2に記載の任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)中で保管される。一部の実施形態では、本方法は、処理中に使用される溶液を、添加剤溶液(例えば、表2に記載の任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)に置換することをさらに含む。
【0045】
さらなる実施態様において、本発明は、赤血球の脱水を低減する方法であって、a)i)病原体不活化化合物と反応可能なクエンチャーとii)赤血球を含む赤血球組成物とを提供するステップ、およびb)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャー濃度を十分に減少させるステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、該混合物の保管は、4℃または室温で、7、10、14、21、28、35、または42日間より長い、それと同じ、またはそれ未満の保管である。一部の実施形態では、本方法は、例えば保管の前に、添加剤溶液(例えば、表2に記載の任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)の添加をさらに含む。
【0046】
本明細書に記載の方法で使用されるクエンチャーおよび/または添加塩基(または中和クエンチャー)は、該病原体不活化化合物を該赤血球組成物に添加する前に、添加と同時に、または添加後に、該赤血球組成物と混合され得る。クエンチャーおよび塩基(または中和クエンチャー)が、該病原体不活化溶液と該赤血球組成物が混合された後で、該赤血球組成物と混合される場合、クエンチャーおよび/または塩基(または中和クエンチャー)は、好ましくは、該病原体不活化化合物と該赤血球との相当量の副反応が生じる前に該赤血球組成物に添加され、その結果、望まれない副反応の適切なクエンチングを達成することができる。一部の実施形態では、該クエンチャーおよび/または塩基(または中和クエンチャー)は、該病原体不活化化合物を該赤血球組成物と混合した後で、約1時間以内に、約30分以内に、約20分以内に、約10分以内に、約5分以内に、約2分以内に、または約1分以内に該赤血球組成物と混合される。一部の実施形態では、該クエンチャーおよび塩基は、該病原体不活化化合物と同時に該赤血球組成物と混合される。
【0047】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、該クエンチャーおよび該添加塩基(または中和クエンチャー)は、該病原体不活化化合物を該赤血球組成物と混合する前の約1時間未満、約30分未満、約20分未満、約10分未満、約5分未満、約2分未満、または約1分未満など、該病原体不活化化合物(例えば、S−303)を添加する前の好適な時間間隔の間、該赤血球組成物で前処理される。一部のさらなる実施形態では、該前処理は、約1℃〜30℃、また約18℃〜25℃、または約37℃の温度、または室温においてである。
【0048】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、該病原体不活化化合物(例えば、S−303)は、約30分から48時間、また約2〜36時間、また約8〜24時間、また約20時間などの好適な時間間隔の間、該クエンチャーおよび該添加塩基(または中和クエンチャー)の存在下で該赤血球組成物と共にインキュベートされる。一部のさらなる実施形態では、該インキュベーションは、約1℃〜30℃、また約18℃〜25℃の温度範囲、または約37℃、または室温付近においてである。
【0049】
該赤血球組成物のpHを調整する特徴に関して、かかる病原体不活化化合物をクエンチングする従来方法は、不活化中のクエンチング効率および細胞活性度の両方に関して、結果として生じる混合物のpHの重要性を認識していない。従来方法は、該病原体不活化化合物の望ましくない副反応を適切にクエンチングするために十分な塩基および好適なpHレベルの必要性を示しているが(例えば、非プロトン化グルタチオンのレベルを増大させて、RBC表面に対する該病原体不活化化合物の結合を低減することにより)、これらの方法は、不活化工程中の細胞脱水に対する塩基増大の効果を認識および記述していない。したがって、本発明の一実施態様には、該病原体不活化化合物およびクエンチャー(例えば、有害に作用する脱水を回避する好適なレベル)のインキュベーションに好適なレベルに該赤血球組成物のpHを調整することが伴う。
【0050】
一部の実施形態では、該病原体不活化化合物およびクエンチャーを該赤血球組成物と混合する際、該混合物のpHは、該病原体不活化化合物の望ましくない副反応(例えば、望まれない免疫応答に結びつき得る、該RBC表面に対する該病原体不活化化合物の結合)を低減し、不活化中の細胞脱水を十分に低減するのに好適なレベルにある。一部の実施形態では、該望ましくない副反応は、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の修飾である。一部の実施形態では、該修飾は、該赤血球の表面に対する該病原体不活化化合物の共有結合である。一部の実施形態では、該修飾は、該赤血球の表面に対する該病原体不活化化合物の非共有結合である。
【0051】
本明細書に記載のように、本方法の各々の一部の実施形態では、該病原体不活化化合物と該赤血球との望まれない(本明細書では「望ましくない」とも呼ばれる)副反応が低減される。一部の実施形態では、該低減される望まれない副反応は、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の修飾である。一部の実施形態では、副反応のレベルは、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%低減される。該副反応の減少は、例えば、該処理された赤血球に対する、該病原体不活化化合物に特異的な抗体の結合の量を測定することにより、および/または該処理された赤血球の寿命をin vivoで測定し、これらの測定を、第2の異なる方法(例えば、十分なクエンチャーおよび/または塩基が該反応混合物に加えられない方法、クエンチャーおよび/または塩基が該反応混合物に加えられない方法、および/またはより低いpHでの処理)により処理された赤血球と比較することにより証明され得る。例えば、本明細書に記載の方法の一部の実施形態では、該処理された血球に結合する抗病原体不活化化合物抗体のレベルは、第2の方法(例えば、十分なクエンチャーおよび/または塩基が該反応混合物に加えられない方法、クエンチャーおよび/または塩基が該反応混合物に加えられない方法、および/またはより低いpHでの処理)と比べて、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%減少する。
【0052】
一部の実施形態では、該病原体不活化化合物およびクエンチャーを該赤血球組成物と混合する際、該混合物のpHは、約6.0〜8.5、約6.0〜7.5、約6.5〜7.1、約6.5〜7.0、約6.6〜6.8の範囲内にあるか、または約6.6、6.7、6.8、もしくは6.9である。赤血球組成物のpHは時間と共に変化し得るが、クエンチャーが該赤血球組成物に添加される場合、該赤血球組成物が病原体不活化化合物を既に含有しているか否かに関わらず、pHは所望の範囲内にあることが望ましい。本発明の方法には、病原体不活化化合物およびクエンチャーを赤血球組成物に添加することが伴う。所望のpH範囲は、該赤血球組成物に対する該病原体不活化化合物および/またはクエンチャーの添加の順序に関わらず、該病原体不活化化合物およびクエンチャーの両方を添加する際に必要である。言いかえれば、3つの成分がすべて混合されると、pHは所望の範囲内にある。一部の実施形態では、クエンチャーは、病原体不活化化合物の前に添加される。一部の実施形態では、病原体不活化化合物は、クエンチャーの前に添加される。一部の実施形態では、クエンチャーおよび病原体不活化化合物は、本質的に同時に添加される。したがって、病原体不活化化合物およびクエンチャーを添加する際とは、該クエンチャーおよび病原体不活化化合物が両方とも該赤血球組成物と混合された時点を意味する。所望のpHはいくつかの手段により達成することができ、該赤血球組成物のpHがいつ調整されるかに関しては限定されておらず、または一部の実施形態では、該血液製剤の本来のpHから著しく離れては調整されない。例えば、該赤血球組成物の所望のpHは、pHの調整により達成することができる。pH調整は、例えば、該病原体不活化化合物およびクエンチャーを添加する前に、緩衝化された溶液などの好適な添加剤溶液の添加により実施され得る。一部の実施形態では、該赤血球組成物は、同じまたは他の好適な緩衝液中に懸濁する前に、好適な緩衝液で1回または複数回洗浄されてもよい。あるいは、該赤血球組成物のpHは、該病原体不活化化合物、該クエンチャー、またはその両方のいずれかの添加と同時に調整することができる。一部の実施形態では、pHは、該クエンチャーの添加と同時に調整される。一部の実施形態では、該クエンチャーは中和され、その結果、該中和クエンチャーの添加は、該赤血球組成物の所望のpH範囲をもたらす。一例として、グルタチオンの中和を使用して、必要なpH調整を達成することができる。一部の実施形態では、該グルタチオンの適切なレベルの中和を使用して、例えば1当量の塩基を添加することにより、赤血球組成物の添加の際に該組成物の必要なpH調整をもたらすことになるクエンチャーを提供することができる。適切な中和は、使用されるクエンチャーに依存するだろう。例えば、ペプチドが使用される場合、適切な中和は、該ペプチドのアミノ酸成分に依存し得る。一部の実施形態では、該赤血球組成物のpHに著しい影響を及ぼさないクエンチャーを使用することができる。例えば、1つまたは複数のアミノ酸をさらに含み得るシステインを含むペプチドの使用は、天然に単離されたペプチドの溶液のより中性のpHをもたらす。一部の実施形態では、該ペプチドは、アルギニンまたはリジンなどの、少なくとも1つの塩基性アミノ酸をさらに含む。
【0053】
塩基を赤血球組成物と、病原体不活化化合物およびクエンチャーとともに混合して、混合物のpHを所望のレベルまで増大および/または望ましくない副作用のクエンチングを改善する本明細書に記載の方法の一部の実施形態では、塩基は塩基性の塩である。塩基性の塩は、赤血球組成物と混合する前に最初に水溶液中に溶解させてもよい。他の実施形態において、塩は、固体形態の赤血球組成物に直接添加してもよい。一部の実施形態では、塩基性の塩がクエンチャーを含み、クエンチャーおよび該塩基の両方を混合物に提供する。一部の実施形態では、該方法において使用される塩基は、NaOHなどの強塩基である。典型的には、NaOHなどの強塩基は、赤血球組成物と混合する前に最初に水溶液中に溶解させる。一部の実施形態では、強塩基(例えば、溶液状または固体形態)を、クエンチャーを赤血球組成物と混合する前にクエンチャーと混合する。一部の実施形態では、塩基は塩基性緩衝液である(充分な量で添加され、適切なpKaを有し、混合物が所望のpH範囲に至る)。塩基性緩衝液が使用される場合、緩衝液は、一部の実施形態では、薬学的に許容され得る緩衝液である。一部の実施形態では、緩衝液は、滴定可能なプロトンを有し、pKaが約7〜8の範囲である。塩基性緩衝液として使用され得る緩衝液の例としては、限定されないが、N−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、およびリン酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。他の適当な塩基性緩衝液は、当業者によって容易に特定され得よう。
【0054】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、赤血球、クエンチャー、病原体不活化化合物および任意の添加塩基の混合物のpHは、約5.5より高いか、約5.7より高いか、約6.0より高いか、約6.3より高いか、約6.5より高いか、約6.7より高いか、約7.0より高いか、または約7.2より高い。本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、赤血球、クエンチャー、病原体不活化化合物および塩基(もし、添加されていれば)の混合物のpHは、約6.0〜8.5、約6.0〜7.5、約6.5〜7.1、約6.5〜7.0、もしくは約6.6〜6.8の範囲であるか、または約6.6、6.7、6.8もしくは6.9である。一部の実施形態では、表示したpHは室温でのpHである。一部の実施形態では、表示したpHは37℃でのpHである。例えば、一部の実施形態では、赤血球を含む該組成物を病原体不活化化合物で、クエンチャーおよび任意の添加塩基の存在下で処理し、このとき、混合物のpHは、37℃で約6.5〜約7.0(または7.1)の範囲である。
【0055】
一部の実施形態では、赤血球、クエンチャーおよび塩基(該方法の一部として塩基が添加される場合)の混合物のpHが、病原体不活化化合物と赤血球組成物との混合前で、約6.0〜8.5、約6.0〜7.5、約6.5〜7.1、約6.5〜7.0、もしくは約6.6〜6.8の範囲であるか、または約6.5、6.7、6.8もしくは6.9である。一部の他の実施形態では、該pHは、病原体不活化化合物と赤血球を含む該組成物との混合と同時、または約1時間以内、約30分以内、約20分以内、約10分以内、約5分以内、または約2分以内に達成される。pHを調整する方法の一部の実施形態では、pHを、病原体不活化化合物と赤血球を含む該組成物との混合の前、混合と同時、混合の約1時間以内、約30分以内、約20分以内、約10分以内、約5分以内、または約2分以内に、所望のpH範囲に調整する。クエンチャーがグルタチオンであり、病原体不活化化合物がS−303である実施形態では、赤血球組成物およびクエンチャーを含む混合物のpHは、好ましくは、S−303を赤血球組成物と混合する前に、所望のpH範囲(例えば、pH6.5〜7.0)に調整される。
【0056】
一部の実施形態では、赤血球、クエンチャーおよび塩基を混合した後の組成物で得られるpHは、必ずしも、最初の赤血球組成物のpHが調整されたものではない。例えば、赤血球組成物が、6.0〜7.5の所望の範囲のpHを有し得、該組成物のpHは、クエンチャー、続く病原体不活化化合物の添加によって有意に変化しない。かかる実施形態では、クエンチャーは、自然状態で所望のpHを提供するか、または所望のpHが提供されるようにしかるべく中和されるかのいずれかである。重要なのは、約5mM〜約40mMなどの高い初期量のクエンチャーを添加することと、所望の範囲のpHがもたらされることとの組合せである。例えばグルタチオンをかかる濃度で用いる公知の方法は、本発明の他の局面と組み合わせて、所望のpH範囲では使用されていない。したがって、ペプチドでは、どのペプチドクエンチャーであるかにかかわらず、赤血球組成物に添加されると必要に応じて適当なpH範囲をもたらすように効果的に中和され得、さらに、所望のpH範囲で適当な量の緩衝がもたらされるように選択され得る。したがって、中和クエンチャーとは、クエンチャーが、赤血球組成物に添加されると、得られる混合物が、不活化の間、細胞の脱水を回避しながら、より良好な望ましくない副作用(例えば、望ましくない免疫応答を導き得るRBC表面への病原体不活化化合物の結合)のクエンチングを提供するpH、例えば、約6.0〜8.5、約6.0〜7.5、約6.5〜7.0、約6.5〜7.1、もしくは約6.6〜6.8の範囲であるか、または約6.6、6.7、6.8もしくは6.9のpHを有するように、必要に応じて酸または塩基により適当に滴定されていることを意味する。一部の実施形態では、自然状態で単離されたペプチドが適当に中和される、すなわち、最終混合物に所望のpHをもたらすための酸または塩基の添加を必要としない。さらに、好ましいクエンチャーは、pHを所望の範囲内に、望ましくない副作用をクエンチングするのに必要な時間、維持するための緩衝能を提供する。
【0057】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、クエンチャーが中和されている。クエンチャーは、充分な量の塩基がクエンチャーと合わされており、その結果、病原体不活化化合物と赤血球間の望ましくない副作用のクエンチングが、赤血球を含む該組成物、病原体不活化化合物およびクエンチャーを含む混合物において改善される場合、塩基によって「中和されている」という。「中和クエンチャー」は、必ずしも中性pHを有するとは限らず、荷電していないとも限らない。一部の実施形態において、中和クエンチャーは、その最もプロトン化された形態でもその最も脱プロトン化された形態でもない。一部の実施形態では、クエンチャーが非常に酸性である場合、中和クエンチャーのpHは、依然として7.0未満であり得る(例えば、約6.6、6.7、6.8または6.9)。一部の実施形態では、中和クエンチャーの溶液のpHは、7.0より高い場合もあり得る。一部の実施形態では、中和クエンチャーの溶液のpHは、塩基の添加前のクエンチャーのものより検出可能に高い。一部の実施形態では、クエンチャーを、少なくとも約0.25当量、少なくとも約0.5当量、少なくとも約0.75当量、少なくとも約1当量、少なくとも約1.25当量、少なくとも約1.5当量、または少なくとも約2当量の塩基で中和する。一部の実施形態では、クエンチャーを、約2当量未満、約1.5当量未満、約1.25当量未満、約1当量未満、または約0.75当量未満の塩基で中和する。一部の実施形態では、クエンチャーを、約0.25〜約2当量、約0.5〜約1.5当量、または約0.75〜約1.25当量の塩基で中和する。一部の実施形態では、クエンチャーを、約0.75当量の塩基で中和する。他の実施形態において、クエンチャーを約1当量の塩基で中和する。他の実施形態では、クエンチャーを約1.25当量の塩基で中和する。例えば、本発明の一部の実施形態では、グルタチオンを、約1当量の適当な塩基(例えば、水酸化ナトリウムなど)で中和する。この場合、プロトン化されたグルタチオンの溶液は、およそ3のpHを有し、1当量の水酸化ナトリウムで中和された溶液は、およそ4.5のpHを有し、そして2当量の水酸化ナトリウムで中和された溶液は、およそ9.5のpHを有する。少なくとも1個のシステインを含む任意の適切なペプチドクエンチャーが、赤血球組成物に添加されると所望のpHがもたらされるように、適当に調整され得る。
【0058】
グルタチオンおよび他のクエンチャーを中和するための適切な方法は、当業者であれば容易に明白であろう。一部の実施形態では、水酸化ナトリウムを使用して、該クエンチャーを中和するか、または部分的に中和する。一部の実施形態では、NaOHの固形ペレットをまず水に溶解し、1N、5N、10N、または20N NaOH溶液などの、該塩基の濃縮溶液を生成する。一部の実施形態では、その後、該クエンチャーを該混合物に添加する前に、添加と同時に、または添加後に、適正量のそのNaOH溶液を該クエンチャーに添加する。あるいは、該クエンチャーを該混合物に添加する前に、該NaOHを、該赤血球組成物、または該病原体不活化化合物、またはその2つの組み合わせに添加する。
【0059】
適当にpH調整または中和クエンチャーを提供することに加え、一部の実施形態では、好ましいクエンチャーは、病原体内に有意に侵入し得ず、その結果、細胞外環境において望ましくない反応を最適にクエンチングするが、いったん病原体不活化化合物が病原体内部に浸透すると、病原体の不活化を妨げない。
【0060】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、クエンチャーが酸性化合物である。一部の実施形態では、クエンチャーが遊離の酸の形態で提供される。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性であり、クエンチャーを中和するのに少なくとも約1当量の塩基が添加される。かかる中和クエンチャーを含む溶液は、場合によっては、塩基性、中性またはなおも酸性であり得る。一部の実施形態では、クエンチャーを中和するかまたは部分的に中和するのに、約1当量の塩基が添加される。一部の実施形態では、約2当量の塩基が添加される。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性であり、クエンチャーを中和するのに、約0.5〜約1.5当量の塩基が使用される。一部の実施形態では、約0.75〜約1.25当量の塩基が使用される。一部の実施形態では、約1当量の塩基が使用される。
【0061】
一部の実施形態では、該クエンチャーは、該赤血球組成物および/または病原体不活化化合物の添加前に中和される。他の実施形態では、該クエンチャーは、該赤血球組成物および/または病原体不活化化合物と該クエンチャーを混合した後に中和される。一部の実施形態では、該赤血球組成物および/または病原体不活化化合物に添加する前の該中和クエンチャーのpHは、約2.5〜7.5、約3.0〜6.5、約3.5〜5.5、約4.0〜5.0、または約4.3〜4.5の範囲内にあるか、または約4.4である。
【0062】
一部の実施形態では、該クエンチャーはグルタチオンであり、グルタチオン一ナトリウム塩の形態で提供されており、約1当量の塩基で中和されているか、または塩基で中和されていない。一部の他の実施形態では、該クエンチャーはグルタチオンであり、グルタチオン塩酸塩の形態で提供されており、約1当量の塩基で中和されている。
【0063】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の該クエンチャーの初期濃度を不活化期間中に上昇させ、次に不活化期間後に低下された濃度へと低減させる。一部の実施形態では、該クエンチャーの初期濃度は、該病原体不活化化合物の望ましくない副反応(例えば、該RBC表面に対する該病原体不活化化合物の結合)を十分に低減するのに適切であり、その後低下した濃度に低減して、細胞保管中の活性度および/または寿命に有害に作用すること(例えば、浸透圧脆弱性および脱水)を十分に低減させる。
【0064】
本発明は、病原体不活化期間後のクエンチャー濃度を低減するために使用される任意の数の方法を包含する。一部の実施形態では、クエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度は、該赤血球組成物、クエンチャー、および病原体不活化化合物を含む混合物を遠心分離し、その後該混合物の上清を除去し、次に添加剤溶液(例えば、表2に記載されている任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)などの新鮮な溶液を、細胞の再懸濁用に添加することにより(例えば、該細胞の洗浄により)、低減される。遠心分離、上清の除去、および新鮮な溶液の添加(例えば、表2に記載されている任意の添加剤溶液、ならびに/または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/もしくはマンニトールを含む添加剤溶液)の工程は、一部の実施形態では、さらに1、2、3、4、または5回以上繰り返され得る。一部の実施形態では、該クエンチャーの濃度を低減するために使用される方法は、自動化されている。一部の実施形態では、該新鮮な溶液は、該クエンチャーを含まないか、またはより低濃度の該クエンチャーを含む。一部の実施形態では、クエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度は、該クエンチャーを化学的に不活化することにより低減される。一部の実施形態では、クエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度は、バッチまたはフロー除去工程における吸着、または膜(例えば、中空糸膜または透析膜)またはサイズ排除ビーズを使用するフロー工程でのサイズ排除により低減される。一部の実施形態では、該クエンチャーは低減されず、および/または化合物吸着デバイス(CAD)と接触しない。
【0065】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約2mMより大きいか、または約4mMより大きいか、約6mMより大きいか、約8mMより大きいか、約10mMより大きいか、約15mMより大きいか、または約20mMより大きい。一部の実施形態では、該混合物中の初期クエンチャー濃度は、約2mM〜100mM、約2mM〜40mM、約4mM〜40mM、約5mM〜40mM、約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲内であり、または2mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、または100mMまでである。一部の実施形態では、該混合物中の該初期クエンチャー濃度は、約20mMである。
【0066】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、赤血球、クエンチャー、および該病原体不活化化合物の混合物中のクエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約2mMより大きいか、約4mMより大きいか、約6mMより大きいか、約8mMより大きいか、約10mMより大きく、該混合物のpHは、約5.5より高いか、約5.7より高いか、約6.0より高いか、約6.3より高いか、約6.5より高いか、約6.7より高いか、約7.0より高いか、または約7.2より高い。本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、該混合物中の該クエンチャーの初期濃度は、約2mM〜40mM、約4mM〜40mM、約5mM〜40mM、約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲内にあるか、または約20mMであり、該混合物のpHは、約6.0〜8.5、約6.0〜7.5、約6.5〜7.1、約6.5〜7.0、または約6.6〜6.8の範囲内にあるか、または約6.6、6.7、6.8、または6.9である。一部の実施形態では、該混合物中の該クエンチャーの初期濃度は、約2mMより大きいか、約4mMより大きいか、約6mMより大きいか、約8mMより大きいか、または10mMより大きく、該混合物のpHは、約6.0〜8.5、約6.0〜7.5、約6.5〜7.1、約6.5〜7.0、または約6.6〜6.8の範囲内にあるか、または約6.6、6.7、6.8、または6.9である。一部の実施形態では、該混合物中のクエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度は、約10mM〜約30mMの範囲内にあり、該混合物のpHは、約6.0〜7.5の範囲内にある。一部の実施形態では、該混合物中のクエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度は、約20mMの範囲内にあり、該混合物のpHは、約6.5〜7.0(または、7.1)の範囲内にある。
【0067】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の不活化期間後の初期濃度は、該混合物中の該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度と比べて、1/2、または1/3、または1/4、または1/5、または1/6、または1/7、または1/8、または1/9、または1/10、または1/15、または1/20、または1/25、または1/30、または1/35、または1/40、または1/50、または1/100、または1/500、または1/1000未満にされる。
【0068】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の、不活化期間後の該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の低下した濃度は、約15mM未満、約10mM未満約、8mM未満、約6mM未満、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、約1mM未満、約0.75mM未満、約0.5mM未満、または約0.25mM未満である。一部の実施形態では、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約1mM〜20mM、約2mM〜15mM、約3mM〜10mM、約4mM〜8mM、約5mM〜6mMの範囲内である。一部の実施形態では、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約0.25mM、または0.5mM、または0.75mM、または1mM、または1.5mM、または2mM、または3mM、または4mM、または5mM、または6mM、または7mM、または8mM、または9mM、または10mM、または12.5mM、または15mM、または20mMまでの濃度である。
【0069】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、2mMより大きいか、約4mMより大きいか、約6mMより大きいか、約8mMより大きいか、または約10mMより大きく、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約15mM未満、約10mM未満、約8mM未満、約6mM未満、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、約1.5mM未満、約1mM未満、約0.75mM未満、約0.5mM未満、または約0.25mM未満である。一部の実施形態では、該クエンチャーの初期濃度は、約2mM〜100mM、約2mM〜40mM、約4mM〜40mM、約5mM〜40mM、約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲内にあるか、または約20mMであり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約1mM〜20mM、約2mM〜15mM、約3mM〜10mM、約4mM〜8mM、または約5mM〜6mMの範囲内にある。一部の実施形態では、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約10mM〜30mMの範囲内にあり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約2mM〜15mMの範囲内にある。一部の実施形態では、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約20mMであり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約4mM〜8mMの範囲内にある。
【0070】
一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー(例えば、グルタチオン)、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約2mMより大きいか、または約4mMより大きいか、約6mMより大きいか、約8mMより大きいか、または約10mMより大きく、該混合物のpHは、約5.5より高いか、約5.7より高いか、約6.0より高いか、約6.3より高いか、約6.5より高いか、約6.7より高いか、約7.0より高いか、または約7.2より高く、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約15mM未満、約10mM未満、約8mM未満、約6mM未満、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、約1.5mM未満、約1mM未満、約0.75mM未満、約0.5mM未満、または約0.25mM未満である。一部の実施形態では、該クエンチャーの初期濃度は、約2mM〜100mM、約2mM〜40mM、約4mM〜40mM、約5mM〜40mM、約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲内にあるか、または約20mMであり、該混合物のpHは、約6.0〜8.5、約6.0〜7.5、約6.5〜7.0、約6.5〜7.1、または約6.6〜6.8の範囲内にあるか、または約6.6、6.7、6.8、または6.9であり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約1mM〜20mM、約2mM〜15mM、約3mM〜10mM、約4mM〜8mM、または約5mM〜6mMの範囲内である。一部の実施形態では、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約10mM〜30mMの範囲内にあり、該混合物のpHは、6.0〜7.5の範囲内にあり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約2mM〜15mMの範囲内にある。一部の実施形態では、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約20mMであり、該混合物のpHは、約6.5〜7.0(または7.1)の範囲内にあり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約4mM〜8mMの範囲内にある。
【0071】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、初期濃度の該クエンチャーの添加時点と、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の低下した濃度へと該クエンチャーの濃度を低減させる時点との間の期間は、該病原体不活化化合物の望ましくない副反応(例えば、望まれない免疫応答に結びつき得る、該RBC表面に対する病原体不活化化合物の結合)を低減するのに十分である。一部の実施形態では、該期間は、該病原体不活化化合物の望ましくない副反応を低減し、不活化工程中の細胞脱水を回避または低減するのに十分である。
【0072】
一部の実施形態では、初期濃度の該クエンチャーの添加時点と、赤該血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の低下した濃度へと該クエンチャーの濃度を低減させる時点との間の期間は、5時間、10時間、15時間、20時間、25時間、30時間、35時間、40時間、または50時間より長いか、ほぼ等しいか、またはそれ未満である。一部の実施形態では、該期間は、約1〜96時間、約1〜72時間、または約1〜48時間、または約10〜30時間、または約15〜25時間、または約20時間である。
【0073】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む混合物中の該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約2mMより大きいか、または約4mMより大きいか、約6mMより大きいか、約8mMより大きいか、約10mMより大きいか、または約15mMより大きく、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約25mM未満、約20mM未満、約15mM未満、約10mM未満、約8mM未満、約6mM未満、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、約1.5mM未満、約1mM未満、約0.75mM未満、約0.5mM未満、または約0.25mM未満であり、初期濃度の該クエンチャーの添加時点と、低下した濃度へと該クエンチャーの濃度を低減させる時点との間の期間は、5時間、10時間、15時間、20時間、25時間、30時間、35時間、40時間、または50時間より長いか、ほぼ等しいか、またはそれ未満である。
【0074】
一部の実施形態では、該クエンチャーの初期濃度は、約2mM〜100mM、約2mM〜40mM、約4mM〜40mM、約5mM〜40mM、約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲内にあるか、または約20mMであり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約1mM〜20mM、約2mM〜15mM、約3mM〜10mM、約4mM〜8mM、または約5mM〜6mMの範囲内にあり、初期濃度の該クエンチャーの添加時点と、低下した濃度へと該クエンチャーの濃度を低減する時点との間の期間は、約1〜96時間、または約1〜72時間、または約1〜48時間、または約10〜30時間、または約4〜30時間、または約10〜25時間、または約15〜25時間、または約20時間である。
【0075】
一部の実施形態では、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約10mM〜30mMの範囲内にあり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約2mM〜15mMの範囲内にあり、初期濃度の該クエンチャーの添加時点と、低下した濃度へと該クエンチャーの濃度を低減する時点との間の期間は、約10〜30時間である。一部の実施形態では、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の初期濃度は、約20mMであり、不活化期間後の該混合物中の該クエンチャーの低下した濃度は、約4mM〜8mMの範囲内にあり、初期濃度の該クエンチャーの添加時点と、低下した濃度へと該クエンチャーの濃度を低減する時点との間の期間は、約15〜25時間である。これらの実施形態の一部では、該混合物のpHは、約6.5〜7.0(または7.1)の範囲内にある。これらの実施形態のいくつかでは、該混合物のpHは、約6.0〜7.5の範囲内にある。
【0076】
これらの実施形態のいずれにおいても、初期濃度の該クエンチャーの添加時点と、低下した濃度へと該クエンチャーの濃度を低減させる時点との間の期間中の、該赤血球組成物およびクエンチャーを含む混合物の温度は、約1℃〜30℃の、また18℃〜25℃の温度範囲内にあり、または約37℃、または室温付近である。
【0077】
一部の実施形態では、本発明は、赤血球組成物を処理する方法であって、a)i)マスタード基と核酸結合リガンドとを連結する易壊性リンカーを含む含む病原体不活化化合物(例えば、S−303)(例えば、もし存在するとすれば病原体を不活化する有効量の病原体不活化化合物)と、(ii)該病原体不活化化合物の反応性求電子性基と反応可能なチオール基を含むクエンチャー(例えば、有効量のクエンチャー)(例えば、グルタチオン)と、iii)赤血球含有組成物と、iv)好適な塩基(例えばNaOH)とを提供するステップ、b)該病原体不活化化合物、クエンチャー、および好適な塩基を該赤血球含有組成物と混合するステップ、ならびにc)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管すること(例えば、4℃で10、28、または42日後の)から生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャーの濃度を十分に減少させるステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、該混合物は、約0.5〜1.5当量の塩基(または約0.75〜1.25当量)を含み、ここで当量とは、該混合物中のクエンチャーのモル量と等しいモル量を意味し、および/またはステップ(b)の結果として生じる混合物は、37℃で約6.0〜7.5(または、約6.5〜7.0もしくは7.1、)のpHを有する。一部の実施形態では、ステップ(a)の塩基は、結果として生じる混合物における、該処理された赤血球組成物に結合する抗病原体不活化化合物抗体のレベルを、該塩基無しの混合物と比べて、少なくとも約5%(または、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%)低減するのに十分な量である。一部の実施形態では、該クエンチャーの濃度は、約5mM〜約30mM(または、約15mM〜約25mM)であり、および/またはステップ(c)の結果として生じる混合物中の該クエンチャーは、約10mM未満(または約6mM未満、または約2mM未満)の濃度である。一部の実施形態では、ステップ(b)の結果として生じる混合物中の該病原体不活化化合物の濃度は、約0.1μM〜約5mMであり、および/または該赤血球組成物中における、もし存在するとすれば、少なくとも1log(または3log)の病原体を不活化するのに十分である。一部の実施形態では、ステップ(b)とステップ(c)との間の時間は、約1〜48時間(または、15〜25時間)である。一部の実施形態では、ステップ(b)の20時間後、結果として生じる混合物の赤血球(RBC)は、同一条件下の同一方法に由来するが塩基を使用しない赤血球のABC値と比較して、65%未満の抗体結合能(ABC)を示し、および/または約50,000未満(または、約25,000と70,000との間の)の平均ABCを示し、および/またはステップ(c)後(または、4℃で28日もしくは42日間の保管後)に1%未満の溶血を示し、および/またはステップ(c)後(または、4℃で28日もしくは42日間の保管後)に50%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示し、および/またはステップ(c)後、4℃で28(または42)日後に140(または150)を超えるメジアン血球脆弱性値を示す。これら実施形態の一部では、ステップ(c)における該クエンチャーの濃度の減少には、不活化中に使用される溶液を除去すること、および最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、もしくは4の任意の溶液、または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/またはマンニトールを含む添加剤溶液などの本明細書に記載の任意の溶液)を添加することが含まれる。
【0078】
一部の実施形態では、本発明は、赤血球組成物を処理する方法であって、a)i)反応性求電子性基であるかまたは反応性求電子性基を形成する官能基を含む病原体不活化化合物(例えば、もし存在するとすれば病原体を不活化するための有効量の病原体不活化化合物)(例えば、S−303)と、ii)該病原体不活化化合物の反応性求電子性基と反応可能なチオール基を含むクエンチャー(例えば、有効量のクエンチャー)(例えばグルタチオン)と、iii)赤血球含有組成物と、iv)好適な塩基(例えばNaOH)とを混合するステップ、およびb)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管する(例えば、4℃で10、28、または42日後)ことから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャーの濃度を十分に減少させるステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、該混合物は、約0.5〜1.5当量の塩基(または約0.75〜1.25当量)を含み、ここで当量とは、該混合物中のクエンチャーのモル量と等しいモル量を意味し、および/またはステップ(a)の結果として生じる混合物は、37℃で約6.0〜7.5(または、約6.5〜7.0もしくは7.1)のpHを有する。一部の実施形態では、ステップ(a)の塩基は、結果として生じる混合物における、該処理された赤血球組成物に結合する抗病原体不活化化合物抗体のレベルを、該塩基無しの混合物と比べて、少なくとも約5%(または、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%)低減するのに十分な量である。一部の実施形態では、該クエンチャー濃度は、約5mM〜約30mM(または、約15mM〜約25mM)であり、および/またはステップ(b)の結果として生じる混合物中の該クエンチャーは、約10mM未満(または約6mM未満、または約2mM未満)の濃度である。一部の実施形態では、ステップ(a)の結果として生じる混合物中の該病原体不活化化合物の濃度は、約0.1μM〜約5mMであり、および/または該赤血球組成物中における、もし存在するとすれば少なくとも1log(または3log)の病原体を不活化するのに十分である。一部の実施形態では、ステップ(a)とステップ(b)との間の時間は、約1〜48時間(または、15〜25時間)である。一部の実施形態では、ステップ(a)の20時間後、結果として生じる混合物の赤血球(RBC)は、同一条件下の同一方法に由来するが塩基を使用しない赤血球のABC値と比較して、65%未満の抗体結合能(ABC)を示し、および/または約50,000未満(または、約25,000と70,000との間)の平均ABCを示し、および/またはステップ(b)後(または、4℃で28日もしくは42日間の保管後)に1%未満の溶血を示し、および/またはステップ(b)後(または、4℃で28日もしくは42日間の保管後)に50%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示し、および/またはステップ(b)後、4℃で28(または42)日後に140(または150)を超えるメジアン血球脆弱性値を示す。これら実施形態の一部では、ステップ(b)における該クエンチャーの濃度の減少には、不活化中に使用される溶液を除去すること、および最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、もしくは4の任意の溶液、または塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、グアノシン、シトレート、および/またはマンニトールを含む添加剤溶液などの本明細書に記載の任意の溶液)を添加することが含まれる。
【0079】
一部の実施形態では、本発明は、赤血球の脱水を低減する方法であって、a)i)病原体不活化化合物と反応可能なクエンチャー(例えば、グルタチオン)とii)赤血球を含む赤血球組成物とを提供するステップ、およびb)元の濃度のクエンチャーで該混合物を保管する(例えば、4℃で10、28、もしくは42日間の保管後)ことから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、該混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、該混合物中の該クエンチャー濃度を十分に減少させるステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、ステップ(b)の結果として生じる混合物中の該クエンチャーは、約10mM未満(または約6mM未満、または約2mM未満)の濃度である。一部の実施形態では、結果として生じる混合物の赤血球(RBC)は、ステップ(b)後(または、4℃で28日もしくは42日間の保管後)に1%未満の溶血を示し、および/またはステップ(b)後(または、4℃で28日または42日間の保管後)に50%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示し、および/またはステップ(b)後、4℃で28(または、42)日後に140(または、150)を超えるメジアン血球脆弱性値を示す。
【0080】
本発明の方法には、病原体不活化化合物およびクエンチャーのex vivo使用が含まれる。該ex vivo使用には、該化合物を、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物の外部で赤血球組成物を処理するために使用することが伴い、該処理された生物材料は、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物の内部で使用するためのものである。例えば、ヒトから血液を取り出すこと、および化合物をその血液に導入して病原体を不活化することは、該血液がそのヒトまたは別のヒトへの再導入を目的としている場合、該化合物のex vivo使用として定義される。そのヒトまたは別のヒトへの該ヒト血液の再導入は、該化合物のex vivo使用とは対照的に、血液のin vivo使用になるだろう。該ヒトへの再導入の際に、該化合物が依然として該血液中に存在する場合、該化合物は、そのex vivo使用に加えて、in vivoでも導入される。該赤血球組成物がin vivo使用である場合、本発明の一部の実施形態には、クエンチャーのex vivo使用が伴う。一部の例では、ある程度のレベルのクエンチャーが該赤血球組成物に残り、その結果該クエンチャーはin vivoでも導入される。該物質または化合物のin vitro使用には、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物の外部で該物質または化合物を使用することを伴い、該物質または化合物は、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物への再導入を目的としていない。in vitro使用の一例は、赤血球試料の成分の診断用分析であろう。該赤血球または他の成分の修飾が、該血液試料の成分のin vitro分析に影響を及ぼし得るため、本発明の方法は、該赤血球組成物のin vitro使用に応用され得る。したがって、本発明の方法は、そうでなければ試料の診断検査を妨害し得る試料の修飾を適切にクエンチングすることにより、かかるin vitro試料の取扱いに安全性を提供し得る。
【0081】
塩および/または緩衝溶液を含む添加剤溶液は、本明細書に記載の方法および赤血球組成物と共に使用され得る。例えば、選択された緩衝液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、および/または4に記載の任意の溶液)は、不活化期間の前、期間中、および/または期間後、および/または該クエンチャー濃度が減少された時点で、該赤血球組成物に添加され得る。
【0082】
濃縮赤血球を使用する不活化方法
一部の実施形態では、濃縮赤血球(pRBC)(例えば、添加剤溶液を欠如しており、および/または約70〜90%もしくは約75〜85%の範囲内にあるか、もしくは約80%のヘマトクリットを示す赤血球)を、本明細書に記載の不活化法(例えば、該組成物が、約1当量の塩基および約0.2mMのS−303を有する約20mMのGSHを含む方法)に供し、その後、添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または本明細書もしくは表2に記載の任意の溶液)中に供される(ある場合、保存される)。添加剤溶液の例は、表2に示されており、本明細書に記載されている。これらの実施形態の一部では、該添加剤溶液(例えば、本明細書または表2に記載の任意の溶液)は、該病原体不活化化合物(例えば、S−303)および/またはクエンチャー(例えば、GSH)を添加した約5分〜20時間後に、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む該赤血球組成物に添加される。一部の実施形態では、添加剤溶液は、該病原体不活化化合物(例えば、S−303)および/またはクエンチャー(例えば、GSH)を添加した約5分〜10時間、または約5分〜5時間、または約5分〜60分、または約5分〜30分、または約10分〜20分、または約15分後に、該RBC組成物に添加される。一部の実施形態では、該クエンチャーの濃度は、該添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または本明細書もしくは表2に記載の任意の溶液)を添加した後で、本明細書に記載のように減少される。例えば、pRBCは、本明細書に記載の不活化法で処理され(例えば、該組成物が、約20mMのGSH、約1当量の塩基、および約0.2mMのS−303を含む処理)、その後、該病原体不活化化合物および/または該クエンチャーを添加した後の特定の時間(約5分〜5時間、または約10分〜20分、または約15分など)に、添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または本明細書もしくは表2に記載の任意の溶液)で処理され、その後、該クエンチャー濃度が、本明細書に記載のように(例えば、約10mM未満に、または約5mM未満に)減少される。これらの実施形態の一部では、該クエンチャー濃度を減少させることには、処理溶液および/または添加剤溶液を除去し、その後最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または本明細書もしくは表2に記載の任意の溶液)を添加して、例えば約50〜70%または約55〜65%の範囲内にあるかまたは約60%のヘマトクリットを示す赤血球組成物を提供することが含まれる。一部の実施形態では、不活化前および/または不活化中の該赤血球組成物の塩化物イオンの濃度は、約150mM、または約120mM、または約100mM、または約90mM、または約80mM、または約70mM、または約60mM、または約50mM、約40mM、約30mM、または約20mM、約10mMを超えるかまたは未満であり、または約25〜250mM、または約40〜100mM、または約50〜75mM、または約60〜70mM、または約65mMである。
【0083】
一部の実施形態では、本明細書で参照される添加剤溶液(例えば、該クエンチャー濃度を減少させる前および/または減少させた後で投与される添加剤溶液)は、下記成分の1つまたは複数を含む:デキストロース、アデニン、グアノシン、マンニトール、シトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)、クエン酸、ホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)、およびクロライド(例えば、塩化ナトリウムに由来する)。一部の実施形態では、該添加剤溶液のデキストロースの濃度および/または置換後(例えば、輸血前)の該RBC組成物のデキストロースの終濃度は、約10mMから約150mM、または約20mM〜約120mM、または約25mM〜約100mM、または約30mM〜約75mM、または約40mM〜約50mMの濃度である。一部の実施形態では、該添加剤溶液のアデニンの濃度および/または置換後(例えば、輸血前)の該RBC組成物のアデニンの終濃度は、約0.5mM〜約5mM、または約0.75mM〜約3mM、または約1mM〜約2.5mMの濃度である。一部の実施形態では、該添加剤溶液のグアノシンの濃度および/または置換後(例えば、輸血前)の該RBC組成物のグアノシンの終濃度は、約0.5mM〜約5mM、または約0.75mM〜約3mM、または約1mM〜約2.5mM、または約1.5mM〜約2mMの濃度である。一部の実施形態では、該添加剤溶液のマンニトールの濃度および/または置換後(例えば、輸血前)の該RBC組成物のマンニトールの終濃度は、約10mM〜約150mM、または約20mM〜約120mM、または約25mM〜約100mM、または約30mM〜約75mM、または約40mM〜約50mM、または約35mM〜約45mMの濃度である。一部の実施形態では、該添加剤溶液のシトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)の濃度および/または置換後(例えば、輸血前)の該RBC組成物のシトレートの終濃度は、約5mM〜約100mM、または約10mM〜約75mM、または約15mM〜約50mM、または約15mM〜約35mM、または約20mM〜約30mMの濃度である。一部の実施形態では、該添加剤溶液のホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)の濃度および/または置換後(例えば、輸血前)の該RBC組成物のホスフェートの終濃度は、約1mM〜約150mM、または約2mM〜約100mM、または約3mM〜約75mM、または約4mM〜約50mM、または約5mM〜約25mM、または約10mM〜約20mMの濃度である。一部の実施形態では、該添加剤溶液のクロライド濃度および/または置換後(例えば、輸血前)の該RBC組成物のクロライドの終濃度は、約500mM、または約250mM、または約200mM、または約150mM、または約100mM、約75mM、または約50mM、または約25mMを超えるかまたは未満であるか、または約25〜約250mM、または約40〜約100mM、または約50〜約75mM、または約60〜約70mM、または約100〜約200mM、または約125mM〜約175mM、または約150mMである。
【0084】
一部の実施形態では、本明細書で参照される添加剤溶液(例えば、該クエンチャー濃度が減少される前および/または後で投与される添加剤溶液)および/または置換後(例えば、輸血前)の該最終RBC組成物は、10mM〜約150mM(または、約50mM〜約90mM)のデキストロース、0.5mM〜約5mM(または、約0.75mM〜約3mM)のアデニン、約10mM〜約150mM(または、約25mM〜約100mM)のマンニトール、約10mM〜約75mM(または、約15mM〜約50mM)のシトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)、約3mM〜約75mM(または、約5mM〜約25mM)のホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)、および約50〜約250mMまたは(約100〜約175mM)のクロライドを含む。
【0085】
【表2】

希釈赤血球を使用する不活化方法
本明細書に記載の赤血球組成物は、不活化前に希釈することができる。該赤血球を希釈剤に供することにより、本明細書に記載の方法による不活化に好適なレベルにまで、溶解されている種(例えば、Clなどの塩)の濃度を減少させることができる。希釈剤溶液の例は、本明細書に記載されており、表3に示されている。一部の実施形態では、非濃縮赤血球(例えば、約50〜70%、約55〜65%、または約60%の範囲内にあるヘマトクリットを示し、随意にSAG−MまたはOptisolを含む赤血球)を、本明細書に記載の不活化法(例えば、該組成物が、約1当量の塩基および約0.2mMのS−303を有する約20mMのGSHを含む方法)の前に、希釈剤溶液(例えば、本明細書または表3に記載の任意の溶液)に供し、その後該クエンチャー濃度を本明細書に記載のように(例えば、約10mM未満に、または約5mM未満に)減少させる。これらの実施形態の一部では、該クエンチャー濃度を減少させることには、処理溶液(例えば、希釈処理溶液)を除去し、その後最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または上述のもしくは表2に記載の任意の溶液)を添加して、例えば約50〜70%または約55〜65%の範囲内にあるかまたは約60%のヘマトクリットを示す赤血球組成物を提供することが含まれる。一部の実施形態では、不活化前の該赤血球組成物の塩化物イオンの濃度は、約150mM、または約120mM、または約100mM、または約90mM、約80mM、または約70mM、または約60mM、または約50mM、約40mM、約30mM、または約20mM、約10mMを超えてまたは未満に、または約25〜250mM、または約40〜100mM、または約50〜75mM、または約60〜70mM、または約65mMに希釈される。一部の実施形態では、該RBC溶液に添加される希釈剤溶液の量(容積による)は、RBC溶液の量の約0.2〜2倍、または約0.3〜1.5倍、または約0.4〜1倍、または約0.5〜0.75倍である。これらの実施形態の一部では、該赤血球組成物は、希釈剤溶液(例えば、本明細書または表3に記載の任意の溶液)で、約30〜50%、または約35〜45%の範囲内にあるかまたは約40%のヘマトクリットレベルに希釈される。
【0086】
一部の実施形態では、本明細書で参照される希釈剤溶液は、下記成分の1つまたは複数を含む:デキストロース、アデニン、マンニトール、シトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)、クエン酸、ホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)、およびクロライド(例えば、塩化ナトリウムに由来する)。一部の実施形態では、該希釈剤溶液のデキストロースの濃度および/または該希釈剤溶液による希釈後の該RBC組成物のデキストロースの終濃度は、約10mM〜約150mM、または約20mM〜約120mM、または約25mM〜約100mM、または約30mM〜約75mM、または約40mM〜約50mM、または約50mM〜約60mMの濃度である。一部の実施形態では、該希釈剤溶液のアデニンの濃度および/または該希釈剤溶液による希釈後の該RBC組成物のアデニンの終濃度は、約0.5mM〜約5mM、または約0.75mM〜約3mM、または約1mM〜約2.5mMである。一部の実施形態では、該希釈剤溶液のマンニトールの濃度および/または希釈後の該RBC組成物のマンニトールの終濃度は、約10mM〜約150mM、または約20mM〜約120mM、または約25mM〜約100mM、または約30mM〜約75mM、または約40mM〜約60mM、または約25mM〜約35mMである。一部の実施形態では、該希釈剤溶液のシトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)の濃度および/または該希釈剤溶液による希釈後の該RBC組成物のシトレートの終濃度は、約5mM〜約100mM、または約10mM〜約75mM、または約15mM〜約50mM、または約15mM〜約35mM、または約20mM〜約30mMである。一部の実施形態では、該希釈剤溶液のホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)の濃度および/または該希釈剤溶液による希釈後の該RBC組成物のホスフェートの終濃度は、約1mM〜約150mM、または約2mM〜約100mM、または約3mM〜約75mM、または約4mM〜約50mM、または約5mM〜約25mM、または約10mM〜約20mMである。一部の実施形態では、該希釈剤溶液のおよび/または該希釈剤溶液による希釈後のクロライド濃度は、約500mM、または約250mM、または約200mM、または約150mM、または約120mM、または約100mM、または約90mM、または約80mM、または約70mM、または約60mM、または約50mM、または約40mM、または約30mM、または約20mM、約10mMを超えるかまたは未満であるか、または約25〜約250mM、または約40〜約100mM、または約50〜約75mM、または約60〜約70mM、または約100〜約200mM、または約125mM〜約175mMである。
【0087】
一部の実施形態では、本明細書で参照される該希釈剤溶液および/または該希釈剤溶液で希釈後の該RBC組成物は、10mM〜約150mM(または、約35mM〜約65mM)のデキストロース、0.5mM〜約5mM(または、約0.75mM〜約3mM)のアデニン、約10mM〜約150mM(または、約25mM〜約75mM)のマンニトール、約10mM〜約75mM(または、約15mM〜約50mM)のシトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)、約3mM〜約75mM(または、約5mM〜約25mM)のホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)、および約5〜約50mM、または(約10〜25mM)のクロライドを含む。
【0088】
一部の実施形態では、非濃縮赤血球を、本明細書に記載の不活化法の前に希釈剤溶液(例えば、上述のまたは表3の任意の溶液)に供し、その後該クエンチャー濃度を本明細書に記載のように減少させ、その後、最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または上述のもしくは表2の任意の溶液)で処理して、使用に好適な(例えば、輸血に好適な)RBC組成物を提供する。一部の実施形態では、該最終添加剤溶液は、本明細書に記載の任意の添加剤溶液、例えば、クロライドの濃度(および/または、輸血前など置換後の該RBC組成物中のクロライドの終濃度)が、約500mM、または約250mM、または約200mM、または約150mM、または約100mM、約75mM、または約50mM、または約25mM未満であるか、または約25〜250mM、または40〜100mM、または約50〜75mM、または約60〜70mM、または約100〜200mM、または約125mMおよび175mM、または約150mMである添加剤溶液であり得る。
【0089】
【表3】

再構成濃縮赤血球を使用する不活化方法
一部の実施形態では、濃縮赤血球(pRBC)(例えば、約70〜90%または約75〜85%の範囲内にあるかまたは約80%のヘマトクリットを示す赤血球)を、本明細書に記載の不活化法(例えば、該組成物が、約1当量の塩基および約0.2mMのS−303を有する約20mMのGSHを含む方法)の前に、処理溶液に供する。処理溶液の例は、表4に示されている。一部の実施形態では、該処理溶液(例えば、表4に記載の任意の溶液)は、該クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を添加する前に、該pRBCに添加される。これらの実施形態の一部では、該pRBC組成物は、非濃縮赤血球(例えば、50〜70%または約55〜65%の範囲内にあるかまたは約60%のヘマトクリットを示す赤血球)をもたらす処理溶液で処理される。一部の実施形態では、(a)処理溶液がpRBCに添加され、(b)本明細書に記載の不活化法(例えば、該組成物が約1当量の塩基および約0.2mMのS−303を有する約20mMのGSHを含む方法)が実施され、および(c)該クエンチャーの濃度が、本明細書に記載のように(例えば、約10mM未満または約5mM未満に)減少される。これらの実施形態の一部では、ステップ(c)は、該処理溶液の除去および最終添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、もしくは4の任意の溶液などの本明細書に記載の任意の溶液)の添加を含み、例えば、約50〜70%または約55〜65%の範囲内にあるかまたは約60%のヘマトクリットを示す赤血球組成物をもたらす。これらの実施形態の一部では、不活化前および/または不活化中の該赤血球組成物の塩化物イオンの濃度は、約150mM、または約120mM、または約100mM、または約90mM、約80mM、または約70mM、または約60mM、または約50mM、約40mM、約30mM、または約20mM、約10mMを超えるかまたは未満、または約25〜250mM、または約40〜100mM、または約50〜75mM、または約60〜70mM、または約65mMである。
【0090】
一部の実施形態では、本明細書で参照される処理溶液は、下記成分の1つまたは複数を含む:デキストロース、アデニン、マンニトール、シトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)、クエン酸、ホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)、およびクロライド(例えば、塩化ナトリウムに由来する)。一部の実施形態では、該処理溶液のデキストロースの濃度および/または該RBC組成物中の該処理溶液を除去した後の該添加剤溶液中のデキストロースの濃度は、約10mM〜約150mM、または約20mM〜約120mM、または約25mM〜約100mM、または約30mM〜約75mM、または約40mM〜約50mM、または約50mM〜約60mMである。一部の実施形態では、該処理溶液のアデニンの濃度および/または該RBC組成物中の該処理溶液を除去した後の該添加剤溶液中のアデニンの濃度は、約0.5mM〜約5mM、または約0.75mM〜約3mM、または約1mM〜約2.5mMである。一部の実施形態では、該処理溶液のマンニトールの濃度および/または該RBC組成物中の該処理溶液を除去した後の該添加剤溶液中のマンニトールの濃度は、約10mM〜約150mM、または約20mM〜約120mM、または約25mM〜約100mM、または約30mM〜約75mM、または約40mM〜約60mMである。一部の実施形態では、該処理溶液のシトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)の濃度および/または該RBC組成物中の該処理溶液を除去した後の該添加剤溶液中のシトレートの濃度は、約1mM〜約100mM、または約2mM〜約75mM、または約5mM〜約50mM、または約7.5mM〜約25mM、または約10mM〜約15mMである。一部の実施形態では、該処理溶液のホスフェート(NaHPOおよび/またはNaHPO)の濃度および/または該RBC組成物中の該処理溶液を除去した後の該添加剤溶液中のホスフェートの濃度は、約1mM〜約150mM、または約2mM〜約100mM、または約3mM〜約75mM、または約4mM〜約50mM、または約5mM〜約25mM、または約10mM〜約20mMである。一部の実施形態では、該処理溶液のクロライド濃度および/または該RBC組成物中の該処理溶液を除去した後の該添加剤溶液中のクロライド濃度は、約250mM、または約200mM、または約150mM、または約120mM、または約100mM、または約90mM、または約80mM、または約70mM、または約60mM、または約50mM、または約40mM、または約30mM、または約20mM、約10mMからであるか、または約25〜約250mM、または約40〜約100mM、または約50〜約75mM、または約60〜約70mM、または約100〜約200mM、または約125mM〜約175mMである。
【0091】
一部の実施形態では、該処理溶液および/または該RBC組成物中の該処理溶液を除去した後の該添加剤溶液は、10mM〜約150mM(または、約35mM〜約65mM)のデキストロース、0.5mM〜約5mM(または、約0.75mM〜約3mM)のアデニン、約10mM〜約150mM(または、約25mM〜約75mM)のマンニトール、約5mM〜約75mM(または、約10mM〜約20mM)のシトレート(例えば、クエン酸ナトリウム)、約3mM〜約75mM(または、約5mM〜約25mM)のホスフェート(例えば、NaHPOおよび/またはNaHPO)、および約5〜100mM、または(約25〜75mM)のクロライドを含む。
【0092】
【表4】

方法の有効性の評価
上記で考察したようにlog不活化を比較することに加えて、該改善されたクエンチング法の有効性は、その内容の全体が本明細書に参考として援用される米国特許公開第2006/0115466号明細書に記載のような、いくつかの他の方法により評価され得る。例えば、該クエンチング法は、該赤血球組成物の修飾を該赤血球の機能、形態、および水和状態の観点で、および該処理された赤血球と抗体などの免疫系との反応性の観点から評価することにより、評価され得る。該処理された赤血球組成物が、注入などのヒト使用を目的とする場合、該クエンチング法は、赤血球機能を(例えば脱水により)実質的に損傷するべきでない。赤血球機能に対する有害効果の実質的な欠如は、赤血球機能検査の技術分野で公知の方法により測定され得る。特に、脱水レベルは、例えば、ヘマトクリット(赤血球沈殿容積、PCV)、浸透圧脆弱性、平均ヘモグロビン濃度(MCHC)、溶血パーセント、およびエクタサイトメトリー(ektacytometry)により測定することができる。ATP(アデノシン5’−3リン酸)、総2,3−DPG(2,3−ジホスホグリセロール)、または細胞外カリウムなどの、他の機能指標のレベルを測定し、未処理対照と比較することができる。加えて、細胞内および細胞外pH、ヘモグロビン、グルコース消費、および乳酸(lactate)産生を測定してもよい。本発明の改善された方法は、米国特許公開第2006/0115466号明細書にある以前に記載された処理条件(例えば、本明細書に記載のインキュベーション後にクエンチャー濃度を低減させずに該S−303/赤血球混合物と組み合わせて完全にクエンチングされた(2塩基当量の)20mMグルタチオン)と比較することができる。
【0093】
本発明の一部の実施形態では、本明細書に記載の方法および組成物の赤血球は、処理後に損傷(例えば、脱水、溶血など)を最小限に示すかまたは損傷を示さない。一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む結果として生じる混合物の赤血球(該クエンチャー濃度の低減前または低減後)は、4%未満、または3%未満、または2%未満、1%未満の溶血、または0.5%未満の溶血を示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物の赤血球は、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度低減の4℃で約10日後、または4℃で約28日もしくは42日後、または4℃で約42日後の時点で、4%未満、または3%未満、または2%未満、または1%未満、または0.5%未満の溶血を示す。
【0094】
一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む結果として生じる混合物の赤血球(該クエンチャー濃度の低減前または低減後)は、50%を超える、または55%を超える、または60%を超える、または65%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物の赤血球は、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度低減の4℃で約10日後、または4℃で約28日もしくは42日後、または4℃で約42日後の時点で、50%を超える、または55%を超える、または60%を超える、または65%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を示す。
【0095】
一部の実施形態では、該赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物、および任意の添加塩基を含む結果として生じる混合物の赤血球(該クエンチャー濃度の低減前または低減後)は、130を超える、または135を超える、または140を超える、または145を超える、または150を超える、または155を超えるメジアン血球脆弱性(MCF;50%の溶血が生じる容量オスモル濃度)を示す。一部の実施形態では、結果として生じる混合物の赤血球は、該クエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度低減の4℃で約10日後、または4℃で約28日もしくは42日後、または4℃で約42日後の時点で、130を超える、または135を超える、140を超える、または145を超える、または150を超える、または155を超えるメジアン血球脆弱性(MCF)を示す。
【0096】
ATP、2,3−DPG、グルコース、ヘモグロビン、溶血、およびカリウムを決定する方法は、当技術分野で利用可能であり、本明細書の実験セクションに記載されている。例えば、その開示が本明細書中に援用されるDaveyら、Transfusion、32巻:525〜528頁(1992年)を参照されたい。赤血球機能を決定する方法は、Greenwaltら、Vox Sang、58巻:94〜99頁(1990年);Hogmanら、Vox Sang、65巻:271〜278頁(1993年);およびBeutlerら、Blood、59巻(1982年)にも記載されており、それらの開示は本明細書中に参照により援用される。例えば、総ATPおよび総2,3−DPGは、Sigma社製ATPキットまたは2,3−DPGキット(Sigma社製、セントルイス、米国ミズーリ州)を使用して測定され得る。該ATPキットは、その開示が本明細書中に参照により援用されるSigma社の手順、第366−UVに従って使用され得る。総ATPは、ルシフェラーゼに基づく酵素アッセイまたはBeutler(1984年)により記載のプロトコールを使用して測定され得る。細胞外カリウムレベルは、Ciba Corning社製614型K/Naアナライザー(Ciba Corning Diagnostics社製、メドフォード、米国マサチューセッツ州)を使用して測定され得る。細胞外pHは、12,000×gで15分間4℃で細胞を遠心分離し、上清を取り除くことにより測定され得、そのpHは、室温で標準的pH計(例えば、Beckman社製、エポキシカロメル電極)を使用して測定され得る。細胞内pHの場合、残留ペレットを、遠心分離チューブに入れて蓋をして、少なくとも2時間約−80℃で保管することができる。その後、脱イオン水を添加することにより、これを溶解することができる。溶解試料を十分に混合することができ、溶液のpHは、室温で標準的pH計を使用して、または室温でCiba Corning社製238型血液ガスアナライザー(Ciba Corning Diagnostics社製、メドフォード、米国マサチューセッツ州)を使用してのいずれででも測定され得る。測定は、処理のすぐ後で行うことができ、例えば42日までの保管など、処理後保管の関数として行うことができる。本発明の方法は、該処理された赤血球の溶血が、28日間の保管後に3%未満、好ましくは42日間の保管後に2%未満、もっとも好ましくは4℃で42日間の保管後に1%未満または1%と等しい赤血球組成物を提供する。一部の実施形態では、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのS−303を使用して処理された赤血球組成物と比較した際に、総ATPレベルがより高レベルであり得る赤血球組成物(例えば、本明細書に記載の方法のいずれかを使用した赤血球組成物)が提供される。一部の実施形態では、本明細書に記載のクエンチング法は、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのS−303を使用した方法に由来する組成物と比較した際に、約20%、また30%、また40%、または約50%、より高いATPレベルを有する赤血球組成物を提供する。一部の実施形態では、より高いATPレベルは、7、14、21、28、35、または42日間の保管後で維持されている。一部の実施形態では、より高いレベルのATPは、保管中に減少する。
【0097】
本発明の一部の実施形態では、本明細書に記載の方法および組成物には、該赤血球が、該病原体不活化化合物に由来する望ましくない副反応(例えば、該RBC表面への該病原体不活化化合物の結合)数の減少を示す赤血球組成物が含まれる。一部の実施形態では、該副反応は、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の修飾である。本発明の方法における赤血球修飾の低減は、その内容が本明細書中に参照により援用される米国特許公開第2006/0115466号明細書に記載のものなどの、当技術分野で公知のいくつかのアッセイにより評価することができる。該RBC表面に結合されたアクリジンの定量化は、本明細書に記載の高感度蛍光活性化免疫フローサイトメトリーアッセイ(sensitive fluorescence−activated immune flow cytometric assay)(IFC)を使用しても決定され得る。
【0098】
蛍光検出アッセイに関して、本発明のクエンチング法は、塩基を使用しない同じ処理と比較した際に(例えば、中和グルタチオンを使用した方法が、非中和グルタチオンを使用した同じ方法と比較される)、少なくとも10%、また少なくとも25%、また少なくとも50%、また少なくとも75%、または少なくとも90%のメジアン蛍光の低減をもたらし得る。例えば、塩基の使用を伴う記載の組成物のいずれか(例えば、約15〜25mMのグルタチオン、約0.5〜1.5当量の塩基、および約0.2mMのS−303を含む赤血球組成物)を使用した本発明のクエンチング法は、同一だが塩基を使用しない組成物(例えば、約15〜25mMのグルタチオンおよび約0.2mMのS−303を含むが塩基を有していない赤血球組成物)と比較した際に、より低レベルのメジアン蛍光をもたらし得る。
【0099】
本発明のクエンチング法および組成物で該RBC表面に結合された病原体不活化化合物のレベルは、抗体結合能(ABC;Bangs Laboratories社製;フィッシャー、米国インディアナ州の検定ビーズ(calibration bead)の使用により決定されるような、1赤血球当たりの病原体不活化化合物またはその誘導体の分子数、実施例5および9を参照)の点でも測定され得、それには、アロフィコシアニン(APC)に結合されたマウスモノクローナル抗アクリジン抗体、およびFACS−Caliberフローサイトメーター(BD Biosciences社)が関与している。本発明の方法および組成物のいずれかの一部の実施形態では、該RBCは、約75,000未満、または約70,000未満、または約60,000未満、または約55,000未満、または約52,500未満、または約50,000未満、または約47,500未満、または約45,000未満、または約42,500未満、または約40,000未満、または約37,500未満、または約35,000未満、または約32,500未満、または約30,000未満、または約27,500未満、または約25,000未満の平均ABC値を示す。一部の実施形態では、該RBCは、約10,000〜80,000、または約20,000〜70,000、または約25,000〜70,000、または約25,000〜60,000、または約30,000〜50,000、または約35,000〜45,000の平均ABC値を示す。一部の実施形態では、本明細書に記載の方法は、クエンチャーおよび塩基(例えば、中和グルタチオン)によるかかる類似処理と比較した際に、塩基で処理されていないRBC組成物(例えば、中和されていないグルタチオン)を使用した同一の方法と比較して、90%未満、また75%未満、また65%未満、また55%未満、また45%未満、また35%未満、また25%未満、または10%未満のABC値をもたらし得る。
【0100】
本発明のクエンチング法は、試料中の核酸の修飾レベルを決定することにより既存の方法と比較することもできる。典型的には、赤血球組成物は、白血球を含有していてもよく、該白血球に由来する核酸は単離することができる。放射性同位体を有する病原体不活化化合物は、該化合物と核酸との反応の際に、核酸と結合したままであろう。これを利用して、核酸と反応した化合物の量を様々なクエンチング法について評価することができ、予測される白血球不活化と直接相関し得る尺度が提供される。1,000個の核酸塩基対当たりの形成されたS−303付加物の数は、種々の方法の病原体不活化に対する予測される効果を評価するためのモデルとして使用することができる。あるいは、好適な量の病原体を赤血球組成物に添加することができ、該病原体の核酸は、処理後に単離することができる。しかしながら、この場合、該試料は、いかなる残留白血球のレベルも病原体核酸の測定を妨害しないように、白血球除去される必要がある。
【0101】
望ましくない副反応(例えば、望まれない免疫応答に結びつき得る、該RBC表面への該病原体不活化化合物の結合)および脱水のレベルを低減させつつ、適切な病原体不活化を提供することに加えて、本発明のクエンチング法は、少なくとも一部の実施形態では、病原体不活化後に反応性求電子種の濃度低減も提供する。該赤血球組成物が注入を目的としている場合、反応性求電子種のレベルは、可能な限り低く、好ましくはもはや実質的に検出可能でないことが重要である。反応性求電子種の存在は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC−MS−MS)を含むクロマトグラフィー法などの、当技術分野で利用可能な方法を使用して決定され得る。加えて、試料の残存活性は、Mattes(Mattes, WR、Anal. Biochem. 1992年10月;206巻(1号):161〜7頁)に記載されている一般的なアルキル化剤アッセイの使用など、核酸のグアニン残基と反応するその能力を評価することにより評価され得る。このアッセイでは、該RBCは、該病原体不活化化合物およびクエンチャーを用いた好適なインキュベーション時間後に抽出される。任意の残留病原体不活化化合物、ならびにクエンチャーおよび他の低分子種は、タンパク質から分離される。その後、これらの種は、8−Hグアニン残基を用いて合成された二本鎖(ds)DNAと共にインキュベートされる。該残留病原体不活化化合物は、グアニンのN7位でds DNAと反応し、それにより8−H残基が酸性化され、該Hが溶液に放出され、そこで該Hを単離および測定することができる。放出されたトリチウムの量は、定量化することができ、試験した抽出試料中に存在する残留アルキル化剤の量と1:1の相関性を示す。これらの方法により決定される求電子種のレベルは、本発明の改善された方法を使用し公知の方法と比較することにより評価することができる。
【0102】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、本方法は、該混合物中の化合物の濃度を低減させるステップをさらに含み、ここで、該化合物は、該病原体不活化化合物および該病原体不活化化合物の分解産物からなる群から選択される。一部の実施形態では、本方法は、該混合物中の該病原体不活化化合物の濃度を減少させるステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、該混合物中の該求電子種の濃度を減少させるステップを含む。血液製剤などの生体試料中の該病原体不活化化合物の濃度は、例えば、バッチまたはフロー除去工程における吸着により、該処理後に低減することができる。使用し得る方法およびデバイスは、米国特許第6,544,727号明細書、第6,331,387号明細書、第6,951,713号明細書、および第7,037,642号明細書、ならびに米国特許出願第2002/0192632号明細書(放棄)および第2001/0009756号明細書(放棄)に記載されており、それらの各々の開示は、その全体が本明細書中に参照により援用される。したがって、一部の実施形態では、該病原体不活化化合物の濃度は、該病原体不活化化合物に対する親和性を有する吸着粒子を含む吸着媒体と該混合物を接触させることにより低減される。一部の実施形態では、該吸着システムは、バッチ工程で該病原体不活化化合物を除去するように構成されるだろう。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、化合物吸着デバイスを使用することによっては低減されない。一部の実施形態では、該混合物中の該病原体不活化化合物の濃度は、当技術分野で公知の技術を使用して赤血球を洗浄することにより低減される。一部の実施形態では、該混合物中の該病原体不活化化合物の濃度は、該処理溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、および/または4に記載の任意の溶液)の一部またはすべてを、本明細書に記載の方法により、および/または当技術分野で公知の方法により(例えば、遠心分離および圧出デバイス、またはTerumo(登録商法)社製のTACSIなどの遠心分離および圧出器の組み合わせを使用して)除去することによって低減される。一部の実施形態では、該混合物中の該病原体不活化化合物の濃度は、該処理溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2、3、および/または4に記載の任意の溶液)の一部またはすべてを除去し、その後添加剤溶液(例えば、SAG−M、AS−5、または表2に記載の任意の溶液)を該混合物に添加することによって低減される。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物の濃度は、該クエンチャーの濃度の低減と同時に低減される。
【0103】
処理された血液組成物
一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の処理方法の各々に起因する赤血球組成物も提供する。一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の処理方法の各々により調製可能な赤血球組成物も提供する。一実施態様において、本発明は、a)病原体不活化化合物の求電子性基と共有結合で反応した赤血球、およびb)該病原体不活化化合物と反応可能であるチオール基を含むクエンチャーを含む組成物を提供し、該組成物は、4℃で28日または42日間保管した後でヒトに注入するのに好適である。
【0104】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、該赤血球組成物中の赤血球は、哺乳動物血球である。例えば、該赤血球は、げっ歯動物(例えば、マウスまたはラット)、イヌ、ウサギ目の動物(例えば、ウサギ)、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー)、またはヒトの赤血球であり得る。例えば、一部の実施形態では、該赤血球はヒトである。一部の実施形態では、該赤血球組成物は、白血球除去されている。他の一部の実施形態では、該赤血球は、白血球除去されていない。一部の実施形態では、該赤血球含有組成物は、病原体で汚染されている可能性がある。一部の実施形態では、該赤血球組成物は、病原体で汚染されている。一部の実施形態では、もし存在するとすれば、該組成物中の病原体の少なくとも1log、または少なくとも2log、または少なくとも3log、または少なくとも4logが不活化される。
【0105】
一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のように、該赤血球が、該病原体不活化化合物(例えば、S−303)で修飾された赤血球組成物を包含する。一部の実施形態では、本方法の処理により生成された赤血球組成物は、該病原体不活化化合物の分解産物(例えば、該クエンチャーと該病原体不活化化合物との反応産物)を含む。一部の実施形態では、該修飾は、病原体不活化化合物の求電子性基と該赤血球表面との反応である。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、該赤血球表面に共有結合で結合される。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、該赤血球表面上の1つまたは複数のタンパク質と共有結合で結合される。一部の実施形態では、該修飾は、該赤血球の求核性基と該病原体不活化化合物の求電子性基との反応であり、ここで、該求電子性基はマスタード基であり、該求核性基は、該マスタード基の1つまたは複数の塩素原子を置換する。一部の実施形態では、該病原体不活化化合物は、該赤血球表面に非共有結合で結合される。一部の実施形態では、該RBC組成物は、75,000未満、または70,000未満、または60,000未満、または55,000未満、または52,500未満、または50,000未満、または47,500未満、または45,000未満、または42,500未満、または40,000未満、または37,500未満、または35,000未満、または32,500未満、または30,000未満、または27,500未満、または25,000未満の平均ABC値を示す。一部の実施形態では、該RBCは、約10,000〜80,000、または約20,000〜70,000、または約25,000〜70,000、または約25,000〜60,000、または約30,000〜50,000、または約35,000〜45,000の平均ABC値を示す。
【0106】
一部の実施形態では、該赤血球組成物は、該病原体不活化化合物による処理を伴う他の方法により生成された赤血球と比べて、低減されたレベルの、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の修飾を含む。一部の実施形態では、本明細書に記載の方法の処理により生成された赤血球組成物は、該病原体不活化化合物による処理を伴う別の方法(例えば、十分なクエンチャーおよび/または塩基が反応混合物に添加されない方法、クエンチャーおよび/または塩基が反応混合物に添加されず、および/またはより低いpHで処理される方法)により生成された赤血球組成物と比べて、低減された量の、処理完了後に該反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物を含む。一部の実施形態では、該組成物中における該反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物の量は、該病原体不活化化合物を伴う別の方法(例えば、十分なクエンチャーおよび/または塩基が反応混合物に添加されない方法、クエンチャーおよび/または塩基が反応混合物に添加されず、および/またはより低いpHで処理される方法)により処理された組成物と比べて、約10%、約25%、約50%、約75%、約90%、約95%、または約99%低減される。
【0107】
これらの実施形態の一部では、該赤血球組成物は、残留クエンチャー化合物(例えば、グルタチオン)を含む。一部の実施形態では、該組成物は、RBC活性度および寿命を維持し、赤血球脱水を回避し、および/または保管中の浸透圧脆弱性を低減するのに十分な程度に低い濃度のクエンチャーを含む。一部の実施形態では、該組成物は、該組成物中で以前に使用されたクエンチャーより十分に低い濃度のクエンチャーを含む。一部の実施形態では、以前に使用されたより高い濃度のクエンチャーは、RBC活性度および寿命を減少、および/または赤血球脱水を増大、および保管中の浸透圧脆弱性を減少させ、該より低い濃度は、該組成物中で以前に使用されたクエンチャーの濃度より十分に低い。一部の実施形態では、該組成物中の該クエンチャーの濃度は、約25mM未満、約20mM未満、約15mM未満、約10mM未満、約8mM未満、約6mM未満、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、または約1mM未満である。一部の実施形態では、該組成物中の該クエンチャーの濃度は、約1mM〜20mM、約2mM〜15mM、約3mM〜10mM、約4mM〜8mM、または約5mM〜6mMの範囲内である。
【0108】
一部の実施形態では、該組成物は、添加剤溶液(例えば、表2に記載の溶液、または表2に記載の成分の任意の組み合わせを含む溶液)を含む。一部の実施形態では、該組成物は、塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、ホスフェート、および/またはマンニトールを含む。一部の実施形態では、該RBC組成物の塩化物イオンの終濃度(例えば、輸血前)は、約500mM、または約250mM、または約200mM、または約150mM、または約100mM、約75mM、または約50mM、または約25mM未満、または約25〜250mM、または約40〜100mM、または50〜75mM、または約60〜70mM、または約100〜200mM、または約125〜175mM、または約150mMである。
【0109】
一部の実施形態では、該組成物は、4℃で保管した約2日、または約5日、または約10日、または約15日、または約20日、または約28日、または約35日、または約42日後で、個体(例えば、ヒト)に注入するのに好適である。
【0110】
これらの実施形態の一部では、該組成物は、a)細胞表面上で病原体不活化化合物(例えば、S−303)の求電子性基と共有結合で反応し、およびi)60%を超える赤血球沈殿容積(PCV)を有し、および/またはii)約25,000〜70,000(または、約35,000〜45,000)の平均抗体結合能(ABC)を有する赤血球、ならびにb)約8mM未満(または6mM未満、または約2mM未満)の濃度のグルタチオンクエンチャーを含む。一部の実施形態では、もし存在するとすれば、少なくとも3log(または少なくとも1log)の病原体が不活化される。一部の実施形態では、該組成物は、4℃で保管した28日または42日まで、ヒトへの注入に好適である。
【0111】
キット
改善されたクエンチング法に加えて、本発明は、赤血球組成物処理用の使い捨てのキットを供給し、該処理は、手作業で実施してもよく、または自動で実施してもよい。一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の方法の各々で使用される病原体不活化化合物、クエンチャー、および/または塩基を含むキットを提供する。一部の実施形態では、該キットは、本明細書に記載のクエンチャー濃度を減少させた後で使用するための新鮮な溶液(細胞再懸濁用の緩衝液など)を提供する。
【0112】
一部の実施形態では、該キットは、その任意の塩を含むS−303およびその任意の塩を含む中和グルタチオンを含む。S−303は、固体形態であってもよく、または溶液であってもよい。同様に、中和グルタチオンは、固体形態であってもよく、または溶液であってもよい。これらの固体または溶液は、許容され得る賦形剤、アジュバント、希釈剤、または安定化剤をさらに含んでいてもよい。一部の実施形態では、S−303は塩酸塩であり、中和グルタチオンは、約1当量の水酸化ナトリウムで中和されている。一部の実施形態では、S−303および中和グルタチオンは固体形態であり、該キットは、S−303を溶解するのに好適な溶液および中和グルタチオンを溶解するのに好適な溶液をさらに含む。一部の実施形態では、本発明は、病原体不活化化合物、クエンチャー、および該クエンチャーを溶解するための溶液を含むキットを提供し、そこでは、該溶液は該クエンチャーを中和するかまたは部分的に中和する。本明細書で考察された方法およびキットは、混合物としてまたは別々に処方することができる、該病原体不活化化合物およびクエンチャーの任意の好適な医薬製剤を包含する。薬学的に許容され得る製剤は当業者に公知であり、例えば、好適な賦形剤、アジュバント、希釈剤、または安定化剤の例は、Gennaro,編、Remington’s The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Lippincott Williams &Wilkinsに見出すことができる。本発明は、病原体不活化化合物の改善されたクエンチングを達成するために、該組成物が好適なpH領域にある上述のような赤血球、病原体不活化化合物、およびクエンチャーを含む、上述の方法の、結果として生じる組成物も含む。
【0113】
別の実施態様において、本発明は、例えば、赤血球組成物を処理して病原体を不活化するのに有用なキットであって、核酸結合リガンドおよび求電子性基であるかまたは求電子性基を形成する官能基(その任意の塩を含む)を含む病原体不活化化合物と、チオール基(その任意の塩を含む)を含むクエンチャーと、約0.75〜約1.25当量の塩基とを含むキットを提供し、ここで当量とは、該キット中のクエンチャーのモル量と等しいモル量を意味する。一部の実施形態では、該キットは、約1当量の好適な塩基を含む。
【0114】
さらなる別の実施態様において、本発明は、赤血球組成物を処理して病原体を不活化するのに有用なキットであって、その任意の塩を含む核酸結合リガンドおよび求電子性基であるかまたは求電子性基を形成する官能基(例えば、S−303)と、その任意の塩を含む、チオール基を含む中和クエンチャー(例えば、中和グルタチオン)と、本明細書中に記載のクエンチャー濃度を減少させた後で使用するための任意選択の新鮮な溶液(細胞の再懸濁用の緩衝液など)を提供する。一部の実施形態では、該溶液は、本明細書に記載の添加剤溶液、希釈剤溶液、および/または処理溶液(例えば、SAG−M、AS−5、上述のまたは表2、3、および/もしくは4の任意の溶液)である。
【実施例】
【0115】
例、物質、および方法
本発明は、以下の非限定的な例によりさらに説明される。
【0116】
(実施例1)生物調製
例、物質、および方法
これらの研究に使用した細菌株およびウイルス株は、カリフォルニア州保健局またはアメリカ培養細胞系統保存機関のいずれかから取得した臨床分離株であった。
【0117】
細菌:細菌の作業用凍結ストックを、グルコース非添加の50%酵母エキス培地および50%ウシ胎仔血清の混合物を含有する500mLのフラスコに接種した。該フラスコを、37℃に設定した振とう水浴中で終夜インキュベートした。該終夜培養から直接的にグラム陽性細菌を血液産物にスパイクした。該グラム陰性細菌の終夜培養を、新鮮な培地に1:1000希釈することによってさらに継代培養し、光学密度により決定されるような対数期に達するまで、上述のようにインキュベートした。PI実験用に、この対数期増殖を血液産物にスパイクした。
【0118】
ウイルス:無細胞ウイルスストックを、各ウイルスに適切な細胞系を使用して調製した。これらのストックは、PI実験用に解凍されて血液産物に直接スパイクされるまで、−80℃で冷凍されていた。
【0119】
(実施例2)RBCユニットの調製
血液は、採血の当日または採血後3日までのいずれかで、450mLまたは500mL単位の全血として、Cerusに採取した。ほとんどの場合、RBCユニットに処理する前に、該全血を白血球フィルタリング(leukofilter)した。ユニットによっては白血球フィルタリングがうまくいかない場合があり(例えば、鎌状形質を有するドナーに由来する血液)、これらのユニットは、白血球フィルタリングせずに、白血球の内部で生存することが知られていない生物のPI実験用に使用した。
【0120】
白血球フィルタリング後、血液を遠心分離し、血漿を圧出した。その後、AS−3(Nutricel社製)などの所望のRBC添加剤溶液を添加し、結果として生じるRBCユニットを、直ちに使用したか、または使用まで4℃で保管した。
【0121】
(実施例3)病原体不活化(PI)
PI工程には、RBCユニットに試験される生物培養物を接種することが伴う。RBCユニット中の生物の典型的な標的インプット力価は、1mLのRBC当たりおよそ10cfuまたはpfuだった。ほとんどの場合、生物容積(任意の培地を含む)は、RBCユニット容積のおよそ1%であり、典型的には10%を超えなかった。より低く、より生理学的に関連性のある不活化を評価するために、細菌のレベルの、10〜10cfu/単位のインプットを使用した。低レベルインプット研究の場合、2RBCユニットをプールし、スパイクし、その後本明細書に記載のように処理した試験ユニットと、クエンチャー(例えば、GSH)のみが添加された対照ユニット(病原体不活性化剤、例えばS−303非含有)とに分割し、試験ユニットと同じ温度状態下で保存した。
【0122】
RBCユニットに生物を添加した後、該ユニットを、容器の端部を持ち、8の字または自転車ペダルのような動きで、該端部を10回動かすことにより混合した。
【0123】
その後、汚染されたRBCを、RBC PI処理使い捨てセットの混合容器に移した。該セットは、プラスチックチューブによって接続されている一連のプラスチック容器およびポートから構成される。該混合容器は、デュアルポートの600mL容量PL1813プラスチック容器だった。ルアー適合小児科用フィルターが1つの先端部に取り付けられているY型チューブセットが、該ポートの各々に接続されていた。1つのポートの未使用先端部は、別の600mL容量PL1813プラスチック容器(インキュベーション容器)に接続されている。残る未使用先端部は、元のRBCユニットを接続するために使用される管路だった。
【0124】
投与溶液を、以下のように調製し、該ユニットに添加した:1当量のNaOHを有する600mMのグルタチオン(GSH)溶液を、約12mLの0.9%生理食塩水および0.9mLの10N NaOH中に、2.8gのGSHを溶解させることにより調製した。適切な容積のGSH溶液を、20mL容積の注射器に吸引した。使用した容積は、典型的には、280mLのRBC当たり10mLのGSH溶液+管路喪失分の2mLであり、投与RBCユニット中20mMのGSHを生成した。インキュベーション容器に接続された先端部分を有するY型取付部を共有するフィルター付き先端部を使用して、GSHを含有した注射器を、混合容器に装着した。該ユニットを、揺動器に設置して、投与溶液の添加中の上下混合を容易にした。該ユニットを揺動器で混合している間に、GSHを該ユニットに添加した。その後、該ユニットを、上述の8の字混合法を使用して手作業で混合した。GSHの添加後、該ユニットを室温で5分間静置させた。
【0125】
静置期間後、少量のRBC試料を取り出して、処理前の力価を決定するために培養した。細菌試料の場合は標準的プレートアッセイを使用し、ウイルスの場合は細胞培養アッセイを使用した。
【0126】
6mMのアムスタリン塩酸塩(S−303)溶液を、約15mLの0.9%生理食塩水中に46mgのS−303を溶解させることにより調製した。適切な用量のS−303溶液を、20mL注射器に吸引した。使用した容積は、典型的には、280mLのRBC当たり10mLのS−303溶液+管路喪失分の2mLであり、投与RBCユニット中0.2mMのS−303を生成した。その後、該ユニットを、上述のような8の字混合法を使用して手作業で混合した。処理後の力価用の試料採取をする前に、該処理されたRBCユニットを、病原体不活化の完了を保証するためにS−303添加後室温で最低3時間インキュベートした。
【0127】
PIの3時間後に、試料を取り出して上述のように培養し、処理後の力価を決定した。低レベル細菌インプットの不活化を評価する研究の場合、処理後に、試験ユニットおよび対照ユニットを両方とも、室温で約20時間インキュベートし、その後37℃で終夜インキュベートした。37℃のインキュベーション後、各処理された試験ユニットおよび同一の未処理対照ユニットから、試料を取り出して培養し、細菌力価の質的評価を得た。未処理対照ユニットは増殖を示した。
【0128】
各ユニットのlog低減は、処理後力価に対する処理前力価の対数率を取ることにより決定し、力価は、10× cfuまたはpfu/mLとして表された。
【0129】
(実施例4)RBC in vitro機能実験
ヒトRBCユニットを、製造業者の説明書に従って、AS−3(Nutricel社製)などの添加剤溶液中に調製した。RBCユニットを種々の濃度のGSHで処理して、2mM〜30mMの範囲の終濃度を達成した。一部の場合では、GSHは、重炭酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムのいずれかによる1または2塩基当量で、処理前にpHが調整されていた。GSHで処理した後、RBCを、RBC中0.2mMのS−303濃度を達成するように0.9%塩化ナトリウムで溶解したS−303で処理したか、または0.9%塩化ナトリウムで擬似投与した。処理後、ユニットを20〜25℃で20時間インキュベートした。インキュベーション後、いくつかのユニットを、21℃で6分間4100×gで遠心分離し、上清を圧出し、100mLの新鮮な添加剤溶液をRBCに添加した。すべてのユニットは、保管のために4℃に置かれていた。未処理対照は、添加剤溶液中で調製した後4℃に置かれていた。
【0130】
in vitro機能を、保管経過中の種々の時点でアッセイした。Chiron Diagnostics血液ガスアナライザーで各ユニットのRBCのpHを測定することにより、37℃での細胞外pHを決定した。ルシフェラーゼに基づく酵素アッセイまたはBeutler(1984年)により記載のプロトコールを使用して、総ATPを測定した。無細胞上清を調製して、細胞外カリウム、グルコース、および乳酸塩を評価した。Chiron Diagnostics Na/Kアナライザー(614型)または類似のアナライザーを使用して、無細胞上清のK含有量を測定することにより、細胞外カリウムを決定した。細胞外グルコースおよび乳酸塩を、NexCTアナライザーで評価した。Advia血液アナライザー(Siemens社製)を使用して、赤血球指数を収集した。
【0131】
RBCを0.9%塩化ナトリウムで3回洗浄し、浸透圧脆弱性および密度プロフィールの解析前に、室温で最低1時間インキュベートした。浸透圧脆弱性用に使用した方法は、Beutlerら、1982年(Blood Journal 59巻:1141〜1147頁)に概説されており、96ウエル形式に改変されていた(Lewら、2003、Blood 101巻:4189〜4194頁)。マイクロヘマトクリットチューブでフタレートエステルを使用し、DanonおよびMarikovsky、1964年(J Lab Clin Med 6巻:668〜674頁)に従って、密度分布曲線を得た。
【0132】
(実施例5)RBC表面に結合する病原体不活化化合物の定量化
RBC表面に結合されたアクリジンのレベルを、アロフィコシアニン(APC)に結合したマウス抗アクリジンモノクローナル抗体、およびFACS−Caliberフローサイトメーター(BD Biosciences社製)を使用して、高感度蛍光活性化免疫フローサイトメトリーアッセイ(IFC)で検出した。手短に言えば、RBCを0.9%生理食塩水で3回洗浄し、フローインキュベーション緩衝液(HBSS、1%BSA、0.1%NaN、1mM EDTA、3%BSA)中4%のヘマトクリットに再懸濁した。次に、APCに結合したマウスモノクローナル抗アクリジン抗体を添加し、4℃で30分間インキュベートし、細胞を、フロー洗浄緩衝液(HBSS、1%BSA、0.1%NaN、1mM EDTA)で洗浄し、同じ緩衝液に再懸濁し、計30,000事象を、FACS−Caliberを用いて適切なゲーティングで評価した。ヒトRBCの細胞表面に結合されたS−303分子数の定量化(ABC)は、Quantum Simply Cellularビーズキット(Bang Laboratories社製、フィッシャー、米国インディアナ州)を使用して実施した。
【0133】
(実施例6)即時的および保管に関するRBCの水和および機能に対するグルタチオンpH効果
RBCユニットを、S−303(0.2mM)、およびGSHクエンチングを増強するためにNaOH(様々な塩基当量(b.e.))でpH調整したGSH(20mM)で処理した。試験した投与溶液のpHは、0b.e.、1b.e.、および2b.e.の場合、それぞれ2.9、4.5、および8.9だった。処理後、RBCを4℃で保管し、細胞外pH、グルコース、乳酸塩、カリウム、総ATP、および溶血について定期的にアッセイした。RBCの物理的パラメーター(MCV、MCH、MCHC、HDWなど)は、光学フローサイトメトリーで測定し、浸透圧脆弱性測定は、Lewら、(2003年)により改変されたBeutlerら、(1982年)のように実施した。
【0134】
RBCをアルカリ性GSHに曝露することは、即時性かつ持続した浸透圧脆弱性減少およびRBC密度増大を示すHctの減少をもたらした(例えば、図1を参照)。この即時性脱水は、塩基当量を減少させることにより修正され、より低いpHのGSH溶液をもたらした(表5を参照)。即時性脱水は改善されたが、RBCの浸透圧脆弱性は、濃度依存的様式でGSHの存在により変化し続けた(表6;図2および3のさらなる実施例)。光学フローサイトメトリー(Adiva血液アナライザー、Siemens社製)を使用したMCHCおよびMCH分布の測定は、浸透圧脆弱性および密度の変化と相関した。脱水は、効果がS−303の非存在下でpHおよびGSHでも示されたため、S−303非依存性であった。
【0135】
【表5】

【0136】
【表6】

RBC水和変化は、GSH、pH、および濃度と相関したが、S−303またはRBC機能を評価するために日常的に使用される生化学アッセイ(ATP、乳酸塩、グルコース)とは相関しなかった。GSHの高pHへの曝露を制限することにより、初期脱水効果が防止された。高レベルGSHの接触制限を継続することにより、保管脱水効果が防止された。これらの研究は、水和の実質的な変化は従来基準には影響を及ぼさないが、赤血球寿命の中程度の変化に寄与し得るため、保管RBCの水和状態の評価を、RBC品質の予測因子に含めるべきであることを示す。
【0137】
(実施例7)その後にクエンチャーを減少させる改善されたクエンチング法は、保管後のRBC脱水の減少をもたらす。
【0138】
RBCユニットを、S−303(0.2mM)、およびGSHクエンチングを増強するために1当量のNaOHでpH調整したGSH(20mM)で処理した。GSHで処理した後、RBCを、RBC中0.2mMのS−303濃度を達成するように0.9%塩化ナトリウムで溶解したS−303で処理したか、または0.9%塩化ナトリウムで擬似投与した。処理後、ユニットを20〜25℃で20時間インキュベートした。インキュベーション後、いくつかのユニットを、21℃で6分間4100×gで遠心分離し、上清を圧出し、100mLの新鮮な添加剤溶液をRBCに添加した。すべてのユニットは、保管のために4℃に置かれていた。未処理対照は、添加剤溶液中で調製した後4℃に置かれていた。RBC浸透圧脆弱性測定は、Lewら、(2003年)により改変されたBeutlerら、(1982年)のように実施した。
【0139】
高濃度のGSHへのRBCの長期曝露は、RBC密度の増大および浸透圧脆弱性の減少をもたらした(例えば、表5、図3および4を参照)。この保管に関連する脱水は、RBC保管前にGSHを取り除くことにより修正された(例えば、図4および5を参照)。時間およびGSH濃度依存性の脱水は、効果がS−303の非存在下のGSHでも示されたため、S−303非依存性であった(例えば、図6を参照)。
【0140】
RBC水和の変化はGSHと相関した。処理溶液を新鮮な添加剤溶液に置換することにより高濃度のGSHへの曝露を制限することは、保管により引き起こされる脱水効果を防止した。
【0141】
(実施例8)改善されたクエンチング法の病原体不活化
およそ60%のヘマトクリットを示す白血球除去されたRBCユニットを、AS−3保存培地中に調製した。RBCユニットに、およそ6log/mLの生存可能な生物を接種し、アリコートを取り出して未処理のインプット対照として機能させた。1当量のNaOH溶液中のGSHを、接種したユニットに添加して20mMの終濃度にし、十分に混合した。S−303を0.2mMの終濃度に添加し、該ユニットを再び十分に混合し、20〜25℃で3時間インキュベートした。インキュベーション後、試料を取り出してアッセイし、残留した生存可能生物を検出した。対照試料は、調製直後に力価測定し、3時間のインキュベーション期間後に再び力価測定した。少なくとも2つの複製を各生物について実施した。
【0142】
Pseudomonasを除いて、グラム陰性、グラム陽性、および1つの例示的ウイルスが、2当量のNaOHによる中和と比較して、1当量のNaOHで中和したGSHによる処理によって効果的に不活化された(表7を参照)。
【0143】
1RBCユニット当たり4.4logまでの総接種力価を使用したPseudomonas aeruginosaの病原体不活化は、完全な不活性化をもたらした。
【0144】
【表7】

(実施例9)置換ステップを有する改善されたクエンチング法の表面結合アクリジンレベル
実施例5に記載の方法を使用して、1当量のNaOHで中和した20mMのGSHおよび0.2mMのS−303で処理した赤血球に対する抗アクリジン抗体結合能を決定した。いくつかのRBC調製物にわたって測定した抗体結合能は、1赤血球当たりおよそ39,000だった(図7を参照)。このレベルの結合は、RBCを2当量のNaOHで中和した20mMのGSHで処理した場合は、18,407±1195のABCに匹敵し、RBCを2mMの酸性GSHで処理した場合、123,714±5123のABCに匹敵する。
【0145】
(実施例10)様々なヘマトクリット(Hct)でのS−303処理による病原体不活化
添加剤溶液(80%遠心沈降ヘマトクリット(Hct))を用いずに、または添加剤溶液(60%Hct)を用いて、450〜500mLのWB採取物からRBCユニットを調製した。別様の指示がなければ、該RBCを処理前に白血球除去した。40%のHctの試験ユニットを希釈剤溶液で希釈した。RBCユニットを、約10生物/mLの高レベルインプットまたは1ユニット当たり10〜10生物の低レベルインプットのいずれかで接種した。高レベル入力の場合、S−303処理前に28mLの対照試料を取り出した。低レベルの細菌インプットの場合、試験および対照ユニットを、全RBCユニットをプールおよび分割することにより調製し、対照ユニットを、1ユニット当たり約10生物で接種した。80%および60%のHctを有する試験ユニットを、200μMのS−303および1塩基当量の水酸化ナトリウム(1b.e.)で中和した20mMのGSHで処理した。40%のHctを有する試験ユニットを、130μMのS−303および13mMのGSH(1b.e.)で処理した。対照試料またはユニットを、Hctに基づいて20mMのGSHまたは13mMのGSH(1b.e.)のいずれかで処理した。高レベルインプットを有するユニットの場合、対照試料を、試験ユニットを処理した際の生存可能な生物についてアッセイした。室温で3時間インキュベーションした後、試験ユニットおよび対照試料の両方を生存可能な生物についてアッセイし、栄養豊富なアガープレート上での増殖(細菌)、またはベロ細胞(VSV)でのプラークアッセイにより定量化した。低レベルインプットを有するユニットの場合、対照および試験ユニットを、室温で20時間インキュベートし、その後37℃で約20時間インキュベートした。その後、細菌増殖を検出するために試料を平板培養した。結果は表8に示されている。
【0146】
【表8】

(実施例11)様々なヘマトクリット(Hct)におけるS−303処理後のRBC水和
遠心沈降ヘマトクリットにより添加剤溶液中で測定したところ40%または60%Hctの、および濃縮赤血球としては80%Hctの白血球除去全血からRBCを調製した。それぞれ20mMおよび0.2mMの終濃度のGSH(ナトリウム塩、BioMedica Foscama社製、イタリア)およびS−303で、ユニットを処理した。処理されたユニットはすべて、室温で20時間までインキュベートした。処理溶液をSAG−Mと置換し、4℃での保管用にユニットを60%Hctに調整した。対照RBCユニットをSAG−M中に調製し、4℃で保管した。ユニットはすべて、物理的パラメーターを定期的に分析した;MCHCを手作業で測定し、標準的方法で浸透圧脆弱性測定を実施した(Beutlerら、およびLewら、2003年)。メジアン血球脆弱性(MCF)は、50%のRBCが溶血したNaCl濃度として定義した。MCFの変化は、保管中の表面対容積比(S/V)およびRBC水和の示標である。およそ6週間の保管後、すべての処理されたユニットは、処理時のHctに関わらず、未処理対照と同様のMCF値を示した。RBC水和の別の示標であるMCHCは、保管終了時では、試験ユニットおよび対照ユニット間で類似していた。結果は表9に示されている。処理されたRBCの6週間までの保管は、RBC濃縮物の調製についての日常的な実施で使用される広範囲のHctにわたって、S/VおよびRBC水和を著しくは変化させなかった。
【0147】
【表9】

(実施例12)様々なヘマトクリット(Hct)におけるS−303処理後の保管RBCのIn Vitro品質
遠心沈降ヘマトクリットにより添加剤溶液中で測定したところ40%または60%Hctの、および濃縮赤血球として80%Hctの白血球除去全血からRBCを調製した。それぞれ20mMおよび0.2mMの終濃度のGSH(ナトリウム塩)およびS−303でユニットを処理した。処理されたユニットはすべて、室温で20時間までインキュベートした。処理溶液をSAG−Mと置換し、4℃での保管用にユニットを60%Hctに調整した。対照RBCユニットをSAG−M中に調製し、4℃で保管した。In vitro機能を、処理前に、および処理後に、保管の6週間まで定期的な間隔で分析した。in vitro RBC機能についてアッセイしたパラメーターには、pH、総ATP、溶血、および細胞外カリウム、グルコース、および乳酸塩が含まれていた。保管のおよそ6週間後(38日目〜44日目)では、試験ユニットはすべて、2μmol ATP/gHbを超える総ATPレベルを示し、溶血およびMCHCは、処理Hctに関わらず対照ユニットと同様であった。保管の全体にわたって、試験ユニットの細胞外グルコースは、40%および60%Hctの対照ユニットの細胞外グルコースより高かったが、80%Hctを有するユニットは、対照により類似していた。細胞外乳酸塩は、Hctに関わらず、すべての試験ユニットで対照と比較してより低かった。保管の終了時では、試験ユニットの細胞外Kは、40%および60%Hctユニットの対照よりわずかに低いが、80%Hctユニットは対照と同様であった。すべての試験ユニットのpHは、保管の全体にわたって対照と類似していた。該工程に由来するヘモグロビン収率は、処理Hctに関わらず、AABB要件を満たしていた。すべての代謝パラメーターの活性は、S−303処理後、6週間の保管の全体にわたって、広範囲のHctにわたって対照と類似していた。結果は表10に示されている。
【0148】
【表10】

(実施例13)希釈RBCのin vitro機能および病原体不活化
SAG−M RBCユニットを、500mL採取物に由来する白血球除去した全血ユニットから調製した。RBC機能研究の場合、SAG−M RBCユニットをABO型によってプールし、一致する試験ユニットおよび対照ユニットに分割した。処理前に、28.8mMマンニトール、1.3mMアデニン、16.2mMリン酸ナトリウム、20mMクエン酸ナトリウムを含む150mLの希釈剤溶液、pH7.5を、試験ユニットに添加した。それぞれ20mMおよび0.2mMの終濃度のGSHナトリウム塩およびS−303で試験ユニットを処理した。試験ユニットを室温(RT)で20時間までインキュベートした。室温でインキュベーションした後、ユニットを遠心分離し、上清を100mLのSAG−Mと置換し、該SAG−Mは4℃で保管する前に添加した。対照RBCユニットをSAG−M中で調製し、4℃で保管した。ユニットはすべて、種々の時点でサンプリングすることにより、4℃でおよそ6週間の保管の全体にわたって評価した。RBC病原体不活化研究の場合は、SAG−M RBCユニットを半分に分割し、処理溶液およびGSH添加の前に、該RBCユニットを病原体で接種した。処理溶液およびGSHを添加した後、対照試料(5mL〜7mL)を該ユニットから取り出してインプット病原体力価を決定し、残りのユニットをS−303で処理した。処理されたユニットは、周囲温度で3時間静置インキュベーションした後で、残留生存可能病原体力価のためにサンプリングした。
【0149】
In vitro代謝示標および物理指数を、保管の全体にわたる種々の時点で、in vitroアッセイにより評価した。37℃での細胞外pHを、Siemens Diagnostics社製血液ガスアナライザーで測定した。総ATPを、ルシフェラーゼに基づく酵素アッセイを使用して測定した。無細胞上清を調製して、細胞外カリウム(K)、グルコース、および乳酸塩を評価した。EasyLyte(登録商標)Na/Kアナライザーを使用して、無細胞上清のK含有量を測定することにより、細胞外カリウムを決定した。細胞外グルコースおよび乳酸塩を、NexCT(商標)アナライザーで評価した。平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)および遠心沈降ヘマトクリットを、手作業で測定した。浸透圧脆弱性測定を標準的方法で実施した(Beutlerら、およびLewら、2003年)。メジアン血球脆弱性(MCF)は、50%のRBCが溶血したNaCl濃度として定義した。
【0150】
細菌不活化研究の場合、RBCを、およそ6.5log cfu/mLのE.coli、S.marcescens、S.aureus、Y.enterocolitica、またはP.aeruginosaで接種した。ウイルス不活化研究の場合、ウイルスに依存しておよそ4.1log pfu/mL〜6.4log pfu/mLで、RBCを接種した。生理食塩水に溶解したGSHを、20mMの終濃度になるようにユニットに添加した。アガープレート上でコロニー形成単位(cfu)を計数することにより細菌力価を決定し、適切な細胞系統でのプラーク形成単位(pfu)を計数することによりウイルス力価を決定した。未処理試料は、計数前に連続希釈した。処理された試料は、力価の計数前に希釈しなかった。
【0151】
下記の表11および12に示されている結果は、保管継続期間中にわたる許容され得るRBC代謝機能および生理学的パラメーター、ならびに許容され得る病原体不活化を実証する。
【0152】
【表11】

【0153】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球組成物を処理する方法であって、
(a)
(i)反応性求電子性基であるかまたは反応性求電子性基を形成する官能基を含む有効量の病原体不活化化合物と、
(ii)前記病原体不活化化合物の前記反応性求電子性基と反応可能なチオール基を含む有効量のクエンチャーと、
(iii)赤血球含有組成物とを混合するステップ、および
(b)元の濃度のクエンチャーで前記混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、前記混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、前記混合物中の前記クエンチャーの濃度を十分に減少させるステップを含む方法。
【請求項2】
ステップ(a)が、好適な塩基を前記赤血球含有組成物と混合することをさらに含み、前記塩基が、前記塩基無しの前記混合物に比べて、前記混合物中における前記病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応のレベルを低減するのに十分な量である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記病原体不活化化合物と赤血球との前記望ましくない反応が、前記病原体不活化化合物による前記赤血球の表面の修飾である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基および前記クエンチャーが、前記病原体不活化化合物と前記赤血球組成物とを混合する前、混合と同時に、または混合後約30分以内に、前記赤血球組成物と混合される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基および前記クエンチャーが、前記塩基または前記クエンチャーのいずれかを前記赤血球組成物と混合する前に一緒に混合される、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基がNaOHである、請求項2〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基が塩基性緩衝液である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基が、約0.5〜1.5当量の塩基を含み、ここで、当量とは、前記混合物中のクエンチャーのモル量と等価なモル量を意味する、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が、約0.75〜1.25当量の塩基を含み、ここで、当量とは、前記混合物中のステップ(a)におけるクエンチャーのモル量と等価なモル量を意味する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記塩基が、約1当量の塩基を含み、ここで、当量とは、前記混合物中のステップ(a)におけるクエンチャーのモル量と等価なモル量を意味する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)の結果として生じる混合物が、37℃で約6.0〜7.5のpHを示す、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(a)の結果として生じる混合物が、37℃で約6.5〜7.1のpHを示す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)の結果として生じる混合物が、37℃で約6.8のpHを示す、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記クエンチャーが、システインまたはシステインの誘導体を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記クエンチャーが、グルタチオンまたはその薬学的に許容され得る塩である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(a)の結果として生じる混合物中の前記クエンチャーの濃度が2mMを超える、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(a)の結果として生じる混合物中の前記クエンチャーが、約5mM〜約30mMの濃度である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(a)の結果として生じる混合物中の前記クエンチャーが、約15mM〜約25mMの濃度である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(a)の結果として生じる混合物中の前記クエンチャーが、約20mMの濃度である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(b)におけるクエンチャーの濃度を減少させることが、前記混合物を遠心分離し、その後前記混合物の上清を除去することを含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(b)におけるクエンチャーの濃度を減少させることが、サイズ排除分離を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(b)の結果として生じる混合物中の前記クエンチャーが、約10mM未満の濃度である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(b)の結果として生じる混合物中の前記クエンチャーが、約8mM未満の濃度である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(b)の結果として生じる混合物中の前記クエンチャーが、約6mM未満の濃度である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記官能基が、マスタード、マスタード中間体、およびマスタード同等物からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記官能基が、アジリジニウムイオンであるかまたはアジリジニウムイオンを形成可能である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記反応性求電子性基が、核酸と反応可能である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記病原体不活化化合物が、核酸結合リガンドをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記核酸結合リガンドが、インターカレーターである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記インターカレーターが、アクリジンである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記病原体不活化化合物が、前記官能基と前記核酸結合リガンドとを連結する易壊性リンカーを含む、請求項28〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ステップ(a)の結果として生じる混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度が、約0.1μM〜約5mMである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
ステップ(a)の結果として生じる混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度が、前記赤血球組成物中における、もし存在するとすれば少なくとも1logの病原体を不活化するのに十分である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(a)の結果として生じる混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度が、前記赤血球組成物中における、もし存在するとすれば少なくとも3logの病原体を不活化するのに十分である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(a)とステップ(b)との間の時間が、約1〜48時間である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
ステップ(a)とステップ(b)との間の時間が、約10〜30時間である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ステップ(a)とステップ(b)との間の時間が、約15〜25時間である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記処理が、前記赤血球組成物中における、もし存在するとすれば少なくとも1logの病原体汚染物質を不活化する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記処理が、前記赤血球組成物中における、もし存在するとすれば少なくとも3logの病原体汚染物質を不活化する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度を減少させるステップをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記混合物中の前記クエンチャーの濃度を減少させる前記ステップ、および前記混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度を減少させる前記ステップが、同時に生じる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
ステップ(a)の20時間後に、結果として生じる混合物の赤血球が、同一条件下の同一方法に由来するが塩基を使用しない赤血球のABC値と比較して、65%未満の抗体結合能(ABC)を示す、請求項2〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、約50,000未満の平均抗体結合能(ABC)を示す、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、約40,000未満の平均抗体結合能(ABC)を示す、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、約25,000〜70,000の平均抗体結合能(ABC)を示す、請求項1〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、約35,000〜45,000の平均抗体結合能(ABC)を示す、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、ステップ(b)後に1%未満の溶血を示す、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、ステップ(b)の4℃で42日後の時点で1%未満の溶血を示す、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、ステップ(b)後に50%を超える赤血球沈殿容積を示す、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、ステップ(b)の4℃で42日後の時点で50%を超える赤血球沈殿容積を示す、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記結果として生じる混合物の赤血球が、ステップ(b)の4℃で42日後に、140を超えるメジアン血球脆弱性値を示す、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
個体に赤血球を注入する方法であって、請求項1〜52のいずれか一項に記載の方法よって生成された赤血球組成物を個体に注入するステップを含む方法。
【請求項54】
赤血球組成物の脱水を低減する方法であって、前記組成物が、病原体不活化化合物と反応可能であるクエンチャーと赤血球とを含む混合物であり、前記方法は、元の濃度のクエンチャーで前記混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルと比べて、前記混合物を保管することから生じる赤血球脱水のレベルを低減させる量へと、前記混合物中の前記クエンチャー濃度を十分に減少させるステップを含む方法。
【請求項55】
前記クエンチャーが、システインまたはシステインの誘導体を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記クエンチャーが、グルタチオンまたはその薬学的に許容され得る塩である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記クエンチャーの濃度が、約10mM未満に減少される、請求項54〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記クエンチャーの濃度が、約8mM未満に減少される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記クエンチャーの濃度が、約6mM未満に減少される、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記クエンチャーの濃度を減少させた後の前記混合物の赤血球が、1%未満の溶血を示す、請求項54〜59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記クエンチャーの濃度を減少させた後の前記混合物の赤血球が、4℃で42日の時点で1%未満の溶血を示す、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記クエンチャーの濃度を減少させた後の前記混合物の赤血球が、50%を超える赤血球沈殿容積を示す、請求項54〜61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記クエンチャーの濃度を減少させた後の前記混合物の赤血球が、4℃で42日の時点で50%を超える赤血球沈殿容積を示す、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記クエンチャーの濃度を減少させた後の前記混合物の赤血球が、4℃で42日後で140を超えるメジアン血球脆弱性値を示す、請求項54〜63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
請求項1〜64のいずれか一項に記載の方法によって生成される赤血球含有組成物。
【請求項66】
請求項1〜64のいずれか一項に記載の方法によって調製可能である赤血球含有組成物。
【請求項67】
(a)病原体不活化化合物の求電子性基と共有結合で反応する赤血球と、
(b)前記病原体不活化化合物と反応可能なチオール基を含むクエンチャーとを含む、組成物であって、
4℃で42日間の保管後にヒトへと注入するのに好適である組成物。
【請求項68】
もし存在するとすれば少なくとも1logの病原体が不活化される、請求項67に記載の組成物。
【請求項69】
もし存在するとすれば少なくとも3logの病原体が不活化される、請求項68に記載の組成物。
【請求項70】
前記求電子性基が、マスタード、マスタード中間体、およびマスタード同等物からなる群から選択される、請求項67〜69のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項71】
前記求電子性基が、アジリジニウムイオンであるかまたはアジリジニウムイオンを形成可能である、請求項67〜69のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項72】
前記求電子性基が、核酸と反応可能である、請求項67〜71のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項73】
前記求電子性基が、前記赤血球の細胞表面と共有結合で反応する、請求項67〜72のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項74】
前記病原体不活化化合物が、核酸結合リガンドをさらに含む、請求項67〜73のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項75】
前記核酸結合リガンドが、インターカレーターである、請求項74に記載の組成物。
【請求項76】
前記インターカレーターが、アクリジンである、請求項75に記載の組成物。
【請求項77】
前記病原体不活化化合物が、前記求電子性基と前記核酸結合リガンドとを連結する易壊性リンカーを含む、請求項67〜76のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項78】
前記病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである、請求項77に記載の組成物。
【請求項79】
前記クエンチャーが、システインまたはシステインの誘導体を含む、請求項67〜78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記クエンチャーが、グルタチオンまたはその薬学的に許容され得る塩である、請求項79に記載の組成物。
【請求項81】
前記クエンチャーが、保管中の赤血球脱水を回避するのに十分に低い濃度である、請求項67〜80のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項82】
前記クエンチャーが、約10mM未満の濃度である、請求項81に記載の組成物。
【請求項83】
前記クエンチャーが、約8mM未満の濃度である、請求項81に記載の組成物。
【請求項84】
前記クエンチャーが、約6mM未満の濃度である、請求項81に記載の組成物。
【請求項85】
前記赤血球が、55%を超える赤血球沈殿容積を示す、請求項67〜84のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項86】
前記赤血球が、60%を超える赤血球沈殿容積を示す、請求項85に記載の組成物。
【請求項87】
前記赤血球が、約50,000未満の平均抗体結合能(ABC)を示す、請求項67〜84のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項88】
前記赤血球が、約40,000未満の平均抗体結合能(ABC)を示す、請求項87に記載の組成物。
【請求項89】
前記赤血球が、約25,000〜70,000の平均抗体結合能(ABC)を示す、請求項67〜84のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項90】
前記赤血球が、約35,000〜45,000の平均抗体結合能(ABC)を示す、請求項89に記載の組成物。
【請求項91】
請求項67〜90のいずれか一項に記載の赤血球組成物を個体に注入することを含む、赤血球注入の方法。
【請求項92】
前記混合物の保管が、4℃で10日間を超える前記混合物の保管である、請求項1〜52または54〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記混合物の保管が、4℃で42日間を超える前記混合物の保管である、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
前記塩基および前記クエンチャーの混合が、前記クエンチャーの塩形態をもたらす、請求項5に記載の方法。
【請求項95】
前記塩基がグルタチオンであり、前記塩形態がグルタチオンカリウムまたはグルタチオンナトリウムである、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
ステップ(a)後およびステップ(b)前のクロライド濃度が、約100mM未満である、請求項1〜52および請求項92〜95のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
ステップ(a)後およびステップ(b)前のクロライド濃度が、約75mM未満である、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
ステップ(b)後のクロライド濃度が、約100mMを超える、請求項1〜52および請求項92〜97のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
ステップ(b)後のクロライド濃度が、約125mMを超える、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
ステップ(a)の前記赤血球含有組成物が、約70〜90%の赤血球沈殿容積を示す、請求項1〜52および請求項92〜99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
ステップ(a)の前記赤血球含有組成物が、約75〜85%の赤血球沈殿容積を示す、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
ステップ(a)の前記赤血球含有組成物が、約50〜70%の赤血球沈殿容積を示す、請求項1〜51および請求項92〜99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項103】
ステップ(a)の前記赤血球含有組成物が、約55〜75%の赤血球沈殿容積を示す、請求項102に記載の方法。
【請求項104】
ステップ(a)の前記赤血球含有組成物が、約30〜50%の赤血球沈殿容積を示す、請求項1〜51および請求項92〜99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
ステップ(a)の前記赤血球含有組成物が、約35〜45%の赤血球沈殿容積を示す、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
ステップ(a)の前記赤血球が、白血球除去されている、請求項1〜52および請求項92〜105のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
ステップ(a)の前記赤血球が、白血球除去されていない、請求項1〜52および請求項92〜105のいずれか一項に記載の方法。
【請求項108】
前記クエンチャーの濃度を減少させることが、添加剤溶液の添加を含む、請求項1〜52、請求項54〜65、および請求項92〜107のいずれか一項に記載の方法。
【請求項109】
前記添加剤溶液が、塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、およびマンニトールを含む、請求項108に記載の方法。
【請求項110】
前記添加剤溶液が、ホスフェートをさらに含む、請求項109に記載の方法。
【請求項111】
前記添加剤溶液が、シトレートをさらに含む、請求項109または110に記載の方法。
【請求項112】
塩化ナトリウム、アデニン、グルコース、およびマンニトールをさらに含む、請求項67〜90のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項113】
ホスフェートをさらに含む、請求項112に記載の組成物。
【請求項114】
シトレートをさらに含む、請求項112または113に記載の組成物。
【請求項115】
クロライドが、約100mMを超える濃度で存在する、請求項67〜90および112〜114のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項116】
クロライドが、約125mMを超える濃度で存在する、請求項115に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−516570(P2011−516570A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504170(P2011−504170)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/040032
【国際公開番号】WO2009/126786
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(500031766)シーラス コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】