説明

走査型プローブ顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡の探針の評価方法、およびプログラム

【課題】 標準試料を測定することなく探針の評価を行うことのできる走査型プローブ顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡の探針の評価方法、およびプログラムを提供する。
【解決手段】 本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡100は、試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定する測定部120と、前記測定部120が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出する勾配算出部112と、算出した前記勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成する頻度分布作成部114と、前記頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う探針評価部116と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡の探針の評価方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
走査型原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡は、使用する探針の形状が測定値の精度に大きな影響を与える。探針は、エッチング法などにより無機物や金属を4角錐などの形状に形成したものであり、消耗品として使用される。先端角度の小さい探針を形成するのは困難であるため、目的の形状を有していない探針が含まれていることがある。また探針は、破損しやすく、異物が付着することもある。このような不良の探針を見分ける方法として、特許文献1には、予め形状が認知されている標準試料を用いて正しい測定値が得られることを確認してから測定用の試料を測定する方法が開示されている。
【0003】
しかし、この方法では、標準試料はきわめて高価であり、また測定用の試料と標準試料とを交換する手間がかかる。
【特許文献1】特開2001−324438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、標準試料を測定することなく探針の評価を行うことのできる走査型プローブ顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡の探針の評価方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡は、
試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定する測定部と、
前記測定部が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出する勾配算出部と、
算出した前記勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成する頻度分布作成部と、
前記頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う探針評価部と、
を含む。
【0006】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡によれば、標準試料を用いることなく探針の評価を行うことができる。
【0007】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記探針評価部は、前記頻度分布が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有する場合に、前記探針に異常があると評価することができる。
【0008】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記探針の先端角度を取得し、取得した前記先端角度に基づいて前記所定の階級の範囲を決定する階級範囲決定部をさらに含むことができる。
【0009】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記探針評価部は、前記頻度分布が所定値以上の極大値を有し、当該極大値を有するピークの階級範囲が、ゼロを含まない場合に、前記探針に異常があると評価することができる。
【0010】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記探針評価部は、前記頻度分布が所定値以上の複数の極大値を有する場合に、前記探針に異常があると評価することができる。
【0011】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記探針評価部は、前記頻度分布の勾配がゼロの階級を対称中心とした場合に、頻度分布曲線が非対称である場合に、前記探針に異常があると評価することができる。
【0012】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記測定部は、前記試料を載置する試料台に対して水平方向であるx軸方向に前記探針を走査することにより各画素の高さを測定し、
前記頻度分布作成部は、各画素の高さに基づいて算出されたx軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第1の頻度分布を作成し、
前記探針に異常があると前記探針評価部が評価した場合に、前記測定部は、前記試料台に対して−x軸方向に前記探針を走査することにより各画素の高さを測定し、
前記勾配算出部は、前記測定部が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ−x軸方向の勾配を算出し、
前記頻度分布作成部は、前記−x軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第2の頻度分布を作成し、
前記探針評価部は、前記第1の頻度分布および第2の頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行うことができる。
【0013】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記測定部は、前記試料を載置する試料台に対して水平方向であるx軸方向および−x軸方向に前記探針を走査することにより各画素の高さを測定し、
前記勾配算出部は、前記測定部が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれx軸方向および−x軸方向の勾配を算出し、
前記頻度分布作成部は、x軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第1の頻度分布を作成し、かつ−x軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第2の頻度分布を作成し、
前記探針評価部は、前記第1の頻度分布および第2の頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行うことができる。
【0014】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記探針に異常があると前記探針評価部が評価した場合に、前記探針を他の探針に交換する探針交換部をさらに含むことができる。
【0015】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡において、
前記物理量は、原子間力であり、
前記走査型プローブ顕微鏡は、走査型原子間力顕微鏡(AFM)であることができる。
【0016】
本発明にかかる走査型原子間力顕微鏡の探針の評価方法は、
試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定し、
測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出し、
算出した前記勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成し、
前記頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う。
【0017】
本発明にかかるプログラムは、
コンピュータを、走査型プローブ顕微鏡の探針の評価装置として機能させるためのコンピュータ読み取り可能なプログラムであって、
コンピュータを、
試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定する測定手段、
測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出する勾配算出手段、
算出した前記勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成する頻度分布作成手段、および
前記頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う探針評価手段として機能させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施の形態では、走査型プローブ顕微鏡の一例として走査型原子間力顕微鏡(AFM)を用いて説明する。
【0019】
1.走査型原子間力顕微鏡
図1は、本実施の形態にかかる走査型原子間力顕微鏡の機能構成を示すブロック図である。走査型原子間力顕微鏡100は、コンピュータ110と、測定部120と、探針交換部130とを備える。コンピュータ110は、情報処理部111と、測定制御部140と、記憶部150と、表示部160と、入力部170とを含む。
【0020】
測定部120は、試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定する。測定部120の詳細については、後述する。
【0021】
情報処理部111は、勾配算出部112と、頻度分布作成部114と、探針評価部116と、階級範囲決定部118とを有する。勾配算出部112は、測定部120が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出し、頻度分布作成部114に送る。頻度分布作成部114は、勾配算出部112が算出した勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成し、探針評価部116に送る。階級範囲決定部118は、探針126の先端角度を記憶部150または入力部170から取得し、取得した先端角度に基づいて所定の階級の範囲を決定し、探針評価部116に送る。探針評価部116は、頻度分布作成部114が作成した頻度分布と、階級範囲決定部118が決定した所定の階級の範囲とに基づいて、測定部120の探針126の評価を行う。
【0022】
測定制御部140は、測定部120に試料を測定させるための制御を行う。また、測定制御部140は、探針評価部116が行った評価に基づいて測定部120および探針交換部130の制御を行う。
【0023】
記憶部150は、各種の設定データ(たとえば、測定制御用データなど)を記憶する他に、情報処理部111および測定制御部140の各種処理機能を実現するためのワーク領域となるもので、その機能はRAM、ROM、光ディスク、光磁気ディスクなどのハードウエアにより実現できる。また記憶部150には、走査型原子間力顕微鏡100の各部を探針の評価装置として機能させるためのプログラムが格納されていてもよい。コンピュータ110は、記憶部150に格納されているプログラムを読み取って走査型原子間力顕微鏡100の各部の機能を実現させてもよい。また、記憶部150に代えて、上述した各機能を実現するためのプログラム等を、伝送路を介してホスト装置等からダウンロードすることによって上述した走査型原子間力顕微鏡100の各部の機能を実現することも可能である。
【0024】
表示部160は、走査型原子間力顕微鏡100の設定状態あるいは作動状態などを画像出力するものであり、その機能はCRT、LCD、タッチパネル型ディスプレイ等の公知のハードウエアにより実現できる。
【0025】
入力部170は、走査型原子間力顕微鏡100のオペレータが各種の設定データや操作データを入力するためのものであり、その機能は、キーボード、操作ボタン、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウエアにより実現できる。
【0026】
探針交換部130は、探針評価部116の探針の評価に基づいて探針126を交換する。
【0027】
次に、測定部120の詳細について説明する。測定部120は、公知のAFMの原理に基づいて動作する。図2は、走査型原子間力顕微鏡100の測定部120を模式的に示す斜視図である。測定部120は、プローブ122と、圧電素子128と、走査回路部129とを含む。走査回路部129は、圧電素子128を制御することにより、試料台127の位置を適切な位置に配置する。
【0028】
より具体的には、測定部120は、図2に示すように、プローブ122と、試料台127と、圧電素子128と、半導体レーザ7と、レンズ8と、フォトダイオード9とを含む。プローブ122は、カンチレバー124と、支持部125と、探針126とを有する。試料台127の上には試料4が載置される。
【0029】
なお、本実施の形態において、画素とは、たとえば試料台127と水平な面において、試料を複数の領域に分割したときの各領域をいう。
【0030】
走査型原子間力顕微鏡(AFM)100の測定部120は、探針126と試料4との間の物理的相互作用として、探針126と試料4の間に作用する力(原子間力)を検出する。探針126はカンチレバー124の先端部に取り付けられているため、探針126と試料4の間に力が作用するとカンチレバー124が上下方向に撓む。半導体レーザ7は、カンチレバー124上にレーザ光を出射する。レンズ8は、当該レーザ光をカンチレバー124の先端の適切な位置に照射するように集光する。フォトダイオード9は、レーザ光の反射光を検出することにより、カンチレバー124のたわみ量(変位)を検出する。Z軸方向の圧電素子128は、探針126と試料4との間に作用する力を一定に保つように、走査回路部129によって制御される。X軸方向およびY軸方向の圧電素子128は、試料4上を探針126に走査させるために、走査回路部129によって制御される。
【0031】
2.走査型原子間力顕微鏡の探針の評価方法
図3は、走査型原子間力顕微鏡100の動作を示すフローチャートである。なお、図3では、x軸方向に探針126を走査して測定した例を示しているが、y軸方向に探針126を走査して測定した場合についても、走査型原子間力顕微鏡100は、同様に動作する。
【0032】
まず、測定部120は、試料4の表面形状をx軸方向に探針126を走査することにより測定する(ステップS100)。表面形状は、試料4の表面の相対的な高さを示すものである。測定部120は、試料4をxおよびy軸方向に分割して複数の画素とし、各画素の高さを示す情報を測定値とする。
【0033】
次に、勾配算出部112は、測定値を微分することにより画素毎の勾配を算出する(ステップS102)。勾配算出部112は、ある一の画素の高さを示す情報と、当該一の画素と隣接する他の画素の高さを示す情報から、局所勾配である微分値を求める。微分は、公知の方法を用いて行われ、たとえば、差分法、Sobel法等の画像微分法、3または4つの画素からポリゴンまたはファセットと呼ばれる傾いた面を定義し、その面の傾きを求める方法、複数の画素を平均化し、これら複数の画素を改めて1画素と定義した上で微分する方法、同様に定義された画素をさらに複数集めてポリゴンまたはファセットと呼ばれる傾いた面を定義し、その面の傾きを求める方法等によって行われる。微分は、X方向と、それと直交するY方向との2方向において行われる。
【0034】
次に、頻度分布作成部114は、勾配算出部112が算出した勾配を用いて、勾配(角度)を階級とし、勾配毎の画素数を頻度とした第1の頻度分布曲線を作成する(ステップS104)。図6に頻度分布曲線の一例を示す。
【0035】
次に、探針評価部116は、頻度分布作成部114が作成した第1の頻度分布曲線に基づいて探針126の評価を行う(ステップS106)。ステップS106における探針評価部116の詳細な動作を図4を用いて以下に説明する。
【0036】
まず、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有するか否かを判断する(ステップS200)。所定値以上の極大値とは、測定において誤差範囲外にある極大値を意味する。図6では、たとえば、試料A(dx)の曲線は、ピークA1とピークA2の2つの極大値を有する。ここで探針評価部116は、第1の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有するか否かの判断にかえて、頻度分布が所定値以上の極大値を有し、当該極大値が、勾配がゼロの階級を含まないピークの極大値であるか否かの判断を行っても良い。この場合においても、試料A(dx)の曲線では、上述したピークA1は、その極大値が、勾配がゼロの階級を含み、ピークA2は、その極大値が、勾配がゼロの階級を含まないことから、同様の判断結果が得られる。
【0037】
次に、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有するか否かを判断する(ステップS202)。ここで所定の階級の範囲とは、探針126の探針が測定可能な勾配の範囲であり、階級範囲決定部118によって予め決定される。
【0038】
図7を用いて、所定の階級の範囲の決定方法を以下に説明する。階級範囲決定部118は、探針126の所望の先端角度2aを記憶部150から取得する。探針126の所望の先端角度2aは、たとえば、予め入力部170を介して記憶部150に記憶されている。探針126の所望の先端角度2aは、試料の種類などに応じて決めることができる。階級範囲決定部118は、取得した先端角度2aに基づいて測定可能な勾配の最大値bを算出する。階級範囲決定部118は、たとえば90度からaを差し引いてbを算出する。所定の階級の範囲Xは、階級が−b≦X≦bの範囲となる。図6において、たとえばb=70の場合には、頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有するのは、試料A(dx)の曲線および試料B(dx)の曲線である。試料A(dx)の曲線は、階級が+53度以上の頻度がゼロである。これは、試料A(dx)を測定した探針126の測定可能な勾配の最大値が+53度未満であることを示しており、探針126の実際の先端角度が所望の先端角度より大きいことを示している。図7は、探針126の先端角度が所望の先端角度である場合の探針126の走査状態を模式的に示す図であり、図8は、探針126の先端角度が所望の先端角度より大きい場合の探針126の走査状態を模式的に示す図である。走査型原子間力顕微鏡100は、探針126の実際の先端角度が所望の先端角度である場合には、図7の矢印に示すように、試料4の表面形状を正確に測定することができる。しかし、走査型原子間力顕微鏡100は、探針126の実際の先端角度が所望の先端角度より大きい場合には、図8の矢印に示すように、試料4の表面形状を正確に測定することができない。
【0039】
次に、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線が非対称であるか否かを判断する(ステップS204)。試料の表面形状が人工的に形成されたものでない場合には、通常、頻度分布曲線は勾配ゼロを中心としてほぼ対称の曲線となるため、頻度分布曲線が非対称のときには、探針126に異常がある可能性が高い。たとえば、図6において、試料A(dx)の曲線、試料B(dx)の曲線、および試料B(dy)の曲線は、非対称の曲線である。ここで探針評価部116は、AFMの誤差範囲内のみの非対称性であれば、対称性の曲線であると判断する。したがって探針評価部116は、たとえば図6の試料A(dy)の曲線については、対称であると判断する。
【0040】
次に、探針評価部116は、ステップS200において第1の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有すると判断した場合、ステップS202において第1の頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度ゼロの階級を有すると判断した場合、またはステップS204において第1の頻度分布曲線が非対称であると判断した場合に、探針126に異常があると判断し(ステップS208)、図3のステップS108にすすむ。
【0041】
一方探針評価部116は、ステップS200において第1の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有しないと判断し、ステップS202において第1の頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度ゼロの階級を有しないと判断し、かつステップS204において第1の頻度分布曲線が非対称ではないと判断した場合に、探針126に異常はないと判断する(ステップS206)。
【0042】
探針評価部116が探針126に異常があると判断(ステップS208)した場合に、測定部120は、ステップS100のx軸方向とは逆方向の−x軸方向に走査することにより、試料4の表面形状を測定する(ステップS108)。
【0043】
次に、勾配算出部112は、測定値を微分することにより画素毎の勾配を算出する(ステップS110)。ステップS110の詳細は、ステップS102と同様であるので説明を省略する。
【0044】
次に、頻度分布作成部114は、勾配算出部112が算出した勾配を用いて、勾配(角度)を階級とし、勾配毎の画素数を頻度とした第2の頻度分布曲線を作成する(ステップS112)。ステップS112の詳細は、ステップS104と同様であるので説明を省略する。
【0045】
次に、探針評価部116は、頻度分布作成部114が作成した第2の頻度分布曲線に基づいて探針126の評価を行う(ステップS114)。ステップS114における探針評価部116の詳細な動作を、図5を用いて以下に説明する。
【0046】
まず、探針評価部116は、第2の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有するか否かを判断する(ステップS210)。ここで探針評価部116は、第2の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有するか否かの判断にかえて、頻度分布が所定値以上の極大値を有し、当該極大値が、勾配がゼロの階級を含まないピークの極大値であるか否かの判断を行っても良い。
【0047】
探針評価部116が第2の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有しないと判断した場合に、探針評価部116の動作はステップS214にジャンプする。
【0048】
一方、探針評価部116は、第2の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有すると判断した場合に、第2の頻度分布曲線の複数の所定値以上の極大値が、第1の頻度分布曲線の所定値以上の極大値と対応するものであるか否かを判断する(ステップS212)。たとえば探針評価部116は、第2の頻度分布曲線が階級50に頻度5000程度の極大値を有する場合、第1の頻度分布曲線の極大値が階級−50に頻度5000程度であれば、第1の頻度分布曲線の極大値と第2の頻度分布曲線の極大値とが対応すると判断する。ここで探針評価部116は、ある程度の誤差を考慮してもよく、たとえば第2の頻度分布曲線が階級50に頻度5000程度の極大値を有するとき、第1の頻度分布曲線の極大値が階級−45から−55の範囲内で頻度4000から6000程度であれば、第1の頻度分布曲線の極大値と第2の頻度分布曲線の極大値が対応すると判断してもよい。
【0049】
探針評価部116は、第2の頻度分布曲線の複数の所定値以上の極大値が、第1の頻度分布曲線の所定値以上の極大値と対応するものであると判断した場合、およびステップS210において第2の頻度分布曲線が複数の所定値以上の極大値を有しないと判断した場合に、第2の頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有するか否かを判断する(ステップS214)。
【0050】
第2の頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有しないと判断した場合に、探針評価部116の動作はステップS218にジャンプする。
【0051】
一方第2の頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有すると判断した場合に、探針評価部116は、第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応するか否かを判断する(ステップS216)。探針評価部116は、たとえば、第2の頻度分布曲線において階級−70付近で頻度ゼロであった場合に、第1の頻度分布曲線において階級70付近で頻度ゼロであれば、第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応すると判断する。ここで探針評価部116は、ある程度の誤差を考慮してもよく、たとえば、第2の頻度分布曲線において階級−70付近で頻度ゼロであった場合に、第1の頻度分布曲線が階級60から80の範囲内で頻度ゼロの階級を有していれば、第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応すると判断してもよい。
【0052】
探針評価部116は、第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応すると判断した場合、およびステップS214において第2の頻度分布曲線が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有しないと判断した場合に、第2の頻度分布曲線が非対称であるか否かを判断する(ステップS218)。
【0053】
第2の頻度分布曲線が非対称ではないと判断した場合に、探針評価部116の動作はステップS222にジャンプする。
【0054】
一方探針評価部116は、第2の頻度分布曲線が非対称であると判断した場合に、第1の頻度分布曲線の形状が第2の頻度分極線の形状と対応するか否かを判断する(ステップS220)。探針評価部116は、たとえば、すべての階級において、第1の頻度分布曲線の階級Xの頻度と、第2の頻度分極線の階級−Xの頻度との差が所定値(たとえば1000)以下であれば、第1の頻度分布曲線の形状が第2の頻度分極線の形状と対応すると判断する。
【0055】
探針評価部116は、第1の頻度分布曲線の形状が第2の頻度分極線の形状と対応すると判断した場合、およびステップS218において第2の頻度分布曲線が非対称ではないと判断した場合に、探針126に異常はないと判断する(ステップS222)。
【0056】
一方、ステップS212において第2の頻度分布曲線の複数の所定値以上の極大値が、第1の頻度分布曲線の所定値以上の極大値と対応するものではないと判断した場合、ステップS216において第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応しないと判断した場合、およびステップS220において第1の頻度分布曲線の形状が第2の頻度分極線の形状と対応しないと判断した場合に、探針評価部116は、探針126に異常があると判断する(ステップS224)。
【0057】
S114において、探針評価部116が探針に異常があると判断した場合に、探針交換部130は、プローブ122の探針126を他の探針と交換する(ステップS116)。そして、走査型原子間力顕微鏡100は、図3〜図5に示す動作を他の探針を用いて再度行わなければならない。
【0058】
一方、ステップS106またはステップS114において探針評価部116が探針126に異常はないと判断した場合に、走査型原子間力顕微鏡100の動作は、終了する。すなわち、走査型原子間力顕微鏡100は、探針126を交換することなく次の測定を行うことができる。
【0059】
以上の動作により、走査型原子間力顕微鏡100は、探針126を評価することができる。特に、本実施の形態によれば、探針126を確認するための標準試料等を用いることなく、探針126を評価することができる。よって、標準試料にかかるコストを削減することができる。また、測定のための試料4を用いて探針126を評価することができるため、探針126に異常がなければ評価に用いた測定結果を試料4の測定値として有効に利用することができ、全体の測定時間を短縮することができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、走査型原子間力顕微鏡100は、ステップS106において探針に異常があると判断した場合に、逆方向に走査して得られた測定値から、探針に異常があるか否かをステップS114において再度確認している。これにより、より確実に不良な探針を見分けることができる。
【0061】
3.変形例
図3のフローチャートにおいて、走査型原子間力顕微鏡100は、x軸方向に探針を走査することにより試料を測定して、探針に異常があると判断した場合に、−x軸方向に探針を走査することにより試料を測定しているが、これにかえて、予めx軸方向および−x軸方向に探針を走査することにより試料を測定した後に、探針に異常があるか否かを判断してもよい。
【0062】
図9は、変形例にかかる走査型原子間力顕微鏡100の動作を示すフローチャートである。
【0063】
まず、測定部120は、試料4の表面形状をx軸方向に探針126を走査することにより測定する(ステップS300)。
【0064】
次に、測定部120は、試料4の表面形状を−x軸方向に探針126を走査することにより測定する(ステップS302)。
【0065】
次に、勾配算出部112は、x軸方向および−x軸方向の走査結果のそれぞれについて、測定値を微分することにより画素毎の勾配を算出する(ステップS304)。
【0066】
次に、頻度分布作成部114は、勾配算出部112が算出した勾配を用いて、勾配(角度)を階級とし、勾配毎の画素数を頻度とした、x軸方向の走査結果に基づく第1の頻度分布曲線および−x軸方向の走査結果に基づく第2の頻度分布曲線を作成する(ステップS306)。
【0067】
次に、探針評価部116は、頻度分布作成部114が作成した第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線に基づいて探針126に異常があるか否かを判断する(ステップS308)。ステップS308における探針評価部116の詳細な動作を図10を用いて以下に説明する。
【0068】
まず、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の少なくとも一方が複数の所定値以上の極大値を有するか否かを判断する(ステップS400)。ここで探針評価部116は、複数の所定値以上の極大値を有するか否かの判断にかえて、頻度分布が所定値以上の極大値を有し、当該極大値が、勾配がゼロの階級を含まないピークの極大値であるか否かの判断を行っても良い。
【0069】
次に、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の少なくとも一方が複数の所定値以上の極大値を有すると判断した場合に、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の双方が複数の所定値以上の極大値を有するか否かを判断する(ステップS402)。
【0070】
次に、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の双方が複数の所定値以上の極大値を有すると判断した場合に、第1の頻度分布曲線の複数の所定値以上の極大値が、第2の頻度分布曲線の所定値以上の極大値と対応するものであるか否かを判断する(ステップS404)。
【0071】
次に、探針評価部116は、ステップS400において第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の双方とも複数の所定値以上の極大値を有していないと判断した場合、およびステップS404において第1の頻度分布曲線の複数の所定値以上の極大値が、第2の頻度分布曲線の所定値以上の極大値と対応するものであると判断した場合に、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の少なくとも一方が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有するか否かを判断する(ステップS406)。
【0072】
次に、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の少なくとも一方が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有すると判断した場合に、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の双方が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有するか否かを判断する(ステップS408)。
【0073】
次に、探針評価部116は、第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の双方が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有すると判断した場合に、第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応するか否かを判断する(ステップS410)。
【0074】
ステップS406において第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線の双方が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有しないと判断した場合、およびステップS410において第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応すると判断した場合に、探針評価部116は、探針126に異常はないと判断し(ステップS412)、走査型原子間力顕微鏡100は動作を終了する。
【0075】
一方、ステップS402において第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線のいずれか一方が複数の所定値以上の極大値を有しないと判断した場合、ステップS404において第1の頻度分布曲線の複数の所定値以上の極大値が、第2の頻度分布曲線の所定値以上の極大値と対応しないと判断した場合、ステップS408において第1の頻度分布曲線および第2の頻度分布曲線のいずれか一方が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有しないと判断した場合、およびステップS410において第1の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級が、第2の頻度分布曲線の頻度ゼロの階級と対応しないと判断した場合に、探針評価部116は、探針126に異常があると判断する(ステップS414)。
【0076】
次に、探針126に異常があると探針評価部116が判断した場合に、探針交換部130は、プローブ122の探針126を他の探針と交換する(ステップS310)。そして、走査型原子間力顕微鏡100は、探針評価部116が探針に異常がないと判断するまで図9および図10に示す動作を他の探針を用いて行う。
【0077】
このように、同一の試料をx軸方向および−x軸方向の双方についての測定値に基づいて作成された頻度分布曲線を照らし合わせて探針の評価を行うことにより、より確実に探針の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施の形態にかかる走査型原子間力顕微鏡の機能構成を示すブロック図。
【図2】走査型原子間力顕微鏡の測定部を模式的に示す斜視図。
【図3】本実施の形態にかかる走査型原子間力顕微鏡の動作を示すフローチャート。
【図4】本実施の形態にかかる探針評価部の詳細な動作を示すフローチャート。
【図5】本実施の形態にかかる探針評価部の詳細な動作を示すフローチャート。
【図6】本実施の形態にかかる頻度分布曲線の一例を示す図。
【図7】本実施の形態にかかる探針の走査状態を模式的に示す図。
【図8】本実施の形態にかかる探針の走査状態を模式的に示す図。
【図9】変形例にかかる走査型原子間力顕微鏡の動作を示すフローチャート。
【図10】変形例にかかる探針評価部の詳細な動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0079】
100 走査型原子間力顕微鏡、110 コンピュータ、111 情報処理部、112 勾配算出部、114 頻度分布作成部、116 探針評価部、118 階級範囲決定部、120 測定部、122 プローブ、124 カンチレバー、126 探針、128 圧電素子、129 走査回路部、130 探針交換部、140 測定制御部、150 記憶部、160 表示部、170 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定する測定部と、
前記測定部が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出する勾配算出部と、
算出した前記勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成する頻度分布作成部と、
前記頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う探針評価部と、
を含む、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記探針評価部は、前記頻度分布が所定の階級の範囲内に頻度がゼロの階級を有する場合に、前記探針に異常があると評価する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
請求項2において、
前記探針の先端角度を取得し、取得した前記先端角度に基づいて前記所定の階級の範囲を決定する階級範囲決定部をさらに含む、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記探針評価部は、前記頻度分布が所定値以上の極大値を有し、当該極大値を有するピークの階級範囲が、ゼロを含まない場合に、前記探針に異常があると評価する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記探針評価部は、前記頻度分布が所定値以上の複数の極大値を有する場合に、前記探針に異常があると評価する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記探針評価部は、前記頻度分布の勾配がゼロの階級を対称中心としたときに、頻度分布曲線が非対称である場合に、前記探針に異常があると評価する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記測定部は、前記試料を載置する試料台に対して水平方向であるx軸方向に前記探針を走査することにより各画素の高さを測定し、
前記頻度分布作成部は、各画素の高さに基づいて算出されたx軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第1の頻度分布を作成し、
前記探針に異常があると前記探針評価部が評価した場合に、前記測定部は、前記試料台に対して−x軸方向に前記探針を走査することにより各画素の高さを測定し、
前記勾配算出部は、前記測定部が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ−x軸方向の勾配を算出し、
前記頻度分布作成部は、前記−x軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第2の頻度分布を作成し、
前記探針評価部は、前記第1の頻度分布および第2の頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記測定部は、前記試料を載置する試料台に対して水平方向であるx軸方向および−x軸方向に前記探針を走査することにより各画素の高さを測定し、
前記勾配算出部は、前記測定部が測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれx軸方向および−x軸方向の勾配を算出し、
前記頻度分布作成部は、x軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第1の頻度分布を作成し、かつ−x軸方向の勾配を用いて、勾配を階級とした第2の頻度分布を作成し、
前記探針評価部は、前記第1の頻度分布および第2の頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記探針に異常があると前記探針評価部が評価した場合に、前記探針を他の探針に交換する探針交換部をさらに含む、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記物理量は、原子間力であり、
前記走査型プローブ顕微鏡は、走査型原子間力顕微鏡(AFM)である、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定し、
測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出し、
算出した前記勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成し、
前記頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う、走査型プローブ顕微鏡の探針の評価方法。
【請求項12】
コンピュータを、走査型プローブ顕微鏡の探針の評価装置として機能させるためのコンピュータ読み取り可能なプログラムであって、
コンピュータを、
試料を複数の画素に分割して、各画素の高さを、探針と試料との間に作用する物理量を検出することにより測定する測定手段、
測定した各画素の高さと隣接する画素の高さに基づいてそれぞれ勾配を算出する勾配算出手段、
算出した前記勾配を用いて、勾配を階級とした頻度分布を作成する頻度分布作成手段、および
前記頻度分布に基づいて、前記探針の評価を行う探針評価手段として機能させる、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−250690(P2006−250690A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67269(P2005−67269)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】