説明

走査型画像表示装置および画像表示方法

【課題】簡単な構成で、コマ収差の影響を抑える。
【解決手段】走査型画像表示装置は、入力されたパルス波形に応じた強度の光ビームを出力する光源1と、光源1から出力された光ビームを走査する走査手段3と、走査手段3および光源1を制御して複数の画素からなる画像を被投射面8上に表示させる制御手段10と、を有する。制御手段10は、複数の画素それぞれに対応するパルス波形を光源1に供給し、画素毎に、パルス波形の形状を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームを走査して被投射面上に画像を表示する走査型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームを水平方向および垂直方向に走査して被投射面上に画像を表示する画像表示装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
図8に、画像表示装置の走査系に関わる構成を示す。
【0004】
図8を参照すると、画像表示装置は、光源121と、光源121から出射したレーザビームを被投射面124上に集光する集光レンズ122と、集光レンズ122によって集光されたレーザビームを走査する走査ミラー123とを有する。
【0005】
通常、表示画像の画素の大きさは、被投射面124上のビームスポット径(直径)で決まる。したがって、集光されたレーザビームのビームウェストが被投射面124近傍に形成されるように、集光レンズ122と被投射面124を配置すれば、ビームスポット径を小さくすることができ、高解像度の画像を得ることができる。
【0006】
上記の画像表示装置において、走査角を拡大することで、大画面化が可能となる。
【0007】
走査角の拡大のために、例えば、図9に示すように、走査ミラー123と被投射面124の間に発散レンズ125を設けた構成が知られている。この構成によれば、発散レンズ125は、走査ミラー123の走査角を増大するように作用する。例えば、図10に示すように、走査ミラー123からの走査角αのレーザビームは、発散レンズ125によって、走査角β(<α)のレーザビームに変換される。
【0008】
ところで、レンズの収差の1つに、コマ収差がある。コマ収差は、光軸外の一点から出た光が像面において1点に収束しない収差のことである。
【0009】
図9に示した画像表示装置において、走査ミラー123からのレーザビームが発散レンズ125に斜めに入射した場合は、コマ収差の影響により、被投射面124に照射されるレーザビームのビーム形状が非対称となり、その結果、被投射面124上のビームスポットが非対称形状になる。ここで、ビーム形状は、光軸に垂直な断面上の波動の振幅分布の2乗、即ち強度分布で規定される。
【0010】
図11に、水平走査角に応じたコマ収差の影響によるビームスポットの形状の変化を模式的に示す。図11は、集光レンズ122、走査ミラー123および発散レンズ125を含む光学系を上側から見た状態を示す図であって、左右方向が水平走査方向であり、水平走査ライン上の左端、中央、右端それぞれの位置での、ビーム形状およびスポット形状が示されている。なお、ここでは、垂直走査方向に関するコマ収差の影響は取り扱わないものとする。
【0011】
図11に示すように、中央の位置(水平走査角が0°)においては、ビーム形状は対称関数で与えられ、ビームスポットは、左右対称形状となる。
【0012】
一方、左端の位置においては、ビーム形状は非対称関数で与えられ、ビームスポットは、左右非対称形状になる。具体的には、コマ収差の影響により、ビームスポットは、左側部分が尾を引くように延伸した形状になる。
【0013】
また、右端の位置においても、ビーム形状は非対称関数で与えられ、ビームスポットは、左右非対称形状になる。具体的には、コマ収差の影響により、ビームスポットは、右側部分が尾を引くように延伸した形状になる。
【0014】
発散レンズ125に対するレーザビームの入射角度が大きいほど、コマ収差の影響が大きくなる。したがって、水平走査角が増大すると、それに伴ってコマ収差の影響が大きくなり、ビームスポットの延伸部分(尾の部分)が増大する。すなわち、表示画像の左右の端側ほど延伸部分が増大し、ビームスポットの左右の非対称性の度合が増大する。
【0015】
なお、画像表示装置の光学系に、非球面レンズや自由曲面レンズなどの特殊レンズを用いることで、コマ収差の影響を抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−268645号公報
【特許文献2】特表2009−539120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図9に示した画像表示装置において、例えば、水平走査ライン上の中央付近では、レーザビームのビーム形状は左右対称であるが、左右端付近では、レーザビームのビーム形状は左右非対称である。このため、左右端付近の解像力コントラストは、中央付近の解像力コントラストより低下する。
【0018】
以下、解像力コントラストの低下の問題を具体的に説明する。
【0019】
図12は、速度Vで走査した場合のビーム形状と変調信号の関係を説明するための図である。
【0020】
図12に示す例では、画素ピッチP(=V・t)毎にレーザビームがオン/オフ制御され、その変調デューティー比は50%である。レーザビームが一定速度Vで走査されている場合、空間展開関数T(x)は、T(V・t)=M(t)で定義される。M(t)は、変調波形を示す。変調デューティー比は、1周期(発光時間+消光時間)のうちの発光時間の割合である。
【0021】
表示画像の畳み込み関数G(x)は、ビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で表わされる。具体的には、畳み込み関数G(x)は、以下の式1で与えられる。ここで、Nは画素数を示す。
【0022】
【数1】

【0023】
畳み込み関数G(x)の最大値、最小値をそれぞれImax、Iminとすると、解像力コントラストCは、以下の式2で与えられる。
【0024】
【数2】

図13に、対称なビーム形状関数b(x)に基づく対称スポットの強度分布および変調デューティー比が50%の変調波形M(t)の空間展開関数T(x)を示す。図14に、そのビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で与えられる表示画像の畳み込み関数G(x)の強度変化の波形を示す。
【0025】
発光時間と消光時間との比が1:1とされた変調波形信号に基づいて、図13に示すような対称スポットを持つレーザ光源の発光時間を制御すると、畳み込み関数G(x)は、図14に示すような正弦波状の波形となる。この場合の解像力コントラストCは91%である。
【0026】
図15に、非対称なビーム形状関数b(x)に基づく非対称スポットの強度分布および変調デューティー比が50%の変調波形M(t)の空間展開関数T(x)を示す。図16に、そのビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で得られた表示画像の畳み込み関数G(x)の強度変化の波形を示す。
【0027】
発光時間と消光時間との比が1:1とされた変調波形信号に基づいて、図15に示すような、右側が尾を引いたような非対称スポットを持つレーザ光源の発光時間を制御すると、畳み込み関数G(x)は、図16に示すような、正弦波状の波形となる。この場合の解像力コントラストCは50%である。
【0028】
上述のように、ビーム形状が非対称である場合の解像力コントラストCは、ビーム形状が対称である場合と比較して、大きく低下する。
【0029】
以上のことから、図9に示した画像表示装置においては、水平走査角の増大に伴ってビーム形状の非対称の度合いが増大するため、画面の左右端付近における解像度が低下するという問題がある。
【0030】
加えて、ビーム形状が左右非対称形状である場合は、以下のような問題も生じる。
【0031】
例えば、コマ収差の影響により、ビームスポットの左側部分が尾を引くように延伸した形状になった場合で、ビームスポット径が画素ピッチに一致する場合は、画素の左側のエッジに比較して、右側のエッジが不自然に強調されたものとなる。例えば、黒地に白のストライプを表示する場合は、白のストライプの右側のエッジが不自然に強調された画像になる。このように、画像の左右いずれかのエッジが不自然に強調されるために画質が低下する。
【0032】
なお、非球面レンズや自由曲面レンズなどの特殊レンズを用いることで、コマ収差の影響を抑制することが可能であるが、そのような特殊レンズを用いた場合は、光学系の設計が複雑であり、コストも増大する。
【0033】
本発明の目的は、簡単な構成で、コマ収差の影響を抑えることができる、走査型画像表示装置および光源変調方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記目的を達成するため、本発明の走査型画像表示装置は、
入力されたパルス波形に応じた光ビームを出力する光源と、
光源から出力された光ビームを走査する走査手段と、
走査手段の制御を行うとともに、光源の点灯状態を制御して複数の画素からなる画像を被投射面上に表示させる制御手段と、を有し、
制御手段は、複数の画素それぞれに対応するパルス波形を光源に供給し、画素毎に、パルス波形の形状を制御する。
【0035】
本発明の画像表示方法は、
入力されたパルス波形に応じた光ビームを出力する光源と、該光源から出力された光ビームを走査する走査手段と、光源から出力された光ビームを集光する複数のレンズからなり、該複数のレンズの少なくとも1つが走査手段で走査された光ビームを入射するように構成された集光光学系と、を備えた走査型画像表示装置において行われる画像表示方法であって、
走査手段の制御を行うとともに、光源の点灯状態を制御して複数の画素からなる画像を被投射面上に表示させるステップを含み、該ステップは、複数の画素それぞれに対応するパルス波形を光源に供給し、画素毎に、パルス波形の形状を制御するステップを含む。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、コマ収差の影響を抑制することができる。また、走査範囲において対称形状のビームスポットを得ることができるので、解像力コントラストおよび画質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態である走査型画像表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2A】比較例としての、非対称なビーム形状関数b(x)と矩形波の変調波形の空間展開関数T(x)との畳み込み積分の処理を説明する模式図である。
【図2B】比較例としての、非対称なビーム形状関数b(x)と矩形波の変調波形の空間展開関数T(x)との畳み込み積分の処理を説明する模式図である。
【図2C】図2Aおよび図2Bに示すビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で得られた表示画像の畳み込み関数G(x)の強度変化の波形を示す模式図である。
【図3A】図1に示す走査型画像表示装置にて行われる、非対称なビーム形状関数b(x)と鋸波の変調波形の空間展開関数T(x)との畳み込み積分の処理を説明する模式図である。
【図3B】図1に示す走査型画像表示装置にて行われる、非対称なビーム形状関数b(x)と鋸波の変調波形の空間展開関数T(x)との畳み込み積分の処理を説明する模式図である。
【図3C】図3Aおよび図3Bに示すビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で得られた表示画像の畳み込み関数G(x)の強度変化の波形を示す模式図である。
【図4】矩形波の変調波形信号を用いた場合の畳み込み関数G(x)の波形と鋸波の変調波形信号を用いた場合の表示画像の畳み込み関数G(x)の波形を説明するための図である。
【図5】変調デューティー比が40%の矩形波の変調波形信号を用いた場合の畳み込み関数G(x)の波形と、変調デューティー比が50%の鋸波の変調波形信号を用いた場合の畳み込み関数G(x)の波形を説明するための図である。
【図6】非対称スポットと逆向きの鋸波の変調波形を用いた場合の畳み込み関数G(x)の波形を説明するための図である。
【図7】図1に示す走査型画像表示装置にて行われる、水平走査方向における変調波形信号のパルス波形の制御を説明するための図である。
【図8】画像表示装置の走査系に関わる構成を示す模式図である。
【図9】走査角の拡大が可能な画像表示装置の走査系に関わる構成を示す模式図である。
【図10】図9に示す画像表示装置の発散レンズの作用を説明するための模式図である。
【図11】図9に示す画像表示装置における、水平走査角に応じたコマ収差の影響によるビームスポットの形状の変化を説明するための模式図である。
【図12】速度Vで走査した場合のビーム形状と変調信号の関係を説明するための図である。
【図13】対称形状のビーム形状関数b(x)と変調デューティー比が50%の矩形の変調波形の空間展開関数T(x)との畳み込み積分を説明するための図である。
【図14】図13に示す対称形状のビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で与えられる表示画像の畳み込み関数G(x)の強度変化の波形を示す図である。
【図15】非対称形状のビーム形状関数b(x)と変調デューティー比が50%の矩形の変調波形の空間展開関数T(x)との畳み込み積分を説明するための図である。
【図16】図15に示す対称形状のビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で与えられる表示画像の畳み込み関数G(x)の強度変化の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態である走査型画像表示装置の構成を示すブロック図である。
【0040】
図1を参照すると、走査型画像表示装置は、リアプロジェクションタイプのものであって、光源1、集光レンズ2、走査手段3、発散レンズ4、制御手段10、および被投射面8を有する。走査手段3から被投射面8までの距離は固定である。
【0041】
制御手段10は、走査型画像表示装置全体の動作を制御する他、光源1および走査手段3を制御して画像を被投射面8上に表示させる。制御手段10は、レーザ変調手段5、変調波形・パワー算出手段6およびルックアップテーブル7を有する。
【0042】
映像信号S1は、外部装置から変調波形・パワー算出手段6に供給される。外部装置は、例えばパーソナルコンピュータ等の映像供給装置である。
【0043】
同期信号S2は、映像信号S1による画像の表示における垂直同期および水平同期をとるための信号(垂直同期信号および水平同期信号)であって、外部装置から変調波形・パワー算出手段6および走査手段3に供給される。
【0044】
光源1は、半導体レーザに代表される固体光源である。光源1からのレーザビームの進行方向に、集光レンズ2および走査手段3がこの順番で配置されている。
【0045】
走査手段3は、水平方向の走査にはマイクロメカニカルミラーに代表される共振型走査ミラー、垂直方向の走査にはガルバノスキャナを用いている。
【0046】
走査手段3は、同期信号S2に従って、集光レンズ2で集光されたレーザビームを走査する。走査手段3が水平方向および垂直方向の2次元の走査を行う場合、水平方向の走査は水平同期信号に基づいて行われ、垂直方向の走査は垂直同期信号に基づいて行われる。
【0047】
発散レンズ4は、走査手段3からのレーザビームの進行方向に配置されており、走査角を拡大するように作用する。また、集光レンズ2および発散レンズ4は全体として、光源1からのレーザビームを被投射面8上に集光するように設計された集光光学系を構成する。集光レンズ2および発散レンズ4はいずれも、1枚または複数枚のレンズにより構成することができる。
【0048】
ルックアップテーブル7は、走査手段3の走査角に応じた光源1の変調波形信号のパルス波形の形状(例えば、立ち上がりおよび立下りの傾き)を示す変調波形生成用データを格納する。
【0049】
具体的には、変調波形生成用データは、水平方向の走査角θが0°〜最大角度θmaxまでの範囲において、走査角θを段階的に変化させた場合の、走査角毎のパルス波形の形状(例えば、立ち上がりおよび立下りの傾き)を示すデータを含む。走査角のステップ幅は、例えば0.5°であるが、これに限定されない。走査角のステップ幅は適宜に設定可能である。
【0050】
変調波形・パワー算出手段6は、同期信号S2に基づいて、ルックアップテーブル7に保持されている変調波形生成用データを読み出す。変調波形生成用データの読み出しと走査手段3による走査とを同期信号S2と同期させることで、変調波形・パワー算出手段6は、映像信号S1に基づく画像の各画素に対する走査角を取得することができる。
【0051】
例えば、被投射面8の表示領域の左上を開始点とし、右下を終了点として、往復走査を上側から下側に向かって行った場合、同期信号S2に含まれている垂直同期信号により開始点および終了点をそれぞれ判別することができ、また、各画素の位置(照射タイミング)は水平同期信号に基づいて判断することができる。各画素における走査角は予め分かっているので、各画素の走査角をそれぞれの位置(照射タイミング)から判断することができる。
【0052】
変調波形・パワー算出手段6は、ルックアップテーブル6から読み出した変調波形生成用データに基づいて、走査手段3の走査角に対応するパルス波形の形状(立ち上がりおよび立下りの傾き)を取得し、その取得したパルス波形の形状に基づいて変調波形信号を生成する。さらに、変調波形・パワー算出手段6は、映像信号S1に基づいて各画素の輝度に応じて光源1の出力光の強度を変調するための強度変調信号を生成する。
【0053】
変調波形・パワー算出手段6で生成された変調波形信号および強度変調信号は、レーザ変調手段5に供給される。なお、変調波形・パワー算出手段6は、変調波形信号に強度変調信号で重みづけした変調信号をレーザ変調手段5に供給してもよい。
【0054】
レーザ変調手段5は、変調波形・パワー算出手段6からの変調波形信号に基づいて、光源1から出射されるレーザビームの発光時間を制御する。また、レーザ変調手段5は、変調波形・パワー算出手段6からの強度変調信号に基づいて、光源1から出射されるレーザビームの強度を制御する。
【0055】
例えば、光源1が半導体レーザである場合、レーザ変調手段6は、変調波形信号および強度変調信号(または上記変調信号)に基づいて半導体レーザへの電流供給(電流供給量および電流供給時間)を制御する。半導体レーザは、変調波形信号の変調パルスに応じた強度のレーザビームを出力する。
【0056】
本実施形態の走査型画像表示装置によれば、走査角(例えば水平走査角)に応じて変調パルス波形の立ち上がりおよび立ち下りの傾きを制御することにより、コマ収差の影響を抑制し、解像力コントラストおよび画質を改善することができる。
【0057】
まず、解像力コントラストが改善される原理を具体的に説明する。以下では、矩形波形の変調波形信号で光源1を駆動するものを比較例とし、この比較例と対比しながら原理を詳細に説明する。
【0058】
図2Aおよび図2Bに、比較例として、非対称なビーム形状関数b(x)に基づく非対称スポット(強度分布)に対して、変調デューティー比が50%の矩形の変調波形M(t)の空間展開関数T(x)で畳み込み積分を行った場合の例を示す。
【0059】
非対称スポットは、ピーク位置までの立ち上がりが急峻で、ピーク位置以降は、コマ収差の影響により段階的に徐々に立ち下がっている。畳み込み積分では、図2Aおよび図2Bに示すように、空間展開関数T(x)の立ち下がりと非対称スポットのピーク位置が一致するように設定されている。非対称スポットの立ち下り部分における積分量は、立ち上がり部分における積分量より大きい。
【0060】
図2Cに、図2Aおよび図2Bに示したビーム形状関数b(x)と空間展開関数T(x)との畳み込み積分で得られた表示画像の畳み込み関数G(x)の強度変化の波形を示す。図2Cに示すように、畳み込み関数G(x)の波形は、左側の部分が尾を引くような形状となる。この場合は、図16に示したように、解像力コントラストCは大きく低下する。
【0061】
本実施形態では、変調パルス波形の立ち上がりおよび立下りの傾きを制御することで、畳み込み関数G(x)の波形における上記の尾の発生を抑制し、解像力コントラストCを改善する。
【0062】
図3Aおよび図3Bに、非対称なビーム形状関数b(x)に基づく非対称スポット(強度分布)に対して、変調デューティー比が50%の鋸波の変調波形M(t)の空間展開関数T(x)で畳み込み積分を行った場合の例を示す。
【0063】
非対称スポットは、図2Aおよび図2Bに示したものと同じである。畳み込み積分では、図3Aおよび図3Bに示すように、空間展開関数T(x)の立ち上がりの終了位置が非対称スポットのピーク位置にくるように設定されている。この場合、非対称スポットの立ち下り部分における積分量は、立ち上がり部分における積分量とほぼ同じである。
【0064】
非対称スポットの傾きの大きな立ち上がり部分を、空間展開関数T(x)の傾きの小さな立ち下がり部分で畳み込み積分し、非対称スポットの傾きの小さな立ち下がり部分を、空間展開関数T(x)の傾きの大きな立ち下がり部分で畳み込み積分する。これにより、畳み込み関数G(x)の波形として、図3Cに示すような、尾を引く部分がなく、左右がほぼ対称な波形を得ることができる。この場合、解像力コントラストCは、上記の比較例よりも高くなる。
【0065】
図4に、矩形波の変調波形信号を用いた場合の畳み込み関数G(x)の波形と鋸波の変調波形信号を用いた場合の表示画像の畳み込み関数G(x)の波形を示す。鋸波の変調波形信号の振幅は、矩形波の変調波形信号の2倍である。鋸波の変調パルス波形の面積は、矩形波の変調パルス波形の面積と同じである。
【0066】
図4に示すように、矩形波の変調波形信号を用いた場合の解像力コントラストCは50%である。これに対して、鋸波の変調波形信号を用いた場合は、解像力コントラストCは60%に向上する。
【0067】
なお、上記の比較例において、矩形の変調波形信号のパルス幅を小さくする(変調デューティー比を小さくする)ことで、解像力コントラストCを向上することができる。しかし、この場合は、表示画像の畳み込み関数G(x)の波形は、非対称な形状になり、その結果、画質が低下する。
【0068】
図5に、変調デューティー比が40%の矩形波の変調波形信号を用いた場合の畳み込み関数G(x)の波形と、変調デューティー比が50%の鋸波の変調波形信号を用いた場合の畳み込み関数G(x)の波形を示す。
【0069】
図5に示した例において、矩形波の変調波形信号の振幅は、図4に示した矩形波の変調波形信号の1.25倍である。鋸波の変調波形信号の振幅は、矩形波の変調波形信号の1.6倍である。
【0070】
図5に示すように、変調デューティー比が40%の矩形波の変調波形信号を用いた場合、畳み込み関数G(x)の波形の立ち上がり部と立ち下がり部の比率は、60:40となる。このように、畳み込み関数G(x)の波形が非対称な形状になると、画像の右側のエッジが不自然に強調されるために画質が低下する。
【0071】
これに対して、鋸波の変調波形信号を用いた場合は、畳み込み関数G(x)の波形の立ち上がり部と立ち下がり部の比率は、50:50となる。よって、上記の画質の低下は生じない。
【0072】
なお、図6に示すように、非対称スポットと逆向きの鋸波の変調波形を用いた場合は、畳み込み関数G(x)の波形が非対称な形状になる。この場合も、画像の右側のエッジが不自然に強調され、画質が低下する。
【0073】
以上説明した鋸波の変調波形信号による効果は、他の波形形状のもの、例えば台形形状のものでも得ることができる。
【0074】
本実施形態の走査型画像表示装置において、制御手段10は、走査手段3の制御を行うとともに、パルス波形の形状を制御して画像を被投射面上に表示させる。具体的には、制御手段10は、走査角が増加する場合には、走査角の増加につれてパルス波形の立ち上がりの傾きを大きくさせ、走査角が減少する場合には、走査角の減少につれてパルス波形の立ち下がりの傾きを小さくする。
【0075】
図7は、図1に示した走査型画像表示装置にて行われる、水平走査方向における変調波形信号のパルス波形の制御を説明するための図である。図7において、左右方向が水平走査方向であり、紙面に向かって垂直な方向が垂直走査方向である。
【0076】
走査角が0°である場合は、制御手段10は、矩形のパルス波形を有する変調波形信号を光源1に供給する。この場合は、図7に示すように、左右対称形状のビームスポットが中央の位置に形成され、このビームスポットが矩形のパルス波形で変調される図14で示した条件に相当する。
【0077】
左端から右端へ向かって走査を行う場合、左端から中央の位置までは、走査角が徐々に減少し、中央の位置から右端までは、走査角が徐々に増大する。上記の走査角を減少する走査過程において、制御手段10は、変調波形信号のパルス波形の立ち上がりの傾きを徐々に大きくする。すなわち、制御手段10は、走査角が大きいほどパルス波形の立ち上がりの傾きを小さくする。この場合、パルス波形は、左端の位置では、左側に傾斜を有する鋸波とされ、中央の位置に近づくにしたがって、鋸波から左側に傾斜を有する台形状の波形へ、さらに、台形状の波形から矩形状の波形へと変化する。
【0078】
上記の走査角を増大する走査過程において、制御手段10は、変調波形信号のパルス波形の立ち下がりの傾きを徐々に小さくする。すなわち、制御手段10は、走査角が大きいほどパルス波形の立ち下がりの傾きを小さくする。この場合、パルス波形は、中央の位置では、矩形状の波形とされ、右端に近づくにしたがって、矩形状の波形から右側に傾斜を有する台形状の波形へ、さらに、台形状の波形から右側に傾斜を有する鋸波へと変化する。走査の右端の位置では、図7に示すように、右側に広がりを持つ非対称形状のビームスポットが形成され、このビームスポットが右側に傾斜を有する鋸波で変調される。これは図4、5で示す条件に相当する。
【0079】
一方、右端から左端へ向かって走査を行う場合、右端から中央の位置までは、走査角が徐々に減少し、中央の位置から左端までは、走査角が徐々に増大する。
【0080】
上記の走査角を減少する走査過程において、制御手段10は、変調波形信号のパルス波形の立ち上がりの傾きを徐々に大きくする。すなわち、制御手段10は、走査角が大きいほどパルス波形の立ち上がりの傾きを小さくする。この場合、パルス波形は、右端の位置では、右側に傾斜を有する鋸波とされ、中央の位置に近づくにしたがって、鋸波から右側に傾斜を有する台形状の波形へ、さらに、台形状の波形から矩形状の波形へと変化する。
【0081】
上記の走査角を増大する走査過程において、制御手段10は、変調波形信号のパルス波形の立ち下がりの傾きを徐々に小さくする。すなわち、制御手段10は、走査角が大きいほどパルス波形の立ち下がりの傾きを小さくする。この場合、パルス波形は、中央の位置では、矩形状の波形とされ、左端に近づくにしたがって、矩形状の波形から左側に傾斜を有する台形状の波形へ、さらに、台形状の波形から左側に傾斜を有する鋸波へと変化する。
【0082】
上述した変調波形信号のパルス波形の制御により、非球面レンズ等の特殊なレンズを用いることなく、コマ収差の影響を抑制し、水平走査範囲において対称形状のビームスポットを得ることができる。この結果、解像力コントラストおよび画質を改善することができる。
【0083】
上述した本実施形態の走査型画像表示装置は本発明の一例であり、その構成は適宜に変更することができる。
【0084】
例えば、変調波形信号は、図7に示したものに限定されない。変調波形信号は、矩形状の波形と台形状の波形または鋸波とから構成されるものであってもよい。
【0085】
また、水平走査において、往路と復路のそれぞれで描画を行ってもよく、また、往路で描画を行い、復路を水平帰線として用いてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 光源
2 集光レンズ
3 走査手段
4 発散レンズ
5 レーザ変調手段
6 変調波形・パワー算出手段
7 ルックアップテーブル
8 被投射面
10 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたパルス波形に応じた光ビームを出力する光源と、
前記光源から出力された光ビームを走査する走査手段と、
前記走査手段の制御を行い、前記光源の点灯状態を制御して複数の画素からなる画像を被投射面上に表示させる制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記複数の画素それぞれに対応する前記パルス波形を前記光源に供給し、前記画素毎に、前記パルス波形の形状を制御する、走査型画像表示装置。
【請求項2】
前記制御手段は、走査角が増加する場合には、前記走査角の増加につれて前記パルス波形の立ち下がりの傾きを小さくさせ、前記走査角が減少する場合には、前記走査角の減少につれて前記パルス波形の立ち上がりの傾きを大きくする、請求項1に走査型画像表示装置。
【請求項3】
前記立ち上がりまたは立ち下がりの傾きを小さくした状態のパルス波形は、鋸波状または台形状である、請求項2に記載の走査型画像表示装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記走査角に応じた前記パルス波形の立ち上がりおよび立下りの傾きを示す変調波形生成用データが格納されたルックアップテーブルを有し、該ルックアップテーブルを参照して、前記走査角の増大または減少における前記パルス波形の立ち上がりおよび立ち下がりそれぞれの傾きを決定する、請求項2または3に記載の走査型画像表示装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ルックアップテーブルに基づいて、前記複数の画素それぞれの前記パルス波形を含むパルス変調信号を生成し、入力映像信号に基づいて、該パルス変調信号を前記複数の画素それぞれの輝度に応じて重みづけして変調信号を生成し、該変調信号を前記光源に供給する、請求項4に記載の走査型画像表示装置。
【請求項6】
前記走査手段と前記被投射面との間に設けられた発散レンズを、さらに有し、前記走査手段からの光ビームが前記発散レンズを介して前記被投射面に照射される、請求項1から5のいずれか1項に記載の走査型画像表示装置。
【請求項7】
入力されたパルス波形に応じた光ビームを出力する光源と、該光源から出力された光ビームを走査する走査手段と、を備えた走査型画像表示装置において行われる画像表示方法であって、
前記走査手段の制御を行い、前記光源の点灯状態を制御して複数の画素からなる画像を被投射面上に表示させるステップを含み、該ステップは、前記複数の画素それぞれに対応する前記パルス波形を前記光源に供給し、前記画素毎に、前記パルス波形の形状を制御するステップを含む、画像表示方法。
【請求項8】
走査角が増加する場合には、前記走査角の増加につれて前記パルス波形の立ち上がりの傾きを小さくさせ、前記走査角が減少する場合には、前記走査角の減少につれて前記パルス波形の立ち下がりの傾きを大きくする、請求項7に記載の画像表示方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−72991(P2013−72991A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211605(P2011−211605)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】