説明

走査型非線形誘電率顕微鏡を応用した超高感度変位計測方式

【課題】本発明の課題は、探針と試料表面に空隙を設けた場合、微小な空隙の変化で非線形誘電率信号が大きく変化することが理論解析により予測されることに基き、この現象を利用して超高感度な垂直方向距離センシングに用いる非線形誘電率顕微鏡を開発し、提供することにある。
【解決手段】本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡による超高感度距離計測方式は、背面に電極を配置した誘電体表面に、微小空隙を介して対峙する導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量の容量変化を検出するものであって、探針と誘電体物質の間に探針先端半径aで規格化した空隙H=(h/a)が生じた場合の信号強度がΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3で表せることに基き、誘電体物質に対して針先半径の小さい探針を組み合わせるよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電材料の永久分極の状態や結晶性を評価するものとして開発した走査型非線形誘電率顕微鏡の応用技術であって、超高感度の距離センシング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは先に誘電・強誘電析料の線形・非線形誘電率分布の計測がおこなえる走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)を開発している。本顕微鏡は機械的応答、熱的応答である圧電・焦電応答などを使わずに、純電気的に分極分布を測定するものであって、分解能もサブナノメータオーダに達していることが確かめられており、極微小分極分布観察のための測定法の一つとして注目を集めている。まず、この走査型非線形誘電率顕微鏡の動作原理について説明する。本顕微鏡の原理は本件発明者らが提案している印加交番電界による誘電率変化の動的測定法を基本にしたものであり、それは以下に述べるように残留分極を固定したまま、電束と電界の間の非線形性の次数を分離できる計測法である。
まず、比較的大きな振幅Ep3=Vp/dとゆっくりした角周波数ωpをもつ交番電界が非線形性をもった誘電体に印加され、そのため微分容量Cs(t)が時間の関数として交番的に変化する状況を考える。ここでZ軸(3方向)を残留分極Prの方向にとり簡単化のためこの方向のみの変化を考える。このような物質中で電束密度D3と電界E3の関係は非線形性まで考慮に入れて
3=Pr+ε(2)E3+ε(3)E32/2+ε(4)E33 /6+ε(5)E34 /24‥‥(1)
で与えられる。その展開係数ε(2)、ε(3)、ε(4)およびε(5)‥‥をここではそれぞれ二次(線形)、三次(最低次の非線形)、四次および五次の誘電率と呼ぶことにする。それらは、2階、3階、4階および5階のテンソル量である。なお、この一見奇妙な呼び名は電気的エンタルピーH2などのエネルギー関数を電界で展開したときの展開次数から定義されたものであり、通常D−E関係で定義される電界の次数より一次大きいことに注意されたい。
特に3階のテンソル量であるε(3)は圧電定数と同様に対称中心をもつ材料には存在せず、強誘電材料においては、残留分極Aの向きを反転させるとそれに従って符号が変わる性質をもっている。強誘電体のヒステリシス曲線において、D=Prの点ではD−E曲線は上に凸であり(二次曲線成分の係数は負)ε(3)=−ε'(3)<0、D=−Prの点では下に凸となりε(3)=ε'(3)>0(大きさは同じで逆符号)となる。また、未分極状態(原点)ではD−E曲線は点対称で二次曲線成分はなくなりε(3)=0となる。さらに、一次の傾きである線形の誘電率は分極の反転によっては変化しないことも理解できる。
【0003】
このような特性を持つ材料に外部から強制的に電界を印加し、その各点でのD−E曲線の傾きの変化すなわち微分容量の変化を計測することにより、非線形誘電率を計測するのである。具体的には、試料に外部から
Ep3=EpCOSωpt (2)
の交番電界を印加し、その試料の微分容量をω0の角周波数(ωp≪ω0)の微小高周波電界E3で測定する。
E3E0COSω0t (3)
ただし、Ep ≫ E0 の関係にある。ここで
E3=Ep3E3 (4)
を(1)式に代入し整理すると、微小高周波電界によって誘起される微小な電束密度3は以下のように与えられる。(ただし、下式ではω0に近い成分のみを抽出し2ω0などのω0からかけはなれた成分を無視している。)
3=(ε(2)+ε(3) Ep3+ε(4)Ep3/2+ε(5)Ep3/6)E3 (5)
上式は外部から強制的に印如した電界Ep3により、微分誘電率が変化することを表しており、そのため微分容量Cs(t)は次式に従い変化する。
s(t)=Cs0+ΔCs(t) (6)
ここで、Cs0 は零印加電界時の静電容量、ΔCs(t)は電界印加による静電容量の交番的変化分であり、これらの比は
ΔCs(t)/Cs0=ε(3)EpCOSωpt/ε(2)+ε(4) Ep2COS2ωpt/4ε(2)
+ε(5) Ep3COS3ωpt/24ε(2)+‥‥‥‥ (7)
で与えられる。以上のことより、三次の誘電率に起因する容量変化は印加電界と同一周波数で変化し、その振幅は印加電界の振幅に比例し、四次の誘電率による容量変化は印加交番電界の2倍の周波数をもち、その振幅の自乗に比例する振幅をもつことがわかる。
【0004】
次に、走査型非線形誘電率顕微鏡用プローブおよびシステムを説明する。
上記印加電界による容量変化(誘電率変化)の直流成分に対する比は大きくて10−3の大きさであり、通常は10−5〜10−8程度の微小な変化である。この変化を測定用基板上の任意の位置で測定できるプローブを本発明者らが開発した。開発したプローブには同軸共振器を用いた分布定数型とLC共振器を用いた集中定数型があるが、ここでは最近の高分解能型に対応した集中定数型について説明する。
図8に走査型非線形誘電率顕微鏡用集中定数型プローブの概念図を示す。薄板状の誘電体試料(基板)の背面に電極(背面電極)を配置し、その表面側に円形のアース導体(リング)とその中心位置に探針を組み合わせたプローブを配置する。中心導体(探針)直下の試料の静電容量Cs(t)と外付けのインタクタンスLで構成された集中定数型の共振器の共振周波数に同調して発振器が発振する。リングと背面電極間に外部から角周波数ωp振幅Vpの電圧を印加すると、非線形効果のため静電容量が変化し発振周波数の交番的変化が起こる。同図中Cg(t)は円形のアース導体(リング)直下の静電容量であり、Cg(t)はCs(t)に比べて十分大きくとるので共振周波数に関しては無視でき、中心導体直下の微小な部分の情報(これを基に顕微鏡像が作られる。)が得られる。また図中のCoは共振器や発信回路中に存在する浮遊容量である。ただし、上記説明は基板の厚さが探針の直径より小さい場合についてのみ正確であり、探針先端の直径が被測定基板の厚さより十分小さいときは(通常の試料はほとんどこの場合に該当する。)、探針直下への電界の集中のため探針直下の部分の容量変化が観測される。
因みに上記原理に従って作成した集中定数型プローブの発振周波数は1GHz〜2.2GHz程度であり、探針はSTMなどに用いられるW針の作り方を参考にして本顕微鏡用の仕様に合わせて製作した。
次に、図9に本顕微鏡システムのブロックダイアグラムを示す。プローブの発振器から出力される信号は非線形誘電率の大きさに対応してFM変調されており、このFM波を復調器によって復調し、それをロックイン検波することによって非線形誘電率の大きさに対応した出力信号が得られる。また試料台であるX−Yステージを動かすことにより、非線形誘電率の分布測定が行われるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走査型非線形誘電率顕微鏡は通常プローブの探針を試料に接触させて分極分布を計測しているが、本発明者は、理論解析により探針と試料表面に空隙を設けた場合、微小な空隙の変化で非線形誘電率信号が大きく変化することが予測されるに至った。この現象は、試料の非線形誘電率を測定する際には探針と試料表面との空隙変化が測定に大きな影響を及ぼすことを意味する半面、誘電率が既知若しくは一定とみなせる場合には高感度な距離センサとなることを意味するものである。
本発明の課題は、この現象を利用して超高感度な垂直方向距離センシングに用いる非線形誘電率顕微鏡を開発し、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡による超高感度距離計測方式は、背面に電極を配置した誘電体表面に、微小空隙を介して対峙する導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量の容量変化を検出するものであって、探針と誘電体物質の間に探針先端半径aで規格化した空隙H=(h/a)が生じた場合の信号強度が
ΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3
で表せることに基き、該式に容量変化量ΔC、印加電圧V、線形誘電率ε(2)、n次の非線形誘電率ε(n)の数値を代入して空隙H=(h/a)を算出するようにした。
なお、上記の式においてhは実際の空隙寸法である。また、Snl(ε(2),H)は比例係数であり、線形誘電率ε(2)と規格化した空隙H及び非線形の次数nのみによって決まる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の超高感度空隙計測方法は、背面に電極を配置した誘電体表面に、微小空隙を介して対峙する導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量の容量変化を検出するものであって、前記探針と前記誘電体の表面間に探針先端半径aで規格化した空隙H=(h/a)が生じた場合の信号強度がΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3で表せることに基き、誘電物質と針先半径の小さい探針を組み合わせたものであるから、走査型トンネル顕微鏡並若しくはそれ以上の超高感度な垂直変位分解能をもつ。また、本発明の超高感度空隙計測方式は、背面に電極を配置した誘電体表面に微小空隙を介して対峙する形態で、導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量の容量変化を検出する手段と、前記検出信号をFM変調する手段と、該変調信号から非線形誘電率信号の変化分を抽出する第1のロックインアンプリファイアと、該非線形誘電率信号の変化分を復調する手段とからなるものであるから、非線形誘電率信号の微小変化分を効果的に抽出することができる。
【0008】
本発明の超高感度変位計測センサは、背面電極を配置した比誘電率の高い物質を固定し、該誘電体表面に微小空隙を介して対峙する形態で、変位が伝達される導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量の容量変化を検出する手段と、前記検出信号から非線形誘電率信号の変化分を抽出する手段とを具備するものであるから、被測定変位量を探針に伝達することができれば対象物の種類に関わらず、超高感度な変位分解能をもつ。また、本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡は二次元的に駆動走査される試料台上の試料表面形状に対応する変位量を、背面に電極を配置した誘電体表面に微小空隙を介して対峙する形態で、導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量の容量変化を検出する手段と、前記検出信号から非線形誘電率信号の変化分を抽出する手段と、該非線形誘電率信号の変化分を輝度情報又は色情報に変換する手段と、前記試料台の走査位置との対応を取って前記試料表面形状を画面表示するディスプレイとを備えるものであるから、試料表面の微小な凹凸情報について鮮明に画面表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の原理を説明する図である。
【図2】非線形誘電率信号のギャップ長による変化を示すグラフ。
【図3】静的距離変化によるSNDMの出力信号変化の実測値グラフ。
【図4】動的距離変化を測定する本発明の基本構成を示す図である。
【図5】交番微小振動による出力信号を示すグラフ。
【図6】本発明を変位センサに適用した実施例を示す図である。
【図7】表面形状を画像で表示する本発明の実施例を示す図である。
【図8】本発明の基礎となる走査型非線形誘電率顕微鏡用集中定数型プローブ。
【図9】本発明の基礎となる走査型非線形誘電率顕微鏡システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
走査型非線形誘電率顕微鏡(Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy 略してSNDM)は試料に微小交番電界を印加し、それによる試料の微小容量変化を計測することによって非線形誘電率を計測しているが、この容量変化は試料と探針の距離変化に大きく依存することが分かった。いま、図1に示すように背面電極3を備えた試料(異方性誘電体物質)2の表面に空隙hを介して対峙する探針(プローブ)1を配置し、該探針1と該背面電極3との間に低周波の交番電圧を印加しつつ容量変化を検出し、その情報から非線形誘電率(SNDMの信号)を測定する。探針先端半径aで規格化した空隙H(=h/a)が生じた場合のSNDMの信号強度を映像電荷法などを用いて理論的に計算した。その結果が図2である。横軸は針先半径aで規格化した空隙の長さH、縦軸は容量変化感受率Snl(ε(2),H)であり、これは以下の式で表される。
ΔC/V=ε(3)Snl(ε(2),H) (8)
ここで、ΔCは容量変化量、Vは印加電圧、ε(2)は線形誘電率、ε(3)は非線形誘電率である。この結果から垂直方向分解能は試料の比誘電率に大きく依存し、比誘電率が大きいほど距離変化に関して高感度であることが分かる。例えば比誘電率300の試料で図中の縦軸で0.1の出力信号が検出できるとすると、針先半径の0.00001倍、つまり半径10nmの探針を用いて計測すれば0.001Å以下の分解能があることが予測できる。
静的な状態での垂直距離分解能の基礎データを取るため半径25μmのかなり太い探針を用い、探針を試料基板から少しずつ浮かせて比誘電率30のLiNbO3と比誘電率300のPZTの非線形誘電率信号を計測した。その結果は図3に示すとおりであった。これを図2の理論値とを比較してみると比誘電率300の場合、それらはほぼ一致していることが分かる。なお、比誘電率30の実測値(図示していない)は理論値より急峻であることが分かった。
【0011】
次に基板から少し離した状態でプローブを微小交番振動させ、どの程度までの距離変化に対してSNDMの感度があるかを調べた。図4がそのブロックダイアグラムである。プローブ1を試料2の表面から微小空隙を空けた状態で、圧電式の振動器4により500Hzで微小に交番振動させ、非線形誘電率信号の微小変化をFM変調器7で変調をかけてから1段目のロックインアンプ5を介して出力信号を2段目のロックインアンプ6に送信しそこで検波するという方式を採用した。その結果が図5に示される。これは試料には比誘電率30のZ−Cut LiNbO3を用い、探針の半径は25μmのものを用いている。この結果をみると、上記のように比較的小さな誘電率で、かつ大きな半径の探針を利用したにもかかわらず、この系において1Åの微小変化に対して十分な感度を持つことが確認できる。即ち、探針先端半径で規格化して議論すると探針先端半径の4×10−6倍という驚異的に小さな交番振動に対してこの系は感度を有して入ることが分かる。このことはより細い探針を用いかつ誘電率の高い試料を用いれば、走査型トンネル顕微鏡(STM)並またはそれ以上の垂直距離分解能を持つSNDMが実現可能であることを示しており、SNDMの新しいプローブ顕微法への展開や微小変位検出器への適用が可能である。
【0012】
以上の説明では本発明のSNDMで用いる誘電体は比誘電率の高い物質であることを前提としてきたが、高次非線形誘電率を計測するSNDMである場合には必ずしも誘電体は比誘電率の高い物質である必要はない。高次非線形誘電率を計測するSNDMは、試料表面に接触させる探針と試料背面間に印加された低周波の交番電界によって変化する容量を測定するときに、従来の3次の非線形誘電率では無く、それより高い非線形誘電率(例えば5次)を分離測定すると共に、針先半径の値がより小さい探針を使用することによって、平面領域的にも深さ領域的にも狭い領域の情報を検出し、高分解能の画像を得ることが出来るように構成したものである。非線形の次数が高くなるほど探針直下への集中度が高くなり、集中度が高いということはその部分の容量変化のみを検出していることである。また、ε(3)の計測では静電容量に対する検出感度が探針半径aに比例し、印加電界の強度がaに逆比例する為検出感度は探針半径に依存しなかったが、ε(5)の計測では印加電界の3乗(1/a3)に比例する為検出感度は1/a2に逆比例し、細い探針を用いる方が感度が上がるという特徴がある。非線形誘電率情報は高次となるに従い信号レベルは低くなるのであるが、それ以上に細い探針を用いることによる感度上昇が勝るのでノイズに埋もれてしまわない範囲では信号レベルの低下は問題にならない。容量変化量ΔCと印加電圧Vとの比を示す先の(8)式はn次の非線形誘電率についての一般式で次のように表現できる。
ΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3 (8')
ここで、ε(2)は線形誘電率、ε(n)はn次の非線形誘電率である。なお、本発明において探針直下の容量変化を検出するための探針近傍の電極は必ずしもリング状のものである必要はなく、ある程度の面積をもったものであればよい。
【実施例】
【0013】
[実施例1]
変位センサとしての実施例を示す。図6に示すように背面電極を備えた高い誘電率の物質からなる基板を計測器本体に対し固定すると共に、プローブを板バネを介して該基板表面に微小空隙をもって対峙するように計測器本体に固定する。この他計測器本体には図4に示した本発明の基本構成であるプローブと背面電極間に低周波の印加電圧を加える手段、FM変調器とロックインアンプリファイアと復調器がセットされる。被測定変位量はスピンドル等適宜の手段でプローブの軸方向変位として伝達される構成とする。被測定変位量の具体例としてはプローブ顕微鏡の探針の検出変位量が考えられるが、この場合本発明の超高感度変位計測手段を顕微鏡のプローブが検出した変位量を電気量に変化する変換器として適用できる。また、被測定変位量が電圧信号に変換された音響信号が印加される圧電振動素子の振動である場合は微弱音響信号の検出に適用できる。
【0014】
[実施例2]
次に、試料表面を二次元的に本発明の超高感度変位計測手段によって検出した変位量を濃淡又はカラー情報に変換して画像化する手段を付加した実施例を示す。これは所謂トポ像であり三次元情報であるが、試料表面に垂直方向の変位成分を濃淡又はカラー情報の形で表現させることで二次元画像で三次元情報を表現させるものである。図7に示すように先の実施例の変位測定に必要な構成に加え、試料台X−Y駆動機構と、復調された検出信号を輝度信号若しくは色信号に変換する手段と、ディスプレイが新たな構成として必要となる。測定対象が誘電体表面であるときはX,Y方向に主副の走査駆動がなされる試料台に被測定物を載置し、直接本発明のプローブを該被測定物の表面に対峙させる形態で、前記被測定物の背面に設置した電極と前記プローブ間に低周波数の交番電荷を印加しつつ容量変化を検出する。この容量変化がプローブ先端とその直下の試料表面との距離に対応するものであるから、この変化量をディスプレイの輝度変化若しくは色変化に変換すると共に、X−Y駆動位置情報との対応を取り画像情報としてメモリに一旦記憶し、それを読み出してラスター走査させて画像表示する。この部分の技術は電子顕微鏡等走査型顕微鏡の技術と同様である。
【0015】
[実施例3]
被測定物が誘電体で無いときは本発明の測定方式が直接適用できないので、その場合の実施例を示す。基本的には実施例1に例示した探針型のプローブ顕微鏡の変換部に本発明を適用する。試料台に載置された被測定物の表面には本発明のプローブでは無くプローブ顕微鏡の探針を接触走査させる。走査に伴い表面形状に基くプローブの変位を本発明の探針に伝達して固定的に支持された強誘電体の表面と該探針との空隙変化とし、該探針と該強誘電体背面に配設した電極間に低周波数の交番電荷を印加しつつ容量変化を検出する。検出後の信号処理は前実施例と全く同様である。この形態であれば被測定物が誘電体である必要はないので広く一般の表面形状測定が実行できる。
【符号の説明】
【0016】
1 探針(プローブ) 4 圧電式振動器
2 試料(高誘電率物質) 5,6 ロックインアンプリファイア
3 背面電極 7 FM変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面に電極を配置した誘電体表面に、微小空隙を介して対峙する導電性の針先半径の小さい探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量変化を検出するものであって、前記探針と前記誘電体の表面間に探針先端半径aで規格化した空隙H=(h/a)が生じた場合の信号強度が
ΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3
で表せることに基き、該式に容量変化量ΔC、印加電圧V、線形誘電率ε(2)、n次の非線形誘電率ε(n)の数値を代入して空隙H=(h/a)を算出するようにした超高感度空隙計測方法。
なお、上記の式においてhは実際の空隙寸法である。また、Snl(ε(2),H)は比例係数であり、線形誘電率ε(2)と規格化した空隙H及び非線形の次数nのみによって決まる。
【請求項2】
背面に電極を配置した誘電体表面に微小空隙を介して対峙する形態で、導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針と前記背面電極間の容量変化を検出する手段と、前記検出信号をFM変調する手段と、該変調信号から非線形誘電率信号の変化分を抽出する第1のロックインアンプリファイアと、該非線形誘電率信号の変化分を復調する手段と、前記探針と前記誘電体の表面間に探針先端半径aで規格化した空隙H=(h/a)が生じた場合の信号強度が
ΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3
で表せることに基き、容量変化量ΔC、印加電圧V、線形誘電率ε(2)、n次の非線形誘電率ε(n)の数値を入力して上式より空隙H=(h/a)を算出する手段とを備えた超高感度空隙計測方式。
なお、上記の式においてhは実際の空隙寸法である。また、Snl(ε(2),H)は比例係数であり、線形誘電率ε(2)と規格化した空隙H及び非線形の次数nのみによって決まる。
【請求項3】
背面電極を配置した比誘電率の高い物質を固定し、該誘電体表面に微小空隙を介して対峙する形態で、変位が伝達される導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量変化を検出する手段と、前記探針と前記誘電体の表面間に探針先端半径aで規格化した空隙H=(h/a)が生じた場合の信号強度が
ΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3
で表せることに基き、容量変化量ΔC、印加電圧V、線形誘電率ε(2)、n次の非線形誘電率ε(n)の数値を入力して上式より空隙H=(h/a)を算出する手段とを具備した超高感度変位計測センサ。
なお、上記の式においてhは実際の空隙寸法である。また、Snl(ε(2),H)は比例係数であり、線形誘電率ε(2)と規格化した空隙H及び非線形の次数nのみによって決まる。
【請求項4】
二次元的に駆動走査される試料台上の試料表面形状に対応する変位量を、背面に電極を配置した誘電体表面に微小空隙を介して対峙する形態で、導電性の探針を配設し、前記誘電体に対して表面に垂直方向に低周波の交番電界を印加しつつ前記探針直下の容量変化を検出する手段と、前記検出信号から非線形誘電率信号の変化分を抽出する手段と、前記探針と前記誘電体の表面間に探針先端半径aで規格化した空隙H=(h/a)が生じた場合の信号強度が
ΔC/Vn−2=ε(n)Snl(ε(2),H)/an−3
で表せることに基き、容量変化量ΔC、印加電圧V、線形誘電率ε(2)、n次の非線形誘電率ε(n)の数値を入力して上式より空隙H=(h/a)を算出する手段と、該空隙値の変化分を輝度情報又は色情報に変換する手段と、該空隙値の変化分について前記試料台の走査位置との対応を取って前記試料の表面形状を画面表示するディスプレイとを備える走査型非線形誘電率顕微鏡。
なお、上記の式においてhは実際の空隙寸法である。また、Snl(ε(2),H)は比例係数であり、線形誘電率ε(2)と規格化した空隙H及び非線形の次数nのみによって決まる。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−75571(P2011−75571A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262279(P2010−262279)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【分割の表示】特願2001−119944(P2001−119944)の分割
【原出願日】平成13年4月18日(2001.4.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年8月24日 平成12年度電気関係学会東北支部連合大会実行委員会発行の「平成12年度 電気関係学会東北支部連合大会 講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年9月19日 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年9月20日 日本音響学会発行の「2000年秋季研究発表会 講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年9月3日 応用物理学会発行の「第61回応用物理学会学術講演会」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年10月6日 第21回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム運営委員会発行の「USE 2000」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年12月7日 応用物理学会薄膜・表面物理分科会発行の「薄膜・表面物理分科会特別研究会 走査型プローブ顕微鏡(14)アジアSPM(3)」に発表
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【出願人】(501077767)
【Fターム(参考)】