説明

走行式荷役機械の縮小試験装置

【課題】簡略な形状で、走行式荷役機械全体の動的応答と脚の浮き上がり挙動を精度良く再現して試験できるようにする。
【解決手段】上部本体の下部の前後に脚を備えてレール上を走行し前部側に重心を有している走行式荷役機械の縮小試験装置であって、走行式荷役機械の上部本体を模擬するマス51と、マス51を支持する前後の脚F,Rとを有し、マス51の重心Wに近い前部に固定した脚Fは下端が振動台52上にヒンジ53で連結された回動脚54a,54bであり、マス51の重心Wから遠い後部に固定された脚Rは下端が振動台52上に当接した浮脚55であり、走行式荷役機械に対して1次振動特性、重心位置、総質量、脚間距離の相似則が満たされるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾に備えられるコンテナクレーン、或いは連続アンローダ等のように平行な2本のレール上を走行するように設けられる大型の走行式荷役機械において、地震の発生時に、レール延設方向と直角方向(前後方向)の水平力によって走行式荷役機械がロッキングを起こし、脚部がレールから浮き上がることにより脱輪するような走行式荷役機械の挙動を、簡単且つ小型の装置によって精度良く再現して試験できるようにした走行式荷役機械の縮小試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾等においては、コンテナ等の船荷の積み込み、積み降ろしのための大型のコンテナクレーンが使用されている。
【0003】
図6は、港湾で使用されるコンテナクレーン(以下では単に走行クレーンと称す)の一般的な構成例を示す概略側面図である。図6において、港湾に面した岸壁10には、海側のレール11(前部レール)と陸側のレール12(後部レール)が設けられている。走行クレーン1は、トラス構造の架台2と、荷の積み込み等を行うガーダ3、トロリ4等を有するクレーン部5とからなる上部本体6を有しており、該上部本体6の架台2の下部に設けた水平部材2aの海側(前部)と陸側(後部)には、夫々が対をなした前部脚7と後部脚8が設けてあり、前部脚7と後部脚8の下端に設けた車輪9によって、前記走行クレーン1はレール11,12上を走行するようになっている。
【0004】
一般に走行クレーン1の前部脚7と後部脚8は、上部本体6に対して固定された剛脚構造となっているが、海側の前部脚7が水平部材2aに対してレール11,12と平行な枢支ピンを中心に前後に揺動可能に枢支された揺脚構造の場合もある。このような揺脚構造とすると、走行クレーン1はロッキングを起こし難くなり、更に、海側の前部脚7が折れ曲がることによって海側のレール11に対する水平負荷を低減し、これによって海に近く強度的に弱い岸壁10の崩壊を防止する効果が期待される。
【0005】
地震の発生によって走行クレーン1に、例えばレール11,12の延設方向に水平力が作用した場合には、走行クレーン1はレール11,12上を滑ることになり、これによって大きな被害の発生は免れることができる。
【0006】
しかし、地震の発生によって走行クレーン1に、レール11,12の延設方向と直角の前後方向に大きな水平力Sが作用した場合には、前記したように前部脚7と後部脚8が剛脚構造の場合は勿論のこと、海側の前部脚7が上部本体6に対して揺脚構造となっている場合においても、脚7,8がレール11,12によって拘束されていることにより、走行クレーン1は前後に揺動し、遂には走行クレーン1がロッキングを起こす問題がある。特に図6の走行クレーン1は重心が海側(前部)となっているために、走行クレーン1がロッキングを起こすことによって後部脚8の車輪9がレール12から浮き上がる現象が生じ、これによって脱輪したり、更には浮き上がり後の着地時の衝撃によって後部脚8が座屈する、或いは後部脚8の浮き上がりにより走行クレーン1の全重量が前部脚7に掛ることによって前部脚7が座屈して走行クレーン1が海側へ前のめりに倒壊するといった問題を生じることが考えられる。
【0007】
近年の地震頻発状況の中、コンテナクレーンのような大型の走行クレーン等を設計する際に、脚の浮き上がりを含む動的挙動を検証できる装置の開発が急務となっている。このため、コンテナクレーンのような大型の走行クレーン等のサイズを縮小した縮小試験体を製作して脚の浮き上がりを含む動的挙動を検証することが考えられている。
【0008】
例えば、簡易にクレーン操作に係る危険性を確認できるようにしたクレーン模擬実験装置が特許文献1に示されている。
【特許文献1】特開2003−081580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、コンテナクレーンのような大型の走行クレーン等のサイズを縮小した縮小試験装置(模型)を製作する場合には、相似則を正確に満たすことが技術的に非常に困難であった。
【0010】
例えば30メートル級の前記走行クレーン1において、50分の1の縮尺比を有する縮小試験装置を作成する場合に必要とされる相似則を表1に示す。
【表1】

【0011】
表1に示すように、実機と同じ地球上で試験を実施するため、加速度の縮尺比は実機と模型で1対1である。同様に、模型は実機と同じ材質を使用して製作し、応力度(ヤング率)の縮尺比は実機と模型で1対1にする。これら以外の項目については、表1に示すとおりの縮尺比に合わせる必要がある。
【0012】
しかし、前記走行クレーン1等の形状を模擬した構成部材の質量分布と断面二次モーメントの両者については、相似則を満たすことが非常に厳しいのが現状である。なお、装置全体の質量(総質量)は実機と模型では縮尺比1/nを満たすことはできる。
【0013】
前記走行クレーン1等の上部本体6は、長いガーダ3や複雑なトラス構造を有しているため、前記上部本体6の各構成部材について前記表1の相似則の各要件を満たす縮小試験体を製作しようとすると、設計、製造に非常に多くの時間と手間が掛るという問題があると共に、各構成部材において相似則が満たされていないために製作した縮小試験体全体としての相似則が満たされずに予定と大きくずれてしまうという問題がある。このために、相似則が満たされた縮小試験体を作ろうとした場合には、縮小試験体が非常に大型になってしまい、装置の価格が増大すると共に、実験設備による実験に制限が掛ってしまい実用的でなくなる問題があり、又、小型の縮小試験体を製作しようとすると前記したように相似則を満たすことができないため、実用に供し得られる走行クレーン等の走行式荷役機械の縮小試験体を実際に製作することは困難であった。
【0014】
本発明は、走行式荷役機械の脚の浮き上がり挙動に関連するモードに着目し、簡略な形状で、走行式荷役機械全体の動的応答と脚の浮き上がり挙動を精度良く再現して試験できるようにした走行式荷役機械の縮小試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上部本体の下部の前後に脚を備えてレール上を走行し前部側に重心を有している走行式荷役機械に対し、前後方向の振動が作用した時の走行式荷役機械の挙動を試験するための走行式荷役機械の縮小試験装置であって、
走行式荷役機械の上部本体を模擬するマスと、該マスを支持する前後の脚とを有し、
マスの重心に近い前部に固定した脚は下端が振動台上にヒンジ連結された回動脚であり、マスの重心から遠い後部に固定された脚は下端が振動台上に当接した浮脚であり、走行式荷役機械に対して1次振動特性、重心位置、総質量、脚間距離の相似則が満たされている、
ことを特徴とする走行式荷役機械の縮小試験装置、に係るものである。
【0016】
上記走行式荷役機械の縮小試験装置において、前記回動脚が2本であり、浮脚が1本であることは好ましい。
【0017】
又、上記走行式荷役機械の縮小試験装置において、前記振動台上に浮脚の下端が嵌合する後部レールを有することは好ましい。
【0018】
又、上記走行式荷役機械の縮小試験装置において、前記ヒンジに代えて、回動脚の下端が嵌合する前部レールを振動台上に有することは好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の走行式荷役機械の縮小試験装置は、走行式荷役機械の上部本体を模擬するマスと、該マスを支持する前後の脚とを有し、マスの重心に近い前部に固定した脚は下端が振動台上にヒンジ連結された回動脚であり、マスの重心から遠い後部に固定された脚は下端が振動台上に当接した浮脚であり、走行式荷役機械に対して1次振動特性、重心位置、総質量、脚間距離の相似則が満たされ、振動台による加速度の付与により振動し、重心の応答加速度が浮き上がり限界加速度を超えると浮脚が浮き上がるようになるので、簡単な構成によって、走行式荷役機械全体の動的応答と脚の浮き上がり挙動を精度良く再現して試験できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図中50は、30メートル級の図6に示した走行クレーン1の実機に対して50分の1の縮尺比を有して製作した縮小試験装置である。この縮小試験装置50は、地震によって走行クレーン1に発生する挙動にうち、脚の浮き上がり挙動に関連するモードのみに制限して試験するようにしたものであり、前記縮小試験装置50は、実機に対応した重心Wを有するマス51と、マス51の重心Wに近い前部に固定した脚Fとマス51の重心Wから遠い後部に固定し脚Rとを有し、前部脚Fの下端は振動台52上にヒンジ53により連結された回動脚54a,54bとし、後部脚Rは下端が振動台52上に当接した浮脚55としてあり、振動台52により前後方向へ水平力Sを付与することによって、回動脚54a,54bを介してマス51に振動を与えられるように構成している。
【0022】
図1のように簡略化した縮小試験装置50においては、相似則を満たすための設定要件を縮小することができる。
【0023】
即ち、縮小試験装置50では、製作に必要な設定要件である1次振動特性である前後方向固有振動数及び前後方向周期、重心位置、質量、脚間距離の相似則をすべて満たすことができる。ここで、2次以降の振動特性はこの発明の浮き上がり挙動には影響しないため、1次振動特性のみを設定した。尚、前記回動脚54a,54b及び浮脚55については表1に示される質量及び断面二次モーメントの相似則を満たすことは困難であるが、本発明では、脚の浮き上がり挙動に関連するモードのみに制限したために、質量及び断面二次モーメントは脚の浮き上がり挙動に寄与する1次振動特性から設定するため相似則からは外すことができ、よって縮小試験装置50は、満足できる相似則を達成することができた。
【0024】
前記脚F,Rは、実機と同様に対で2本ずつ備えるようにしてもよいが、図1の例では回動の支点となる回動脚54a,54bは2本とし、浮脚を2本とした場合には、浮き上がり挙動及び着地挙動にずれを生じて計測が複雑になるため、1本の浮脚55とすることによって計測の簡素化を図っている。
【0025】
前記振動台52の近傍には、浮脚55の浮き上がり挙動を計測するために浮脚55に設けた突出片56との距離を計測するレーザ変位計或いはカメラ等からなる浮き上がり挙動検出器57、及び浮脚55の前後の変位を計測するためのレーザ変位計等の前後変位検出器58、及び浮脚55が振動台52上に着地する際に生じる衝撃力を計測するためのロードセル、歪みゲージ等の衝撃荷重検出器59、及び浮脚55の浮き上がりの大きさに応じて回動脚54a,54bに掛る荷重の大きさを計測するためのロードセル、歪みゲージ等の荷重検出器59'等を備えている。
【0026】
図1に示す縮小試験装置50の作動を説明する。
【0027】
振動台52を前後に振動させて水平力Sを作用させると、ヒンジ53及び回動脚54a,54bを介してマス51に振動が伝達されて、縮小試験装置50は前後に振動するようになる。この時、前後変位検出器58により浮脚55の前後の変位を計測することにより、振動の加速度の大きさに対する浮脚55の前後の変位量を計測することができる。
【0028】
付与する振動の加速度を増加していくと、縮小試験装置50の重心Wの応答加速度が浮き上がり限界加速度を超えるところで浮脚55が図2のように浮き上がるようになる。この時、縮小試験装置50は重心Wに近い側の回動脚54a,54bを中心にして重心Wから遠い側の浮脚55が浮き上がる挙動を生じることになるが、回動脚54a,54bのみをヒンジ53によって振動台52に拘束しているので、浮脚55のみが確実に浮き上がるようになる。従って、浮き上がり挙動検出器57によって浮脚55の浮き上がりを計測することにより、振動の加速度の大きさに対する浮脚55の浮き上がり挙動を計測することができ、このとき、回動脚54a,54bにロードセル、歪みゲージ等の荷重検出器59'を設けておくことにより、浮脚55の浮き上がりの大きさに応じて回動脚54a,54bに掛る荷重の大きさを計測することができる。同時に、前後変位検出器58により浮き上がった際の浮脚55の前後方向における変位量が計測される。
【0029】
更に、上記したように浮き上がった浮脚55が着地する際には、衝撃力を受けることになるが、この衝撃力は衝撃荷重検出器59によって計測される。
【0030】
従って、前後変位検出器58により計測した浮き上がった浮脚55の前後方向のずれから脱輪を予測することができ、更に、衝撃荷重検出器59によって計測される浮脚55が着地する際の衝撃力から浮脚55の座屈を予測することができる。
【0031】
図3、図4は、上記縮小試験装置50において、前記浮脚55の下端に嵌合する後部レール60を、回動脚54a,54bと平行に振動台52上に固定した場合を示している。図3の形態によれば、浮脚55の浮き上がりの挙動によって浮脚55が後部レール60から外れる脱輪の挙動を再現させて計測することができる。
【0032】
図5は、前記ヒンジ53に代えて、回動脚54a,54b側の振動台52上にも、回動脚54a,54bの下端が嵌合する前部レール61を設けた場合を示している。図5の形態によれば、浮脚55の浮き上がり挙動、及び浮脚55が後部レール60から外れる脱輪の挙動を更に実機に則した状態で計測することができる。
【0033】
なお、上記形態では、走行式荷役機械がコンテナクレーンによる走行クレーンである場合について説明したが、コンテナクレーン以外の連続アンローダ等、レール上を走行して荷役を行う走行式荷役機械に適用できること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の形態の一例としての走行式荷役機械の縮小試験装置の全体概要を示す斜視図である。
【図2】縮小試験装置の浮脚が浮き上がった状態を示す側面図である。
【図3】本発明の形態の他の例を示す斜視図である。
【図4】浮脚と後部レールが勘合している状態を示す側面図である。
【図5】本発明の形態の更に他の例を示す斜視図である。
【図6】コンテナクレーンの一般的な構成例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 走行クレーン(走行式荷役機械)
6 上部本体
7 前部脚(脚)
8 後部脚(脚)
11 レール
12 レール
50 縮小試験装置
51 マス
52 振動台
53 ヒンジ
54a,54b 回動脚
55 浮脚
60 後部レール
61 前部レール
F 前部脚
R 御部脚
S 水平力(振動)
W 重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部本体の下部の前後に脚を備えてレール上を走行し前部側に重心を有している走行式荷役機械に対し、前後方向の振動が作用した時の走行式荷役機械の挙動を試験するための走行式荷役機械の縮小試験装置であって、
走行式荷役機械の上部本体を模擬するマスと、該マスを支持する前後の脚とを有し、
マスの重心に近い前部に固定した脚は下端が振動台上にヒンジ連結された回動脚であり、マスの重心から遠い後部に固定された脚は下端が振動台上に当接した浮脚であり、走行式荷役機械に対して1次振動特性、重心位置、総質量、脚間距離の相似則が満たされている、
ことを特徴とする走行式荷役機械の縮小試験装置。
【請求項2】
前記回動脚が2本であり、浮脚が1本である請求項1に記載の走行式荷役機械の縮小試験装置。
【請求項3】
前記振動台上に浮脚の下端が嵌合する後部レールを有する請求項1又は2に記載の走行式荷役機械の縮小試験装置。
【請求項4】
前記ヒンジに代えて、回動脚の下端が嵌合する前部レールを振動台上に有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の走行式荷役機械の縮小試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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