説明

超伝導素子、超伝導集積回路及び超伝導素子の製造方法

【課題】工程数の増大や製造プロセスの複雑化を伴わず、製造コストが低く、且つジョセフソン接合の接合面積Sの微小化が容易な超伝導素子、この超伝導素子を用いた超伝導集積回路及び超伝導素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 負荷32と、この負荷32に電気的に接続された下部電極配線33、この下部電極配線33に接したトンネル・バリヤ膜41、垂直側壁を有しこのトンネル・バリヤ膜41に接した上部電極42を備えたジョセフソン接合と、上部電極42の垂直側壁に接した内壁を有して上部電極42の周囲を囲み、内壁に直交する平坦な平面からなる上面を有し、上部電極42より厚い第1の層間絶縁膜16とを備える。第1の層間絶縁膜16の上面は、内壁から少なくとも上部電極42の上面の最大寸法分離れた範囲内において、上部電極42の厚みの±1/20の平坦度で平坦である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導素子、この超伝導素子を用いた超伝導集積回路及び超伝導素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ネットワークトラフィックは増大の一途をたどっている。これらの大量の情報を処理する手段には、現在半導体デバイスが用いられ、その進歩は著しい。しかしながら半導体デバイスを用いたコンピュータのCPUの動作速度はここ数年、頭打ちになっている。即ち、これからますます増大する情報を処理するには、半導体デバイスに代わる新しいデバイスが必要とされる。その新デバイスの候補の一つに、超伝導体を用いたデバイスが挙げられる。超伝導体デバイスは、高速、低消費電力などの半導体デバイスではなし得ない、高いポテンシャルを有する。既にこれまで、超伝導集積回路を用いたマイクロプロセッサの開発とその動作が報告されている。
【0003】
超伝導体を用いた集積回路におけるキーデバイスは、2つの超伝導体間に非常に薄い絶縁層を挟んだジョセフソン接合である。図13にジョセフソン接合の電流−電圧特性を示す。図13に示す通り、接合はヒステリシスな特性を有する。このジョセフソン接合をスイッチングデバイスとして用いる場合、0mVで観測される電流であるジョセフソン臨界電流Icを“0”(超伝導状態)、バイアス電圧Vg=2Δ/q以上で観測される状態を“1”(常伝導状態)とする。ここで2Δは、超伝導エネルギーギャップである。この“0”と“1”のスイッチング速度が非常に速い(数psec)ことがジョセフソン接合の大きな利点である。ここでジョセフソン接合のスイッチング速度を向上するためには、Cをジョセフソン接合の容量、Rnをジョセフソン臨界電流Ic以上の電流を印加した時に発生する抵抗値(常伝導状態の抵抗値)、Sをジョセフソン接合の面積、tをジョセフソン接合の厚み、として、
CRn =ε0ε(S/t)×(πΔ/2Icq) ・・・・・(1)
で定義される時定数CRnを小さくすれば良いことになる。そのためには(1)式の右辺に着目し、ジョセフソン臨界電流(ジョセフソン接合を流れる電流密度)Icを大きくする、又はジョセフソン接合の面積Sを小さくするという解が与えられる。ジョセフソン臨界電流Icは一定とすれば、接合面積Sを小さくしなければならない。ここでのスイッチング方式はラッチングと呼ばれる。
【0004】
又、他の超伝導スイッチングデバイスとして、単一磁束量子(Single Flux Quantum:SFQ)論理がある。図14にSFQ論理回路の動作原理を示す。図14に示す通り、SFQ論理回路にもジョセフソン接合は利用される。SFQ 論理は超伝導特性の一つ、磁束の量子化に従い、ループ内に保持される磁束の有無で“1”と“0”を表現する。ここでループ内を磁束が出入りする瞬間だけ、ジョセフソン接合の両端に電圧が発生する。このパルス幅が接合のスイッチング速度と定義できる。
【0005】
表1に、それぞれのパラメータ、ならびにジョセフソン臨界電流Icを一定とした際の接合面積Sと超伝導集積回路の動作速度の関係を示す。
【表1】

【0006】
表1より、ジョセフソン接合の接合面積Sの微小化は、動作速度の向上に不可欠であることが分かる。視点を変えれば、ジョセフソン接合製造における微小化が可能となれば動作速度を上げることが可能ということである。
【0007】
接合面積Sの微小なジョセフソン接合を製造するための手法には、リフトオフ法やエッチバック法などが用いられる。図15及び16に、リフトオフ法を用いた微小接合製造方法を示す。なお、図15及び図16では、第2レベルの層間絶縁膜14が、模式的に最下層として示されているが、単なる説明の便宜上の表現であり、現実には、第2レベルの層間絶縁膜14の下には、図示を省略した第1レベルの層間絶縁膜等種々の構造が存在する。図15のリフトオフ法は、おおよそ以下の手順でなされる:
(イ)第2レベルの層間絶縁膜14の上に、厚さ300nmのNb膜からなる下部電極配線33、この下部電極配線33の上に厚さ7nmのAlOx 膜、このAlOx 膜の上に厚さ300nmのNb膜、このNb膜の上に厚さ100nmのAl膜を順に形成する。そして、反応性イオンエッチング(RIE)法を用いて、レジスト膜68をエッチング・マスクとし、Al膜、Nb膜及びAlOx 膜を連続的にエッチングし、図15(a)に示すように、上部電極キャップ層71、上部電極42及びトンネル・バリヤ膜41の微細パターンを形成する。
【0008】
(ロ)その後、図15(b)に示すように、エッチング・マスクとして用いたレジスト膜68を上部電極キャップ層71上に残留させたまま、スパッタリング法等を用いて、全面に厚さ500nmのSiO2 からなる第3レベルの層間絶縁膜66を形成する。その後、レジスト膜68を除去してリフトオフ工程を行い、更に上部電極キャップ層71を除去すれば、図15(c)に示すように、上部電極42の周囲を第3レベルの層間絶縁膜66からなるカルデラ崖が囲む構造が形成される。
【0009】
(ハ)この状態で、更にスパッタリング法等を用いて、全面に厚さ600nmのNb膜を形成し、リソグラフィ技術に於けるレジスト・プロセスを適用して、配線のパターンをもったレジスト膜を形成し、RIE法を用いて、レジスト膜をエッチング・マスクとして、厚さ600nmのNb膜のパターニングを行えば、図15(d)に示すように上部電極配線17が形成される。しかし、図15(d)に示すように上部電極配線17の構造は、凹凸の激しい断面形状となる。
【0010】
図15(c)に示すようなカルデラ崖の形成を防ぐには、図16に示す工程のように、リフトオフ工程時の第3レベルの層間絶縁膜66を比較的薄く形成する方法もあり得る:
(イ)図16(a)は、図15(a)と同様に、第2レベルの層間絶縁膜14の上に、厚さ300nmの下部電極配線33が形成され、この下部電極配線33の上に、トンネル・バリヤ膜41、上部電極42、上部電極キャップ層71及びレジスト膜68のパターンが順に形成された状態を示す。
【0011】
(ロ)その後、レジスト膜68を上部電極キャップ層71上に残留させたまま、スパッタリング法又は電子ビーム(EB)蒸着法を用いて、図15(b)より薄めに、例えば厚さ300nmのSiO2 からなる第3レベルの層間絶縁膜66を全面に形成する。しかし、この場合、図16(b)に示すように、レジスト膜68の上の第3レベルの層間絶縁膜66にオーバーハングが生じて、上部電極42の側壁に、第3レベルの層間絶縁膜66のV型の間隙が形成される。したがって、その後、レジスト膜68を除去してリフトオフ工程を行い、更に上部電極キャップ層71を除去すれば、図16(c)に示すように、上部電極42の側壁と第3レベルの層間絶縁膜66との間にV型の溝部が形成される。図17に示すSEM写真は、典型的な例である。
【0012】
(ハ)この状態で、更にスパッタリング法又は電子ビーム(EB)蒸着法を用いて、全面に厚さ600nmのNb膜を形成し、リソグラフィ技術に於けるレジスト・プロセスを適用して、配線のパターンをもったレジスト膜を形成し、RIE法を用いて、レジスト膜をエッチング・マスクとして、厚さ600nmのNb膜のパターニングを行えば、上部電極配線17が形成される。しかし、図15(d)と同様、図16(d)に示すように凹凸の激しい断面形状となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図15〜図17に示した通り、リフトオフ法を用いた場合、第3レベルの層間絶縁膜66のカルデラ崖や上部電極42の側壁と第3レベルの層間絶縁膜66との間のV型の溝部が形成され、凹凸の激しい断面形状となり、ジョセフソン接合の接合面積Sの微小化を困難にしている。この事情は、RIEによる第3レベルの層間絶縁膜66のエッチバックを用いても、図15(b)や図16(b)に示すような断面形状に第3レベルの層間絶縁膜66が形成される場合には回避できないので、リフトオフ法固有の問題でもない。更に、RIEによる第3レベルの層間絶縁膜66のエッチバックの場合は、プラズマの過剰エネルギーによるダメージの問題が追加される。
【0014】
図15(b)や図16(b)に示すような断面形状に第3レベルの層間絶縁膜66が形成されるのを回避するためには、何らかの平坦化工程の追加が必用になり、工程数が増大し、製造プロセスが複雑化する問題がある。例えば、第3レベルの層間絶縁膜66を図15(b)に示すより更に厚く堆積し、その後化学的機械研磨(CMP)により、機械的に平坦化する方法もあるが、CMP装置は非常に高価な装置であり、且つ平坦化を行う際の機械的ストレスが、接合へダメージを与える問題がある。且つ、CMP工程に伴う、パラメータが増大するので、製造プロセスが複雑化し、製造コストが増大する問題がある。
【0015】
上記問題を鑑み、本発明は、工程数の増大や製造プロセスの複雑化を伴わず、製造コストが低く、且つジョセフソン接合の接合面積Sの微小化が容易な超伝導素子、この超伝導素子を用いた超伝導集積回路及び超伝導素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、(イ)下部電極配線、この下部電極配線に接したトンネル・バリヤ膜、垂直側壁を有しこのトンネル・バリヤ膜に接した上部電極を備えたジョセフソン接合と、(ロ)上部電極の垂直側壁に接した内壁を有して上部電極の周囲を囲み、内壁に直交する平坦な平面からなる上面を有し、上部電極より厚い層間絶縁膜とを備え、層間絶縁膜の上面は、内壁から少なくとも上部電極の上面の最大寸法分離れた範囲内において、上部電極の厚みの±1/20の平坦度で平坦である超伝導素子であることを特徴とする。「上部電極の上面の最大寸法」とは、上部電極が真円であれば直径、楕円であれば長径、矩形であれば対角線長を意味する。
【0017】
本発明の他の態様は、(イ)負荷と、(ロ)この負荷に電気的に接続された下部電極配線、この下部電極配線に接したトンネル・バリヤ膜、垂直側壁を有しこのトンネル・バリヤ膜に接した上部電極を備えたジョセフソン接合と、(ハ)上部電極の垂直側壁に接した内壁を有して上部電極の周囲を囲み、内壁に直交する平坦な平面からなる上面を有し、上部電極より厚い第1の層間絶縁膜とを備え、第1の層間絶縁膜の上面は、内壁から少なくとも上部電極の上面の最大寸法分離れた範囲内において、上部電極の厚みの±1/20の平坦度で平坦である超伝導集積回路であることを特徴とする。負荷は、抵抗、コンデンサ、インダクタ等の受動的な負荷でも良く、ジョセフソン接合素子のような活性な負荷でも良い。
【0018】
本発明の更に他の態様は、(イ)下部電極配線の上に、トンネル・バリヤ膜、上部電極及び上部電極キャップ層が順に積層された積層体を形成するステップと、(ロ)この積層体の全体を含むように、ポリイミド膜をこの積層体の厚さよりも厚くスピン塗布するステップと、(ハ)上部電極キャップ層が表出するまで、ポリイミド膜を全面にわたってエッチングするステップと、(ニ)表出した上部電極キャップ層を除去するステップとを含む超伝導素子の製造方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、工程数の増大や製造プロセスの複雑化を伴わず、製造コストが低く、且つジョセフソン接合の接合面積Sの微小化が容易な超伝導素子、この超伝導素子を用いた超伝導集積回路及び超伝導素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。又、第1及び第2の実施の形態で例示的に記述した各層の厚さや寸法等も限定的に解釈すべきではなく、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0021】
又、以下に示す第1及び第2の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路は、負荷32と、この負荷32に電気的に接続された下部電極配線33、この下部電極配線33に接したトンネル・バリヤ膜41、垂直側壁を有しこのトンネル・バリヤ膜41に接した上部電極42を備えたジョセフソン接合と、上部電極42の垂直側壁に接した内壁を有して上部電極42の周囲を囲み、内壁に直交する平坦な平面からなる上面を有し、上部電極42より厚い第1の層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16とを備える。ここで、第1の層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16の上面は、内壁から少なくとも上部電極42の上面の最大寸法分離れた範囲内において、上部電極42の厚みの±1/20の平坦度で平坦である。「上部電極の厚みの±1/20の平坦度」とは、上部電極の厚みが400nmであれば、±20nmの平坦度で平坦であるという意味である。即ち、この場合は、断面曲線の平均線に対して、JISB O601−1994が定義する「算術平均粗さRa」が20nmの平坦度であれば良い。より好ましくは、上部電極42の厚みの±1/40の平坦度で平坦であれば良く、更に好ましくは上部電極42の厚みの±1/60の平坦度で平坦であれば良い。既に述べたように、「上部電極の上面の最大寸法」とは、上部電極が真円であれば直径、楕円であれば長径、矩形であれば対角線長を意味するので、例えば、接合面積S=1μm×1μmの矩形の場合、上部電極の上面の最大寸法は、約1.4μmとなる。この場合、少なくとも、上部電極42の周りを囲む幅約1.4μmの額縁状の範囲が±1/20の平坦度であれば良いということになる。
【0023】
より具体的には、図1に示すように、シリコン(Si)基板等の基板11の上に、例えば厚さ300nmのNb膜からなるグランド・プレーン12が配置されている。このグランド・プレーン12に、例えば厚さ300nmのシリコン酸化膜(SiO2) からなる第1レベルの層間絶縁膜(第3の層間絶縁膜)13が配置されている。第1レベルの層間絶縁膜(第3の層間絶縁膜)13の上に、例えば厚さ50nmのMo膜からなる薄膜抵抗体32が配置され、本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の負荷抵抗を構成している。負荷抵抗としての薄膜抵抗体32の上に例えば厚さ50nmのSiO2からなる第2レベルの層間絶縁膜(第2の層間絶縁膜)14が配置されている。第2レベルの層間絶縁膜(第2の層間絶縁膜)14の上に、例えば厚さ300nmのNb膜からなる下部電極配線33が、第2レベルの層間絶縁膜(第2の層間絶縁膜)14中に設けられたコンタクトホール(ビアホール)を介して薄膜抵抗体32に接続されるように配置されている。下部電極配線33は、第1レベルの層間絶縁膜(第3の層間絶縁膜)13及び第2レベルの層間絶縁膜(第2の層間絶縁膜)14とを誘電体層として、グランド・プレーン12との間でマイクロストリップラインを構成している。
【0024】
なお、一部の下部電極配線33は、第1レベルの層間絶縁膜(第3の層間絶縁膜)13中に設けられたコンタクトホール中に埋め込まれたビアプラグ(コンタクトプラグ)31を介してグランド・プレーン12に接続され、接地されている。
【0025】
下部電極配線33の上の一部には、下部電極配線33に接して、厚さ100nm程度のAlOx 膜からなるトンネル・バリヤ膜41のパターンが、選択的に形成されている。トンネル・バリヤ膜41の上、及びトンネル・バリヤ膜41が存在しない箇所の下部電極配線33の上には、ポリイミド膜からなる平坦な第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)16が配置されている。この第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)16には、図15(c)に示すようなカルデラ崖や図16(c)に示すような上部電極42の側壁と第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)66との間の溝部は存在しない。
【0026】
平坦な第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)16の一部に設けられた開口部には、トンネル・バリヤ膜41に接するように、例えば厚さ300nmのNb膜からなる上部電極42が埋め込まれている。この結果、下部電極配線33と、下部電極配線33に接したトンネル・バリヤ膜41と、トンネル・バリヤ膜41に接した上部電極42とでジョセフソン接合が構成されている。下部電極配線33/トンネル・バリヤ膜41/上部電極42との積層構造であるジョセフソン接合の少なくとも一部を囲む第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)16の上面には、図15(c)に示すようなカルデラ崖や図16(c)に示すような上部電極42の側壁と第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)66との間の溝部は存在せず、上部電極42の厚みの±1/20の平坦度で平坦である。層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)16の上面のジョセフソン接合の近傍が平坦であるので、ジョセフソン接合の接合面積Sの微細化や、ジョセフソン接合が占有する面積の効率化が容易である。
【0027】
更に、平坦な第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)16上には、例えば厚さ400nmのNb膜からなる上部電極配線17が上部電極42に電気的に接続されて、配置されている。上部電極配線17は、第1レベルの層間絶縁膜(第3の層間絶縁膜)13、第2レベルの層間絶縁膜(第2の層間絶縁膜)14及び第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)66とを誘電体層として、グランド・プレーン12との間でマイクロストリップラインを構成している。特に、第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)66の平坦性が優れているため、第1レベルの層間絶縁膜(第3の層間絶縁膜)13、第2レベルの層間絶縁膜(第2の層間絶縁膜)14及び第3レベルの層間絶縁膜(第1の層間絶縁膜)66の全体の厚さを基板11の全面にわたり均一に維持できる。
【0028】
上部電極配線17の上には、例えば厚さ500nmのSiO2 からなる第4レベルの層間絶縁膜18が配置され、第4レベルの層間絶縁膜18の上には、例えば厚さ500nmのAl膜からなる表面配線層19が配置されている。表面配線層19は、第4レベルの層間絶縁膜18中に開口されたコンタクトホール中に埋め込まれたビアプラグ(コンタクトプラグ)54を介して上部電極配線17に電気的に接続されている。
【0029】
図1に示した超伝導集積回路に用いたジョセフソン接合素子と同様に、厚さ300nm程度のNb膜からなる下部電極配線33と、厚さ100nm程度のAlOx 膜からなるトンネル・バリヤ膜41と、厚さ300nm程度のNb膜からなる上部電極42とからなる積層構造を、ポリイミド膜からなる平坦な第3レベルの層間絶縁膜16で囲んだ構造のジョセフソン接合素子を、4.2K に冷却して電流−電圧特性を観測した結果を図2に示す。接合面積Sは3μm×3μmであり、図2(a)の縦軸は100μA/目盛で表した電流値、横軸は1mV/目盛で表した電圧値である。同様に、図2(b)の縦軸は5μA/目盛で表した電流値、横軸は1mV/目盛で表した電圧値であり、図2(a)の電流スケールを拡大して示す電流−電圧特性である。
【0030】
一方、本発明の第1の実施の形態に係るジョセフソン接合素子の比較例として、厚さ300nm程度のNb膜からなる下部電極配線33と、厚さ100nm程度のAlOx 膜からなるトンネル・バリヤ膜41と、厚さ300nm程度のNb膜からなる上部電極42とからなり、接合面積Sは3μm×3μmである同一構造の素子を、従来技術、即ち、フォトマスクを用いて、リソグラフィ技術で形成した場合のジョセフソン接合素子を、4.2K に冷却して電流−電圧特性を観測した結果を図3に示す。比較例として図3に電流−電圧特性を示す従来技術に係るジョセフソン接合素子では、下部電極配線/トンネル・バリヤ膜/上部電極からなる積層構造を、SiO2からなるからなり、平坦性に劣る第3レベルの層間絶縁膜で囲んだ構造である。図3(a)の縦軸は100μA/目盛で表した電流値、横軸は1mV/目盛で表した電圧値である。同様に、図3(b)の縦軸は50μA/目盛で表した電流値、横軸は1mV/目盛で表した電圧値であり、図3(a)の電流スケールを拡大して示す電流−電圧特性である。図2(b)の縦軸の電流スケールは、図3(b)の電流スケールの縦軸の10倍に拡大されている。
【0031】
本発明の第1の実施の形態に係るジョセフソン接合素子と、図3に電流−電圧特性を示した従来技術に係るジョセフソン接合素子との性能の比較を、表2に示す。表2に示す通り、2mVにおけるリーク電流IL は、ほぼ近い値ではあるが、従来技術に係るジョセフソン接合素子よりも、本発明の第1の実施の形態に係るジョセフソン接合素子の方が若干少ない傾向であり、本発明の第1の実施の形態に係るジョセフソン接合素子の方が、接合へのダメージが少ないないということが分かる。特に、下部電極配線/トンネル・バリヤ膜/上部電極からなる積層構造を、平坦性に優れた第3レベルの層間絶縁膜で、良好な被覆性を伴って囲んだ構造であるので、本発明の第1の実施の形態に係るジョセフソン接合素子によれば、リーク電流IL の低減と同時に、デバイスの信頼性が高まる。
【表2】

【0032】
図示を省略するが、接合面積S=1μm×1μmとなるように構成した本発明の第1の実施の形態に係るジョセフソン接合素子の電流−電圧特性も図3に示した特性と同様である。厚さ300nm程度のNb膜からなる下部電極配線33と、厚さ100nm程度のAlOx 膜からなるトンネル・バリヤ膜41と、厚さ300nm程度のNb膜からなる上部電極42とからなる積層構造を、接合面積S=1μm×1μmで構成し、ポリイミド膜からなる平坦な第3レベルの層間絶縁膜16で囲んだ構造のジョセフソン接合素子のVm値は50mVを越える。ここで、Rsgを電圧0.5mVにおける抵抗、Icを電圧0mVで流れるジョセフソン臨界電流とすると、
Vm=Rsg・Ic ・・・・・(2)
で表される。Vm値が大きければ大きいほどジョセフソン接合素子が優れていると評価される。デジタル応用として用いられるジョセフソン接合素子のVm値は30mV以上必要であるとされるが、接合面積S=1μm×1μmの本発明の第1の実施の形態に係るジョセフソン接合素子のVm値は50mVを越えるので、良好な特性と信頼性を有することが分かる。
【0033】
図4の横軸は、ジョセフソン接合素子の接合面積Sであり、図4の縦軸は対応するSFQ論理回路のセル面積である。図4に示すSFQ論理回路のセルはD型フリップフロップ(FF)回路であり、SFQ論理回路ではセルベースでの設計が可能である。そのため、一つ一つのセルに含まれるジョセフソン接合素子の接合面積Sの縮小化は集積度向上に直結する。つまり、本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路によれば、高集積密度の超伝導集積回路を提供することができる。加えて、図1に示すように、各配線層が平坦化可能であるので、図1に示す以外の構造、特により複雑な多層構造デバイスの製造が可能となるため集積密度が高い超伝導集積回路を提供することができる。
【0034】
又、本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路によれば、ジョセフソン接合の接合面積Sが微小であるので、高速動作可能な超伝導集積回路を提供することができる。
【0035】
更に、ジョセフソン接合の近傍が平坦であるので、上部電極配線17が、第1レベルの層間絶縁膜13、第2レベルの層間絶縁膜14及び第3レベルの層間絶縁膜66とを誘電体層として、グランド・プレーン12との間で構成するマイクロストリップラインの特性インピーダンスの増大を防ぐことが容易であり、且つ高周波伝送路の設計が容易となるので、信号伝搬特性及び高速動作に優れ、低消費電力の超伝導集積回路を提供できる。又、図1に示した断面図から明らかなように、各配線層の平坦性に優れているため、各配線層の配線断線の危険性も小さく、信頼性の高い超伝導集積回路を提供できる。
【0036】
図5〜図9を用いて、本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する。なお、以下に述べる超伝導集積回路の製造方法は、一例であり、図5〜図11に示した趣旨の範囲内であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。特に、下部電極配線33/トンネル・バリヤ膜41/上部電極42とからなる積層構造を、ポリイミド膜からなる平坦な第3レベルの層間絶縁膜16で囲んだ構造を実現するプロセス以外の箇所は、設計に応じて任意に変更可能である。
【0037】
(イ)先ず、図5(a)に示すように、スパッタリング法等を用いて、Si基板等の基板11の表面に例えば厚さ300nmのNb膜12を形成する。そして、リソグラフィ技術によるレジスト・プロセス(以下、単に「レジスト・プロセス」と言う。)を適用して、グランド・プレーンのパターンをもったレジスト膜を形成する。RIE法を適用して、このレジスト膜をエッチング・マスクとして、図5(a)に於いて形成したNb膜12のパターニングを行なって、図5(b)に示すように、グランド・プレーン12を形成する。
【0038】
(ロ)次に、レジスト膜を除去してから、スパッタリング法等を用いて、図5(c)に示すように、全面に例えば厚さ300nmのSiO2 からなる第1レベルの層間絶縁膜13を形成する。その後、レジスト・プロセスによりレジスト膜のエッチング・マスクを形成し、このエッチング・マスクを用いてRIE法により、グランド・コンタクトホール(GC)21を開口する。その後、図6(d)に示すように、エッチング・マスクを除去する。
【0039】
(ハ)その後、スパッタリング法等を用いて、第1レベルの層間絶縁膜13の上の全面に例えば厚さ50nmのMo膜を形成する。そして、レジスト・プロセスによりレジスト膜のエッチング・マスクを形成し、このエッチング・マスクを用いてRIE法により、Mo膜をパターニングする。その結果、図6(e)に示すように、薄膜抵抗体32を形成する。
【0040】
(ニ)レジスト膜を除去してから、薄膜抵抗体32の上の全面に例えば厚さ50nmの第2レベルの層間絶縁膜14を形成する。改めてレジスト・プロセスを適用して、第2レベルの層間絶縁膜14にグランド・コンタクトホール(GC)21を形成するための開口をもったレジスト膜を形成する。RIE法を適用して、レジスト膜をエッチング・マスクに第2レベルの層間絶縁膜14の選択的エッチングを行ない、グランド・コンタクトホール(GC)21及びコンタクトホール22a,22bを形成して、図6(f)に示すように、グランド・プレーン12の一部及び薄膜抵抗体32の一部をそれぞれ表出させる。
【0041】
(ホ)グランド・コンタクトホール(GC)21及びコンタクトホール22a,22bの開口に用いたレジスト膜を除去してから、スパッタリング法等を用いて、全面に例えば厚さ300nmのNb膜を形成する。この際、Nb膜が図7(g)に示すように、グランド・コンタクトホール(GC)21の内部に、コンタクトビア(ビアプラグ)31として埋め込まれる。更に連続して、スパッタリング法により、全面に例えば厚さ7nmのAl膜を形成する。酸素雰囲気中に例えば1時間程度放置することでAl膜をAlOx 膜に変換してトンネル・バリヤ膜41を形成する。更に、スパッタリング法等を用いて、トンネル・バリヤ膜41の上の全面に、例えば厚さ300nmのNb膜を形成する。更に、続けて、スパッタリング法等を用いて、Nb膜の上の全面に、例えば厚さ100nmのAl膜を形成する。
【0042】
(ヘ)そして、レジスト・プロセスとRIE法を適用して、レジスト膜をエッチング・マスクとし、厚さ100nmのAl膜及び厚さ300nmであるNb膜を連続的にエッチングし、上部電極42及び上部電極キャップ層61を形成する。この際、AlOx 膜はエッチングストッパ膜として機能する。更に図7(g)に示すように、このエッチングの際、グランド・コンタクトホール(GC)21の上方のAlOx 膜からなる凹部の内部に、Nb膜がプラグ43として埋め込まれる。引き続いて、レジスト・プロセスを適用して、レジスト膜のエッチング・マスクを形成し、このエッチング・マスクにスパッタ・エッチング法を適用して、AlOx からなるトンネル・バリヤ膜41のパターニングを行なう。その後、トンネル・バリヤ膜41のパターニングに用いたレジスト膜を除去してから、改めてレジスト・プロセスを適用して、下部電極のパターンをもったレジスト膜を形成する。そして、RIE法を適用して、レジスト膜をエッチング・マスクとして、トンネル・バリヤ膜41の下の厚さ300nmのNb膜のパターニングを行なって、図7(g)に示すように、下部電極配線33のパターンを薄膜抵抗体32に電気的に接続されるように形成する。この結果、下部電極配線33の上に、トンネル・バリヤ膜41、上部電極42及び上部電極キャップ層61が順に積層された積層体が構成される。
【0043】
(ト)レジスト膜を除去してから、図7(h)に示すように、下部電極配線33の上に、トンネル・バリヤ膜41、上部電極42及び上部電極キャップ層61が順に積層された積層体の全体を含むように、ポリイミド膜67をスピン塗布法により厚さ800nm〜2000nm程度の所定の膜厚に成膜する。ポリイミド膜67は、少なくとも、下部電極配線33/トンネル・バリヤ膜41/上部電極42/上部電極キャップ層61の積層体の厚さよりも厚く成膜する必用がある。即ち、図7(g)に示す構造の表面に、ブロック共重合法により合成された高解像度感光性を有する溶媒可溶性ポリイミドの溶液を適当な量滴下し、スピン塗布を行い、乾燥炉でベーキングを行って、ポリイミド膜67を形成する。その膜厚は、ポリイミド溶液の濃度とスピンの回転速度により制御可能である。ベーキングは、乾燥炉で100℃から150℃の温度範囲で10分以上の時間で行う。ブロック共重合により、モノマーから分子量の比較的小さいブロック単位のポリマーを合成し、更に、モノマーを加えて、ブロック同士を結合させながら、最終的に大きい分子量のポリマーが合成される。スピン塗布により、ポリイミド膜67の表面は、下部電極配線33/トンネル・バリヤ膜41/上部電極42/上部電極キャップ層61の積層体のなす段差形状にも関わらず、図7(h)に示すように平坦化される。
【0044】
(チ)その後、平坦化されたポリイミド膜67を全面にわたってエッチング(エッチ・バック)を行う。所定時間エッチングすることで、図8(i)に示すように上部電極キャップ層61が表出し、上部電極42を囲むように平坦な第3レベルの層間絶縁膜16が形成される。この第3レベルの層間絶縁膜16には、図15(c)に示すようなカルデラ崖や図16(c)に示すような上部電極42の側壁と第3レベルの層間絶縁膜66との間の溝部は存在しない。そこで、上部電極キャップ層61としてのAl膜を除去すれば、図8(j)に示すように、上部電極42の上に上部電極コンタクトホール23が開口する。
【0045】
(リ)レジスト・プロセスを適用して、第3レベルの層間絶縁膜16に対するコンタクトホールを形成するための開口パターンを有するレジスト膜を形成する。そして、RIE法を適用して、レジスト膜をエッチング・マスクに第3レベルの層間絶縁膜16の選択的エッチングを行ない、図9(k)に示すように、コンタクトホール24を開口し、下部電極33の一部を表出させる。同時に、第3レベルの層間絶縁膜16の一部に溝部25を形成する。
【0046】
(ヌ)レジスト膜を除去してから、スパッタリング法等を用いて、第3レベルの層間絶縁膜16の上の全面に例えば厚さ400nmのNb膜を形成する。その後、レジスト・プロセスを適用して、上部電極配線を含む配線層のパターンを有するレジスト膜を形成する。RIE法を適用して、レジスト膜をエッチング・マスクとして、厚さ400nmのNb膜のパターニングを行なって、図9(l)に示すように、第3レベルの層間絶縁膜16の上に上部電極42に電気的に接続された上部電極配線17を形成する。
【0047】
(ル)レジスト膜を除去してから、スパッタリング法等を用いて、全面に例えば厚さ500nmのSiO2 からなる第4レベルの層間絶縁膜18を形成する。その後、レジスト・プロセスによりレジスト膜のエッチング・マスクを形成し、このエッチング・マスクを用いてRIE法により、上部電極配線17に対するコンタクトホールを開口する。レジスト膜を除去してから、スパッタリング法等を用いて、第4レベルの層間絶縁膜18の上の全面に例えば厚さ500nmのAl膜を形成する。その後、レジスト・プロセスを適用して、表面配線層のパターンを有するレジスト膜を形成する。RIE法を適用して、レジスト膜をエッチング・マスクとして、厚さ500nmのAl膜のパターニングを行なって、図1に示すように、第4レベルの層間絶縁膜18の上に上部電極配線17等に電気的に接続された表面配線層19を形成すれば、本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路が完成する。
【0048】
図10は、図7(g)に示すように、下部電極配線33/トンネル・バリヤ膜41/上部電極42/上部電極キャップ層61の積層体に対し、リフトオフ工程で第3レベルの層間絶縁膜66を形成した場合の比較例としての断面構造である。即ち、図7(g)に示す構造のパターニングに用いたレジスト膜を上部電極キャップ層71上に残留させたまま、スパッタリング法等を用いて、全面に厚さ例えば500nmのSiO2 からなる第3レベルの層間絶縁膜66を形成し、その後、レジスト膜を除去してリフトオフ工程を行い、更に上部電極キャップ層71を除去した状態が図10であるが、上部電極42を囲む第3レベルの層間絶縁膜66に、カルデラ崖が形成され凹凸形状となっている。この場合、更に、SiO2 からなる第3レベルの層間絶縁膜66の上に上部電極42に電気的に接続された上部電極配線17を形成し、上部電極配線17の上に、第4レベルの層間絶縁膜18を形成し、第4レベルの層間絶縁膜18の上に上部電極配線17等に電気的に接続された表面配線層19を形成すれば、図11に示すような凹凸の激しい断面形状の超伝導集積回路が完成する。
【0049】
図11に示すような凹凸の激しい断面形状の場合は、ジョセフソン接合単体で見た場合、その接合面積Sを微小にするのが困難になるだけでなく、上部電極配線17と、第1レベルの層間絶縁膜13、第2レベルの層間絶縁膜14及び第3レベルの層間絶縁膜66とからなる誘電体層と、グランド・プレーン12との間で構成するマイクロストリップラインの特性インピーダンスの増大が発生し、又、高周波伝送路の設計が容易となるので、信号伝搬特性が劣化し、高速動作が困難になり、低消費電力化の面でも不利益となる。又、図11に示すような凹凸の激しい断面形状の場合は、各配線層の配線断線の危険性も高く、信頼性の高い超伝導集積回路の提供が困難になる。
【0050】
図12は、スパッタリング法により、AlOx からなるトンネル・バリヤ膜41を形成する際の、Al膜のスパッタリング条件とジョセフソン臨界電流密度Jcが[A/cm2]の関係を示す。Al膜のスパッタリング圧力P[Pa]とスパッタリング時間t[min]の積P・tが4[Pa・min]が変曲点となり、4[Pa・min]よりもP・t積が小さい領域では、P・t積を少なくすると、P・t積が4[Pa・min]よりも大きい領域に比し、より急激にP・t積の減少と共に、ジョセフソン臨界電流密度Jcが増大することが分かる。図12において、P・t積が大きいことはトンネル・バリヤ膜41が厚いことを意味し、2[kPa・min]=15[Torr・min]で、トンネル・バリヤ膜41の厚さは約2nmである。
【0051】
図5〜図9に示した本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法によれば、工程数の増大や製造プロセスの複雑化を伴わず、製造コストが低く、且つジョセフソン接合の接合面積Sの微小化が容易な超伝導集積回路の製造方法を提供することができる。 又、図1に示した断面図から明らかなように、各配線層の平坦性に優れているため、各配線層の配線断線の危険性も小さく、製造歩留まりの高い超伝導集積回路の製造方法を提供できる。
【0052】
又、ポリイミドは通常の層間絶縁膜と異なり、スピンコート法により成膜できるため、大型で高価な装置を必要としないので、本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法によれば、費用対効果が非常に大きいという利点を有する。
【0053】
(第2の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法においては、図7(h)に示す段階で、ポリイミド膜67を、少なくとも、下部電極配線33/トンネル・バリヤ膜41/上部電極42/上部電極キャップ層61の積層体の厚さよりも厚くスピン塗布し、その表面を平坦化した。その後、平坦化されたポリイミド膜67を全面にわたってエッチング(エッチ・バック)を行い、図8(i)に示すように上部電極キャップ層61を表出させ、上部電極42を囲むように平坦な第3レベルの層間絶縁膜16が形成した。
【0054】
本発明の第2の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法においては、第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法に比して薄くスピン塗布し、エッチ・バックを行わずに平坦化する例を示す。
【0055】
即ち、図18に示すように、ジョセフソン接合素子アレイの一部として第1〜第4のジョセフソン接合素子Q1〜Q4を示す。即ち、絶縁性基板9の上に、下部電極配線33-1,33-2が配線されている。そして、下部電極配線33-1の上に設けられた第1のトンネル・バリヤ膜41-1と、この第1のトンネル・バリヤ膜41-1の上に設けられた第1の上部電極42-1により、第1のジョセフソン接合素子Q1が構成されている。又、下部電極配線33-1の上に設けられた第2のトンネル・バリヤ膜41-2と、この第2のトンネル・バリヤ膜41-2の上に設けられた第2の上部電極42-2により、第2のジョセフソン接合素子Q2が構成されている。更に、下部電極配線33-2の上に設けられた第3のトンネル・バリヤ膜41-3と、この第3のトンネル・バリヤ膜41-3の上に設けられた第3の上部電極42-3により、第3のジョセフソン接合素子Q3が構成され、下部電極配線33-2の上に設けられた第4のトンネル・バリヤ膜41-4と、この第4のトンネル・バリヤ膜41-4の上に設けられた第4の上部電極42-4により、第4のジョセフソン接合素子Q4が構成されている。
【0056】
ポリイミド膜からなる層間絶縁膜(第1の実施の形態における「第3レベルの層間絶縁膜」に相当。)16の厚さt1を、下部電極配線33-1,33-2の上部の凸部/トンネル・バリヤ膜41-1,41-2,41-3,41-4/上部電極42-1,42-2,42-3,42-4の積層体の厚さtjよりも薄くスピン塗布し、上部電極42-1,42-2,42-3,42-4の上に、厚さt2のポリイミド膜からなる層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16を形成した場合を示している。例えば、積層体の周辺部の厚さt1=420nmのとき、上部電極42-1,42-2,42-3,42-4の上では厚さt2=150nmとなり、厚さt1の約35%の厚さt2の層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16が上部電極42-1,42-2,42-3,42-4の上に形成され、全体として平坦化される。なお、図示を省略しているが、上部電極42-1,42-2,42-3,42-4の上に、それぞれ上部電極キャップ層を備え、この上部電極キャップ層の上に、厚さt2のポリイミド膜からなる層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16を形成しても良い。
【0057】
図18では、第2の上部電極42-2と、第3の上部電極42-3とが、層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16中に設けられたコンタクトホールを介して上部電極配線17-2により、互いに接続されている。第1の上部電極42-1は、層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16中に設けられたコンタクトホールを介して上部電極配線17-1により、図示を省略した隣接するジョセフソン接合素子の上部電極に接続されている。上部電極配線17-1は、素子間を埋める座布団としての層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16の上を配線されるので断線の心配がない。又、第4の上部電極42-4は、層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16中に設けられたコンタクトホールを介して上部電極配線37-3により、図示を省略した隣接するジョセフソン接合素子の上部電極に接続されるが、上部電極配線17-3は、素子間を埋める座布団としての層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16の上を配線されるので断線の心配がない。
【0058】
図18では、4個のジョセフソン接合素子Q1〜Q4のみを例示しているが、このような素子間を埋める座布団としての層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16を用いた構成を繰り返すことにより、例えば100個のジョセフソン接合素子を結合して、平坦性に優れたジョセフソン接合素子アレイを構成できる。
【0059】
本発明の第2の実施の形態に係る超伝導集積回路においては、素子間を埋める座布団としての層間絶縁膜(第3レベルの層間絶縁膜)16は、素子分離絶縁膜として機能していることになる。即ち、本発明の第2の実施の形態に係る超伝導集積回路においては、ポリイミドからなる素子分離絶縁膜をそれぞれのジョセフソン接合素子の周りに敷くことによって平坦化が容易になるので、シングル接合素子だけでなく、アレイ化素子(超伝導集積回路)の高集積密度化に有効である。
【0060】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1及び第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な態様や代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明はここでは記載していない様々な態様や実施の形態等を含むことは勿論であり、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の概略構成を説明する模式的な断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路に用いたジョセフソン接合素子の4.2Kにおける電流−電圧特性を示す図である。
【図3】図2と同一設計構造の従来技術に係るジョセフソン接合素子の4.2Kにおける電流−電圧特性を示す図である。
【図4】ジョセフソン接合素子の接合面積Sと、対応するSFQ論理回路のセル面積との関係を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する模式的な工程断面図である(その1)。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する模式的な工程断面図である(その2)。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する模式的な工程断面図である(その3)。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する模式的な工程断面図である(その4)。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する模式的な工程断面図である(その5)。
【図10】従来技術に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する模式的な工程断面図である(その1)。
【図11】従来技術に係る超伝導集積回路の製造方法を説明する模式的な工程断面図である(その2)。
【図12】スパッタリング法により、AlOx からなるトンネル・バリヤ膜を形成する際の、Al膜のスパッタリング条件とジョセフソン臨界電流密度Jcが[A/cm2]の関係を示す図である。
【図13】ジョセフソン接合の電流−電圧特性を模式的に示す図である。
【図14】SFQ論理回路の動作原理を示す図である。
【図15】従来技術に係るジョセフソン接合素子の製造方法を説明する模式的な工程断面図である。
【図16】従来技術に係る他のジョセフソン接合素子の製造方法を説明する模式的な工程断面図である。
【図17】図16に示した従来技術に係る他のジョセフソン接合素子の製造方法によって、上部電極の側壁と第3レベルの層間絶縁膜との間に形成されたV型の溝部を示すSEM写真である。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係る超伝導集積回路における平坦性の改善を説明する模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0062】
9,11…基板
12…グランド・プレーン
12…Nb膜
13…第1レベルの層間絶縁膜
14…第2レベルの層間絶縁膜
16…第3レベルの層間絶縁膜
17,17-1,17-2,17-3,…上部電極配線
18…第4レベルの層間絶縁膜
19…表面配線層
22a,22b…コンタクトホール
23…上部電極コンタクトホール
24…コンタクトホール
25…溝部
32…薄膜抵抗体
33,33-1,33-2…下部電極配線
41,41-1,41-2,41-3,41-4…トンネル・バリヤ膜
42,42-1,42-2,42-3,42-4…上部電極
43…プラグ
61…上部電極キャップ層
66…第3レベルの層間絶縁膜
67…ポリイミド膜
68…レジスト膜
71…上部電極キャップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極配線、該下部電極配線に接したトンネル・バリヤ膜、垂直側壁を有し該トンネル・バリヤ膜に接した上部電極を備えたジョセフソン接合と、
前記上部電極の垂直側壁に接した内壁を有して前記上部電極の周囲を囲み、前記内壁に直交する平坦な平面からなる上面を有し、前記上部電極より厚い層間絶縁膜
とを備え、前記層間絶縁膜の上面は、前記内壁から少なくとも前記上部電極の上面の最大寸法分離れた範囲内において、前記上部電極の厚みの±1/20の平坦度で平坦であることを特徴とする超伝導素子。
【請求項2】
前記上部電極に電気的に接続され、前記層間絶縁膜上を延伸する上部電極配線を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の超伝導素子。
【請求項3】
負荷と、
該負荷に電気的に接続された下部電極配線、該下部電極配線に接したトンネル・バリヤ膜、垂直側壁を有し該トンネル・バリヤ膜に接した上部電極を備えたジョセフソン接合と、
前記上部電極の垂直側壁に接した内壁を有して前記上部電極の周囲を囲み、前記内壁に直交する平坦な平面からなる上面を有し、前記上部電極より厚い第1の層間絶縁膜
とを備え、前記第1の層間絶縁膜の上面は、前記内壁から少なくとも前記上部電極の上面の最大寸法分離れた範囲内において、前記上部電極の厚みの±1/20の平坦度で平坦であることを特徴とする超伝導集積回路。
【請求項4】
前記負荷は、薄膜抵抗体からなり、前記下部電極配線の下方に第2の層間絶縁膜を介して接続されていることを特徴とする請求項3に記載の超伝導集積回路。
【請求項5】
前記薄膜抵抗体の下の第3の層間絶縁膜と、
該第3の層間絶縁膜の下のグランド・プレーン
とを更に備え、該グランド・プレーンと、該グランド・プレーンに対向する前記下部電極配線と、該グランド・プレーンと前記下部電極配線とに挟まれた前記第1及び第2の層間絶縁膜でマイクロストリップラインを構成していることを特徴とする請求項4に記載の超伝導集積回路。
【請求項6】
前記上部電極に電気的に接続され、前記第1の層間絶縁膜上を延伸する上部電極配線を更に備え、前記グランド・プレーンと、前記グランド・プレーンに対向する前記上部電極配線と、前記グランド・プレーンと前記上部電極配線とに挟まれた前記第1、第2及び第3の層間絶縁膜でマイクロストリップラインを構成していることを特徴とする請求項5に記載の超伝導集積回路。
【請求項7】
下部電極配線の上に、トンネル・バリヤ膜、上部電極及び上部電極キャップ層が順に積層された積層体を形成するステップと、
該積層体の全体を含むように、ポリイミド膜を該積層体の厚さよりも厚くスピン塗布するステップと、
前記上部電極キャップ層が表出するまで、前記ポリイミド膜を全面にわたってエッチングするステップと、
表出した前記上部電極キャップ層を除去するステップ
とを含むことを特徴とする超伝導素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−211082(P2008−211082A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47993(P2007−47993)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月29日社団法人応用物理学会発行の「2006年(平成18年)秋季 第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】