説明

超撥水性炭素材料とその製造方法、並びに液体誘導炭素板

【課題】水滴との接触角が140°を超える超撥水性を示す炭素材料および液滴との接触角が異なることにより液体を誘導する液体誘導炭素板を提供する。
【解決手段】炭素板の表面にレーザ処理により約30μm間隔で窪みを形成し、その上をフッ素プラズマ処理することで水滴との接触角が140°を超える超撥水面が得られる。面Aをフッ素プラズマ処理のみの撥水面とし、面Bを超撥水面として、面Aに水滴を落とすと、水滴との接触角が異なる境界線に沿って水滴が誘導される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水滴との接触角が140°を超える超撥水性を示す炭素材料とその製造方法、並びに液滴との接触角が異なることにより液体を誘導する液体誘導炭素板に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、洗浄したアルミニウムの表面を水酸化ナトリウム水溶液に2時間浸し、水洗・乾燥後にスピンコーティング法で厚さ約2ナノメートルのパーフルオロノナン(CqF20)の膜を張ることにより、水滴との接触角が168°の超撥水性のアルミニウム材料を得ることが記載されている。
【0003】
また、下記特許文献1には、凹凸パターンを有するシートの表面を親水性とし、凸部を撥水性とすることで水の流路を形成することが記載されている(請求項5、段落0042)。しかしながら、水の流路として機能するのは親水性の凹部であり(段落0045)、同一平面上にある親水性の部分と撥水性の部分の間の境界線が水の流路として機能するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−63554号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Stable Biomimetic Super-Hydrophobic Engineering Meterials,Guo,Z.;Zhou,F.;Hao,J.;Liu,W.J.Am.Chem.Soc.2005,127,15670-15671
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、水滴との接触角が140°を超える超撥水性を呈する炭素材料とその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の第2の目的は、液滴との接触角が異なることにより液体を誘導する新規な液体誘導炭素板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、表面に規則的な複数の窪みを有する炭素材料と、前記炭素材料の前記規則的な窪みを有する表面に結合したフッ素原子とを具備し、水滴との接触角が140°を超える超撥水性炭素材料が提供される。
【0009】
前記規則的な窪みの間隔は第1の方向において200μm以下の一定間隔であり、該第1の方向に交又する第2の方向において200μm以下の一定間隔であることが好ましい。窪みの形成方法は、狙いの間隔に形成できるものであれば特定されないが、寸法制御を考えるとレーザ加工が好ましい。
【0010】
炭素材料として、粒状の樹脂を加熱し加圧して固めたものを焼成して得られる多孔体を用いることで、前記規則的な窪みを有する表面とその裏面との間で気体が透過可能な連通気孔を有する超撥水性炭素材料が得られる。
【0011】
この超撥水性炭素材料は、炭素材料の表面にレーザを照射して規則的な複数の窪みを形成し、前記規則的な複数の窪みが形成された炭素材料の表面をフッ素プラズマ処理することにより製造される。
【0012】
本発明によれば液滴との接触角が第1の角度である第1の表面と、前記第1の表面に該第1の表面との間に境界線を形成するように隣接し、液滴との接触角が前記第1の角度とは異なる第2の角度である第2の表面とを具備し、前記第1の表面と第2の表面との間の境界線が液体の誘導路として機能する、液体誘導炭素板もまた提供される。
【0013】
例えば、前記第1の表面の水滴との接触角は140°を超え、前記第2の表面の水滴との接触角は100°以上130°以下である。
【0014】
本発明によれば、液滴との接触角が第1の角度である第1の表面と、前記第1の表面に対向し、液滴との接触角が前記第1の角度と異なる第2の角度である第2の表面とを具備し、前記第1の表面と前記第2の表面とをつなぐ液体の流路を有する、液体誘導炭素板もまた提供される。
【0015】
例えば、前記第1の表面の水滴との接触角は90°を超え、前記第2の表面の水滴との接触角は20°未満である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の液体誘導炭素板の第1の実施形態を説明するための図である。
【図2】本発明の液体誘導炭素板の第2の実施形態を示す図である。
【実施例】
【0017】
(炭素緻密体の準備)
フラン樹脂(日立化成社製ヒタフランVF−303)90部と天然鱗状黒鉛(日本黒鉛社製)10部に、硬化促進剤としてp−トルエンスルホン酸を1.5部加え、3000rpmで2分間混合攪拌したものを成形用金型に適量流し込み、この型を100℃に加熱して固化処理後、できた樹脂プレートを型から外し、焼成炉を用いて、不活性雰囲気中、1500℃で焼成して炭素化し、平板状の炭素緻密体を得た。
【0018】
(炭素多孔体の準備)
塩化ビニル樹脂T−741(日本カーバイド社製)98部に、天然鱗状黒鉛(日本黒鉛社製)2部混ぜたものを、加温加圧可能な型に充填し、150℃で加熱し1MPaで加圧することにより樹脂ブロックを形成し、不活性雰囲気中1400℃で焼成して気孔率35%の多孔質炭化物(以下、多孔体1)を得た。
【0019】
塩化ビニル樹脂T−741(日本カーバイド社製)98部に、天然鱗状黒鉛(日本黒鉛社製)2部混ぜたものを、加温加圧可能な型に充填し、160℃で加熱し3MPaで加圧することにより樹脂ブロックを形成し、不活性雰囲気中1400℃で焼成して気孔率20%の多孔質炭化物(以下、多孔体2)を得た。
【0020】
これらの炭素多孔体(多孔体1および多孔体2)は、粒状の樹脂を融着させ焼結・炭素化したものであるから、平板の一方の面から他方の面で気体を通過させる連通気孔を有している。
【0021】
(レーザ処理)
レーザ加工機を用い、炭素板表面に、直径60μmのドットが30μm間隔でつながって形成される直線を一定の線間隔で印字して炭素板の表面に多数の窪みを形成した。緻密体については、線間隔150μmおよび直線方向のドットの間隔と同じ線間隔30μmで窪みを形成し、多孔体については線間隔30μmで窪みを形成した。窪みの深さは30μm程度であった。レーザのパワーにより深さが変わるが、装置の最大値の80%のパワーで窪みを形成した。
【0022】
レーザ処理後の炭素板の表面に水滴を落とすと、炭素板が緻密体である場合には瞬時に水が拡がり、多孔体の場合には、瞬時に水が吸い込まれ、いずれも高い親水性を示した。水滴との接触角は20°未満であった。緻密体で線間隔が150μmである場合には線に沿って流路が形成された。
【0023】
多孔体について、JIS BO601:2001に従う、表面の算述平均粗さRa(μm)の測定結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の第2欄の数字‘1’および‘2’はそれぞれ1回目および2回目の測定値であることを示している。多孔体の場合、レーザ処理によりRaの値は小さくなる傾向がある。これは、多孔体の表面の不規則な凹凸がレーザにより多少平滑化されると同時に新たに規則的な間隔で窪みが形成されたためである。緻密体の場合、レーザ処理の前後ともにRa=0.65μm程度であり、粗さの値においては実質的な変化はみられなかった。
【0026】
(フッ素プラズマ処理)
多孔体および緻密体の、レーザ処理を行わない炭素板表面、およびレーザ処理を行った後の炭素板表面に対して、圧力0.1torr、温度350〜400℃でF2ガスのプラズマを供給するフッ素プラズマ処理を10分間行って、炭素板表面の官能基をフッ素原子に置換してフッ素原子を結合させた。
【0027】
フッ素プラズマ処理のみの場合、多孔体では水を吸いにくくなり(吸い終わるまでの時間が長くなり)、緻密体では水が水滴として転がるようになり、いずれも水滴との接触角が100°以上130°以下の撥水性を呈した。
【0028】
レーザ処理後にプラズマ処理を行った場合、多孔体および緻密体いずれにおいても、炭素板をほぼ水平に支持しても水滴がよく転がり水滴との接触角が140°を超える超撥水性を呈した。レーザ処理の際の線間隔が150μmのときと30μmのときとで同じ結果が得られている。
【0029】
なお、炭素板が多孔体である場合、水に対しては撥水性または超撥水性であっても、一方の面から他方の面へ通ずる連通気孔を有しており、気体は通過するので、気液分離面として利用することができる。
【0030】
多孔体について、ESCAによる表面の酸素原子と炭素原子の存在比O/Cとフッ素原子と炭素原子の存在比F/Cの測定結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
以上の結果をまとめて表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
(液体誘導路の形成)
図1に示すように緻密体または多孔体の炭素板10の表面の一部(面B)にレーザ処理を施した後、表面全体にフッ素プラズマ処理を施して面Aを撥水性、面Bを超撥水性とした。図1に示すように、炭素板10の辺14が辺12よりもわずかに下になり、辺18が辺16よりもわずかに下になるように斜めに傾斜させて支持し、面Aの上に水滴を滴下した(矢印20)。そうすると、面Aの撥水性のため水滴となって転がり(矢印22)、面Bとの境界線まで到達すると、面B(超撥水面)との境界線に沿って転った(矢印24)。この結果から、撥水性の異なる面の境界が液体の誘導路として機能することがわかる。
【0035】
図2に示すように、緻密体または多孔体の炭素板の片面20を撥水性または超撥水性とし、その裏面22を親水性とし、液体が一方の面から他方の面へ通過可能な程度の1つまたは複数の貫通穴24を設けた。この炭素板において、(超)撥水面20の側から水滴を落とすと、直ちに裏側の新水面22へ排出された。したがって、水などの液体を(超)撥水面の側から親水面の側へ強制的に排出する流路として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に規則的な複数の窪みを有する炭素材料と、
前記炭素材料の前記規則的な窪みを有する表面に結合したフッ素原子とを具備し、
水滴との接触角が140°を超える超撥水性炭素材料。
【請求項2】
前記規則的な窪みの間隔は第1の方向において200μm以下の一定間隔であり、該第1の方向に交又する第2の方向において200μm以下の一定間隔である請求項1記載の超撥水性炭素材料。
【請求項3】
前記規則的な窪みを有する表面とその裏面との間で気体が透過可能な連通気孔を有する請求項1または2記載の超撥水性炭素材料。
【請求項4】
炭素材料の表面にレーザを照射して規則的な複数の窪みを形成し、
前記規則的な複数の窪みが形成された炭素材料の表面をフッ素プラズマ処理することを含む、超撥水性炭素材料の製造方法。
【請求項5】
液滴との接触角が第1の角度である第1の表面と、
前記第1の表面に該第1の表面との間に境界線を形成するように隣接し、液滴との接触角が前記第1の角度とは異なる第2の角度である第2の表面とを具備し、
前記第1の表面と第2の表面との間の境界線が液体の誘導路として機能する、液体誘導炭素板。
【請求項6】
前記第1の表面の水滴との接触角が140°を超え、前記第2の表面の水滴との接触角が100°以上130°以下である請求項5記載の液体誘導炭素板。
【請求項7】
液滴との接触角が第1の角度である第1の表面と、
前記第1の表面に対向し、液滴との接触角が前記第1の角度と異なる第2の角度である第2の表面とを具備し、
前記第1の表面と前記第2の表面とをつなぐ液体の流路を有する、液体誘導炭素板。
【請求項8】
前記第1の表面の水滴との接触角が90°を超え、前記第2の表面の水滴との接触角が20°未満である請求項7記載の液体誘導炭素板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−132053(P2011−132053A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291232(P2009−291232)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】