説明

超薄多孔質メンブレンを有する細胞培養装置およびその使用

細胞培養チェンバー間に位置付けられた超薄多孔質メンブレンを使用した複数の細胞集団を共培養するための装置を開示している。薬物送達、細胞間相互作用、および少量の分子種の活性を調査するためのインビトロ組織モデルの形成を含む、複数のチェンバーの装置およびその使用について記載している。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年3月14日出願の米国特許出願第60/782,205号の優先権の恩典を主張し、これにより全体として参照により組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、生物学的培養装置において使用する超薄ナノ多孔質シリコンメンブレンおよびその使用を対象としている。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
超薄メンブレンは、ナノ篩(nanosieves)やナノフィルターとしての使用を含む多種多様の用途に使用できる。Tong et al., "Silicon Nitride Nanoseive Membrane," Nano Lett 4:283-287 (2004)(非特許文献1); Lee et al., "Antibody-Based Bio-Nanotube Membranes for Enantiomeric Drug Separations," Science 296:2198-2200 (2002)(非特許文献2)。メンブレンは生物学的な共培養物でも使用できるが、しかし、生物学的な共培養における現行の方法では、数百ナノメートルオーダーと比較的厚く、また孔径も数百ナノメートルオーダーと比較的大きな孔を有するメンブレンが採用される。一部の例では、先行技術の窒化ケイ素メンブレンにはコラーゲン沈着が必要となる。Ma et al., "An Endothelial and Astrocyte Co-culture Model of the Blood-brain Barrier Utilizing an Ultra-thin, Nanofabricated Silicon Nitride Membrane," Lab on a Chip 5:74-85 (2005)(非特許文献3)。
【0004】
メンブレンの全体にわたり細胞接触と分子間相互作用のより厳密な制御を可能にする培養装置が必要である。具体的には、一部の例では、細胞間接触を促進できる、または制限できる、メンブレンを介したシグナル伝達分子の移入を促進できる、または制限できる、大きさに基づいてシグナル伝達分子を制限できる、電荷に基づいてシグナル伝達分子を制限できる、少量の分子種を検出できる、および/またはメンブレンのいずれかの側面で細胞の撮像を可能にできる培養装置を入手することが望まれうる。
【0005】
本発明は、当技術分野におけるこれらおよび他の欠陥を克服することを目的としている。
【0006】
【非特許文献1】Tong et al., "Silicon Nitride Nanoseive Membrane," Nano Lett 4:283-287 (2004)
【非特許文献2】Lee et al., "Antibody-Based Bio-Nanotube Membranes for Enantiomeric Drug Separations," Science 296:2198-2200 (2002)
【非特許文献3】Ma et al., "An Endothelial and Astrocyte Co-culture Model of the Blood-brain Barrier Utilizing an Ultra-thin, Nanofabricated Silicon Nitride Membrane," Lab on a Chip 5:74-85 (2005)
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明の第1の局面は、1つまたは複数の細胞集団を培養するための細胞培養装置に関する。装置には、第1のチェンバーおよび第2のチェンバー間に位置付けられた少なくとも1枚のナノスケールメンブレンによって隔てられた第1のチェンバーおよび第2のチェンバーが含まれており、少なくとも1枚のナノスケールメンブレンが平均約100 nm未満の厚さを有し、およびナノスケールメンブレンの反対側面の間に広がる複数の孔を有する。
【0008】
本発明の第2の局面は、無菌である内部を定める密封されたパッケージ、および密封されたパッケージの内部に位置付けられた本発明の第1の局面の装置を含む無菌のパッケージに関する。
【0009】
本発明の第3の局面は、本発明の第1の局面の装置および以下の要素の1つまたは複数を含むキットに関する:(i)細胞培養培地、(ii)1つまたは複数の細胞株、および(iii)1つまたは複数の細胞を培養するための指示書。
【0010】
本発明の第4の局面は、複数の細胞集団を共培養するための方法に関する。この方法には、本発明の第1の局面の装置を提供する段階、および第1のチェンバー内の第1の細胞集団および第2のチェンバー内の第2の細胞集団を(つまり、ナノスケールメンブレンの反対側面で)培養する段階が含まれる。
【0011】
本発明の第5の局面は、細胞の可視化方法に関する。この方法には、第1および/または第2のチェンバー内の細胞と共に本発明の第1の局面の細胞培養装置を提供する段階、および顕微鏡で第1および/または第2のチェンバーの細胞を観察する段階が含まれる。ナノスケールメンブレンは様々な形態の光および電子顕微鏡法を使って光学的に透明である。
【0012】
本発明の第6の局面は、少量の分子種をモニターする方法に関する。この方法には、第1のチェンバー内の細胞を伴う本発明の第1の局面の細胞培養装置を提供する段階、および第2のチェンバー内において少量の分子種の存在を検出する段階が含まれる。
【0013】
本発明の第7の局面は、平均約100 nm未満の厚さを有し、およびその反対側面の間に広がる複数の孔を有するナノスケールメンブレンの反対側面で分離された2つの細胞種を含むインビトロ組織に関する。2つの細胞種は、メンブレンを介した細胞間接触および/または小分子媒介性の細胞間情報交換が可能である。
【0014】
本発明の第8の局面は、それぞれ平均約100 nm未満の厚さを有しており、および反対側面の間に広がる複数の孔を有する少なくとも2枚のナノスケールメンブレンの反対側面で分離された少なくとも3つの細胞種を含むインビトロ組織に関する。1枚のメンブレンが2つの細胞種を分離させ、別のメンブレンが他の細胞種から第3の細胞種を分離させる。分離された細胞種においてメンブレンを介した細胞間接触および/または小分子媒介性の細胞間情報交換が可能である。
【0015】
本発明の第9の局面は、実質的にコンフルエントな細胞層を介した薬物送達速度の測定方法に関する。この方法には、第1のチェンバーに露出される少なくとも1枚のナノスケールメンブレンの表面上に実質的にコンフルエントまで増殖させた第1の細胞種を伴う本発明の第1の局面の装置を提供する段階、第1のチェンバー内に薬物を導入する段階、および第1のチェンバーの実質的にコンフルエントな細胞層を介した薬物の第2のチェンバー内への送達における薬物送達速度を測定する段階が含まれる。
【0016】
本発明の第10の局面は、メンブレンの内部表面およびメンブレンの外部表面を定める形状を有している厚さ100 nm未満である自立型の多孔質メンブレン、メンブレンの内部表面の少なくとも一部分において増殖している第1の細胞種、およびメンブレンの外部表面の少なくとも一部分において増殖している第2の細胞種を含むインビトロ組織モデルに関する。本発明のこの局面の重要な態様としては、内部表面に内皮細胞および外部表面に血管平滑筋細胞を含む血管組織モデル、ならびに内部表面に神経細胞および外部表面に星状細胞を含む神経誘導または補綴術(prosthetics)モデルが挙げられる。
【0017】
本発明の細胞培養装置は、同時培養させた細胞種間での細胞情報交換の程度および種類のより優れた制御をもたらす。さらに、細胞が分離させた環境において維持されている間に情報交換できるため、培養装置によって実質的に純粋な、例えば、回収前に所望の方法で成熟、増殖または分化させた、細胞集団を回収できるようになる。結果として、本発明は、野生型の組織構造を正確に複製させることができる多数のインビトロ組織の増殖を可能にする。さらに、本発明の培養装置において使用するメンブレンによって、少量の分子種の分泌および輸送を検出して、メンブレンの1つまたは両方の側面で増殖する細胞を可視化させることができる。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、1つまたは複数の細胞集団を培養するための装置、およびその使用に関する。
【0019】
本発明の培養装置には、少なくとも1枚のナノスケールメンブレンによって分離された少なくとも2つのチェンバーが含まれる。メンブレンはチェンバー間に位置付けられ、平均約100 nm未満の厚さを有し、かつメンブレンの反対側面の間に広がる複数の孔を有する。
【0020】
チェンバーは任意の適当な材料によって形成でき、かつ任意の所望の形状をとることができる。例えば、装置はカバーを有する容器であるか、または環境に開放されていてよい。例示的な装置としては、ディッシュ、遠心管、細胞培養チューブなどの形状でよい。装置は流体接触面に連結させてもよい。
【0021】
存在する場合、容器およびカバーは任意の適当な材料で形成できる。例示的な材料としては、限定はされないが、ガラス、セラミック、ポリカーボネート、ビニル、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチルスルホン(PES)および金属が挙げられる。
【0022】
カバーはディッシュと同じ材料で形成でき、またはカバーはガス交換を促進させるメンブレンでよい。適当なガス透過性メンブレンの厚さは約10μmから約100μm、好ましくは約40μmから約60μmである。メンブレンは、容器の側面または上部の開口部の上に置く。このタイプのメンブレンは、Mussiらの米国特許第5,409,829号に開示されており、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
装置からの培地および細胞の過剰な漏出を予防するために、容器の開口部および/または開口部の下または開口部の周辺に置いた固型プレートの周辺にガスケットを置くことができ、かつ組立部を適当な任意の留め金構造を利用してしっかり留めることができる。単独ではない場合、チェンバー間の任意の流体連絡が実質的にナノスケールメンブレンを介して起るように、基質とナノスケールメンブレンは好ましくは容器内に挿入される。
【0024】
ナノスケールメンブレンはStriemerらの同時係属中の米国特許出願第11/414,991号に記載の手順に従って調製でき、全体として参照により本明細書に組み入れられる。その中に記載の通り、ナノスケールメンブレンを加工するために利用した手順は、その厚さ、孔径および平均孔径の範囲、ならびに全多孔率を含む、メンブレンの特性を制御するために利用できる。さらに、製造手順によって所定の基質における複数のメンブレンの産生が可能になる(図3参照)。例えば、1つのシリコンウエハーを使用して、1つの基質において100以上(および潜在的には数千)のメンブレンを形成できる。
【0025】
加工中に採用した条件が基質の全体にわたって実質的に同じである場合、結果として得られる、基質の全体にわたり形成されるメンブレンも実質的に同じになるはずである(つまり、実質的に同程度の厚さ、孔密度および孔径を有する)。しかし、基質の全体にわたる条件を変更することで、異なるメンブレンを得ることが可能になる(つまり、異なる厚さ、孔密度および/または孔径を有する)。後者の状況では、例えば、1つの基質の全体にわたり形成される異なるいくつかのタイプのメンブレンを得ることが可能になりうる。または、1つの装置内において、流体接触面において、または流体接触面を介して異なる基質を連結できる。
【0026】
ナノスケールメンブレンは、意図した用途に適当な多孔率を提供できる任意の数の材料から形成できる。適当な材料の例としては、限定はされないが、シリコン、シリコン合金、PドープシリコンおよびNドープシリコンなどの半導体材料、ゲルマニウム、炭素、ならびに金、プラチナ、パラジウムおよびアルミニウムなどの金属が挙げられる。これらの内、半導体材料が好ましく、より好ましくは純粋なシリコン、もしくはB、Al、Ga、In、P、As、SbまたはGeの1つまたは複数でドープされたシリコンである。半導体材料は非晶形または結晶形のいずれかでよいが、しかし、好ましくはナノ結晶形へと焼鈍することができる。本明細書で与える実施例では、多孔質ナノ結晶シリコン(pnc-Si)メンブレンの使用を実証しており、これは現在好まれている。
【0027】
Striemerらの同時係属中の米国特許出願第11/414,991号に記載の通り、これらの材料から形成されるメンブレンは、酸化物コーティング、導電性コーティング、誘電性コーティングなどの任意の様々なコーティングでコーティングすることもでき、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0028】
メンブレンを含む培養装置の使用目的に応じて、1枚のメンブレンの全体にわたり細胞間接触を可能にする、1枚のメンブレンまたは複数のメンブレンの全体にわたる細胞間接触を抑制する、または一部の例では不可能にする、メンブレンの全体にわたるシグナル伝達分子の拡散を可能にする、またはメンブレンの全体にわたるシグナル伝達分子の拡散を抑制する、または一部の例では不可能にするようにメンブレンの特性を調整できる。
【0029】
従って、特定の態様では、メンブレンの厚さを約50 nmから約100 nmの範囲にでき、約90 nmから約100 nm、約80 nmから約90 nm、約70 nmから約80 nm、約60 nmから約70 nm、および約50 nmから約60 nmのメンブレンを含む。他の態様では、メンブレンの厚さを約10 nmから約50 nmの範囲にでき、約40 nmから約50 nm、約30 nmから約40 nm、約20 nmから約30 nm、または約10 nmから約20 nmのメンブレンを含む。さらに別の態様では、メンブレンの厚さを約10 nm未満、例えば、約2 nmから約8 nmにできる。
【0030】
メンブレンの厚さが調節可能であることと一致して、105:1より大きい、106:1より大きい、およびさらには107:1に近い幅対厚さの縦横比を特徴とするメンブレンを加工することができる。
【0031】
メンブレンの孔径も調整できる。全体として参照により本明細書に組み入れられるStriemerらの米国特許出願第11/414,991号に記載の手順を利用して、加工中に孔径を制御できる。平均孔径が50 nm未満のメンブレンを調製できる。特に、平均孔径が約25 nmから約50 nm、約20 nmから約25 nm、約15 nmから約20 nm、約10 nmから約15 nm、および約2 nmから約10 nmの範囲内に調整するようにメンブレンを調製できる。別の材料と一緒に充填することによって形成時の孔の孔径をゆっくりと縮小させることにより、孔径分布のさらなる制御を達成できる。例えば、アモルファスシリコンを沈着させるRFマグネトロンスパッタリング法をナノ多孔質メンブレンに適用できる。約1 nmのアモルファスシリコンを沈着させることで、約2 nmだけ平均孔径を縮小できた。後のこの沈着を慎重に制御することで、直接形成しうるものよりもずっと小さな孔径分布を得ることができる。
【0032】
1 cm2当たり約106から約107、1 cm2当たり約107から約108、1 cm2当たり約108から約109、1 cm2当たり約109から約1010、1 cm2当たり約1010から約1011、および1 cm2当たり約1011から約1012を含む、メンブレン1 cm2当たり約106から約1012の孔密度を有するようにナノスケールメンブレンを調整できる。
【0033】
仮に存在する場合でも表面の隆起や凹凸をほとんど含まない実質的に平滑な(局所的に平滑としても知られている)表面を提供するようにメンブレンの表面を製造できる。または、表面が局所的に平滑ではない方が望ましい場合、規則的またはランダムな間隔でメンブレンの片面または両面からの隆起を含むテクスチャード加工(textured)表面(例えばレリーフパターン)を与えるようにメンブレンを加工できる。
【0034】
メンブレン加工後、メンブレンを修飾して、その表面および/または孔の内側に1つまたは複数の試薬を含めることができる。メンブレンの片面または両面に固定させることができる例示的な試薬としては、限定はされないが、細胞表面受容体、抗体、リガンド、生物学的試薬、末端基を有するシラン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
最終的に付着させる試薬の種類に応じて、1つまたは複数の試薬を多孔質メンブレン構造の表面に付着させる、つまりメンブレンを修飾するために、多くの戦略を利用できる。
【0036】
1つまたは複数の試薬を付着させるための戦略としては、限定はされないが、試薬をメンブレンの表面に共有結合させること、試薬をメンブレンの表面にイオン結合させること、試薬をメンブレンの表面に吸着させることなどが挙げられる。このような結合には、試薬を(カップリング剤の)別の成分に共有結合的または非共有結合的に付着させることも挙げることができ、これは次に共有結合的または非共有結合的にメンブレンの表面に付着される。
【0037】
基本的に、酸化型の加水分解されたメンブレンの表面は、まず、その表面に付着しているカップリング剤で官能化される(つまり、準備刺激される)。これは、カップリング剤の前駆体を提供すること、次にカップリング剤の前駆体をメンブレンの表面に共有結合または非共有結合させることによって達成される。ひとたびメンブレン表面が準備刺激されれば、(i)カップリング剤に共有結合もしくは非共有結合させる、または(ii)プローブがメンブレンの表面に直接共有結合もしくは非共有結合するようにカップリング剤を置き換えるのに有効な条件下において、準備刺激されたメンブレンに試薬を暴露させる。試薬のメンブレンへの結合は、その1つまたは複数の標的結合基を標的分子への結合に利用可能なままにするのに有効な条件下で行なわれる。これらの材料とカップリング剤の多くが、Chanらの米国特許出願第10/082,634号およびMillerらの米国特許出願第10/282,274号に記載されており、これらはそれぞれ全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0038】
適当なカップリング剤の前駆体としては、限定はされないが、エポキシド基、チオール、またはアルケニルで官能化させたシラン、および化合物を含むハライドが挙げられる。
【0039】
シランには、メンブレンの表面に結合する第1の成分、および試薬に結合する第2の成分が含まれる。好ましいシランとしては、限定はされないが、C1-6アルコキシ基を有する3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、C2-12アルキル基およびC1-6アルコキシ基を有するトリアルコキシ(オキシラニルアルキル)シラン、C1-6アルコキシ基を有する2(1,2-エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシラン、C1-6アルコキシ基を有する3-ブテニルトリアルコキシシラン、C2-12アルケニル基およびC1-6アルコキシ基を有するアルケニルトリアルコキシシラン、C2-12アルキル基を有するトリス[(1-メチルエテニル)オキシ]3-オキシラニルアルキルシラン、C1-6アルコキシ基を有する[5-(3,3-ジメチルオキシラニル)-3-メチル-2-ペンテニル]トリアルコキシシラン、(2,3-オキシランジイルジ-2,1- エタンジイル)ビス-トリエトキシシラン、C1-6アルコキシ基およびC2-12アルキル基を有するトリアルコキシ[2-(3-メチルオキシラニル)アルキル]シラン、トリメトキシ[2-[3-(17,17,17-トリフルオロヘプタデシル)オキシラニル]エチル]シラン、トリブトキシ[3-[3-(クロロメチル)オキシラニル]-2-メチルプロピル]シラン、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。当業者に周知の方法に従って、シランを半導体構造に連結できる。
【0040】
ハライドをメンブレンに結合させることもでき、その条件は当業者に周知である。
【0041】
その後、カップリング剤によって与えられる官能性の種類に従って、1つまたは複数の試薬をメンブレンに結合させる。典型的には、水性条件または水性/アルコール条件においてメンブレンへの付着のために、試薬をカップリング剤に付着させるか、またはカップリング剤を置き換える。
【0042】
アミノ基の結合を可能にするように、エポキシド官能基を開環させることが可能であり、その条件は当業者には周知である。チオール基またはアルコールの結合を可能にするように、エポキシド官能基を開環させることも可能であり、その条件は当業者に周知である。
【0043】
アルケニル基の結合を可能にするように、アルケニル官能基は反応でき、その条件は当業者に周知である。
【0044】
ハライドカップリング剤を用いる場合、典型的には、メンブレン結合基としてアルコール基を含む1つまたは複数の試薬に準備刺激済みメンブレンを暴露させた際にハライドカップリング剤は置換される。ハライドカップリングの条件は、当業者に周知である。
【0045】
1つまたは複数の試薬が複数の標的結合基を含む場合、標的結合基は準備刺激済みのメンブレンの表面と相互作用し、かつこれに結合することもできる。これを起らないようにするために、準備刺激済み多孔質メンブレンを遮断薬に暴露させることもできる。遮断薬は、1つまたは複数の試薬がメンブレンの表面に付着できる部位の数を本質的に最小限にする。準備刺激済みメンブレンの表面をプローブに暴露させる前、または暴露と同時に、遮断薬への暴露を実施できるが、同時暴露が一般的に好ましい。標的結合基を欠く点を除いて、遮断薬は構造的に試薬と似ているか、もしくは遮断薬は単純にエンドキャッピング剤である。例として、アミノ酸アルキルエステル(例えば、グリシンメチルエステル、グリシンエチルエステル、3-アラニンメチルエステルなど)遮断薬は、エポキシド環を開環させて、カップリング剤に共有結合するグリシンのアミノ基を除くカップリング剤に試薬を付着させるために、エポキシド官能化メンブレン表面に導入できる。
【0046】
本発明の培養装置は、実質的に任意の所望の形状を取ることができる。その最も単純な形では、培養装置には1つの下部チェンバーおよび1つの上部チェンバーが含まれ、1つまたは複数のナノスケールメンブレンが下部チェンバーと上部チェンバーとの間に位置付けられる。このタイプの装置には、典型的にはディッシュ、チューブ、または他の容器、ならびにディッシュ、チューブ、または容器内に位置付けられた、上部チェンバーおよび下部チェンバーに分けるための複数のメンブレンを有する基質、ならびにディッシュ上に位置する、またはチューブもしくは容器の開いた口を閉じる簡単なカバーが含まれる。
【0047】
ここで図面を参照すると、培養装置のための好ましい態様と構造が記載されている。
【0048】
図1Aでは、培養装置10には、容器12、カバー14、ならびに複数のメンブレン22を有し、かつ共通の下部チェンバー16を定めるために容器12上に位置付けられた基質20が含まれる。少なくとも一部には、(カバーが基質の上部表面に対して平らに位置しているか否かに応じて)基質自体および恐らくはカバー14によって複数の上部チェンバーまたはウェル18が定められている。容器12は、任意で下部チェンバー16から培地を導入する、および/または除去するために使用可能なポート24を含みうる(つまり、1つのポートに注入口および排出口が存在する)。所望の通り、ポートを開閉するためにバルブを与えることができる。または、別々の注入口ポートと排出口ポートを与えることができる。
【0049】
この態様では、下部チェンバーおよび上部チェンバー16、18の両方に培地を与えて、チェンバーの1つに第1の細胞種、およびもう一方のチェンバーに第2の細胞種を増殖させることができる。上部チェンバー18のそれぞれにおける細胞種は、装置の全体にわたり同じであるか、または異なってよい。
【0050】
図1Bでは、培養装置10には、容器12、カバー14、および複数のメンブレン22を有し、かつ容器12上に位置付けられた基質20が含まれる。容器には、容器を別々の複数の下部チェンバー16に分割する複数の壁が含まれる。(各下部チェンバーは、任意で培地を導入する、および/または除去するために使用可能なポート24を含むことができる。所望の通り、各ポートを開閉するためにバルブを与えることができる。)少なくとも部分的には、基質自体によって、複数の上部チェンバーまたはウェル18が定められる。各上部チェンバー18が1つの下部チェンバー16のみに対応するように基質と容器が互いに対して位置付けられており、1枚のメンブレン22が上部チェンバーと下部チェンバーを分離させている。
【0051】
この態様では、下部チェンバーおよび上部チェンバー16、18の両方に培地を与えて、チェンバーの1つに第1の細胞種、およびもう一方のチェンバーに第2の細胞種を増殖させることができる。上部および下部チェンバー16、18のそれぞれにおける細胞種は、装置の全体にわたり同じであるか、または異なってよい。例えば、上部チェンバー18のそれぞれが第1の細胞種を保有し、下部チェンバーのそれぞれが第2の細胞種を保有でき、かつ異なる培地を様々な組のチェンバーにおいて使用できる。これによって、異なる環境条件が同じ組の細胞種に及ぼす影響について試験できる。または、異なる組の細胞種を使用して、同じまたは異なる培地を伴う下部チェンバーおよび上部チェンバー内で、様々な環境条件による異なる細胞間の影響を試験できる。
【0052】
代替構造を利用して、より複雑な共培養能を与えることもできる(つまり、直接の細胞間接触を阻止すること、または3以上の細胞種を使用すること)。
【0053】
図2Aを参照すると、1組の基質20を同時に使用して、上部および下部チェンバーを分離できる。エッチングされた側面が互いに外側を向くように2つの基質を位置付けて、スペーサー26がこれらの間に位置付けられる。これによって本質的に上部チェンバー18と下部チェンバー16との間にバリアゾーンが作成されて、これは細胞間接触を介して細胞が情報交換するには大き過ぎるが、しかし、依然として2つのチェンバー間を拡散できるシグナル伝達分子を介して細胞が情報交換することを可能にする。スペーサー26は2つの基質を単に分離できる、またはスペーサーは流体が漏れない密封を形成できる。
【0054】
下部チェンバーおよび上部チェンバー16、18を分離させる整列させたメンブレン22は、実質的に同じか、または異なってよい。
【0055】
この態様では、下部チェンバーおよび上部チェンバー16、18の両方に培地を与えて、チェンバーの1つに第1の細胞種、およびもう一方のチェンバーに第2の細胞種を増殖させることができる。上部および下部チェンバー16、18のそれぞれにおける細胞種は、上記と同様に、装置の全体にわたり同じであるか、または異なってよい。
【0056】
図2Bを参照すると、1組の基質20を同時に使用して、上部および下部チェンバーを分離できる。エッチングされた側面が互いに外側を向くように2つの基質を位置付けて、スペーサー28がこれらの間に位置付けられる。中間(第3の)増殖チェンバー17を形成するように、スペーサー28は、例えば、図2Aの態様のスペーサー26よりも大きい。中間増殖チェンバー17が下部チェンバーおよび上部チェンバー16、18の全てと連通するように、スペーサー28が2つの基質を単に分離できるか、または、複数の中間チェンバー17を形成するように、スペーサー28は上部および下部基質20のメンブレンの周辺に流体が漏れない密封を形成できる。後者の配置では、各中間チェンバー17が1つのみの下部チェンバー16および1つのみの上部チェンバー18に対応する。
【0057】
下部チェンバー、中間チェンバーおよび上部チェンバー16、17、18を分離させる整列させたメンブレン22は、実質的に同じか、または異なってよい。
【0058】
この態様では、下部チェンバー、中間チェンバーおよび上部チェンバー16、17、18に培地を与えて、チェンバーの1つに第1の細胞種、別のチェンバーに第2の細胞種、および他のチェンバーに第3の細胞種を増殖させることができる。下部チェンバー、中間チェンバーおよび上部チェンバー16、17、18のそれぞれにおける細胞種は、上記と同様に、装置の全体にわたり同じであるか、または異なってよい。
【0059】
図2Cを参照すると、エッチングした側面を同じ方向に向かせて、3つの(または3より多くの)基質20を積み重ねて、複数のチェンバーを作成することができる。この配置では、1つの基質によって定められるチェンバーのそれぞれが、真上または真下のチェンバーと連通している(積み重ねた基質20および/または容器12によって定められる)。示した通り、3つの基質20を積み重ねて、2つの中間チェンバー17aおよび17bの他、下部チェンバーおよび上部チェンバー16、18を形成する。容器12の高さの許容値に応じて、任意の数の基質20を容器12とカバー14との間に積み重ねることができる。
【0060】
下部チェンバー、中間チェンバーおよび上部チェンバー16、17a、17b、18を分離させる整列させたメンブレン22は、実質的に同じか、または異なってよい。
【0061】
この態様では、下部チェンバー、中間チェンバーおよび上部チェンバー16、17a、17b、18に培地を与えて、チェンバーの1つに第1の細胞種、別のチェンバーに第2の細胞種、さらに別のチェンバーに第3の細胞種、および他のチェンバーに第4の細胞種を増殖させることができる。下部チェンバー、中間チェンバーおよび上部チェンバー16、17a、17b、18のそれぞれにおける細胞種は、上記と同様に、装置の全体にわたり同じであるか、または異なってよい。これによって複雑なインビトロの組織構造の形成が可能になる。
【0062】
上記の通り、メンブレンの特性は厳密に制御されており、他を排除する、または抑制すると同時に特定の細胞間相互作用を可能にできる。このような制御の例を図4A〜Cに示している。
【0063】
図4Aには、シグナル伝達分子の拡散を可能にするためのサイズ(つまり、厚さ約20 nm未満)を定めているが、しかし、直接の細胞間接触を排除する、または少なくとも妨げる孔30の大きさ(つまり、約5 nm未満)であることを特徴とするメンブレン22を例示している。
【0064】
図4Bには、シグナル伝達分子の拡散を可能にするためのサイズ(つまり、厚さ約30 nm未満)を定めているが、しかし、直接の細胞間接触を促す孔30の大きさ(つまり、約30 nmより大きい)であることを特徴とするメンブレン22を例示している。
【0065】
図4Cには、シグナル伝達分子の拡散を妨げるためのサイズ(つまり、厚さ約100 nm以上)を定めているが、しかし、直接の細胞間接触を促す孔30の大きさ(つまり、約50 nmより大きい)であることを特徴とするメンブレン22を例示している。
【0066】
メンブレンの厚さ、孔径、および各チェンバー内での細胞増殖を調節するテザー分子(tethered molecule)の存在を利用することに加えて、メンブレンの特性の他の修飾、1つまたは複数の増殖チェンバー内での足場の使用、および培地の適当な選択によっても細胞の増殖および/または分化を調節できる。
【0067】
メンブレンの全体にわたって電荷を導入することによって、メンブレンの特性を修飾できる。Striemerらの同時係属中の米国特許出願第11/414,991号に記載の方法によって、メンブレンに電極を接触させることでメンブレンに電荷を導入でき、これは全体として参照により本明細書に組み入れられる。例えば、メンブレンに正電荷を持たせることで、負電荷を持つ種の通過を可能にしながら、メンブレンの全体にわたり、正電荷を持つ分子種の通過を妨げることができる。同様に、メンブレンに負電荷を持たせることで、正電荷を持つ種の通過を可能にしながら、メンブレンの全体にわたり、負電荷を持つ分子種の通過を妨げることができる。また、典型的に、メンブレンに電荷を導入することで細胞増殖が促進される。
【0068】
特に、1つのチェンバー内で複数の細胞種を同時に培養することが望まれる場合、任意の数の3次元の足場を使用できる。好ましくは、3次元の足場は、天然の細胞外マトリックスを模倣しており、天然の組織内において起る組織様細胞の密度での細胞間相互作用を可能にする十分な表面積を与える。このタイプの細胞培養装置は、2000年11月17日出願のWuらの米国特許出願第09/715,852号および2001年3月1日出願のWuらの米国特許出願第09/796,830号において詳述されており、これらのそれぞれが全体として参照より本明細書に組み入れられる。
【0069】
足場は、タングルド繊維(tangled fiber)、多孔質粒子、またはスポンジもしくはスポンジ様物質から成りうる。適当な足場基質は、限定はされないが、多糖類および繊維状タンパク質などの天然ポリマー;ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリウレタンなどの合成ポリマー;半合成材料;セラミックスおよび金属などの鉱物;サンゴ;ゼラチン;ポリアクリルアミド;コットン;ガラス繊維;カラゲナン;ならびにデキストランなどの多種多様な材料を使用して調製できる。例示的なタングルド繊維としては、限定はされないが、グラスウール、スチールウールおよびワイヤーまたは繊維性メッシュが挙げられる。多孔質粒子の例としては、限定はされないが、ビーズ(ガラス、プラスチックなど)、セルロース、寒天、水酸化リン灰石、処理済または未処理の骨、コラーゲン、およびセファクリル、セファデックス、セファロース、アガロースまたはポリアクリルアミドなどのゲルが挙げられる。「処理済み」の骨は、酸溶液またはアルカリ溶液などの異なる化学物質にさらすことができる。このような処理によって骨の多孔率が変化する。所望の場合、基質は、コラーゲン、マトリゲル、フィブロネクチン、ヘパリン硫酸塩、ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸、ラミニン、ヘモネクチンまたはプロテオグリカンなどの細胞外マトリックスまたはマトリックスでコーティングできる。
【0070】
足場は本質的には多孔質構造を有し、装置を占めることになる細胞種によって孔径が決定される。当業者は適当な孔径を決定して、所望の孔径を達成することができる適当な足場材料を得ることができる。一般的に、約15ミクロンから約1,000ミクロンの範囲の孔径を使用できる。好ましくは、約100ミクロンから約300ミクロンの範囲の孔径を使用する。
【0071】
本発明の培養装置には任意の適当な培地を採用できる。例えば、下部チェンバー、中間チェンバー、および上部チェンバーの少なくとも1部分に培地を置くことができる。培地は、好ましくはチェンバー内に存在する任意の足場を覆う。適当な培地は、様々な組織の細胞および(任意で)その中に含まれる任意のアクセサリー細胞の増殖および分化を支持する必要がある。培地には任意の成長因子、代謝産物などを添加できる。
【0072】
例示的な培地として、限定はされないが、(i)任意でビタミン溶液およびアミノ酸溶液、血清、および/または抗生物質を添加したFisher's medium(Gibco)、Basal Media Eagle(BME)、Dulbecco's Modified Eagle Media(D-MEM)、Iscoves's Modified Dulbecco's Media、Minimum Essential Media(MEM)、McCoy's 5A Media、およびRPMI Mediaなどの古典的な培地;(ii)MyeloCult(商標)(Stem Cell Technologies)およびOpti-Cell(商標)(ICN Biomedicals)などの特別培地、または内皮細胞用のStemSpan SFEM(商標)(StemCell Technologies)、StemPro 34 SFM(Life Technologies)、Marrow-Gro(Quality Biological Inc.)、およびEBM2(Bio Whittaker)などの無血清培地が挙げられる。骨髄用の好ましい培地としては、約1×10-6 Mヒドロコルチゾン、約50μg/mlのペニシリン、約50 mg/mlのストレプトマイシン、約0.2 mMのL-グルタミン、約0.45%炭酸水素ナトリウム、約1×MEMピルビン酸ナトリウム、約1×MEMビタミン溶液、約0.4×MEMアミノ酸溶液、約12.5%(v/v)熱非働化ウマ血清および約12.5%の熱非働化FBS、または自己血清を添加した、約70%(v/v)で使用するMcCoy's 5A medium(Gibco)が挙げられる。
【0073】
本発明の基質およびメンブレンは、例えば、オートクレーブによって滅菌できるため、メンブレンを滅菌条件下で製造および包装することは重要ではない。それにもかかわらず、そうすることが望まれうるが、この場合、基質およびメンブレンは滅菌でき、その後滅菌包装の範囲内に密封できる。または、培養装置の全体を滅菌して、その後滅菌包装の範囲内に密封できる。
【0074】
本発明の培養装置はキットの形でも存在できる。具体的な態様では、キットは、少なくとも1枚、好ましくは複数枚のメンブレンを有する1つの基質、および細胞を培養するための複数の容器を含めることができる。この態様によって、使用者は使用後毎に基質およびメンブレンを滅菌して、培養装置を使用するたびに新しい容器を供給できる。別の態様では、1つまたは複数の培養装置が与えられるが、しかし、交換容器は含まれない。
【0075】
態様にかかわらず、キットは任意で以下の追加の要素の1つまたは複数を含むことができる:(i)上記のタイプなどの細胞培養培地、(ii)1つまたは複数の細胞株、および(iii)1つまたは複数の細胞を共培養させるための指示書。
【0076】
本発明は複数の細胞集団を共培養させる方法にも関する。本発明の培養装置を使用して、第1のチェンバー内に存在する培地中で第1の細胞集団を増殖させ、かつ第2のチェンバー内に存在する培地中で第2の細胞集団を増殖させる(つまり、第1と第2のチェンバーを分離するナノスケールメンブレンの反対側面において)。この方法では、細胞は物理的に分離されるが、しかし、所望の通り、メンブレン内の複数の孔を介して互いに接触および/または情報交換することができる。上記の通り、所望の通り、メンブレンの特性を選択して、直接の細胞間接触または細胞のシグナル伝達を可能にする、または抑制/妨げる。複数のチェンバーが与えられる場合、同様の方法で3以上の細胞種を増殖させることができる。
【0077】
1つの細胞集団を隔離して維持することのみが望まれる場合、複数の細胞種を1つのチェンバー内で、つまり、メンブレンの1つの側面で培養でき、かつ隔離したままにする1つの細胞集団をメンブレンの反対側面の他のチェンバー内で培養できる。同時培養する複数の細胞種を使用して、メンブレンの反対側面の細胞の増殖または分化を変化させる、または刺激するが、それ自体が純粋な形で回収されることを意図していない場合にこれは望まれうる。
【0078】
装置のチェンバー内への新鮮な酸素添加された培地の一定した、または定期的な(しかし、頻繁な)流れを導入できるように、本発明の培養装置を微小流体装置に組み入れることもできる。装置に灌流チェンバーを含めて、培地交換、および恐らくは1つのチェンバーから別のチェンバーへの培地の再循環を可能にすることもできる。この態様では、異なる培地を装置の異なるチェンバー内に導入することも可能である。従って、培地は、pH、タンパク質、イオン、または他の添加剤などの1つまたは複数の特性において異なることができる。一定して、または頻繁に新鮮な培地を導入することで、メンブレンの全体にわたる勾配を維持することができる。
【0079】
回収した(および任意で精製した)一次細胞種またはインビトロ細胞株の任意の組み合わせも本発明の培養装置において培養できる。細胞種は、動物、細菌、真菌、酵母、藻類、および/または植物から得ることができる。動物細胞、特に哺乳動物細胞が好ましい。
【0080】
培養できる細胞種は特に限定されず、本発明の装置は例えば様々な培養動物細胞に使用できる。より具体的には、一次細胞分離株、または、様々な癌細胞の他、肝臓、腎臓、肺、胃、脾臓、神経、筋肉、皮膚、および骨などの様々な器官から得られた樹立細胞株を培養するために方法を適用できる。例としては、限定はされないが、胚の表皮、中胚葉、または内胚葉から派生した細胞;胚性幹細胞、体細胞性幹細胞、造血性幹細胞、間葉幹細胞、および神経系幹細胞などの幹細胞;T細胞、T regs、樹状細胞、抗原提示細胞などの免疫細胞など;ケラチノサイトおよびメラノサイトを含む上皮細胞;血管内皮細胞および血管平滑筋細胞を含む血管組織細胞;ニューロン、ならびに星状細胞、脳室上皮および上衣下細胞などの神経膠細胞を含む神経細胞;毛母細胞;骨芽細胞および破骨細胞を含む骨細胞;軟骨細胞;肝細胞;星細胞;羊膜由来細胞、ならびに胎児肝由来細胞、胎児腎由来細胞、および胎児肺由来細胞を含む胎児細胞、;ならびにHeLa細胞、FL細胞、KB細胞、HepG2細胞、WI-88細胞、MA104細胞、BSC-1細胞、Vero細胞、CV-1細胞、BHK-21細胞、L細胞、CHL細胞、BAE細胞、BRL細胞、PAE細胞などを含む樹立細胞株の細胞が挙げられる。これらの細胞の任意の遺伝子を培養前に人為的に操作できる。
【0081】
限定はされないが、任意で神経膠細胞と共に星状細胞および内皮細胞;任意で神経膠細胞と共に星状細胞およびニューロン;ナチュラルキラーT細胞および樹状細胞;ヘルパー細胞またはニューロンと共に幹細胞;ならびに内皮細胞および血管平滑筋細胞;(任意で抗原提示細胞と共に)T細胞およびT調節細胞;表皮および中胚葉由来細胞;ならびに複数の表皮、中胚葉および内胚葉由来細胞から派生した細胞を含む胚性生殖細胞の共培養物を含む細胞の異なる組み合わせを培養することも望ましい。
【0082】
ひとたび細胞の共培養がその目的を達成すれば、任意の適当な回収技術を利用して1つまたは複数の種類の培養細胞を回収できる。例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)でチェンバーおよび任意の3次元マトリクスを灌流させることで非接着性細胞を回収できる。この非付着性画分を付着性細胞とは別にカウントして解析でき、もしくは所望の通りに2つの画分をプールできる。0.05%トリプシンで37℃、7分間装置をインキュベートすることによって、もしくはCDS(Sigma)で装置をインキュベートすることによって、付着性細胞を回収できる。剥がした付着性細胞を回収し、培地でリンスできる。これらの技術は、再現性よく生存細胞の高率の回収をもたらす。回収された細胞が治療のための投与またはさらなる調査に必要である場合、これらの技術は特に望まれうる。
【0083】
本発明の装置において異なる細胞種を共培養することで、様々な組織のインビトロモデルを作成することができる。一態様では、インビトロ組織モデルには、メンブレンの反対側面に分離された2つの細胞種が含まれており、かつ2つの細胞種はメンブレンの全体にわたる細胞間接触および/または小分子媒介性の細胞間情報交換が可能である。別の態様では、インビトロ組織モデルには、少なくとも2枚のメンブレンの反対側面に分離した少なくとも3つの細胞種が含まれ、ここで分離された細胞種はメンブレンの全体にわたる細胞間接触および/または小分子媒介性の細胞間情報交換が可能である。
【0084】
本発明の培養装置を使用して、多くの組織をシミュレートすることができる。例示的な組織としては、限定はされないが、(i)内皮細胞および平滑筋細胞を共培養することによる血管組織;(ii)腫瘍細胞微小環境;(iii)大脳内皮細胞、星状細胞、および血管周囲細胞を共培養することによる血液脳関門;ならびに(iv)消化管内膜が挙げられる。
【0085】
インビトロ血液脳関門についての例として、この組織模倣体を使用して、薬物が血液脳関門を通過する能力を評価できる。基本的に、薬物は装置の1つのチェンバー内に導入されて、その後血液脳関門の模倣体を通過して他のチェンバー内に入った薬物の濃度に関して評価がなされる。放射能標識薬物、蛍光タグ付き薬物などの標識薬物を使用して、これを測定できる。脳の治療に関する特定の薬物の治療可能性を評価する際に、この特定の態様は有用である。
【0086】
さらに別の例では、インビトロの消化管内膜は、本発明の通りに調製されて、次に薬物の消化管内膜を通過する能力を分析するために使用できる。基本的に、薬物は装置の1つのチェンバー内に導入されて、その後消化管内膜の模倣体を通過して他のチェンバー内に入った薬物の濃度に関して評価がなされる。上記の標識薬物を使用して、これを測定できる。特定の薬物の経口送達が有効となる可能性があるか否かを評価する際に、この特定の態様は有用である。動物試験中の投薬スケジュールは、本発明のインビトロ消化管内膜を使用して作成されたインビトロデータに基づいて設定できる。
【0087】
インビトロ組織モデルの別の態様では、メンブレンはそれ自体が別々のチェンバーが無い場合に使用できる。この態様では、メンブレンは基質から放出されて、次に3次元構造を加工するために使用できる。異なる細胞種を、構造物の外側に対して構造物の内側に播種できる。
【0088】
図5にインビトロ血管組織モデルの形成過程を例示している。少なくとも1枚のナノスケールメンブレンを有する基質が与えられる。例えば、緩衝酸化物エッチング液を使用して、概して約5から約30分で基質からメンブレンを放出させることができる。水を使用して、エッチング過程を止めることができる。その後、放出されたメンブレンは3次元構造(例えば、シリンダー)で包まれて、構造の外側および内側に、1つまたは複数の細胞種を播種できる3次元メンブレン構造を形成する。
【0089】
3次元構造は部分的または全体的に適当なバイオポリマー材料で構成されており、メンブレンの内部表面に適用することもできる。適当なバイオポリマーフィルムは当技術分野において周知であり、吸収性ポリマーまたは生分解性ポリマーを含む。例示的な生分解性ポリマーとしては、限定はされないが、ポリ(エチレンコビニルアセテート)、ポリ(ラクチドコグリコリド)、ポリ(カプロラクトン)ポリ(ラクチド)、ポリグリコリド、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、タンパク性ポリマー、ポリエステル、シリコーンまたはこれらの組み合わせが挙げられる。構造物の培地中での存在期間に応じて、バイオポリマーは経時的に分解しうる。
【0090】
一態様に従って、メンブレンの内部表面上に内皮細胞を播種し、かつメンブレンの外部表面上に平滑筋細胞を播種する。播種された構造は、細胞培養培地中に置かれた場合、播種された細胞の増殖および発生を可能にして、これによってインビトロ血管組織モデルを形成する。血管移植片としてのこのインビトロ組織の使用も企図される。
【0091】
別の態様に従って、メンブレンの内部表面上に神経細胞を播種して、かつメンブレンの外部表面上に星状細胞を播種する。播種された構造は、細胞培養培地中に置かれた場合、播種された細胞の増殖および発生を可能にして、これによってインビトロ神経組織モデルを形成する。
【0092】
本発明の細胞培養装置を使用して、細胞のシグナル伝達の挙動をモニターすることもできる。これは、たとえ少量で存在するものであっても分泌シグナル伝達分子の拡散をモニターすることによって、達成できる。天然受容体または合成受容体を有する任意のシグナル分子を本発明の装置で調査することができる。
【0093】
調査に値する細胞シグナル伝達分子としては、短距離シグナル伝達分子に分類される分子が挙げられる。例示的な短距離シグナル伝達分子としては、限定はされないが、Wntファミリーのメンバー、ヘッジホッグファミリーのメンバー、ノッチファミリーのメンバー、インターフェロンファミリーのメンバー、PAMPなどのToll様受容体を認識する分子、リンホカイン、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン、インターロイキン、免疫グロブリンスーパーファミリーの受容体を認識する分子(例えば、IL-1)、受容体チロシンキナーゼ受容体を認識する分子(例えば、FGF、HGFなど)、受容体セリン/スレオニンキナーゼ受容体を認識する分子(例えば、TGF-β、BMP、BMP阻害剤など)、および7回膜貫通型ヘリックス受容体を認識する分子(例えば、fMLP、IL-8など)が挙げられる。
【0094】
チェンバーの1つに培養した細胞を伴う本明細書に記載の培養装置を提供すること、次に培養装置の別のチェンバー内の少量の分子種の存在を検出することによって、少量の分子種をモニターできる。チェンバー内の細胞を固定して、または固定せずに、少量の分子種を染色すること、および/または標識することによって、または標識検出試薬を使用することによって、少量の種の存在を検出できる。
【0095】
少量の分子種の検出は多くの方法で達成できる。検出される分子種を産生するために遺伝子改変細胞を使用する場合、分子種は好ましくは蛍光タンパク質を含む融合タンパク質、または蛍光共鳴エネルギー移動またはFRETに関与できるポリペプチドとして発現させる。検出される融合タンパク質に特異的な受容体は、蛍光タンパク質または融合タンパク質のポリペプチドと共に、FRETに関与できるフルオロフォアも含む。または、検出する分子種に特異的な抗体を使用したサンドウィッチELISAフォーマットを用いて検出できる。例えば、検出が行われるチェンバーには、検出される分子種に特異的な1つまたは複数の受容体を含むこともでき、これらの受容体結合種は標識抗体、抗体断片、または抗体模倣体を使用して検出できる。
【0096】
図6に示す一態様に従って、複数の受容体分子32をメンブレン22の少なくとも1つの側面に固定させる。少量の分子種34は孔30を介して拡散して、ここで受容体分子32に結合できる。受容体32への種34の結合は、種34と受容体32の一方あるいは両方からの蛍光放出の変化によって示すことができる。この態様では、種および受容体には蛍光タンパク質またはFRETに関与できるポリペプチドが含まれる。結果的に、結合によって蛍光シグナルに検出可能な変化がもたらされる。
【0097】
本発明の別の局面は、本発明の装置における培養細胞の視覚化に関する。本発明のメンブレンは光によって浸透可能(厚さ≪λ)であるため、従来の光学顕微鏡、暗視野顕微鏡、明視野顕微鏡、微分干渉顕微鏡、位相差顕微鏡、偏光顕微鏡、共焦点顕微鏡、近接場走査型光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、または透過型電子顕微鏡を使用してメンブレンのどちらの側面の細胞も観察できる。さらに、本発明の特定のメンブレンは一部の染料に対して多孔質であるため、メンブレンの両側面の細胞は、所望の通りに、観察前に染色できる、もしくは別の方法で標識できる。当技術分野において周知の通り、染色前に任意で細胞を固定できる。
【0098】
実施例
以下の各実施例は、本発明の態様を例示するために提供され、この範囲に限定することを意図するものではない。
【0099】
実施例1−培養装置の形成
Striemerらの同時係属中の米国特許出願第11/414,991号に記載の手順に従い、複数の多孔質ナノスケールメンブレンを含むシリコン基質を調製しており、全体として参照により本明細書に組み入れられる。メンブレンは同一の条件下で形成され、したがって、メンブレンはその特性において実質的に同様と考えられる。メンブレンの厚さは平均約15 nm、平均孔径は約25 nmである。
【0100】
CorningやFalconなどの様々な製造業者から入手可能な標準フォーマット「6ウェル」培養ディッシュ内に挿入する培養装置を調製するためにメンブレンを含むシリコン基質を使用する。約80%の活性メンブレン面積を含む直径2 cmのシリコンチップは、ウェルの床から約1 cmでメンブレンを吊るすように、ウェルに適合するプラスチック構造によって支持される。メンブレンの孔を介した場合を除いて、メンブレンによって定められる底部チェンバーから上部チェンバーに液体および分子が移動できないように、プラスチック構造によってメンブレンは密封される。このプラスチック挿入物のデザインは、細胞培養容器や遠心管内においてフィルターメンブレンを吊るす市販の挿入物と類似しており、Pall、MilliporeおよびCorningなどの製造業者から市販されている。
【0101】
実施例2−多孔質ナノ結晶シリコンメンブレンはオートクレーブに耐える
培養装置または少なくともメンブレンを含む基質は、包装(および使用)前に滅菌する必要があるため、多孔質ナノ結晶シリコンメンブレンがオートクレーブに耐える能力を評価した。
【0102】
3ウェルpnc-Siメンブレンサンプルを15 psi、121℃のオートクレーブ条件に暴露させた。オートクレーブ前後にメンブレンの画像を得た(図7A〜B)。オートクレーブ前に3枚のメンブレンの1枚を意図的に破損させて、完全なメンブレンと破損したメンブレンとの間に明らかな差を作成した。標準的なオートクレーブ手順後に2枚のメンブレンが完全であることを画像は示している。
【0103】
実施例3−pnc-Siメンブレンで増殖させた不死化線維芽細胞
不死化線維芽細胞は非酸化型のpnc-Siメンブレン(基質から除去)および標準的ガラスカバースリップ上で増殖させた。
【0104】
メンブレンおよびカバースリップをメタノール中で滅菌させて、6ウェルディッシュに移す前に乾燥させた。真空グリースのドットを使用してウェル表面にメンブレンを固定させた。細胞を低密度に分けて(各ウェルに3滴)、5% CO2でインキュベートさせた。各時点で、染色させるカバースリップおよびメンブレンを6ウェルプレートから外して、換気フードに移動させるために培地を含むトランスファーディッシュ内に置いた。換気フード内では、PBS中3.7%ホルムアルデヒトで15分間細胞を固定させた。固定後、メンブレンおよびカバースリップを蒸留水でリンスさせて、アクチン染色液で染色した。アクチン染色液は、10% 10×PHEM緩衝液(6.9)、1% TX-100 Triton、87% ddH20、およびPhalloidin FITCの2% 二次希釈液である。二次希釈液は80μl DMSO中の1 mgのPhalloidin FITCである。光がファロイジンを攻撃することを阻止するために気泡ふたで覆いながら、メンブレンおよびカバースリップを7分間着色液に浸した。いったん染色すると、それらを再び蒸留水中で洗い、ガラススライド上に取り付けた。
【0105】
蛍光灯を使用してZeiss Axiovert 200 m顕微鏡上で撮像した。3つの時点で写真を撮った:1日目、2日目、および4日目。図8A、C、およびEには、非酸化型のpnc-Siメンブレン上で増殖している色素染色された線維芽細胞の画像を例示している。細胞の形態は、それらが十分に広がり、集団が4日目までにコンフルエントまで増殖したことを示している(図8E)。コンフルエントまでの増殖は、カバースリップ上で増殖させた線維芽細胞と比較して、少し遅れていた(図8B、D、およびFを比較)。
【0106】
実施例4−星状細胞および内皮細胞の共培養
実施例1に記載の培養装置を使用して、上部区画から下部区画を分ける。区画を両方とも血清添加DMEMで満たす。挿入物をより大きな培養容器内で転倒させて、まず内皮細胞をフィルターの下表面に付着させる。これによって、細胞を重力によりメンブレン表面の後方に安定させることができる。約4時間後に非付着性細胞を後方に洗い落として、標準的な6ウェルフォーマット培養ディッシュ内のウェルに挿入物を移して、内皮細胞がウェルの底を向くように吊るした。次に、星状細胞を上部区画内に導入させて、第2のメンブレン表面に接触および付着するまで、重力により安定させた。
【0107】
培地を48時間ごとに交換しながら、コンフルエントに増殖するまで細胞種を培養する。
【0108】
結果として得られる培養物を下部チェンバーに導入した薬物に暴露させて、インビトロでの血液脳関門を通過する薬物の能力を評価する。
【0109】
実施例5−中脳星状細胞およびヒト胚性幹細胞の共培養
実施例1に記載の培養装置を使用して、上部区画から下部区画を分ける。区画を両方とも増殖因子と10% FBSを添加したDMEM-F12で満たす。挿入物をより大きな培養容器内で転倒させて、まず中脳星状細胞をフィルターの下表面に付着させる。これによって、星状細胞を重力によりメンブレン表面の後方に安定させることができる。約4時間後に非付着性細胞を後方に洗い落として、標準的な6ウェルフォーマット培養ディッシュ内のウェルに挿入物を移して、星状細胞がウェルの底を向くように吊るした。次にヒト胚性幹細胞を上部区画内に導入させて、第2のメンブレン表面に接触および付着するまで、重力により安定させた。
【0110】
培地を24時間ごとに交換しながら、コンフルエントに増殖するまで細胞種を培養する。
【0111】
神経系で発現するタンパク質(nesting、engrailed 1など)の染色を利用して神経系の表現型の徴候について、ヒト胚性幹細胞を検証する。
【0112】
実施例6−ナチュラルキラーT細胞および樹状細胞の共培養
実施例1に記載の培養装置を使用して、上部区画から下部区画を分ける。区画を両方ともRPMI 1640培地で満たす。挿入物をより大きな培養容器内で転倒させて、まずT細胞をフィルターの下表面に付着させる。これによって、T細胞を重力によりメンブレン表面の後方に安定させることができる。約4時間後に非付着性細胞を後方に洗い落として、標準的な6ウェルフォーマット培養ディッシュ内のウェルに挿入物を移して、T細胞がウェルの底を向くように吊るした。
【0113】
限定はされないが、タンパク質、多糖類、リポタンパク質または糖脂質を含む細菌抗原またはウイルス抗原のいずれかに3日間から6日間にわたり樹状細胞を別々に暴露させる。次に、準備刺激した樹状細胞を上部区画内に導入させて、第2のメンブレンの表面に接触および付着するまで、樹状細胞を重力により安定させる。T細胞との共培養を15分間から9日間にわたり維持する。必要な場合、24時間から48時間ごとに培地を交換する。
【0114】
T細胞を回収して、抗原提示樹状細胞との共培養に起因する活性化の徴候について試験する。
【0115】
例示の目的で本発明を詳細に記載しているが、この詳細はこの目的のためだけであることが理解され、当業者であれば、以下の特許請求の範囲で定める本発明の精神および範囲から逸脱することなく変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1A〜Bは、本発明の2つの態様の細胞培養装置の基本構造を例示している。図1Aにおいて、各上部チェンバーが多孔質メンブレンを介して共通の下部チェンバーと通じている。図1Bにおいて、各上部チェンバーが1つの下部チェンバーと通じており、かつ隣接する組のチェンバー間では情報交換が存在しない。
【図2】図2A〜Cは、細胞培養装置のいくつかの他の態様を例示している。単純化するために、装置の全体は示しておらず、その代わりに、複数のメンブレン間の関係のみを例示している。図2Aでは、一対のメンブレンを使用して、第1と第2の区画を分離している。細胞間接触は妨げるが、細胞のシグナル伝達は可能にするように、スペーサーをメンブレン間に設けている。図2Bでは、一対のメンブレンを使用して、第1、第2、および第3の区画を形成している。より大きなスペーサーによってメンブレンを分離させて、細胞を保持するための適当な大きさの中間チェンバーを作成する。図2Cでは、3枚のメンブレンを使用して、4つの培養チェンバーを分離させている。図2B〜Cに示した態様では、より複雑な組織の相互作用を模倣するために使用できる多層細胞培養物を作成している。
【図3】マルチウェル培養装置を形成するために使用できるマルチウェル基質の構造を例示している。Striemerらの同時係属中の米国特許出願第11/414,991号に記載の簡単なフォトリソグラフィ技術によって、各ウェルがそれ自体の多孔質メンブレンを有する複数のウェルを、1つの基質において作成することができる。全てのウェルの多孔質メンブレンは、実質的に同じでよく(実質的に同じ条件下で作成)、または異なってもよい。単一の細胞または小コロニーを各ウェルに沈着させることができる。ウェルの底を全て図1Aに示す通り1つの共用のチェンバーまたはリザーバーに露出させることができ、またはそれぞれを図1Bに示す通り別々の小さなリザーバーを持たせることができる。
【図4】図4A〜Cは、さまざまな厚さおよび孔径の効果を例示している。図4Aは、細胞隆起は排除するが、小分子拡散を介した細胞のシグナル伝達を可能にする小孔を有する薄いメンブレンを示している。図4Bは、細胞間接触と小分子拡散のいずれも可能にする大孔を有する薄いメンブレンを示している。図4Cは、大孔を有する比較的厚いメンブレンを介した接触が可能な細胞隆起を示しているが、しかし、長い拡散距離またはメンブレン表面への結合のために小分子シグナル伝達は減弱されうる。
【図5】血管構造および/または血管移植片を複製するための3次元インビトロ組織モデルを形成させるための過程を例示している。神経誘導を調製するために同様の過程を使用できる。
【図6】センサーとしてのメンブレンの使用を例示している。少量の分子がメンブレンを介して拡散して、メンブレンの反対側面に連結した受容体分子に結合できる。拡散性分子の検出は、多くの検出戦略を利用して達成できる。
【図7】図7A〜Bは、3枚の多孔質ナノ結晶性シリコン(pnc-Si)メンブレンを含むシリコン基質を例示しており、この内の1枚がオートクレーブ後の他の残存pnc-Siメンブレンの検証を容易にするために意図的に壊されている。(7A)の前および(7B)の後の画像では、壊されていないpnc-Siメンブレンに及ぼすオートクレーブの有害作用は認められない。
【図8】図8A〜Fは、非酸化型の多孔質ナノ結晶性シリコンメンブレン(8A、8C、8C)およびガラスカバースリップ(8B、8D、8F)上で増殖させた線維芽細胞の画像である。光学顕微鏡によって細胞を視覚化させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチェンバーと第2のチェンバーとの間に位置付けられた少なくとも1枚のナノスケールメンブレンによって隔てられた第1のチェンバーおよび第2のチェンバーを含む細胞培養装置であって、少なくとも1枚のナノスケールメンブレンが平均約100 nm未満の厚さを有し、かつ該ナノスケールメンブレンの反対側面の間に広がる複数の孔を有する、細胞培養装置。
【請求項2】
第1のチェンバーおよび第2のチェンバー内の細胞培養培地、第1のチェンバー内の第1の細胞種、ならびに第2のチェンバー内の第2の細胞種をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項3】
複数の第1のチェンバー、および少なくとも1枚のナノスケールメンブレンを介して複数の第1のチェンバーのそれぞれと連通している1つの第2のチェンバーを含む、請求項1記載の装置。
【請求項4】
複数の第1のチェンバーおよび1つの第2のチェンバー内に細胞培養培地をさらに含む、請求項3記載の装置。
【請求項5】
複数の第1のチェンバー内に第1の細胞種をさらに含む、請求項4記載の装置。
【請求項6】
1つの第2のチェンバー内に第2の細胞種をさらに含む、請求項5記載の装置。
【請求項7】
複数の第1のチェンバー内に分かれて存在する複数の異なる細胞種をさらに含む、請求項4記載の装置。
【請求項8】
1つの第2のチェンバー内にさらなる細胞種をさらに含む、請求項7記載の装置。
【請求項9】
第1のチェンバーと、少なくとも1枚のナノスケールメンブレンを通じて1つの第1のチェンバーとのみ連通している第2のチェンバーとの複数の対を含む、請求項1記載の装置。
【請求項10】
第1のチェンバーと第2のチェンバーとの複数の対内の細胞培養培地、第1のチェンバー内の第1の細胞種、および第2のチェンバー内の第2の細胞種をさらに含む、請求項9記載の装置。
【請求項11】
第1の細胞種が第1の各チェンバー内で同じであり、ならびに第2の細胞種が第2の各チェンバー内で同じである、請求項10記載の装置。
【請求項12】
第1の細胞種が第1の各チェンバー内で異なり、ならびに第2の細胞種が第2の各チェンバー内で同じであるかまたは異なる、請求項10記載の装置。
【請求項13】
第1のチェンバーと第2のチェンバーとの間に位置付けられ、少なくとも1枚のナノスケールメンブレンの1つまたは複数によって第1および第2の各チェンバーから隔てられた中間チェンバーをさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項14】
第1のチェンバーと中間チェンバーを隔てる少なくとも1枚のナノスケールメンブレンが、第2のチェンバーと中間チェンバーを隔てる少なくとも1枚のナノスケールメンブレンと実質的に同じである、請求項13記載の装置。
【請求項15】
第1のチェンバーと中間チェンバーを隔てる少なくとも1枚のナノスケールメンブレンが、第2のチェンバーと中間チェンバーを隔てる少なくとも1枚のナノスケールメンブレンとは異なる、請求項13記載の装置。
【請求項16】
第1のチェンバー、第2のチェンバー、および中間チェンバー内の細胞培養培地をさらに含む、請求項13記載の装置。
【請求項17】
第1のチェンバー内の第1の細胞種、および第2のチェンバー内の第2の細胞種をさらに含む、請求項16記載の装置。
【請求項18】
中間チェンバー内の第3の細胞種をさらに含む、請求項17記載の装置。
【請求項19】
チェンバーの少なくとも1つが3次元の足場を含む、請求項1記載の装置。
【請求項20】
少なくとも1枚のナノスケールメンブレンが、その反対側面で増殖する細胞間の細胞間接触を妨げる、請求項1記載の装置。
【請求項21】
少なくとも1枚のナノスケールメンブレンが、その反対側面で増殖する細胞間の細胞間接触を促進させる、請求項1記載の装置。
【請求項22】
少なくとも1枚のナノスケールメンブレンが、第1のチェンバーと第2のチェンバーとの間に位置付けられた、間隔をおいて配置された複数のナノスケールメンブレンを含む、請求項1記載の装置。
【請求項23】
複数のナノスケールメンブレンのそれぞれが実質的に同程度の厚さ、孔密度、および孔の大きさを特徴とする、請求項22記載の装置。
【請求項24】
複数のナノスケールメンブレンが、異なる厚さ、孔密度、および/または孔の大きさを有するメンブレンを含む、請求項22記載の装置。
【請求項25】
ナノスケールメンブレンが、メンブレン1 cm2当たり約106から約1012の間の孔密度を有する、請求項1記載の装置。
【請求項26】
ナノスケールメンブレンが約50 nmから約100 nmの間の厚さである、請求項1記載の装置。
【請求項27】
ナノスケールメンブレンが約10 nmから約50 nmの間の厚さである、請求項1記載の装置。
【請求項28】
ナノスケールメンブレンが約10 nm未満の厚さである、請求項1記載の装置。
【請求項29】
複数の孔の平均直径が約2 nmから50 nmの間である、請求項1記載の装置。
【請求項30】
ナノスケールメンブレンが、10,000:1より大きい面積対厚さの縦横比を特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項31】
ナノスケールメンブレンが半導体材料、ゲルマニウム、炭素、または金属から形成される、請求項1記載の装置。
【請求項32】
半導体材料がシリコン、シリコン合金、PドープシリコンおよびNドープシリコンからなる群より選択される、請求項31記載の装置。
【請求項33】
金属が金、プラチナ、パラジウム、およびアルミニウムからなる群より選択される、請求項31記載の装置。
【請求項34】
半導体材料が結晶形である、請求項31記載の装置。
【請求項35】
ナノスケールメンブレンが、該メンブレンの1つまたは両方の側面の表面上に細胞表面受容体、抗体、リガンド、生物学的試薬、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1記載の装置。
【請求項36】
ナノスケールメンブレンが、該メンブレンの孔内に細胞表面受容体、抗体、リガンド、生物学的試薬、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1記載の装置。
【請求項37】
メンブレンを帯電させるのに有効な方法でナノスケールメンブレンと電気的に結合した電源をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項38】
ナノスケールメンブレンが正電荷を帯びている、請求項37記載の装置。
【請求項39】
ナノスケールメンブレンが負電荷を帯びている、請求項37記載の装置。
【請求項40】
無菌である内部を定める密封されたパッケージ、および
密封されたパッケージの内部に位置付けられた請求項1記載の装置
を含む、無菌パッケージ。
【請求項41】
請求項1記載の装置、ならびに(i)細胞培養培地、(ii)1つまたは複数の細胞株、および(iii)1つまたは複数の細胞の共培養に関する指示書のうちの1つまたは複数を含むキット。
【請求項42】
装置が無菌であり、かつ無菌環境を定める密封されたパッケージ内に位置付けられている、請求項41記載のキット。
【請求項43】
請求項1記載の装置を提供する段階、および
第1のチェンバー内で第1の細胞集団を培養し、かつ第2のチェンバー内で第2の細胞集団を培養する段階
を含む、複数の細胞集団の共培養方法。
【請求項44】
細胞が物理的に隔てられているが、複数の孔を介して互いに接触および/または情報交換可能である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
細胞が複数の孔を介して互いに情報交換可能であるが、接触可能でない、請求項43記載の方法。
【請求項46】
細胞集団が複数の孔を介して互いに物理的に接触する、請求項43記載の方法。
【請求項47】
細胞集団が動物、細菌、真菌、酵母、藻類、および/または植物に由来する、請求項43記載の方法。
【請求項48】
第1および/または第2のチェンバー内の細胞と共に請求項1記載の細胞培養装置を提供する段階、ならびに
顕微鏡で第1および/または第2のチェンバーの細胞を観察する段階
を含む、細胞の可視化方法。
【請求項49】
観察段階の前に第1のチェンバーおよび第2のチェンバーの細胞を固定する段階をさらに含む、請求項48記載の方法。
【請求項50】
観察段階の前に細胞を染色および/または標識する段階をさらに含む、請求項48記載の方法。
【請求項51】
観察段階が、光学顕微鏡、暗視野顕微鏡、明視野顕微鏡、微分干渉顕微鏡、位相差顕微鏡、偏光顕微鏡、共焦点顕微鏡、近接場走査型光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、または透過型電子顕微鏡によって行われる、請求項48記載の方法。
【請求項52】
第1のチェンバー内の細胞と共に請求項1記載の細胞培養装置を提供する段階、および
第2のチェンバー内の少量の分子種の存在を検出する段階
を含む、少量の分子種のモニタリング方法。
【請求項53】
検出段階がFRETまたはサンドウィッチELISAによって行なわれる、請求項52記載の方法。
【請求項54】
検出段階の前に細胞を固定する段階をさらに含む、請求項52記載の方法。
【請求項55】
検出段階の前に少量の分子種または検出試薬を染色および/または標識する段階をさらに含む、請求項52記載の方法。
【請求項56】
少量の分子種が、Wntファミリー、ヘッジホッグファミリーのメンバー、ノッチファミリーのメンバー、インターフェロンファミリーのメンバー、PAMPなどのToll様受容体を認識する分子、リンホカイン、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン、インターロイキン、免疫グロブリンスーパーファミリーの受容体を認識する分子、受容体チロシンキナーゼ受容体を認識する分子、受容体セリン/スレオニンキナーゼ受容体を認識する分子、および7回膜貫通型ヘリックス受容体を認識する分子の群より選択される、請求項52記載の方法。
【請求項57】
実質的にコンフルエントな細胞層を介した薬物送達速度の測定方法であって、
第1のチェンバーに露出した少なくとも1枚のナノスケールメンブレンの表面上に実質的にコンフルエントまで増殖させた第1の細胞種と共に、請求項1記載の装置を提供する段階;
第1のチェンバー内に薬物を導入する段階;および
第1のチェンバーの実質的にコンフルエントな細胞層を介した第2のチェンバー内への薬物送達速度を測定する段階
を含む、方法。
【請求項58】
第1の細胞種が皮膚または消化管の上皮細胞である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
第1の細胞種が、血管内皮細胞のみ、または周皮細胞および/もしくは星状細胞と組み合わされた血管内皮細胞である、請求項57記載の方法。
【請求項60】
平均約100 nm未満の厚さを有し、かつナノスケールメンブレンの反対側面の間に広がる複数の孔を有する該ナノスケールメンブレンの反対側面に分離された2つの細胞種を含むインビトロ組織であって、2つの細胞種においてメンブレンを介した細胞間接触および/または小分子媒介性の細胞間情報交換が可能である、インビトロ組織。
【請求項61】
2つの細胞種が、メンブレンを介して細胞間接触はできないが、小分子媒介性の細胞間情報交換が可能である、請求項60記載のインビトロ組織。
【請求項62】
脳血液関門モデル、真皮モデル、消化管内膜モデル、または血管組織モデルである、請求項60記載のインビトロ組織。
【請求項63】
それぞれ平均約100 nm未満の厚さ、およびナノスケールメンブレンの反対側面の間に広がる複数の孔を有する少なくとも2枚の該ナノスケールメンブレンの反対側面に分離された少なくとも3つの細胞種を含むインビトロ組織であって、1枚のメンブレンが2つの細胞種を分離させ、別のメンブレンが他の細胞種から第3の細胞種を分離させ、分離された細胞種においてメンブレンを介した細胞間接触および/または小分子媒介性の細胞間情報交換が可能である、インビトロ組織。
【請求項64】
少なくとも3つの細胞種が、メンブレンを介した細胞間接触はできないが、小分子媒介性の細胞間情報交換は可能である、請求項63記載のインビトロ組織。
【請求項65】
脳血液関門モデル、真皮モデル、消化管内膜モデル、または血管組織モデルである、請求項63記載のインビトロ組織。
【請求項66】
メンブレンの内部表面およびメンブレンの外部表面を定める形状を有する、厚さが100 nm未満である自立型の多孔質メンブレン;および
メンブレンの内部表面の少なくとも一部分において増殖している第1の細胞種;および
メンブレンの外部表面の少なくとも一部分において増殖している第2の細胞種
を含む、インビトロ組織モデル。
【請求項67】
第1の細胞種が内皮細胞を含み、かつ第2の細胞種が血管平滑筋細胞を含む、請求項66記載のインビトロ組織モデル。
【請求項68】
第1の細胞種が神経細胞を含み、かつ第2の細胞種が星状細胞を含む、請求項66記載のインビトロ組織モデル。
【請求項69】
メンブレンの内部表面と接触している生分解性ポリマーをさらに含む、請求項66記載のインビトロ血管組織モデル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−529888(P2009−529888A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500597(P2009−500597)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/064001
【国際公開番号】WO2007/106868
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(508144129)ユニバーシティ オブ ロチェスター (3)
【Fターム(参考)】