説明

超電導ケーブル用ドラム

【課題】超電導ケーブルをドラムに巻き付けたまま圧力試験を行っても、ケーブルが損傷することなく、簡単に圧力試験を行うことができる超電導ケーブル用ドラムを提供する。
【解決手段】超電導ケーブル1を巻き付ける超電導ケーブル用ドラム2は、ケーブル1が巻き付けられる円筒状の胴部31と、胴部31の軸方向両端に形成される鍔部32と、1段巻き付けられた超電導ケーブル全体を覆い、ケーブルの巻き付けが広がる方向への動きを阻止する複数の押さえ板4と、押さえ板の外側に配置され、押さえ板を締め付ける締付帯5とを備える。また、胴部31の両端部全周で、鍔部32の内側に、棚部33を設けることにより、押さえ板4と棚部33とにより密閉空間を形成できる。この密閉空間を形成することにより、ドラムそのもので、微少リーク試験を簡単に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルを巻き付ける超電導ケーブル用ドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルとして、例えば、Bi系高温超電導テープ線などからなる超電導導体(超電導線材)を用いたものが知られている。この種の超電導ケーブルは、中心から順にフォーマ、超電導導体層、電気絶縁層、シールド層、保護層を備えるケーブルコアを二重金属コルゲート管から構成される断熱管の内部に収納している。この断熱管は、内管と外管との間の空間を真空にするとともに、この空間に真空断熱材を配置している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
製造されたケーブルは、専用のドラムに巻き付けられた状態で、製造時及び出荷時に輸送、保管される。さらに、超電導ケーブルは、ケーブル運転時に、断熱管の内管の内部に液冷媒を流通させて、内管内に収納されるケーブルコアを冷却するようになっている。
【0004】
ところで、断熱管を有する超電導ケーブルは、断熱管の内管内部から冷媒が外部に漏れたり、断熱管の真空劣化が生じたりすると、ケーブルコアを超電導状態に維持できなくなる。このような不具合が生じないようにするため、製品を出荷する前に、圧力試験や微少リーク試験を行っている。なお、圧力試験も微少リーク試験もケーブル全長に亘って行われる。
【0005】
圧力試験は、ケーブル運転時の断熱管における内管内部の圧力が設定圧力(例えば0.6MPa)に耐えられるか否かの確認を行う試験である。この圧力試験は、ケーブルコアが収納された内管の端部を蓋体で封鎖し、この内管の内部に、ケーブル端部に取り付けたポートを介して高圧ガス(例えば窒素、空気など)を封入し、所定の試験圧力に耐えうることを確認する。
【0006】
また、微少リーク試験は、断熱管の内管と外管で形成される真空層の真空度を測定して長期信頼性を確認する試験である。この微少リーク試験は、感度の良いヘリウムガスを用いる方法が一般的である。そして、内管と外管のそれぞれについてリーク試験を行う必要がある。微少リーク試験としては、例えば、真空法、真空容積法、加圧法などがある。
【0007】
何れのリーク試験も、内管のリーク試験を行った後に、外管のリーク試験を行う。まず、ケーブルコアの周りに断熱管の内管のみを形成し、内管の両端開口部を、ポートを有する蓋体で封鎖する。そして、内管のみのケーブルをドラムに巻き取る。内管のみが形成されたケーブルをドラムごと、密閉容器内に収納して内管のリーク試験を行う。
【0008】
次に、内管に異常が無かった場合には、外管のリーク試験を行う。外管のリーク試験を行う場合は、ドラムに巻かれたケーブルを密閉容器から出して、ドラムからケーブルを引き出しながら、内管の外側に外管を形成し、外管が形成されたケーブルを再度ドラムに巻き取る。ケーブルを巻き取る前に、内管と外管との間に形成される空間の両端開口部を、ポートを有する蓋体で封鎖する。そして、ドラムに巻き取られたケーブルをドラムごと、密閉容器内に収納して外管のリーク試験を行う。なお、ポートに接続する管は、密閉容器の外に気密状態で取り出された状態になっている。
【0009】
真空法は、まず、内管のリーク試験を行う際は、内管内をポートから真空引きした後、密閉容器内にヘリウムガスを充填して、真空となっている内管の内部に漏れだしたヘリウム量を検出する。外管のリーク試験を行う際は、内管と外管との間に形成される空間をポートから真空引きした後、密閉容器内にヘリウムガスを充填して、真空となっている内管と外管の間の空間に漏れだしたヘリウム量を検出する。
【0010】
真空容積法は、まず、内管のリーク試験を行う際は、密閉容器内に収納したケーブルの内管内にヘリウムガスを充填し、密閉容器内を真空引きして、真空となっている密閉容器の内部に漏れだしたヘリウム量を検出する。外管のリーク試験を行う際は、密閉容器内に収納したケーブルの内管と外管との間に形成される空間にヘリウムガスを充填し、密閉容器内を真空引きして、真空となっている密閉容器内に漏れだしたヘリウム量を検出する。
【0011】
加圧法は、内管のリーク試験を行う際は、密閉容器内に収納した内管内にポートからヘリウムガスを注入して加圧していき、内管から密閉容器内に漏れ出すヘリウムガスを検出する。次に、外管のリーク試験を行う際は、密閉容器内に収納したケーブルの内管内部および内管と外管との間の空間にヘリウムガスを注入して加圧し、外管から密閉容器内に漏れ出すヘリウムガスを検出する。
【0012】
【特許文献1】特開平9−153311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、通常、圧力試験も微少リーク試験も、製造中のケーブルをドラムに巻き付けた状態で行う。このように、ケーブルをドラムに巻きつけた状態で圧力試験を行うと、ケーブルの巻き乱れや伸び出しが発生してしまう。即ち、内管の内部を高圧力で加圧すると、ドラムに巻かれたケーブルに大きなフープ力が働き、巻き付け径が大きくなる。
【0014】
その結果、ドラムとケーブルの間に隙間ができ、重力により、ケーブルが下方にずれて、ドラム胴部の下方とケーブルの巻きの下部との間に大きな隙間が生じてしまう。そして、ケーブルのドラムから離れた部分は、重力で下方に弛んでしまう。
【0015】
このようにケーブルが弛んでしまうと、ケーブル内の圧力を取り除いても、ケーブルが元の位置に戻らず、巻き乱れが生じてしまう。
【0016】
さらに、圧力試験を行う場合、断熱管の内管の両端部は封鎖され、その内部に高圧力が掛かるため、この封鎖面であるケーブル両端面には面圧がかかり、ケーブルが軸方向に伸び出す力が発生する。
【0017】
このようにケーブルが軸方向に伸びようとした際、通常、ケーブルコアの端部は、断熱管の端部に保持されているため、やはりケーブルが損傷する可能性がある。これらの現象は圧力が高くなるほど顕著に起こる。その結果、正しい漏れ試験ができないという不具合がある。
【0018】
また、通常、ドラムに巻き付けられた超電導ケーブルは大気にさらされた状態になっている。従って、ヘリウムリーク試験を行うためには、ケーブルが巻かれたドラムごと収納できる大きな密閉容器が必要となる。このような密閉容器にドラムを収納して、この密閉容器内にヘリウムガスを充填することは困難であるし、また、ケーブルから漏れだしたヘリウムガスを採取することも困難である。また、密閉容器の代わりに、簡易的にビニルシートなどをドラム外周に覆ってリーク試験をすることも考えられるが、ヘリウムの量を正確に測定することは難しいため、測定精度に問題が出てしまう。
【0019】
以上のように、本発明の目的の一つは、超電導ケーブルをドラムに巻き付けたまま圧力試験を行っても、ケーブルが損傷することなく、簡単に圧力試験を行うことができる超電導ケーブル用ドラムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、ドラムそのものを、ケーブルを密閉することが可能な構造にすることで、ドラムを収納する容器を別途用意することなく、微少リーク試験を簡単に行える超電導ケーブル用ドラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の超電導ケーブルを巻き付ける超電導ケーブル用ドラムは、ケーブルが巻き付けられる円筒状の胴部と、胴部の軸方向両端に形成される鍔部と、1段巻き付けられた超電導ケーブル全体を覆い、ケーブルの巻き付けが広がる方向への動きを阻止する複数の押さえ板と、押さえ板の外側に配置され、押さえ板を締め付ける締付帯とを備える。
【0021】
ドラムの胴部には、ケーブルを1段だけ巻き付ける構成としてもよいし、ケーブルを複数段巻き付ける構成としてもよい。複数段ケーブルを巻き付ける場合には、1段目のケーブルを押さえ板で覆った後、これら押さえ板の上にケーブルをさらに1段巻き付けて、この2段目のケーブルを別の押さえ板で覆うようにしてもよい。即ち、1段ケーブルが巻きつけられる毎に押さえ板を配置し、ケーブルの2段目以降は、押さえ板上に巻き付けるようにする。そして、最も外側の押さえ板を締付帯で締め付けるようにする。
【0022】
押さえ板は、複数の円弧状の板で胴部に巻き付けたケーブルを覆うように構成することが好ましい。押さえ板は、高強度を有し、低透過性ガス性能を有する材質で形成することが好ましく、例えば、鉄などの金属やガラス繊維強化ブラスチックで形成することができる。
【0023】
また、締付帯は、鉄のワイヤや、鉄で形成された半円状部材など伸びにくく高強度の物が好ましい。半円状部材を用いる場合は、一対の半円状部材を用意し、半円状部材の一端同士をヒンジで揺動可能に連結し、他端同士をボルト止めして固定する構成とすることができる。
【0024】
本発明の超電導ケーブル用ドラムは、ドラムの胴部にケーブルを1段巻き付けた後、ケーブルの上に押さえ板を配置して、ケーブル全体を覆い、締付帯で押さえ板を締め付けて押さえ板が胴部に対して径方向外方に動かないようにしている。その結果、圧力試験時に断熱管の内部が高い圧力で加圧されてケーブルにフープ力が働いても、ケーブルは押さえ板で巻き付けが広がる方向への動きが阻止される。
【0025】
従って、ケーブルの圧力試験時に、ケーブルがフープ力により巻き付けが広がる方向に伸びようとしても、押さえ板で、その動きを阻止できるので、巻き崩れによるケーブルの損傷を抑制することができる。
【0026】
また、前記押さえ板とケーブルとの間にクッション部材が設けられていることが好ましい。クッション部材としては、発泡ウレタンシートや不織布などの柔らかい材質のものが挙げられる。
【0027】
このように、押さえ板とケーブルとの間にクッション部材を設けることにより、ケーブルを製造する際に誤差が発生したり、巻き付け時に変動があっても、この誤差や変動をクッション材で吸収しながらケーブルを押さえ板で覆うことができる。その結果、このクッション部材でケーブルが押さえ板と接触して損傷することを阻止してケーブルを保護することができる。
【0028】
また、前記胴部の両端部全周で、前記鍔部の内側に、棚部が設けられ、この棚部の高さを超電導ケーブルの外径よりも大きくするとともに、押さえ板は、胴部軸方向の両端部が棚部に支持される大きさとすることが好ましい。これら棚部と押さえ板とで、1段巻き付けられた超電導ケーブルが覆われる構成とする。
【0029】
ケーブルを複数段巻き付ける場合には、棚部は、鍔部の径方向に多段状に形成し、各段部で押さえ板を支持する構成とすることができる。
【0030】
ドラムの鍔部の内側に押さえ板を置くための棚部を設けることにより、これら棚部と押さえ板とにより、超電導ケーブル1段分が安定して配置される空間を形成できる。その結果、安定してケーブル全体を拘束することができながら、この空間を密閉空間として気密状にすることもできるので、ヘリウムガスを用いた微少リーク試験を、ドラムに巻き付けられているケーブルを押さえ板で覆うだけで行うことができる。
【0031】
複数段ケーブルを巻き付ける場合は、最外側に配置された押さえ板により形成された密閉空間を気密状にすればよく、ヘリウムガスを用いた微少リーク試験を行うことを考えて、内側に配置される押さえ板にヘリウムガスを導通させるための導通孔を形成しておくとよい。また、ケーブルの段替り箇所において、ケーブルを上段側に移行させるために設けられた下段のケーブルを覆う押さえ板の開口部をこの導通孔として用いてもよい。導通孔は押さえ板に貫通孔や切欠きを設けることで形成することができる。
【0032】
そして、棚部と押さえ板の間にシール部材が介在し、押さえ板が棚部で支持されていることがさらに好ましい。
【0033】
ケーブルを複数段巻き付ける場合には、最外側の押さえ板とこれを支持する棚部との間にのみシール部材が介在していればよい。
【0034】
棚部と押さえ板との間にパッキン等のシール部材を介在させることにより、胴部と棚部と押さえ板とで形成される空間(複数段ケーブルを巻き付ける場合は胴部と棚部と最外側の押さえ板とで形成される空間)の気密性を高めることができる。その結果、ヘリウムガスを用いた微少リーク試験を行う際にヘリウムガスがこの密閉空間の外部に漏洩しにくい構造とすることができる。
【0035】
さらに、押さえ板は円弧状をしており、隣り合う押さえ板同士が接する側縁部に段部が形成され、これら段部を組み合わせて、隣り合う押さえ板が平滑な状態で接続された構成とすることが好ましい。
【0036】
押さえ板同士の接続部を段部組み合わせ構造とすることにより、押さえ板同士の接続部で、ケーブルに対向する部分の段差を極力無くすことができ、ケーブルへ損傷を与えないようにすることができる。しかも、棚部を設けた場合には、押さえ板同士の接続部が平滑な状態となっているので、棚部と押さえ板との気密性も良くなる。
【0037】
さらに、押さえ板は、ケーブルを覆った際の胴部軸方向端部となる部分に、ケーブルの端部が突出可能な切欠き部が形成されていることが好ましい。このとき、押さえ板の切欠き部の近くに、ケーブルの伸び出しを抑制する伸び出し抑制部が設けられていることが好ましい。
【0038】
押さえ板に切欠き部を設けることにより、ケーブルを押さえ板で覆って、ケーブルの動きを阻止しながら、ケーブルの端部を、切欠き部から出した状態にして、ケーブルの内部に高圧ガスを導入して加圧試験を行うことができる。さらに、伸び出し抑制部を設けることにより、ケーブル端部を押さえ板に拘束できるので、加圧試験時に、ケーブル端部が切欠き部から伸び出すのを防止することができる。
【0039】
伸び出し抑制部は、ワイヤ、ロープなどの帯状体と、押さえ板の外面に設ける帯状体を固定する固定部と、ケーブル端部の外面に形成される帯状体を係止する係止部とにより構成することができる。
【0040】
押さえ板に切欠き部が形成されている場合には、切欠き部を封鎖する蓋体を有することが好ましい。さらに、押さえ板と蓋体との間をシール部材でシールするか、押さえ板と蓋体とを溶接により接続してシールすることが気密性を向上でき好ましい。
【0041】
ケーブルを複数段巻き付ける場合には、特に最外側の押さえ板に形成された切欠き部にのみ蓋体を取り付けて、この切欠部を封鎖すればよい。
【0042】
切欠き部を蓋体で封鎖することにより、ケーブルが配置される空間の気密性を保持することができる。その結果、圧力試験を行った後に、ヘリウムガスを用いた気密試験を行う場合でも、押さえ板で形成される空間から試験ガスが外部に漏洩しにくい構造とすることができる。
【0043】
なお、本発明の超電導ケーブル用ドラムは、単心超電導ケーブルはもちろんのこと、2心、3心などの複数のケーブルコアを撚り合わせた多心超電導ケーブルにも適用できる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の超電導ケーブル用ドラムによれば、ドラムの胴部にケーブルを1段巻き付けた後、ケーブルの上に押さえ板を配置して、ケーブル全体を覆い、締付帯で押さえ板を締め付けて押さえ板が胴部に対して径方向外方に動かないようにできる。その結果、圧力試験時に断熱管の内部が高い圧力で加圧されてケーブルにフープ力が働いても、ケーブルは押さえ板で動きが阻止されて、巻き付けが広がる方向へケーブルが動いて巻き崩れが生じてしまうのが防止でき、ケーブル損傷を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の超電導ケーブル用ドラムの実施の形態を説明する。超電導ケーブル用ドラムには、例えば、3心のケーブルコアまたは単心ケーブルコア、ケーブルコアを収納する断熱管とから構成された超電導ケーブルを巻き付ける。
【0046】
断熱管は、内管および外管を備える二重のコルゲート管からなり、内外管の間に真空断熱層が構成される。真空断熱層内には、プラスチックメッシュと金属箔を積層したいわゆるスーパーインシュレーション(商品名)が配置されている。断熱管における内管内部は、ケーブルコアを冷却する液体窒素などの冷媒を充填する冷媒流通路となっている。
【0047】
次に、上記超電導ケーブルの製造工程中にケーブルを保管・運搬する超電導ケーブル用ドラムについて図1から図8に基づいて説明する。
【0048】
超電導ケーブル用ドラム2は、図1に示すように、ケーブル1が巻き付けられる円筒状の胴部31および胴部31の軸方向両端に形成される鍔部32とを備えるドラム本体3を備える。さらに超電導ケーブル用ドラム2は、図2に示すように、1段巻き付けられたケーブル1の全体を覆う複数の押さえ板4と、押さえ板4の外側に配置され、押さえ板4を締め付ける締付帯5とを備える。
【0049】
さらに、ドラム本体3における胴部31の軸方向両端部で、鍔部32の内側には、図1に示すように、胴部全周に亘って、胴部31の外径よりも大きく、鍔部32の外径よりも小さい高さを有し、押さえ板4の端部を充分に支持できる幅を有する環状の棚部33を設けている。この棚部33の高さは、超電導ケーブル1の外管の外径よりもやや大きくしている。ケーブル1は、これら棚部33の間に1段巻き付けるようになっている。
【0050】
押さえ板4は、円弧状の板で構成され、本実施形態では、8枚の押さえ板4で構成されている。これら押さえ板4は、棚部33に支持させながら、胴部31に巻き付けられたケーブル1を完全に覆うように構成している。棚部33の押さえ板を支持する支持面と押さえ板4の内面とは、曲率半径が等しい曲面に形成して、棚部33に押さえ板4が沿うようにしている。
【0051】
具体的には、押さえ板4は、図4の(a)に示す長方形状の第一押さえ板41と、(b)に示す第一切欠き部421を有する第二押さえ板42と、(c)に示す第二切欠き部431を有する第三押さえ板43とで構成されている。
【0052】
第一押さえ板41を6枚、第二押さえ板42と第三押さえ板43とを1枚ずつ用いてケーブルを覆うようにしている。第二押さえ板42の第一切欠き部421は、(b)に示すように、長さ方向一端側の角部を切欠いて形成している。また、第三押さえ板43の第二切欠き部431は、(c)に示すように、第二押さえ板42の第一切欠き部421と対向する角部に形成している。また、押さえ板4は、鉄やガラス繊維強化ブラスチックなどの高強度を有し、低透過ガス性能を有する材料で形成している。
【0053】
さらに、押さえ板4の長手方向(胴部軸方向)の長さは、図3および図5に示すように、この長手方向両端部が棚部33に支持される大きさとしている。そして、これら棚部33と、押さえ板4と、胴部31とで、胴部31に1段巻き付けられた超電導ケーブル1を密閉状に覆う密閉空間6を形成する。
【0054】
この密閉空間6の気密性を上げるため、円弧状の押さえ板4は、図6に示すように、隣り合う押さえ板同士が接する側縁部に段部44を形成し、これら段部44を組み合わせて、隣り合う押さえ板4の表面が平滑な状態で接続できるようにしている。即ち、一方の段部44は、胴部31に対して外側の面に形成され、他方の段部44は、胴部31と対向する面に形成される。
【0055】
このように、押さえ板4同士を段部44を介して接続することにより、全体的に押さえ板4の厚さの変動を極力小さく、なめらかな曲線を描き、ケーブル1が押さえ板4の接続箇所に接触した場合でも、段差などによってケーブルに損傷が起こらない構造にしている。
【0056】
そして、段部44と段部44との間には、長尺なシール部材45を介在させている。シール部材45としては、ゴムや弾性を有する合成樹脂などで形成した帯状体を使用することができる。このシール部材45を段部間に設けることにより、押さえ板間の気密性を確保している。
【0057】
さらに、図5に示すように、棚部33の押さえ板4を支持する支持面に、リング状のパッキン34を取り付けている。棚部33と押さえ板4の間に介在させるパッキン34によって、押さえ板4の周方向の気密性を確保し、前記密閉空間6の気密性を上げている。
【0058】
また、胴部31の外周面を、ブチルゴムなどの弾性材料で形成したシート部材35で覆って、このシート部材35の上にケーブル1を巻き付けるようにしている。このシート部材35により、ケーブルの損傷を抑えている。
【0059】
さらに、本実施形態では、図5に示すように、胴部31に巻き付けたケーブル1をシート状のクッション部材36で覆い、このクッション部材36の上に押さえ板4を配置するようになっている。本実施形態では、ケーブル1と押さえ板4との間に、クッション部材36が介在された状態になる。クッション部材36は、発泡樹脂シートや厚手の不織布など、ケーブルを保護できる柔らかい部材であれば何れでもよい。
【0060】
ケーブル1を胴部31に巻き付ける際には巻きムラが生じ、ケーブルの製造誤差もあるので、胴部31に巻き付けられたケーブル1と押さえ板4との間に所定の隙間を確保し、この隙間を埋めるように、クッション部材36を配置させることにより、このクッション部材36によって、ケーブル1を保護するようにしている。
【0061】
そして、クッション部材36で覆われたケーブル1の周りに、押さえ板4を配置する。これら押さえ板4は、前記したようにシール部材45で互いの接続部分をシールするとともに、棚部33と押さえ板4との間もパッキン34でシールして、前記密閉空間6の気密性を保持することができる。
【0062】
ケーブル1の周りに押さえ板4を配置した後、押さえ板4の外側に締付帯5を配置して、押さえ板4を、ケーブルの径方向の広がりに伴って動かないように締め付ける。この締付帯5による締め付けで、押さえ板4は、ケーブルが巻き付けが広がる方向へ動くのを阻止することができる。締付帯5は、鉄のワイヤや、鉄で形成された半円状部材など伸びにくく高強度の物で形成している。図2では、鉄のワイヤで締付帯5を構成したものが示されている。
【0063】
さらに、押さえ板のうち、切欠き部421,431が形成されている第二押さえ板42と第三押さえ板43は、第二押さえ板42と第三押さえ板43とを接合したときに、これら切欠き部421,431で開口部46が形成される。図7および図8に示すように、この開口部46からケーブル1の端部を突出させることができるようになっている。
【0064】
この場合、第二押さえ板42と第三押さえ板43の外面における各切欠き部421,431の近くには、ケーブルの伸び出しを抑制する伸び出し抑制部7を設けている。
【0065】
この伸び出し抑制部7は、ワイヤ、ロープなどの帯状体71と、押さえ板4の外面に設けられ、帯状体71を固定する固定部72と、ケーブル端部の外面に形成され、帯状体71を係止する係止部73とにより構成している。
【0066】
なお、図7および図8に示すように、内管11のみが形成されたケーブル1をドラム本体3に巻き付ける場合、ケーブル1は、断熱管の内管11の端部に、内管開口部を封鎖する封鎖部材12を取り付けて、この封鎖部材12に加圧ガスを注入するガス注入ポート13と、真空引きを行う真空ポート14と、帯状体71を係止させるリング状の係止部73とを設けておく。
【0067】
そして、開口部46から突出しているケーブル端部に対して、前記係止部73に帯状体71を引っ掛けて、帯状体71の端部を、押さえ板4に形成する固定部72に固定する。
【0068】
このように、押さえ板4に開口部46を形成して、胴部31に巻き付けたケーブルの端部を、この開口部46から突出させた状態にする。そして、ケーブル1を押さえ板4で押さえ付けて、ケーブル1の動きを規制しながら、開口部46から突出させているケーブル端部から、断熱管の内管内部に窒素ガスを導入して加圧試験を行う。このとき、ケーブル端部に設ける係止部73に帯状体71を係止させるとともに、この帯状体71を押さえ板4に設ける固定部72で固定しているので、ケーブル1内部を加圧したときに、この開口部46からケーブル1が伸び出すのを防止する。
【0069】
即ち、加圧試験は、図5、図7に示すように、ケーブル1をケーブルコア10と内管11のみで形成し、かつ、内管11の両端開口部を封鎖部材12で封鎖した状態で、ドラム本体3の胴部31に巻き付けて行う。このとき、ケーブル1を押さえ板4で覆い、前記開口部46からケーブル端部を突出させて、ケーブル端部から内管内部に高圧ガスを注入して、内管が設定圧力以上で耐えられるか否かを確認する。
【0070】
加圧試験の際には、内管内部が高圧状態となるため、内管にフープ力が働いて、ケーブル1が巻き付けの広がる方向に動こうとする。しかしながら、押さえ板4と、この押さえ板4の外周に取付ける締付帯5とにより、このフープ力によるケーブルの広がりを阻止できるので、ケーブルが位置ずれを起こして損傷するのを防止できる。
【0071】
さらに、ケーブル端部を伸び出し抑制部7で押さえ板4に拘束しているので、内管内部が高圧状態となって、ケーブル1が軸方向に伸びようとしても、この伸び出し抑制部7によりケーブル1の軸方向への伸びを阻止することができる。
【0072】
また、ケーブルの微少リーク試験を行う場合には、ケーブル端部を内管内部および内管と外管との間に形成される真空断熱部とを封鎖部材で個別に封鎖する。そして、内管内部にガスを注入する注入ポートと真空引きを行う真空ポートとを内管内部を封鎖する封鎖部材に設ける。真空断熱部にガスを注入する注入ポートと真空引きを行う真空ポートとを、内管と外管との開口部を封鎖する封鎖部材に設ける。
【0073】
そして、押さえ板4で形成される開口部46は、図2に示すように、開口部46と同じ形状の蓋体47で開口部46を封鎖するようにしてもよいし、微少リーク試験を行う時点で、切欠き部を有する押さえ板を切欠き部の無い押さえ板に交換するようにしてもよい。
【0074】
このように開口部46が無い状態に押さえ板4を構成して、完全な密閉空間6を形成する。開口部46を蓋体47で封鎖する場合には、蓋体47の大きさを開口部46の大きさより大きく形成し、押さえ板4と蓋体47との間をシール部材でシールする。そして、パッキンなどのシール部材で蓋体47をシールした後、ボルトにより蓋体47を押さえ板4に固定する。また、ボルトにより蓋体47を押さえ板4に固定しない場合には、締付帯5をもう一つ用意し、この別途用意した締付帯5を蓋体47の上で締め付けるようにすることもできる。
【0075】
また、押さえ板4のうちの一枚には、図3に示すように、バルブ8が取り付けられており、このバルブ8には、図示していないが、リークディテクターと吸引ポンプとが接続されている。押さえ板4と棚部33と胴部31とで形成される密閉空間6を大気から区画して、この密閉空間6をバルブ8、吸引ポンプを介して大気に接続している。
【0076】
このように開口部46を蓋体47で封鎖したり、切欠き部の無い押さえ板4でケーブル全体を覆うようにすることで、押さえ板4と棚部33と胴部31と各シール部材とにより、図3で示すような完全に密閉された密閉空間6を形成することができる。従って、ヘリウムを用いたリーク試験を実施する際には、密閉空間6にケーブル1を収納した状態にして、前記密閉空間6からのヘリウムガスの漏洩を防止することができる。
【0077】
なお、開口部46は、ケーブル端部を開口部46から突出させた状態で、フレキシブルな金属板(銅、アルミ、鉛等の薄膜)、または、これらの金属の薄膜を有するラミネートシートで開口部46とケーブル1との間隙を覆い、周囲を溶接、半田付け、テーピング等で密封するようにしてもよい。
【0078】
密閉空間6を形成した後に、この密閉空間6にヘリウムガスを注入したり、密閉空間6のヘリウムの量を測定するには、前記バルブ8を介して行う。
【0079】
以上のように、本実施形態のドラム2を用いることにより、超電導ケーブル出荷試験である、圧力試験並びにヘリウムリーク試験を、ケーブルに損傷を与えることなく、簡単に精度よく測定することができる。
【0080】
本発明の超電導ケーブル用ドラムは、直流送電用、交流送電用の何れの超電導ケーブルを巻き付ける場合でも適用できる。
【0081】
さらに、本発明の超電導ケーブル用ドラムの構造は、上記した実施形態に限らないのであり、本発明の範囲が上記実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明超電導ケーブルを保管するためのドラムの構造は、交流送電又は直流送電といった電力供給に用いる超電導ケーブルの何れのケーブルに対しても好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】超電導ケーブルが巻き取られる前の本発明のドラムの斜視図である。
【図2】超電導ケーブルが巻き取れられた後で、押さえ板と締付帯が取り付けられた状態のドラムの斜視図である。
【図3】本発明のドラムの断面図である。
【図4】押さえ板の平面図であり、(a)は長方形状の切欠き部の無い第一押さえ板を示し、(b)は、切欠き部を有する第二押さえ板を示し、(c)は、切欠き部を有する第三押さえ板を示す。
【図5】本発明のドラムの部分拡大断面図である。
【図6】押さえ板の接続箇所の構造を示す部分断面図である。
【図7】押さえ板に形成した開口部からケーブルの端部を突出させた状態を示す部分断面図である。
【図8】押さえ板に形成した開口部からケーブルの端部を突出させた状態を示す部分平面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 ケーブル
11 内管 12 封鎖部材 13 ガス注入ポート
14 真空ポート 10 ケーブルコア
2 超電導ケーブル用ドラム
3 ドラム本体
31 胴部 32 鍔部 33 棚部 34 パッキン
35 シート部材 36 クッション部材
4 押さえ板
41 第一押さえ板
42 第二押さえ板 421 第一切欠き部
43 第三押さえ板 431 第二切欠き部
44 段部 45 シール部材 46 開口部 47 蓋体
5 締付帯 6 密閉空間
7 伸び出し抑制部
71 帯状体 72 固定部 73 係止部
8 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導ケーブルを巻き付ける超電導ケーブル用ドラムであって、
ケーブルが巻き付けられる円筒状の胴部と、
胴部の軸方向両端に形成される鍔部と、
1段巻き付けられた超電導ケーブル全体を覆い、ケーブルの巻き付けが広がる方向への動きを阻止する複数の押さえ板と、
押さえ板の外側に配置され、押さえ板を締め付ける締付帯とを備えた超電導ケーブル用ドラム。
【請求項2】
押さえ板とケーブルとの間にクッション部材が設けられた請求項1に記載の超電導ケーブル用ドラム。
【請求項3】
前記胴部の両端部全周で、前記鍔部の内側に、棚部が設けられ、この棚部の高さを超電導ケーブルの外径よりも大きくするとともに、
押さえ板は、胴部軸方向の両端部が棚部に支持される大きさとして、
これら棚部と押さえ板とで、1段巻き付けられた超電導ケーブルが覆われた請求項1または請求項2に記載の超電導ケーブル用ドラム。
【請求項4】
棚部と押さえ板の間にシール部材が介在し、押さえ板が棚部で支持された請求項3に記載の超電導ケーブル用ドラム。
【請求項5】
押さえ板は円弧状をしており、隣り合う押さえ板同士が接する側縁部に段部が形成され、これら段部を組み合わせて、隣り合う押さえ板が平滑な状態で接続された請求項1から請求項4の何れかに記載の超電導ケーブル用ドラム。
【請求項6】
押さえ板は、ケーブルを覆った際の胴部軸方向端部となる部分に、ケーブルの端部が突出可能な切欠き部が形成され、
前記押さえ板の切欠き部の近くに、ケーブルの伸び出しを抑制する伸び出し抑制部が設けられた請求項1から請求項5の何れかに記載の超電導ケーブル用ドラム。
【請求項7】
前記切欠き部を封鎖する蓋体を有する請求項6に記載の超電導ケーブル用ドラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−239303(P2008−239303A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82930(P2007−82930)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】