説明

超電導ケーブル

【課題】接続箇所の抵抗を低減することができる超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】心材(フォーマ21)と、その上に巻回した超電導薄膜線材3で構成される導体層22とを具備する超電導ケーブルである。この超電導薄膜線材3は、金属基板と、この基板の片面上のみに形成されたRE系超電導薄膜とを有する。そして、この線材3は、RE系超電導薄膜の形成された面が心材に対して外向きとなるように巻回されている。抵抗の小さい超電導薄膜側の面がケーブルの外周側に位置するようにできるため、接続部材を超電導薄膜線材3の外周にはめ込んで接続を行った場合、接続箇所の接続抵抗を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導ケーブルに関するものである。特に、RE(希土類(レアアース))系超電導薄膜線材を用いた超電導ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材として、BSCCO(Bi-Sr-Ca-Cu-O)テープ線材に代表されるBi系超電導線材が実用化されつつある。BSCCOテープ線材は、例えばBi2223相からなる複数本の超電導フィラメントを銀などの安定化材中に埋設した構造のテープ線材である。このBi系超電導線材は、線材への加工が行いやすい利点を有し、超電導ケーブル、超電導モータ、超電導変圧器などへの適用が提案されているものの、より一層の臨界電流密度(Jc)の向上が望まれている。
【0003】
一方、次世代超電導線材として、RE系超電導薄膜線材の開発が進められている(例えば特許文献1)。RE系超電導薄膜線材の代表的な構成を図6に示す。この線材3は、テープ状の金属基板31上に順次中間層32、超電導薄膜33、保護層34を積層したテープ線材である。具体例としては、金属基板31としてハステロイ(登録商標)、中間層32としてYSZ、超電導薄膜33としてY系123構造(YBa2Cu3Oy)薄膜、保護層34として銀が利用されている。通常、これら中間層32や超電導薄膜33はレーザ蒸着などにより基板31の片面のみに形成されている。
【0004】
このようなRE系超電導薄膜線材は、Bi系超電導線材に比べて臨界電流密度(Jc)が高く、また磁場による臨界電流(Ic)の低下が少なく磁場特性に優れるため、Bi系超電導線材に続く次世代線材としての利用が期待されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001-31418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のRE系超電導薄膜線材を超電導ケーブルに適用する場合、ケーブルの接続箇所で抵抗が大きくなるということが判明した。
【0007】
一般に、超電導ケーブルは、断熱管内に1本以上のコアを収納した構造である。このコアは、心材と、心材の外周に巻回されて導体層を構成する超電導線材とを具備する。ここで、超電導線材として基板の片側に超電導薄膜を有するRE系超電導薄膜線材を巻回する場合、超電導薄膜を内側、つまり心材側となるように巻回を行っている。これは、超電導薄膜線材を巻回すると、曲げの内側では圧縮歪みが、外側では引張歪みが線材に発生するため、圧縮歪みに対するIcの低下程度が引張り歪みに対するそれよりも低い超電導薄膜を内側に配置した方が曲げ特性に優れるからである。
【0008】
ところが、超電導ケーブルで線路を構築するには、ケーブル同士の接続箇所において導体層を接続する必要がある。通常、この接続は、突き合わせたケーブルの導体層の外側に銅スリーブなどの接続部材をはめ込み、導体層と接続部材との間を半田付けすることで行われる。その際、導体層を構成する超電導薄膜線材は、超電導薄膜を内側として巻回されているため、導体層の外側には基板側が位置することになる。本発明者らは、この状態での接続箇所の接続抵抗について後述するように試験・検討を行った結果、接続部材と超電導薄膜線材の基板側の面とが半田を介して接続される場合、接続抵抗が大きくなるとの知見を得た。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、接続箇所の抵抗を低減することができる超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、片面のみ超電導薄膜を有する超電導線材としてRE系超電導薄膜を用いる場合、その巻回の仕方に工夫を施すことで上記の目的を達成する。
【0011】
本発明超電導ケーブルは、心材と、その上に巻回した超電導薄膜線材で構成される導体層とを具備する超電導ケーブルである。この超電導薄膜線材は、金属基板と、この基板の片面上のみに形成されたRE系超電導薄膜とを有する。そして、本発明は、この線材を、RE系超電導薄膜の形成された面が心材に対して外向きとなるように巻回していることを特徴とする。
【0012】
この構成により、抵抗の小さい超電導薄膜側の面がケーブルの外周側に位置するようにできるため、接続部材を超電導薄膜線材の外周にはめ込んで接続を行った場合、接続箇所の接続抵抗を低減することができる。
【0013】
本発明ケーブルでは、超電導シールド層を有する構成としても良い。つまり、導体層の外側に順次絶縁層、超電導シールド層を具備し、この超電導シールド層には、金属基板と、この基板の片面上のみに形成されたRE系超電導薄膜とを有する超電導薄膜線材を用いる。そして、その超電導薄膜線材を、超電導薄膜の形成された面が絶縁層に対して外向きとなるように巻回する。
【0014】
この構成によれば、導体層に交流を流した場合に、超電導シールド層に逆方向の電流が誘導されて両層で生じる磁場がキャンセルされるため、交流ケーブルとして利用する場合に好ましい。また、突き合わせたケーブルにおける超電導シールド層同士の接続箇所における接続抵抗も低減することができる。
【0015】
本発明ケーブルで用いる超電導薄膜線材のRE系超電導薄膜は、Ho系超電導体またはY系超電導体で構成されることが好ましい。
【0016】
Ho系超電導体またはY系超電導体はいずれも高い電流密度を得ることができ、超電導ケーブルの導体層やシールド層を構成するのに適した材料である。特に、Ho系超電導体は水分による劣化に対してY系超電導体よりも高い耐久性を有する。
【0017】
さらに本発明ケーブルにおいては、超電導ケーブルの端部に超電導薄膜線材と半田で電気的に接続される常電導接続部材を具備し、この常電導接続部材と超電導薄膜線材からなる導体層とのケーブル長手方向の接続長を20mm以上とすることも好ましい。
【0018】
この接続長を20mm以上とすることで、超電導薄膜線材と接続部材との接触長を確保でき、接続抵抗を十分に小さくすることができる。なお、接続長とは、超電導薄膜線材と常電導接続部材とが半田で電気的に接続される箇所におけるケーブル長手方向への長さのことである。
【発明の効果】
【0019】
本発明超電導ケーブルによれば、RE系超電導薄膜の形成された面が心材に対して外向きとなるように超電導薄膜線材を巻回することで、この薄膜側をケーブルの外周側に位置させることができる。それに伴い、導体層の外側に接続部材を配して接続構造を形成した場合の接続抵抗を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明超電導ケーブルは、代表的には、図1に示すように、断熱管1内にコア2を収納した構造である。コア2は、図2に示すように、中心から順に、フォーマ21、超電導導体層22、絶縁層23、超電導シールド層24、外層25を具備する。そして、超電導導体層22、超電導シールド層24に超電導薄膜線材3が用いられる。
【0022】
超電導薄膜線材3は、図3に示すように、基板31、中間層32、RE系超電導薄膜33、保護層34、安定化層35を有する。ここでは、基板31の上面側に順次中間層32、超電導薄膜33、保護層34を積層し、基板31の下面側にも保護層34を形成して、これら積層構造体の全体を安定化層35で被覆している。
【0023】
このような線材を、基板が内側、超電導薄膜が外側となるように心材上に巻回する。図2では、4層の超電導薄膜線材3で導体層22を構成し、2層の超電導薄膜線材3でシールド層24を構成した場合を示している。これらの超電導薄膜線材は螺旋状に多層に巻回し、各線材層の間には層間絶縁26を設けている。この線材3の巻回により、導体層22、シールド層24のいずれも、外周側に線材の超電導薄膜側が位置することになる。そのため、超電導ケーブル同士を接続する場合、あるいは超電導ケーブルと他の機器とを接続する場合、ケーブル端部の導体層22やシールド層24の外側に接続部材(図示せず)をはめ込み、接続部材と導体層22(シールド層24)の間に半田を流し込んで接続することで、接続抵抗の小さな接続部を形成することができる。接続部材には、導体層22の接続の場合、Cuスリーブなどが利用され、シールド層24の接続にはCu編組材やCuスリーブなどが利用される。
【0024】
以下、本発明超電導ケーブルの各構成部について好ましい構成を説明する。
【0025】
まず、超電導薄膜線材3についてであるが、基板31は金属材料で構成される(図3)。好ましい金属として、ニッケル合金(ハステロイ(登録商標))、ステンレス、ニッケルなどを挙げることができる。この基板31は、単一の材料からなるものであってもよく、複合材料からなるものであってもよい。複合材料からなる基板31として、ステンレス箔上に銀箔を積層したものが挙げられる。また、基板31の形態としては、テープ材が好適に用いられる。
【0026】
中間層32は、基板31中の成分が超電導薄膜33に拡散して超電導特性の劣化を防ぐ役割を果たしているが必須の構成ではない。中間層32を省略することもできる。この中間層32には、酸化セリウム、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、バリウムジルコニアなどが利用できる。特に、この中間層32の結晶に配向性を付与することで高特性の超電導線材を得ることができる。中間層32の形成方法としては、レーザ蒸着法などが好適に利用できる。
【0027】
超電導薄膜33はRE系とする。代表的には、RExBayCuzOの構造を有する酸化物超電導体の薄膜とする。ここでの「RE」は希土類元素である。希土類元素としては、例えばイットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、サマリウム(Sm)などが含まれる。この超電導薄膜33の具体例としては、RE123系、つまりYBa2Cu3O7や、HoBa2Cu3O7などが挙げられる。この超電導薄膜33は、基板31の表裏のうち、一方の面にのみ形成されている。超電導薄膜33の形成方法としては、レーザ蒸着法などが好適に利用できる。
【0028】
保護層34は、例えばAgやAg合金が好適に用いられる。銀は超電導薄膜33との反応が少なく好ましい。
【0029】
安定化層35は、CuやCu合金などが好適に利用できる。この安定化層35は、例えばめっきなどにより形成できる。
【0030】
次に、コア2についてであるが(図2)、フォーマ21には、中空パイプや銅撚り線などが好適に利用できる。絶縁層23には、クラフト紙や、クラフト紙とポリオレフィンフィルムをラミネートした複合紙が利用できる。さらに、外層25は、シールド層24を保護すると共に断熱管1(図1)に対する絶縁を確保するもので、各種プラスチック、例えばポリエチレンが利用できる。
【0031】
さらに、断熱管1は(図1)、二重管を用いた真空構造のものが好適に利用される。例えば、内管11と外管12との間を真空引きし、両管の間にスーパーインシュレーション(商品名)を配したものが断熱管1に用いられる。
【0032】
(試験例)
<曲げ試験>
図3に示すRE系超電導薄膜線材を用いて曲げ試験を行い、Ic特性の変化を調べてみた。この試験では、特定の曲げ直径を有するFRP製の曲げジグに線材サンプルを沿わせ、常温で曲げ歪みを線材に加え、曲げ前後における液体窒素温度での臨界電流値(Ic)を測定する。そして、曲げ歪み印加後のIc保持率を求め、Icの劣化が起こらない曲げ直径を求めた。Ic劣化の定義としては、Icが曲げ前の初期値に比べ5%以上低下した場合とした。曲げ直径は50mmから5mm間隔で小さくした。この際、試験はRE系超電導薄膜線材におけるRE系超電導薄膜を曲げの内側にする場合と外側にする場合の各々について行った。
【0033】
試験に供した線材の仕様は次の通りである。
線材幅:約4mm、線材厚さ:約0.15mm
基板:ハステロイ(登録商標) 厚さ100μm
中間層:YSZ 厚さ3μm
超電導薄膜:YBCO 厚さ1μm
保護層:Ag 厚さ3μm
安定化層:Cu 厚さ20μm
【0034】
その結果は次の通りである。
YBCOを曲げの内側:曲げ直径10mmまでIcの低下なし、5mmでIc低下
YBCOを曲げの外側:曲げ直径25mmまでIcの低下なし、20mmでIc低下
【0035】
この結果から明らかなように、YBCOを曲げの内側となるように線材を巻回した場合、YBCOには圧縮歪みが加わり、逆向きに線材を巻回した場合に比べてIcが低下しにくいことがわかる。つまり、YBCOを曲げの内側にした場合は、逆向きの場合に比べて限界曲げ径を小さくすることができ、より小径の心材に短ピッチで線材を巻き付けることができる。
【0036】
<抵抗測定試験>
次に、図1、図2に示すような超電導ケーブルにおいて、導体層同士を接続部材を介して接続する場合を想定して、その接続抵抗を次の試験により測定した。
【0037】
試験方法を図4に基づいて説明する。この試験では、前記曲げ試験で用いたRE系超電導薄膜線材3を用意し、この線材3の両端部において、YBCO側または基板側の面に接続部材を模擬した銅板41を半田42で接続しておく。そして、この銅板41に直流電源43を接続して通電し、銅板41と線材3との間の電圧を測定して抵抗を求めた。その際、半田付けが行われた箇所の線材長手方向の長さ(接続長相当分)を10、20、50mmと変えて抵抗の測定を行った。また、比較のため、RE系超電導薄膜線材の代わりにBSCCO超電導線材を用いて同様の抵抗測定を行った。ただし、BSCCO超電導線材は裏表がないため、どちらか一方の面に接続部材を接続した場合について測定を行っている。
【0038】
その結果を図5のグラフに示す。このグラフから明らかなように、RE系超電導薄膜線材の超電導薄膜側に接続部材を半田付けした場合は、BSCCO超電導線材を用いた場合とほぼ同等の接続抵抗となっており、RE系超電導薄膜線材の基板側に接続部材を半田付けした場合に比べて、接続抵抗が約1/5になっていることがわかる。特に、接続長が20mm以上になると接続抵抗が小さくなっていることがわかる。
【0039】
<まとめ>
以上の曲げ試験および抵抗測定試験の結果をまとめると、曲げ歪みに伴うIcの低下の点を考慮すれば、RE系超電導薄膜線材は超電導薄膜を内側にして巻回することが好ましいが、超電導ケーブルの接続部を形成する場合の接続抵抗を考慮すれば、RE系超電導薄膜線材は超電導薄膜を外側にして巻回することが好ましい。これにより、接続部の接続抵抗を小さくでき、接続部での局所的な発熱を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明超電導ケーブルは、電力輸送線路の構築に利用することができる。特に、ケーブル同士の接続箇所の接続抵抗を低減した線路の構築に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明超電導ケーブルの横断面図である。
【図2】本発明ケーブルのコアの端部を示す模式斜視図である。
【図3】本発明ケーブルに用いるRE系超電導薄膜線材の横断面図である。
【図4】抵抗測定試験の試験方法を示す説明図である。
【図5】抵抗測定試験の測定結果を示すグラフである。
【図6】RE系超電導薄膜線材の構成を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 断熱管 11 内管 12 外管
2 コア
21 フォーマ 22 超電導導体層 23 絶縁層
24 超電導シールド層 25 外層 26 層間絶縁
3 RE系超電導薄膜線材
31 (金属)基板 32 中間層 33 超電導薄膜 34 保護層 35 安定化層
41 銅板 42 半田 43 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材と、その上に巻回した超電導薄膜線材で構成される導体層とを具備する超電導ケーブルであって、
前記超電導薄膜線材は、
金属基板と、この基板の片面上のみに形成されたRE系超電導薄膜とを有し、
この超電導薄膜の形成された面が心材に対して外向きとなるように巻回されていることを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
さらに導体層の外側に順次絶縁層、超電導シールド層を具備し、
この超電導シールド層には、金属基板と、この基板の片面上のみに形成されたRE系超電導薄膜とを有する超電導薄膜線材が用いられ、
その超電導薄膜線材は、超電導薄膜の形成された面が絶縁層に対して外向きとなるように巻回されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
前記超電導薄膜線材のRE系超電導薄膜が、Ho系超電導体またはY系超電導体で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導ケーブル。
【請求項4】
さらに前記超電導ケーブルの端部には、超電導薄膜線材と半田で電気的に接続される常電導接続部材を具備し、
この常電導接続部材と導体層とのケーブル長手方向の接続長が20mm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−188844(P2007−188844A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7960(P2006−7960)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】