説明

超電導コイル

【課題】各超電導素線のインダクタンスの各和を均一化して循環電流を抑制し並列導体の温度上昇を抑制できるとともに巻線高さの制約も緩和できるようにして安全かつコンパクトな超電導コイルを提供する。
【解決手段】複数の超電導素線が軸方向に2本以上並べられるとともに半径方向にも2本以上重ねられて電気的に並列化された並列導体を転位させながら巻回してなる超電導コイルにおいて、上記転位として、並列導体における最外径部の1本の超電導素線が並べ方向に隣接する位置に移動し、最内径部の1本の超電導素線が最外径部とは逆の並べ方向に隣接する位置に移動するヘリカル転位を行なうとともに、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を整数回のターンで行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導変圧器,超電導リアクトル,超電導限流器,超電導電動機,超電導発電機などの超電導機器における、超電導線材を巻回してなる超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは高磁界発生手段として種々の分野で実用されている。一方、変圧器やリアクトルなどのような交流機器への超電導コイルの適用は、超電導導体が交流によって損失を発生するという現象があることから、その実用化は、あまり進んでいない。
【0003】
しかしながら、近年、超電導導体素線の細線化による交流損失の小さな超電導線が開発されて以来、変圧器などの交流機器への適用研究が進展し、その超電導コイルの構成に関しても、種々の提案が行われている。
【0004】
この場合の超電導導体としては、液体ヘリウムの蒸発温度である4Kの極低温で超電導状態を維持する金属超電導体を使用した超電導線が、実用的な超電導材料として、主に使用されるが、最近では、酸化物超電導体を適用した超電導コイルの開発も進められている。この酸化物超電導体は高温超電導体とも呼ばれており、この高温超電導体を使用した場合には、金属超電導体を使用した場合に比べて運転コストが低い利点がある。
【0005】
ところで、通電電流が高速で変動する、例えば変圧器のような交流機器において、複数の導体を並列に使用するときには、転位が行われる。これは、複数の導体の相対位置を変えることによってそれぞれの導体を磁気的に一致させて誘起電圧の差を小さくし、これによってそれぞれの導体の電流分担を均一にするためである。
【0006】
負荷電流によって発生した漏れ磁束によるそれぞれの並列導体の誘起電圧の差を、導体のインピーダンスで除した値が循環電流となるのであるが、銅やアルミなどの通常の導体の場合には、インピーダンスは抵抗値だけと見なせるので、循環電流は負荷電流に対し位相が90°ずれたものになる。そのため、例えば30%の循環電流が発生したとしても、1本の導体に流れる電流は負荷電流の100%と90°の位相差のある30%の循環電流とのベクトル和となって、その絶対値はそれぞれの二乗の和の平方根になることから、約105%となり、循環電流の割には電流値の増加は小さい。
【0007】
一方、導体として超電導線を用いた場合、超電導状態では抵抗はほぼ零であるので、循環電流を決めるインピーダンスはほとんどインダクタンスで決まる。従って循環電流は負荷電流と同相になり、仮に循環電流が30%とすると、負荷電流にこの循環電流が加算されて超電導線には130%の電流が流れることになる。
【0008】
超電導線は、超電導状態を維持するために、温度,電流,磁場が、所定値以下である必要がある。この所定値を、それぞれ臨界温度,臨界電流,臨界磁場といい、循環電流によって臨界電流以上の電流が流れた場合には、超電導状態から常電導状態、すなわち抵抗を持った通常の導体になり、ジュール発熱により破損する可能性がある。
【0009】
また、常電導状態にまで至らずとも、並列導体を構成する超電導素線に流れる電流が臨界電流を越えると、その超電導素線は磁束フロー状態、すなわち僅かながら抵抗のある状態になる。超電導コイルの電流を増やしている状態、すなわち励磁時にこの状態が発生すると、その磁束フロー状態となった超電導素線の電流は臨界電流以上には増加せず、他の臨界電流に達していない超電導素線の電流だけが増加することになる。
【0010】
この状態でしばらく励磁を続けると、並列導体内の超電導素線間の電流分流比は、インダクタンスのみで決定される初期の(ゼロ磁場からの増磁時の)電流分流比と次第にずれて来る。すなわち、循環電流は初期値及び2本以上の並列導体では、その分布まで含めて初期状態とは次第にずれて来る。
【0011】
このような状態でコイルの最大磁界、すなわち最大電流まで到達した後に消磁を始める場合、各超電導素線の電流は、その時点での電流値を初期値とし、電流の変化率がインダクタンスのみで決まる初期状態と同じであるように変化していく。すなわち、循環電流はその時点の値および分布を初期値として、変化率を初期状態と同じにして流れ始める。このような励消磁を任意の同じまたは異なった電流値において何度か繰り返すと、並列導体に流れる電流は超電導素線間で激しく偏り、偏流に伴う交流損失の増大や不安定性を増大させる可能性がある。
【0012】
このように、超電導線を用いたコイルでは、循環電流を抑制することが極めて重要となる。超電導導体でも転位を行なうことにより循環電流を抑制することが可能であり、従来の転位法の1例を図5に示す。すなわち、図5は、従来の超電導コイルにおける転位部の構成例を示す斜視図である。図5において、8本の超電導素線1〜8が軸方向(すなわち超電導コイルの軸方向であって矢印AXで示す方向)に2本並べられるとともに半径方向(すなわち超電導コイルの半径方向であって矢印RAで示す方向)にも4本重ねられて電気的に並列化された並列導体102(以下では「4重ね2並べの並列導体」とも称する)を超電導コイルとして巻回していく途中で、軸方向に2本並べられた超電導素線(以下「2並べの超電導素線」とも称する)を同時に転位させている。なお、図5において、並列導体102は、平角状の超電導素線1〜8の幅方向が並べ方向となるように構成されている。
【0013】
次に、図5のような超電導導体の転位を行いながら巻線された超電導コイルの巻線構成を図6に例示する。図6は、従来の超電導コイルの構成例を示す巻線展開図であり、超電導コイルにおけるリード103が設けられた一方端側の近傍部分の構成を部分的に示すものである。図6の巻線構成では、例えば円筒状の巻枠101に軸方向の一方側から他方側に向かって並列導体102を巻回していきながら、4ターンごとに1回の転位を行なっている。なお、図6において、並列導体102の転位を行なう領域が転位領域TPとして図示されている。
【0014】
そして、並列導体102において半径方向に重ねられている超電導素線の本数(以下では「重ね枚数」とも称する)をnとして、図6のような転位を(n−1)回,あるいは(2×n−1)回行い、循環電流を極力抑制するようにした転位方式が提案されている(例えば下記特許文献1〜2参照)。
【0015】
図7は、4つの導体A1,A2,A3,A4からなる並列導体を3回(=(4−1)回)転位した構成の超電導コイルを電源121に接続した状態を示す電気的等価回路図である。ここで、4つの導体A1,A2,A3,A4は、軸方向に並べられる超電導素線が1本である並列導体(以下「1並べの並列導体」とも称する)の場合は1本の超電導素線を示すが、軸方向に並べられた超電導素線が2本である並列導体(以下「2並べの並列導体」とも称する)の場合は同径で並んでいる2本の超電導素線を示し、上記のように2並べの超電導素線ごとに転位させることになる。
【0016】
図7では、並列導体102を構成する4つの導体A1〜A4の重ね順がそれぞれ異なる4つのブロックB1,B2,B3,B4を設け、隣接するブロック同士の間に設けた3つの転位部2a,2b,2cで転位を行なうようにしている。すなわち、例えば並列導体102を構成する4つの導体A1〜A4がブロックB1においてコイル内径方向からA1,A2,A3,A4の重ね順に巻かれている場合、転位部2aでA4,A1,A2,A3の重ね順に転位させ、転位部2bでA3,A4,A1,A2の重ね順に転位させ、転位部2cでA2,A3,A4,A1の重ね順に転位させるようにしている。上述したように、超電導線のインピーダンスはインダクタンス分のみであるので、図7に示すような転位により並列導体の各超電導素線のインダクタンスの各和を等しくすることによって循環電流を抑制した状態で電流を流すようにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平10−172824号公報
【特許文献2】特開2010−109043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところが、超電導コイルにおける並列導体を対象とした上述の転位による各超電導素線のインダクタンスの各和は厳密に言うと等しくない。それは、各ブロックのインダクタンスが微妙に異なることによる。すなわち、上述の図7の例では、例えばブロックB2における導体A4と、ブロックB3における導体A3とは軸方向において対称の位置にあるため、インダクタンスが等しくなる。ところが、ブロックB1における導体A1とブロックB2における導体A4とは、インダクタンスが厳密には等しくない。これは、ブロックB1における導体A1とブロックB2における導体A4とでは、内径および巻数は同じであるが、コイル中心からの軸方向の位置が異なるからである。そして、このような並列導体を構成する各超電導素線のインダクタンスの各和の微妙な違いにより循環電流が生じることになるため、並列導体を構成する各超電導素線のインダクタンスの各和は極力同等とすることが好ましい。
【0019】
また、上述の図5のような従来の転位法を適用した場合、図6に示すように、転位領域TPにおいては、転位部の前後で並列導体102の軸方向位置、すなわちターン位置を移動させるため、1ターン分の軸方向スペースSP(以下「空白のターン」とも称する)が必要となる。よって、転位の数を増やすことにより、巻線の軸方向寸法が増大し、巻線高さが高くなってしまうという問題がある。
【0020】
このため、本発明は、超電導コイルにおける並列導体を構成する各超電導素線のインダクタンスの各和を均一化して循環電流を抑制し並列導体の温度上昇を十分に抑制できるようにするとともに、転位部を設ける超電導コイルとしての巻線高さの制約も十分に緩和できるようにして、安全かつコンパクトな超電導コイルを提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明によれば、超電導コイルとして、複数の超電導素線が軸方向に2本以上並べられるとともに半径方向にも2本以上重ねられて電気的に並列化された並列導体を転位させながら巻回してなる超電導コイルにおいて、前記転位として、前記並列導体における最外径部の1本の超電導素線が並べ方向に隣接する位置に移動し、最内径部の1本の超電導素線が最外径部とは逆の並べ方向に隣接する位置に移動するヘリカル転位を行なうとともに、前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を整数回のターンで行うようにしてなる構成とする(請求項1の発明)。
【0022】
上記請求項1の発明によれば、超電導コイルにおける並列導体の転位方式として、並列導体における最外径部の1本の超電導素線が並べ方向に隣接する位置に移動し、最内径部の1本の超電導素線が最外径部とは逆の並べ方向に隣接する位置に移動するヘリカル転位を適用するとともに、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の上記ヘリカル転位を整数回のターンで行うようにしていることにより、各超電導素線のインダクタンスの各和をより十分に均一化して循環電流をより十分に抑制することができ、これによって、並列導体の温度上昇をより十分に抑制することができるようになる。
【0023】
また、図6で説明した従来の超電導コイルでは、上述のように、転位部の前後で並列導体の軸方向位置(ターン位置)を移動させるために軸方向スペース(空白のターン)が必要であり、これが巻線高さの増大をもたらす要因となっていたが、本発明では、並列導体の転位方式として上記ヘリカル転位を適用していることにより、転位部のための軸方向スペース(空白のターン)が必要ないため、転位部を設ける超電導コイルとしての巻線高さの制約も十分に緩和することができ、巻線高さの増大を抑制できるようになる。
【0024】
したがって、上記請求項1の発明によれば、安全かつコンパクトな超電導コイルを提供できるようになる。
また、上記請求項1に記載の超電導コイルにおいて、前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を1回のターンで行なうようにしてなる構成とすることができる(請求項2の発明)。
【0025】
また、上記請求項1に記載の超電導コイルにおいて、前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を2以上の整数回のターンで行なうようにしてなる構成とすることができる(請求項3の発明)。
【0026】
超電導コイルに要求される仕様によっては、巻線径が小さいために1回のターンでは並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を施すことが困難である場合、さらには、並列導体を構成する超電導素線の本数が多いために必要なヘリカル転位の回数が増大する場合も想定されるが、上記請求項3の発明によれば、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を2以上の整数回のターンで行なうようにしていることにより、上記のような場合にも十分に対応でき、安全かつコンパクトな超電導コイルを提供できるようになる。
【0027】
また、上記請求項3に記載の超電導コイルにおいて、前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を、前記超電導コイルの全巻数を整数で除した回数のターンで行なうようにしてなる構成とすることができる(請求項4の発明)。
【0028】
上記請求項4の発明によれば、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を、超電導コイルの全巻数を整数で除した回数のターンで行なうようにしていることにより、各超電導素線のインダクタンスの各和をより十分に均一化して循環電流をより十分に抑制することができ、これによって、並列導体の温度上昇をより十分に抑制することができるようになり、損失が低く,安全性の高い大容量超電導コイルを提供できるようになる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、超電導コイルにおける並列導体を構成する各超電導素線のインダクタンスの各和を均一化して循環電流を抑制し並列導体の温度上昇を十分に抑制できるとともに、転位部を設ける超電導コイルとしての巻線高さの制約も十分に緩和でき、これにより、安全かつコンパクトな超電導コイルを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例による超電導コイルにおけるヘリカル転位部の構成例を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例による超電導コイルにおける並列導体の断面での超電導素線の移動を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例による超電導コイルの構成例を示す巻線展開図である。
【図4】本発明の実施例による超電導コイルの異なる構成例を示す巻線展開図である。
【図5】従来の超電導コイルにおける転位部の構成例を示す斜視図である。
【図6】従来の超電導コイルの構成例を示す巻線展開図である。
【図7】4つの導体からなる並列導体を3回転位した構成の電気的等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図1〜図4に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
図1は、本発明の実施例による超電導コイルにおけるヘリカル転位部の構成例を示す斜視図であり、並列導体102が、4重ね2並べ導体、すなわち、8本の超電導素線1〜8が軸方向(すなわち超電導コイルの軸方向であって矢印AXで示す方向)に2本並べられるとともに半径方向(すなわち超電導コイルの半径方向であって矢印RAで示す方向)にも4本重ねられて電気的に並列化された並列導体である場合のヘリカル転位部を示している。なお、図1において、並列導体102は、平角状の超電導素線1〜8の幅方向が並べ方向となるように構成されている。また、本発明において、並列導体102を構成する超電導素線1〜8としては、例えばテープ状の酸化物超電導素線を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
図1において、並列導体102における最上部(最外径部)の右側の超電導素線2が左側に移動(転位)し、同時に最下部(最内径部)の左側の超電導素線7が右側に移動(転位)している。このような転位手法をヘリカル転位と呼ぶ。なお、当然のことながら、ヘリカル転位としては、図1に示されるような反時計回りのヘリカル転位に限定されるものでなく、並列導体102における最上部(最外径部)の左側の超電導素線1が右側に移動(転位)し、同時に最下部(最内径部)の右側の超電導素線8が左側に移動(転位)する時計回りのヘリカル転位であっても、転位の効果は同じである。
【0033】
なお、超電導コイルが、同心状に配置された内径側コイルと外径側コイルとを備え、内径側コイルおよび外径側コイルのいずれも、複数の超電導素線が軸方向に2本以上並べられるとともに半径方向にも2本以上重ねられて電気的に並列化された並列導体(図1の並列導体102)を巻回してなる構成である場合、並列導体に対するヘリカル転位は、一方のコイルでは時計回りとし他方のコイルでは反時計回りとすることが好適である。
【0034】
図2は、本発明の実施例による超電導コイルにおける並列導体の断面での超電導素線の移動を示す模式図であって、並列導体102が4重ね2並べの並列導体である場合について、ヘリカル転位によって並列導体における各超電導素線の位置が移動していく態様を示している。図2において、白抜き矢印で示すヘリカル転位T1〜T8によって、並列導体102における各超電導素線1〜8の位置が反時計回りに移動していく。なお、図2における並列導体102の各断面図の上下にそれぞれ付記している円弧状の実線矢印は、T1,T2,・・・の順に進行する転位処理の流れの中で直後のヘリカル転位により行われる超電導素線の移動の方向を示すものである。
【0035】
並列導体102が図2のように8本の超電導素線1〜8を用いた4重ね2並べ導体である場合、並列導体102における各超電導素線1〜8の位置は8回のヘリカル転位T1〜T8によりちょうど一巡し、各超電導素線1〜8がそれぞれ全ての位置を経験することとなる。
【0036】
なお、ヘリカル転位T8の次のヘリカル転位(後述の図3〜4におけるヘリカル転位T9)からは各超電導素線の移動が2巡目に入る。図2には示していないが、2巡目では、図2のヘリカル転位T1,T2,・・・を、ヘリカル転位T9,T10,・・・に置き換えたものとなり、各超電導素線の移動の3巡目以降も同様である。
【0037】
このような8回のヘリカル転位T1〜T8を1回のターンで行えば、各超電導素線1〜8のインダクタンスの各和がほぼ等しくなることとなる。なお、各超電導素線1〜8のインダクタンスの各和の均一化を極力十分なものとするため、各超電導素線1〜8の位置を一巡させるための8回のヘリカル転位T1〜T8は、丁度1回のターンで行なうようにすることが好適である。
【0038】
図3は、本発明の実施例による超電導コイルの構成例を示す巻線展開図であり、ヘリカル転位方式を適用した超電導コイルの巻線構成を展開図として示すものである。なお、図3は、超電導コイルにおけるリード103が設けられた一方端側の近傍部分の構成を部分的に示している。図3において、縦方向は巻線高さ、横方向は巻線角度を示している。図3の巻線構成では、例えば円筒状の巻枠101に軸方向の一方側から他方側に向かって4重ね2並べの並列導体102を巻回し、丁度1回のターンで8回のヘリカル転位T1〜T8を行っており、2ターン目以降はその繰り返しである。なお、図3では、例えばリード103に直近の転位部をヘリカル転位T1とした場合における、以降のヘリカル転位T2〜T17の位置を図示している。
【0039】
そして、図3の構成では、例えばヘリカル転位T1直前の並列導体部(リード103とヘリカル転位T1との間の並列導体部)とヘリカル転位T8直後の並列導体部(ヘリカル転位T8とヘリカル転位T9との間の並列導体部)とで各超電導素線の位置が一致するとともに、ヘリカル転位T1直前の並列導体部とヘリカル転位T8直後の並列導体部とはコイル軸方向に沿って隣接し周方向位置が一致する関係にあり、丁度1周(すなわち丁度1回のターン)で並列導体102の各超電導素線の位置が一巡するように構成されている。
【0040】
また、図3において、ヘリカル転位部同士の位置関係としては、並列導体102の超電導素線の本数をn本(図3ではn=8)として、1巡目(第1ターン)におけるi番目(i=1〜n)のヘリカル転位部(例えば1巡目における1番目のヘリカルT1)と2巡目(第2ターン)におけるi番目のヘリカル転位部(例えば2巡目における1番目のヘリカル転位T9)との周方向位置が一致するように構成されており、このようなヘリカル転位部同士の位置関係は3巡目以降も同様に構成されている。
【0041】
ここで、上述の図6で説明した従来の超電導コイルにおける転位方式と比較すると、本発明によるヘリカル転位方式は、転位部のための軸方向スペース(空白のターン)が必要ないため、転位部を設ける超電導コイルとしての巻線高さの制約が緩和され、巻線高さを小さくすることができる。
【0042】
また、超電導コイルに要求される仕様によっては、巻線径が小さいために、1回のターンでは、並列導体の各超電導素線の位置を一巡させるために必要な所定回数、すなわち、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を施すことが困難である場合が想定される。さらには、並列導体を構成する超電導素線の本数が多いために必要なヘリカル転位の回数が増大する場合も想定される。このような場合には、後述の図4に示すように、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を2以上の整数回のターンで行うようにすればよく、これにより、並列導体の各超電導素線のインダクタンスの各和が十分に均一化される効果が得られる。なお、この場合も、各超電導素線のインダクタンスの各和の均一化を極力十分なものとするため、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位は、丁度、2以上の整数回のターンで行なうようにすることが好適である。
【0043】
図4は、本発明の実施例による超電導コイルの異なる構成例を示す巻線展開図であり、4重ね2並べ導体である並列導体102を用いて2ターンで8回のヘリカル転位を行った超電導コイルの巻線構成を展開図として示すものである。なお、図4は、図3と同様に、超電導コイルにおけるリード103が設けられた一方端側の近傍部分の構成を部分的に示している。図4において、図3と同様に、縦方向は巻線高さ、横方向は巻線角度を示している。図4の巻線構成では、例えば円筒状の巻枠101に軸方向の一方側から他方側に向かって4重ね2並べの並列導体102を巻回し、丁度2回のターンで8回のヘリカル転位T1〜T8を行っており、3ターン目以降はその繰り返しである。なお、図4では、例えばリード103に直近の転位部をヘリカル転位T1とした場合における、以降のヘリカル転位T2〜T17の位置を図示している。
【0044】
そして、図4の構成では、例えばヘリカル転位T1直前の並列導体部(リード103とヘリカル転位T1との間の並列導体部)とヘリカル転位T8直後の並列導体部(ヘリカル転位T8とヘリカル転位T9との間の並列導体部)とで各超電導素線の位置が一致するとともに、ヘリカル転位T1直前の並列導体部とヘリカル転位T8直後の並列導体部とは周方向位置が一致する関係にあり、丁度2周(すなわち丁度2回のターン)で並列導体102の各超電導素線の位置が一巡するように構成されている。
【0045】
また、図4において、ヘリカル転位部同士の位置関係としては、並列導体102の超電導素線の本数をn本(図4ではn=8)として、1巡目(第1ターンおよび第2ターン)におけるi番目(i=1〜n)のヘリカル転位部(例えば1巡目における1番目のヘリカルT1)と2巡目(第3ターンおよび第4ターン)におけるi番目のヘリカル転位部(例えば2巡目における1番目のヘリカル転位T9)との周方向位置が一致するように構成されており、このようなヘリカル転位部同士の位置関係は3巡目以降も同様に構成されている。
【0046】
また、並列導体の各超電導素線の位置を一巡させるために必要な所定回数、すなわち、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位は、図3に示した1ターンで行なう構成、図4に示した2ターンで行なう構成に限定されるものではなく、3ターンやそれ以上の整数回のターン数で行なうようにしてもよい。
【0047】
なお、並列導体の各超電導素線の位置を一巡させるために必要な所定回数、すなわち、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を2以上の整数回のターン数mで行なうように構成する場合、上記ターン数mは、超電導コイルの全巻数Nを整数kで除した回数のターン数(m=N/k)とすることが好適である。また、並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数のヘリカル転位を行うターン数が超電導コイルの設計条件などにより例えばm1ターン(m1は2以上の整数)に規定される場合には、超電導コイルの全巻数Nを調整し、全巻数Nがm1の整数倍となるように設定する。
【符号の説明】
【0048】
1〜8・・・超電導素線
2a〜2c・・・転位部
101・・・巻枠
102・・・並列導体
103・・・リード部
121・・・電源
A1〜A4・・・導体
B1〜B4・・・ブロック
SP・・・軸方向スペース(空白のターン)
T1〜T17・・・ヘリカル転位
TP・・・転位領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超電導素線が軸方向に2本以上並べられるとともに半径方向にも2本以上重ねられて電気的に並列化された並列導体を転位させながら巻回してなる超電導コイルにおいて、
前記転位として、前記並列導体における最外径部の1本の超電導素線が並べ方向に隣接する位置に移動し、最内径部の1本の超電導素線が最外径部とは逆の並べ方向に隣接する位置に移動するヘリカル転位を行なうとともに、
前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を整数回のターンで行なうようにしてなる
ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を1回のターンで行なうようにしてなる
ことを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を2以上の整数回のターンで行なうようにしてなる
ことを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記並列導体を構成する超電導素線の本数と同じ回数の前記ヘリカル転位を、前記超電導コイルの全巻数を整数で除した回数のターンで行なうようにしてなる
ことを特徴とする請求項3に記載の超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−119404(P2012−119404A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265917(P2010−265917)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】