説明

超電導導体の評価方法および装置

【課題】超電導導体に臨界電流値以下の電流を通電した際に得られる電圧信号強度のノイズ成分に対する比率を向上させて電圧発生挙動を高い精度で測定することのできる超電導導体の評価方法および装置を提供する。
【解決手段】少なくとも一部が被測定超電導導体2によって形成された2次側コイル12に電流源7に接続された1次側コイル11からの電磁誘導によって電流を流して被測定超電導導体2の通電特性を測定する方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導導体の通電特性の評価方法および装置に関し、特に、超電導体生成熱処理工程を有する製造方法により製作された長尺の高温超電導導体の通電特性をコイル化する前の段階で比較的簡易に測定するのに有効な超電導導体の評価方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導導体において臨界電流値等の通電特性は重要な特性であり、その測定方法や測定装置が従来いろいろ発明されている(特許文献1および2参照)。
【0003】
図5は、長尺の超電導導体の全長に通電して臨界電流値を測定するための従来の装置の基本的な構成例を示す図である。即ち、それぞれ超電導導体からなる1次側コイル11および2次側コイル12に対して低温容器6の外部に配置した電流源7から電流リード5を介して電流を供給して、超電導導体の発生電圧を測定する。2次側コイル12を構成する被測定超電導導体2と1次側コイル11を構成する通電用超電導導体1aは図6のように共巻きされて一端が接部続3において接続され、無誘導巻きにして2本直列に通電し測定される。被測定超電導導体2の電圧発生は、ある間隔毎に電圧タップ8を設置してデジタルボルトメータ等の電圧計9で計測する。
【0004】
超電導導体の測定は、本例のように製造された超電導導体の出荷前検査のように長尺導体全長に亘って通電し測定する場合もあるし、長尺導体の一部を切り出した短尺のサンプルについて行う場合もある。図5および図6に示した例では超電導導体1a,2が冷媒4に浸漬されているが、別の従来例として、超電導導体が極低温小型冷凍機により伝導冷却されて測定に供される場合もある。いずれの場合においても、超電導導体両端には電流を供給するための電流リードが接続され、この電流リードは銅あるいはリン脱酸銅等の銅合金を通常使用して室温の電流導入端子を介して外部の電流源7へと接続されている。
【特許文献1】特開2003−149278号公報
【特許文献2】特開2004−117082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来例のように外部の電流源から電流リードを介して超電導導体に電流供給した場合、電流源出力のリップルや電流源ラインからの伝導ノイズ等が重畳し、これによって被測定超電導導体から得られる電圧信号にばらつきが生じる。その結果、臨界電流値の定義レベルより2桁以上小さい電圧を測定する際には、信号に対するノイズの比が無視できなくなり、測定の精度が低下する。一方、電圧の絶対値は被測定超電導導体上の電圧タップ間距離に比例するので距離を長くすれば信号強度を上げることができるが、電圧タップ間距離は測定装置により制限があり、従来より数桁長い電圧タップ間距離で温度および経験磁場を一定にした測定はできない。また、被測定超電導導体全長に通電する方法の場合も、導体の局所の劣化の有無を判別するためにはある程度短い間隔で電圧タップを設けて測定する必要があり、従来の測定方法あるいは装置では外部電流源に起因するノイズと同程度以下の強度の電圧信号は検出することができない。
【0006】
そこで本発明は、超電導導体に臨界電流値以下の電流を通電した際に得られる電圧信号強度のノイズ成分に対する比率を向上させて電圧発生挙動を高い精度で測定することのできる超電導導体の評価方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1は、少なくとも一部が被測定超電導導体によって形成された2次側コイルに、電流源が接続された1次側コイルからの電磁誘導によって電流を流して前記被測定超電導導体の通電特性を測定する方法とする。
【0008】
請求項6の発明は、少なくとも一部が被測定超電導導体によって形成された2次側コイルと、前記2次側コイルと電磁誘導可能に配置され電流源に接続される1次側コイルと、前記被測定超電導導体上の所定の2点間の電位差を測定する電圧計とを備えている構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超電導導体に臨界電流値以下の電流を通電した際に得られる電圧信号強度のノイズ成分に対する比率を向上させて電圧発生挙動を高い精度で測定することのできる超電導導体の評価方法および装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の第1ないし第3の実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態は、図1、図2に示すように、被測定超電導導体2からなる2次側コイル12および誘導用の超電導導体1からなる1次側コイル11を冷却装置である低温容器6内で冷媒4に浸漬冷却して測定する。被測定超電導導体2は2次側コイル12を構成し、接続部3をハンダ等で短絡されて閉回路を形成する。誘導用の超電導導体1は被測定超電導導体2と電気絶縁しながら共巻きされて1次側コイル11を形成し、その両端は電流リード5によって外部の電流源7に接続される。
【0011】
本実施の形態によれば、1次側コイル11を励磁あるいは消磁する過程で、2次側コイル12に誘導起電力が生じる。このとき、2次側コイル12は接続部3等による微小な常電導抵抗を含む超電導閉回路であるので、その抵抗値で制限される電流値まで電流を通電することができ、その後抵抗値とインダクタンスとにより決まる時定数で減衰する。被測定超電導導体2に電圧タップ8を設置して2次側コイル12に電流が流れる間に発生する電圧をデジタルボルトメータ等の電圧計9で計測する。電圧タップ8は通常、ある間隔毎に被測定超電導導体2全長に亘って電圧が観測できるように設置する。被測定超電導導体2が撚り線である場合には撚りピッチの整数倍の間隔で設ける。
【0012】
1次側コイル11に外部の電流源7から電流供給している間には電流源ラインからのノイズによって2次側コイル12に誘導ノイズが重畳される恐れがあるが、1次側コイル11の消磁過程で2次側コイル12に電流を誘導し消磁完了後に1次側コイル11の電流源7を遮断することによって、2次側コイルに対する誘導ノイズ要因は除去される。2次側コイル12に誘導される電流の最大値は1次側コイルの磁場変化量によるため、通電後に保持する1次側コイル11の電流の値を変化させることによって、1次側コイル11の発生する磁場が2次側コイル12に印加されて、被測定超電導導体2の超電導特性の磁場依存性を測定することができる。
【0013】
本実施の形態によれば、被測定超電導導体2への電流リードからの伝導ノイズを無くし、比較的簡易に高精度な電圧測定が実現できる。また、被測定超電導導体2に流す電流の最大値が電源設備出力容量の制約を受けず、大電流を被測定超電導導体2へ通電にすることができる。また、被測定超電導導体2を常電導化させる加熱装置を設けて2次コイル12の回路の抵抗値を変化させることによって、1次側コイル11の励磁中と消磁中とで2次側コイルに誘導される電流の減衰速度を変化させることができる。これにより、励磁中に誘導された電流は早く減衰させ、消磁中に誘導された電流を比較的長い時間で減衰させて、この減衰の過程で電圧を測定することにより、発生電圧の電流値依存性を測定することができる。
【0014】
なお、被測定超電導導体2の撚りピッチの整数倍の間隔で電圧タップを設けて発生電圧を測定するようにすると、電圧端子間において撚られている被測定超電導導体2の各構成素線が導体幅方向端部で等しく変形を経験する。これにより、電圧端子に挟まれた領域における素線間の偏流で生じる起電力が有意な電圧信号に重畳するのを回避することができる。
【0015】
また、2次側コイル12をパンケーキ巻きを接続した形状にして、パンケーキを構成する被測定超電導導体2の端部の位相を一致させた構成にすると、複数の被測定超電導導体2のそれぞれの端部が一致し、相対位置関係が全長に亘って同条件になる。これが、被測定超電導導体2に対して、隣接する別の被測定超電導導体2による磁場を全長に亘り等しく経験させるように作用する。これにより、被測定超電導導体2全長に亘り同じ経験磁場の条件下で特性評価することができる。
【0016】
被測定超電導導体2は、パンケーキコイル状に巻いて超電導体生成熱処理をされた高温超電導導体であってもよい。
2次側コイル12に設けられた抵抗値可変の部分と、前記抵抗値を調節して2次側コイル12の電流減衰速度を制御する手段とを備えた構成にすると測定が行いやすくなる。
【0017】
2次側コイル12に誘導電流を流し1次側コイル11の電流を一定に保持して1次側コイル11の発生磁場を2次側コイル12に印加することによって、被測定超電導導体2の通電特性の磁界依存性を測定することもできる。
【0018】
また、2次側コイル12の回路中にダイオードを接続し1次側コイル11の励磁速度を調節することによって、2次側コイル12の両端電圧と前記ダイオードの順方向阻止電圧との大小関係を変化させるようにしてもよい。このようにすると、1次側の電流掃引速度によって2次側回路に生じる誘導電圧とダイオードの順方向阻止電圧との大小関係によって、1次側電流が変化しても誘導電流が評価用導体へ流れないようにすることができる。即ち、1次側電流増加時には2次側回路に生じる誘導電圧がダイオードの順方向阻止電圧以下になるよう掃引速度を遅く設定し、1次側電流を下げる時には順方向阻止電圧以上の誘導電圧が生じる掃引速度に設定して電流を誘導することで、1次側電流立ち下げ完了後に2次側電流のピークを得ることができる。これにより、被測定超電導導体2の特性を、1次側の導体の発生磁場を経験しない条件下で測定することができる。
【0019】
被測定超電導導体2に電圧計9を接続する電流リード5上に恒温の信号増幅回路を備えるようにしてもよい。このようにすると、実験室の計測器周辺におけるノイズが多く熱ゆらぎの大きい環境から信号増幅回路即ちプリアンプを隔離し一定温度に保つことができる。これは、プリアンプ内の導体結合部における熱起電力の発生および変動を抑制するように作用する。これにより、測定したい電圧信号に重畳するノイズ成分を低減させることができる。
【0020】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は図3に示すように、ともに誘導用超電導導体からなり冷却装置である低温容器6内の冷媒4に浸漬冷却された1次側コイル11および2次側コイル12を備えている。1次側コイル11は2つのパンケーキ巻線部を有するスプリットコイル形状であり、2次側コイル12は前記2つのパンケーキ巻線部の間に位置し中心軸が一致するように配置されている。2次側コイル12の端子間には被測定超電導導体2が接続され、被測定超電導導体2の端部間には電圧タップ8を介して電圧計9が接続されている。
本実施の形態によれば、被測定超電導導体2の長さが比較的短い場合でも誘導により電流を流して低ノイズで通電特性を測定することができる。
【0021】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は図4に示すように、2次側コイル12が冷媒4に浸漬冷却されるとともに、低温容器6の外部に冷凍機伝導冷却型の直冷式超電導マグネット13を配置して1次側コイルとしている。2次側コイル12の端子間には被測定超電導導体2が接続され、被測定超電導導体2の端部間には電圧タップ8を介して電圧計9が接続されている。
【0022】
本実施の形態においては低温容器6に電流リードを設ける必要がないため、極低温部分への熱侵入を低減でき、その結果、冷媒液面の低下により通電測定時間が制限されることなく、比較的長時間の大電流通電測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態の超電導導体の評価装置の構成を示す模式図。
【図2】図1の要部の構成を示す斜視図。
【図3】本発明の第2の実施の形態の超電導導体の評価装置の構成を示す模式図。
【図4】本発明の第3の実施の形態の超電導導体の評価装置の構成を示す模式図。
【図5】従来の超電導導体の評価装置の構成を示す模式図。
【図6】図5の要部の構成を示す斜視図。
【符号の説明】
【0024】
1…誘導用超電導導体、1a…通電用超電導導体、2…被測定超電導導体、3…接続部、4…冷媒、5…電流リード、6…低温容器、7…電流源、8…電圧タップ、9…電圧計、11…1次側コイル、12…2次側コイル、13…直冷式超電導マグネット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が被測定超電導導体によって形成された2次側コイルに、電流源が接続された1次側コイルからの電磁誘導によって電流を流して前記被測定超電導導体の通電特性を測定することを特徴とする超電導導体の評価方法。
【請求項2】
前記2次側コイルに誘導電流を通電した後の前記誘導電流の減衰過程で前記被測定超電導導体の発生電圧を測定することを特徴とする請求項1記載の超電導導体の評価方法。
【請求項3】
前記被測定超電導導体を常電導化させる加熱装置で前記1次側コイルによる磁場印加時と一定保持時とで前記2次側コイルに誘導される電流を制御しながら前記被測定超電導導体の超電導特性を測定することを特徴とする請求項1記載の超電導導体の評価方法。
【請求項4】
前記2次側コイルに誘導電流を流し前記1次側コイルの電流を一定に保持して1次側コイルの発生磁場を2次側コイルに印加することにより前記被測定超電導導体の通電特性の磁界依存性を測定することを特徴とする請求項1記載の超電導導体の評価方法。
【請求項5】
前記被測定超電導導体の撚りピッチの整数倍の間隔で電圧タップを設けて発生電圧を測定して前記被測定超電導導体の超電導特性をすることを特徴とする請求項1記載の超電導導体の評価方法。
【請求項6】
少なくとも一部が被測定超電導導体によって形成された2次側コイルと、前記2次側コイルと電磁誘導可能に配置され電流源に接続される1次側コイルと、前記被測定超電導導体上の所定の2点間の電位差を測定する電圧計とを備えていることを特徴とする超電導導体の評価装置。
【請求項7】
前記1次側コイルと前記2次側コイルは超電導導体によって構成され、電気絶縁しながら共巻きされた構造であることを特徴とする請求項6記載の超電導導体の評価装置。
【請求項8】
前記1次側コイルは2つのパンケーキ巻線部を有するスプリットコイル形状であり、前記2次側コイルは前記2つのパンケーキ巻線部の間に位置し中心軸が一致するよう配置されることを特徴とする請求項6記載の超電導導体の評価装置。
【請求項9】
前記2次側コイルをパンケーキ巻きを接続した形状にして、パンケーキを構成する被測定超電導導体端部の位相を一致させたことを特徴とする請求項6記載の超電導導体の評価装置。
【請求項10】
前記1次側コイルと前記2次側コイルは別容器に配置されて独立に温度制御されることを特徴とする請求項6記載の超電導導体の評価装置。
【請求項11】
前記2次側コイルに設けられた抵抗値可変の部分と、前記抵抗値を調節して2次側コイルの電流減衰速度を制御する手段とを備えていることを特徴とする請求項6記載の超電導導体の評価装置。
【請求項12】
前記2次側コイルの回路中にダイオードを接続し1次側コイルの励磁速度を調節することによって、2次側コイルの両端電圧と前記ダイオードの順方向阻止電圧との大小関係を変化させるようにしたことを特徴とする請求項6記載の超電導導体の評価装置。
【請求項13】
前記被測定超電導導体に前記電圧計を接続する信号線上に恒温の信号増幅回路を備えていることを特徴とする請求項6記載の超電導導体の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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