説明

超電導線およびそれを用いた超電導コイル

【課題】 コイルの製作や運転によって超電導部材に生じる応力から超電導部材を構成す
る層を補強し、かつ補強手段によって超電導部材に生じる長手方向の応力を低減すること
ができる超電導線を提供することを目的とする。
【解決手段】 超電導線1は、可撓性を有する基板5上に、酸化物超電導層7が中間層6
を介して形成され、酸化物超電導層7上に保護層8が形成されることによりなる超電導部
材2と、超電導部材2の酸化物超電導層7が形成される側の面に摺接され、超電導部材2
を構成する層の補強を行う補強板3と、超電導部材2と補強板3とを長手方向に相互に摺
動可能に包囲して拘束する絶縁テープ4とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造の超電導線およびそれを用いた超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造の超電導線は、基板の上に中間層を介して結晶配向性の揃った酸化物超電導層
が形成され、酸化物超電導層の上に保護層が形成される。多層構造の超電導線は、銀チュ
ーブに超電導体を封入して製作される超電導ケーブルに比べて高い臨界電流密度を有する
特徴がある。しかし、この多層構造の超電導線を用いて超電導コイルを製作、運転を行う
と、コイルの製作や運転時に超電導線に応力が生じ、超電導線を構成する層が剥離、変形
、クラックを起こし、その結果、臨界電流密度の低下を招いてしまう。
【0003】
この多層構造の超電導線を構成する層に生じる応力には、超電導コイル冷却時における
超電導線を構成する層の膨張率の違いによるもの、超電導コイル運転時における酸化物超
電導層に働く電磁力によるものなどがある。
【0004】
そこで、上記要因によって生じる応力による剥離、変形、クラックの発生を防止するた
めに、超電導線の保護層にハンダによって金属製の補強板を接着させ、超電導線を構成す
る層の補強を行う技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−282584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術の超電導線を用いて、超電導線を内周に補強板
を外周に配置して巻芯に巻線して超電導コイルを製作すると、超電導線および補強板の曲
率・半径が異なるために補強板の巻線距離は超電導線より長くなり、超電導線と補強板が
接着されているために、補強板が超電導線を巻線方向に引張するような長手方向の応力が
超電導線を構成する層に発生していた。
【0007】
また、巻線時には補強板に曲げ応力が発生することにより補強板の巻線の内側面に長手
方向の圧縮応力が生じるが、超電導線と補強板が接着されているために、この圧縮応力に
よって超電導線を構成する層に長手方向の応力が発生していた。
【0008】
したがって、特許文献1に記載の技術は、上述したような補強板によって超電導線を構
成する層に発生する長手方向の応力によって、超電導線を構成する層が剥離、変形、クラ
ックを起こし、その結果、臨界電流密度の低下を招いてしまうという新たな課題が生じて
いた。
【0009】
そこで本発明は、超電導コイルの製作や運転によって超電導線を構成する層に生じる応
力に対して積層方向の補強を行い、かつ補強手段によって超電導線を構成する層に生じる
長手方向の応力を低減することができる超電導線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の超電導線は、可撓性を有する基板上に、酸化物超
電導層が中間層を介して形成され、酸化物超電導層上に保護層が形成されることによりな
る超電導部材と、超電導部材の保護層が形成される側の面に摺接される補強板と、超電導
部材と補強板とを長手方向に相互に摺動可能に包囲して拘束する絶縁テープとを備え、補
強板が、中間層と酸化物超電導層と保護層に生じる応力に対して積層方向の補強を行うこ
とを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超電導コイルの製作や運転によって超電導線を構成する層に生じる応
力に対して
積層方向の補強を行い、かつ補強手段によって超電導線を構成する層に生じる長手方向の
応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超電導線の長手方向に垂直な面の断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る絶縁テープの巻き方を示す斜視図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る超電導線の超電導層部材を複数用いた場合の長手方向に垂直な面の断面図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る超電導線の2つの超電導層部材を向かい合わせた場合の長手方向に垂直な面の断面図。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る超電導線を用いた超電導コイルを示し、(a)は断面斜視図、(b)は拡大断面図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る超電導線の長手方向に垂直な面の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
(構成)
以下、本発明の第1の実施形態の超電導線の構成について図1乃至図5を参照して説明
する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超電導線の長手方向に垂直な面の断面図である

【0016】
超電導部材2は、厚み0.1mm、幅4.0mmのテープ状の基板5の上に中間層6が
形成され、中間層6の上に結晶配向性の優れた酸化物超電導層7が形成され、酸化物超電
導層7の上に保護層8が形成され、保護層8の上に安定化層9が形成されることにより構
成される。
【0017】
超電導線1は、超電導部材2の安定化層9が形成される側の面に、補強手段として厚み
0.1mm、幅4.0mmの補強板3を摺接し、絶縁テープ4によって超電導部材2と補
強板3とを長手方向に相互に摺動可能に包囲して拘束することにより構成される。
【0018】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る絶縁テープの巻き方を示す斜視図である。絶縁
テープ4は、ラップ巻きといわれる、巻いた一部分が重なるように斜め方向に巻き進める
方法によって、超電導部材2と補強版3を包囲する。
【0019】
基板5は、ハステロイ(登録商標)、ステンレス鋼やニッケル合金どの高強度の金属材
料を用いる。ガラス、セラミクス等の非金属材料でも適用可能である。
【0020】
中間層6は、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO)、
SrTiO、MgOなどの結晶配向性が優れ、酸化物超電導層7の熱膨張率に近い膨張
率を有する材料を用いることで、基板5と酸化物超電導層7の熱膨張の差異に起因する熱
歪を防止する。
【0021】
酸化物超電導層7は、YBaCu7-x、YBaCuOx、YBa
CuOxなる組成、あるいは(Bi,Pb)CaSrCuOx、(Bi,Pb
CaSrCuOxなる組成、あるいは、TlBaCaCuOx、Tl
BaCaCuOx、TlBaCaCuOxなる組成などに代表される臨
界温度の高い酸化物超電導体からなり、中間層6の面上にレーザ蒸着装置等によって形成
する。
【0022】
保護層8は、材料として銀が用いられ、酸化物超電導層7の面上に真空蒸着法等により
形成される。ここで、保護層8に用いられる銀は、酸化物超電導体に含まれる酸素が酸化
物超電導層7から拡散することを防止し、酸化物超電導体の組成を保つ働きがある。この
効果を持つ物質であれば、銀以外の材料、例えば金、白金でも適用可能である。
【0023】
安定化層9は、銅あるいはAlなどの良電導性の金属を保護層8の面上にメッキ等の方
法により形成される。また、安定化層9の形成をしやすくするために、銀、金、白金など
からなる下地安定化層を予め保護層8の上に形成し、その上に安定化層9を形成する構造
としてもよい。
【0024】
超電導コイルが臨界電流を上回って使用されると、超電導状態を保つことができず、酸
化物超電導層の一部が、高い電気抵抗をもった常電導体に変化する。このとき、クエンチ
現象といわれる、常電導体に流れる電流によって熱が発生し、この熱によりさらに他の部
分が常電導体への変化が起きることにより、超電導コイルの焼き切れや、冷却材の一瞬の
気化が生じる現象が起きることがある。
【0025】
安定化層9は、超電導コイルのクエンチ現象を防止するために、酸化物超電導層7に臨
界電流を越えた電流が流れたときに、酸化物超電導層7への過剰電流の迂回経路となる働
きをもつ。
【0026】
補強板3は、超電導部材2の補強の働きがあり、銅、ステンレス鋼等の金属が用いられ
るが、曲げ歪みや引張に強い材料であれば、合成樹脂、セラミクス等の金属以外の材料で
も適用可能である。
【0027】
絶縁テープ4は、絶縁材料からなるテープが用いられる。例えば、カプトン(商標登録
)やノーメックス(商標登録)を用いることができる。
【0028】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る超電導線の超電導部材を複数設けた場合の長手
方向に垂直な面の断面図である。第1の超電導部材2aの安定化層9aが形成される側の
面に補強板3を摺接し、この第1の超電導部材2aの基板5aの面下に、さらに第2の超
電導部材2bを安定化層9bが形成される側の面を向けて摺接し、絶縁テープ4によって
2つの超電導部材2a、2bと補強板3とを相互に摺動可能に包囲して拘束する構成とす
る。また、第2の超電導部材2bの基板5の面下にさらに超電導部材2を安定化層9が形
成される側の面を摺接して設ける構成としてもよい。
【0029】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る超電導線の2つの超電導部材を向かい合わせた
場合の長手方向に垂直な面の断面図である。補強板3を省き、第1、第2の超電導部材2
a、2bの安定化層9a、9bが形成される側の面同士を向かい合わせて摺接し、絶縁テ
ープ4によって2つの超電導部材2a、2bを相互に摺動可能に包囲して拘束する構成と
する。
【0030】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る超電導線を用いた超電導コイルを示し、(a)
は断面斜視図、(b)は拡大断面図である。巻芯12は、内径90mm、外径100mm
であり、FRP等の材質からなる。また、樹脂13はエポキシ樹脂等の硬化性樹脂からな
る。
【0031】
超電導コイル11は、超電導線1に樹脂13を塗布して補強板3を外周に、超電導部材
2を内周に位置するように巻芯12に20ターン巻線し、樹脂13で含浸したものである
。なお、補強板3を内周に、超電導部材2を外周に位置するように巻線して超電導コイル
11を製作する構成としてもよい。
【0032】
(作用)
超電導部材2の安定化層9が形成される側の面に補強板3を摺接し、絶縁テープ4によ
って超電導部材2と補強板3とを長手方向に相互に摺動可能に包囲して拘束した場合は、
絶縁テープ4によって超電導部材2と補強板3とが積層方向に拘束がされているため、熱
膨張率の違いや電磁力によって超電導部材2を構成する層に生じる応力に対して、補強板
3が積層方向の補強を行う。
【0033】
また、超電導部材2と補強板3とが長手方向に摺動可能であるため、補強板3による超
電導部材2への長手方向の応力が生じても、超電導部材2と補強板3が長手方向の応力を
逃がす方向に相互に摺動し、応力が軽減される。
【0034】
第1の超電導部材2aの基板5の面下に第2の超電導部材2bを安定化層9bが形成さ
れる側の面を向けて摺接した場合には、補強板3が第1の超電導部材2bを構成する層の
積層方向の補強を行うとともに、第2の超電導部材2bを構成する層に対して第1の超電
導部材2aの基板5aが補強手段として補強板3と同等に作用し、第1の超電導部材2a
の基板5aが第2の超電導部材2bを構成する層の積層方向の補強を行う。また、長手方
向の応力に対しては第1、第2の超電導部材2a、2bおよび補強板3が相互に摺動し、
応力が軽減される。
【0035】
第1、第2の超電導部材2a、2bを安定化層9a、9bが形成される側の面を向き合
わせて摺接した場合には、基板5a、5bが補強手段として互いに第1、第2の超電導部
材2a、2bを構成する層の積層方向の補強を行う。また、長手方向の応力に対しては超
電導部材2同士が相互に摺動し、応力が軽減される。
【0036】
補強板3を内周に、超電導部材2を外周に位置するように巻線して超電導コイル11を
製作した場合は、上述した長手方向の応力とは逆向きの応力が超電導部材2に加わるが、
超電導部材2と補強板3が応力を逃がす方向に相互に長手方向に摺動し、応力が軽減され
る。
【0037】
(効果)
本実施形態によれば、超電導コイル11の製作や運転によって超電導部材2を構成する
層に生じる応力に対して積層方向の補強を行い、かつ補強手段によって超電導部材2を構
成する層に生じる長手方向の応力を軽減することで、超電導部材2を構成する層の剥離、
変形、クラック等を防止することができ、超電導コイル11の臨界電流密度の低下を防止
することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る超電導線について図6を参照して説明する。本実
施形態が第1の実施形態と異なる点は、離型剤10を新たに設けた点ある。第1の実施形
態の各部と同一部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0039】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る超電導線の長手方向に垂直な面の断面図である
。本実施形態の超電導線1は、超電導部材2の安定化層9が形成される側の面と補強板3
の間に離型剤10を設け、超電導部材2および補強板3を相互に長手方向に摺動可能に絶
縁テープ4で包囲し拘束することにより構成される。
【0040】
離型剤10は、例えばテフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂、パラフィングリース
、シリコンオイルなどが用いられる。フッ素系樹脂を用いる場合は、フッ素系樹脂テープ
を用いることが好ましい。この離型剤10は超電導部材2と補強板3が摺接する面全体に
設ける必要はなく、効果を奏する部分のみに設ける構成としてもよい。
【0041】
また、第1の実施形態における2以上の超電導部材2を同じ積層方向に摺接する場合や
、2つの超電導部材2を向き合わせて摺接する場合には、超電導部材2同士が摺接する面
に離型剤10を設ける構成とする。
【0042】
(作用)
離型剤10は、超電導部材2と補強板3の間、または超電導部材2同士が摺接する面に
生じる摩擦を低減する。
【0043】
(効果)
本実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、離型剤10によって超電導部材
2と補強板3、または超電導部材2同士の相互の長手方向の摺動を促すことができる。
【0044】
なお、本発明の実施形態は上述した実施形態に限られないことは言うまでもない。例え
ば、上述した超電導線1やコイル巻芯12の寸法等は適時変更可能であるし、絶縁テープ
4の超電導部材2および補強板3の包囲の方法も上述したラップ巻きに限られず、2枚の
絶縁テープ4によって超電導部材2と補強板3を挟んで包囲して両端を接着剤等で固定す
る方法など、超電導テープ2と補強板3を長手方向の相互の摺動を可能に包囲して拘束す
る方法であれば、他の方法でも適用可能である。
【0045】
また、安定化層9の働きを保護層8が兼ねることも可能であり、このとき超電導部材2
は安定化層9を形成しない構成としてもよい。また、安定化層9は、少なくとも保護層8
の面上に形成されていればよく、基板5、中間層6、酸化物超電導層7、保護層8からな
る積層物の表面全体に安定化層9を形成する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1・・・超電導線
2、2a、2b・・・超電導部材
3・・・補強板
4・・・絶縁テープ
5・・・基板
6・・・中間層
7・・・酸化物超電導層
8・・・保護層
9、9a、9b・・・安定化層
10・・・離型剤
11・・・超電導コイル
12・・・巻芯
13・・・樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基板上に中間層が形成され、前記中間層上に酸化物超電導層が形成され
、前記酸化物超電導層上に保護層が形成された超電導部材と、
前記超電導部材の前記保護層側の面に摺接される補強板と、
前記超電導部材と前記補強板とを長手方向に相互に摺動可能に包囲して拘束する絶縁テー
プとを備えたことを特徴とした超電導線。
【請求項2】
可撓性を有する基板上に中間層が形成され、前記中間層上に酸化物超電導層が形成され
、前記酸化物超電導層上に保護層が形成された超電導部材を少なくとも2つ同じ積層方向
に摺接し重ねた積層物と、
前記積層物のうち前記保護層側の面に摺接される補強板と、
前記超電導部材と前記補強板ならびに前記超電導部材同士を長手方向に相互に摺動可能に
前記積層物と前記補強板を包囲して拘束する絶縁テープとを備えたことを特徴とした超電
導線。
【請求項3】
可撓性を有する基板上に中間層が形成され、前記中間層上に酸化物超電導層が形成され
、前記酸化物超電導層上に保護層が形成された超電導部材を、前記保護層側の面を向き合
わせて摺接される1対の超電導部材と、
前記1対の超電導部材を長手方向に相互に摺動可能に包囲して拘束する絶縁テープとを備
えたことを特徴とする超電導線。
【請求項4】
前記超電導部材と前記補強板が摺接する面にさらに離型剤を設けたことを特徴とする請
求項1または請求項2に記載の超電導線。
【請求項5】
前記超電導部材同士が摺接する面にさらに離型剤を設けたことを特徴とする請求項2ま
たは請求項3に記載の超電導線。
【請求項6】
前記超電導部材は、前記超電導部材の表面の少なくとも前記保護層の面上に形成された
安定化層をさらに備えることを特徴とした請求項1乃至請求項5に何れか一項記載の超電
導線。
【請求項7】
前記絶縁テープを、拘束対象を長手方向に対して斜め方向に前記絶縁テープの一部分が
重なるように巻き回して包囲することを特徴とした請求項1乃至請求項6に何れか一項記
載の超電導線。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7に何れか一項記載の超電導線を巻き回して構成されたことを特徴
とした超電導コイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−113933(P2011−113933A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272041(P2009−272041)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】