超電導線材の製造方法および超電導線材
【課題】優れた超電導特性、および、ブリッジングを撲滅し、臨界電流が向上かつ交流損失が低減する超電導線材の製造方法を提供すること。
【解決手段】超電導体の前駆体粉末を第1の金属管および第2の金属管に充填する充填工程と、前記前駆体粉末が充填された第1の金属管および第2の金属管を引き抜き加工し、それぞれ延伸された線材であるセグメントAおよびセグメントBを得る単芯伸線工程と、第3の金属管内の中心部に複数本の前記セグメントAを配置し、第3の金属管内の周辺部に複数本の前記セグメントBを配置する多芯化工程と、前記セグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管を引き抜き加工することにより超電導線材を得る多芯伸線工程とを含み、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする多芯構造の超電導線材の製造方法。
【解決手段】超電導体の前駆体粉末を第1の金属管および第2の金属管に充填する充填工程と、前記前駆体粉末が充填された第1の金属管および第2の金属管を引き抜き加工し、それぞれ延伸された線材であるセグメントAおよびセグメントBを得る単芯伸線工程と、第3の金属管内の中心部に複数本の前記セグメントAを配置し、第3の金属管内の周辺部に複数本の前記セグメントBを配置する多芯化工程と、前記セグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管を引き抜き加工することにより超電導線材を得る多芯伸線工程とを含み、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする多芯構造の超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の製造方法に関するものである。特に、臨界電流密度を向上できる超電導線材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パウダーインチューブ法によりBi2223相などの酸化物超電導体を長尺のテープ状線材に形成する技術が知られている。この方法は、まず超電導相の前駆体粉末を銀製などの第1金属パイプに充填する。次に、この第1金属パイプを伸線加工してセグメント(クラッド線)とする。複数のセグメントを束ねて銀などの第2金属パイプに挿入し、伸線加工して多芯線材とする。この多芯線材を圧延加工してテープ状線材とする。テープ状線材に一次熱処理を施して目的の超電導相を生成させる。続いて、このテープ状線材を再度圧延してから二次熱処理を施して、超電導相の結晶粒同士を接合させる。これら2回の塑性加工と熱処理は、1回しか行わない場合もあるが、一般に大気雰囲気下にて行われる。そして、金属シース中に多数の超電導フィラメントが含まれるテープ状線材を得る。
【0003】
クラッド線を作製する際、超電導相の前駆体粉末は第1金属パイプに充填されている。そのため、セグメント(クラッド線)を第2金属パイプに挿入・伸線して多芯線を作製し、さらに圧延してテープ状線材とされた後も、理想的には、各フィラメントは互いに接することなく独立しているはずである。しかし、実際には圧延条件などにより、金属シース内において隣接するフィラメント同士が接するフィラメントブリッジが生じ、臨界電流密度(以下、Jcと略すことがある。)を向上させることができなかった。したがって、従来の超電導線材では、主に圧延により、隣接する超電導フィラメント同士がつながるフィラメントブリッジが生じ、Jcの向上の妨げとなっていた。
【0004】
そこで、フィラメントブリッジを抑制してJcを向上させることができる超電導線材の製造方法が検討されてきた。フィラメントのブリッジングは、フィラメント外周の金属が破断することで発生する。したがって金属外皮を厚くすれば破断応力が増加することからブリッジングを抑制できる。特許文献1にはセグメント径と銀比に着目した臨界電流密度を向上できる超電導線材の製造方法が開示されている。セグメントとは、超電導フィラメントの少なくとも1本と、当該超電導フィラメントを覆う金属被覆からなる超電導線材である。この方法によれば、銀比を高くすることによりブリッジングが低減され臨界電流密度は向上するものの、全フィラメントの金属被覆を厚くすれば、ブリッジングは抑制できるものの超電導電流を流せる超電導粉末部分(超電導フィラメント部)が少なくなるため、逆に臨界電流を低下させてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2003−331668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた超電導特性を有する超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。さらに、ブリッジングを撲滅し、臨界電流が向上かつ交流損失が低減する超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ブリッジングの起こりやすい部分のみに高金属比のセグメント(超電導フィラメントに他よりも厚い金属被覆を施したもの)を利用することで、超電導線材の横断面全体における金属被覆量の増加を必要最小限に抑えられ、フィラメントブリッジを防止しつつ、超電導フィラメントの割合の低下によるJcの低下を抑制できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、複数の超電導体フィラメントを内部に有する多芯構造の超電導線材の製造方法であって、
超電導体の前駆体粉末を第1の金属管および第2の金属管に充填する充填工程と、
前記前駆体粉末が充填された第1の金属管および第2の金属管を引き抜き加工し、それぞれ延伸された線材であるセグメントAおよびセグメントBを得る単芯伸線工程と、
第3の金属管内の中心部に複数本の前記セグメントAを配置し、第3の金属管内の周辺部に複数本の前記セグメントBを配置する多芯化工程と、
前記セグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管を引き抜き加工することにより超電導線材を得る多芯伸線工程とを含み、
セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材の製造方法である。
【0008】
また、本発明者らは、ブリッジングが発生しやすい部分に着目し、従来技術では断面の中心に近い部分でブリッジングが多く発生していることを解明した。引き抜き加工時には横断面中心に近いほど引っ張り応力が印可されることから前駆体粉末の粗密が発生しやすい。粗密が起こるとその部分への応力集中が起こり、外皮の破断応力を超過しやすい状況が起こり破断にいたることが原因と推定した。そこで、従来の超電導線材の製造履歴を詳細に調査し、ブリッジングの発生する箇所は超電導線材の中心からのスタック数がN’以下の範囲であることが判明したので、本発明においてはその部分のみに高金属比セグメントを使用することが好ましい。
【0009】
すなわち、本発明の製造方法における前記多芯化工程において、
前記中心部が第3の金属管内の中心軸からのスタック数がN’以下の部分であり、前記周辺部が該中心部の外側の第3の金属管内部であり、
前記N’は、前記第3の金属管内に配置されるセグメントAおよびBの総スタック数(S)が3の倍数の場合は式: N’=2S/3、
Sが3で割ると1余る数の場合は式: N’=(2S−2)/3、
Sが3で割ると2余る数の場合は式: N’=(2S−1)/3
で求められる数であることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記超電導体の前駆体粉末は、Bi−2212相を主相とする前駆体を含む粉末であることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記セグメントB中に含まれる前駆体粉末以外の金属(第2の金属管を構成する金属材料)の比率が、セグメントBの全体積に対する体積比で0.8以上であることが好ましい。一方、前記セグメントA中に含まれる前駆体粉末以外の金属(第1の金属管を構成する金属材料)の比率が、セグメントAの全体積に対する体積比で0.4以上0.8未満であることが好ましい。また、前記セグメントAおよびセグメントBの単芯伸線後におけるセグメント径は2mm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法によって得られる超電導線材においては、前駆体粉末以外の金属の体積比が前駆体粉末の体積に対して1.5未満であることが好ましい。通常、前駆体粉末以外の金属の体積は、前記第1の金属管、第2の金属管および第3の金属管の体積の合計である。
【0013】
また、本発明は上記のいずれかの製造方法によって製造される超電導線材にも関する。さらに、本発明は、超電導体を第1の金属管で被覆したセグメントAの複数本と、超電導体を第2の金属管で被覆したセグメントBの複数本とが、第3の金属管内に配置された多芯構造の超電導線材であって、中心部にセグメントAが配置され、周辺部にセグメントBが配置されており、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超電導線材の製造方法においては、ブリッジングの起こりやすい部分のみに高金属比セグメントを利用することで、超電導線材の横断面全体における金属被覆量の増加を必要最小限に抑えられるため、フィラメントブリッジを防止しつつ、超電導フィラメントの割合の低下によるJcの低下を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の超電導線材の製造方法において、超電導体の前駆体粉末としては、Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOからなる群から選択される1以上の化合物を含む前駆体粉末を用いることが好ましく、5種類の前駆体粉末(Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuO)を混合して用いることが特に好ましい。
【0016】
前記第1の金属管とは、超電導体フィラメント間の短絡を防止できる材料からなる金属管であり、第1の金属管の材料としては、Ag、Cu、Fe、Ni、Cr、Ti、Mo、W、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osより選択される金属またはこれらの金属をベースとする合金が好ましい。特に、酸化物超電導体との反応性や加工性からAgまたはAg合金が好ましい。第2の金属管、第3の金属管についても同様の材料を用いることができる。
【0017】
このような第1の金属管および第2の金属管に前記前駆体粉末を充填して得られる線材を各々引き抜き加工し延伸したものが、セグメントAおよびセグメントBである。ここで、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高くなるように、第1の金属管、第2の金属管の内径および外径などが調整されている。例えば、第1の金属管と第2の金属管の内径を同程度とする場合には、第2の金属管として第1の金属管の外径よりも外径が大きい管が使用され、第1の金属管と第2の金属管の外径を同程度とする場合には、第2の金属管として第1の金属管の内径よりも内径が小さい管が使用される。
【0018】
前記セグメントAおよびセグメントBの単芯伸線後におけるセグメント径は2mm以上であることが好ましい。ここで、セグメント径とは、セグメントの断面の最大幅を意味し、具体的には、セグメントの断面が円の場合はその直径であり、断面が六角形等の多角形である場合はその対辺の長さである。セグメント径が2mm以下では粉末部(フィラメント部)の偏芯やセグメント割れが発生しやくすくなる。
【0019】
本発明では、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率が体積比で0.4以上であることが好ましい。0.4未満では、上記N’より外側のスタックでブリッジングが発生しやすくなる。また、セグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率は、体積比で0.8以上であることが好ましい。0.8未満では、上記N’より中心軸側のスタックでブリッジングが発生しやすくなる。
【0020】
第3の金属管内の中心部とは、金属管の中心軸を含み管の長手方向に連続する部分であり、例えば、金属管の中心軸を含む六角柱状、円柱形状などの領域である。該中心部に複数本の上記セグメントAが配置される。
【0021】
第3の金属管内の周辺部とは、上記中心部以外の第3の金属管内部であり、中心部を覆う管の長手方向に連続する部分であり、好ましくは中心部を覆う管状の部分である。該周辺部に複数本の上記セグメントBが配置される。
【0022】
本発明の製造方法の単芯延伸工程においては、上記第1の金属管および第2の金属管の断面が丸形状ないし六角形状となるように成型されることが好ましい。上記単芯延伸工程を経たセグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管に、さらに引き抜き加工等の必要な処理を施すことにより本発明の超電導線材が得られる。
【0023】
本発明においては、多芯伸線工程後の超電導線材に含まれる前駆体粉末以外の金属の体積比が前駆体粉末の体積に対して1.5未満であることが好ましい。1.5以上となれば、超電導電流が流れる超電導部分が低減するため、臨界電流が低下するため望ましくない。本発明において、「前駆体粉末の体積」との用語は、粉末自体の体積と粉末の間の空間部の体積とを合わせた体積を意味し、言い換えれば粉末部分の容積を意味する。
【0024】
本発明の超電導線材の1本中に含まれるセグメントの総数(セグメントAおよびセグメントBの合計本数)は特に限定されるものではないが、37本以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法においては、上記多芯化工程において、上記中心部が第3の金属管内の中心軸からスタック数(中心軸を含むセグメントの積み重ね数)が上記N’以下の部分であり、前記周辺部が該中心部の外側の第3の金属管内部であることが好ましい。ここで、中心軸からスタック数がN’以下の部分とは、スタック数がN’となる外縁のセグメントを含むその内側部分であり、その部分の全部または一部を意味するが、実質的に全部の部分であることがブリッジング頻度の低減効果の点でより好ましい。また、中心部がその一部であるときは、あまり中心部の範囲が狭くなるとブリッジング頻度の低減効果が得られなくなるため一定範囲以上の部分を中心部とすることが好ましい。
【0026】
本発明の一例として、1本の超電導線材に含まれるセグメントの総数(N)が85本、総スタック数(S)が6の場合のN’の求め方、および、セグメントAおよびBの本数の決め方を図1を参照しながら説明する。まず、Sは6なのでN’=2S/3が適用される。Sに6を代入すると、N’=4となる。
【0027】
次に、中心より4スタック以内にセグメントB(図1中の2)を適用するとして、六角柱状のセグメントを配置(嵌合)させる場合は、図1に示すようにセグメントBの本数は37本となる。セグメントAの本数は、残りのセグメントの本数であり、85−37=48本である。
【0028】
上記のようにして決定されるセグメントの総数(N)および総スタック数(S)と、中心部のスタック数の割り振りは表1のようになる。
【0029】
【表1】
【0030】
以下、本発明の超電導線材の製造方法について図に基づいて説明する。図11は、本発明の一実施の形態における超電導線材の製造方法を示すフロー図である。また、図12〜図17は図1の各工程を示す図である。
【0031】
図11を参照して、たとえばBi−2223の高温超電導線材を製造する場合、パウダー・イン・チューブ法が用いられる。ここで、Bi−2223とは、Bi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成を有し、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるものである。
【0032】
まず、たとえば5種類の前駆体粉末(Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuO)が混合され、熱処理による反応で最終目的の超電導体であるBi−2223相に変化する中間状態の前駆体粉末が作製される(ステップS1)。図12に示すように、この前駆体粉末1aがパイプ(金属管)1a内に充填される(ステップS2)。このパイプ1aは、たとえば銀などの金属よりなり、外径がΦ20〜40mmで、肉圧が外径の3〜15%程度のものである。これにより、超電導体の前駆体粉末1aをパイプ1aで被覆した形態の線材1が得られる。この後、パイプ1a内の脱気が行われ、パイプ1aの両端が密封される。
【0033】
次に、図13に示すように、上記線材1を伸線加工することにより、超伝導体前駆体を芯材として銀などの金属で被覆されたセグメント(クラッド線)2,3が形成される(ステップS3)。このセグメント2,3は、たとえばΦ2〜4mmの6角形状とされる。セグメント2が上記セグメントA、セグメント3が上記セグメントBを示す。
【0034】
次に、図14に示すように、このセグメント2,3が多数束ねられて、パイプ4a内に配置(嵌合)される(多芯嵌合:ステップS4)。このパイプ4aは、たとえば銀またはその合金などの金属よりなり、外径がΦ20〜40mmで、肉圧が外径の3〜15%程度のものである。これにより、超電導体前駆体を芯材として多数有する多芯構造の多芯線材4が得られる。ここで、セグメント2(セグメントB)がパイプ4aの中心軸側に配置され、セグメント3(セグメントA)はセグメントBの周辺部に配置される。
【0035】
次に、図15に示すように、多数の前駆体1bの芯材が金属に被覆されてなる多芯線材4を伸線加工することによって、超電導体前駆体のフィラメントがたとえば銀などの金属に埋め込まれた延伸多芯線材5が形成される(ステップS5)。
【0036】
次に、延伸多芯線材5に熱間等静圧圧縮成形(HIP:Hot Isostatic Pressing)が施される(ステップS6)。熱間等静圧圧縮成形は、200℃以上500℃以下の温度および100気圧以上2000気圧以下の圧力の条件下で行われることが好ましい。熱間等静圧圧縮成形を行う装置としては、例えば、圧力容器円筒と、その圧力容器円筒の両端を密閉する上蓋および下蓋と、圧力容器円筒中にガスを導入するために上蓋5に設けられたガス導入口と、処理品(多芯線材)を加熱するヒータと、断熱層と、処理品を支える支持具とにより構成される装置が挙げられる。
【0037】
この後、延伸多芯線材5がさらに伸線加工されることによって、Φ1〜3mmまで縮径される(ステップS7)。
【0038】
次に、図16に示すように延伸多芯線材5に1次圧延加工が施され、それによりテープ状の多芯線材6が得られる(ステップS8)。この1次圧延加工は、たとえば圧下率80〜90%の条件で行われる。この後、テープ状の多芯線材6を830〜850℃の温度まで加熱して、その温度で50〜150時間保持することにより、テープ状の多芯線材6に1次焼結が施される(ステップS9)。
【0039】
さらに、テープ状の多芯線材6に2次圧延加工が施される(ステップS10)。この2次圧延加工は、たとえば圧下率0〜20%の条件で行われる。この後、多芯線材1を830〜850℃の温度まで加熱して、その温度で50〜150時間保持することにより、多芯線材6に2次焼結が施される(ステップS11)。これにより、Bi−2223の高温超電導線材が製造される。
【0040】
次に、上記の方法により形成された超電導線材の構成について説明する。
図17は、本発明の一実施形態における超電導線材の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。図17を参照して、上記方法により製造される多芯構造の超電導線材6は、長手方向に延びる複数本の(酸化物)超電導体フィラメント1cと、それらを被覆する金属シース部6aとを有している。複数本の超電導体フィラメント1cの各々の材質は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成が好ましく、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を含む材質が最適である。金属シース部6aの材質は、たとえば銀および/または銀合金よりなっている。
【0041】
多芯嵌合後に熱処理を施すのは、図14の工程にてパイプ4a内に嵌合されたセグメント2,3間の密着性を高めることで一体的な動き(均一変形)を可能とし、伸線加工および圧延加工の工程においてフィラメントの乱れ(ソーセージング、ブリッジング)を防止するためである。ここで、ソーセージングとは、フィラメントが長手方向に厚みの厚い部分と薄い部分とが顕著に生じることであり、ブリッジングとはフィラメント同士が互いに接してショートすることである。
【0042】
本発明においては、フィラメントの乱れを防止することによってBi2223結晶の配向性が向上する。
【0043】
また、本発明の製造方法により得られる超電導線材はブリッジング頻度の低減した線材であるため、有効フィラメント径が半減することにより、交流損失が低減する。
【実施例】
【0044】
以下の実施例において、セグメントAの銀比(セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率)は体積比で0.5であり、セグメントBの銀比(セグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率)は体積比で0.9である。
【0045】
(実施例1)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数127本のセグメントを総スタック数7で中心より4スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図2)。なお、図2〜図10では、セグメントB(中心部)の径がセグメントA(周辺部)の径より小さく描かれているが、これは両者の銀パイプ部分は同程度の厚みであり、セグメントBのフィラメントがセグメントAよりも細いような場合を模式的に表している。
【0046】
(実施例2)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数61本のセグメントを総スタック数5で中心より3スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図3)。
【0047】
61本 → セグメントBは中心より3スタック以内すべてに適用
(実施例3)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数91本のセグメントを総スタック数6で中心より4スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図4)。
【0048】
(実施例4)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数169本のセグメントを総スタック数8で中心より5スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図5)。
【0049】
(実施例5)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数217本のセグメントを総スタック数9で中心より6スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図6)。
【0050】
(比較例1)
セグメントAのみを用いた従来技術の超電導線材である(図7)。
【0051】
(比較例2)
セグメントA、セグメントBをランダムに配置した超電導線材である(図8)。
【0052】
(比較例3)
上記N’よりも少ないスタック数の範囲にだけセグメントBを使用した超電導線材である(図9)。
【0053】
(比較例4)
上記N’よりも多いスタック数の範囲にセグメントBを使用した超電導線材である(図10)。
【0054】
上記実施例1〜5および比較例1〜4の超電導線材全体の体積に対する銀の体積比(総銀比)およびセグメント間のブリッジングの発生数(ブリッジング数)を表2に示す。なお、ブリッジングの発生数は断面観察によりカウントした。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、中心軸からのスタック数が上記N’以下の部分にセグメントBが配置されるように2種類のセグメント(セグメントA、B)が配置された実施例の超電導線材ではセグメント間のブリッジングが発生しないのに対して、上記の規則に反してセグメントA、Bを配置した比較例1〜4ではセグメントブリッジの発生が生じることが分かる。また、表には示していないが、比較例4の超伝導線材では超電導フィラメントの占める比率が少なくなるため、各実施例に比べて臨界電流が低下したものとなっている。
【0057】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によって得られる超電導線材の大きな応用製品分野はマグネット用途であり、磁気共鳴診断装置(MRI)や、たんぱく質の解析などに用いられる核磁気共鳴分析装置(NMR)、リニアモーターカーなど様々な分野において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施例1を示す図である。
【図3】本発明の実施例2を示す図である。
【図4】本発明の実施例3を示す図である。
【図5】本発明の実施例4を示す図である。
【図6】本発明の実施例5を示す図である。
【図7】本発明の比較例1を示す図である。
【図8】本発明の比較例2を示す図である。
【図9】本発明の比較例3を示す図である。
【図10】本発明の比較例4を示す図である。
【図11】本発明の一実施の形態における超電導線材の製造方法を示すフロー図である。
【図12】図11の工程を示す第1図である。
【図13】図11の工程を示す第2図である。
【図14】図11の工程を示す第3図である。
【図15】図11の工程を示す第4図である。
【図16】図11の工程を示す第5図である。
【図17】本発明の超電導線材の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 線材、1a パイプ(第1の金属管または第2の金属管)、1b 前駆体粉末、1c 超電導フィラメント、2 セグメントA(クラッド線)、3 セグメントB(クラッド線)、4 多芯線材、4a パイプ(第3の金属管)、5 延伸多芯線材、6 テープ状の多芯線材、6a 金属シース部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の製造方法に関するものである。特に、臨界電流密度を向上できる超電導線材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パウダーインチューブ法によりBi2223相などの酸化物超電導体を長尺のテープ状線材に形成する技術が知られている。この方法は、まず超電導相の前駆体粉末を銀製などの第1金属パイプに充填する。次に、この第1金属パイプを伸線加工してセグメント(クラッド線)とする。複数のセグメントを束ねて銀などの第2金属パイプに挿入し、伸線加工して多芯線材とする。この多芯線材を圧延加工してテープ状線材とする。テープ状線材に一次熱処理を施して目的の超電導相を生成させる。続いて、このテープ状線材を再度圧延してから二次熱処理を施して、超電導相の結晶粒同士を接合させる。これら2回の塑性加工と熱処理は、1回しか行わない場合もあるが、一般に大気雰囲気下にて行われる。そして、金属シース中に多数の超電導フィラメントが含まれるテープ状線材を得る。
【0003】
クラッド線を作製する際、超電導相の前駆体粉末は第1金属パイプに充填されている。そのため、セグメント(クラッド線)を第2金属パイプに挿入・伸線して多芯線を作製し、さらに圧延してテープ状線材とされた後も、理想的には、各フィラメントは互いに接することなく独立しているはずである。しかし、実際には圧延条件などにより、金属シース内において隣接するフィラメント同士が接するフィラメントブリッジが生じ、臨界電流密度(以下、Jcと略すことがある。)を向上させることができなかった。したがって、従来の超電導線材では、主に圧延により、隣接する超電導フィラメント同士がつながるフィラメントブリッジが生じ、Jcの向上の妨げとなっていた。
【0004】
そこで、フィラメントブリッジを抑制してJcを向上させることができる超電導線材の製造方法が検討されてきた。フィラメントのブリッジングは、フィラメント外周の金属が破断することで発生する。したがって金属外皮を厚くすれば破断応力が増加することからブリッジングを抑制できる。特許文献1にはセグメント径と銀比に着目した臨界電流密度を向上できる超電導線材の製造方法が開示されている。セグメントとは、超電導フィラメントの少なくとも1本と、当該超電導フィラメントを覆う金属被覆からなる超電導線材である。この方法によれば、銀比を高くすることによりブリッジングが低減され臨界電流密度は向上するものの、全フィラメントの金属被覆を厚くすれば、ブリッジングは抑制できるものの超電導電流を流せる超電導粉末部分(超電導フィラメント部)が少なくなるため、逆に臨界電流を低下させてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2003−331668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた超電導特性を有する超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。さらに、ブリッジングを撲滅し、臨界電流が向上かつ交流損失が低減する超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ブリッジングの起こりやすい部分のみに高金属比のセグメント(超電導フィラメントに他よりも厚い金属被覆を施したもの)を利用することで、超電導線材の横断面全体における金属被覆量の増加を必要最小限に抑えられ、フィラメントブリッジを防止しつつ、超電導フィラメントの割合の低下によるJcの低下を抑制できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、複数の超電導体フィラメントを内部に有する多芯構造の超電導線材の製造方法であって、
超電導体の前駆体粉末を第1の金属管および第2の金属管に充填する充填工程と、
前記前駆体粉末が充填された第1の金属管および第2の金属管を引き抜き加工し、それぞれ延伸された線材であるセグメントAおよびセグメントBを得る単芯伸線工程と、
第3の金属管内の中心部に複数本の前記セグメントAを配置し、第3の金属管内の周辺部に複数本の前記セグメントBを配置する多芯化工程と、
前記セグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管を引き抜き加工することにより超電導線材を得る多芯伸線工程とを含み、
セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材の製造方法である。
【0008】
また、本発明者らは、ブリッジングが発生しやすい部分に着目し、従来技術では断面の中心に近い部分でブリッジングが多く発生していることを解明した。引き抜き加工時には横断面中心に近いほど引っ張り応力が印可されることから前駆体粉末の粗密が発生しやすい。粗密が起こるとその部分への応力集中が起こり、外皮の破断応力を超過しやすい状況が起こり破断にいたることが原因と推定した。そこで、従来の超電導線材の製造履歴を詳細に調査し、ブリッジングの発生する箇所は超電導線材の中心からのスタック数がN’以下の範囲であることが判明したので、本発明においてはその部分のみに高金属比セグメントを使用することが好ましい。
【0009】
すなわち、本発明の製造方法における前記多芯化工程において、
前記中心部が第3の金属管内の中心軸からのスタック数がN’以下の部分であり、前記周辺部が該中心部の外側の第3の金属管内部であり、
前記N’は、前記第3の金属管内に配置されるセグメントAおよびBの総スタック数(S)が3の倍数の場合は式: N’=2S/3、
Sが3で割ると1余る数の場合は式: N’=(2S−2)/3、
Sが3で割ると2余る数の場合は式: N’=(2S−1)/3
で求められる数であることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記超電導体の前駆体粉末は、Bi−2212相を主相とする前駆体を含む粉末であることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記セグメントB中に含まれる前駆体粉末以外の金属(第2の金属管を構成する金属材料)の比率が、セグメントBの全体積に対する体積比で0.8以上であることが好ましい。一方、前記セグメントA中に含まれる前駆体粉末以外の金属(第1の金属管を構成する金属材料)の比率が、セグメントAの全体積に対する体積比で0.4以上0.8未満であることが好ましい。また、前記セグメントAおよびセグメントBの単芯伸線後におけるセグメント径は2mm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法によって得られる超電導線材においては、前駆体粉末以外の金属の体積比が前駆体粉末の体積に対して1.5未満であることが好ましい。通常、前駆体粉末以外の金属の体積は、前記第1の金属管、第2の金属管および第3の金属管の体積の合計である。
【0013】
また、本発明は上記のいずれかの製造方法によって製造される超電導線材にも関する。さらに、本発明は、超電導体を第1の金属管で被覆したセグメントAの複数本と、超電導体を第2の金属管で被覆したセグメントBの複数本とが、第3の金属管内に配置された多芯構造の超電導線材であって、中心部にセグメントAが配置され、周辺部にセグメントBが配置されており、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超電導線材の製造方法においては、ブリッジングの起こりやすい部分のみに高金属比セグメントを利用することで、超電導線材の横断面全体における金属被覆量の増加を必要最小限に抑えられるため、フィラメントブリッジを防止しつつ、超電導フィラメントの割合の低下によるJcの低下を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の超電導線材の製造方法において、超電導体の前駆体粉末としては、Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOからなる群から選択される1以上の化合物を含む前駆体粉末を用いることが好ましく、5種類の前駆体粉末(Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuO)を混合して用いることが特に好ましい。
【0016】
前記第1の金属管とは、超電導体フィラメント間の短絡を防止できる材料からなる金属管であり、第1の金属管の材料としては、Ag、Cu、Fe、Ni、Cr、Ti、Mo、W、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osより選択される金属またはこれらの金属をベースとする合金が好ましい。特に、酸化物超電導体との反応性や加工性からAgまたはAg合金が好ましい。第2の金属管、第3の金属管についても同様の材料を用いることができる。
【0017】
このような第1の金属管および第2の金属管に前記前駆体粉末を充填して得られる線材を各々引き抜き加工し延伸したものが、セグメントAおよびセグメントBである。ここで、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高くなるように、第1の金属管、第2の金属管の内径および外径などが調整されている。例えば、第1の金属管と第2の金属管の内径を同程度とする場合には、第2の金属管として第1の金属管の外径よりも外径が大きい管が使用され、第1の金属管と第2の金属管の外径を同程度とする場合には、第2の金属管として第1の金属管の内径よりも内径が小さい管が使用される。
【0018】
前記セグメントAおよびセグメントBの単芯伸線後におけるセグメント径は2mm以上であることが好ましい。ここで、セグメント径とは、セグメントの断面の最大幅を意味し、具体的には、セグメントの断面が円の場合はその直径であり、断面が六角形等の多角形である場合はその対辺の長さである。セグメント径が2mm以下では粉末部(フィラメント部)の偏芯やセグメント割れが発生しやくすくなる。
【0019】
本発明では、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率が体積比で0.4以上であることが好ましい。0.4未満では、上記N’より外側のスタックでブリッジングが発生しやすくなる。また、セグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率は、体積比で0.8以上であることが好ましい。0.8未満では、上記N’より中心軸側のスタックでブリッジングが発生しやすくなる。
【0020】
第3の金属管内の中心部とは、金属管の中心軸を含み管の長手方向に連続する部分であり、例えば、金属管の中心軸を含む六角柱状、円柱形状などの領域である。該中心部に複数本の上記セグメントAが配置される。
【0021】
第3の金属管内の周辺部とは、上記中心部以外の第3の金属管内部であり、中心部を覆う管の長手方向に連続する部分であり、好ましくは中心部を覆う管状の部分である。該周辺部に複数本の上記セグメントBが配置される。
【0022】
本発明の製造方法の単芯延伸工程においては、上記第1の金属管および第2の金属管の断面が丸形状ないし六角形状となるように成型されることが好ましい。上記単芯延伸工程を経たセグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管に、さらに引き抜き加工等の必要な処理を施すことにより本発明の超電導線材が得られる。
【0023】
本発明においては、多芯伸線工程後の超電導線材に含まれる前駆体粉末以外の金属の体積比が前駆体粉末の体積に対して1.5未満であることが好ましい。1.5以上となれば、超電導電流が流れる超電導部分が低減するため、臨界電流が低下するため望ましくない。本発明において、「前駆体粉末の体積」との用語は、粉末自体の体積と粉末の間の空間部の体積とを合わせた体積を意味し、言い換えれば粉末部分の容積を意味する。
【0024】
本発明の超電導線材の1本中に含まれるセグメントの総数(セグメントAおよびセグメントBの合計本数)は特に限定されるものではないが、37本以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法においては、上記多芯化工程において、上記中心部が第3の金属管内の中心軸からスタック数(中心軸を含むセグメントの積み重ね数)が上記N’以下の部分であり、前記周辺部が該中心部の外側の第3の金属管内部であることが好ましい。ここで、中心軸からスタック数がN’以下の部分とは、スタック数がN’となる外縁のセグメントを含むその内側部分であり、その部分の全部または一部を意味するが、実質的に全部の部分であることがブリッジング頻度の低減効果の点でより好ましい。また、中心部がその一部であるときは、あまり中心部の範囲が狭くなるとブリッジング頻度の低減効果が得られなくなるため一定範囲以上の部分を中心部とすることが好ましい。
【0026】
本発明の一例として、1本の超電導線材に含まれるセグメントの総数(N)が85本、総スタック数(S)が6の場合のN’の求め方、および、セグメントAおよびBの本数の決め方を図1を参照しながら説明する。まず、Sは6なのでN’=2S/3が適用される。Sに6を代入すると、N’=4となる。
【0027】
次に、中心より4スタック以内にセグメントB(図1中の2)を適用するとして、六角柱状のセグメントを配置(嵌合)させる場合は、図1に示すようにセグメントBの本数は37本となる。セグメントAの本数は、残りのセグメントの本数であり、85−37=48本である。
【0028】
上記のようにして決定されるセグメントの総数(N)および総スタック数(S)と、中心部のスタック数の割り振りは表1のようになる。
【0029】
【表1】
【0030】
以下、本発明の超電導線材の製造方法について図に基づいて説明する。図11は、本発明の一実施の形態における超電導線材の製造方法を示すフロー図である。また、図12〜図17は図1の各工程を示す図である。
【0031】
図11を参照して、たとえばBi−2223の高温超電導線材を製造する場合、パウダー・イン・チューブ法が用いられる。ここで、Bi−2223とは、Bi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成を有し、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるものである。
【0032】
まず、たとえば5種類の前駆体粉末(Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuO)が混合され、熱処理による反応で最終目的の超電導体であるBi−2223相に変化する中間状態の前駆体粉末が作製される(ステップS1)。図12に示すように、この前駆体粉末1aがパイプ(金属管)1a内に充填される(ステップS2)。このパイプ1aは、たとえば銀などの金属よりなり、外径がΦ20〜40mmで、肉圧が外径の3〜15%程度のものである。これにより、超電導体の前駆体粉末1aをパイプ1aで被覆した形態の線材1が得られる。この後、パイプ1a内の脱気が行われ、パイプ1aの両端が密封される。
【0033】
次に、図13に示すように、上記線材1を伸線加工することにより、超伝導体前駆体を芯材として銀などの金属で被覆されたセグメント(クラッド線)2,3が形成される(ステップS3)。このセグメント2,3は、たとえばΦ2〜4mmの6角形状とされる。セグメント2が上記セグメントA、セグメント3が上記セグメントBを示す。
【0034】
次に、図14に示すように、このセグメント2,3が多数束ねられて、パイプ4a内に配置(嵌合)される(多芯嵌合:ステップS4)。このパイプ4aは、たとえば銀またはその合金などの金属よりなり、外径がΦ20〜40mmで、肉圧が外径の3〜15%程度のものである。これにより、超電導体前駆体を芯材として多数有する多芯構造の多芯線材4が得られる。ここで、セグメント2(セグメントB)がパイプ4aの中心軸側に配置され、セグメント3(セグメントA)はセグメントBの周辺部に配置される。
【0035】
次に、図15に示すように、多数の前駆体1bの芯材が金属に被覆されてなる多芯線材4を伸線加工することによって、超電導体前駆体のフィラメントがたとえば銀などの金属に埋め込まれた延伸多芯線材5が形成される(ステップS5)。
【0036】
次に、延伸多芯線材5に熱間等静圧圧縮成形(HIP:Hot Isostatic Pressing)が施される(ステップS6)。熱間等静圧圧縮成形は、200℃以上500℃以下の温度および100気圧以上2000気圧以下の圧力の条件下で行われることが好ましい。熱間等静圧圧縮成形を行う装置としては、例えば、圧力容器円筒と、その圧力容器円筒の両端を密閉する上蓋および下蓋と、圧力容器円筒中にガスを導入するために上蓋5に設けられたガス導入口と、処理品(多芯線材)を加熱するヒータと、断熱層と、処理品を支える支持具とにより構成される装置が挙げられる。
【0037】
この後、延伸多芯線材5がさらに伸線加工されることによって、Φ1〜3mmまで縮径される(ステップS7)。
【0038】
次に、図16に示すように延伸多芯線材5に1次圧延加工が施され、それによりテープ状の多芯線材6が得られる(ステップS8)。この1次圧延加工は、たとえば圧下率80〜90%の条件で行われる。この後、テープ状の多芯線材6を830〜850℃の温度まで加熱して、その温度で50〜150時間保持することにより、テープ状の多芯線材6に1次焼結が施される(ステップS9)。
【0039】
さらに、テープ状の多芯線材6に2次圧延加工が施される(ステップS10)。この2次圧延加工は、たとえば圧下率0〜20%の条件で行われる。この後、多芯線材1を830〜850℃の温度まで加熱して、その温度で50〜150時間保持することにより、多芯線材6に2次焼結が施される(ステップS11)。これにより、Bi−2223の高温超電導線材が製造される。
【0040】
次に、上記の方法により形成された超電導線材の構成について説明する。
図17は、本発明の一実施形態における超電導線材の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。図17を参照して、上記方法により製造される多芯構造の超電導線材6は、長手方向に延びる複数本の(酸化物)超電導体フィラメント1cと、それらを被覆する金属シース部6aとを有している。複数本の超電導体フィラメント1cの各々の材質は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成が好ましく、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を含む材質が最適である。金属シース部6aの材質は、たとえば銀および/または銀合金よりなっている。
【0041】
多芯嵌合後に熱処理を施すのは、図14の工程にてパイプ4a内に嵌合されたセグメント2,3間の密着性を高めることで一体的な動き(均一変形)を可能とし、伸線加工および圧延加工の工程においてフィラメントの乱れ(ソーセージング、ブリッジング)を防止するためである。ここで、ソーセージングとは、フィラメントが長手方向に厚みの厚い部分と薄い部分とが顕著に生じることであり、ブリッジングとはフィラメント同士が互いに接してショートすることである。
【0042】
本発明においては、フィラメントの乱れを防止することによってBi2223結晶の配向性が向上する。
【0043】
また、本発明の製造方法により得られる超電導線材はブリッジング頻度の低減した線材であるため、有効フィラメント径が半減することにより、交流損失が低減する。
【実施例】
【0044】
以下の実施例において、セグメントAの銀比(セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率)は体積比で0.5であり、セグメントBの銀比(セグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率)は体積比で0.9である。
【0045】
(実施例1)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数127本のセグメントを総スタック数7で中心より4スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図2)。なお、図2〜図10では、セグメントB(中心部)の径がセグメントA(周辺部)の径より小さく描かれているが、これは両者の銀パイプ部分は同程度の厚みであり、セグメントBのフィラメントがセグメントAよりも細いような場合を模式的に表している。
【0046】
(実施例2)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数61本のセグメントを総スタック数5で中心より3スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図3)。
【0047】
61本 → セグメントBは中心より3スタック以内すべてに適用
(実施例3)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数91本のセグメントを総スタック数6で中心より4スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図4)。
【0048】
(実施例4)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数169本のセグメントを総スタック数8で中心より5スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図5)。
【0049】
(実施例5)
上記N’を求める式に基づく規則に則して、総数217本のセグメントを総スタック数9で中心より6スタック以内がすべてセグメントBとなるように配置した(図6)。
【0050】
(比較例1)
セグメントAのみを用いた従来技術の超電導線材である(図7)。
【0051】
(比較例2)
セグメントA、セグメントBをランダムに配置した超電導線材である(図8)。
【0052】
(比較例3)
上記N’よりも少ないスタック数の範囲にだけセグメントBを使用した超電導線材である(図9)。
【0053】
(比較例4)
上記N’よりも多いスタック数の範囲にセグメントBを使用した超電導線材である(図10)。
【0054】
上記実施例1〜5および比較例1〜4の超電導線材全体の体積に対する銀の体積比(総銀比)およびセグメント間のブリッジングの発生数(ブリッジング数)を表2に示す。なお、ブリッジングの発生数は断面観察によりカウントした。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、中心軸からのスタック数が上記N’以下の部分にセグメントBが配置されるように2種類のセグメント(セグメントA、B)が配置された実施例の超電導線材ではセグメント間のブリッジングが発生しないのに対して、上記の規則に反してセグメントA、Bを配置した比較例1〜4ではセグメントブリッジの発生が生じることが分かる。また、表には示していないが、比較例4の超伝導線材では超電導フィラメントの占める比率が少なくなるため、各実施例に比べて臨界電流が低下したものとなっている。
【0057】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によって得られる超電導線材の大きな応用製品分野はマグネット用途であり、磁気共鳴診断装置(MRI)や、たんぱく質の解析などに用いられる核磁気共鳴分析装置(NMR)、リニアモーターカーなど様々な分野において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施例1を示す図である。
【図3】本発明の実施例2を示す図である。
【図4】本発明の実施例3を示す図である。
【図5】本発明の実施例4を示す図である。
【図6】本発明の実施例5を示す図である。
【図7】本発明の比較例1を示す図である。
【図8】本発明の比較例2を示す図である。
【図9】本発明の比較例3を示す図である。
【図10】本発明の比較例4を示す図である。
【図11】本発明の一実施の形態における超電導線材の製造方法を示すフロー図である。
【図12】図11の工程を示す第1図である。
【図13】図11の工程を示す第2図である。
【図14】図11の工程を示す第3図である。
【図15】図11の工程を示す第4図である。
【図16】図11の工程を示す第5図である。
【図17】本発明の超電導線材の構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 線材、1a パイプ(第1の金属管または第2の金属管)、1b 前駆体粉末、1c 超電導フィラメント、2 セグメントA(クラッド線)、3 セグメントB(クラッド線)、4 多芯線材、4a パイプ(第3の金属管)、5 延伸多芯線材、6 テープ状の多芯線材、6a 金属シース部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超電導体フィラメントを内部に有する多芯構造の超電導線材の製造方法であって、
超電導体の前駆体粉末を第1の金属管および第2の金属管に充填する充填工程と、
前記前駆体粉末が充填された第1の金属管および第2の金属管を引き抜き加工し、それぞれ延伸された線材であるセグメントAおよびセグメントBを得る単芯伸線工程と、
第3の金属管内の中心部に複数本の前記セグメントAを配置し、第3の金属管内の周辺部に複数本の前記セグメントBを配置する多芯化工程と、
前記セグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管を引き抜き加工することにより超電導線材を得る多芯伸線工程とを含み、
セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記多芯化工程において、
前記中心部が第3の金属管内の中心軸からのスタック数がN’以下の部分であり、前記周辺部が該中心部の外側の第3の金属管内部であり、
前記N’は、前記第3の金属管内に配置されるセグメントAおよびBの総スタック数(S)が3の倍数の場合は式: N’=2S/3、
Sが3で割ると1余る数の場合は式: N’=(2S−2)/3、
Sが3で割ると2余る数の場合は式: N’=(2S−1)/3
で求められる数である、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記超伝導体の前駆体粉末が、Bi−2212相を主相とする前駆体を含む粉末である、請求項1または2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記セグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が、体積比で0.8以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率が、体積比で0.4以上0.8未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記セグメントAおよびセグメントBの単芯伸線工程後におけるセグメント径が2mm以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記超電導線材に含まれる前駆体粉末以外の金属の体積比が前駆体粉末の体積に対して1.5未満である、請求項1〜6のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造される、超電導線材。
【請求項9】
超電導体を第1の金属管で被覆したセグメントAの複数本と、超電導体を第2の金属管で被覆したセグメントBの複数本とが、第3の金属管内に配置された多芯構造の超電導線材であって、中心部にセグメントAが配置され、周辺部にセグメントB配置されており、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材。
【請求項1】
複数の超電導体フィラメントを内部に有する多芯構造の超電導線材の製造方法であって、
超電導体の前駆体粉末を第1の金属管および第2の金属管に充填する充填工程と、
前記前駆体粉末が充填された第1の金属管および第2の金属管を引き抜き加工し、それぞれ延伸された線材であるセグメントAおよびセグメントBを得る単芯伸線工程と、
第3の金属管内の中心部に複数本の前記セグメントAを配置し、第3の金属管内の周辺部に複数本の前記セグメントBを配置する多芯化工程と、
前記セグメントAおよびセグメントBが内部に配置された第3の金属管を引き抜き加工することにより超電導線材を得る多芯伸線工程とを含み、
セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記多芯化工程において、
前記中心部が第3の金属管内の中心軸からのスタック数がN’以下の部分であり、前記周辺部が該中心部の外側の第3の金属管内部であり、
前記N’は、前記第3の金属管内に配置されるセグメントAおよびBの総スタック数(S)が3の倍数の場合は式: N’=2S/3、
Sが3で割ると1余る数の場合は式: N’=(2S−2)/3、
Sが3で割ると2余る数の場合は式: N’=(2S−1)/3
で求められる数である、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記超伝導体の前駆体粉末が、Bi−2212相を主相とする前駆体を含む粉末である、請求項1または2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記セグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が、体積比で0.8以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率が、体積比で0.4以上0.8未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記セグメントAおよびセグメントBの単芯伸線工程後におけるセグメント径が2mm以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記超電導線材に含まれる前駆体粉末以外の金属の体積比が前駆体粉末の体積に対して1.5未満である、請求項1〜6のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造される、超電導線材。
【請求項9】
超電導体を第1の金属管で被覆したセグメントAの複数本と、超電導体を第2の金属管で被覆したセグメントBの複数本とが、第3の金属管内に配置された多芯構造の超電導線材であって、中心部にセグメントAが配置され、周辺部にセグメントB配置されており、セグメントAに占める第1の金属管を構成する金属材料の比率よりもセグメントBに占める第2の金属管を構成する金属材料の比率が高いことを特徴とする超電導線材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図17】
【公開番号】特開2010−135173(P2010−135173A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309728(P2008−309728)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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