超電導線材
【課題】MgとBとの反応における不均一を抑制し、線材の長尺化が可能で、超電導性能が高いMgB2超電導線材を提供する。
【解決手段】二ホウ化マグネシウムを含む超電導コア部と、この超電導コア部を覆う安定化層とを含む超電導線材であって、前記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウム粉末の焼結領域である外周部と、マグネシウム粉末及びホウ素粉末を混合して反応させた反応領域である中心部とを有する。
【解決手段】二ホウ化マグネシウムを含む超電導コア部と、この超電導コア部を覆う安定化層とを含む超電導線材であって、前記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウム粉末の焼結領域である外周部と、マグネシウム粉末及びホウ素粉末を混合して反応させた反応領域である中心部とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二ホウ化マグネシウム(MgB2)超電導線材は、MgB2粉末又はマグネシウム(Mg)粉末とホウ素(B)粉末との混合粉末、さらには、それらに炭化ケイ素(SiC)などの第三元素を添加した混合粉末を金属シース管に充填し、線引き加工することで作製している。そのため、金属シースには加工性の高い金属が選択され、長尺線化しやすいような線材断面設計がされている。一方、この線材を高性能化するためには、MgB2の単相化を図ること、MgB2に金属粉末を添加して結晶粒同士の接合性を向上すること、MgB2を高圧下で合成することなど、MgB2同士を高純度で結合させることが重要である。
【0003】
これらを両立させるため、ドローベンチなどの線引き加工装置を用いて、加工条件を最適化することで、MgB2超電導線材を作製している。これらは特許文献1及び2に記載されている。
【0004】
特許文献1には、ホウ素を含む超電導体を充填又は内包してなる超電導線材において、磁場中においても実用的な臨界電流密度を有する超電導線材とその製造方法、及びそれを用いた超電導マグネットを提供することを目的として、当該超電導体の外周に金、銀、アルミニウム、銅、鉄等から選ばれた単独の金属或いはそれらの複数から成る合金の金属被覆材が配置され、最終加工後の該超電導体の密度が理論密度の80%以上であり、かつ該超電導線材の臨界温度が30K以上であることを特徴とする超電導線材が開示されている。
【0005】
特許文献2には、高臨界電流密度化、高安定化、高強度化、長尺化を同時に達成できるMgB2超電導線材とその製造方法を提供することを目的として、室温でのビッカース硬さが50以上で、かつ、1つあるいは複数の孔を設けた金属母材中に、室温での比電気抵抗が7μΩcm以下の金属で被覆した単芯線又は多芯線を組み込むことを特徴とする複合シースMgB2超電導線材が開示されている。
【0006】
一般的に、高い超電導特性を有するMgB2超電導線材を製造方法の公知技術としては、次のものがある。
【0007】
(1)減面加工率を向上させる。
【0008】
(2)粉末の初期充填率を向上させる。
【0009】
(3)第三元素を添加したMgB2コア部とする。
【0010】
(4)超電導コア部を大きくする。
【0011】
これらは、線引き加工によって長尺化すると同時に、MgB2コア部を大面積・高密度化させることで、高性能で、かつ長尺化したMgB2超電導線材を得るとしている。
【0012】
しかしながら、現状、これらの方法では十分な性能を有する高性能なMgB2超電導線材が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−373534号公報
【特許文献2】特開2004−319107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
Mg粉末とB粉末との混合粉末を用いてMgB2超電導線材を作製する場合、銅(Cu)等で形成された金属シース(外側金属管)にMg粉末とB粉末との混合粉末を充填し、熱処理を行ってMgとBとを反応させる際、Mgが拡散して金属シースを構成するCu等と結合し、MgとBとの反応において不均一が生じる。このため、MgB2超電導線材の超電導性能が低下してしまうという問題がある。
【0015】
本発明の目的は、MgとBとの反応における不均一を抑制し、線材の長尺化が可能で、超電導性能が高いMgB2超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の超電導線材は、二ホウ化マグネシウムを含む超電導コア部と、この超電導コア部を覆う安定化層とを含む超電導線材であって、前記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウム粉末の焼結領域である外周部と、マグネシウム粉末及びホウ素粉末を混合して反応させた反応領域である中心部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、MgとBとの反応における不均一を抑制し、線材の長尺化が可能で、超電導性能が高いMgB2超電導線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のMgB2超電導線材の断面図である。
【図2】従来のMgB2超電導線材の断面図である。
【図3】本発明による実施例1を示すMgB2超電導線材の断面図である。
【図4】本発明による実施例のMgB2超電導線材の超電導特性を示すグラフである。
【図5】本発明による実施例のMgB2超電導線材のX線回折装置によって測定した材料特性を示すグラフである。
【図6】本発明による実施例2を示すMgB2超電導線材の断面図である。
【図7】本発明による実施例3を示すMgB2超電導線材の断面図である。
【図8】本発明のMgB2超電導線材の断面を示す拡大写真及び模式図である。
【図9A】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9B】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9C】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9D】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9E】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9F】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9G】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9H】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9I】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は二ホウ化マグネシウム(以下、MgB2と略す)超電導線材に関するものである。具体的には、電流リード、送電ケーブル、大型マグネット、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引き上げ装置、冷凍機冷却超電導マグネット装置、超電導エネルギー貯蔵、超電導発電機、核融合炉用マグネット等の機器において適用される。
【0020】
本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム及びホウ素の混合体の中心部とを有する前駆体を含み、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素との反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向に焼結領域及び反応領域の2層を形成し、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と、二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム及びホウ素の混合体で、マグネシウムとホウ素との比率の異なる2層以上の中心部とを有する前駆体で構成され、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素との反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向に、焼結領域及び反応領域に分かれ、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と、二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム、ホウ素及び炭化物の混合体の中心部を有する前駆体とを含み、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素とを反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向、焼結領域及び反応領域に分かれており、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と、二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム、ホウ素及び炭化物の混合体で、マグネシウムとホウ素との比率の異なる2層以上の中心部とを有する前駆体で構成され、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素とを反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向に、焼結領域及び反応領域に分かれ、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材であって、この二ホウ化マグネシウム超電導線材を複数本束ねて形成したことを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、安定化層がCu、Al、Ag、Au及びNi並びにそれらの合金を含むことを特徴とする。さらに、安定化層は、Cu、Al、Ag、Au及びNi並びにそれらの合金を主成分として含むことが望ましい。
【0026】
以下に、図を用いて、従来例と比較しながら、本発明による実施例を説明する。
【0027】
これに先立って、比較例として、従来方法で作製した二ホウ化マグネシウム超電導線材(以下、MgB2超電導線材又は単に超電導線材と呼ぶ)について説明する。
【0028】
(比較例1)
まず、Cu等で形成された外側金属管とMgとの反応を防止するためのバリア層として内側金属管を用いる場合を示す。
【0029】
図1に作製したMgB2超電導線材の断面構造を示す。MgB2超電導線材1は、外側金属管2、内側金属管3及びMgB2コア部4(超電導コア部)で構成されている。この場合、外側金属管2が銅管(Cu管)であり、内側金属管3がニオブ管(Nb管)である。内側金属管3にボールミル混合したMg粉末及びB粉末をArガス中で充填し、その外側に外側金属管2を被せ、ドローベンチによる線引き加工を実施した。線材の径はφ0.8mmである。この製造方法は、ドローベンチなどにより金属シース全体を均一に減面加工することで長尺線材化(長尺の線材を形成)しながら、MgB2コア部を高密度化する製法である。
【0030】
しかしながら、この製造方法では、MgB2超電導線材の超電導性能が安定せず、長尺方向での均一性を維持することができなかった。また、3本作製したところ、1本は途中で断線し、線引き不可能となった。この状態で、超電導コイルを作製した場合、長尺線材中の最も低い特性をもつ場所でコイル特性が決定されるため、特性が低い超電導コイルとなる。
【0031】
この要因としては、粉末の充填密度や充填状態の影響で、線引き加工によって減面化(細線化)されたMgB2コア部の密度が不均一となったことが考えられる。この状態で熱処理をすると、MgとBとの反応効率にも不均一が生じ、MgB2超電導線材の超電導性能も不均一となる。
【0032】
また、この影響をさらに小さくするために線径を細くすることを検討しても、不均一性を出している線材の径がφ0.8mmであり、これ以上の細線化は、線材の作製中の断線率が急激に増大するため適用困難である。さらに、線材を細線化できたとしても、超電導コイルを作製する際、占積率も低下するため、より長尺なMgB2超電導線材が必要となる。
【0033】
以上のことから、従来方法で作製する場合は、長尺で高性能なMgB2超電導線材を作製できない。
【0034】
他の高性能MgB2超電導線材の製造方法としては、以下の方法もある。
【0035】
(比較例2)
つぎに、初期の粉末充填量を高める場合について示す。
【0036】
MgB2超電導線材の断面構造は従来方法1と同様である。この製造方法では、Arフロー中で金属シースに充填するMgB2粉末、又はMg粉末及びB粉末の充填量を増加させることで、MgB2コア部を高密度化させる。
【0037】
この比較例における初期粉末充填率は約50%である。しかし、これ以上の充填率向上は困難であった。これは充填する粉末が微細であるため、流動性が低下し、充填時にかさ張り、緻密化しにくい。また、ガス成分を同時に巻き込むため、更に充填が困難となる。
【0038】
さらに、充填できたと仮定しても、緻密に充填されているため、線引き加工時に必要な粉末の流動性が確保できないため、線引き途中で断線する確率が非常に高い。
【0039】
したがって、この比較例の場合、使用可能なMgB2超電導線材を作製することが困難である。
【0040】
MgB2超電導線材の超電導特性を向上させるためには、MgB2コア部に緻密で、かつ流動性の高いMgB2層を形成させる必要がある。また、それらを長手方向に均一化させる必要がある。
【0041】
(比較例3)
この比較例は、超電導コア部を増加させたMgB2超電導線材の製造方法である。
【0042】
図2に作製したMgB2超電導線材の断面構造を示す。MgB2超電導線材11は、外側金属管2、MgB2コア部4から形成された構造である。この比較例においては、外側金属管2が銅管(Cu管)である。外側金属管2にMgB2粉末をArガス中で充填し、ドローベンチによる線引き加工を実施した。線材の径はφ0.8mmである。この製造方法により得られたMgB2超電導線材11は、超電導性能が安定し、長尺方向での均一性を有することがわかった。
【0043】
また、Mgを用いないため、バリア層の働きをする内側金属管を用いる必要がなく、外側金属管2が一重であるため、MgB2超電導線材11に占める超電導コア部4の面積は、比較例1と比較して大きくすることができた。
【0044】
しかし、超電導性能が非常に低く、比較例1の20%以下という結果となった。これは、充填したMgB2粉末の表面に酸化物(酸化マグネシウム(MgO))が付着していたため、超電導の電流パス(電流流路)が減少したと考える。
【0045】
比較例1〜3の結果から、高性能なMgB2超電導線材の作製が困難となる要因として以下の2点が挙げられる。
【0046】
(1)超電導特性の高いMg粉末及びB粉末の混合粉末をCu等の外側金属管に充填すると、Mg粉末が外側金属管と反応してしまう。そこで、外側金属管とMg粉末及びB粉末の混合粉末との間にバリア層として内側金属管を設ける対策が採られるが、この場合、超電導コア部の面積が低減し、MgB2超電導線材の特性向上を阻害する。
【0047】
(2)熱処理を必要としないMgB2粉末を適用すると、コア面積は大きくなる。しかし、粉末表面の初期の酸化層が影響し、MgB2線材の特性向上を阻害する。
【0048】
以上の要因を検討し、これらの問題を解決するための手段として、本発明を見出した。
【0049】
MgとBとの反応における不均一を抑制し、線材の長尺化が可能で、超電導性能が高いMgB2超電導線材を提供するためには、超電導コア部を大きくするとともに、超電導コア部の成分が、特に製造工程において外側金属管と反応しないようにする必要がある。
【0050】
本発明においては、MgB2コア部を外側のMgB2層と内側のMg及びBの混合粉末層(混合粉末充填部とも呼ぶ)とで構成することにより、ドローベンチによる減面加工及び生成熱処理を施した後の、MgB2コア部の面積を大きくするとともに、充填率を高くすることができる。これにより、高密度かつ高性能のMgB2超電導線材を製造することができる。
【0051】
図8は、本発明のMgB2超電導線材の断面を示す拡大写真及び模式図である。図8の右図が拡大写真であり、図8の左図が模式図である。
【0052】
本図において、MgB2超電導線材は、外側からシース材82、外側コア部83及び内側コア部84で構成されている。
【0053】
図9A〜9Iは、MgB2線材の製造工程の例を示す図である。
【0054】
各図における工程は次の通りである。
【0055】
銅製の管(シース材92、外径7.4mm、内径4.2mm(先端部に直径2.5mmの凹部を有する。))を用意し(図9A:シース材用の銅管(Cu tube for sheath material))、銅管の中央部に炭化タングステン(WC)の棒96(直径2.5mm)を差し込んで、銅管との隙間に二ホウ化マグネシウム粉末101を入れる(図9B:外側コア部の充填工程(Filling process for outer Ex−situ core))。炭化タングステンの棒96を入れたまま、その周囲に銅管よりも径の小さい炭化タングステンの管97(外径4.2mm、内径2.5mm)を差し込み、0.3GPaで押し込む。この場合、0.1〜2.0GPaでも同様の効果が得られる(図9C:外側コア部の加圧工程(Pressing the outer core))。その後、炭化タングステンの棒96及び管97の両方を引き抜き、二ホウ化マグネシウム粉末の外周部93を作製する(図9D:棒及び管の除去工程(Removal of center pole))。
【0056】
さらに、中央の開口部にマグネシウム102及びホウ素103を1:2の割合で混合した粉末を入れ(図9E:内側コア部の充填工程(Filling process for inner in−situ core))、炭化タングステンの棒を押し込み加圧して(図9F:内側コア部の加圧工程(Pressing the inner core))、マグネシウム102及びホウ素103の混合粉末94の周囲に二ホウ化マグネシウム粉末部93及び銅管92を配置した構成とし、粉末を充填した金属管を作製する(図9G:多層コア前駆体(Double core precursor))。この場合、0.1〜2.0GPaでも同様の効果が得られる。また、充填量は、銅管内への充填密度が理論密度の20〜70%になるようにする。
【0057】
金属管を線引き加工し(図9H:延伸工程(Drawing))、500℃〜900℃で熱処理してMgB2線材を作製する(図9I:焼結工程(Sintering))。なお、延伸工程及び焼結工程を併せてPIT工程(PIT process)と呼ぶ。
【0058】
以下、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0059】
図3は、本発明により作製したMgB2超電導線材の断面構造を示す。本図において、MgB2超電導線材21は、外側金属管22(安定化層と呼ぶ)、外側超電導層23(焼結領域、外周層又は外周部と呼ぶ)及び内側混合粉末充填部24(反応領域又は中央部と呼ぶ)から形成されている。ここで、外側超電導層23及び内側混合粉末充填部24を併せて超電導コア部25と呼ぶ。
【0060】
最初に、市販されているMgB2粉末を管状に成形し、MgB2管を作製した。これが外側超電導層23となる。つぎに、市販されているMg粉末及びB粉末をArガス中又は真空中においてボールミルポットに化学量論組成で充填し、ボールミル混合した。つぎに、MgB2管をCu管(外側金属管22)に挿入した後、ボールミル混合したMg及びBの混合粉末をMgB2管に充填し、管全体を封止した。
【0061】
そして、その封止した管の両端をスゥェジャーで封止・細線化した後、ドローベンチによる線引き加工を行い、最後に、熱処理を施した。
【0062】
本発明は、MgB2超電導線材の高性能化を阻害する従来の要因をすべてカバーしている。これは、MgB2粉末で作製した成形管を適用することで、この成形管を超電導コア部の一部とし、かつ、Mgと外側金属管との反応を阻害するバリア層として機能させることができる。
【0063】
また、Mg及びBの混合粉末とMgB2成形管の界面は、Mg、Bおよび反応で生成したMgB2で構成されるため、従来例と比べて高い超電導特性を得ることができる。
【0064】
以上をまとめると、本発明のMgB2超電導線材は、外側金属管内にMgB2成形管を入れ、その中にMg及びBの混合粉末を充填し、熱処理することで、高い超電導特性を付加させることができる。
【0065】
以下に、その製造プロセスを示す。
【0066】
本実施例におけるMgB2超電導線材の、それぞれの管の初期寸法は以下の通りである。
【0067】
外側金属管(Cu管):外径18mm、内径16mm、長さ100mm
MgB2成形体(MgB2成形管):外径15mm、内径11mm、長さ100mm
まず、市販されているMgB2粉末を用いて、上記寸法に成形加圧した。
【0068】
つぎに、市販されているMg粉末及びB粉末をモル比で1:2の割合になるように混合し、真空混合用ポットに入れた。そして、真空封止した後、ボールミル装置で粉末を混合させた。その際、真空度は、1.0×10−4torrであった。
【0069】
つぎに、Cu管に挿入したMgB2成形管にMg及びBの混合粉末を真空グローブボックス内で充填した。
【0070】
つぎに、Cu管の両端にCu棒を挿入し、Cuの両端をAgろう付け(銀ろう付け)することで、管内部を真空に保持した充填金属管を作製した。
【0071】
なお、この際、以下の方法でも同様又はそれ以上の効果が得られる。
【0072】
1)Cu棒は入れなくてもよいが、入れた方がより優れた真空封止管を作製できる。
【0073】
2)Cu管側ではなく、MgB2成形管側にろう付けをしてもよいが、ろう付け温度が低いCu管の方がMgB2線材の特性上、優れている。
【0074】
3)MgB2成形管は加圧成形で作製してもよいが、冷間等方圧加圧法(Cold Isostatic Pressing、CIP)などで作製してもよい。また、高さの短い成形品を積み上げる方法でもよい(例えば、本実施例では、長さ50mm×2個、10mm×10個など)。
【0075】
4)Mg及びBの混合粉末を充填する際、加圧成形した成形品を挿入してもよい。また、成形管と同様に、高さの短い成形品を積み上げる方法でもよい。
【0076】
5)使用したMg粉末は、MgH2やMgCuなどのMg合金でも同様の効果が得られる。
【0077】
6)熱処理温度は500〜900℃までで、雰囲気はAr、N2などの不活性ガス中、又は真空中で同様の効果が得られるが、特性上は600〜650℃が最も優れている。
【0078】
それを真空封止したグローブボックスから取り出し後、その両端をスゥェジャーで加工し、真空封止をより強化させた。そして、ドローベンチにより線引き加工を実施し、全体径がφ1.0mmまで細線化した。この際、スゥェジャー加工を行わずに、線引き加工を実施してもよい。そして、最後に630℃×1hr、Ar中で熱処理を施した。
【0079】
このMgB2超電導線材を用いて臨界電流の測定を行った。測定は、一般的な直流四端子法を用いて、試料全体を液体ヘリウム中に浸漬して行った。
【0080】
図4にその結果を示す。横軸に磁場、縦軸に臨界電流密度をとっている。
【0081】
本図から、本実施例のデータは、従来例のデータの延長線上に、より高い磁場の領域で得られていることがわかる。よって、本実施例のMgB2超電導線材は、磁場依存性を示す超電導線材であることがわかった。また、従来例のMgB2超電導線材より優れた特性であることがわかった。また、本実施例のMgB2超電導線材を金属ボビンに無誘導巻し、長尺線材を用いて臨界電流測定を測定したところ、短尺特性と同様の結果を示した。このことから、この線材が長手方向に均一性を有することがわかった。
【0082】
以上のことから、MgB2超電導線材を上記構造にすることで、超電導特性が向上することがわかった。さらに、長尺に線引きする加工性も向上することがわかった。
【0083】
ここで、超電導コア部の内側及び外側のMg残存量についてX線回折装置を用いて評価を行った。
【0084】
図5にその評価結果を示す。横軸に回折角度の2倍の値(2θ)、縦軸にX線強度をとっている。破線が中心部、実線が外周部のデータを表す。図中、丸印で示した位置は、未反応のMgの回折角度を示している。また、菱形印、三角印はそれぞれ、MgB2、MgOの回折角度を示している。
【0085】
本図から、超電導コア部の中心部では少量のMgが検出されるが、外周部ではMgが検出されないことがわかる。これにより、本実施例のMgB2超電導線材の超電導コア部におけるMg残量が内側と外側とで異なることがわかる。すなわち、外周部と中心部とでマグネシウム又は酸化マグネシウムの濃度が異なる。内側及び外側の構成の違いは、顕微鏡写真等でも結晶形状の違いから確認することができる。
【0086】
また、超電導特性向上のためには、Mg及びBの混合粉末にSiCを代表とする炭化物を添加する方法が有効である。さらに、MgB2超電導線材だけでなく、粉末を充填して作製するNb3Sn超電導線材やNb3Al超電導線材にも同様に適用が可能である。
【実施例2】
【0087】
図6は、本発明による他の実施例を示すMgB2超電導線材の断面図である。MgB2超電導線材31は、外側金属管32及びMgB2多層コア部36で構成され、MgB2多層コア部36は、外側超電導層33、中間部混合粉末充填部34及び内側混合粉末充填部35を含む構造である。ここで、中間部混合粉末充填部34及び内側混合粉末充填部35は、Mg及びBの混合粉末を反応させてMgB2を生成させた領域であり、反応領域又は中心部と呼ばれる部位である。
【0088】
本実施例のMgB2超電導線材の製造方法は、以下の通りである。
【0089】
市販されているMgB2粉末を用いて成形加圧し、外側超電導層33として成形管を形成した。
【0090】
つぎに、市販されているMg粉末及びB粉末をモル比で1:2及び1:2.5の割合になるように、それぞれ真空混合用ポットに入れ、真空封止した後、ボールミル装置で粉末を混合させた。
【0091】
つぎに、上記のモル比が1:2の混合比率の混合粉末を成形加圧し、中間部混合粉末充填部34として成形管を形成した。
【0092】
その後、Cu管(外側金属管32)の中にMgB2成形管、中間部混合粉末充填部34の成形管を挿入した後、MgB2成形管の中に、上記のモル比が1:2.5の混合比率のMg及びBの混合粉末を真空グローブボックス内で充填した。
【0093】
つぎに、その両端にCu管と同径のCu棒を入れた後、Cu管の両端をAgろう付けすることにより、真空封止を保持した充填金属管を作製した。そして、それを真空封止したグローブボックスから取り出し後、その両端をスゥェジャーで加工し、真空封止をより強化させた。そして、ドローベンチにより線引き加工を実施し、全体の径がφ1.0mmまで細線化し、最後に630℃×1hr、Ar中で生成熱処理した。
【0094】
ここで、上記のモル比が1:2.5の混合比率の混合粉末を充填した部分が内側混合粉末充填部35となる。
【0095】
すなわち、本実施例においては、中心部がMgとBとの比率の異なる2層以上を含む構成となっている。
【0096】
この作製したMgB2超電導線材も実施例1と同様に臨界電流特性を評価したところ、磁場依存性を示す超電導線材であることがわかった。
【0097】
本実施例では、MgとBとの比率がモル比で1:2及び1:2.5の割合でMgB2超電導線材を作製したが、これらの割合に限定されるものではない。MgとBとの比率は、モル比で1:0.1〜1:10の範囲で自在に設定することができる。
【実施例3】
【0098】
図7は、本発明による他の実施例を示すMgB2超電導線材の断面図である。MgB2単芯コア部45は、外側金属管42、外側超電導層43及び内側混合粉末充填部44を含む構成となっている。このMgB2単芯コア部45が7芯、すなわち7本束ねてMgB2超電導線材41を構成している。
【0099】
MgB2単芯コア部45を作製する方法は、実施例1と同様である。作製したMgB2単芯コア部45を7本の穴の開いたCu管46に1本ずつ挿入し、Cu管46の両端をスゥェジャーで封止・細線化した後、ドローベンチによる線引き加工を実施し、最後に、630℃×1hr、Ar中で生成熱処理した。
【0100】
なお、本実施例においては、7芯のMgB2超電導線材41を作製したが、これに限定されるものではなく、19芯、37芯、又はそれ以上の多芯構造のMgB2超電導線材も作製することができる。
【0101】
本実施例のMgB2超電導線材も実施例1と同様に臨界電流特性を評価したところ、磁場依存性を示す超電導線材であることがわかった。
【0102】
MgB2超電導線材を更に高性能化させるためには、Mg粉末及びB粉末を混合する前に、それぞれの粉末をボールミルなどで粉砕した後、所定の割合で混合する。
【0103】
また、それぞれの粉末を混合や粉砕の前に、十分乾燥させ、水分を除去しておく。
【0104】
これらの粉砕及び/又は乾燥を行うことにより、MgB2の生成反応を非常に効果的に促進することができる。
【0105】
また、MgB2粉末を用いる場合においても、上記のMgB2粉砕及び/又は乾燥により、MgB2粉末の新鮮面の露出面積が増加し、MgB2粉末の表面の水分が除去され、焼結した際の電流パスが増加する。これにより、MgB2超電導線材を高性能化することができる。
【0106】
以上の実施例においては、MgB2超電導線材の断面形状が円形の場合に関して説明したが、断面形状は、これに限定されるものではなく、三角形状、四角形状(矩形状、平板状)等の多角形状でもよい。
【0107】
上述のMgB2超電導線材を用いて、超電導コイル作製することができる。また、この超電導コイルは、核磁気共鳴分析装置(Nuclear Magnetic Resonance、NMR)、磁気共鳴画像分析装置(Magnetic Resonance Imaging、MRI)等の超電導マグネットシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1、11、21、31、41:MgB2超電導線材、2、22、32:外側金属管、3:内側金属管、4:MgB2コア部、23、33:外側超電導層、24、35:内側混合粉末充填部、25:超電導コア部、34:中間部混合粉末充填部、36:MgB2多層コア部、45:MgB2単芯コア部、46:Cu管。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二ホウ化マグネシウム(MgB2)超電導線材は、MgB2粉末又はマグネシウム(Mg)粉末とホウ素(B)粉末との混合粉末、さらには、それらに炭化ケイ素(SiC)などの第三元素を添加した混合粉末を金属シース管に充填し、線引き加工することで作製している。そのため、金属シースには加工性の高い金属が選択され、長尺線化しやすいような線材断面設計がされている。一方、この線材を高性能化するためには、MgB2の単相化を図ること、MgB2に金属粉末を添加して結晶粒同士の接合性を向上すること、MgB2を高圧下で合成することなど、MgB2同士を高純度で結合させることが重要である。
【0003】
これらを両立させるため、ドローベンチなどの線引き加工装置を用いて、加工条件を最適化することで、MgB2超電導線材を作製している。これらは特許文献1及び2に記載されている。
【0004】
特許文献1には、ホウ素を含む超電導体を充填又は内包してなる超電導線材において、磁場中においても実用的な臨界電流密度を有する超電導線材とその製造方法、及びそれを用いた超電導マグネットを提供することを目的として、当該超電導体の外周に金、銀、アルミニウム、銅、鉄等から選ばれた単独の金属或いはそれらの複数から成る合金の金属被覆材が配置され、最終加工後の該超電導体の密度が理論密度の80%以上であり、かつ該超電導線材の臨界温度が30K以上であることを特徴とする超電導線材が開示されている。
【0005】
特許文献2には、高臨界電流密度化、高安定化、高強度化、長尺化を同時に達成できるMgB2超電導線材とその製造方法を提供することを目的として、室温でのビッカース硬さが50以上で、かつ、1つあるいは複数の孔を設けた金属母材中に、室温での比電気抵抗が7μΩcm以下の金属で被覆した単芯線又は多芯線を組み込むことを特徴とする複合シースMgB2超電導線材が開示されている。
【0006】
一般的に、高い超電導特性を有するMgB2超電導線材を製造方法の公知技術としては、次のものがある。
【0007】
(1)減面加工率を向上させる。
【0008】
(2)粉末の初期充填率を向上させる。
【0009】
(3)第三元素を添加したMgB2コア部とする。
【0010】
(4)超電導コア部を大きくする。
【0011】
これらは、線引き加工によって長尺化すると同時に、MgB2コア部を大面積・高密度化させることで、高性能で、かつ長尺化したMgB2超電導線材を得るとしている。
【0012】
しかしながら、現状、これらの方法では十分な性能を有する高性能なMgB2超電導線材が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−373534号公報
【特許文献2】特開2004−319107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
Mg粉末とB粉末との混合粉末を用いてMgB2超電導線材を作製する場合、銅(Cu)等で形成された金属シース(外側金属管)にMg粉末とB粉末との混合粉末を充填し、熱処理を行ってMgとBとを反応させる際、Mgが拡散して金属シースを構成するCu等と結合し、MgとBとの反応において不均一が生じる。このため、MgB2超電導線材の超電導性能が低下してしまうという問題がある。
【0015】
本発明の目的は、MgとBとの反応における不均一を抑制し、線材の長尺化が可能で、超電導性能が高いMgB2超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の超電導線材は、二ホウ化マグネシウムを含む超電導コア部と、この超電導コア部を覆う安定化層とを含む超電導線材であって、前記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウム粉末の焼結領域である外周部と、マグネシウム粉末及びホウ素粉末を混合して反応させた反応領域である中心部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、MgとBとの反応における不均一を抑制し、線材の長尺化が可能で、超電導性能が高いMgB2超電導線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のMgB2超電導線材の断面図である。
【図2】従来のMgB2超電導線材の断面図である。
【図3】本発明による実施例1を示すMgB2超電導線材の断面図である。
【図4】本発明による実施例のMgB2超電導線材の超電導特性を示すグラフである。
【図5】本発明による実施例のMgB2超電導線材のX線回折装置によって測定した材料特性を示すグラフである。
【図6】本発明による実施例2を示すMgB2超電導線材の断面図である。
【図7】本発明による実施例3を示すMgB2超電導線材の断面図である。
【図8】本発明のMgB2超電導線材の断面を示す拡大写真及び模式図である。
【図9A】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9B】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9C】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9D】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9E】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9F】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9G】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9H】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【図9I】本発明のMgB2超電導線材の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は二ホウ化マグネシウム(以下、MgB2と略す)超電導線材に関するものである。具体的には、電流リード、送電ケーブル、大型マグネット、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引き上げ装置、冷凍機冷却超電導マグネット装置、超電導エネルギー貯蔵、超電導発電機、核融合炉用マグネット等の機器において適用される。
【0020】
本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム及びホウ素の混合体の中心部とを有する前駆体を含み、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素との反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向に焼結領域及び反応領域の2層を形成し、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と、二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム及びホウ素の混合体で、マグネシウムとホウ素との比率の異なる2層以上の中心部とを有する前駆体で構成され、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素との反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向に、焼結領域及び反応領域に分かれ、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と、二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム、ホウ素及び炭化物の混合体の中心部を有する前駆体とを含み、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素とを反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向、焼結領域及び反応領域に分かれており、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と、二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材において、上記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウムの外周層と、マグネシウム、ホウ素及び炭化物の混合体で、マグネシウムとホウ素との比率の異なる2層以上の中心部とを有する前駆体で構成され、その安定化層に囲まれた前駆体を細線化加工後、熱処理することで、外周層の二ホウ化マグネシウム同士の焼結反応、及び中心部のマグネシウムとホウ素とを反応を生じさせ、熱処理後の超電導コア部が半径方向に、焼結領域及び反応領域に分かれ、そのマグネシウム及び酸化マグネシウムの濃度がそれぞれの領域において異なることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、超電導コア部を覆う電気伝導度の高い安定化層と二ホウ化マグネシウム超電導体が存在する超電導コア部とを含む二ホウ化マグネシウム超電導線材であって、この二ホウ化マグネシウム超電導線材を複数本束ねて形成したことを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、安定化層がCu、Al、Ag、Au及びNi並びにそれらの合金を含むことを特徴とする。さらに、安定化層は、Cu、Al、Ag、Au及びNi並びにそれらの合金を主成分として含むことが望ましい。
【0026】
以下に、図を用いて、従来例と比較しながら、本発明による実施例を説明する。
【0027】
これに先立って、比較例として、従来方法で作製した二ホウ化マグネシウム超電導線材(以下、MgB2超電導線材又は単に超電導線材と呼ぶ)について説明する。
【0028】
(比較例1)
まず、Cu等で形成された外側金属管とMgとの反応を防止するためのバリア層として内側金属管を用いる場合を示す。
【0029】
図1に作製したMgB2超電導線材の断面構造を示す。MgB2超電導線材1は、外側金属管2、内側金属管3及びMgB2コア部4(超電導コア部)で構成されている。この場合、外側金属管2が銅管(Cu管)であり、内側金属管3がニオブ管(Nb管)である。内側金属管3にボールミル混合したMg粉末及びB粉末をArガス中で充填し、その外側に外側金属管2を被せ、ドローベンチによる線引き加工を実施した。線材の径はφ0.8mmである。この製造方法は、ドローベンチなどにより金属シース全体を均一に減面加工することで長尺線材化(長尺の線材を形成)しながら、MgB2コア部を高密度化する製法である。
【0030】
しかしながら、この製造方法では、MgB2超電導線材の超電導性能が安定せず、長尺方向での均一性を維持することができなかった。また、3本作製したところ、1本は途中で断線し、線引き不可能となった。この状態で、超電導コイルを作製した場合、長尺線材中の最も低い特性をもつ場所でコイル特性が決定されるため、特性が低い超電導コイルとなる。
【0031】
この要因としては、粉末の充填密度や充填状態の影響で、線引き加工によって減面化(細線化)されたMgB2コア部の密度が不均一となったことが考えられる。この状態で熱処理をすると、MgとBとの反応効率にも不均一が生じ、MgB2超電導線材の超電導性能も不均一となる。
【0032】
また、この影響をさらに小さくするために線径を細くすることを検討しても、不均一性を出している線材の径がφ0.8mmであり、これ以上の細線化は、線材の作製中の断線率が急激に増大するため適用困難である。さらに、線材を細線化できたとしても、超電導コイルを作製する際、占積率も低下するため、より長尺なMgB2超電導線材が必要となる。
【0033】
以上のことから、従来方法で作製する場合は、長尺で高性能なMgB2超電導線材を作製できない。
【0034】
他の高性能MgB2超電導線材の製造方法としては、以下の方法もある。
【0035】
(比較例2)
つぎに、初期の粉末充填量を高める場合について示す。
【0036】
MgB2超電導線材の断面構造は従来方法1と同様である。この製造方法では、Arフロー中で金属シースに充填するMgB2粉末、又はMg粉末及びB粉末の充填量を増加させることで、MgB2コア部を高密度化させる。
【0037】
この比較例における初期粉末充填率は約50%である。しかし、これ以上の充填率向上は困難であった。これは充填する粉末が微細であるため、流動性が低下し、充填時にかさ張り、緻密化しにくい。また、ガス成分を同時に巻き込むため、更に充填が困難となる。
【0038】
さらに、充填できたと仮定しても、緻密に充填されているため、線引き加工時に必要な粉末の流動性が確保できないため、線引き途中で断線する確率が非常に高い。
【0039】
したがって、この比較例の場合、使用可能なMgB2超電導線材を作製することが困難である。
【0040】
MgB2超電導線材の超電導特性を向上させるためには、MgB2コア部に緻密で、かつ流動性の高いMgB2層を形成させる必要がある。また、それらを長手方向に均一化させる必要がある。
【0041】
(比較例3)
この比較例は、超電導コア部を増加させたMgB2超電導線材の製造方法である。
【0042】
図2に作製したMgB2超電導線材の断面構造を示す。MgB2超電導線材11は、外側金属管2、MgB2コア部4から形成された構造である。この比較例においては、外側金属管2が銅管(Cu管)である。外側金属管2にMgB2粉末をArガス中で充填し、ドローベンチによる線引き加工を実施した。線材の径はφ0.8mmである。この製造方法により得られたMgB2超電導線材11は、超電導性能が安定し、長尺方向での均一性を有することがわかった。
【0043】
また、Mgを用いないため、バリア層の働きをする内側金属管を用いる必要がなく、外側金属管2が一重であるため、MgB2超電導線材11に占める超電導コア部4の面積は、比較例1と比較して大きくすることができた。
【0044】
しかし、超電導性能が非常に低く、比較例1の20%以下という結果となった。これは、充填したMgB2粉末の表面に酸化物(酸化マグネシウム(MgO))が付着していたため、超電導の電流パス(電流流路)が減少したと考える。
【0045】
比較例1〜3の結果から、高性能なMgB2超電導線材の作製が困難となる要因として以下の2点が挙げられる。
【0046】
(1)超電導特性の高いMg粉末及びB粉末の混合粉末をCu等の外側金属管に充填すると、Mg粉末が外側金属管と反応してしまう。そこで、外側金属管とMg粉末及びB粉末の混合粉末との間にバリア層として内側金属管を設ける対策が採られるが、この場合、超電導コア部の面積が低減し、MgB2超電導線材の特性向上を阻害する。
【0047】
(2)熱処理を必要としないMgB2粉末を適用すると、コア面積は大きくなる。しかし、粉末表面の初期の酸化層が影響し、MgB2線材の特性向上を阻害する。
【0048】
以上の要因を検討し、これらの問題を解決するための手段として、本発明を見出した。
【0049】
MgとBとの反応における不均一を抑制し、線材の長尺化が可能で、超電導性能が高いMgB2超電導線材を提供するためには、超電導コア部を大きくするとともに、超電導コア部の成分が、特に製造工程において外側金属管と反応しないようにする必要がある。
【0050】
本発明においては、MgB2コア部を外側のMgB2層と内側のMg及びBの混合粉末層(混合粉末充填部とも呼ぶ)とで構成することにより、ドローベンチによる減面加工及び生成熱処理を施した後の、MgB2コア部の面積を大きくするとともに、充填率を高くすることができる。これにより、高密度かつ高性能のMgB2超電導線材を製造することができる。
【0051】
図8は、本発明のMgB2超電導線材の断面を示す拡大写真及び模式図である。図8の右図が拡大写真であり、図8の左図が模式図である。
【0052】
本図において、MgB2超電導線材は、外側からシース材82、外側コア部83及び内側コア部84で構成されている。
【0053】
図9A〜9Iは、MgB2線材の製造工程の例を示す図である。
【0054】
各図における工程は次の通りである。
【0055】
銅製の管(シース材92、外径7.4mm、内径4.2mm(先端部に直径2.5mmの凹部を有する。))を用意し(図9A:シース材用の銅管(Cu tube for sheath material))、銅管の中央部に炭化タングステン(WC)の棒96(直径2.5mm)を差し込んで、銅管との隙間に二ホウ化マグネシウム粉末101を入れる(図9B:外側コア部の充填工程(Filling process for outer Ex−situ core))。炭化タングステンの棒96を入れたまま、その周囲に銅管よりも径の小さい炭化タングステンの管97(外径4.2mm、内径2.5mm)を差し込み、0.3GPaで押し込む。この場合、0.1〜2.0GPaでも同様の効果が得られる(図9C:外側コア部の加圧工程(Pressing the outer core))。その後、炭化タングステンの棒96及び管97の両方を引き抜き、二ホウ化マグネシウム粉末の外周部93を作製する(図9D:棒及び管の除去工程(Removal of center pole))。
【0056】
さらに、中央の開口部にマグネシウム102及びホウ素103を1:2の割合で混合した粉末を入れ(図9E:内側コア部の充填工程(Filling process for inner in−situ core))、炭化タングステンの棒を押し込み加圧して(図9F:内側コア部の加圧工程(Pressing the inner core))、マグネシウム102及びホウ素103の混合粉末94の周囲に二ホウ化マグネシウム粉末部93及び銅管92を配置した構成とし、粉末を充填した金属管を作製する(図9G:多層コア前駆体(Double core precursor))。この場合、0.1〜2.0GPaでも同様の効果が得られる。また、充填量は、銅管内への充填密度が理論密度の20〜70%になるようにする。
【0057】
金属管を線引き加工し(図9H:延伸工程(Drawing))、500℃〜900℃で熱処理してMgB2線材を作製する(図9I:焼結工程(Sintering))。なお、延伸工程及び焼結工程を併せてPIT工程(PIT process)と呼ぶ。
【0058】
以下、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0059】
図3は、本発明により作製したMgB2超電導線材の断面構造を示す。本図において、MgB2超電導線材21は、外側金属管22(安定化層と呼ぶ)、外側超電導層23(焼結領域、外周層又は外周部と呼ぶ)及び内側混合粉末充填部24(反応領域又は中央部と呼ぶ)から形成されている。ここで、外側超電導層23及び内側混合粉末充填部24を併せて超電導コア部25と呼ぶ。
【0060】
最初に、市販されているMgB2粉末を管状に成形し、MgB2管を作製した。これが外側超電導層23となる。つぎに、市販されているMg粉末及びB粉末をArガス中又は真空中においてボールミルポットに化学量論組成で充填し、ボールミル混合した。つぎに、MgB2管をCu管(外側金属管22)に挿入した後、ボールミル混合したMg及びBの混合粉末をMgB2管に充填し、管全体を封止した。
【0061】
そして、その封止した管の両端をスゥェジャーで封止・細線化した後、ドローベンチによる線引き加工を行い、最後に、熱処理を施した。
【0062】
本発明は、MgB2超電導線材の高性能化を阻害する従来の要因をすべてカバーしている。これは、MgB2粉末で作製した成形管を適用することで、この成形管を超電導コア部の一部とし、かつ、Mgと外側金属管との反応を阻害するバリア層として機能させることができる。
【0063】
また、Mg及びBの混合粉末とMgB2成形管の界面は、Mg、Bおよび反応で生成したMgB2で構成されるため、従来例と比べて高い超電導特性を得ることができる。
【0064】
以上をまとめると、本発明のMgB2超電導線材は、外側金属管内にMgB2成形管を入れ、その中にMg及びBの混合粉末を充填し、熱処理することで、高い超電導特性を付加させることができる。
【0065】
以下に、その製造プロセスを示す。
【0066】
本実施例におけるMgB2超電導線材の、それぞれの管の初期寸法は以下の通りである。
【0067】
外側金属管(Cu管):外径18mm、内径16mm、長さ100mm
MgB2成形体(MgB2成形管):外径15mm、内径11mm、長さ100mm
まず、市販されているMgB2粉末を用いて、上記寸法に成形加圧した。
【0068】
つぎに、市販されているMg粉末及びB粉末をモル比で1:2の割合になるように混合し、真空混合用ポットに入れた。そして、真空封止した後、ボールミル装置で粉末を混合させた。その際、真空度は、1.0×10−4torrであった。
【0069】
つぎに、Cu管に挿入したMgB2成形管にMg及びBの混合粉末を真空グローブボックス内で充填した。
【0070】
つぎに、Cu管の両端にCu棒を挿入し、Cuの両端をAgろう付け(銀ろう付け)することで、管内部を真空に保持した充填金属管を作製した。
【0071】
なお、この際、以下の方法でも同様又はそれ以上の効果が得られる。
【0072】
1)Cu棒は入れなくてもよいが、入れた方がより優れた真空封止管を作製できる。
【0073】
2)Cu管側ではなく、MgB2成形管側にろう付けをしてもよいが、ろう付け温度が低いCu管の方がMgB2線材の特性上、優れている。
【0074】
3)MgB2成形管は加圧成形で作製してもよいが、冷間等方圧加圧法(Cold Isostatic Pressing、CIP)などで作製してもよい。また、高さの短い成形品を積み上げる方法でもよい(例えば、本実施例では、長さ50mm×2個、10mm×10個など)。
【0075】
4)Mg及びBの混合粉末を充填する際、加圧成形した成形品を挿入してもよい。また、成形管と同様に、高さの短い成形品を積み上げる方法でもよい。
【0076】
5)使用したMg粉末は、MgH2やMgCuなどのMg合金でも同様の効果が得られる。
【0077】
6)熱処理温度は500〜900℃までで、雰囲気はAr、N2などの不活性ガス中、又は真空中で同様の効果が得られるが、特性上は600〜650℃が最も優れている。
【0078】
それを真空封止したグローブボックスから取り出し後、その両端をスゥェジャーで加工し、真空封止をより強化させた。そして、ドローベンチにより線引き加工を実施し、全体径がφ1.0mmまで細線化した。この際、スゥェジャー加工を行わずに、線引き加工を実施してもよい。そして、最後に630℃×1hr、Ar中で熱処理を施した。
【0079】
このMgB2超電導線材を用いて臨界電流の測定を行った。測定は、一般的な直流四端子法を用いて、試料全体を液体ヘリウム中に浸漬して行った。
【0080】
図4にその結果を示す。横軸に磁場、縦軸に臨界電流密度をとっている。
【0081】
本図から、本実施例のデータは、従来例のデータの延長線上に、より高い磁場の領域で得られていることがわかる。よって、本実施例のMgB2超電導線材は、磁場依存性を示す超電導線材であることがわかった。また、従来例のMgB2超電導線材より優れた特性であることがわかった。また、本実施例のMgB2超電導線材を金属ボビンに無誘導巻し、長尺線材を用いて臨界電流測定を測定したところ、短尺特性と同様の結果を示した。このことから、この線材が長手方向に均一性を有することがわかった。
【0082】
以上のことから、MgB2超電導線材を上記構造にすることで、超電導特性が向上することがわかった。さらに、長尺に線引きする加工性も向上することがわかった。
【0083】
ここで、超電導コア部の内側及び外側のMg残存量についてX線回折装置を用いて評価を行った。
【0084】
図5にその評価結果を示す。横軸に回折角度の2倍の値(2θ)、縦軸にX線強度をとっている。破線が中心部、実線が外周部のデータを表す。図中、丸印で示した位置は、未反応のMgの回折角度を示している。また、菱形印、三角印はそれぞれ、MgB2、MgOの回折角度を示している。
【0085】
本図から、超電導コア部の中心部では少量のMgが検出されるが、外周部ではMgが検出されないことがわかる。これにより、本実施例のMgB2超電導線材の超電導コア部におけるMg残量が内側と外側とで異なることがわかる。すなわち、外周部と中心部とでマグネシウム又は酸化マグネシウムの濃度が異なる。内側及び外側の構成の違いは、顕微鏡写真等でも結晶形状の違いから確認することができる。
【0086】
また、超電導特性向上のためには、Mg及びBの混合粉末にSiCを代表とする炭化物を添加する方法が有効である。さらに、MgB2超電導線材だけでなく、粉末を充填して作製するNb3Sn超電導線材やNb3Al超電導線材にも同様に適用が可能である。
【実施例2】
【0087】
図6は、本発明による他の実施例を示すMgB2超電導線材の断面図である。MgB2超電導線材31は、外側金属管32及びMgB2多層コア部36で構成され、MgB2多層コア部36は、外側超電導層33、中間部混合粉末充填部34及び内側混合粉末充填部35を含む構造である。ここで、中間部混合粉末充填部34及び内側混合粉末充填部35は、Mg及びBの混合粉末を反応させてMgB2を生成させた領域であり、反応領域又は中心部と呼ばれる部位である。
【0088】
本実施例のMgB2超電導線材の製造方法は、以下の通りである。
【0089】
市販されているMgB2粉末を用いて成形加圧し、外側超電導層33として成形管を形成した。
【0090】
つぎに、市販されているMg粉末及びB粉末をモル比で1:2及び1:2.5の割合になるように、それぞれ真空混合用ポットに入れ、真空封止した後、ボールミル装置で粉末を混合させた。
【0091】
つぎに、上記のモル比が1:2の混合比率の混合粉末を成形加圧し、中間部混合粉末充填部34として成形管を形成した。
【0092】
その後、Cu管(外側金属管32)の中にMgB2成形管、中間部混合粉末充填部34の成形管を挿入した後、MgB2成形管の中に、上記のモル比が1:2.5の混合比率のMg及びBの混合粉末を真空グローブボックス内で充填した。
【0093】
つぎに、その両端にCu管と同径のCu棒を入れた後、Cu管の両端をAgろう付けすることにより、真空封止を保持した充填金属管を作製した。そして、それを真空封止したグローブボックスから取り出し後、その両端をスゥェジャーで加工し、真空封止をより強化させた。そして、ドローベンチにより線引き加工を実施し、全体の径がφ1.0mmまで細線化し、最後に630℃×1hr、Ar中で生成熱処理した。
【0094】
ここで、上記のモル比が1:2.5の混合比率の混合粉末を充填した部分が内側混合粉末充填部35となる。
【0095】
すなわち、本実施例においては、中心部がMgとBとの比率の異なる2層以上を含む構成となっている。
【0096】
この作製したMgB2超電導線材も実施例1と同様に臨界電流特性を評価したところ、磁場依存性を示す超電導線材であることがわかった。
【0097】
本実施例では、MgとBとの比率がモル比で1:2及び1:2.5の割合でMgB2超電導線材を作製したが、これらの割合に限定されるものではない。MgとBとの比率は、モル比で1:0.1〜1:10の範囲で自在に設定することができる。
【実施例3】
【0098】
図7は、本発明による他の実施例を示すMgB2超電導線材の断面図である。MgB2単芯コア部45は、外側金属管42、外側超電導層43及び内側混合粉末充填部44を含む構成となっている。このMgB2単芯コア部45が7芯、すなわち7本束ねてMgB2超電導線材41を構成している。
【0099】
MgB2単芯コア部45を作製する方法は、実施例1と同様である。作製したMgB2単芯コア部45を7本の穴の開いたCu管46に1本ずつ挿入し、Cu管46の両端をスゥェジャーで封止・細線化した後、ドローベンチによる線引き加工を実施し、最後に、630℃×1hr、Ar中で生成熱処理した。
【0100】
なお、本実施例においては、7芯のMgB2超電導線材41を作製したが、これに限定されるものではなく、19芯、37芯、又はそれ以上の多芯構造のMgB2超電導線材も作製することができる。
【0101】
本実施例のMgB2超電導線材も実施例1と同様に臨界電流特性を評価したところ、磁場依存性を示す超電導線材であることがわかった。
【0102】
MgB2超電導線材を更に高性能化させるためには、Mg粉末及びB粉末を混合する前に、それぞれの粉末をボールミルなどで粉砕した後、所定の割合で混合する。
【0103】
また、それぞれの粉末を混合や粉砕の前に、十分乾燥させ、水分を除去しておく。
【0104】
これらの粉砕及び/又は乾燥を行うことにより、MgB2の生成反応を非常に効果的に促進することができる。
【0105】
また、MgB2粉末を用いる場合においても、上記のMgB2粉砕及び/又は乾燥により、MgB2粉末の新鮮面の露出面積が増加し、MgB2粉末の表面の水分が除去され、焼結した際の電流パスが増加する。これにより、MgB2超電導線材を高性能化することができる。
【0106】
以上の実施例においては、MgB2超電導線材の断面形状が円形の場合に関して説明したが、断面形状は、これに限定されるものではなく、三角形状、四角形状(矩形状、平板状)等の多角形状でもよい。
【0107】
上述のMgB2超電導線材を用いて、超電導コイル作製することができる。また、この超電導コイルは、核磁気共鳴分析装置(Nuclear Magnetic Resonance、NMR)、磁気共鳴画像分析装置(Magnetic Resonance Imaging、MRI)等の超電導マグネットシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1、11、21、31、41:MgB2超電導線材、2、22、32:外側金属管、3:内側金属管、4:MgB2コア部、23、33:外側超電導層、24、35:内側混合粉末充填部、25:超電導コア部、34:中間部混合粉末充填部、36:MgB2多層コア部、45:MgB2単芯コア部、46:Cu管。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二ホウ化マグネシウムを含む超電導コア部と、この超電導コア部を覆う安定化層とを含む超電導線材であって、前記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウム粉末の焼結領域である外周部と、マグネシウム粉末及びホウ素粉末を混合して反応させた反応領域である中心部とを有することを特徴とする超電導線材。
【請求項2】
前記外周部と前記中心部とでマグネシウム又は酸化マグネシウムの濃度が異なることを特徴とする請求項1記載の超電導線材。
【請求項3】
前記中心部が、マグネシウムとホウ素との比率の異なる2層以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記中心部が、マグネシウム、ホウ素及び炭化物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導線材。
【請求項5】
前記安定化層がCu、Al、Ag、Au及びNi並びにそれらの合金を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導線材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導線材を複数本束ねて形成したことを特徴とする多芯材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導線材又は請求項6記載の多芯材で形成されたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項8】
請求項7記載の超電導コイルを含むことを特徴とする超電導マグネットシステム。
【請求項1】
二ホウ化マグネシウムを含む超電導コア部と、この超電導コア部を覆う安定化層とを含む超電導線材であって、前記超電導コア部が、二ホウ化マグネシウム粉末の焼結領域である外周部と、マグネシウム粉末及びホウ素粉末を混合して反応させた反応領域である中心部とを有することを特徴とする超電導線材。
【請求項2】
前記外周部と前記中心部とでマグネシウム又は酸化マグネシウムの濃度が異なることを特徴とする請求項1記載の超電導線材。
【請求項3】
前記中心部が、マグネシウムとホウ素との比率の異なる2層以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記中心部が、マグネシウム、ホウ素及び炭化物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導線材。
【請求項5】
前記安定化層がCu、Al、Ag、Au及びNi並びにそれらの合金を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導線材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導線材を複数本束ねて形成したことを特徴とする多芯材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導線材又は請求項6記載の多芯材で形成されたことを特徴とする超電導コイル。
【請求項8】
請求項7記載の超電導コイルを含むことを特徴とする超電導マグネットシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【公開番号】特開2011−14304(P2011−14304A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155883(P2009−155883)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]