説明

超電導臨界電流測定装置

【課題】薄膜超電導線の超電導臨界電流を測定するに際して、着氷の発生に影響されず、安定して測定を行うことができる超電導臨界電流測定装置を提供する。
【解決手段】着氷により測定用電極と被計測用線材とが接触不能となることを回避する手段を備える超電導臨界電流測定装置。第1の手段は、受け台のうち少なくとも被計測用線材との接触部の周辺部を難着氷材料で形成することにより構成されている。第2の手段は、受け台のうち、被計測用線材との接触部分の幅寸法を被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定し、被計測用線材と接触しない部分の位置は接触部分よりも低くすることにより構成されている。第3の手段は、測定用電極の幅寸法を被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定することにより構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受け台により支持される被計測用線材と電流および電圧の測定用電極とを接触させて被計測用線材の臨界電流値を測定することができる超電導臨界電流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液体窒素の温度で超電導性を有する超電導線において、薄膜超電導線が様々な分野において実用化されつつある。この薄膜超電導線は、通常の銅芯製やアルミ芯製の電線と異なり、テープ状の金属製基板上に配向層が形成され、その上に多結晶性物質からなる超電導層が形成され、さらにその上に銅を薄くメッキした保護層が形成されている。一方、超電導線については、品質管理の一環として、様々な位置における臨界電流の測定が行われている。
【0003】
薄膜超電導線(被計測用線材)における臨界電流の測定装置としては、通常、薄膜超電導線に電極を直接圧接して電流を流すことにより超電導臨界電流を測定する直接通電方式の超電導臨界電流測定装置が用いられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
ここで、従来の超電導臨界電流測定装置の構成につき説明する。図4は超電導臨界電流測定装置の構成図である。図4において、10はテープ状の薄膜超電導線であり、21は前記薄膜超電導線の送り出し機構であり、22は巻き取り機構である。そして、23は送り出し側の、24は巻取り側のプーリーである。また、60は液体窒素溜め、即ち容器であり、61は液体窒素溜め60に溜められた液体窒素である。
【0005】
また、70、72は、薄膜超電導線10に電流を流すために電流源と接続して設けられた送り出し側および巻き取り側の電流電極であり、71、73は各々の電流電極に対応する受け台である。そして、74、76は、薄膜超電導線10の抵抗を測定するために電流計と接続して設けられた送り出し側および巻き取り側の電圧電極であり、75、77は各々の電圧電極に対応する受け台である。そして、送り出し機構21、巻き取り機構22、電流源および電圧計は、それぞれのI/F(インターフェース)を介してPC(パーソナルコンピュータ)と接続されている。
【0006】
以上のような構成の下、送り出し機構21から巻き出された薄膜超電導線10は、プーリー23を通って水平に液体窒素溜め60の液体窒素61に浸漬されて、そのまま電流電極70,72、電圧電極74、76と各々の受け台71、73、75、77との間を通り、プーリー24から垂直に立ち上がり、巻き取り機構22で巻き取られるようになっている。
【0007】
次に、上記超電導臨界電流測定装置を用いた測定方法につき説明する。
まず、送り出し機構21、巻き取り機構22、さらには送り出し側のプーリー23、巻き取り側のプーリー24を所定量回転させて、薄膜超電導線10の測定対象箇所を、送り出し側の電流電極70、巻き取り側の電流電極72、送り出し側の電圧電極74、巻き取り側の電圧電極76の下方に位置させる。
【0008】
その後、これら4個の電極70、72、74、76を支持する圧力シリンダ(図示せず)を下降させ、対応する受け台71、73、75、77との間に、前記薄膜超電導線10を、保護層(図示せず)を上側(電極側)に、基板(図示せず)を下側(受け台側)にして挟み込む。
【0009】
この状態で、薄膜超電導線10と各電極70、74、76、72の間の導通を取り、その後、PCで電流源を制御しつつ、設定した電流値まで徐々に電流を上げていく。電圧電極74、76で発生する電圧をモニターし、PCにその値を取り込み、予め設定した閾値を超えたところで、電流を流すのを停止する。また、事前に定義した臨界電流における発生電圧から臨界電流値を求める。
【0010】
そして、当該箇所の測定が終了すると、送り出し側のプーリー23、巻き取り側のプーリー24を所定量回転させて、薄膜超電導線10を送り出し、次の測定対象の箇所で、上記と同様の操作を繰り返して測定を行う。さらに、薄膜超電導線10の移動距離や測定回数等をPCに予め入力しておくことにより、測定を自動で行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特願2008−309669
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記装置を用いる場合において、薄膜超電導線は、前記のように液体窒素溜めの液体窒素に浸漬され、電流および電圧の測定用電極と各々の受け台との間を通過するが、液体窒素は極めて低温である。このため、図5に示すように、動いている薄膜超電導線には着氷しないものの、電極70と相対する受け台71において薄膜超電導線10の両側に氷Sが着氷し、計測時間の経過と共に積もって行く。その結果、この氷Sに電極70が当たり、本来接触すべき薄膜超電導線10と接触せずに浮いてしまい、電気接続が得られなくなり、測定不能になることがあった。
【0013】
このため、薄膜超電導線の超電導臨界電流を測定するに際して、着氷の発生に影響されず、安定して測定を行うことができる超電導臨界電流測定装置が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としてなされたものである。以下、各請求項の発明を説明する。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
被計測用線材を支える受け台を有し、前記受け台上の前記被計測用線材に電流電極および電圧電極である測定用電極を直接圧接して電流を流すことにより超電導臨界電流を測定する直接通電方式の超電導臨界電流測定装置であって、
着氷により前記測定用電極と前記被計測用線材とが接触不能となることを回避する手段を備えることを特徴とする超電導臨界電流測定装置である。
【0016】
本請求項の発明においては、着氷により測定用電極と被計測用線材とが接触不能となることを回避する手段を備えることより、着氷の影響を受けることがなくなり、超電導臨界電流を確実に測定することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
前記手段は、前記受け台のうち少なくとも前記被計測用線材との接触部の周辺部を難着氷材料で形成することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導臨界電流測定装置である。
【0018】
上記のように前記受け台上において前記薄膜超電導線の両側に着氷が発生するため、本請求項の発明においては、回避する手段が、前記受け台のうち少なくとも前記被計測用線材との接触部の周辺部を難着氷材料で形成して構成されていることにより、受け台上において前記薄膜超電導線の両側に相当する部位に位置することになる難着氷材料の存在によって、受け台のうち少なくとも前記被計測用線材との接触部の周辺部への着氷を回避できる。その結果、測定電極と被計測用線材を確実に接触させることができ、正確な測定を行なうことができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、
前記手段は、前記受け台のうち、前記被計測用線材との接触部分の幅寸法を前記被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定し、前記被計測用線材と接触しない部分の位置は前記接触部分よりも低くすることにより構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導臨界電流測定装置である。
【0020】
本請求項の発明においては、回避する手段が、前記受け台のうち前記被計測用線材との接触部分の幅寸法を前記被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定することにより構成されているため、被計測用線材の両側は受け台と接触しないことになり、その結果、着氷が発生しても、測定電極と被計測用線材を確実に接触させることができる。
【0021】
なお、50%未満では被計測用線材の端部が垂れたり狭い被計測用線材との接触が不十分となったり、正確な計測が困難になる。
【0022】
なお、本請求項の発明と請求項2の発明とを併用することにより、測定電極と被計測用線材とをより確実に接触させることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、
前記手段は、前記測定用電極の幅寸法を前記被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定することにより構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超電導臨界電流測定装置である。
【0024】
本請求項の発明においては、回避する手段が、前記測定用電極の幅寸法を前記被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定することにより構成されているため、被計測用線材の両側の受け台に着氷が発生しても、測定用電極は着氷部を回避して受け台上の被計測用線材に達することができ、その結果、測定電極と被計測用線材を確実に接触させることができる。
【0025】
なお、50%未満では薄膜超電導線材との接触が不十分となり、正確な計測が困難になる。
【0026】
なお、本請求項の発明と請求項2や請求項3の発明とを併用することにより、測定電極と被計測用線材とをより確実に接触させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、薄膜超電導線の超電導臨界電流を測定するに際して、着氷の発生に影響されず、安定して測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態の超電導臨界電流測定装置における薄膜超電導線材と測定用電極との接触不能を回避する手段の構造を模式的に示す図であって、(a)は薄膜超電導線材の進行方向に沿う断面図であり、(b)は薄膜超電導線材の進行方向に直交する方向の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の超電導臨界電流測定装置における薄膜超電導線材と測定用電極との接触不能を回避する手段の構造を模式的に示す図であって、(a)は薄膜超電導線材の進行方向に沿う側面図であり、(b)は正面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態の超電導臨界電流測定装置における薄膜超電導線材と測定用電極との接触不能を回避する手段の構造を模式的に示す図であって、(a)は薄膜超電導線材の進行方向に沿う側面図であり、(b)は正面図である。
【図4】超電導臨界電流測定装置の構成を模式的に示す図である。
【図5】従来技術の超電導臨界電流測定装置における薄膜超電導線材と測定用電極との接触不能状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0030】
(第1の実施の形態)
本実施の形態は、従来より用いられていた超電導臨界電流測定装置において、受け台に工夫を施すことにより、電極と線材との接触を確保するものである。具体的には、受け台で着氷しやすい部分、即ち、少なくとも線材の両側部に対応する箇所の周辺部を、着氷しにくい材料(難着氷材料)を用いて形成することにより、受け台上に着氷することを防止して、電極圧接時における電極と線材との接触不能を回避し、安定した測定を可能にするものである。
【0031】
以下、図1を参照しつつ本実施の形態を説明する。なお、超電導臨界電流測定装置における各測定用電極とそれに対応する受け台との関係は、同じと見なすことができるため、以下の説明においては、電流電極70と受け台71を取り上げて説明する。また、図1においては、発明の理解を容易にするため、各部の寸法は適宜変更している。そして、これらは、図2、3についても同様である。
【0032】
図1は本実施の形態の超電導臨界電流測定装置における薄膜超電導線材と測定用電極との接触不能を回避する手段の構造を模式的に示す図であって、(a)は薄膜超電導線材の進行方向に沿う断面図であり、(b)は薄膜超電導線材の進行方向に直交する方向の断面図である。
【0033】
電流電極70は、例えば15mm幅×45mm長×10mm厚の大きさであり、図1(a)に示すように、薄膜超電導線材10と対向する側では、薄膜超電導線材10の進行方向の前後端の角が面取りされて(Rが付けられて)、薄膜超電導線材10との接触部長さが40mmとなるように形成されている。
【0034】
受け台71は、例えば50mm角×15mm厚と、電流電極70の大きさに比べ充分大きく形成されており、薄膜超電導線材10が圧接される部分には、30mm幅×50mm長×1mm厚と、薄膜超電導線材10の幅より一回り大きな難着氷部71aが設けられている。
【0035】
難着氷部71aを構成する材料としては、電気絶縁性に優れ、圧接時に変形することがない材料が好ましく、具体的には、例えば、フッ素樹脂、陽極酸化アルミニウム表面にフッ化モノアルキルリン酸処理した部材、アルキルケテンダイマーを付与した材料等が好ましく用いられる。なお、この難着氷部71aは、薄膜超電導線材10が圧接される部分の周辺部で着氷が発生することを考慮すれば、周辺部にのみ1対形成すれば充分である。しかし、このような小さな難着氷部を1対設けることは、大きな難着氷部を1つ設けるよりもコスト的に不利であるため、図1においては、薄膜超電導線材10の幅より一回り大きな難着氷部71aを設けている。
【0036】
なお、受け台71を構成する材料としては、電気絶縁性や機械的強度に優れる材料が好ましく、具体的には、例えば、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の繊維強化プラスチック(FRP)が好ましく用いられる。
【0037】
難着氷部71aを設けることにより、受け台71上の線材10が圧接される部分の周辺部では着氷しにくくなるため、着氷による電流電極70と薄膜超電導線材10との接触不能を防止することができ、安定した測定を行うことができる。
【0038】
(第2の実施の形態)
本実施の形態も、超電導臨界電流測定装置において、受け台の構造を工夫することにより、電極と線材との接触を確保するものである。具体的には、受け台で着氷しやすい部分、即ち、線材の両側部に対応する箇所の周辺部を切り欠いて、受け台本体としての大きさを線材幅以下とすることにより、受け台本体上に着氷することを防止して、電極圧接時における電極と線材との接触不能を回避し、安定した測定を可能にするものである。
【0039】
以下、図2を参照しつつ本実施の形態を説明する。図2は本実施の形態の超電導臨界電流測定装置における薄膜超電導線材と測定用電極との接触不能を回避する手段の構造を模式的に示す図であって、(a)は薄膜超電導線材の進行方向に沿う側面図であり、(b)は正面図である。
【0040】
図2に示すように、受け台71は、薄膜超電導線材10の幅以下の幅W0の受け台本体部81と段差71bにより下段に設けられた支持部82とで構成されている。ここで、段差71bの高さは、支持部82に生じた着氷が電流電極70と接触することがないように充分大きく設定されている。
【0041】
受け台本体部81の幅を薄膜超電導線材10の幅以下としているため、受け台本体部81には着氷が生じる恐れがない。また、支持部82に生じた着氷は、段差71bが充分に設けられているため、電流電極70と接触することがない。このため、着氷による電流電極70と薄膜超電導線材10との接触不能を防止することができ、着氷の有無に関係なく、安定した測定を行うことができる。
【0042】
なお、受け台本体部81の幅W0が薄膜超電導線材10の幅に対して狭すぎると、薄膜超電導線材10と電流電極70を充分に接触させることができなく恐れがある。このため、受け台本体部81の幅W0は、薄膜超電導線材10の幅の50〜100%であることが好ましい。
【0043】
(第3の実施の形態)
本実施の形態は、超電導臨界電流測定装置において、電極の形状を工夫することにより、電極と線材との接触を確保するものである。具体的には、電極の大きさを線材幅以下とすることにより、受け台に発生した着氷に関係なく、電極圧接時における電極と線材との接触を確保し、安定した測定を可能にするものである。
【0044】
以下、図3を参照しつつ本実施の形態を説明する。図3は本実施の形態の超電導臨界電流測定装置における薄膜超電導線材と測定用電極との接触不能を回避する手段の構造を模式的に示す図であって、(a)は薄膜超電導線材の進行方向に沿う側面図であり、(b)は正面図である。
【0045】
図3に示すように、電流電極70の幅W1は、薄膜超電導線材10の幅以下に設定されている。これにより、受け台71に着氷Sが生じた場合でも、電流電極70を薄膜超電導線材10に確実に圧接させることができる。このため、着氷による電流電極70と薄膜超電導線材10との接触不能を防止することができ、着氷の有無に関係なく、安定した測定を行うことができる。
【0046】
なお、電流電極70の幅W1が薄膜超電導線材10の幅に対して狭すぎると、薄膜超電導線材10と電流電極70を充分に接触させることができなくなる恐れがある。このため、電流電極70の幅W1は、薄膜超電導線材10の幅の50〜100%であることが好ましい。
【符号の説明】
【0047】
10 薄膜超電導線材
21 送り出し機構
22 巻き取り機構
23、24 プーリー
60 液体窒素溜め
61 液体窒素
70、72 電流電極
71、73、75、77 受け台
71a 難着氷部
71b 段差
74、76 電圧電極
81 受け台本体部
82 支持部
S 着氷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測用線材を支える受け台を有し、前記受け台上の前記被計測用線材に電流電極および電圧電極である測定用電極を直接圧接して電流を流すことにより超電導臨界電流を測定する直接通電方式の超電導臨界電流測定装置であって、
着氷により前記測定用電極と前記被計測用線材とが接触不能となることを回避する手段を備えることを特徴とする超電導臨界電流測定装置。
【請求項2】
前記手段は、前記受け台のうち少なくとも前記被計測用線材との接触部の周辺部を難着氷材料で形成することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導臨界電流測定装置。
【請求項3】
前記手段は、前記受け台のうち、前記被計測用線材との接触部分の幅寸法を前記被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定し、前記被計測用線材と接触しない部分の位置は前記接触部分よりも低くすることにより構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導臨界電流測定装置。
【請求項4】
前記手段は、前記測定用電極の幅寸法を前記被計測用線材の幅寸法の50〜100%の範囲に設定することにより構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超電導臨界電流測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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