説明

超電導薄膜線材、および超電導ケーブル

【課題】フォーマ上にラップ巻きしても、フォーマ上における巻回当初の状態を維持し易い超電導薄膜線材、およびこの超電導薄膜線材を用いた超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】表面段差1SCと、表面薄肉部1SAと、裏面段差1RCと、裏面薄肉部1RAと、を備える。表面段差1SCは、超電導薄膜線材1の表面側で、かつ線材1の幅方向の一端側で、線材1の長手方向に沿って形成される。表面薄肉部1SAは、表面段差1SCから線材1の幅方向の一端にわたる領域であり、表面段差1SCよりも低い領域である。裏面段差1RCは、線材1の裏面側で、かつ線材1の幅方向の他端側で、線材1の長手方向に沿って形成される。裏面薄肉部1RAは、裏面段差1RCから線材1の幅方向の他端にわたる領域であり、裏面段差1RCよりも低い領域である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状の基板上に薄膜状の超電導層を形成した本体部と、本体部の表裏に貼り付けられた補強部材とを備える超電導薄膜線材、およびその超電導薄膜線材を用いた超電導ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力供給路を構成する電力ケーブルとして、例えば、特許文献1に示す超電導ケーブルが知られている。その超電導ケーブルの代表的な構成を図5に示す。図5に示す超電導ケーブル100は、ケーブルコア10を三心撚り合わせた状態で断熱管20内に収納した構造を備える。断熱管20は、内管21と外管22とからなる二重管構造のコルゲート管であり、両管21、22の間にはスーパーインシュレーションなどの断熱材23が配されている。また、断熱管20のうち外管22の外周には防食層24が形成されている。
【0003】
ケーブルコア10は、中心から順にフォーマ11、超電導導体層12、電気絶縁層13、超電導シールド層14、保護層15を備える。フォーマ11は、超電導導体層12を保形する断面略円形の部材である。超電導導体層12は、フォーマ11の外周に超電導線材を螺旋状に単層あるいは多層に巻回することで形成されている。電気絶縁層13は、超電導導体層の外周に絶縁性材料を巻回して形成されている。超電導シールド層14は、電気絶縁層13の外周に、超電導導体層12と同様の超電導線材を螺旋状に巻回して形成されており、ケーブル100の外部への磁界の漏洩を防止する。また、保護層15は、保護層15より内側の層が断熱管20の内管21に接触することを防止する層で、クラフト紙や布などにより形成されている。
【0004】
超電導導体層12を形成する超電導線材として、図6に示すような横断面構造を有する超電導薄膜線材120を用いることが検討されている。この超電導薄膜線材120は、テープ状の基板121、およびその基板121上に蒸着などによって薄膜状に形成される超電導層122を備える本体部120Bと、本体部120Bの表面側に形成される表面補強部材120Sと、本体部120Bの裏面側に形成される裏面補強部材120Rと、を備える。このような超電導薄膜線材120は、超電導層122の厚みが薄いため、超電導薄膜線材120の長手方向・幅方向の各々に平行な磁場成分(平行磁場)に対する交流損失が少ないと言われている。
【0005】
従来、このような超電導薄膜線材120をフォーマ11上に螺旋状に巻回するに場合、図7(A)に示すようにフォーマ11の周方向に隣接する超電導薄膜線材120,120の側縁の間にギャップgを形成するギャップ巻きを行なっていた。しかし、ギャップ巻きをすると、そのギャップgの位置に磁場の乱れが生じ易く、その結果としてギャップgの位置に超電導薄膜線材120の厚み方向(つまり、超電導ケーブルの径方向に同じ)の磁場成分(垂直磁場)が発生して超電導ケーブルの交流損失を増加させる恐れがある。そこで近年では、図7(B)に示すように、フォーマ11の周方向に隣接する超電導薄膜線材120,120の側縁同士をオーバーラップさせるラップ巻きを行なうことが検討されている(非特許文献1参照)。そうすることで、上記垂直磁場の発生を抑え、超電導ケーブルの交流損失を効果的に低減できることが明らかになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−064041号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Reduction of AC losses in HTS power transmission cables made of coated conductors by overlapping the tapes ; Supercond. Sci. Technol. 24(3 December 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記非特許文献1の技術のように、フォーマ11上に超電導薄膜線材120をラップ巻きすると、超電導ケーブルを布設する際に超電導ケーブルを曲げたりしたとき、当該線材120がフォーマ11の周方向にズレ易いという問題がある。これは、超電導薄膜線材120の側縁が他の超電導薄膜線材120の側縁に乗り上げる形になっているためと考えられる。このように超電導薄膜線材120の位置ズレが生じると、隣接する超電導薄膜線材120,120間に間隔が空いて両線材120,120の間にギャップができたり、逆にオーバーラップ長rが当初の長さよりも長くなったりして、作製時に得られた送電特性を発揮することができない超電導ケーブルとなる恐れがある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、フォーマ上にラップ巻きしても、フォーマ上における巻回当初の状態を維持し易い超電導薄膜線材、およびこの超電導薄膜線材を用いた超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明超電導薄膜線材は、テープ状の基板上に薄膜状の超電導層を形成した本体部と、前記本体部の表面側に設けられる表面補強部材と、前記本体部の裏面側に設けられる裏面補強部材と、を備える。この本発明超電導薄膜線材の表面側で、かつ当該線材の幅方向の一端側には、当該線材の他端側から一端側に向かって階段状に下がる表面段差が当該線材の長手方向に沿って形成されており、その表面段差によって当該表面段差から前記幅方向の一端にわたって表面薄肉部が形成されている。また、本発明超電導薄膜線材の裏面側で、かつ当該線材の幅方向の他端側には、当該線材の一端側から他端側に向かって階段状に下がる裏面段差が当該線材の長手方向に沿って形成されており、その裏面段差によって当該裏面段差から前記幅方向の他端にわたって裏面薄肉部が形成されている。
【0011】
上記本発明超電導薄膜線材によれば、フォーマ上にラップ巻きして超電導ケーブルの超電導導体層を形成する際、フォーマの周方向に隣接する一方の超電導薄膜線材の表面薄肉部を、他方の超電導薄膜線材の裏面薄肉部に重ね合わせるだけで、両線材同士のオーバーラップ長を適正な長さにすることができる。
【0012】
また、本発明超電導薄膜線材によれば、超電導ケーブルを作製した後も、フォーマの周方向に隣接する超電導薄膜線材同士のオーバーラップ長を維持し易い。それは、フォーマ上でフォーマの周方向に隣接する一方の超電導薄膜線材の移動が、他方の超電導薄膜線材の段差により規制されるからである。
【0013】
さらに、本発明超電導薄膜線材によれば、フォーマの周方向に隣接する一方の超電導薄膜線材が他方の超電導薄膜線材に乗り上げる高さが従来よりも低くなるため、超電導ケーブルの外径を、従来構成よりも小さくすることができる。
【0014】
本発明超電導薄膜線材の一形態として、前記表面薄肉部は、前記表面補強部材の一部が階段状に薄くなることで形成され、前記裏面薄肉部は、前記裏面補強部材の一部が階段状に薄くなることで形成されている構成とすることが挙げられる。
【0015】
上記構成とすることで、本体部の表面側と裏面側の全面を補強部材で補強することができるので、本体部の超電導層の損傷を効果的に防止することができる。
【0016】
上記薄肉部に補強部材がある構成において、前記表面薄肉部と前記裏面薄肉部はそれぞれ、表面係合部と裏面係合部を備えることが好ましい。
【0017】
両薄肉部にある補強部材に係合部を形成することで、二つの超電導薄膜線材を当該線材の幅方向に部分的に重ねて並べたときに、一方の超電導薄膜線材の表面係合部と、他方の超電導薄膜線材の裏面係合部とが引っ掛かり、二つの超電導薄膜線材が互いに離れる方向に移動することを効果的に規制することができる。
【0018】
本発明超電導薄膜線材の一形態として、前記表面薄肉部は、前記表面補強部材が設けられていないことによって形成されており、前記裏面薄肉部は、前記裏面補強部材が設けられていないことによって形成されている構成とすることが挙げられる。
【0019】
上記構成によれば、本体部よりも短い幅の補強部材を本体部に取り付けるだけで、薄肉部を容易に形成することができる。
【0020】
本発明超電導薄膜線材の一形態として、前記表面薄肉部以外の部分における前記表面補強部材の厚みは、前記幅方向の一端側から他端側に向かって漸次薄くなるように形成されており、前記裏面薄肉部以外の部分における前記裏面補強部材の厚みは、前記幅方向の他端側から一端側に向かって漸次薄くなるように形成されている構成とすることが好ましい。
【0021】
上記構成とすることで、後述する実施形態3で説明するように、フォーマ上にラップ巻きされる複数の超電導薄膜線材に外接する包絡円の径を小さくすることができる。
【0022】
本発明超電導ケーブルは、フォーマと超電導導体層とを備える。この本発明超電導ケーブルでは、複数の本発明超電導薄膜線材をフォーマ上に螺旋状にラップ巻きすることで超電導導体層が形成されており、フォーマ上の周方向に隣接する二つの超電導薄膜線材のうち、一方の超電導薄膜線材の表面薄肉部と、他方の超電導薄膜線材の裏面薄肉部とが重複している。
【0023】
本発明超電導ケーブルは、布設の際に曲げたりしても、作製当初の送電特性を維持することができる。それは、本発明超電導ケーブルの超電導導体層が、本発明超電導薄膜線材をラップ巻きすることで形成されており、本発明超電導薄膜線材の構成によって当該線材の作製当初の巻回状態が効果的に維持されるからである。
【発明の効果】
【0024】
本発明超電導薄膜線材によれば、フォーマの外周にラップ巻きしたときに、その巻回形状が維持され易い。そのため、本発明超電導薄膜線材をフォーマ上にラップ巻きすることで得られる本発明超電導ケーブルの交流損失を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A)は実施形態1に示す超電導薄膜線材の概略横断面図、(B)は当該線材をフォーマ上にラップ巻きした状態を示す概略図である。
【図2】(A)は実施形態2に示す超電導薄膜線材の概略横断面図、(B)は当該線材をフォーマ上にラップ巻きした状態を示す概略図である。
【図3】(A)は実施形態3に示す超電導薄膜線材の概略横断面図、(B)は当該線材をフォーマ上にラップ巻きした状態を示す概略図である。
【図4】(A)は実施形態4に示す超電導薄膜線材をフォーマ上にラップ巻したときの隣接する超電導薄膜線材の重複部分近傍の拡大横断面図、(B)は(A)とは異なる構成を備える超電導薄膜線材をフォーマ上にラップ巻きしたときの隣接する超電導薄膜線材の重複部分近傍の拡大横断面図である。
【図5】超電導ケーブルのカットモデルの概略斜視図である。
【図6】従来の超電導薄膜線材の概略横断面図である。
【図7】複数の超電導薄膜線材をフォーマの周方向に並べて螺旋状に巻回した状態を説明する概略横断面図であって、(A)は超電導薄膜線材をギャップ巻きしたもの、(B)は超電導薄膜線材をラップ巻きしたものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明超電導薄膜線材、およびその超電導薄膜線材をフォーマ上にラップ巻きすることで形成される超電導導体層を備える超電導ケーブルの実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、本発明の超電導ケーブルは、当該超電導ケーブルの超電導導体層を構成する超電導薄膜線材以外は、図5、図7(B)を参照して説明した従来の超電導ケーブルと同一である。従って、以下の実施形態では、超電導薄膜線材の構成を中心に説明する。
【0027】
<実施形態1>
≪超電導薄膜線材の全体構成≫
図1に示す超電導薄膜線材1は、従来のものと同様に、本体部120Bと、本体部120Bの表面側に設けられる表面補強部材1Sと、本体部120Bの裏面側に設けられる裏面補強部材1Rと、を備える。但し、補強部材1S,1Rの構成が、従来とは異なる。以下、超電導薄膜線材1の各構成を順次詳細に説明する。
【0028】
[本体部]
本体部120Bは、テープ状の基板121と、この基板121上に薄膜状に形成される超電導層122とを備える。そのうち、基板121には、磁性を有する合金(単体金属も含む)、あるいは非磁性の合金(単体金属も含む)を利用することができる。磁性を有する合金としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、Ni−W合金といったニッケル合金、珪素鋼、パーマロイ、フェライト、強磁性ステンレス(例、SUS430)といった鉄含有物などが挙げられる。一方、非磁性の合金としては、例えば、非磁性ステンレス(例、SUS304)や、ハステロイ(登録商標)などが挙げられる。なお、基板121は、上記磁性材料や非磁性材料で構成される単層構造としても良いし、磁性材料と非磁性材料とを積層した多層構造としても良い。
【0029】
基板121の寸法は、図5に示すように、フォーマ11の外周に無理なく巻回でき、かつ、後述する超電導層122を保持できるように選択すると良い。例えば、基板121の厚さは、50μm〜200μm程度、幅は1mm〜30mm程度とすることが好ましい。
【0030】
本体部120Bに備わる超電導層122は、上記基板121上に蒸着などで形成される薄膜状の超電導体からなる層である。その構成材料には、冷媒として液体窒素を使用可能な超電導体を利用することが好ましい。具体的には、高温酸化物超電導体、より具体的には、Y(イットリウム)、Ho(ホルミウム)、Nd(ネオジウム)、Sm(サマリウム)、Gd(ガドリウム)といった希土類元素を含むRE系超電導体(RE系酸化物超電導体)が挙げられる。RE系超電導体は、REBaCu7−d(RE123)が代表的であり、具体的な組成としては、YBCO、HoBCO、GdBCOが挙げられる。
【0031】
超電導層122の寸法は、図5に示すように、フォーマ11の外周に無理なく巻回でき、かつ、超電導ケーブルが所望の送電特性を発揮できるように選択すると良い。例えば、超電導層122の厚さは、0.5μm〜10μmとすることが好ましく、1μm〜5μmとすることがより好ましい。
【0032】
[表面補強部材・裏面補強部材]
本体部120Bの表面側(即ち、超電導層122側)に設けられる表面補強部材1Sと、本体部120Bの裏面側に設けられる裏面補強部材1Rは共に、曲げ応力などにより損傷し易い超電導層122を補強する板材であって、半田などにより本体部120Bに貼り付けられている。これら補強部材1S,1Rは、強度と靱性に優れる金属材料、例えば、銅や銅合金、ステンレス、ハステロイ(登録商標)、高強度繊維材などで構成することが好ましい。
【0033】
両補強部材1S,1Rの厚さは、補強部材1S,1Rに要求される強度に応じて適宜選択することができる。例えば、両補強部材1S,1Rの厚さは10μm〜100μmとすることが好ましい。一方、両補強部材1S,1Rの幅は、本実施形態では、本体部120Bの幅よりも短く形成されている。
【0034】
上記構成の表面補強部材1Sは、超電導薄膜線材1の幅方向の他端側(図面上では紙面左側)に偏って形成されている。このような構成とすることで、超電導薄膜線材1の表面側(紙面上側)で、かつ、幅方向の一端側では、表面補強部材1Sの一端側の側縁によって線材1の長手方向に沿って伸びる表面段差1SCが形成される。つまり、この実施形態1の超電導薄膜線材1では、表面段差1SCから幅方向の一端側にかけて表面補強部材1Sが設けられないことになる。その結果、表面段差1SCから幅方向の一端にかけての領域は、表面段差1SCの頂点の位置よりも低い表面薄肉部1SAとなる。一方、この表面薄肉部1SA以外の部分、即ち、表面段差1SCから幅方向の他端にかけての領域である表面非薄肉部1SBには、表面補強部材1Sが設けられている。
【0035】
また、上記構成の裏面補強部材1Rは、超電導薄膜線材1の幅方向の一端側(図面上では紙面右側)に偏って形成されている。このような構成とすることで、超電導薄膜線材1の裏面側(紙面下側)で、かつ、幅方向の他端側では、裏面補強部材1Rの他端側の側縁によって線材1の長手方向に沿って伸びる裏面段差1RCが形成される。つまり、この実施形態1の超電導薄膜線材1では、裏面段差1RCから幅方向の他端にかけての領域は、裏面段差1RCよりも低くなった裏面薄肉部1RAとなる。その結果、超電導薄膜線材1では、裏面段差1RCから幅方向の一端側にかけての領域は、裏面段差1RCの頂点の位置よりも低い裏面薄肉部1RAとなる。一方、この裏面段差1RC以外の部分、即ち、裏面段差1RCから幅方向の一端にかけての領域である裏面非薄肉部1RBには、裏面補強部材1Rが設けられている。
【0036】
補強部材1S,1Rを本体部120Bの幅方向に偏らせて形成する薄肉部1SA,1RAの幅は、0.1〜2mm程度とすることが好ましい。この幅が大きすぎると、後述するように超電導薄膜線材1をフォーマ11上にラップ巻したときに、オーバーラップ長が長くなりすぎる。逆に、上記幅が小さすぎると、垂直磁場の低減効果が得られない恐れがある。より好ましい薄肉部1SA,1RAの幅は、0.2〜1mm程度である。
【0037】
上記補強部材1S,1Rを本体部120Bに設けるには、本体部120Bに補強部材1S,1Rを沿わせて半田浴に浸漬すると良い。その他、接着剤によって本体部120Bと補強部材1S,1Rとを接着しても良い。
【0038】
[その他]
図1に示す超電導薄膜線材1において、基板121と超電導層122の間に中間層(図示せず)を介在させてもよい。中間層を設けることで、超電導層122を形成する際の熱などによって、基板121と超電導層122との相互拡散が生じて超電導薄膜線材1としての性能が劣化することを抑制し易い。中間層を構成する材質は、例えば酸化セリウム(CeO)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、安定化ジルコニア、バリウムジルコネート(BaZrO)、SrTiO、アルミン酸ランタン、GdZr、SmGdO、RE、及びAlの中から選択される1種以上で構成されており、単層又は多層に形成してもよい。この中間層は、100nm〜3μm程度あれば十分で、スパッタリング法などの物理蒸着法により形成することができる。
【0039】
その他、超電導層122と表面補強部材1Sとの間に安定化層を設けても良い。この安定化層は、超電導層122と表面補強部材1Sとの接着を確実にすると共に、超電導層122の保護のために設けられるもので、例えば銀により構成することができる。また、基板121と裏面補強部材1Rとの間に安定化層を設けても良い。この安定化層は、基板121と裏面補強部材1Rとの接着を確実にするために設けられるもので、例えば銀により構成することができる。
【0040】
≪フォーマへの超電導薄膜線材の巻回≫
以上説明した超電導薄膜線材1は、図1(B)に示すように、フォーマ11の周方向に複数本並べた状態で、フォーマ11上に螺旋状に巻回する。その際、フォーマ11の周方向に隣接する一方の超電導薄膜線材1の表面薄肉部1SAが、他方の超電導薄膜線材1の裏面薄肉部1RAに重なるようにする。具体的には、紙面右側の超電導薄膜線材1の裏面薄肉部1RAは、紙面中央の超電導薄膜線材1の表面薄肉部1SAに重ね、紙面中央の超電導薄膜線材1の裏面薄肉部1RAは、紙面左側の超電導薄膜線材1の表面薄肉部1SAに重ねる。これを、フォーマ11の全周にわたって行なう。このように、フォーマ11の周方向に隣接する超電導薄膜線材1,1の薄肉部1SA,1RAを重ね合わせるだけで、両線材1,1同士のオーバーラップ長を適正な長さにすることができる。
【0041】
また、超電導薄膜線材1を用いて超電導導体層を形成すれば、超電導ケーブルを作製した後も、フォーマ11の周方向に隣接する超電導薄膜線材1,1同士のオーバーラップ長を維持し易い。それは、フォーマ11上でフォーマ11の周方向に隣接する一方の超電導薄膜線材1が、他方の超電導薄膜線材1の段差により規制されるからである。例えば、図1(B)の中央の超電導薄膜線材1が反時計回りに回転しようとしても、中央の線材1の本体部120Bの側端が左側の線材1の表面段差1SCに当て止めされる、もしくは中央の線材1の裏面段差1RCが左側の線材1の本体部120Bに当て止めされる(図1(A)を合わせて参照)。また、中央の線材1が時計回りに回転しようとしても、中央の線材1の表面段差1SCが右側の線材1の本体部120B、もしくは中央の線材1の本体部120Bが右側の線材1の裏面段差1RCに当て止めされる。
【0042】
さらに、超電導薄膜線材1によれば、フォーマ11の周方向に隣接する一方の超電導薄膜線材1が他方の超電導薄膜線材1に乗り上げる高さが従来よりも低くなるため、フォーマ11上に巻回された複数の超電導薄膜線材1,1…に外接する包絡円の径も従来構成より小さくなり、超電導ケーブルの太径化を抑制することができる。
【0043】
<実施形態2>
実施形態2では、表面補強部材と裏面補強部材の構成が実施形態1とは異なる超電導薄膜線材を図2に基づいて説明する。当該補強部材以外の構成は、実施形態1と同様であるため、この実施形態2では実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0044】
図2に示すように、本実施形態2で使用する表面補強部材2Sは、本体部120Bの幅方向の一端側が局所的に薄くなっている。そのため、表面補強部材2Sの局所的に薄くなっている部分により表面薄肉部2SAが形成され、薄くなっている部分以外の部分により表面非薄肉部2SBが形成される。そして、表面補強部材2Sの厚い部分と薄い部分との境界によって表面段差2SCが形成される。
【0045】
一方、本実施形態2で使用する裏面補強部材2Rは、本体部120Bの幅方向の一端側が局所的に薄くなっている。そのため、裏面補強部材2Rの局所的に薄くなっている部分により裏面薄肉部2RAが形成され、薄くなっている部分以外の部分により裏面非薄肉部2RBが形成される。そして、裏面補強部材2Rの厚い部分と薄い部分との境界によって裏面段差2RCが形成される。
【0046】
補強部材2S,2Rにおける薄くなっている部分の厚み、即ち線材2の薄肉部2SA,2RAの厚みは、5〜50mm程度とすると良い。当該厚みが厚すぎると、段差2SC,2RCを設けた効果が小さくなるし、当該厚みが薄すぎると、本体部120Bに補強部材2S,2Rを取り付けるときに、薄肉の部分が折れたりし易い。
【0047】
ここで、表面薄肉部2SAは、図2(A)に例示するような一様な厚さである必要はない。例えば、表面薄肉部2SAの表面段差2SC側(紙面左側)の厚さが、線材2の幅方向の一端側(紙面右側)に比べて厚くなっていても良いし、薄くなっていても良い。前者の場合、図2(B)に示す、線材2,2…の包絡円の径を小さくすることができる。一方、後者の場合、隣接する超電導薄膜線材2がフォーマ11の周方向に位置ズレし難くなる。
【0048】
実施形態2の構成によっても、図2(B)に示すようにフォーマ11上にラップ巻きすることで、実施形態1と同様の効果を奏することができる。加えて、実施形態2の構成によれば、本体部120Bの表面(裏面)全体を、表面補強部材2S(裏面補強部材2R)で保護することができる。
【0049】
<実施形態3>
実施形態3では、補強部材の非薄肉部の構成が実施形態2とは異なる超電導薄膜線材を図3に基づいて説明する。当該補強部材以外の構成は、実施形態2と同様であるため、この実施形態3では実施形態2との相違点を中心に説明する。
【0050】
図3(A)に示すように、実施形態3の超電導薄膜線材3では、表面非薄肉部3SBにおける表面補強部材3Sの厚さが、線材3の幅方向の一端側(紙面右側)から他端側(紙面左側)に向かって漸次薄くなるように形成されている。また、裏面非薄肉部3RBにおける裏面補強部材3Rの厚さが、線材3の幅方向の他端側から一端側に向かって漸次薄くなるように形成されている。非薄肉部3SB,3RBの最も薄い部分の厚さは、補強部材3S,3Rの強度や扱い易さを考慮して、5μm以上とすることが好ましい。なお、表面薄肉部3SA、表面段差3SC、裏面薄肉部3RA、裏面段差3RCの構成は、実施形態2と同様である。
【0051】
上述したように両非薄肉部3SB,3RBを上記形状に形成することで、図3(B)に示すように、複数の超電導薄膜線材3をフォーマ11の外周の周方向に並べて巻回したときに、それら超電導薄膜線材3に外接する包絡円の径を、実施形態2の構成よりも小さくすることができる。
【0052】
<実施形態4>
実施形態4では、実施形態2の構成に加えて係合部を形成した例を図4に基づいて説明する。係合部以外の構成は実施形態2と同様であるため、この実施形態4では、係合部の構成と、係合部の係合状態のみ説明する。参照する図4も、係合部近傍のみを図示する。
【0053】
図4(A)に示す超電導薄膜線材4は、表面薄肉部4SAに表面係合部4SDを、裏面薄肉部4RAに裏面係合部4RDを備える。これら係合部4SD,4RDは、ほぼ同一形状の突起であって、二つの超電導薄膜線材4,4を並列させたときに両線材4,4が互いに離れる方向に移動することを阻害する。係合部4SD,4RDの形状は、線材4の移動を規制することができれば良く、例えば、図4(A)に示すように、断面矩形とすると良い。その他、断面三角形やドーム形の係合部としても構わない。
【0054】
また、図4(A)とは異なり、図4(B)に示すように表面薄肉部5SAと裏面薄肉部5RAに形状の異なる係合部5SD,5RDを備える超電導薄膜線材5としても良い。係合部5SDは、断面三角形の溝であり、係合部5RDは、断面三角形の突起であり、これら係合部5SD,5RDは互いに相補的な形状である(もちろん、裏面薄肉部5RAに溝、表面薄肉部5SAに突起が形成されていても良い)。このような係合部5SD,5RDとすることで、フォーマの周方向に隣接する一方(紙面左側)の超電導薄膜線材5の表面薄肉部5SAと、他方(紙面右側)の超電導薄膜線材5の裏面薄肉部5RAとをほぼ面接触させることができる。その結果、フォーマ上に巻回した複数の超電導薄膜線材5の包絡円を、図4(A)の構成よりも小さくすることができる。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、実施形態1〜4の構成を適宜組み合わせても良い(例えば、実施形態1+4、2+4など)。その他、本体部の表面側あるいは裏面側の一方においては実施形態1のように薄肉部に補強部材がない構成を採用し、他方においては実施形態2や3のように薄肉部に補強部材がある構成を採用しても良い。その場合、特に、超電導層に面する表面側には、薄肉部に補強部材がある構成を採用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明超電導薄膜線材は、交流損失の少ない超電導ケーブルを作製することに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1〜5 超電導薄膜線材
120B 本体部
121 基板 122 超電導層
1S〜5S 表面補強部材
1SA〜5SA 表面薄肉部 1SB〜5SB 表面非薄肉部
1SC〜5SC 表面段差 4SD,5SD 表面係合部
1R〜5R 裏面補強部材
1RA〜5RA 裏面薄肉部 1RB〜5RB 裏面非薄肉部
1RC〜5RC 裏面段差 4RD,5RD 裏面係合部
100 超電導ケーブル
10 ケーブルコア
11 フォーマ 12 超電導導体層 13 電気絶縁層
14 超電導シールド層 15 保護層
20 断熱管 21 内管 22 外管
23 断熱材 24 防食層
120 超電導薄膜線材
120S 表面補強部材 120R 裏面補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基板上に薄膜状の超電導層を形成した本体部と、前記本体部の表面側に設けられる表面補強部材と、前記本体部の裏面側に設けられる裏面補強部材と、を備える超電導薄膜線材であって、
超電導薄膜線材の表面側で、かつ当該線材の幅方向の一端側で、当該線材の他端側から一端側に向かって階段状に下がる表面段差が当該線材の長手方向に沿って形成されており、その表面段差によって当該表面段差から前記幅方向の一端にわたって形成される表面薄肉部と、
超電導薄膜線材の裏面側で、かつ当該線材の幅方向の他端側で、当該線材の一端側から他端側に向かって階段状に下がる裏面段差が当該線材の長手方向に沿って形成されており、その裏面段差によって当該裏面段差から前記幅方向の他端にわたって形成される裏面薄肉部と、
を備えることを特徴とする超電導薄膜線材。
【請求項2】
前記表面薄肉部は、前記表面補強部材の一部が階段状に薄くなることで形成され、
前記裏面薄肉部は、前記裏面補強部材の一部が階段状に薄くなることで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導薄膜線材。
【請求項3】
前記表面薄肉部と前記裏面薄肉部はそれぞれ、表面係合部と裏面係合部を備え、
二つの超電導薄膜線材を当該線材の幅方向に部分的に重ねて並べたときに、一方の超電導薄膜線材の表面係合部と、他方の超電導薄膜線材の裏面係合部とが引っ掛かり、二つの超電導薄膜線材が互いに離れる方向に移動することを規制することを特徴とする請求項2に記載の超電導薄膜線材。
【請求項4】
前記表面薄肉部は、前記表面補強部材が設けられていないことによって形成されており、
前記裏面薄肉部は、前記裏面補強部材が設けられていないことによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導薄膜線材。
【請求項5】
前記表面薄肉部以外の部分における前記表面補強部材の厚みは、前記幅方向の一端側から他端側に向かって漸次薄くなるように形成されており、
前記裏面薄肉部以外の部分における前記裏面補強部材の厚みは、前記幅方向の他端側から一端側に向かって漸次薄くなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の超電導薄膜線材。
【請求項6】
フォーマと超電導導体層とを備える超電導ケーブルであって、
前記超電導導体層は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の超電導薄膜線材を複数、前記フォーマ上に螺旋状にラップ巻きすることで形成されており、
前記フォーマ上の周方向に隣接する二つの超電導薄膜線材のうち、一方の超電導薄膜線材の表面薄肉部と、他方の超電導薄膜線材の裏面薄肉部とが重複していることを特徴とする超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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