説明

超電導電磁石装置の励磁方法およびそれに使用される超電導電磁石装置

【課題】クライオスタット内への熱侵入量を低減することができる超電導電磁石装置の励磁方法と超電導電磁石装置を提案する。
【解決手段】複数の超電導シムコイルの中の少なくとも1つの特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、励磁電源から超電導メインコイルに流れる励磁電流を変化させる状態で、特定の超電導シムコイルに接続された永久電流シムスイッチをオン状態とし、特定の超電導シムコイルに誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流を流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超電導電磁石装置の励磁方法およびそれに使用される超電導電磁石装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に超電導電磁石装置では、磁場を発生する超電導メインコイルは、冷却するためにクライオスタットの中に設置され、この超電導メインコイルによる磁場の均一度を改善するために、同じクライオスタットの中に、複数の超電導シムコイルが設置される。特許文献1の図8に開示された超電導電磁石装置では、超電導メインコイルと複数の超電導シムコイルは、それぞれクライオスタットの外部に配置された励磁電源に電流リードを通じて接続されている。超電導メインコイルには永久電流メインスイッチが並列に接続され、また、各超電導シムコイルにはそれぞれ永久電流シムスイッチが並列に接続される。
【0003】
この従来の超電導電磁石装置では、永久電流メインスイッチと各永久電流シムスイッチを抵抗状態、すなわちオフ状態とし、超電導メインコイルと超電導シムコイルに励磁電源から励磁電流を流した状態において、永久電流メインスイッチと各永久電流シムスイッチをともに超電導状態、すなわちオン状態とする。その結果、超電導メインコイルと永久電流メインスイッチを含む永久電流回路、および各超電導シムコイルとそれに対応する永久電流シムスイッチを含む各永久電流回路に、永久的に電流を流し、超電導メインコイルと各超電導シムコイルにより、高い均一度の磁場を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−156316号公報の図8とその説明
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の図8に示された従来の超電導電磁石装置では、複数の超電導シムコイルのそれぞれを励磁電源に接続する電流リードに、励磁電源から励磁電流を流す必要がある。これらの電流リードは、クライオスタットの外部の常温部と、その内部の、例えば4.2Kの冷媒温度とされる低温部とを接続するもので、これらに励磁電流を流すために、低温部への熱侵入量が大きくなる問題がある。
【0006】
この発明は、この問題を改善し、複数の超電導シムコイルに対する電流リードからの熱侵入量を低減することのできる超電導電磁石装置の励磁方法とそれに使用される超電導電磁石装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による超電導電磁石装置の励磁方法は、励磁電源に接続された超電導メインコイル、この超電導メインコイルと磁気的に結合され超電導メインコイルによる磁場の均一度を補正する複数の超電導シムコイル、超電導メインコイルに並列に接続された永久電流メインスイッチ、複数の超電導シムコイルのそれぞれに接続された複数の永久電流シムスイッチ、および超電導メインコイルと複数の超電導シムコイルと永久電流メインスイッチと複数の永久電流シムスイッチを収容するクライオスタットを備えた超電導電磁石装置の励磁方法であって、複数の超電導シムコイルの中の少なくとも1つの特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、励磁電源から前記超電導メインコイルに流れる励磁電流を変化させる状態で、特定の超電導シムコイルに接続された永久電流シムスイッチをオン状態とし、特定の超電導シムコイルに誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流を流すことを特徴とする。
【0008】
この発明による超電導電磁石装置は、励磁電源に接続された超電導メインコイル、この超電導メインコイルと磁気的に結合され超電導メインコイルによる磁場の均一度を補正する複数の超電導シムコイル、超電導メインコイルに並列に接続された永久電流メインスイッチ、複数の超電導シムコイルのそれぞれに接続された複数の永久電流シムスイッチ、および超電導メインコイルと複数の超電導シムコイルと永久電流メインスイッチと複数の永久電流シムスイッチを収容するクライオスタットを備えた超電導電磁石装置であって、複数の超電導シムコイルは励磁電源に接続されておらず、複数の超電導シムコイルの中の少なくとも1つの特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、超電導メインコイルの励磁電流を変化させる状態で、特定の超電導シムコイルに接続された永久電流シムスイッチをオン状態とし、特定の超電導シムコイルに誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流を流すことを特徴とする。
【0009】
また、この発明による超電導電磁石装置は、励磁電源に接続された超電導メインコイル、この超電導メインコイルと磁気的に結合され超電導メインコイルによる磁場の均一度を補正する複数の超電導シムコイル、超電導メインコイルに並列に接続された永久電流メインスイッチ、複数の超電導シムコイルのそれぞれに接続された複数の永久電流シムスイッチ、および超電導メインコイルと複数の超電導シムコイルと永久電流メインスイッチと複数の永久電流シムスイッチを収容するクライオスタットを備えた超電導電磁石装置であって、さらに、励磁電源と永久電流メインスイッチと複数の永久電流シムスイッチを共通に制御する制御装置を備え、複数の超電導シムコイルの中の少なくとも1つの特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、制御装置が超電導メインコイルの励磁電流を変化させる状態で、制御装置が特定の超電導シムコイルに接続された永久電流シムスイッチをオン状態とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明による超電導電磁石装置の励磁方法および超電導電磁石装置では、複数の超電導シムコイルの中の少なくとも1つの特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、超電導メインコイルの励磁電流を変化させる状態で、特定の超電導シムコイルに接続された永久電流シムスイッチをオン状態とし、特定の超電導シムコイルに誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流を流すので、超電導シムコイルを励磁電源に接続する電流リードを削除するか、または、この電流リードに励磁電流を流さないようにすることができ、したがって、電流リードからクライオスタット内への熱侵入量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、この発明による超電導電磁石装置の励磁方法の実施の形態1に使用される超電導電磁石装置を示す電気回路図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係る超電導電磁石装置の励磁方法の動作説明図である。
【図3】図3は、この発明による超電導電磁石装置の励磁方法の実施の形態2に使用される超電導電磁石装置を示す電気回路図である。
【図4】図4は、この発明による超電導電磁石装置の励磁方法の実施の形態3に使用される超電導電磁石装置を示す電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明のいくつかの実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明による超電導電磁石装置の励磁方法の実施の形態1に使用される超電導電磁石装置を示す電気回路図である。この超電導電磁石装置は、超電導メインコイルMCと、超電導シムコイルSCと、永久電流メインスイッチMSと、永久電流シムスイッチSSと、フライホイール回路17と、クライオスタット30と、励磁電源40を備えている。超電導メインコイルMC、超電導シムコイルSC、永久電流メインスイッチMS、永久電流シムスイッチSS、およびフライホイール回路17は、クライオスタット30の内部に収容される。このクライオスタット30内には、液体ヘリウムが封入される。励磁電源40は、超電導メインコイルMCだけを励磁するための励磁電源であって、超電導シムコイルSCを励磁するものではなく、クライオスタット30の外部に配置される。
【0014】
超電導メインコイルMCは、例えば2つの超電導メインコイルMC1、MC2を直列に接続して構成される。超電導シムコイルSCは、互いに独立した複数の超電導シムコイルSC1、SC2、・・・SCnを含んでいる。これらの超電導シムコイルSC1、SC2、・・・、SCnは、超電導メインコイルMCによる磁場の均一度を補正するものであり、超電導メインコイルMCと同軸に互いに異なる位置に配置される。これらの超電導シムコイルSC1、SC2、・・・、SCnは、具体的には互いに等しいインダクタンスを有し、超電導メインコイルMCに互いに同じ極性で磁気的に結合されている。
【0015】
永久電流メインスイッチMSは、超電導メインコイルMCと並列に接続される。この永久電流メインスイッチMSは、例えば熱式永久電流スイッチで構成され、スイッチコイル11と、それに対するヒータ12を含む。この永久電流メインスイッチMSは、超電導状態、すなわちオン状態と、抵抗状態、すなわちオフ状態とを取り得る。ヒータ12は、制御スイッチ13を通じてヒータ電源14に接続される。このヒータ電源14と制御スイッチ13は、クライオスタット30の外部に配置される。スイッチコイル11は、制御スイッチ13がオフとされると、超電導状態、すなわちオン状態となり、また、制御スイッチ13がオンとされ、ヒータ12が加熱されると、抵抗状態、すなわちオフ状態となる。永久電流メインスイッチMSは、そのオン状態において、超電導メインコイルMCに対する永久電流回路15を構成する。この永久電流回路15は、超電導メインコイルMCとスイッチコイル11を含む回路である。
【0016】
フライホイール回路17は、超電導メインコイルMCと並列に接続される。このフライホイール回路17は、一対のフライホイールダイオード171、172を含む。フライホイールダイオード171、172は、互いに逆極性で並列に接続される。
【0017】
励磁電源40は、超電導メインコイルMCに一対の電流リード41、42を通じて超電導メインコイルMCに接続される。電流リード41、42は、クライオスタット30の壁面を貫通するように配置され、超電導メインコイルMCと励磁電源40を接続する。
【0018】
永久電流シムスイッチSSは、複数の永久電流シムスイッチSS1、SS2、・・・、SSnを含む。これらの永久電流シムスイッチSS1、SS2、・・・、SSnは、それぞれ対応する超電導シムコイルSC1、SC2、・・・、SSnに接続される。これらの永久電流シムスイッチSS1、SS2、・・・、SSnは、それぞれ、例えば熱式永久電流スイッチで構成され、スイッチコイル21と、それに対するヒータ22を含む。これらの永久電流シムスイッチSS1、SS2、・・・、SSnは、それぞれ超電導状態、すなわちオン状態と、抵抗状態、すなわちオフ状態とを取り得る。ヒータ22は、制御スイッチ23を通じてヒータ電源24に接続される。このヒータ電源24と制御スイッチ23は、クライオスタット30の外部に配置される。スイッチコイル21は、制御スイッチ23がオフとされると、超電導状態、すなわちオン状態となり、また、制御スイッチ23がオンとされ、ヒータ22が加熱されると、抵抗状態、すなわちオフ状態となる。これらの永久電流シムスイッチSS1、SS2、・・・、SSnは、それぞれそのオン状態において、対応する超電導シムコイルSC1、SC2、・・・、SCnに対する永久電流回路251、252、・・・、25nを構成する。これらの永久電流回路251、252、・・・、25nは、超電導シムコイルSC1、SC2、・・・、SCnと、それに対応するスイッチコイル21を含む回路である。
【0019】
さて、図2は、実施の形態1に係る超電導電磁石装置の励磁方法の動作説明図である。この図2において、(a)は超電導メインコイルMCの励磁電流を示し、また、(b)は永久電流メインスイッチMSのヒータ電流を、(c)は超電導シムコイルSC1の励磁電流を、(d)は永久電流シムスイッチSS1のヒータ電流を、(e)は超電導シムコイルSC2の励磁電流を、(f)は永久電流シムスイッチSS2のヒータ電流を、(g)は超電導シムコイルSC3の励磁電流を、(h)は永久電流シムスイッチSS3のヒータ電流を、それぞれ示す。図2(b)のヒータ電流は、ヒータ12を流れる電流であり、また、図2(d)(f)(h)のヒータ電流は、それぞれ超電導シムコイルSC1、SC2、SC3に対応するヒータ22に流れる電流である。図2(b)(d)(f)(h)は、それぞれのヒータ電流のハイレベルHとロウレベルLとともに、それぞれに対応する永久電流メインスイッチMSと各永久電流シムスイッチSS1、SS2、SS3のオフ状態(OFF)とオン状態(ON)をカッコ内に表示している。
【0020】
図2の横軸は、(a)〜(h)に共通な時間軸である。この時間軸に沿って、時点t0〜t14がプロットされる。時点t0と時点t2の間に初期励磁Aが、時点t1と時点t2の間に磁場計測Bが、時点t4と時点t13の間に磁場調整Cが、また、時点t13以降に定常運転Dが示される。
【0021】
図2は、超電導メインコイルMCの励磁電流に加え、超電導シムコイルSCの中の代表する超電導シムコイルSC1、SC2、SC3の励磁電流を示し、併せて、それらに対応する永久電流メインスイッチMSと永久電流シムスイッチSS1、SS2、SS3のヒータ電流を示したものである。この図2を参照して、図1の超電導電磁石装置に対する励磁方法を説明する。なお、図2では、クライオスタット30の内部は、継続して、例えば4.2Kの冷媒温度に維持されるものとする。この温度では、超電導メインコイルMCと超電導シムコイルSC1〜SCnは、すべて超電導状態となり、また、永久電流メインスイッチMSと永久電流シムスイッチSC1〜SCnは、それぞれのヒータ電流がオフされると、超電導状態、すなわちオン状態となる。
【0022】
最初に初期励磁Aが実行される。時点t0において、励磁電源40が出力を開始する。図2(a)に示すように、時点t0から時点t1に向かって、励磁電源40から超電導メインコイルMCへ流れる励磁電流が増大し、時点t1で、この励磁電流が定格電流値IOPに達する。時点t0−t1の間では、図2(b)に示すように、永久電流メインスイッチMSはオフ状態とされ、また、時点t0−t1の間では、図2(d)(f)(h)に示すように、永久電流シムスイッチSS1、SS2、SS3もオフ状態とされ、図2(c)(e)(g)に示すように、超電導シムコイルSC1、SC2、SC3に対する励磁電流はゼロとなる。
【0023】
時点t1−t2の間では、図2(b)に示すように、永久電流メインスイッチMSはオン状態とされ、永久電流シムスイッチSS1、SS2、SS3は、オフ状態とされる。時点t1−t2の間で、磁場計測Bが実行される。この磁場計測Bは、永久電流メインスイッチMSをオン状態とし、超電導メインコイルMCの励磁電流を定格電流値IOPに保持した状態で実行される。この磁場計測Bでは、超電導メインコイルMCによる磁場の均一度が計測され、その均一度を補正するために、各超電導シムコイルSC1〜SCnに対する励磁電流値が決定される。なお、時点t2−t3の間では、永久電流メインスイッチMSおよび永久電流シムスイッチSS1〜SSnはともにオフ状態とされ、超電導メインコイルMCに流れる励磁電流が定格電流値IOPからゼロに戻される。時点t3−t4の間では、超電導メインコイルMCおよび超電導シムコイルSC1〜SCnの励磁電流はゼロとなり、永久電流メインスイッチMSおよび永久電流シムスイッチSS1〜SSnは、すべてオン状態とされる。
【0024】
超電導メインコイルMCが作る磁場は、その製作誤差などにより、超電導電磁石装置の中心部において、磁界均一度に歪みが発生する。この磁界を例えば500mm球の空間において、2ppm以下の高い均一度に均一化する必要があり、この高い均一度の磁場とするために、各超電導シムコイルSC1〜SCnに対する励磁電流値が決定される。各超電導シムコイルSC1〜SCnに対する励磁電流値は、各超電導シムコイルSC1〜SCn毎に独立して決定される。各超電導シムコイルSC1〜SCnに対する励磁電流値は、一般には、第1極性、例えば負極性の励磁電流値と、第2極性、例えば正極性の励磁電流値とが混在するものとされるが、第1極性の励磁電流値ばかりとされるケース、または第2極性の励磁電流値ばかりとされるケースもある。また、励磁電流値がゼロとされる超電導シムコイルも存在し得る。図2は、定常運転Dにおいて、その(c)に示す超電導シムコイルSC1の励磁電流が第1極性の励磁電流値−iとされ、その(e)に示す超電導シムコイルSC2の励磁電流が第1極性の励磁電流値−iとされ、また、その(g)に示す超電導シムコイルSC3の励磁電流が第2極性の励磁電流値+iとされる場合を例示する。
【0025】
時点t4−t13の間で、磁場調整Cが実行される。この磁場調整Cでは、その最終段階において、超電導メインコイルMCに対して、定格電流値IOPの励磁電流を流し、また、各超電導シムコイルSC1〜SCnのそれぞれに対して、磁場計測Bの結果として決定された励磁電流値を流すようにして、磁場調整が行なわれる。図2の例では、磁場調整Cの最終段階において、図2(c)に示す超電導シムコイルSC1の励磁電流が励磁電流値−iとされ、図2(e)に示す超電導シムコイルSC2の励磁電流が励磁電流値−iとされ、また、図2(g)に示す超電導シムコイルSC3の励磁電流が励磁電流値+iとされる。
【0026】
この磁場調整Cについて、超電導シムコイルSC1、SS2、SS3の励磁電流の調整を具体的に説明する。先ず時点t4−t5の間で、永久電流メインスイッチMSと永久電流シムスイッチSS1、SS2、SS3がすべてオフ状態とされ、励磁電源40から超電導メインコイルMCに流れる励磁電流を再度増大させる。時点t5において、超電導メインコイルMCの励磁電流は、(IOP−I)の励磁電流値となり、この励磁電流値が時点t6まで保持される。−Iは、超電導シムコイルSC1の定常運転Dにおける励磁電流値−iに対応する。時点t5−t6の間では、永久電流メインスイッチMSと永久電流シムスイッチSS1、SS2、SS3は、オフ状態を維持するが、時点t6の直前で、永久電流シムスイッチSS1のヒータ電流だけがロウレベルLに変化し、この永久電流シムスイッチSS1が以後、定常運転Dを含めてオン状態を維持する。
【0027】
時点t6−t7の間では、超電導メインコイルMCの励磁電流が、再び増大され、時点t7では、その励磁電流は、(IOP−I)の励磁電流値となり、この励磁電流値が時点t8まで保持される。−Iは、超電導シムコイルSC2の定常運転Dにおける励磁電流値−iに対応する。時点t6−t7の間では、永久電流シムスイッチSS1がオン状態を維持しており、この状態で超電導メインコイルMCの励磁電流が、(IOP−I)から(IOP−I)まで増大する。したがって、時点t6−t7の間では、超電導メインコイルMCの励磁電流が、(IOP−I)から(IOP−I)まで変化することに基づいて、超電導シムコイルSC1に誘導電流が流れる。この誘導電流は、超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+I12=(IOP−I)−(IOP−I)=I−Iに対応する大きさとなり、その変化分の極性が正極性であるので、第1極性、すなわち負極性の励磁電流となる。結果として、超電導シムコイルSC1の励磁電流は、図2(c)に示すように、時点t7において+I12に対応する−i12=−(i−i)=−i+iとなり、この励磁電流値−i12が時点t8まで維持される。
【0028】
時点t7−t8の間では、永久電流シムスイッチSC1はオン状態を維持し、永久電流メインスイッチMSと永久電流シムスイッチSS2、SS3は、オフ状態を維持するが、時点t8の直前で、永久電流シムスイッチSS2のヒータ電流がロウレベルLに変化し、この永久電流シムスイッチSS2が以後、定常運転Dを含めオン状態を維持する。時点t8−t9の間では、永久電流シムスイッチSS1、SS2がオン状態を維持し、永久電流メインスイッチMSと永久電流シムスイッチSS3がオフ状態とされ、励磁電源40から超電導メインコイルMCに流れる励磁電流を再度増大させる。時点t9において、超電導メインコイルMCの励磁電流は、定格電流値IOPに達し、この定格電流値IOPが時点t10まで保持される。
【0029】
時点t8−t9の間では、永久電流シムスイッチSS1、SS2がオン状態を維持しており、この状態で超電導メインコイルMCの励磁電流が、(IOP−I)から定格電流値IOPまで増大する。したがって、時点t8−t9の間では、超電導メインコイルMCの励磁電流が、(IOP−I)から定格電流値IOPまで変化することに基づいて、超電導シムコイルSC1と超電導シムコイルSC2に誘導電流が流れる。この誘導電流は、超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+Iに対応する大きさとなり、その変化分の極性が正極性であるので、第1極性、すなわち負極性の励磁電流となる。結果として、超電導シムコイルSC1の励磁電流は、図2(c)に示すように、時点t9において、(+I12+I)に対応する励磁電流値(−i12−i)=−iまで低下し、この励磁電流値−iが時点t10まで維持される。超電導シムコイルSS2の励磁電流は、図2(e)に示すように、時点t9において、+Iに対応する−iまで低下し、この励磁電流値−iが時点t10まで維持される。
【0030】
時点t10−t11の間では、超電導メインコイルMCの励磁電流が、定格電流値IOPから+Iだけ増大される。+Iは、超電導シムコイルSC3の定常運転Dにおける励磁電流iに対応する。この時点t10−t11の間では、永久電流シムスイッチSS1、SS2がオン状態を維持しており、この状態で超電導メインコイルMCの励磁電流が定格電流値IOPから+Iだけ増大する。したがって、時点t10−t11の間では、超電導メインコイルMCの励磁電流が、定格電流値IOPから(IOP+I)まで変化することに基づいて、超電導シムコイルSC1と超電導シムコイルSC2に誘導電流が流れる。この誘導電流は、超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+Iに対応する大きさとなり、その変化分の極性が正極性であるので、第1極性、すなわち負極性の誘導電流となる。結果として、超電導シムコイルSC1の励磁電流は、図2(c)に示すように、時点t11において、(+I12+I+I)に対応する励磁電流値(−i−i)まで低下し、この励磁電流値(−i−i)が時点t12まで維持される。超電導シムコイルSS2の励磁電流は、図2(e)に示すように、時点t11において、(+I+I)に対応する(−i−i)まで低下し、この励磁電流値(−i−i)が時点t12まで維持される。
【0031】
時点t11−t12の間では、永久電流シムスイッチSS1、SS2はオン状態を維持し、永久電流メインスイッチMSと永久電流シムスイッチSS3は、オフ状態を維持するが、時点t12の直前で、永久電流シムスイッチSS3のヒータ電流がロウレベルLに変化し、この永久電流シムスイッチSS3が以後、定常運転Dを含めオン状態を維持する。
【0032】
時点t12−t13の間では、超電導メインコイルMCの励磁電流が、(IOP+I)から定格電流値IOPまで減少される。+Iは、超電導シムコイルSC3の定常運転Dにおける励磁電流i3に対応する。この時点t12−t13の間では、永久電流シムスイッチSS1、SS2、SS3がオン状態を維持しており、この状態で超電導メインコイルMCの励磁電流が(IOP+I)からIOPまで減少する。したがって、時点t12−t13の間では、超電導メインコイルMCの励磁電流が、(IOP+I)から定格電流値IOPまで変化することに基づいて、超電導シムコイルSC1と超電導シムコイルSC2と超電導シムコイルSC3に誘導電流が流れる。この誘導電流は、超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分−Iに対応する大きさとなり、その変化分の極性が負極性であるので、第2極性、すなわち正極性の誘導電流となる。結果として、超電導シムコイルSC1の励磁電流は、図2(c)に示すように、時点t13において、(+I12+I+I−I)に対応する励磁電流値(−i−i+i)=−iまで増大し、この励磁電流値−iが時点t13以降定常運転Dで維持される。超電導シムコイルSS2の励磁電流は、図2(e)に示すように、時点t13において、(+I+I−I)に対応する(−i−i+i)=−iまで増大し、この励磁電流値−iが時点t13以降定常運転Dで維持される。超電導シムコイルSS3の励磁電流は、図2(g)に示すように、時点t13において、−Iに対応する励磁電流値+iまで増大し、この励磁電流値+iが時点t13以降定常運転Dで維持される。
【0033】
図2の磁場調整Cでは、超電導メインコイルMCは、最終時点t13の励磁電流が定格電流値IOPとされ、超電導シムコイルSS1、SS2、SS3は、最終時点t13の段階の励磁電流が、それぞれ超電導メインコイルMCによる磁場を補正するために決定された励磁電流値−i、−i、+iとされ、加えて、他の超電導シムコイルSS4〜SSnも、最終時点t13の励磁電流が、それぞれ超電導メインコイルMCによる磁場を補正するために決定された励磁電流値に維持される。
【0034】
時点t13以降に、定常運転Dが実行される。時点t14の直前に、永久電流メインスイッチMSがオン状態とされ、超電導メインコイルMCの励磁電流は、以降定格電流値IOPに維持される。時点t14において、図2(a)に点線で示すように、励磁電源40からの励磁電流が遮断される。この定常運転Dは、超電導シムコイルSS1、SS2、SS3を代表として、他の超電導シムコイルSS4〜SSnも、それぞれ決定された励磁電流を維持するので、超電導メインコイルMCと合わせた磁場の均一度は高い均一度に維持される。
【0035】
以上のように、図2の磁場調整Cにおいて、図2(c)に示す超電導シムコイルSC1の励磁電流は、時点t6−t7間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+I12に対応した誘導電流−i12と、時点t8−t9間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+Iに対応した誘導電流−iと、時点t10−t11間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+Iに対応した誘導電流−iと、時点t12−t13間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分−Iに対応した誘導電流+iとの代数和−i12−i−i+i=−i+i−i−i+i=−iとなる。図2(e)に示す超電導シムコイルSC2の励磁電流は、時点t8−t9間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+Iに対応した誘導電流−iと、時点t10−t11間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分+Iに対応した誘導電流−iと、時点t12−t13間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分−Iに対応した誘導電流+iとの代数和−i−i+i=−iとなる。また、図2(g)に示す超電導シムコイルSC3の励磁電流は、時点t12−t13間における超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分−Iに対応した誘導電流+iとなる。
【0036】
このように、各超電導シムコイルSC1〜SCnの励磁電流は、超電導メインコイルMCの励磁電流の変化分に対応した誘導電流として与えられる。この結果、実施の形態1に係る超電導電磁石装置の励磁方法では、各超電導シムコイルSC1〜SCnに対して、それぞれ外部から励磁電流を供給する必要がなくなり、外部からの励磁電流を流す電流リードの発熱がクライオスタット30に侵入する熱侵入量をなくすことができる。また、図1に示す超電導電磁石装置の実施の形態1では、各超電導シムコイルSC1〜SCnをそれぞれシムコイル用励磁電源に接続する必要がなく、このシムコイル用励磁電源と、これを各超電導シムコイルSC1〜SCnに接続する電流リードを省略することができ、この電流リードを経由して外部からクライオスタット30へ侵入する熱侵入量をなくすことができる。例えば、超電導シムコイルSC1〜SCnの最大電流を50A、その数を8個とした場合、超電導シムコイルSC1〜SCnへの総電流量は800Aとなり、約2W程度の熱負荷となるが、この熱負荷を低減することが可能となる。
【0037】
実施の形態2.
図3は、この発明による超電導電磁石装置の励磁方法の実施の形態2に使用される超電導電磁石装置を示す電気回路図である。この図3に示す超電導電磁石装置は、図1に示す超電導電磁石装置に対して、さらに各超電導シムコイルSC1〜SCnのそれぞれに対するシムコイル用励磁電源501〜50nを追加したものである。これらのシムコイル用励磁電源501〜50nは、それぞれクライオスタット30の壁面を貫通する一対の電流リード5011、5012〜50n1、50n2を通じて、対応する超電導シムコイルSC1〜SCnの接続される。その他は、図1と同じに構成される。
【0038】
実施の形態2に係る超電導電磁石装置の励磁方法では、初期励磁A、磁場計測B、磁場調整C、および定常運転Dは、シムコイル用励磁電源501〜50nを使用せずに、図2に示す方法と同じ方法で実施される。シムコイル用励磁電源501〜50nは、定常運転Dにおいて、緊急事態が発生し、超電導電磁石装置を緊急消磁するときに、超電導シムコイルSC1〜SCnの蓄積エネルギーを回収するのに使用される。この緊急消磁では、永久電流メインスイッチMSおよび永久電流シムスイッチSS1〜SSnのすべてが同時にオフ状態とされ、磁場の消磁が行なわれるとともに、超電導メインコイルMCの蓄積エネルギーが励磁電源40に、また超電導シムコイルSC1〜SCnの蓄積エネルギーがシムコイル用励磁電源501〜50nに回収される。
【0039】
実施の形態2に係る超電導電磁石装置の励磁方法およびその超電導電磁石装置では、シムコイル用励磁電源501〜50nと、それらを各超電導シムコイルSC1〜SCnに接続する電流リード5011、5012〜50n1、50n2をなくすことはできないが、初期励磁A、磁場計測B、磁場調整C、緊急消磁までの定常運転Dを通じて、各シムコイル用励磁電源501〜50nから各超電導シムコイルSC1〜SCnへの電流リード5011、5012〜50n1、50n2に励磁電流を流さないようにすることができ、したがって、これらの電流リード5011、5012〜50n1、50n2の発熱がクライオスタット30内へ侵入する熱侵入量を低減することができる。
【0040】
実施の形態3.
図4は、この発明による超電導電磁石装置の励磁方法の実施の形態3に使用される超電導電磁石装置を示す電気回路図である。この図4に示す超電導電磁石装置は、図1に示す超電導電磁石装置に対して、さらに制御装置60を追加したものである。その他は、図1に示す超電導電磁石装置と同じに構成される。
【0041】
制御装置60は、励磁電源40に対する制御信号S40と、制御スイッチ13に対する制御信号S13と、各制御スイッチ23に対する制御信号S231〜S23nを共通に発生する。制御信号S40は、図2(a)に示すように超電導メインコイルMCの励磁電流を制御し、制御信号S13は、制御信号S40に関連して、図2(b)に示すように永久電流メインスイッチMSを制御し、また制御信号S241〜S24nは、制御信号S40に関連して、図2(d)(f)(h)に示すように永久電流シムスイッチSS1〜SSnを制御する。
【0042】
図2に示す励磁方法は、励磁電源40と、制御スイッチ13、23を手動操作することを前提としたものであるが、図4に示す超電導電磁石装置では、制御装置60により、図2に示す励磁方法を自動的に実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明は、例えば医療用磁気共鳴イメージング装置などに使用される超電導電磁石装置とその励磁方法として利用される。
【符号の説明】
【0044】
MC:超電導メインコイル、SC1〜SCn:超電導シムコイル、
MS:永久電流メインスイッチ、SS1〜SSn:永久電流シムスイッチ、
40:励磁電源、60:制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁電源に接続された超電導メインコイル、この超電導メインコイルと磁気的に結合され前記超電導メインコイルによる磁場の均一度を補正する複数の超電導シムコイル、前記超電導メインコイルに並列に接続された永久電流メインスイッチ、前記複数の超電導シムコイルのそれぞれに接続された複数の永久電流シムスイッチ、および前記超電導メインコイルと前記複数の超電導シムコイルと前記永久電流メインスイッチと前記複数の永久電流シムスイッチを収容するクライオスタットを備えた超電導電磁石装置の励磁方法であって、
前記複数の超電導シムコイルの中の少なくとも1つの特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、前記励磁電源から前記超電導メインコイルに流れる励磁電流を変化させる状態で、前記特定の超電導シムコイルに接続された前記永久電流シムスイッチをオン状態とし、前記特定の超電導シムコイルに誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流を流すことを特徴とする超電導電磁石装置の励磁方法。
【請求項2】
請求項1記載の超電導電磁石装置の励磁方法であって、前記特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、前記励磁電源から前記超電導メインコイルに流れる励磁電流を増加させる状態で、前記特定の超電導シムコイルに接続された前記永久電流シムスイッチをオン状態とし、前記特定の超電導シムコイルに第1極性の誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流として流すことを特徴とする超電導電磁石装置の励磁方法。
【請求項3】
請求項1記載の超電導電磁石装置の励磁方法であって、前記特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、前記超電導メインコイルの励磁電流を減少させる状態で、前記特定の超電導シムコイルに接続された前記永久電流シムスイッチをオン状態とし、前記特定の超電導シムコイルに第2極性の誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流を流すことを特徴とする超電導電磁石装置の励磁方法。
【請求項4】
励磁電源に接続された超電導メインコイル、この超電導メインコイルと磁気的に結合され前記超電導メインコイルによる磁場の均一度を補正する複数の超電導シムコイル、前記超電導メインコイルに並列に接続された永久電流メインスイッチ、前記複数の超電導シムコイルのそれぞれに接続された複数の永久電流シムスイッチ、および前記超電導メインコイルと前記複数の超電導シムコイルと前記永久電流メインスイッチと前記複数の永久電流シムスイッチを収容するクライオスタットを備えた超電導電磁石装置であって、
前記複数の超電導シムコイルは励磁電源に接続されておらず、前記複数の超電導シムコイルの中の少なくとも1つの特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、前記超電導メインコイルの励磁電流を変化させる状態で、前記特定の超電導シムコイルに接続された前記永久電流シムスイッチをオン状態とし、前記特定の超電導シムコイルに誘導電流を流し、この誘導電流に基づいて励磁電流を流すことを特徴とする超電導電磁石装置。
【請求項5】
励磁電源に接続された超電導メインコイル、この超電導メインコイルと磁気的に結合され前記超電導メインコイルによる磁場の均一度を補正する複数の超電導シムコイル、前記超電導メインコイルに並列に接続された永久電流メインスイッチ、前記複数の超電導シムコイルのそれぞれに接続された複数の永久電流シムスイッチ、および前記超電導メインコイルと前記複数の超電導シムコイルと前記永久電流メインスイッチと前記複数の永久電流シムスイッチを収容するクライオスタットを備えた超電導電磁石装置であって、さらに、前記励磁電源と前記永久電流メインスイッチと前記複数の永久電流シムスイッチとを共通に制御する制御装置を備え、
前記特定の超電導シムコイルによる補正磁界を調整する場合に、前記制御装置が前記超電導メインコイルの励磁電流を変化させる状態で、前記制御装置が前記特定の超電導シムコイルに接続された前記永久電流シムスイッチをオン状態とすることを特徴とする超電導電磁石装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−263111(P2010−263111A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113513(P2009−113513)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】