説明

超音波を用いた接合面検査方法および接合面検査装置

【課題】 検査対象物の外形の凹凸形状の影響を排除して,検査対象物における検査対象となる接合面の接合状態を精度よく検査することができる超音波検査方法および超音波検査装置を提供すること。
【解決手段】 検査面である接合面31,21に平行に超音波探触子140を,移動させながらインバータ1に超音波を照射しつつ反射波を取得する。取得した反射波のうち,最初の波束を検出した時刻に応じて,検査面における各検査座標を領域Xおよび領域Yに分類する。領域Xは,冷却フィン50が存在する領域である。領域Yは,冷却フィン50が存在しない領域である。領域Xでは,冷却フィン50がある場合に接合面31で反射された波束が大きいものとなるような焦点距離で接合面31を検査する。領域Yでは,冷却フィン50がない場合に接合面31で反射された波束が大きいものとなるような焦点距離で接合面31を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,超音波検査方法および超音波検査装置に関する。さらに詳細には,凹凸のある外形形状を有する検査対象物の内部を検査する超音波検査方法および超音波検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷は,超音波を用いて検査対象物における傷や内部欠陥の有無,もしくは材料の劣化等を検査する非破壊検査方法である。超音波探傷において一般的に用いられている検出方式は反射法である。反射法では,検査対象物に超音波を入射し,検査対象物における被検査部位からの反射波を検出することにより,傷,内部欠陥の有無等を検査する。検査対象物として例えば,鋼管,鋼板,鋼材等が挙げられる。そして超音波探傷技術の利用分野は,原子炉の圧力容器や配管,機械部品,電子部品,建築・構造物など多岐にわたっている。
【0003】
このように超音波が検査対象物の内部を探傷することができるのは,ひとえに,超音波が高い指向性をもって物質内を伝播することに由来する。しかし,その伝播速度は物質毎に異なっており,物質内部もしくは部材間の境界面で反射する反射波は,その伝播する経路によって異なった波形となる。したがって検査対象物の外形形状が複雑なものである場合には,超音波が伝播する経路によって波形の差異が大きい。このような場合に検査したい箇所を高い精度で検査することは困難である。
【0004】
そこで,被検査部位を精度よく検査しようとする超音波検査方法が開発されてきている。例えば,特許文献1では,フィンチューブにおけるフィン溶着部の溶着状態を検査するために焦点型探触子を用いた超音波探傷装置が開示されている。特許文献1に記載の超音波探傷装置では,チューブの内側から超音波を入射し,溶着部の溶着状態を検査することとしている(特許文献1の図1等参照)。また,特許文献2には,検査対象物における非平坦部位置の画像データを除去して平坦部位置のみの画像データを画像表示する超音波検査方法および超音波検査装置が開示されている。検査対象物の表面の凹凸の影響を排除するためである。特許文献3では,微細な凹凸のある鋳物を検査する場合に,欠陥エコーと表面エコーとを識別する超音波探傷方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−165913号公報
【特許文献2】特開2009−58238号公報
【特許文献3】特開平10−206402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,上記のような超音波探傷の検査対象物として,例えば半導体装置が挙げられる。半導体装置には,半導体素子や絶縁部材などが積み重ねられた状態で冷却天板に接合された接合体であって,冷却フィンを備えたものがある。このような半導体装置では,半導体素子で発生した熱は各部材を経由して冷却フィンから半導体装置の外部に放熱されるようになっている。各部材間の接合面に接合不良があると,その接合不良箇所における放熱性は低い。
【0007】
つまり,冷却フィンなどの冷却部材が設けられていても,その途中の放熱経路が確保されていなければ,その冷却効果は十分でない。この放熱経路の伝達抵抗となる原因として,接合面の剥離が挙げられる。半導体装置の接合面のうちに剥離箇所があると,その箇所の冷却効果は他の箇所に比べて小さい。剥離箇所にある空気の層の熱伝導率は高くないからである。
【0008】
冷却フィンが離散的に配置されて接合された半導体装置を検査対象物として超音波探傷により検査する場合には,冷却フィンのある部分とない部分とで,超音波探傷の探傷条件を変える必要がある。例えば,冷却フィンのある箇所とない箇所とで探傷に最適な焦点距離等の条件が変わってしまうことがある。この場合,精度の高い検査を行うことが困難である。このように,冷却フィンが設けられた検査対象物の内部にある接合面を検査することは特許文献1−3に記載の技術では困難である。このような状況は,前述した半導体装置に限らない。すなわち,表面に凹凸があり内部に接合面があるような検査対象物であれば同様の問題が生じるのである。
【0009】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,検査対象物の外形の凹凸形状の影響を排除して,検査対象物における検査対象となる接合面の接合状態を精度よく検査することができる超音波検査方法および超音波検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の超音波を用いた接合面検査方法は,複数の板状の部材を積み重ねて接合された接合面を内部に有するとともに表面に凹凸形状のある検査対象物に,接合面と平行に超音波探触子を移動させつつ複数の検査座標にて検査対象物に超音波を照射し,検査対象物で反射した反射波を検出することにより接合面の接合状態を検査する,超音波を用いた接合面検査方法において,各検査座標にて,検査対象物による反射波に含まれる最初の波束の検出時刻により,超音波探触子から検査対象物までの距離の情報を取得し,その取得した距離の情報に応じてその検査座標が凹凸形状に対応する複数の領域のいずれに属するかを判定する領域判定と,領域判定の結果に応じて,その検査座標が属する領域における距離の情報にて接合面での反射波を検出できる焦点距離の超音波を超音波探触子から検査対象物に照射するとともに,検査対象物による反射波を取得し,取得した反射波に含まれる接合面での反射による波束の波束特徴値を,当該領域について波束特徴値に対して定められた閾値と比較することにより,接合面の剥離の有無を判定する良否判定とを行う検査方法である。かかる超音波を用いた接合面検査方法は,検査対象物の表面の凹凸形状によらず,検査対象である接合面の剥離の有無について検査することができる。
【0011】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,波束特徴値として,接合面での反射による波束のピーク値を用いることを特徴とする超音波を用いることができる。接合面の剥離の有無を検査することができることに変わりないからである。
【0012】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,分類された領域のそれぞれについて,剥離していない接合面による波束の基準波形を予め記憶しておき,波束特徴値として,良否判定で取得した反射波中の接合面での反射による波束の波形と,その検査座標が属する領域に対して記憶されている基準波形との差信号の波形から算出した差信号特徴値を用いることができる。接合面の剥離の有無を検査することができることに変わりないからである。
【0013】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,領域判定にて最初の波束の時刻を検出するための反射波の取得が,良否判定にて波束特徴値の算出に用いるための反射波の取得とは別に実行されるようにするとよい。領域の分類を確実に行うことができるからである。
【0014】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,領域判定を,良否判定にて取得する,複数の焦点距離の反射波のうちの一つの焦点距離の反射波における最初の波束の検出時刻により行うとよい。一つの接合面に対して行う超音波探傷の回数を減らすことができるからである。
【0015】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,接合面の検査結果を画像として出力する出力部を予め用意し,各検査座標にて,波束特徴値と予め定めた閾値とを比較することにより2値化して画像化し,その画像を出力部に出力するとなおよい。検査者が接合面の接合状態を目視により確認し,剥離の有無についてより確実な判断をすることができるからである。
【0016】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,検査対象物が,半導体素子と,板状の絶縁部材と,板状の基材とが積み重ねられて接合されているとともに,基材の外部に面した面に,冷却フィンを離散的に配置されて接合された半導体装置であり,半導体装置の内部に有する接合面を検査するとよい。冷却フィンを有する半導体装置の接合面を,より確実に検査することができるからである。
【0017】
本発明の超音波を用いた接合面検査装置は,内部に接合面を有する検査対象物に向けて超音波を照射するとともに検査対象物からの反射波を受信する超音波探触子と,超音波探触子が超音波を照射するための電圧を供給する超音波送信部と,超音波探触子が受信した超音波を電圧に変換する超音波受信部と,超音波探触子を接合面に平行に移動させる超音波探触子駆動部とを有する,超音波を用いた接合面検査装置において,検査対象物による反射波に含まれる最初の波束の検出時刻により,超音波探触子から検査対象物までの距離の情報を取得し,その取得した距離の情報に応じてその検査座標が凹凸形状に対応する複数の領域のいずれに属するかを各検査座標にて判定する領域判定部と,領域判定部による判定の結果に応じて,その検査座標が属する領域における距離の情報にて接合面での反射波を検出できる焦点距離の超音波を超音波探触子から検査対象物に照射するとともに,検査対象物による反射波を取得し,取得した反射波に含まれる接合面での反射による波束の波束特徴値を,当該領域について波束特徴値に対して定められた閾値と比較することにより,接合面の剥離の有無を各検査座標にて判定する良否判定部とを有するものである。かかる超音波を用いた接合面検査装置は,検査対象物の表面の凹凸形状によらず,検査対象である接合面の剥離の有無について検査することができる。
【0018】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査装置において,良否判定部は,領域判定部により分類されるそれぞれの領域に,剥離していない接合面での反射による波束の基準波形を予め記憶させておく波形記憶部と,良否判定部が取得した反射波中の接合面での反射による波束の波形と,その検査座標が属する領域に対して記憶されている基準波形との差信号の波形の差信号特徴値を各検査座標にて算出する算出部とを有するものであってもよい。接合面の剥離の有無を検査することができることに変わりないからである。
【0019】
上記に記載の超音波を用いた接合面検査装置において,各検査座標にて,波束特徴値と予め定めた閾値とを比較することにより2値化して画像化する制御部と,その画像を出力される出力部とを有するとよい。検査者が接合面の接合状態を目視により確認し,剥離の有無についてより確実な判断をすることができるからである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,検査対象物の外形の凹凸形状の影響を排除して,検査対象物における検査対象となる接合面の接合状態を精度よく検査することができる超音波検査方法および超音波検査装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態に係る超音波検査方法における検査対象物であるインバータを説明するための断面図である。
【図2】本発明に係る超音波検査装置の概略構成図である。
【図3】本発明に係る超音波探傷方法を説明するための断面図である。
【図4】第1の実施形態に係る超音波検査装置の制御部を説明するためのブロック図である。
【図5】冷却フィンのある箇所における反射波の波形と冷却フィンのない箇所における反射波の波形と示したグラフである。
【図6】インバータの検査対象面における分類された領域を説明するための概念図である。
【図7】第1の実施形態の超音波検査方法を説明するためのフローチャートである。
【図8】接合不良があった場合の反射波形を説明するためのグラフである。
【図9】冷却フィン有り条件で検査した反射波を画像化した画像を説明するための図である。
【図10】冷却フィン無し条件で検査した反射波を画像化した画像を説明するための図である。
【図11】冷却フィン有り条件での検査画像と冷却フィン無し条件での検査画像とを合成した画像である。
【図12】従来における超音波探傷を行った場合の反射波形を説明するためのグラフである。
【図13】第2の実施形態に係る超音波検査方法を説明するためのフローチャートである。
【図14】第3の実施形態に係る超音波検査装置の制御部を説明するためのブロック図である。
【図15】第3の実施形態に係る超音波検査方法における測定波形と基準波形との比較を示したグラフである。
【図16】第3の実施形態に係る超音波検査方法における測定波形と基準波形との差を示したグラフである。
【図17】第3の実施形態に係る超音波検査方法を説明するためのフローチャートである。
【図18】第4の実施形態に係る超音波検査方法における検査対象物であるインバータを説明するための断面図である。
【図19】第4の実施形態に係る超音波検査方法における検査対象物であるインバータの領域の分類を説明するための断面図である。
【図20】第4の実施形態に係る超音波検査方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,ハイブリッド車両用インバータを検査する超音波検査方法および超音波検査装置について,本発明を具体化したものである。
【0023】
(第1の実施形態)
本形態に係る超音波検査方法は,図1に示すインバータ1の絶縁樹脂シート30とヒートスプレッダ20との間の接合面21または絶縁樹脂シート30と冷却天板40との間の接合面31に剥離が生じているか否かについて超音波探傷により検査する方法である。
【0024】
1.ハイブリッド車両用インバータ
本実施の形態に係る超音波検査方法の検査対象物であるハイブリッド車両用インバータについて説明する。図1に示すように,インバータ1は,パワー素子10と,ヒートスプレッダ20と,絶縁樹脂シート30と,冷却天板40と,冷却フィン50と,制御基板60と,配線80と,ハウジング90とを有している。
【0025】
パワー素子10は,パワートランジスタを集積した半導体素子であり,インバータ1としての使用時には発熱するものである。パワー素子10は,ヒートスプレッダ20と接合面11で接合されている。ヒートスプレッダ20は,パワー素子10が発する熱を吸収して拡散させるための金属性の部材である。絶縁樹脂シート30は,ヒートスプレッダ20と冷却天板40とを電気的に絶縁する板状の絶縁部材である。絶縁樹脂シート30の熱伝導性は比較的よく,パワー素子10の冷却にあたって大きな妨げとはならない。絶縁樹脂シート30は,接合面21でヒートスプレッダ20と,接合面31で冷却天板40と接合されている。絶縁樹脂シート30の材質は,エポキシ樹脂である。絶縁樹脂シート30は,後述するように,ヒートスプレッダ20と冷却天板40とを接着する接着剤としての役割も兼ねているものである。
【0026】
冷却天板40は,熱をインバータ1の外部に放熱するための放熱部材である。すなわちインバータ1としての使用時に,パワー素子10から絶縁樹脂シート30を介して伝えられた熱を,インバータ1の外部に放熱することとなるものである。表面51に沿って冷却媒体を流すような場合には,冷却天板40から冷却媒体に放熱することとなる。そのため冷却天板40の材質は,熱伝導性のよい金属であるとよい。また,冷却天板40は,冷却フィン50に熱を逃がす働きも担うものである。つまり冷却天板40は,冷却フィン50を接合するための基材でもある。
【0027】
冷却フィン50は,冷却天板40から伝えられた熱を,冷却媒体または大気に放熱するための放熱部材である。冷却フィン50は,高さの揃った板状の部材である。その材質は,熱伝導性のよい金属であるとよい。複数の冷却フィン50は,冷却天板40の一面に離散的に配置して接合されている。そのため,冷却フィン50と同数の接合面41がある。したがって,図1の矢印Dの方向から見ると,冷却フィン50のある箇所では冷却フィン50が見える。冷却フィン50のない箇所では冷却天板40が見える。
【0028】
制御基板60は,インバータ1を制御するための回路が形成された基板である。また,制御基板60は,パワー素子10と配線80により接続されている。ハウジング90は,パワー素子10や制御基板60等を覆うケースである。ハウジング90の内部は,モールド樹脂により封止されている。
【0029】
続いて,各部材の接合方法について説明する。パワー素子10とヒートスプレッダ20とは,接合面11において半田により接合されている。また,冷却天板40と冷却フィン50とは,接合面41において溶接により接合されている。パワー素子10と制御基板60とは,ワイヤーボンディングにより接合されている。
【0030】
絶縁樹脂シート30と,それを挟むヒートスプレッダ20及び冷却天板40とは,絶縁樹脂シート30自身により接着されている。絶縁樹脂シート30の材質は,前述したようにエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は,接着剤にも用いられる熱可塑性樹脂である。したがって絶縁樹脂シート30は,接着剤としての役割も担うものである。
【0031】
その接着方法について簡単に説明する。絶縁樹脂シート30をある一定温度まで加熱して,その両側からヒートスプレッダ20と,冷却天板40とで挟み込む。これにより,冷却天板40,絶縁樹脂シート30,ヒートスプレッダ20の順に配置された状態で接着される。上記のようにヒートスプレッダ20,冷却天板40を,絶縁樹脂シート30に一工程で接着するのでなく,ヒートスプレッダ20および冷却天板40の一方を接着した後に,他方を接着することとしてよい。つまり,加熱した絶縁樹脂シート30に,冷却天板40を接合した後でヒートスプレッダ20を接着することとしてもよい。もちろん,上記の接着を行う工程の順序は入れ替えてもよい。
【0032】
これらのヒートスプレッダ20と絶縁樹脂シート30との間の接合面21や,絶縁樹脂シート30と冷却天板40との間の接合面31には,剥離が生じている場合がある。これらの接合面が剥離していると,その剥離箇所の伝熱性は低い。剥離箇所には空気の層ができており,この空気の層は絶縁樹脂シート30等に比べて熱伝導性に劣るからである。また,インバータ1としての使用を継続することにより,剥離している領域がさらに広がるおそれがある。したがって,これらの接合面21,31を十分に検査する必要がある。
【0033】
2.超音波探傷装置
本実施の形態の超音波検査装置について説明する。超音波探傷装置100は,ヒートスプレッダ20と絶縁樹脂シート30との間の接合面21もしくは絶縁樹脂シート30と冷却天板40との間の接合面31の接合状態を検査する超音波検査装置である。
【0034】
超音波探傷装置100は,図2に示すように,制御部110と,探傷条件入力部120と,出力部130と,超音波探触子140と,超音波送信部150と,超音波受信部160と,駆動装置170とを有するものである。
【0035】
探傷条件入力部120は,予め設定された複数の探傷条件のうちからユーザにより選択された一つの探傷条件を設定するためのものである。そして,その探傷条件を制御部110に送信するためのものである。探傷条件入力部120により設定される探傷条件は,デフォルトで設定されているとよい。また,ユーザにより直に入力される条件を設定することとしてもよい。出力部130は,探傷条件の選択画面や検査結果などを出力するための画面である。そのため,検査した接合面21,31を画像化して表示することとしてもよい。
【0036】
超音波探触子140は,超音波送信部150により送信された超音波を検査対象物であるインバータ1に発信するためのものである。また,超音波探触子140は,インバータ1により反射された超音波,反射波を受信し,超音波受信部160に送信する役割も担うものである。
【0037】
超音波送信部150は,制御部110より送信された探傷条件,例えば超音波探傷により探傷する距離である焦点位置等を設定された超音波を超音波探触子140から発信させるためのものである。超音波受信部160は,超音波探触子140で受信した超音波を,電圧に変換して制御部110に送信するためのものである。
【0038】
駆動装置170は,制御部110の指示に従って超音波探触子140を動かすためのものである。図3に示すように,超音波探触子140は,インバータ1に対して非接触で超音波探傷を行うものである。したがって超音波探触子140は,図3に示すように,検査対象物であるインバータ1の上を水平方向に移動することができるようになっている。すなわち,超音波探触子140が,検査すべき接合面21,31に対して平行に移動するのである。図3中では,超音波探触子140は,位置Aから位置Bに矢印Cの向きに移動することとしている。実際には,超音波探触子140は,検査すべき接合面21,31の全体にわたって2次元移動することとなる。したがって,超音波探触子140は,検査対象物であるインバータ1の上を移動しながら,超音波を一定時間おきに発信するとともに反射波を受信するのである。これにより,超音波探触子140は,接合面21,31の2次元座標上の各点にて超音波探傷を行うこととなる。
【0039】
制御部110は,図4に示すように,検査領域分類部111と,焦点距離設定部112と,波形抽出部113とを有している。検査領域分類部111は,検査対象物であるインバータ1の検査対象面を,超音波探触子140が受信した最初の反射波の受信時刻に応じて複数の領域に分類するためのものである。焦点距離設定部112は,超音波探触子140から発信させる焦点型超音波の焦点距離を設定するためのものである。波形抽出部113は,各検査座標で取得された複数の反射波のうち,最適な焦点距離で照射された超音波の反射波を抽出するためのものである。検査領域分類部111と,焦点距離設定部112とは,検査座標を分類する際の領域判定部でもある。
【0040】
制御部110は,その他に,探傷条件入力部120からの探傷条件を受け付けるとともに,駆動装置170を駆動させ,超音波送信部150に探傷条件を伝達し,超音波受信部160から反射波の波形を受信し,最終的にそれらの結果を出力部130に出力する役割も担うものである。そして,検査座標において剥離の有無を判定する良否判定部も兼ねている。また,制御部110は,後述するように,超音波受信部160から送信された反射波の電圧波形を元に画像情報とするものである。なお,制御部110は,その他の制御も担うものである。
【0041】
3.超音波検査方法
超音波探傷は,検査対象物であるインバータ1を水中に入れた状態で行う。気体中では,超音波は減衰してしまうためである。インバータ1は樹脂で封止されているため,水中に曝してもパワー素子10等,内部に被害を与えることはない。なお,インバータ1の超音波検査を水中で行う代わりに油中で行うようにしてもよい。
【0042】
超音波探傷は,インバータ1を把持するなどして固定した状態で行う。そして超音波の入射方向は,図3に示すように,冷却フィン50が設けられている側の面からインバータ1の内部に向かう方向,すなわち矢印Eの方向である。そして,超音波探触子140を,例えば矢印Cの向きに動かす。このように超音波探触子140を平行移動させることにより,検査の対象となる面上の各座標において検査するのである。なお,一定時間おきに超音波を送信することとすれば,格子状の各点で検査を行うことができる。
【0043】
各座標で行うのは,以下の事項である。図3中の位置Aを例に挙げて説明する。超音波探触子140は,位置Aでインバータ1に超音波を入射する。また,超音波探触子140は,インバータ1で反射された反射波を取得する。この間,超音波探触子140は平行移動する。しかし,超音波の伝播速度は超音波探触子140の移動速度に比べて十分に速い。したがって,検査に問題は生じない。
【0044】
ここで,各座標で得られる反射波について説明する。図5は,反射波のタイミングチャートである。図5の上段に,位置Aにおける反射波を示す。図5の下段に,位置Bにおける反射波を示す。図5の横軸は,時刻である。縦軸は,反射波の強度を示す電圧値である。図5における時刻0は,超音波探触子140がインバータ1に向けて超音波を照射した時刻である。波形P1は,位置Aにおいて冷却フィン50の表面51により反射された波束である。波形P2は,位置Aにおいて接合面31により反射された波束である。波形P3は,位置Aにおいて接合面21により反射された波束である。波形P4は,位置Bにおいて冷却天板40の表面42により反射された波束である。波形P5は,位置Bにおいて接合面31により反射された波束である。波形P6は,位置Bにおいて接合面21により反射された波束である。
【0045】
図5から明らかなように,波形P1の検出時刻は,波形P4の検出時刻よりも早い。波形P4に相当する水中での伝播経路のほうが,波形P1のものよりも長いためである。また,波形P2の検出時刻は,波形P5の検出時刻よりも早い。波形P2が伝播した距離と,波形P5が伝播した距離とは同じである。しかし,波形P2は,冷却フィン50の内部を伝播しているのに対し,波形P5は,水中を冷却フィン50の厚みと同じ距離だけ伝播しているのである。固体である冷却フィン50における超音波の伝播速度は,水中での超音波の伝播速度よりも速い。したがって,波形P2の検出時刻のほうが波形P5の検出時刻よりも早いのである。
【0046】
これらの検出時刻について,より具体的に説明する。位置Aにおいて超音波探触子140が超音波を発信してから接合面31で反射された波束を超音波探触子140が受信するまでの時間をTAとする。位置Bにおいて超音波探触子140が超音波を発信してから接合面31で反射された波束を超音波探触子140が受信するまでの時間をTBとする。そうすると,TAとTBとの間には次のような関係が成り立つ。
TA−TB=(冷却フィンの内部における伝播時間−水中での距離(b−a)の伝播時間)×2
なお,超音波が往復するため,「2」がかかっている。
【0047】
ここで2倍となるのは,超音波が冷却フィン50を往復するからである。つまり,位置Aでは,冷却フィン50の内部を超音波が伝播しているのに対し,位置Bでは,冷却フィン50の厚みと同じ距離だけ超音波が水中を伝播している。超音波の伝播速度は,冷却フィン50の内部と水中とでは異なっている。前述したように,固体である冷却フィン50の内部での伝播速度のほうが,水中での伝播速度よりも速いからである。
【0048】
このように位置Aと位置Bとでは,反射波のうち検出すべき波束の検出時刻が異なっている。そのため,位置Aと位置Bとで共通の探傷条件を用いたのでは,確実な検査をすることができない。したがって本形態では,検査面を冷却フィン50のある領域(領域X)と冷却フィン50のない領域(領域Y)とに分類し,それぞれの領域に適した探傷条件で検査を行う。図6に,検査面を領域Xおよび領域Yに分類したものを示す。図6においてドットでハッチングを施した領域が領域Xである。図6においてハッチングされていない領域が領域Yである。図6は,図3において矢印Eの方向から見た図に対応する。なお,位置Aは領域Xに含まれている。位置Bは領域Yに含まれている。
【0049】
領域Xにおける最適な探傷条件とは,冷却フィン50がある場合に検査面,例えば接合面31の接合状態を好適に観測できる焦点距離を設定することである。その焦点距離は,図3に示したように,冷却フィン50の表面51からインバータ1に入射した超音波が接合面31で反射する場合に大きな波束が得られるような焦点距離である。
【0050】
領域Yにおける最適な探傷条件とは,冷却フィン50がない場合に検査面,例えば接合面31の接合状態を好適に観測できる焦点距離を設定することである。その焦点距離は,図3に示したように,冷却天板40の表面42からインバータ1に入射した超音波が接合面31で反射する場合に大きな波束が得られるような焦点距離である。
【0051】
このように領域を分類して焦点距離を設定するため,本形態に係る超音波検査方法は,インバータ1の検査面の全面にわたって好適な探傷条件で超音波探傷を行うことができるのである。
【0052】
なお,絶縁樹脂シート30が十分に薄ければ,図5に示したように,接合面31での反射波である波形P2や波形P5とともに,接合面21での反射波である波形P3や波形P6を検出することができる。ただし,接合面31に焦点を合わせた焦点距離での測定および接合面21に焦点を合わせた焦点距離での測定を別途行ったほうが,より確実な検査を行うことができる。
【0053】
4.超音波検査方法の具体的手順
続いて,インバータ1の接合面21,31の超音波検査方法について説明する。この超音波検査方法では,図7に示すフローチャートに従って,インバータ1の接合面31,21の超音波探傷を行う。前述のとおり,接合面31および接合面21の検査を別途繰り返して行ったほうが精度は高い。しかしここでは,絶縁樹脂シート30は十分薄いものとして,接合面31および接合面21を同時に検査するものとして説明する。
【0054】
4−1)事前スキャン(S101)
次に,事前スキャンを行う(S101)。事前スキャンとは,次のS102のステップで行う領域分けを行うための反射波のデータを取得する工程である。前述したように,冷却フィン50の有無によって図5に示したタイミングチャート上の各波束の到着時刻が異なっている。したがってこの工程では,超音波の発信および反射波の受信を検査面の全面にわたって行うのである。
【0055】
前述したように,冷却フィン50のある箇所では図5の上段の波形P1の存在する時刻に,波束が検出される。一方,冷却フィン50のない箇所では図5の下段の波形P4の存在する時刻に,波束が検出される。波形P1または波形P4は,後述するように,距離の情報を担うものである。
【0056】
なお,この事前スキャン(S101)で超音波探触子140から発生させる超音波の焦点距離は,冷却フィン50のある場合に最適な焦点距離と,冷却フィン50のない場合に最適な焦点距離との中間の距離であるとよい。ただし,事前スキャンはあくまで領域分けに用いるために行うものであり,事前スキャンそのものの精度は高いものである必要はない。
【0057】
4−2)冷却フィンの有無によるエリアの分類(S102)
続いて,この事前スキャンにより取得した反射波のデータから,インバータ1の検査対象面を領域Xおよび領域Yに分類する(S102)。これは,検査領域分類部111により行われる。
【0058】
エリアの分類(S102)においては,超音波探触子140が超音波を発信してから最初の波束を超音波探触子が受信するまでの時間によって冷却フィン50の有無を判断する。そして,冷却フィン50のある箇所を領域Xに,冷却フィン50のない箇所を領域Yに分類するのである。より具体的には,図5に示した冷却フィン有り判定範囲に波形P1が存在する座標を,領域Xに分類する。冷却フィン有り判定範囲に波形P1が存在しない座標を,領域Yに分類する。冷却フィン有り判定範囲として,波形P1を検出できるような範囲を設定する代わりに,波形P4を検出できるような範囲に設定してもよい。つまり,この領域の分類には,波形P1と波形P4の少なくともどちらか一方を検出すればよい。このように,波形P1または波形P4は,その検査座標における超音波探触子140からインバータ1までの距離の情報である。
【0059】
実際には反射波にノイズがのっている。そこで,冷却フィン50で反射された反射波であることを確認するための閾値を予め設定しておくことにより判断を行う。つまり,冷却フィン判定範囲に閾値を超える電圧値が検出された座標を,領域Xであると判断する。冷却フィン判定範囲に閾値を超える電圧値が検出されなかった座標を,領域Yであると判断する。これにより,超音波探傷装置100は,インバータ1の形状,すなわち領域Xと領域Yとを認識することとなる。
【0060】
4−3)フィン有り用の最適探傷条件で探傷(S103)
次に,冷却フィン50がある場合に最適な探傷条件でインバータ1の冷却フィン50のある領域を探傷する(S103)。このとき,冷却フィン50がある場合に接合面31の接合状態を好適に観測できる焦点距離が設定されている。その焦点距離は,冷却フィン50からインバータ1に入射した超音波が接合面31で反射する場合に大きな波束が検出されるような焦点距離である。この焦点距離の設定は,焦点距離設定部112によりなされる。
【0061】
そしてこの探傷条件を設定した状態でインバータ1上に超音波探触子140を移動させるのである。インバータ1の形状はある程度分かっているので,領域Xのみをフィン有り用の探傷条件で探傷すれば十分である。このフィン有り用の探傷条件で探傷することが必要な領域は,領域Xであるからである。すなわち,領域Yについては,この探傷条件での探傷を行う必要はない。また,インバータ1の検査対象面の全領域(領域Xおよび領域Y)を探傷して,必要なデータのみを取り出して検査することとしてもよい。
【0062】
超音波検査の対象となるインバータ1の接合面31に不良がなかった場合には,このフィン有り用の最適探傷条件では,図5の上側に示した波形と同じような波形が得られる。
【0063】
ここで,接合不良があった場合について図8により説明する。図8の波形Q1,Q2,Q3は,それぞれ図5の波形P1,P2,P3に対応する波束である。接合不良があった場合,接合面31で反射される波形Q2の振幅は図5の波形P2の振幅に比べて大きい。接合面31の剥離部が空気層であるため,空気層のない良好な接合面31の場合より多くの成分が反射されるからである。このように,接合不良があると反射波の波形は大きいものとなる。そのため,接合面31における接合不良の有無を判断することができるのである。
【0064】
4−4)フィン無し用の最適探傷条件で探傷(S104)
続いて,冷却フィン50がない場合に最適な探傷条件でインバータ1の冷却フィン50のない領域を探傷する(S104)。このとき,冷却フィン50がない場合に接合面31の接合状態を好適に観測できる焦点距離が設定されている。その焦点距離は,冷却天板40からインバータ1に入射した超音波が接合面31で反射する場合に大きな波束が得られるような焦点距離である。その焦点距離は,入射した超音波がインバータ1の接合面31で反射される場合に波束が大きくなるような焦点距離である。そしてその探傷条件を設定したまま,インバータ1上に超音波探触子140を移動させる。また,フィン有り用の最適条件でインバータ1の超音波探傷を行った場合と同様に,冷却フィン50のない領域のみを走査するように超音波探触子140を動かしてもよい。
【0065】
そして,接合不良がなかった場合は,冷却フィン50がある箇所の場合と同様に,図5に示したような波形が得られる。接合不良があった場合は,図8に示すように,冷却フィン50がある箇所の場合と同様に,接合面31で反射される波形Q5の振幅は図5の波形P5の振幅に比べて大きい。
【0066】
4−5)剥離判定(S105)
続いて,剥離判定を行う(S105)。剥離判定は,超音波の反射波を受信した各座標で行う。各座標では,図5に示したように,第1検出範囲および第2検出範囲を設定する。第1検出範囲は,接合面31で反射された波束が検出されるべき時間である。第2検出範囲は,接合面21で反射された波束が検出されるべき時間である。
【0067】
位置Aでの第1検出範囲は,位置Aで発信された超音波が接合面31で反射されて再び超音波探触子140に受信されるまでの時間を中心時刻として一定範囲の時間幅のある時間である。位置Aでの第2検出範囲は,同様に接合面21で反射された波束を検出するための時間である。
【0068】
したがってこれらの検出範囲は,領域Xに含まれる各座標で共通の時間帯である。そして,領域Yに含まれる各座標で共通の時間帯である。ただし,図5からも明らかなように,領域Xにおける第1検出範囲と領域Yにおける第1検出範囲とは異なる時間帯である。
【0069】
次に,第1検出範囲から波形P2のプラスのピーク値を抽出する。この波形P2のプラスのピーク値は,剥離の有無の判断に用いられる波束特徴値である。続いて,抽出した波形P2のピーク値と予め設定した閾値とを比較する。波形P2のピーク値が予め設定した閾値よりも小さければ,その座標で剥離は生じていないと判断する。そうでなければ,その座標で剥離が生じていると判断する。これにより,接合面31における接合不良箇所の有無を調べることができる。同様に,接合面21における接合不良箇所の有無も調べることができる。なお,ここで設定されている閾値は,領域Xと領域Yとでは一般に異なる値である。
【0070】
本形態では波束特徴値として,波形P2のプラスのピーク値を抽出したが,波形P2のマイナスのピーク値をとってもよい。この場合,プラスのピーク値を抽出した場合と同じ閾値を設定することができる。また,波束特徴値として,波形P2のプラスのピーク値とマイナスのピーク値との差の値を用いることとしてもよい。この場合の閾値,プラスのピーク値を抽出した場合の2倍の値を設定すればよい。さらに,波束特徴値として,波束の積分値を用いてもよい。また,本形態では第1検出範囲および第2検出範囲の設定を剥離判定(S105)のステップで行うこととした。しかし,第1検出範囲および第2検出範囲の設定を,最適条件の設定の際に行うこととしてもよい。
【0071】
4−6)画像化(S106)
続いて,剥離箇所の有無を目視で確認できるようにするために,剥離判定を行った結果を画像化する。そのために,各座標の反射波を2値化する。その際に,領域Xの座標では,冷却フィン有り条件で探傷した反射波(S103で取得)のピーク値を抽出する。そして抽出したピーク値を領域Xにおいて予め定められた閾値と比較する。抽出したピーク値が閾値よりも大きい座標,すなわち「不良」の座標に,0の値を設定する。そうでない場合,すなわち「良」の座標に,1の値を設定する。なお,これとは逆に,「不良」の座標に1の値を設定し,「良」の座標に0の値を設定してもよい。
【0072】
これにより,仮にこれを画像化したとすると図9に示すような画像が得られる。図9では,領域Xの内部に接合不良箇所である領域Fがあるものとして描かれている。この領域F内で取得された波形は,図8の上側の波形である。領域Xの内部における領域F以外の領域で取得された波形は,図5の上側の波形である。
【0073】
一方,領域Yの座標では,冷却フィン無し条件で探傷した反射波(S104で取得)のピーク値を抽出する。そして抽出したピーク値を領域Yにおいて予め定められた閾値と比較する。抽出したピーク値が閾値よりも大きい場合に,その座標に0の値を設定する。そうでない座標には,1の値を設定する。これにより,領域Xおよび領域Yにおける2値化が終了した。
【0074】
これにより,仮に画像化したとすると図10に示すような画像が得られる。図10では,領域Yの内部に接合不良箇所である領域Gがあるものとして描かれている。この領域G内で取得された波形は,図8の下側の波形である。領域Yの内部における領域G以外の領域で取得された波形は,図5の下側の波形である。
【0075】
続いて,2値化したデータを画像として表示する。領域Xおよび領域Yでそれぞれ2値化したデータを合わせて一枚の画像として表示する。この場合に得られる画像を図11に示す。図11には,領域Xおよび領域Yにまたがった剥離箇所である領域Hが描かれている。これにより検査者は,領域Xおよび領域Yはもちろん,これらの境界領域における剥離箇所の有無についても,目視により確認することができる。
【0076】
以上により,接合面31の検査が終了した。絶縁樹脂シート30が十分に薄い場合には,接合面31を検査するために取得した反射波における第2検出範囲に存在する波形(図5ではP3やP6)を用いて,接合面21の検査も行うことができる。その場合には,図7のフローチャートのS105とS106の処理を繰り返すことにより行うことができる。
【0077】
検査の精度を高めるためには,接合面21の検査に最適な焦点距離を設定しなおして,図7のフローチャートのS103からS106の処理を行うとよい。領域Xおよび領域Yへの分類は既に済んでいるため,S101およびS102の処理を省略することができるのである。このように複数の接合面の接合状態を検査するには,検査する接合面の数と同じ回数だけ上記の手順を繰り返せばよい。
【0078】
5.従来の検査方法との比較
ここで,従来の検査方法との比較について説明する。図12は,従来の超音波探傷による測定波形を示したものである。図12の上段には,冷却フィン50がある箇所にて測定される反射波が示されている。図12の下段には,冷却フィン50がない箇所にて測定される反射波が示されている。
【0079】
図12における波形R1,R2,R3,R4,R5,R6はそれぞれ,図5における波形P1,P2,P3,P4,P5,P6と同じ波形である。波形R1は,冷却フィン50のある箇所(本形態の領域Xに相当)で冷却フィン50の表面51で反射された反射波である。波形R4は,冷却フィン50のない箇所(本形態の領域Yに相当)で冷却天板40の表面42で反射された反射波である。
【0080】
従来,図12に示すように,冷却フィン50のある位置Aにおいては,超音波探触子140により最初に反射波を受信した時刻を基準時刻に設定し,その基準時刻から一定時間T1の経過後に「第1検出範囲」を設定する。ここで時間T1は,最初に検出された波形,すなわち波形R1のプラスのピーク時刻から「第1検出範囲」の開始時刻までの時間である。従来における「第1検出範囲」は,図12に示した波形R2を検出できるように設定した時間である。そして「第2検出範囲」を設定する。このとき「第1検出範囲」の終了時刻を「第2検出範囲」の開始時刻に設定する。「第2検出範囲」は,波形R3を検出できるように設定した時間である。このように,「第1検出範囲」および「第2検出範囲」は,冷却フィン50のある位置Aで波形を検出できるような時間である。
【0081】
従来においては,そもそも領域Xおよび領域Yの区別を行っていない。したがって,冷却フィン50のない位置Bを検査する際にも位置Aで設定された「第1検出範囲」および「第2検出範囲」が設定されたままである。つまり,図12の下段に示すように,最初に検出された波形から時間T1の経過後に「第1検出範囲」が設定され,その時間の終了後に「第2検出範囲」が設定される。この時間T1は,位置Aで設定した値と同じままである。そのため,位置Bでは「第1検出範囲」で波形R5を検出することができない。また,「第2検出範囲」で波形R6を検出することができない。次に説明するように,時間Txおよび時間Tyが異なっているからである。
【0082】
時間Txは,図12でいえば波形R1のプラスのピーク値をとる時刻から波形R2のプラスのピーク値をとる時刻までに経過する時間である。時間Txは,冷却フィン50の材質中を進行する速度で超音波が冷却フィン50の厚みの距離を往復するのに要する時間と,冷却天板40の材質中を進行する速度で超音波が冷却天板40の厚みの距離を往復するのに要する時間との和である。
【0083】
時間Tyは,図12でいえば波形R4のプラスのピーク値をとる時刻から波形R5のプラスのピーク値をとる時刻までに経過する時間である。時間Tyは,冷却天板40の材質中を進行する速度で超音波が冷却天板40の厚みの距離を往復するのに要する時間と,水中を進行する速度で超音波が図3における距離(b−a)を往復するのに要する時間との和である。
【0084】
この時間Txと時間Tyとの差は,冷却フィン50の材質中を進行する超音波の速度と,水中を進行する超音波の速度とが異なるために生ずる。前述のとおり,一般に,固体中のほうが液体中よりも音波の伝播速度は速いからである。
【0085】
良否判定は,本形態の剥離判定(S105)と同じである。各座標で受信した反射波から「第1検出範囲」および「第2検出範囲」に存在する波形を抽出し,予め定めた閾値と比較する。「第1検出範囲」に存在する波形のプラスのピーク値が閾値よりも小さければ「良」,そうでなければ「不良」と判断する。
【0086】
図12から明らかなように,冷却フィン50のある箇所である位置Aでは「第1検出範囲」に波形R2が存在し,「第2検出範囲」に波形R3が存在する。しかし,冷却フィン50のない箇所である位置Bでは「第1検出範囲」に波形R5の大部分が入っていない。また,「第2検出範囲」に波形R6の大部分が入っていない。
【0087】
この状態で良否判定を行うと次のような問題が生じる。波形R5の振幅が大きかった場合でも,「第1検出範囲」で波形R5のプラスのピーク値を抽出することができない。すなわち接合面31に剥離が生じていた場合に,そのことを検出できないのである。波形R6の振幅が大きかった場合でも,「第2検出範囲」で波形R6のプラスのピーク値を抽出することができない。すなわち接合面21に剥離が生じていた場合に,そのことを検出できないのである。
【0088】
以上説明したように,従来の超音波検査方法では,冷却フィン50のある箇所を高い精度で検査すると,冷却フィン50のない箇所を高い精度で検査することは困難であった。逆に,冷却フィン50のない箇所を高い精度で検査するような設定を用いたとしても,冷却フィン50のある箇所を高い精度で検査することは困難である。
【0089】
なお,画像化した場合においても,冷却フィン50のある箇所または冷却フィン50のない箇所のいずれかの検査結果しか表示することはできなかった。これでは,冷却フィン50の有無の境界近辺に剥離箇所が存在した場合に,剥離の生じている製品を見落とすおそれがあったのである。
【0090】
これに対して本形態では,領域Xおよび領域Yに分類し,それぞれに最適な探傷条件で検査面を検査している。したがって,検査対象となる物の外形形状によらず,検査面を高い精度で検査することができる。さらに,領域Xおよび領域Yを合わせて可視化している。したがって,検査者が不良品の検出を見落とすおそれは,ほとんどない。すなわち,本形態の超音波検査方法は,凹凸面のある検査対象物の検査面をより高い精度で検査することができる。
【0091】
6.変形例
ここで,本形態の変形例について説明する。本形態では,S106において画像化を行った。しかし,この工程は検査者が目視により検査結果を把握するためのものである。剥離判定(S105)そのものは,この段階(S106)では既に終了している。したがって,画像化(S106)は必ずしも必要ではない。つまり,画像化(S106)を行わないようなものであってもよい。
【0092】
本形態では,絶縁樹脂シート30と,ヒートスプレッダ20との接合面21,もしくは絶縁樹脂シート30と冷却天板40との接合面31の接合状態を検査した。しかし,パワー素子10とヒートスプレッダ20との接合面11を検査することもできる。半田接合によるボイドであっても超音波探傷を行うことができるからである。また,冷却天板40と冷却フィン50との接合面41を検査することもできる。
【0093】
また,測定対象物としてインバータ1以外の半導体装置に用いることもできる。例えば,絶縁樹脂シート30の代わりに,絶縁基板等の他の絶縁部材にも適用することができる。また,インバータに限らず,冷却フィンのような凹凸形状があり,複数の板状部材を接合したものであれば適用することができる。表面に凹凸形状があり,内部に接合面がある測定対象物であれば,その接合面を測定することができることに変わりないからである。
【0094】
7.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る半導体装置の超音波検査方法は,冷却フィン50のある箇所と,冷却フィン50のない箇所とで,別々の探傷条件で接合面の超音波探傷を行うようにした。これにより,冷却フィン50など凹凸形状のある半導体装置においても,内部の接合状態を好適に検査することのできる超音波検査方法および超音波検査装置が実現されている。
【0095】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,検査対象物はハイブリッド車両用インバータに限らない。その他の半導体装置であってもよい。接合面を有するものであれば,その他の接合体であってもよい。ただし,接合面は曲面でなく,平面であるほうが望ましい。また,本形態では,超音波探触子140が超音波の送信と受信とを兼ねることとしたが,超音波探触子を複数用いて,送信用と受信用とに使い分けるようにしても構わない。
【0096】
フィン有り用の最適条件で探傷(S103)とフィン無し用の最適条件で探傷(S104)の順序は入れ替えてもよい。剥離判定(S105)より前に剥離判定(S105)に必要な反射波が得られていればよいからである。また,領域分けは(S102)は,剥離判定(S105)より前にされていればよい。したがって,領域分け(S102)を,フィン無し用の最適条件で探傷(S104)と剥離判定(S105)との間に行ってもよい。
【0097】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施の形態の検査対象物および超音波探傷装置の機械的構成は,第1の実施形態のものと同様である。本形態の超音波検査方法が第1の実施形態の超音波検査方法と異なる点は,事前スキャンを行わない点である。したがって,第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0098】
第1の実施形態では,事前スキャンを行うことにより領域Xおよび領域Yの分類を行った。しかし,フィン有り用の最適条件で探傷(図7のS103)することにより取得した反射波のデータは,接合不良箇所の有無の判断にも,領域分け(図7のS102)にも用いることができる。したがって本形態では,フィン有り用の最適条件で探傷することにより反射波を取得し,その取得したデータを用いて領域分けを行うのである。その結果,事前スキャン(図7のS101)を省略することができる。
【0099】
本形態の超音波検査方法について図13のフローチャートに基づいて順を追って説明する。ここで検査する検査面は,図3に示したように接合面31および接合面21である。本形態ではまず,冷却フィンがある箇所(領域X)用の超音波探傷条件で超音波探傷を行う(S201)。このとき取得した反射波の冷却フィン有り判定範囲(図5参照)に,波形P1が存在するか否かにより領域分けをすることができる。また,冷却フィン有り判定範囲に波形P1が存在する反射波のデータは,そのまま領域Xの剥離判定にも用いることができる。すなわち,冷却フィン有り判定範囲に波形P1が存在する場合には「第1検出範囲」から波形P2を抽出し,波形P1が存在しない場合には波形P2を抽出しない。領域Xにおける最適条件で探傷して得られた反射波のデータだからである。
【0100】
次に,取得した反射波に基づいて,インバータ1の座標を領域Xと領域Yとに分類する(S202)。この分類は,前述したように,図5の冷却フィン有り判定範囲に予め定めた閾値を超える波形が存在するか否かにより行う。ここで,冷却フィン有り判定範囲に波形P1が存在した場合には,領域Xに分類し,波形P1が存在しなかった場合には,領域Yに分類するのである。
【0101】
以下の手順は,図7に示したフローのS104以降と同じである。したがって次に,フィン無し用の最適条件で超音波探傷を行う(S203)。以上により,フィン有り用の最適条件で超音波探傷を行ったときの領域Xの反射波およびフィン無し用の最適条件で超音波探傷を行ったときの領域Yの反射波が取得された。続いて,取得した反射波のデータに基づいて剥離判定を行う(S204)。続いて画像化を行う(S205)。これにより,図11に示した画像が得られる。第1の実施形態と同様に検査者は,得られた画像に基づいて接合不良箇所の有無を判断することができる。
【0102】
このように本形態の超音波検査方法は,第1の実施形態の超音波検査方法と同様の効果を奏するものである。事前スキャンの工程が省略されている分だけ,第1の実施形態の超音波検査方法より工程が少ない。
【0103】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る半導体装置の超音波検査方法は,冷却フィン50のある箇所と,冷却フィン50のない箇所とで,別々の探傷条件で接合面の超音波探傷を行うようにした。これにより,冷却フィン50など凹凸形状のある半導体装置においても,内部の接合状態を好適に検査することのできる超音波検査方法および超音波検査装置が実現されている。
【0104】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,検査対象物はハイブリッド車両用インバータに限らない。その他の半導体装置であってもよい。接合面を有するものであれば,その他の接合体であってもよい。ただし,接合面は曲面でなく,平面であるほうが望ましい。また,本形態では,超音波探触子140が超音波の送信と受信とを兼ねることとしたが,超音波探触子を複数用いて,送信用と受信用とに使い分けるようにしても構わない。
【0105】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。本実施の形態の検査対象物および超音波探傷装置の機械的構成は,第1の実施形態のものと同様である。また,領域Xと領域Yとに分類することも第1の実施形態と同様である。本形態の超音波検査方法が第1の実施形態の検査方法と異なる点は,接合不良を判断する方法である。したがって,第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0106】
本形態の制御部310は,図14に示すように,検査領域分類部111と,焦点距離設定部112と,波形抽出部113の他に,波形記憶部311と,波形比較部312とを有している。波形記憶部311は,予め基準波形を記憶させておいた記憶部である。波形比較部312は,波形記憶部311に記憶された基準波形と,実際に測定された反射波波形とを比較して,後述する差信号波形を算出するための算出部である。そして本形態の制御部310は,検査の対象である接合面に接合不良があるか否かを判断するためのものである。
【0107】
ここで基準波形は,接合不良がないとした場合に検出される標準的な波形である。基準波形は,検査対象となる接合面の領域毎に用意されている。基準波形として例えば,接合不良のない接合面を複数回測定した場合に検出されるその接合面での測定波形を平均したものが挙げられる。この場合の測定回数は例えば100回である。また,それ以上であってもよいし,それ以下であってもよい。また,その平均波形をスムージングしたものであってもよい。
【0108】
波形比較部は,波形記憶部に記憶された基準波形と,実際に測定された反射波形とを比較する。図15に,測定波形F(t)と,基準波形S(t)とを示す。ここで測定波形F(t)は,領域Xで測定された波形である。基準波形S(t)は,領域Xで測定された測定波形と比較するために用意された基準波形である。
【0109】
まず,両波形の位相を揃える。例えば,図15に示すように,ゼロクロス点Oを揃える。これにより,両波形の位相が揃う。その他公知の方法で両波形の位相を揃えてもよい。そして測定波形F(t)と基準波形S(t)の差をとる。差信号波形I(t)は次のように表される。
I(t)=F(t)−S(t)
差信号波形:I(t)
測定波形 :F(t)
基準波形 :S(t)
【0110】
ここで,差信号波形I(t)を図16に示す。測定波形F(t)が基準波形S(t)と等しい場合には,
I(t)=0
である。この場合,制御部はもちろん,接合面のその測定位置において,接合不良はないと判断する。
【0111】
一方,測定波形F(t)が基準波形S(t)と大きく異なっていると,接合不良が生じていると判断する。それは,差信号波形I(t)の絶対値が予め定めた閾値よりも大きいか否かにより判断することができる。すなわち,差信号波形I(t)の絶対値が差信号特徴値である。ここで用いる絶対値は,「第1検出範囲」の区間において絶対値が最大となるI(t)の値Jである。
J≧α
α:閾値
なお,この閾値αは,ユーザにより別途設定しなおすことができるようになっているとよい。
【0112】
続いて,本形態における超音波検査の検査手順について図17のフローチャートにより説明する。ここで,検査を行う検査対象面は,図1に示した接合面31である。まず,事前スキャンを行う(S301)。この内容は,図7のS101と同様である。次に,冷却フィンの有無によりエリア分けを行う(S302)。この手順も,図7のS102と同様である。次に,冷却フィンのある箇所(領域X)用の探傷条件で接合面31を検査する。そして,冷却フィンのない箇所(領域Y)用の探傷条件で接合面31を検査する。
【0113】
続いて,領域Xの各点において検出した反射波の電圧波形と,波形記憶部に記憶された領域Xにおける基準波形とを比較する(S304)。そして,領域Xにおける差信号波形I(t)を算出する。続いて,差信号波形I(t)の絶対値と,領域Xにおける閾値とを比較して,剥離の有無を判断する。領域Yにおいても同様に領域Yにおける基準波形と比較する(S304)。そして,領域Yにおける差信号波形I(t)を算出する。続いて,差信号波形I(t)の絶対値と,領域Yにおける閾値とを比較して,剥離の有無を判断する。
【0114】
なお,第1の実施形態と同様に,画像化も行うこととしてもよい。画像化したものと比較することにより,より確実に接合不良を検査することができるからである。また,設定した閾値αの値が適当であるか否かを,画像と比較することにより設定しなおすこととするとよい。
【0115】
なお,第2の実施形態で説明したようにインバータ1の検査対象面を領域X,Yに分類することができさえすれば,事前スキャン(S101)および冷却フィン有無エリア分け(S102)の工程を省略することができる。
【0116】
本形態では,剥離の有無の判定に,差信号波形I(t)の絶対値と閾値とを比較することとした。しかし,差信号波形I(t)の積分値と閾値とを比較することとしてもよい。その場合,予め設定する閾値の値は,差信号波形I(t)の絶対値を用いる場合の閾値とは一般に異なっている。なお,積分区間の決定において,問題は生じない。差信号波形I(t)は,波束であるからである。
【0117】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る半導体装置の超音波検査方法は,冷却フィン50のある箇所と,冷却フィン50のない箇所とで,別々の探傷条件で接合面の超音波探傷を行うようにした。これにより,冷却フィン50など凹凸形状のある半導体装置においても,内部の接合状態を好適に検査することのできる超音波検査方法および超音波検査装置が実現されている。
【0118】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,検査対象物はハイブリッド車両用インバータに限らない。その他の半導体装置であってもよい。接合面を有するものであれば,その他の接合体であってもよい。ただし,接合面は曲面でなく,平面であるほうが望ましい。また,本形態では,超音波探触子140が超音波の送信と受信とを兼ねることとしたが,超音波探触子を複数用いて,送信用と受信用とに使い分けるようにしても構わない。
【0119】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。本実施の形態の検査対象物は,冷却フィンの部分を除いて,第1の実施形態のものと同様である。超音波探傷装置の機械的構成は,第1の実施形態のものとほぼ同様である。ただし,超音波探傷装置が行う超音波検査方法の手順は,第1の実施形態のものと異なっている。したがって,異なる点を中心に説明する。
【0120】
本実施の形態が,第1の実施形態から第3の実施形態までと異なる点は,図18に示す検査対象となるインバータ2の外形形状である。本形態において検査対象となるインバータ2の冷却部材250は,図18に示すように,凸部251と凹部252とが交互に繰り返すとともに,凹凸面のなだらかな形状をしている。よって,図18の上側から下側に向けて超音波をインバータ2に送信しながら接合面31,21に平行な向きに超音波探触子140を移動させたとき,超音波探触子140からインバータ2までの距離は連続的に変化する。したがって,第1の実施形態および第2の実施形態のように,2種類の測定条件では十分な検査を行うことができない。
【0121】
よって本形態では,図19に示すように,接合面31からの距離によって冷却部材250を領域U,領域V,領域Wの3つにエリアを分けるのである。図19では,接合面31に近いほうから領域d,e,fとしている。そして,これらの領域U,領域V,領域Wによって,それぞれ異なる探傷条件を設定するのである。
【0122】
図20に,本形態の超音波検査方法のフローチャートを示す。まず,事前スキャンを行う(S401)。次に,エリア分けを行う(S402)。そのために,2つの領域判定範囲を設定する。図5で冷却フィン有り判定範囲を設定したように,時刻0に近い順に領域U判定範囲,領域V判定範囲を設定する。領域U判定範囲に冷却部材250により反射された反射波の波形があった座標を領域Uとして設定する。領域V判定範囲に冷却部材250により反射された反射波の波形があった座標を領域Vとして設定する。領域U判定範囲および領域V判定範囲のいずれにも,反射波の波形がなかった座標を領域Wとして設定する。
【0123】
次に,エリア分けした各エリアにおいて,そのエリアの最適条件で超音波探傷を行う(S403)。ここでは,各領域U,V,Wでの最適条件を適用して超音波探傷を行うため,事前スキャンとは別に3回探傷を行うこととなる。次に,剥離判定を行う(S404)。続いて,各探傷条件で探傷して得られた反射波から,マッピングを行い画像化する(S405)。
【0124】
本形態では,探傷領域を領域U,V,Wの3つのエリアに分けた。もちろん,4つ以上の領域に分けて検査することも可能である。その場合には,領域数と同数の探傷回数が必要となる。したがって,精度が向上する代わりに検査時間がかかることとなる。
【0125】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る半導体装置の超音波検査方法は,冷却フィン50のある箇所と,冷却フィン50のない箇所とで,別々の探傷条件で接合面の超音波探傷を行うようにした。これにより,冷却フィン50など凹凸形状のある半導体装置においても,内部の接合状態を好適に検査することのできる超音波検査方法および超音波検査装置が実現されている。
【0126】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,検査対象物はハイブリッド車両用インバータに限らない。その他の半導体装置であってもよい。接合面を有するものであれば,その他の接合体であってもよい。ただし,接合面は曲面でなく,平面であるほうが望ましい。また,本形態では,超音波探触子140が超音波の送信と受信とを兼ねることとしたが,超音波探触子を複数用いて,送信用と受信用とに使い分けるようにしても構わない。
【符号の説明】
【0127】
1,2…インバータ
11,21,31,41…接合面
42,51…表面
10…パワー素子
20…ヒートスプレッダ
30…絶縁樹脂シート
40…冷却天板
50…冷却フィン
60…制御基板
80…配線
90…ハウジング
100…超音波探傷装置
110…制御部
111…検査領域分類部
112…焦点距離設定部
113…波形抽出部
120…探傷条件入力部
130…出力部
140…超音波探触子
150…超音波送信部
160…超音波受信部
170…駆動装置
250…冷却フィン
311…波形記憶部
312…波形比較部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状の部材を積み重ねて接合された接合面を内部に有するとともに表面に凹凸形状のある検査対象物に,前記接合面と平行に超音波探触子を移動させつつ複数の検査座標にて前記検査対象物に超音波を照射し,前記検査対象物で反射した反射波を検出することにより前記接合面の接合状態を検査する,超音波を用いた接合面検査方法において,
各検査座標にて,
前記検査対象物による反射波に含まれる最初の波束の検出時刻により,前記超音波探触子から前記検査対象物までの距離の情報を取得し,その取得した距離の情報に応じてその検査座標が前記凹凸形状に対応する複数の領域のいずれに属するかを判定する領域判定と,
前記領域判定の結果に応じて,その検査座標が属する領域における前記距離の情報にて前記接合面での反射波を検出できる焦点距離の超音波を前記超音波探触子から前記検査対象物に照射するとともに,前記検査対象物による反射波を取得し,取得した反射波に含まれる前記接合面での反射による波束の波束特徴値を,当該領域について前記波束特徴値に対して定められた閾値と比較することにより,前記接合面の剥離の有無を判定する良否判定とを行うことを特徴とする超音波を用いた接合面検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,
前記波束特徴値として,
前記接合面での反射による波束のピーク値を用いることを特徴とする超音波を用いた接合面検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波を用いた接合面検査方法において,
分類された領域のそれぞれについて,剥離していない前記接合面による波束の基準波形を予め記憶しておき,
前記波束特徴値として,
前記良否判定で取得した反射波中の前記接合面での反射による波束の波形と,その検査座標が属する領域に対して記憶されている基準波形との差信号の波形から算出した差信号特徴値を用いることを特徴とする超音波を用いた接合面検査方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の超音波を用いた接合面検査方法において,
前記領域判定にて最初の波束の時刻を検出するための反射波の取得が,
前記良否判定にて前記波束特徴値の算出に用いるための反射波の取得とは別に実行されることを特徴とする超音波を用いた接合面検査方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の超音波を用いた接合面検査方法において,
前記領域判定を,
前記良否判定にて取得する,複数の焦点距離の反射波のうちの一つの焦点距離の反射波における最初の波束の検出時刻により行うことを特徴とする超音波を用いた接合面検査方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の超音波を用いた接合面検査方法において,
前記接合面の検査結果を画像として出力する出力部を予め用意し,
各検査座標にて,
前記波束特徴値と予め定めた閾値とを比較することにより2値化して画像化し,その画像を前記出力部に出力することを特徴とする超音波を用いた接合面検査方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載の超音波を用いた接合面検査方法において,
前記検査対象物が,
半導体素子と,板状の絶縁部材と,板状の基材とが積み重ねられて接合されているとともに,前記基材の外部に面した面に,前記冷却フィンを離散的に配置されて接合された半導体装置であり,
前記半導体装置の内部に有する接合面を検査することを特徴とする超音波を用いた接合面検査方法。
【請求項8】
内部に接合面を有する検査対象物に向けて超音波を照射するとともに前記検査対象物からの反射波を受信する超音波探触子と,
前記超音波探触子が超音波を照射するための電圧を供給する超音波送信部と,
前記超音波探触子が受信した超音波を電圧に変換する超音波受信部と,
前記超音波探触子を前記接合面に平行に移動させる超音波探触子駆動部とを有する,超音波を用いた接合面検査装置において,
前記検査対象物による反射波に含まれる最初の波束の検出時刻により,前記超音波探触子から前記検査対象物までの距離の情報を取得し,その取得した距離の情報に応じてその検査座標が凹凸形状に対応する複数の領域のいずれに属するかを各検査座標にて判定する領域判定部と,
前記領域判定部による判定の結果に応じて,その検査座標が属する領域における前記距離の情報にて前記接合面での反射波を検出できる焦点距離の超音波を前記超音波探触子から前記検査対象物に照射するとともに,前記検査対象物による反射波を取得し,取得した反射波に含まれる前記接合面での反射による波束の波束特徴値を,当該領域について前記波束特徴値に対して定められた閾値と比較することにより,前記接合面の剥離の有無を各検査座標にて判定する良否判定部とを有することを特徴とする超音波を用いた接合面検査装置。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波を用いた接合面検査装置において,
前記良否判定部は,
前記領域判定部により分類されるそれぞれの領域に,剥離していない前記接合面での反射による波束の基準波形を予め記憶させておく波形記憶部と,
前記良否判定部が取得した反射波中の前記接合面での反射による波束の波形と,その検査座標が属する領域に対して記憶されている基準波形との差信号の波形の差信号特徴値を各検査座標にて算出する算出部とを有するものであることを特徴とする超音波を用いた接合面検査装置。
【請求項10】
請求項8から請求項9までのいずれかに記載の超音波を用いた接合面検査装置において,
各検査座標にて,前記波束特徴値と予め定めた閾値とを比較することにより2値化して画像化する制御部と,
その画像を出力される出力部とを有することを特徴とする超音波を用いた接合面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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