超音波エレメントおよび超音波内視鏡
【課題】特性が安定したUSエレメント20を提供する。
【解決手段】USエレメント20は、シリコン基板11と、複数の下部電極部12Aと複数の下部配線部12Bとを有し駆動信号およびバイアス信号が印加される下部電極端子52と接続された下部電極層12と、下部絶縁層13と、複数のキャビティ14が形成された上部絶縁層15と、複数の上部電極部16Aと複数の上部配線部16Bとを有し容量信号を検出するためのグランド電位の上部電極端子51と接続された上部電極層16と、保護層17と、がシリコン基板11の上に順に積層されており、少なくとも前記下部配線部12Bの上側に形成された、グランド電位の遮蔽電極端子53と接続された遮蔽電極部71を更に具備する。
【解決手段】USエレメント20は、シリコン基板11と、複数の下部電極部12Aと複数の下部配線部12Bとを有し駆動信号およびバイアス信号が印加される下部電極端子52と接続された下部電極層12と、下部絶縁層13と、複数のキャビティ14が形成された上部絶縁層15と、複数の上部電極部16Aと複数の上部配線部16Bとを有し容量信号を検出するためのグランド電位の上部電極端子51と接続された上部電極層16と、保護層17と、がシリコン基板11の上に順に積層されており、少なくとも前記下部配線部12Bの上側に形成された、グランド電位の遮蔽電極端子53と接続された遮蔽電極部71を更に具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型の超音波エレメント、および、前記超音波エレメントを具備する超音波内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
体内に超音波を照射し、エコー信号から体内の状態を画像化して診断する超音波診断法が普及している。超音波診断法に用いられる超音波診断装置の1つに超音波内視鏡(以下、「US内視鏡」という)がある。US内視鏡は、体内へ導入される挿入部の先端硬性部に超音波振動子が配設されている。超音波振動子は電気信号を超音波に変換し体内へ送信し、また体内で反射した超音波を受信して電気信号に変換する機能を有する。
【0003】
これまでは、超音波振動子には、環境負荷が大きい鉛を含むセラミック圧電材、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)等が主に使用されていた。これに対して、カロンティらは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造される、材料に鉛を含まない静電容量型超音波振動子(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer;以下、「c−MUT」という)を開示している。c−MUTは、上部電極部と下部電極部とが空洞部(キャビティ)を介して対向配置した超音波セル(以下、「USセル」という)を単位素子とする。そして、それぞれの電極部が配線部により接続された複数のUSセルを配列して超音波エレメント(以下、「USエレメント」という)を構成している。
【0004】
USセルは、下部電極部と上部電極部との間に電圧を印加することで、静電力により上部電極部を含むメンブレン(振動部)を振動して超音波を発生する。また外部から超音波が入射すると両電極の間隔が変化するため、静電容量の変化から超音波を電気信号に変換する。なお、超音波受信送信時だけでなく超音波受信時にも、送受信の効率を向上するため、電極間に所定のバイアス電圧が印加される。
【0005】
c−MUTでは、安定した特性を得るために、超音波発生のための駆動信号および超音波受信のためのバイアス信号は下部電極部に印加されており、上部電極部は常にグランド電位(接地電位)とされている。
【0006】
しかし、下部電極部または下部配線部を覆っている絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されることがある。すると、印加された電位が欠陥部からUSセルの外部に漏れ出るため、USセルおよびUS内視鏡の特性が不安定になるおそれがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】カロンティら、マイクロエレクトロニクスジャーナル(Microelectronics Journal)、2006年、37巻、p770−777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、特性が安定した超音波エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の超音波エレメントは、基体と、複数の下部電極部と、前記複数の下部電極部を接続する複数の下部配線部と、を有し、駆動信号およびバイアス信号が印加される下部電極端子と接続された下部電極層と、下部絶縁層と、複数のキャビティが形成された上部絶縁層と、それぞれの前記キャビティを介して、それぞれの前記下部電極部と対向配置している複数の上部電極部と、前記複数の上部電極部を接続する複数の上部配線部と、を有し、容量信号を検出するための、グランド電位の上部電極端子と接続された上部電極層と、保護層と、が前記基体の上に順に積層されており、少なくとも前記下部配線部の上側に形成された、グランド電位の遮蔽電極端子と接続された遮蔽電極部を更に具備する。
【0010】
また本発明の別の実施形態の超音波内視鏡は、前記記載の超音波エレメントを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、特性が安定した超音波エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の超音波内視鏡を説明するための外観図である。
【図2】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部を説明するための斜視図である。
【図3】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部の超音波アレイの構成を説明するための斜視図である。
【図4】第1実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための上面図である。
【図5】第1実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための図4のV−V線に沿った部分断面図である。
【図6】第1実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【図7】第1実施形態の超音波セルの製造方法を説明するための断面図である。
【図8】第1実施形態の超音波セルの犠牲層のパターンを示す上面図である。
【図9】第1実施形態の超音波セルの遮蔽電極部のパターンを示す上面図である。
【図10】第1実施形態の超音波セルの動作を説明するための模式図である。
【図11】第2実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【図12】第2実施形態の超音波セルの下部電極層のパターンを示す上面図である。
【図13】第2実施形態の超音波セルの上部電極層のパターンを示す上面図である。
【図14】第3実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【図15】第4実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して第1実施形態の超音波エレメント20、および、超音波エレメント20を有する超音波内視鏡2について説明する。
【0014】
<超音波内視鏡の構成>
図1に示すようにUS内視鏡2は、超音波観測装置3およびモニタ4とともに超音波内視鏡システム1を構成する。US内視鏡2は、体内に挿入される細長の挿入部21と、挿入部21の基端に配された操作部22と、操作部22の側部から延出したユニバーサルコード23と、を具備する。
【0015】
ユニバーサルコード23の基端部には、光源装置(不図示)に接続されるコネクタ24Aが配設されている。コネクタ24Aからは、カメラコントロールユニット(不図示)にコネクタ25Aを介して着脱自在に接続されるケーブル25と、超音波観測装置3にコネクタ26Aを介して着脱自在に接続されるケーブル26と、が延出している。超音波観測装置3にはモニタ4が接続される。
【0016】
挿入部21は、先端側から順に、先端硬性部(以下、「先端部」という)37と、先端部37の後端に位置する湾曲部38と、湾曲部38の後端に位置して操作部22に至る細径かつ長尺で可撓性を有する可撓管部39と、を連設して構成されている。そして、先端部37の先端側には超音波ユニット30が配設されている。
【0017】
操作部22には、湾曲部38を所望の方向に湾曲制御するアングルノブ22Aと、送気および送水操作を行う送気送水ボタン22Bと、吸引操作を行う吸引ボタン22Cと、体内に導入する処置具の入り口となる処置具挿入口22D等と、が配設されている。
【0018】
そして、図2に示すように、超音波ユニット(USユニット)30が、設けられた先端部37には、照明光学系を構成する照明用レンズカバー31と、観察光学系の観察用レンズカバー32と、吸引口を兼ねる鉗子口33と、図示しない送気送水ノズルと、が配設されている。
【0019】
図3に示すように、USユニット30の超音波アレイ(USアレイ)40は、複数の平面視矩形の超音波エレメント20の長辺が連結され、円筒状に湾曲配置されたラジアル型振動子群である。すなわち、USアレイ40では、例えば、直径2mmの円筒の側面に、短辺が0.1mm以下のUSエレメント20が200個、360度方向に配設されている。なお、USアレイ40は、ラジアル型振動子群であるが、USアレイは、凸形状に折り曲げしたコンベックス型振動子群であってもよい。
【0020】
円筒状の超音波アレイ40の端部には、複数の下部電極端子52が配列しており、それぞれが同軸ケーブル束35の、それぞれの信号線62と接続されている。上部電極端子51はそれぞれが同軸ケーブル束35の、それぞれの容量検出線61と接続されている。遮蔽電極端子53は、それぞれが同軸ケーブル束35のシールド線63と接続されている。すなわち同軸ケーブル束35は、複数の信号線62および複数の容量検出線61の合計数と同じ本数の芯線のある同軸ケーブルからなる。
【0021】
同軸ケーブル束35は、先端部37と、湾曲部38と、可撓管部39と、操作部22と、ユニバーサルコード23と、超音波ケーブル26と、に挿通され、超音波コネクタ26Aを介して、超音波観測装置3と接続されている。
【0022】
<送受信部の構成>
次に、図4、図5および図6を用いて、USエレメント20および超音波セル(USセル)10の構成について説明する。なお、図はいずれも説明のための模式図であり、パターンの数、厚さ、大きさ、および大きさ等の比率は実際とは異なる。
【0023】
図4に示すように、USエレメント20には、複数の静電容量型のUSセル10がマトリックス状に配置されている。なお説明のため図4では一部のUSセル10のみ示している。USセル10の配置は、規則的な格子配置、千鳥配置、または、三角メッシュ配置等であってもよいし、ランダム配置であってもよい。そしてUSエレメント20の一方の端部には下部電極端子52が、他方の端部には上部電極端子51と遮蔽電極端子53とが配設されている。
【0024】
図5および図6に示すように、USセル10は、基体であるシリコン基板11上に、順に積層された、下部電極端子52と接続された下部電極層12と、下部絶縁層(第1絶縁層)13と、円筒状のキャビティ14が形成された上部絶縁層(第2絶縁層)15と、上部電極端子51と接続された上部電極層16と、保護層(第3絶縁層)17と、を有する。シリコン基板11は、シリコン11Aの表面にシリコン熱酸化膜11B、11Cを形成した基板である。
【0025】
すなわち、それぞれのUSセル10は、キャビティ14を介して対向配置している下部電極部12Aと上部電極部16Aとを有する。
【0026】
下部電極層12は、平面視円形の複数の下部電極部12Aと、下部電極部12Aの縁辺部から2方向に延設している複数の下部配線部12Bと、を有する。下部配線部12Bは、同じUSエレメント20の他のUSセルの下部電極部12Aを接続している。そして、下部配線部12Bは下部電極端子52と接続されている。
【0027】
上部電極層16は、平面視円形の複数の上部電極部16Aと、上部電極部16Aの縁辺部から2方向に延設している複数の上部配線部16Bと、を有する。上部配線部16Bは、同じUSエレメント20の他のUSセルの上部電極部16Aを接続している。そして、上部配線部16Bは上部電極端子51と接続されている。
【0028】
すなわち。同じUSエレメント20に配置された複数のUSセル10の全ての下部電極部12Aは互いに接続されており、全ての上部電極部16Aも互いに接続されている。
【0029】
図5および図6に示す上記構造のUSセル10では、キャビティ14の直上領域の、上部絶縁層15と上部電極層16と保護層17とが、振動部であるメンブレン18を構成している。
【0030】
そして、USセル10は、キャビティ14の外周部に遮蔽電極部71を有する。遮蔽電極部71は、下部配線部12Bの上側を含む領域に形成された導電性材料からなる電極であり、遮蔽電極端子53と接続されている。後述するように、キャビティ14は上部絶縁層15に覆われた導電性材料からなる犠牲層70がエッチング処理により部分的に除去された領域であり、遮蔽電極部71は、エッチング処理により除去されなかった犠牲層70の残存領域である。
【0031】
なお、図6では図示の都合上、上部絶縁層15を上部絶縁層15Aと上部絶縁層15Bとに分離して表示しているが、上部絶縁層15Aと上部絶縁層15Bとは同時に一体形成される。そして、犠牲層70に形成された溝部70Aに進入した部分が上部絶縁層15Aである。
【0032】
USエレメント20では、下部配線部12Bの上側は、下部絶縁層13、上部絶縁層15および保護層17だけでなく、遮蔽電極部71により覆われている。そして遮蔽電極部71は遮蔽電極端子53を介して常にグランド電位である。
【0033】
このため、たとえ絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されても、下部電極層12に印加される電圧信号(駆動信号およびバイアス信号)がUSセル10の外部に漏れることがない。このため、USセル10およびUS内視鏡2は特性が安定している。
【0034】
また、遮蔽電極部71は、犠牲層70を用いて作製されるために、工程数の増加が少なく製造が容易である。
【0035】
<USエレメントの製造方法>
次に、図7(A)〜図7(F)、図8および図9を用いてUSエレメント20の製造方法について簡単に説明する。
【0036】
<ステップS11>下部電極層形成
導電性シリコンまたは金属、例えば、銅、金、またはアルミニウムからなる導電性材料が、シリコン基板11の全面にスパッタ法等により成膜される。そして、フォトリソグラフィによるマスクパターンを形成後にエッチングにより部分的に除去することにより、下部電極部12Aと下部配線部12Bとを有する下部電極層12が形成される。
【0037】
<ステップS12>下部絶縁層形成
下部電極層12を覆うように、SiN等の絶縁性材料からなる下部絶縁層13が例えばCVD法(化学気相成長法)等により成膜される。
【0038】
<ステップS13>犠牲層形成
下部絶縁層13の上に、導電性材料の中から選択されたエッチングにより除去可能な材料からなる犠牲層材料が成膜される。そして、図7(A)に示すように犠牲層70の上に、フォトリソグラフィによるマスクパターン75が形成される。
【0039】
<ステップS14>犠牲層パターニング
図7(B)および図8に示すように、犠牲層70が、エッチング処理により、キャビティの形状(円柱状)のキャビティ部72と、遮蔽電極部71と、にドーナツ状の溝部70Aを介して分離される。
【0040】
犠牲層70の厚さは、キャビティ14の高さとなるために、例えば、0.05〜0.3μmであり、好ましくは0.05〜0.15μmである。
【0041】
<ステップS15>上部絶縁層形成
図7(C)に示すように、犠牲層パターン(キャビティ部72および遮蔽電極部71)の上面に、上部絶縁層15が、例えば下部絶縁層13と同様の方法および同様の材料により形成される。このとき、すでに説明したように、溝部70Aの内部にも上部絶縁層15Aが形成される。
【0042】
そして、上部絶縁層15の所定の位置に、キャビティ部72を除去するために、エッチング剤を流入する開口部(不図示)が形成される。
【0043】
<ステップS16>キャビティ形成
次に、図7(D)および図9に示すように、キャビティ部72のエッチング除去によりキャビティ14が形成される。遮蔽電極部71は上部絶縁層15Aによりキャビティ部72と分離されているため、エッチング剤により除去されない。すなわち、遮蔽電極部71は、エッチング処理により除去されなかった犠牲層70の残存領域である。
【0044】
例えば犠牲層70としてタングステン(W)を用い、下部絶縁層13および上部絶縁層15として窒化シリコン(SiN)を用いた場合には、エッチング剤として過酸化水素水(H2O2)を用いる。また犠牲層70として導電性多結晶シリコンを用い、下部絶縁層13および上部絶縁層15としてSiNを用いた場合には、エッチング剤としてフッ化キセノンガス(XeF2)を用いる。
【0045】
なお、キャビティ14は円柱形状に限られるものではなく、多角柱形状等でもよい。キャビティ14が多角柱形状の場合には、上部電極部16Aおよび下部電極部12Aの平面視形状も多角形とすることが好ましい。
【0046】
<ステップS17>上部電極層形成
図7(E)に示すように、下部電極層12と同様の方法および同様の材料により、上部電極部16Aと上部配線部16Bとを有する上部電極層16が形成される。
【0047】
<ステップS18>保護層形成
図8(F)に示すように、USエレメント20の表面が、保護層17で覆われる。保護層17は、保護機能だけでなく、音響整合層機能、更にUSエレメント20を連結する機能も有する。
【0048】
なお、説明を省略したが、下部電極形成工程では下部電極端子52も形成されており、上部電極形成工程では上部電極端子51も形成されており、遮蔽電極形成工程(犠牲層形成)では遮蔽電極端子53も形成されている。保護層17は、下部電極端子52、上部電極端子51および遮蔽電極端子53を覆わないように形成される。
【0049】
保護層17としては、ポリイミド、エポキシ、アクリル、またはポリパラキシレンなどの可撓性の樹脂からなり、耐薬品性が高く、屈曲性を有し、加工が容易のため、特に好ましくはポリイミドである。なお、保護層17は第1絶縁層の上に、更に生体適合性のある第2絶縁層が形成された2層構造であってもよい。
【0050】
なお、複数の超音波エレメント20を、連結方向に所定の直径のラジアル形状に湾曲配置することでUSアレイ40が作製される。例えば、USアレイ40は、例えば所定の直径の円筒の外周に接合される。更にUSアレイ40に同軸ケーブル束35が接続され、USユニット30が作製される。
【0051】
<USエレメントの動作>
次に、図10を用いて、USエレメント20の動作について説明する。下部電極部12Aは下部電極端子52を介して超音波観測装置3の電圧信号発生部3Aと接続されている。遮蔽電極部71は遮蔽電極端子53を介してグランド電位となっている。一方、上部電極部16Aは上部電極端子51を介して容量信号検出部3Bと接続されグランド電位となっている。容量信号検出部3Bは容量信号(電流変化)を検出する。
【0052】
超音波発生時には、電圧信号発生部3Aはバイアス電圧を含む駆動電圧信号を下部電極部12Aに印加する。下部電極部12Aに電圧が印加されると、グランド電位の上部電極部16Aは静電力により下部電極部12Aに引き寄せられるため、上部電極部16Aを含むメンブレン18は変形する。そして下部電極部12Aへの電圧印加がなくなると、メンブレン18は弾性力により元の形に回復する。このメンブレン18の変形/回復により超音波が発生する。
【0053】
一方、超音波受信時には、受信した超音波エネルギーにより上部電極部16Aを含むメンブレン18が変形する。すると上部電極部16Aと下部電極部12Aとの距離が変化するため、その間の静電容量が変化する。すると容量信号検出部3Bに容量変化に伴う電流が流れる。すなわち、受信した超音波エネルギーが容量信号に変換される。
【0054】
なお、図6および図10に示すように、USセル10では、平面視略円形の下部電極部12Aの直径R12が、平面視略円形の上部電極部16Aの直径R16よりも大きく、更に平面視略円形の上部電極部16Aの直径R16が、平面視略円形のキャビティ14の直径R14よりも大きい。なお、下部電極部12Aとキャビティ14と上部電極部16Aの中心を結ぶ直線はシリコン基板11に垂直である。
【0055】
このため、USセル10では、製造時に積層形成する各層のパターン位置合わせ精度の許容量が大きく製造が容易である。言い換えれば、パターン位置合わせのずれが大きくても、USセル10は特性が安定している。
【0056】
しかし、このために、メンブレン18の外周領域で、下部電極部12Aと上部電極部16Aとが対向配置している部分がある。この対向部分はコンデンサを形成しているが、超音波を受信しても静電容量が変化しない寄生容量部(固定容量部)19である。寄生容量部19の静電容量が大きいと、メンブレン18(可変容量部)の静電容量が変化しても、容量信号検出部3Bで検出される容量信号(静電容量)の変化率は小さくなってしまう。
【0057】
しかし、USエレメント20では、下部電極部12Aと上部電極部16Aとが対向配置している外周部にグランド電位の遮蔽電極部71が配設されている。このため、下部電極部12Aと遮蔽電極部71とが対向配置している部分の上の上部電極部16Aは、下部電極部12Aとコンデンサを形成していない。すなわち上部電極部16Aの外周部は寄生容量の原因とならない。このため、USエレメント20は、遮蔽電極部71のないUSエレメントよりも超音波の受信感度が高い。
【0058】
更に、図6等に示したように、USエレメント20の下部配線部12Bと上部配線部16Bとは長手方向が直交している。すなわち、下部配線部12Bは下部電極部12AからY軸方向に延設されているのに対して、上部配線部16Bは上部電極部16AからZ軸方向に延設されている。下部配線部12Bと上部配線部16Bとは対向する領域がないUSエレメント20は、下部配線部12Bと上部配線部16Bとの間で寄生容量が生じないため、超音波の受信感度が高い。
【0059】
<第2実施形態>
次に第2実施形態のUSエレメント20AおよびUSエレメント20Aを具備する超音波内視鏡2Aについて説明する。USエレメント20AおよびUS内視鏡2Aは、USエレメント20およびUS内視鏡2と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0060】
図11に示すように、USエレメント20Aでは、上部電極層16を形成するために成膜した導電性材料からなる層の一部(16C)が遮蔽電極部74である。すなわち、遮蔽電極部74は、上部電極層16と同時に同じ材料により形成され、上部電極層16と溝部75Aにより分離されている領域である。
【0061】
ここで、図12は下部電極層12のパターンを示している。すでに説明したように、下部電極層12は、全面に導電性材料層を形成した後に、マスクを介してエッチング処理を行うことにより、下部電極部12Aと下部配線部12Bとからなるパターンに加工される。
【0062】
これに対して、図12に示すように、上部電極層16は、全面に導電性材料層を形成した後に、マスクを介してエッチング処理を行うことにより、溝部75Aにより遮蔽電極部74と分離される。
【0063】
遮蔽電極部74を具備するUSエレメント20Aは、たとえ絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されても、下部電極層12に印加される電圧信号(駆動信号およびバイアス信号)がUSエレメント20Aの外部に漏れることがない。このため、USエレメント20AおよびUS内視鏡2Aは特性が安定している。
【0064】
また、遮蔽電極部74は、上部電極層16と同時に作製されるために、工程数の増加が少なく製造が容易である。
【0065】
<第3実施形態>
次に第3実施形態のUSエレメント20BおよびUSエレメント20Bを具備する超音波内視鏡2Bについて説明する。USエレメント20BおよびUS内視鏡2Bは、USエレメント20、20AおよびUS内視鏡2、2Aと類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0066】
図14に示すように、USエレメント20Bは、遮蔽電極部が、第1の遮蔽電極部71と第2の遮蔽電極部73とからなる。第1の遮蔽電極部71は、USエレメント20が具備していたのと同じようにエッチング処理により除去されなかった犠牲層70の残存領域からなる。第2の遮蔽電極部73は、USエレメント20Aが具備していたのと同じように上部電極層16と同時に形成され、上部電極層16と溝部75Aにより分離されている領域である。
USエレメント20BおよびUS内視鏡2Bは、2つの遮蔽電極部71、73を具備するため、USエレメント20、10AおよびUS内視鏡2、2Aよりも、より特性が安定している。
【0067】
<第4実施形態>
次に第4実施形態のUSエレメント20CおよびUSエレメント20Cを具備する超音波内視鏡2Cについて説明する。USエレメント20CおよびUS内視鏡2Cは、USエレメント20およびUS内視鏡2と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0068】
図15に示すように、USエレメント20Cでは、遮蔽電極部76が、保護層17を介して下部電極層12の上側の全面を覆っている。遮蔽電極部76は、導電性材料、例えばアルミニウム、チタン、導電性プラスチック等からなる。なお、遮蔽電極部76を更に第2保護層(不図示)が覆っていてもよい。言い換えれば遮蔽電極部76を、多層構造の保護層の中間層としてもよい。
【0069】
USエレメント20Cは、メンブレン18が遮蔽電極部76の分だけ厚くなるため、振動しにくくなるという問題点がある。また、遮蔽電極部76を形成する工程を追加する必要がある。
【0070】
しかし、USエレメント20Cはたとえ絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されても、下部電極層12に印加される電圧信号(駆動信号およびバイアス信号)がUSエレメント20Cの外部に漏れることがない。このため、USエレメント20CおよびUS内視鏡2Cは特性が安定している。
【0071】
本発明は、上述した実施形態または変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1…超音波内視鏡システム、2…超音波内視鏡、3…超音波観測装置、3A…電圧信号発生部、3B…容量信号検出部、10…超音波セル、11…シリコン基板、12…下部電極層、12A…下部電極部、12B…下部配線部、13…下部絶縁層、14…キャビティ、15…上部絶縁層、16…上部電極層、16A…上部電極部、16B…上部配線部、17…保護層、18…メンブレン、20…超音波エレメント、30…超音波ユニット、40…超音波アレイ、51…上部電極端子、52…下部電極端子、53…遮蔽電極端子、70…犠牲層、70A…溝部、71…遮蔽電極部、72…キャビティ部、73…遮蔽電極部、74…遮蔽電極部、75A…溝部、76…遮蔽電極部
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型の超音波エレメント、および、前記超音波エレメントを具備する超音波内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
体内に超音波を照射し、エコー信号から体内の状態を画像化して診断する超音波診断法が普及している。超音波診断法に用いられる超音波診断装置の1つに超音波内視鏡(以下、「US内視鏡」という)がある。US内視鏡は、体内へ導入される挿入部の先端硬性部に超音波振動子が配設されている。超音波振動子は電気信号を超音波に変換し体内へ送信し、また体内で反射した超音波を受信して電気信号に変換する機能を有する。
【0003】
これまでは、超音波振動子には、環境負荷が大きい鉛を含むセラミック圧電材、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)等が主に使用されていた。これに対して、カロンティらは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造される、材料に鉛を含まない静電容量型超音波振動子(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer;以下、「c−MUT」という)を開示している。c−MUTは、上部電極部と下部電極部とが空洞部(キャビティ)を介して対向配置した超音波セル(以下、「USセル」という)を単位素子とする。そして、それぞれの電極部が配線部により接続された複数のUSセルを配列して超音波エレメント(以下、「USエレメント」という)を構成している。
【0004】
USセルは、下部電極部と上部電極部との間に電圧を印加することで、静電力により上部電極部を含むメンブレン(振動部)を振動して超音波を発生する。また外部から超音波が入射すると両電極の間隔が変化するため、静電容量の変化から超音波を電気信号に変換する。なお、超音波受信送信時だけでなく超音波受信時にも、送受信の効率を向上するため、電極間に所定のバイアス電圧が印加される。
【0005】
c−MUTでは、安定した特性を得るために、超音波発生のための駆動信号および超音波受信のためのバイアス信号は下部電極部に印加されており、上部電極部は常にグランド電位(接地電位)とされている。
【0006】
しかし、下部電極部または下部配線部を覆っている絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されることがある。すると、印加された電位が欠陥部からUSセルの外部に漏れ出るため、USセルおよびUS内視鏡の特性が不安定になるおそれがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】カロンティら、マイクロエレクトロニクスジャーナル(Microelectronics Journal)、2006年、37巻、p770−777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、特性が安定した超音波エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の超音波エレメントは、基体と、複数の下部電極部と、前記複数の下部電極部を接続する複数の下部配線部と、を有し、駆動信号およびバイアス信号が印加される下部電極端子と接続された下部電極層と、下部絶縁層と、複数のキャビティが形成された上部絶縁層と、それぞれの前記キャビティを介して、それぞれの前記下部電極部と対向配置している複数の上部電極部と、前記複数の上部電極部を接続する複数の上部配線部と、を有し、容量信号を検出するための、グランド電位の上部電極端子と接続された上部電極層と、保護層と、が前記基体の上に順に積層されており、少なくとも前記下部配線部の上側に形成された、グランド電位の遮蔽電極端子と接続された遮蔽電極部を更に具備する。
【0010】
また本発明の別の実施形態の超音波内視鏡は、前記記載の超音波エレメントを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、特性が安定した超音波エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の超音波内視鏡を説明するための外観図である。
【図2】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部を説明するための斜視図である。
【図3】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部の超音波アレイの構成を説明するための斜視図である。
【図4】第1実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための上面図である。
【図5】第1実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための図4のV−V線に沿った部分断面図である。
【図6】第1実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【図7】第1実施形態の超音波セルの製造方法を説明するための断面図である。
【図8】第1実施形態の超音波セルの犠牲層のパターンを示す上面図である。
【図9】第1実施形態の超音波セルの遮蔽電極部のパターンを示す上面図である。
【図10】第1実施形態の超音波セルの動作を説明するための模式図である。
【図11】第2実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【図12】第2実施形態の超音波セルの下部電極層のパターンを示す上面図である。
【図13】第2実施形態の超音波セルの上部電極層のパターンを示す上面図である。
【図14】第3実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【図15】第4実施形態の超音波セルの構造を説明するための分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して第1実施形態の超音波エレメント20、および、超音波エレメント20を有する超音波内視鏡2について説明する。
【0014】
<超音波内視鏡の構成>
図1に示すようにUS内視鏡2は、超音波観測装置3およびモニタ4とともに超音波内視鏡システム1を構成する。US内視鏡2は、体内に挿入される細長の挿入部21と、挿入部21の基端に配された操作部22と、操作部22の側部から延出したユニバーサルコード23と、を具備する。
【0015】
ユニバーサルコード23の基端部には、光源装置(不図示)に接続されるコネクタ24Aが配設されている。コネクタ24Aからは、カメラコントロールユニット(不図示)にコネクタ25Aを介して着脱自在に接続されるケーブル25と、超音波観測装置3にコネクタ26Aを介して着脱自在に接続されるケーブル26と、が延出している。超音波観測装置3にはモニタ4が接続される。
【0016】
挿入部21は、先端側から順に、先端硬性部(以下、「先端部」という)37と、先端部37の後端に位置する湾曲部38と、湾曲部38の後端に位置して操作部22に至る細径かつ長尺で可撓性を有する可撓管部39と、を連設して構成されている。そして、先端部37の先端側には超音波ユニット30が配設されている。
【0017】
操作部22には、湾曲部38を所望の方向に湾曲制御するアングルノブ22Aと、送気および送水操作を行う送気送水ボタン22Bと、吸引操作を行う吸引ボタン22Cと、体内に導入する処置具の入り口となる処置具挿入口22D等と、が配設されている。
【0018】
そして、図2に示すように、超音波ユニット(USユニット)30が、設けられた先端部37には、照明光学系を構成する照明用レンズカバー31と、観察光学系の観察用レンズカバー32と、吸引口を兼ねる鉗子口33と、図示しない送気送水ノズルと、が配設されている。
【0019】
図3に示すように、USユニット30の超音波アレイ(USアレイ)40は、複数の平面視矩形の超音波エレメント20の長辺が連結され、円筒状に湾曲配置されたラジアル型振動子群である。すなわち、USアレイ40では、例えば、直径2mmの円筒の側面に、短辺が0.1mm以下のUSエレメント20が200個、360度方向に配設されている。なお、USアレイ40は、ラジアル型振動子群であるが、USアレイは、凸形状に折り曲げしたコンベックス型振動子群であってもよい。
【0020】
円筒状の超音波アレイ40の端部には、複数の下部電極端子52が配列しており、それぞれが同軸ケーブル束35の、それぞれの信号線62と接続されている。上部電極端子51はそれぞれが同軸ケーブル束35の、それぞれの容量検出線61と接続されている。遮蔽電極端子53は、それぞれが同軸ケーブル束35のシールド線63と接続されている。すなわち同軸ケーブル束35は、複数の信号線62および複数の容量検出線61の合計数と同じ本数の芯線のある同軸ケーブルからなる。
【0021】
同軸ケーブル束35は、先端部37と、湾曲部38と、可撓管部39と、操作部22と、ユニバーサルコード23と、超音波ケーブル26と、に挿通され、超音波コネクタ26Aを介して、超音波観測装置3と接続されている。
【0022】
<送受信部の構成>
次に、図4、図5および図6を用いて、USエレメント20および超音波セル(USセル)10の構成について説明する。なお、図はいずれも説明のための模式図であり、パターンの数、厚さ、大きさ、および大きさ等の比率は実際とは異なる。
【0023】
図4に示すように、USエレメント20には、複数の静電容量型のUSセル10がマトリックス状に配置されている。なお説明のため図4では一部のUSセル10のみ示している。USセル10の配置は、規則的な格子配置、千鳥配置、または、三角メッシュ配置等であってもよいし、ランダム配置であってもよい。そしてUSエレメント20の一方の端部には下部電極端子52が、他方の端部には上部電極端子51と遮蔽電極端子53とが配設されている。
【0024】
図5および図6に示すように、USセル10は、基体であるシリコン基板11上に、順に積層された、下部電極端子52と接続された下部電極層12と、下部絶縁層(第1絶縁層)13と、円筒状のキャビティ14が形成された上部絶縁層(第2絶縁層)15と、上部電極端子51と接続された上部電極層16と、保護層(第3絶縁層)17と、を有する。シリコン基板11は、シリコン11Aの表面にシリコン熱酸化膜11B、11Cを形成した基板である。
【0025】
すなわち、それぞれのUSセル10は、キャビティ14を介して対向配置している下部電極部12Aと上部電極部16Aとを有する。
【0026】
下部電極層12は、平面視円形の複数の下部電極部12Aと、下部電極部12Aの縁辺部から2方向に延設している複数の下部配線部12Bと、を有する。下部配線部12Bは、同じUSエレメント20の他のUSセルの下部電極部12Aを接続している。そして、下部配線部12Bは下部電極端子52と接続されている。
【0027】
上部電極層16は、平面視円形の複数の上部電極部16Aと、上部電極部16Aの縁辺部から2方向に延設している複数の上部配線部16Bと、を有する。上部配線部16Bは、同じUSエレメント20の他のUSセルの上部電極部16Aを接続している。そして、上部配線部16Bは上部電極端子51と接続されている。
【0028】
すなわち。同じUSエレメント20に配置された複数のUSセル10の全ての下部電極部12Aは互いに接続されており、全ての上部電極部16Aも互いに接続されている。
【0029】
図5および図6に示す上記構造のUSセル10では、キャビティ14の直上領域の、上部絶縁層15と上部電極層16と保護層17とが、振動部であるメンブレン18を構成している。
【0030】
そして、USセル10は、キャビティ14の外周部に遮蔽電極部71を有する。遮蔽電極部71は、下部配線部12Bの上側を含む領域に形成された導電性材料からなる電極であり、遮蔽電極端子53と接続されている。後述するように、キャビティ14は上部絶縁層15に覆われた導電性材料からなる犠牲層70がエッチング処理により部分的に除去された領域であり、遮蔽電極部71は、エッチング処理により除去されなかった犠牲層70の残存領域である。
【0031】
なお、図6では図示の都合上、上部絶縁層15を上部絶縁層15Aと上部絶縁層15Bとに分離して表示しているが、上部絶縁層15Aと上部絶縁層15Bとは同時に一体形成される。そして、犠牲層70に形成された溝部70Aに進入した部分が上部絶縁層15Aである。
【0032】
USエレメント20では、下部配線部12Bの上側は、下部絶縁層13、上部絶縁層15および保護層17だけでなく、遮蔽電極部71により覆われている。そして遮蔽電極部71は遮蔽電極端子53を介して常にグランド電位である。
【0033】
このため、たとえ絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されても、下部電極層12に印加される電圧信号(駆動信号およびバイアス信号)がUSセル10の外部に漏れることがない。このため、USセル10およびUS内視鏡2は特性が安定している。
【0034】
また、遮蔽電極部71は、犠牲層70を用いて作製されるために、工程数の増加が少なく製造が容易である。
【0035】
<USエレメントの製造方法>
次に、図7(A)〜図7(F)、図8および図9を用いてUSエレメント20の製造方法について簡単に説明する。
【0036】
<ステップS11>下部電極層形成
導電性シリコンまたは金属、例えば、銅、金、またはアルミニウムからなる導電性材料が、シリコン基板11の全面にスパッタ法等により成膜される。そして、フォトリソグラフィによるマスクパターンを形成後にエッチングにより部分的に除去することにより、下部電極部12Aと下部配線部12Bとを有する下部電極層12が形成される。
【0037】
<ステップS12>下部絶縁層形成
下部電極層12を覆うように、SiN等の絶縁性材料からなる下部絶縁層13が例えばCVD法(化学気相成長法)等により成膜される。
【0038】
<ステップS13>犠牲層形成
下部絶縁層13の上に、導電性材料の中から選択されたエッチングにより除去可能な材料からなる犠牲層材料が成膜される。そして、図7(A)に示すように犠牲層70の上に、フォトリソグラフィによるマスクパターン75が形成される。
【0039】
<ステップS14>犠牲層パターニング
図7(B)および図8に示すように、犠牲層70が、エッチング処理により、キャビティの形状(円柱状)のキャビティ部72と、遮蔽電極部71と、にドーナツ状の溝部70Aを介して分離される。
【0040】
犠牲層70の厚さは、キャビティ14の高さとなるために、例えば、0.05〜0.3μmであり、好ましくは0.05〜0.15μmである。
【0041】
<ステップS15>上部絶縁層形成
図7(C)に示すように、犠牲層パターン(キャビティ部72および遮蔽電極部71)の上面に、上部絶縁層15が、例えば下部絶縁層13と同様の方法および同様の材料により形成される。このとき、すでに説明したように、溝部70Aの内部にも上部絶縁層15Aが形成される。
【0042】
そして、上部絶縁層15の所定の位置に、キャビティ部72を除去するために、エッチング剤を流入する開口部(不図示)が形成される。
【0043】
<ステップS16>キャビティ形成
次に、図7(D)および図9に示すように、キャビティ部72のエッチング除去によりキャビティ14が形成される。遮蔽電極部71は上部絶縁層15Aによりキャビティ部72と分離されているため、エッチング剤により除去されない。すなわち、遮蔽電極部71は、エッチング処理により除去されなかった犠牲層70の残存領域である。
【0044】
例えば犠牲層70としてタングステン(W)を用い、下部絶縁層13および上部絶縁層15として窒化シリコン(SiN)を用いた場合には、エッチング剤として過酸化水素水(H2O2)を用いる。また犠牲層70として導電性多結晶シリコンを用い、下部絶縁層13および上部絶縁層15としてSiNを用いた場合には、エッチング剤としてフッ化キセノンガス(XeF2)を用いる。
【0045】
なお、キャビティ14は円柱形状に限られるものではなく、多角柱形状等でもよい。キャビティ14が多角柱形状の場合には、上部電極部16Aおよび下部電極部12Aの平面視形状も多角形とすることが好ましい。
【0046】
<ステップS17>上部電極層形成
図7(E)に示すように、下部電極層12と同様の方法および同様の材料により、上部電極部16Aと上部配線部16Bとを有する上部電極層16が形成される。
【0047】
<ステップS18>保護層形成
図8(F)に示すように、USエレメント20の表面が、保護層17で覆われる。保護層17は、保護機能だけでなく、音響整合層機能、更にUSエレメント20を連結する機能も有する。
【0048】
なお、説明を省略したが、下部電極形成工程では下部電極端子52も形成されており、上部電極形成工程では上部電極端子51も形成されており、遮蔽電極形成工程(犠牲層形成)では遮蔽電極端子53も形成されている。保護層17は、下部電極端子52、上部電極端子51および遮蔽電極端子53を覆わないように形成される。
【0049】
保護層17としては、ポリイミド、エポキシ、アクリル、またはポリパラキシレンなどの可撓性の樹脂からなり、耐薬品性が高く、屈曲性を有し、加工が容易のため、特に好ましくはポリイミドである。なお、保護層17は第1絶縁層の上に、更に生体適合性のある第2絶縁層が形成された2層構造であってもよい。
【0050】
なお、複数の超音波エレメント20を、連結方向に所定の直径のラジアル形状に湾曲配置することでUSアレイ40が作製される。例えば、USアレイ40は、例えば所定の直径の円筒の外周に接合される。更にUSアレイ40に同軸ケーブル束35が接続され、USユニット30が作製される。
【0051】
<USエレメントの動作>
次に、図10を用いて、USエレメント20の動作について説明する。下部電極部12Aは下部電極端子52を介して超音波観測装置3の電圧信号発生部3Aと接続されている。遮蔽電極部71は遮蔽電極端子53を介してグランド電位となっている。一方、上部電極部16Aは上部電極端子51を介して容量信号検出部3Bと接続されグランド電位となっている。容量信号検出部3Bは容量信号(電流変化)を検出する。
【0052】
超音波発生時には、電圧信号発生部3Aはバイアス電圧を含む駆動電圧信号を下部電極部12Aに印加する。下部電極部12Aに電圧が印加されると、グランド電位の上部電極部16Aは静電力により下部電極部12Aに引き寄せられるため、上部電極部16Aを含むメンブレン18は変形する。そして下部電極部12Aへの電圧印加がなくなると、メンブレン18は弾性力により元の形に回復する。このメンブレン18の変形/回復により超音波が発生する。
【0053】
一方、超音波受信時には、受信した超音波エネルギーにより上部電極部16Aを含むメンブレン18が変形する。すると上部電極部16Aと下部電極部12Aとの距離が変化するため、その間の静電容量が変化する。すると容量信号検出部3Bに容量変化に伴う電流が流れる。すなわち、受信した超音波エネルギーが容量信号に変換される。
【0054】
なお、図6および図10に示すように、USセル10では、平面視略円形の下部電極部12Aの直径R12が、平面視略円形の上部電極部16Aの直径R16よりも大きく、更に平面視略円形の上部電極部16Aの直径R16が、平面視略円形のキャビティ14の直径R14よりも大きい。なお、下部電極部12Aとキャビティ14と上部電極部16Aの中心を結ぶ直線はシリコン基板11に垂直である。
【0055】
このため、USセル10では、製造時に積層形成する各層のパターン位置合わせ精度の許容量が大きく製造が容易である。言い換えれば、パターン位置合わせのずれが大きくても、USセル10は特性が安定している。
【0056】
しかし、このために、メンブレン18の外周領域で、下部電極部12Aと上部電極部16Aとが対向配置している部分がある。この対向部分はコンデンサを形成しているが、超音波を受信しても静電容量が変化しない寄生容量部(固定容量部)19である。寄生容量部19の静電容量が大きいと、メンブレン18(可変容量部)の静電容量が変化しても、容量信号検出部3Bで検出される容量信号(静電容量)の変化率は小さくなってしまう。
【0057】
しかし、USエレメント20では、下部電極部12Aと上部電極部16Aとが対向配置している外周部にグランド電位の遮蔽電極部71が配設されている。このため、下部電極部12Aと遮蔽電極部71とが対向配置している部分の上の上部電極部16Aは、下部電極部12Aとコンデンサを形成していない。すなわち上部電極部16Aの外周部は寄生容量の原因とならない。このため、USエレメント20は、遮蔽電極部71のないUSエレメントよりも超音波の受信感度が高い。
【0058】
更に、図6等に示したように、USエレメント20の下部配線部12Bと上部配線部16Bとは長手方向が直交している。すなわち、下部配線部12Bは下部電極部12AからY軸方向に延設されているのに対して、上部配線部16Bは上部電極部16AからZ軸方向に延設されている。下部配線部12Bと上部配線部16Bとは対向する領域がないUSエレメント20は、下部配線部12Bと上部配線部16Bとの間で寄生容量が生じないため、超音波の受信感度が高い。
【0059】
<第2実施形態>
次に第2実施形態のUSエレメント20AおよびUSエレメント20Aを具備する超音波内視鏡2Aについて説明する。USエレメント20AおよびUS内視鏡2Aは、USエレメント20およびUS内視鏡2と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0060】
図11に示すように、USエレメント20Aでは、上部電極層16を形成するために成膜した導電性材料からなる層の一部(16C)が遮蔽電極部74である。すなわち、遮蔽電極部74は、上部電極層16と同時に同じ材料により形成され、上部電極層16と溝部75Aにより分離されている領域である。
【0061】
ここで、図12は下部電極層12のパターンを示している。すでに説明したように、下部電極層12は、全面に導電性材料層を形成した後に、マスクを介してエッチング処理を行うことにより、下部電極部12Aと下部配線部12Bとからなるパターンに加工される。
【0062】
これに対して、図12に示すように、上部電極層16は、全面に導電性材料層を形成した後に、マスクを介してエッチング処理を行うことにより、溝部75Aにより遮蔽電極部74と分離される。
【0063】
遮蔽電極部74を具備するUSエレメント20Aは、たとえ絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されても、下部電極層12に印加される電圧信号(駆動信号およびバイアス信号)がUSエレメント20Aの外部に漏れることがない。このため、USエレメント20AおよびUS内視鏡2Aは特性が安定している。
【0064】
また、遮蔽電極部74は、上部電極層16と同時に作製されるために、工程数の増加が少なく製造が容易である。
【0065】
<第3実施形態>
次に第3実施形態のUSエレメント20BおよびUSエレメント20Bを具備する超音波内視鏡2Bについて説明する。USエレメント20BおよびUS内視鏡2Bは、USエレメント20、20AおよびUS内視鏡2、2Aと類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0066】
図14に示すように、USエレメント20Bは、遮蔽電極部が、第1の遮蔽電極部71と第2の遮蔽電極部73とからなる。第1の遮蔽電極部71は、USエレメント20が具備していたのと同じようにエッチング処理により除去されなかった犠牲層70の残存領域からなる。第2の遮蔽電極部73は、USエレメント20Aが具備していたのと同じように上部電極層16と同時に形成され、上部電極層16と溝部75Aにより分離されている領域である。
USエレメント20BおよびUS内視鏡2Bは、2つの遮蔽電極部71、73を具備するため、USエレメント20、10AおよびUS内視鏡2、2Aよりも、より特性が安定している。
【0067】
<第4実施形態>
次に第4実施形態のUSエレメント20CおよびUSエレメント20Cを具備する超音波内視鏡2Cについて説明する。USエレメント20CおよびUS内視鏡2Cは、USエレメント20およびUS内視鏡2と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0068】
図15に示すように、USエレメント20Cでは、遮蔽電極部76が、保護層17を介して下部電極層12の上側の全面を覆っている。遮蔽電極部76は、導電性材料、例えばアルミニウム、チタン、導電性プラスチック等からなる。なお、遮蔽電極部76を更に第2保護層(不図示)が覆っていてもよい。言い換えれば遮蔽電極部76を、多層構造の保護層の中間層としてもよい。
【0069】
USエレメント20Cは、メンブレン18が遮蔽電極部76の分だけ厚くなるため、振動しにくくなるという問題点がある。また、遮蔽電極部76を形成する工程を追加する必要がある。
【0070】
しかし、USエレメント20Cはたとえ絶縁膜の一部が、ゴミまたは欠陥などに起因して破壊されても、下部電極層12に印加される電圧信号(駆動信号およびバイアス信号)がUSエレメント20Cの外部に漏れることがない。このため、USエレメント20CおよびUS内視鏡2Cは特性が安定している。
【0071】
本発明は、上述した実施形態または変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1…超音波内視鏡システム、2…超音波内視鏡、3…超音波観測装置、3A…電圧信号発生部、3B…容量信号検出部、10…超音波セル、11…シリコン基板、12…下部電極層、12A…下部電極部、12B…下部配線部、13…下部絶縁層、14…キャビティ、15…上部絶縁層、16…上部電極層、16A…上部電極部、16B…上部配線部、17…保護層、18…メンブレン、20…超音波エレメント、30…超音波ユニット、40…超音波アレイ、51…上部電極端子、52…下部電極端子、53…遮蔽電極端子、70…犠牲層、70A…溝部、71…遮蔽電極部、72…キャビティ部、73…遮蔽電極部、74…遮蔽電極部、75A…溝部、76…遮蔽電極部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
複数の下部電極部と、前記複数の下部電極部を接続する複数の下部配線部と、を有し、駆動信号およびバイアス信号が印加される下部電極端子と接続された下部電極層と、
下部絶縁層と、
複数のキャビティが形成された上部絶縁層と、
それぞれの前記キャビティを介して、それぞれの前記下部電極部と対向配置している複数の上部電極部と、前記複数の上部電極部を接続する複数の上部配線部と、を有し、容量信号を検出するための、グランド電位の上部電極端子と接続された上部電極層と、
保護層と、が前記基体の上に順に積層されており、
少なくとも前記下部配線部の上側に形成された、グランド電位の遮蔽電極端子と接続された遮蔽電極部を更に具備することを特徴とする超音波エレメント。
【請求項2】
前記キャビティが、前記上部絶縁層に覆われた導電性材料からなる犠牲層がエッチング処理により部分的に除去された領域であり、
前記遮蔽電極部が、前記エッチング処理により除去されなかった前記犠牲層の残存領域であることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項3】
前記遮蔽電極部が、前記上部電極層と同時に形成され、前記上部電極層と溝部により分離されている領域であることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項4】
前記遮蔽電極部が、第1の遮蔽電極部と第2の遮蔽電極部とからなり、
前記キャビティが、前記上部絶縁層に覆われた導電性材料からなる犠牲層がエッチング処理により部分的に除去された領域であり、
前記第1の遮蔽電極部が前記エッチング処理により除去されなかった前記犠牲層の残存領域であり、前記第2の遮蔽電極部が前記上部電極層と同時に形成され、前記上部電極層と溝部により分離されている領域であることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項5】
前記遮蔽電極部が、前記保護層を介して前記下部電極層の上側の全面を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の前記超音波エレメントを有する超音波内視鏡。
【請求項1】
基体と、
複数の下部電極部と、前記複数の下部電極部を接続する複数の下部配線部と、を有し、駆動信号およびバイアス信号が印加される下部電極端子と接続された下部電極層と、
下部絶縁層と、
複数のキャビティが形成された上部絶縁層と、
それぞれの前記キャビティを介して、それぞれの前記下部電極部と対向配置している複数の上部電極部と、前記複数の上部電極部を接続する複数の上部配線部と、を有し、容量信号を検出するための、グランド電位の上部電極端子と接続された上部電極層と、
保護層と、が前記基体の上に順に積層されており、
少なくとも前記下部配線部の上側に形成された、グランド電位の遮蔽電極端子と接続された遮蔽電極部を更に具備することを特徴とする超音波エレメント。
【請求項2】
前記キャビティが、前記上部絶縁層に覆われた導電性材料からなる犠牲層がエッチング処理により部分的に除去された領域であり、
前記遮蔽電極部が、前記エッチング処理により除去されなかった前記犠牲層の残存領域であることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項3】
前記遮蔽電極部が、前記上部電極層と同時に形成され、前記上部電極層と溝部により分離されている領域であることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項4】
前記遮蔽電極部が、第1の遮蔽電極部と第2の遮蔽電極部とからなり、
前記キャビティが、前記上部絶縁層に覆われた導電性材料からなる犠牲層がエッチング処理により部分的に除去された領域であり、
前記第1の遮蔽電極部が前記エッチング処理により除去されなかった前記犠牲層の残存領域であり、前記第2の遮蔽電極部が前記上部電極層と同時に形成され、前記上部電極層と溝部により分離されている領域であることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項5】
前記遮蔽電極部が、前記保護層を介して前記下部電極層の上側の全面を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の前記超音波エレメントを有する超音波内視鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−21511(P2013−21511A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153278(P2011−153278)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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