説明

超音波エレメントおよび超音波内視鏡

【課題】特性が安定した超音波エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供する。
【解決手段】USエレメント20は、シリコン基板11と、それぞれが、キャビティ14を介して対向配置した下部電極部12Aと上部電極部16Aとを有する複数の超音波セル10と、複数の超音波セル10の超音波送受信面の周囲を覆う超音波吸収層71と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型の超音波エレメントおよび前記超音波エレメントを具備する超音波内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
体内に超音波を照射し、エコー信号から体内の状態を画像化して診断する超音波診断法が普及している。超音波診断法に用いられる超音波診断装置の1つに超音波内視鏡(以下、「US内視鏡」という)がある。US内視鏡は、体内へ導入される挿入部の先端硬性部に超音波振動子が配設されている。超音波振動子は電気信号を超音波に変換し体内へ送信し、また体内で反射した超音波を受信して電気信号に変換する機能を有する。
【0003】
超音波振動子には、環境負荷が大きい鉛を含むセラミック圧電材、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)等が主に使用されている。これに対して、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造される、材料に鉛を含まない静電容量型超音波振動子(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer;以下、「c−MUT」という)の開発が進んでいる。
【0004】
c−MUTは、上部電極部と下部電極部とが空洞部(キャビティ)を介して対向配置した超音波セル(以下、「USセル」という)を単位素子とする。USセルでは、キャビティの上側の上部電極部を含むメンブレンが振動部を構成している。そして、それぞれの電極部が配線部により接続された複数のUSセルを配列して超音波エレメント(以下、「USエレメント」という)を構成している。
【0005】
USセルは、下部電極部と上部電極部との間に電圧を印加することで、静電力により上部電極部を含むメンブレンを振動して超音波を発生する。また外部からメンブレンに超音波が入射すると両電極の間隔が変化するため、静電容量の変化から超音波を電気信号に変換する。
【0006】
c−MUTは狭い面積に高密度に配置された複数のUSセルからなるため、隣接するUSセルの振動が、ノイズとなることがある。特開2007−301023号公報には、隣接するUSセル間の干渉を抑制するために、USセルの内部に超音波を吸音する吸音部等を設けた超音波探触子が開示されている。
【0007】
しかし、公知のUSエレメントでは、十分にノイズを低減することは容易ではなく、特性が不安定になるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−301023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、特性が安定した超音波エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態の超音波エレメントは、基板と、それぞれが、キャビティを介して対向配置した下部電極部と上部電極部とを有する複数の超音波セルと、複数の前記超音波セルの超音波送受信面の周囲を覆う超音波吸収層と、を具備する。
【0011】
また本発明の別の実施形態の超音波内視鏡は、前記記載の超音波エレメントを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、特性が安定した超音波エレメントおよび特性が安定した超音波内視鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態の超音波内視鏡を説明するための外観図である。
【図2】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部を説明するための斜視図である。
【図3】第1実施形態の超音波内視鏡の先端部の超音波アレイの構成を説明するための斜視図である。
【図4】第1実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための斜視図である。
【図5】第1実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための図4のV−V線に沿った部分断面図である。
【図6】第1実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための分解図である。
【図7】第1実施形態の変形例の超音波エレメントの構造を説明するための部分断面図である。
【図8】第2実施形態の超音波エレメントの構造を説明するための部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して第1実施形態の超音波エレメント20、および、超音波エレメント20を有する超音波内視鏡2について説明する。
【0015】
図1に示すようにUS内視鏡2は、超音波観測装置3およびモニタ4とともに超音波内視鏡システム1を構成する。US内視鏡2は、体内に挿入される細長の挿入部21と、挿入部21の基端に配された操作部22と、操作部22の側部から延出したユニバーサルコード23と、を具備する。
【0016】
ユニバーサルコード23の基端部には、光源装置(不図示)に接続されるコネクタ24Aが配設されている。コネクタ24Aからは、カメラコントロールユニット(不図示)にコネクタ25Aを介して着脱自在に接続されるケーブル25と、超音波観測装置3にコネクタ26Aを介して着脱自在に接続されるケーブル26と、が延出している。超音波観測装置3にはモニタ4が接続される。
【0017】
挿入部21は、先端側から順に、先端硬性部(以下、「先端部」という)37と、先端部37の後端に位置する湾曲部38と、湾曲部38の後端に位置して操作部22に至る細径かつ長尺で可撓性を有する可撓管部39と、を連設して構成されている。そして、先端部37の先端側には超音波ユニット(USユニット)30が配設されている。
【0018】
操作部22には、湾曲部38を所望の方向に湾曲制御するアングルノブ22Aと、送気および送水操作を行う送気送水ボタン22Bと、吸引操作を行う吸引ボタン22Cと、体内に導入する処置具の入り口となる処置具挿入口22D等と、が配設されている。
【0019】
そして、図2に示すように、USユニット30が、設けられた先端部37には、照明光学系を構成する照明用レンズカバー31と、観察光学系の観察用レンズカバー32と、吸引口を兼ねる鉗子口33と、図示しない送気送水ノズルと、が配設されている。
【0020】
図3に示すように、USユニット30の超音波アレイ(USアレイ)40は、複数の平面視矩形の超音波エレメント20の長辺が連結され、円筒状に湾曲配置されたラジアル型振動子群である。すなわち、USアレイ40では、例えば、直径2mmの円筒の側面に、短辺が0.1mm以下のUSエレメント20が200個、360度方向に配設されている。なお、USアレイ40は、ラジアル型振動子群であるが、USアレイは、凸形状に折り曲げしたコンベックス型振動子群であってもよい。
【0021】
円筒状の超音波アレイ40の端部には、複数の下部電極端子52が配列しており、それぞれが同軸ケーブル束35の、それぞれの信号線62と接続されている。上部電極端子51はそれぞれが同軸ケーブル束35の、それぞれの容量検出線61と接続されている。
【0022】
同軸ケーブル束35は、先端部37と、湾曲部38と、可撓管部39と、操作部22と、ユニバーサルコード23と、超音波ケーブル26と、に挿通され、超音波コネクタ26Aを介して、超音波観測装置3と接続されている。
【0023】
次に、図4、図5および図6を用いて、USエレメント20およびUSセル10の構成について説明する。なお、図はいずれも説明のための模式図であり、パターンの数、厚さ、大きさ、および大きさ等の比率は実際とは異なる。
【0024】
図4に示すように、USエレメント20には、複数の静電容量型のUSセル10がマトリックス状に配置されている。なお説明のため図4では一部のUSセル10のみ示している。USセル10の配置は、規則的な格子配置、千鳥配置、または、三角メッシュ配置等であってもよいし、ランダム配置であってもよい。
【0025】
図5に示すように、USセル10の超音波送受信面、すなわちメンブレン18の表面は保護層17である。そして、USエレメント20は、複数のUSセル10のメンブレン18の周囲を覆う超音波吸収層71を具備する。言い換えれば、USエレメント20の表面が、メンブレン18(保護層17)と超音波吸収層71とで構成されている。
【0026】
超音波吸収層71はUSエレメント20のメンブレン18の周囲に入射する超音波を吸収する。すなわち、超音波吸収層71は超音波が入射すると、振動に応じて伸縮することで超音波エネルギーを熱エネルギーに変換し減衰する。
【0027】
また、USエレメント20は超音波送受信面の反対面(裏面)にバッキング層72を具備する。バッキング層72は、USセル10の基板に入射した超音波を吸収する。
【0028】
そして、図5および図6に示すように、USセル10は、基体であるシリコン基板11上に、順に積層された、下部電極層12と、下部絶縁層(第1絶縁層)13と、円筒状のキャビティ14が形成された上部絶縁層(第2絶縁層)15と、上部電極層16と、保護層(第3絶縁層)17と、を有する。上記構造のUSセル10では、キャビティ14の直上領域の、上部絶縁層15と上部電極層16と保護層17とが、振動部であるメンブレン18を構成している。
【0029】
更に、USエレメント20では、メンブレン18の最上層である保護層17の周囲には超音波吸収層71が配設されている。すなわち、USエレメント20は、複数のUSセル10の超音波送受信面の周囲を覆う超音波吸収層71を具備する。超音波吸収層71はメンブレン18の上には形成されていないため、超音波の送信および受信を妨げない。
【0030】
USエレメントのノイズの原因として、すでに説明したように、隣接するUSセルのメンブレンの振動が考えられていた。これに対して、発明者は、メンブレンの周囲に入射した超音波がノイズの原因となることを見いだした。そしてメンブレンの周囲に入射した超音波を超音波吸収層71により吸収することによりノイズの大幅な低減に成功した。
【0031】
なお、シリコン基板11の裏面にはシリコン基板11の振動を抑制するためのバッキング層72が配設されている
【0032】
シリコン基板11は、シリコン11Aの表面にシリコン熱酸化膜11B、11Cを形成した基板である。
【0033】
下部電極層12および上部電極層16は、導電性シリコンまたは銅、金、もしくはアルミニウム等の金属からなる導電性材料がスパッタ法等により成膜された後に、パターンエッチングされることにより形成される。
【0034】
下部電極層12は、平面視円形の複数の下部電極部12Aと、下部電極部12Aの縁辺部からY軸方向に延設している複数の下部配線12Bと、を有する。下部配線12Bは、同じUSエレメント20の他のUSセルの下部電極部12Aを接続している。そして、下部配線12Bは下部電極端子52と接続されている。
【0035】
上部電極層16は、平面視円形の複数の上部電極部16Aと、上部電極部16Aの縁辺部からX軸方向に延設している複数の上部配線16Bと、を有する。上部配線16Bは、同じUSエレメント20の他のUSセルの上部電極部16Aを接続している。そして、上部配線16Bは上部電極端子51と接続されている。
【0036】
同じUSエレメント20に配置された複数のUSセル10の全ての下部電極部12Aは互いに接続されており、全ての上部電極部16Aも互いに接続されている。
【0037】
下部絶縁層13、上部絶縁層15および保護層17は、例えばCVD法(化学気相成長法)により成膜されたSiN等の絶縁性材料からなる。上部絶縁層15は、下部絶縁層13の上に形成された犠牲層パターンを覆うように形成される。そして、犠牲層パターンがエッチングにより除去された空間がキャビティ14である。なお、図6では上部絶縁層15を、上部絶縁層15Aとキャビティ14が形成された上部絶縁層15Bとに分離して表示している。キャビティ14の高さは、例えば、0.05μm〜0.3μmであり、好ましくは0.05μm〜0.15μmである。
【0038】
なお、キャビティ14は円柱形状に限られるものではなく、多角柱形状等でもよい。キャビティ14が多角柱形状の場合には、上部電極部16Aおよび下部電極部12Aの平面視形状も多角形とすることが好ましい。
【0039】
保護層17は、保護機能だけでなく、音響整合層機能、更にUSエレメント20を連結する機能も有する。なお、保護層17は第1絶縁層の上に、更に生体適合性のある第2絶縁層が形成された2層構造であってもよい。
【0040】
超音波吸収層71は、弾性材料からなり、例えば、エポキシ系、シリコン系、ポリイミド系、ポリエーテルイミド、PEEK、ウレタン系、もしくはフッ素系等の樹脂部材、または、クロロプレンゴム、プロピレン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ウレタン系ゴム、シリコーンゴム、もしくはフッ素系ゴム等のゴム材、から選択される。超音波吸収層71の材料の弾性率は、1MPaから100MPaが好ましい。前記範囲以上であれば、配設が容易であり、前記範囲以下であれば超音波を効率良く吸収できる。
【0041】
なお、超音波吸収層71の厚さは、1μmから50μmが好ましい。前記範囲以上であれば超音波を十分に吸収でき、前記範囲以下であればメンブレンへの超音波の入射を阻害することがない。
【0042】
バッキング層72は、超音波吸収層71と同様の弾性材料を用いることができる。なお、バッキング層72の材料としては、超音波吸収層71とは異なり、フィラーを含有する弾性材料を用いてもよい。フィラーは、タングステン等の金属、アルミナ、ジルコニア、シリカ、酸化タングステン、圧電セラミックス、フェライト等のセラミックス、ガラス、または樹脂等からなる、粉体、繊維、または中空粒子等から選択される。
【0043】
なお、複数の超音波エレメント20を、連結方向に所定の直径のラジアル形状に湾曲配置することでUSアレイ40が作製される。例えば、USアレイ40は、例えば所定の直径の円筒の外周に接合される。更にUSアレイ40に同軸ケーブル束35が接続され、USユニット30が作製される。
【0044】
そして、USエレメント20は、メンブレン18の周囲に入射した超音波が、メンブレン18の振動に影響を及ぼすことにより発生するノイズが抑制されている。このため、エレメント20はおよびUS内視鏡2は特性が安定している。
【0045】
<第1実施形態の変形例>
次に第1実施形態の変形例のUSエレメント20AおよびUSエレメント20Aを具備する超音波内視鏡2Aについて説明する。USエレメント20AおよびUS内視鏡2Aは、USエレメント20およびUS内視鏡2と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0046】
図7に示すように、USエレメント20Aは、超音波吸収層71の開口部の壁面が、主面に対して垂直(90度)ではなく、傾斜しているテーパー形状である。
【0047】
メンブレン18の振動により超音波送受信面から外部に放射された超音波は次第に広がっていく。USエレメント20Aは、広がった超音波が、超音波吸収層71の壁面に吸収されることがない。
【0048】
また、USエレメント20Aのメンブレン18は、メンブレン18に対して垂直方向から入射する超音波だけでなく、斜め方向から入射する超音波も検出することができる。
【0049】
なお、傾斜角θは、30度〜60度が好ましく、前記範囲以上であれば、メンブレン18の直近に入射した超音波も超音波吸収層71が十分に吸収でき、前記範囲以下であれば超音波の放射および入射を阻害することがない。
【0050】
なお、超音波吸収層71の開口部の壁面は、断面が直線状のテーパー形状に限られるものではなく、断面が曲線状または階段状であってもよい。
【0051】
USエレメント20AおよびUS内視鏡は、USエレメント20等が有する効果を有し、更に超音波の送受信効率がよい。
【0052】
<第2実施形態>
次に第2実施形態のUSエレメント20BおよびUSエレメント20Bを具備する超音波内視鏡2Bについて説明する。USエレメント20BおよびUS内視鏡2Bは、USエレメント20、20AおよびUS内視鏡2、2Aと類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0053】
図8に示すように、USエレメント20Bは、メンブレン18の保護層17が周囲の保護層17よりも凸状態である。これはメンブレン18にはキャビティ14が形成されているためである。
【0054】
USエレメント20Bは、メンブレン18の周囲に配設する超音波吸収層71の厚さを、メンブレン18の超音波送受信面とほぼ同じ高さになるようにしている。言い換えれば、超音波吸収層71の表面が、超音波送受信面とほぼ同じ高さにある。
【0055】
このため、USエレメント20BおよびUS内視鏡2Bは、USエレメント20AおよびUS内視鏡2Aと同様の効果を有する。更にUSエレメント20BおよびUS内視鏡2Bは、製造が、より容易である。
【0056】
本発明は、上述した実施形態または変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…超音波内視鏡システム、2、2A、2B…超音波内視鏡、3…超音波観測装置、10…超音波セル、11…シリコン基板、12…下部電極層、12A…下部電極部、12B…下部配線、13…下部絶縁層、14…キャビティ、15…上部絶縁層、16…上部電極層、16A…上部電極部、16B…上部配線、17…保護層、18…メンブレン、20、20A、20B…超音波エレメント、30…超音波ユニット、40…超音波アレイ、71…超音波吸収層、72…バッキング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
それぞれが、キャビティを介して対向配置した下部電極部と上部電極部とを有する複数の超音波セルと、
前記複数の超音波セルの超音波送受信面の周囲を覆う超音波吸収層と、を具備することを特徴とする超音波エレメント。
【請求項2】
前記超音波吸収層が弾性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の超音波エレメント。
【請求項3】
前記超音波吸収層の超音波送受信面を囲む壁面が傾斜していることを特徴とする請求項2に記載の超音波エレメント。
【請求項4】
前記超音波吸収層の表面が、前記超音波送受信面と同じ高さにあることを特徴とする請求項2に記載の超音波エレメント。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波エレメントを具備することを特徴とする超音波内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−26735(P2013−26735A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158244(P2011−158244)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】