説明

超音波コレット

【課題】加工精度を向上させ、かつ工具の寿命を向上させる工具ホルダに挿入されて工具を保持するコレットを提供すること。
【解決手段】 工具ホルダ5はテーパー部6、フランジ部7及び工具取付部8が一体に構成されている。前記工具取付部8には、その軸心にテーパー穴が、その外周には、ねじ部9が形成されている。そして、テーパー穴にコレット10を挿入し、工具13をコレット10に挿入し、ナット16により締め付ける。コレット10の先端部には圧電セラミック12a、12bがエポキシ樹脂により接合されている。そして圧電セラミック12a、12bの位置はナット16より工具13側にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の主軸に装着される工具ホルダに挿入されて工具を保持するコレットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、旋盤、ボール盤、フライス盤などの工作機械において、ドリル、エンドミル等の工具を保持するホルダの一部として、コレットが使用されている。このコレットは、通常、工具のシャンクが挿入されるコレット本体と当該コレット本体に形成されたすり割りとを備えている。
【0003】
これら工具は、ワークを加工(切削)する際に発生する熱を抑制するため、連続的に冷却される必要があり、加工性を良くするために潤滑することもある。これらの方法として、一般的に、水溶性クーラントや油等の切削液(冷却用流体)を工具に供給することによりなされている。この工具への切削液の供給方法としては、例えば、長手方向に伸びる貫通孔が設けられた工具を使用し、この貫通孔に切削液を通過させることによって、工具を冷却する方法がある。
【0004】
また、前述したような貫通孔が設けられていない工具を使用する場合は、通常、コレット本体に形成されたすり割りを利用して、コレットと、これに把持された工具との間に切削液を供給することによって、工具を冷却する方法がある。
【0005】
前記コレット本体に形成されたすり割りを利用して切削液を工具に供給して当該工具を冷却する方法では、コレット本体の外径に比較して径の小さな工具を把持する場合、前記すり割りの径方向の断面積が大きくなるため、切削液の流速が遅くなる。この結果、切削液が分散し易くなり、工具の刃先に切削液を集中して供給することが困難になる虞がある。特に、切削液の供給を高圧にしても、高速回転時には、その遠心力で切削液が工具の刃先に到達する前に分散してしまう虞がある。
【0006】
そこでコレットに把持される工具の径に応じて、切削液等の冷却流体の流速を調節することで、工具に流体を効率よく供給でき、良好な加工を行うことが可能な特許文献1のコレットが提案されている。
【特許文献1】特開2003−165007公報
【0007】
しかし、この提案のコレットを用いても流体の流れを完全にコントロールすることは非常に困難であり、また、構造が複雑になるため製造コストが大きくなる。さらに切削液を多く使用するため、切削液の後処理の問題が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このようなコレットを改良することを課題とするものであり、コレットに把持される工具に超音波振動を付与することにより加工速度が大きく、加工精度が高く且つ工具の寿命を長くすることが可能なコレットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
工作機械等に装着される工具ホルダに挿入されて工具を保持するコレットにおいて、前記コレットが圧電セラミックを備えるものある。
【0010】
そして、コレットの先端部がナットより先の工具先端部側にあり、ナットより先の部分のコレットに圧電セラミックを接合しているものである。
【0011】
コレットに接合した圧電セラミックに超音波交流電圧を印加するための超音波発振器を備えているものである。
【0012】
回転するコレットに接合した圧電セラミックに超音波交流電圧を印加するためロータリートランスを備えているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコレットを用いた加工装置は、加工速度が大きく、加工精度が高く且つ工具の寿命を長くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
最近、いわゆる難加工材料を加工するために超音波振動を工具または、加工対象物に与え加工する方法が多用されるようになってきた。このような加工方法は、超音波切削加工と呼ばれており、例えば、非特許文献1に詳しく記載されている。超音波切削加工は、加工対象物と工具との摩擦抵抗が、小さくなるため、加工面の熱歪みが低減され、加工精度が高くなり、そして、切削工具の寿命が長くなるなどの利点を有している。
【非特許文献1】超音波便覧編集委員会、「超音波便覧」、丸善株式会社、平成11年8月、p679−684
【0015】
本発明者は、多量の切削液を用いることなく、加工時の発熱を小さくするために、コレットに超音波振動を付与することを考案した。そして、ほとんど工具にだけ超音波振動を伝播させるため、コレットを締めるナットより工具側のコレットの位置に圧電セラミックを設けることも考案した。このようにコレットを締めるナットより工具側のコレットの位置に圧電セラミックを設けることによりナット位置を振動の固定端とし、工具の先端を自由端とする縦振動、曲げ振動そして捻り振動を励起できる。このようにすることで、ナットの位置が固定端となるので、工具ホルダの方向には振動は伝播しない。そして工具の先端が自由端となるのでほぼ工具だけが振動することになる。
【0016】
本発明者の考案したコレットを実現するための以下に発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態を示す基本的な構成を示す断面側面図である。工具ホルダ5はテーパー部6、フランジ部7及び工具取付部8が一体に構成されている。前記工具取付部8には、その軸心にテーパー穴が、その外周にはねじ部9が形成されている。そして、テーパー穴にコレット10を挿入し、工具13をコレット10に挿入し、ナット16により締め付ける。コレット10の先端部には圧電セラミック12a、12bがエポキシ樹脂により接合されている。そして圧電セラミック12a、12bの位置はナット16より工具13側にある。
【0018】
図2はコレットの詳細を示す斜視図である。コレット10には複数のすり割り11が設けられている。コレット10の工具を取付ける側の先端面に4個の圧電セラミック12a、12b、12c、12dをエポキシ樹脂で接合している。圧電セラミック12a、12b、12c、12dの分極方向は板厚方向である。図には示していないが圧電セラミック12a、12b、12c、12dには超音波交流電圧を印加するためのリード線が接続されている。
【0019】
次に図1の工具を取付けた工具ホルダ5をフライス盤に取付けた概略を示す一部断面を含めた側面図を図3に示す。
モータ1に接続した回転軸2がある。そして、回転軸2を回転自在に支持するための軸受3があり、さらにこの軸受3を固定するための図示しないステンレスのケースがある。回転軸2には回転軸2に固着された回転側ロータリートランス4aがある。回転側ロータリートランス4aの上側には固定側のロータリートランス4bがあり、ケースに取付けたロータリートランス台17に図示しないボルトで固定されている。回転側ロータリートランス4aとコレット10に固着した圧電セラミック12はリード線により電気的に結合しているが、図面を簡単にするため省略した。工具ホルダ5に工具13を挿入したコレット10を入れ、ナットより締め付け固定する。工具13の下には、ワーク18を固定するためのテーブル19とワーク18がある。テーブル19は、図面の都合上一部だけを示した。
【0020】
次にこのフライス盤の運転方法について説明する。まずモータ1の電源を入れ、回転軸2を回転させる。ほぼ同時に超音波発振器15を作動させ、ロータリートランス4a、4bを介してに圧電セラミック13に交流電圧を印加する。交流電圧を印加することにより、コレットに接合した圧電セラミックは工具軸を中心とする拡がり振動する。この拡がり振動が工具に伝播し、工具軸と同じ方向の振動になる。そして、切削液を工具及びワークに与え、ワークを加工する。
【0021】
ここで用いた工具ホルダ及びナットの質量はナットより先のコレットと工具の質量に比較して数倍以上に大きい。したがって、ナットの端面がほぼ固定端となり、工具先端が自由端となる縦振動モードになる。したがって、工具ホルダに振動変位が伝播することを防ぐことができる。このような一端が固定され他端が自由な棒の縦振動については、例えば非特許文献2に説明されている。
【非特許文献2】谷口修、「工業振動学」、株式会社コロナ社、1996年4月、p331〜332
【0022】
本例では縦振動を用いたが、もちろん一端が固定され他端が自由な棒の曲げ振動及び捻り振動を採用することもできる。また、縦振動、曲げ振動、捻り振動のいずれかを組み合わせた複合振動とすることもできる。さらに例えば90度振動位相の異なる直交する曲げ振動を棒に励起し、楕円軌跡の振動を発生させることもできる。
【0023】
ここでは、回転するコレットに接合した圧電セラミックに電力を供給するためにロータリートランスを用いたが、もちろんスリップリングを用いることもできる。ただしスリップリングは毎分5000回転を超えると使用できない場合もある。
【0024】
このように工具ホルダには、ほとんど振動が伝播することがないため振動ロスがほとんどないので小さな電力で必要な大きさの工具の振動を励起させることができる。なお加工部の形状はエンドミル状である。
【0025】
また、当然回転軸にもほとんど振動が伝播しないので軸受または回転軸の振動による損傷の恐れはほとんどない。
【0026】
さらに超音波振動により、ワークと工具との摩擦抵抗が小さくなるため、切削液の使用量を少なくできる。加工面の熱歪みが低減され、加工精度が高くなる。そして、工具の寿命が長くなる。
【0027】
また、ここで用いたコレットと別な構成は図4及び図5の断面側面図で示す。図4に示すコレット10は、圧電セラミック12a、12bを接合した面がテーパー状である。この面をテーパー状にすることで、工具軸と一致する振動成分が出現するため、工具13に工具軸方向の振動の励起を容易にすることができる。
【0028】
図5に示すコレット10は、コレット10の先端の側面に圧電セラミック12a、12bを接合している。このような構成にすることで工具軸と同じ方向の振動成分を持つ振動を励起できる。この振動が工具13に伝播し、工具軸と一致する振動を工具に効率的に励起できる。
【0029】
以上では、テーパー状のコレットについて説明したが、図6の斜視図に示すストレート状のコレット10も、コレット10の先端部にすり割り11により分割された圧電セラミック12a、12b、12c、12dを接合しても同様な効果を発揮できる。なお、図7は工具13を図6のコレットに挿入し、締め付けた様子を示す図である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のコレットは、工具に超音波振動を与える様々な加工装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のコレットを取付けた工具ホルダを示す側面断面図。
【図2】本発明のコレットを示す斜視図である。
【図3】本発明のコレットを持つフライス盤の一部断面を含む側面図である。
【図4】別のコレットを示す断面図である。
【図5】さらに別のコレットを示す断面図である。
【図6】本発明のストレート状コレットを示す斜視図である。
【図7】図6のコレットに工具を装着した斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 モータ
2 回転軸
3 軸受
4 ロータリートランス
5 工具ホルダ
6 テーパー部
7 フランジ部
8 工具取付部
9 ねじ部
10 コレット
11 すり割り
12 圧電セラミック
13 工具
14 リード線
15 超音波発振器
16 ナット
17 ロータリートランス台
18 ワーク
19 テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械等に装着される工具ホルダに挿入されて工具を保持するコレットにおいて、前記コレットが圧電セラミックを備えていることを特徴とするものである。
【請求項2】
コレットの先端部が締具より先の工具先端部側にあり、ナットより先の部分に圧電セラミックを接合していることを特徴とする請求項1に記載のコレット。
【請求項3】
コレットに接合した圧電セラミックに超音波交流電圧を印加するための超音波発振器を備えていることを特徴とする請求項1に記載のコレットを持つ超音波加工装置。
【請求項4】
回転するコレットに接合した圧電セラミックに超音波交流電圧を印加するためロータリートランスを備えていることを特徴とする請求項3に記載のコレットを持つ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−21707(P2007−21707A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234945(P2005−234945)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(500222021)
【Fターム(参考)】