説明

超音波トランスジューサ用の熱伝達及び音響整合層

【課題】超音波トランスジューサの熱特性を向上させる。
【解決手段】金属の第1の整合層(206、305、401、501)は30W/mKを超える熱伝導率を有し、第2の整合層(205、304)は0.5〜300W/mKの熱伝導率を有する。第1の整合層(206、305、401、501)は10〜20MRaylの音響インピーダンスを有し、第2の整合層(205、304)はこれより低い音響インピーダンスを有する。第1の整合層(206、305、401、501)は第2の整合層(205、304)より薄く、超音波トランスジューサ(200、300、400、500)は、レンズ(102)と、圧電素子(108、308)とレンズ(102)の間に配置させ圧電素子(108、308)からバッキング(110、310)まで熱を伝導する整合層(206、305、401、501)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本テクノロジーの実施形態は全般的には、改善された熱特性を提供するように構成された超音波トランスジューサに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示したように従来の超音波トランスジューサ100は、レンズ102と、インピーダンス整合層104及び106と、圧電素子108と、バッキング110と、超音波システムへの接続のための電気的要素と、を含む様々な層から成ることがあり得る。
【0003】
圧電素子108は、電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換することが可能であり、さらにまた受信した超音波を電気信号に変換することが可能である。矢印112は、トランスジューサ100から送信される超音波及びここで受信される超音波を表している。受信した超音波は標的の画像を作成するために超音波システムにより使用することが可能である。
【0004】
トランスジューサ100から出るエネルギーを増大させるために、圧電素子108とレンズ102の間にインピーダンス整合層104、106を配置させている。従来では、整合層104、106により圧電素子108とレンズ102を共振周波数における送信超音波の所望の波長の約1/4〜1/2の距離xだけ分離させる場合に最適なインピーダンス整合が実現されたと考えられていた。こうした構成によれば整合層104、106内部で反射された超音波をこれが整合層104、106を出るときに同位相に維持することが可能であるというのが従来の考えであった。
【0005】
トランスジューサ100から超音波を送信するとレンズ102が熱くなる可能性がある。しかし患者に接触させるトランスジューサには、患者の不快感を回避し規制温度限度を順守するために摂氏約40度という最大表面温度がある。このためレンズ温度が、超音波送信電力及びトランスジューサ性能に関する限定要因の1つになる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
周知の多くの温度管理技法は、レンズに向かう超音波エネルギーの反射を最小限にするためにトランスジューサの裏側に注目している。しかしながら、熱特性を向上させた改良型の超音波トランスジューサに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本テクノロジーの実施形態は全般的には、超音波トランスジューサ及び超音波トランスジューサの製作方法に関する。
【0008】
一実施形態では例えば超音波トランスジューサは、バッキングと、該バッキングに取り付けられた圧電素子であって、電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換するように構成されており、受信した超音波を電気信号に変換するように構成されている圧電素子と、該圧電素子に取り付けられた第1の整合層であって第1の音響インピーダンス及び概ね30W/mKを超える熱伝導率を有する第1の整合層と、該第1の整合層に取り付けられた第2の整合層であって第1の音響インピーダンスより低い第2の音響インピーダンスを有する第2の整合層と、を含むことが可能である。
【0009】
一実施形態では例えば、第1の音響インピーダンスは約10〜20MRaylである。
【0010】
一実施形態では例えば、第1の整合層は第1の厚さを有しており、かつ第2の整合層は第1の厚さより薄い第2の厚さを有している。
【0011】
一実施形態では例えば、第2の整合層は約0.5〜300W/mKの熱伝導率を有する。
【0012】
一実施形態では例えば、超音波トランスジューサはさらに、第2の整合層に取り付けられた第3の整合層であって第2の音響インピーダンスより低い第3の音響インピーダンスを有する第3の整合層を含むことが可能である。
【0013】
一実施形態では例えば、超音波トランスジューサはさらにレンズを含むことが可能であり、圧電素子と該レンズの間に第1及び第2の整合層を配置させており、かつ各整合層の厚さは共振周波数における送信超音波の所望の波長の約1/4未満である。
【0014】
一実施形態では例えば、第1の整合層は金属から成る。
【0015】
一実施形態では例えば、第1の整合層は、圧電素子の端部を越えてバッキングまで延びるように構成されたウィングであって、圧電素子からバッキングに熱を伝導するように構成されたウィングを含む。
【0016】
一実施形態では例えば圧電素子は、それらと実質的に直交するようにウィングを配置させた複数のカットを含む。
【0017】
一実施形態では例えば圧電素子は、それらと実質的に平行にウィングを配置させた複数のカットを含む。
【0018】
一実施形態では例えば、第1の整合層は圧電素子の端部を越えて延びるように構成された部分を含んでおり、該部分はバッキングまで延びるように構成された熱伝導性シートに接続されており、該部分と該シートは圧電素子からバッキングに熱を伝導するように構成されている。
【0019】
一実施形態では例えば、バッキングと圧電素子と第1の整合層及び第2の整合層とがエポキシによって取り付けられている。
【0020】
一実施形態では例えば、超音波トランスジューサを製作する方法は、バッキングを圧電素子に取り付けるステップであって、該圧電素子は電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換するように構成されており、該圧電素子は受信した超音波を電気信号に変換するように構成されている取り付けステップと、圧電素子に対して第1の音響インピーダンス及び概ね30W/mKを超える熱伝導率を有する第1の整合層を取り付けるステップと、第1の整合層に対して第1の音響インピーダンスより低い第2の音響インピーダンスを有する第2の整合層を取り付けるステップと、を含むことが可能である。
【0021】
一実施形態では例えば、超音波トランスジューサを製作する方法はさらに、圧電素子並びに第1及び第2の整合層内に複数のカットを製作するステップを含むことが可能である。
【0022】
一実施形態では例えば、第1の整合層は圧電素子の端部を越えて延びるように構成されたウィングを含むと共に、本方法はさらに、ウィングの表面上に複数のノッチを切削するステップと、ウィングをノッチのところから折り曲げるステップであって、該ウィングが圧電素子の端部を越えてバッキングまで延び、ウィングが圧電素子からバッキングに熱を伝導するように構成されるようにする折り曲げステップと、を含むことが可能である。
【0023】
一実施形態では例えば、第1の整合層は圧電素子の端部を越えて延びるように構成された部分を含むと共に、本方法はさらに、該部分をバッキングまで延びるように構成された熱伝導性シートに接続させるステップであって、該部分及び該シートは圧電素子からバッキングに熱を伝導するように構成されている接続ステップを含むことが可能である。
【0024】
一実施形態では例えば、バッキングと圧電素子と第1の整合層及び第2の整合層とがエポキシを用いて取り付けられている。
【0025】
一実施形態では例えば、超音波トランスジューサは、バッキングと、該バッキングに取り付けられた圧電素子であって、電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換するように構成されており、受信した超音波を電気信号に変換するように構成されている圧電素子と、レンズと、圧電素子とレンズの間に配置させて圧電素子からバッキングに熱を伝導するように構成された整合層と、を含むことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来技術の超音波トランスジューサの層の断面を表した図である。
【図2A】本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサの層の断面を表した図である。
【図2B】本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサに関する整合層特性の表である。
【図3】本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサの層の断面を表した図である。
【図4】本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサの層の断面を表した図である。
【図5】本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサの層の断面を表した図である。
【図6】本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサの層の斜視図である。
【図7】本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサに関するコンピュータシミュレーション結果を表した図である。
【図8】従来のトランスジューサと本テクノロジーの一実施形態に従って構築したトランスジューサとに関してレンズ表面の位置の温度計測の実験結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述した要約、並びにある種の実施形態に関する以下の詳細な説明は、添付の図面と共に読むことによってさらに十分な理解が得られよう。本発明の例証を目的として、図面ではある特定の実施形態を示している。しかし本発明は、添付の図面に示した配置や手段に限定するものではないことを理解すべきである。
【0028】
本テクノロジーの実施形態は全般的には、改善された熱特性を提供するように構成された超音波トランスジューサに関する。図面では、同じ構成要素を同じ識別子を用いて特定している。
【0029】
図1は、従来技術の超音波トランスジューサ100の層の断面を表している。トランスジューサ100をバックグラウンドで記述しており、これにはレンズ102と圧電素子108の間に配置させた2つの整合層104、106を含んでいる。整合層104、106は、レンズ102と圧電素子108の間に合成距離xを提供しており、この距離xは共振周波数における送信超音波の所望の波長の約1/4〜1/2である。
【0030】
図2Aは、本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサ200の層の断面を表している。トランスジューサ200は、レンズ102と、インピーダンス整合層203〜206と、圧電素子108と、バッキング110と、超音波システムに接続するための電気的要素と、を含む。バッキング110はヒートシンク及び温度管理を含む。ある種の実施形態では整合層203〜206、圧電素子108及びレンズ102を、例えば型押し及び/またはプレス機械により提供される圧力下において硬化するエポキシまたは接着材料を用いて一体に結合させることが可能である。
【0031】
従来の超音波トランスジューサの場合と同様に圧電素子108は、電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換することが可能であり、さらにまた受信した超音波を電気信号に変換することが可能である。矢印112は、トランスジューサ200から送信される超音波及びここで受信される超音波を表している。受信した超音波は、標的の画像を作成するために超音波システムにより使用することが可能である。
【0032】
トランスジューサ100から出るエネルギーを増大させるために、圧電素子108とレンズ102の間にインピーダンス整合層203〜206を配置させている。整合層203〜206は、圧電素子108とレンズ102を(共振周波数における送信超音波の所望の波長の約1/4〜1/2の距離である)距離xと比べて短くすることも長くすることも可能であるような距離yだけ分離している。
【0033】
図1に示したように、従来のトランスジューサは2つの整合層104、106を含むのが一般的である。こうした整合層は一般に、エポキシ及び充填材を備える。圧電素子の近傍に比較的高い音響インピーダンス及び比較的高い熱伝導率を有する整合層を含めることによって熱特性及び/または音響特性を改善することが可能となることが知られている。本明細書に示した実施形態は、3層または4層の整合層を有する発明考案のトランスジューサを表している。しかしながら実施形態によっては含める整合層を2層だけとすることや、4層を超えるようにする(例えば、整合層を5層や6層とする)ことが可能である。
【0034】
図2Bは、発明考案の超音波トランスジューサの実施形態に関する整合層203〜206の特性の表である。圧電素子108と整合層205の間に配置させた整合層206は、音響インピーダンスが約10〜20MRaylかつ熱伝導率が約30W/mKを超える材料から成ることが可能である。整合層206は約0.22λ未満(ここでλは共振周波数における送信超音波の所望の波長)の厚さを有することが可能である。ある種の実施形態では整合層206は、例えば銅、銅合金、その内部にグラファイトパターンが埋め込まれた銅、マグネシウム、マグネシウム合金、シリコンなどの半導体材料、アルミニウム(面状または棒状)及び/またはアルミニウム合金といった金属(複数のこともある)から成ることが可能である。金属は、超音波が層中をより大きい速度で伝播し、これにより所望の音響特性の達成により薄い整合層で済むような比較的高い音響インピーダンスを有することが可能である。
【0035】
整合層206と整合層204の間に配置させた整合層205は、音響インピーダンスが約5〜15MRaylでありかつ熱伝導率が約1〜300W/mKの材料から成ることが可能である。整合層205は約0.25λ未満の厚さを有することが可能である。ある種の実施形態では整合層205は、例えば銅、銅合金、その内部にグラファイトパターンが埋め込まれた銅、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム(面状または棒状)、アルミニウム合金、充填型エポキシ、ガラスセラミック、複合セラミック、及び/またはmacorといった金属(複数のこともある)から成ることが可能である。
【0036】
整合層205と整合層203の間に配置させた整合層204は、音響インピーダンスが約2〜8MRaylでありかつ熱伝導率が約0.5〜50W/mKの材料から成ることが可能である。整合層204は約0.25λ未満の厚さを有することが可能である。ある種の実施形態では整合層204は、例えばシリカ充填材などの充填材を伴ったエポキシといった非金属から成ることが可能である。ある種の実施形態では整合層204は、例えばグラファイトタイプの材料から成ることが可能である。充填材を伴ったエポキシなどの非金属は、超音波が層中をより低い速度で伝播しこれにより所望の音響特性の達成により薄い整合層で済むような比較的低い音響インピーダンスを有することが可能である。
【0037】
整合層204とレンズ102の間に配置させた整合層203は、音響インピーダンスが約1.5〜3MRaylでありかつ熱伝導率が約0.5〜50W/mKの材料から成ることが可能である。整合層203は約0.25λ未満の厚さを有することが可能である。ある種の実施形態では整合層203は、例えばシリカ充填材などの充填材を伴ったプラスチック及び/またはエポキシといった非金属から成ることが可能である。
【0038】
一実施形態では整合層203〜206の音響インピーダンスは、整合層203〜206の圧電素子108からの距離が増大するに連れて低下する。すなわち整合層206は整合層205と比べてより高い音響インピーダンスを有することが可能であり、整合層205は整合層204と比べてより高い音響インピーダンスを有することが可能であり、かつ整合層204は整合層203と比べてより高い音響インピーダンスを有することが可能である。この方式により音響インピーダンスを低下させた3つ以上の整合層を提供することによれば例えば感度の上昇及び/または境界バンド幅の増大など音響特性を改善することが可能となることが知られている。こうした音響特性の改善によって、例えば人体などの標的内の構造の検出を向上させることが可能である。
【0039】
一実施形態では整合層205、206の熱伝導率は整合層203、204の熱伝導率と比べてより大きい。圧電素子108の近傍に熱伝導率が比較的高い整合層(例えば、整合層205及び/または206)を配置することによって熱特性の改善を提供可能であることが知られている。例えばこうした整合層は、圧電素子108が発生させた熱を例えば整合層203及び204など熱伝導率がより低い整合層と比べてより容易に放散させることが可能である。
【0040】
図3は、本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサ300の層の断面を表している。トランスジューサ300は、第1のインピーダンス整合層303、第2のインピーダンス整合層304、第3のインピーダンス整合層305、圧電素子308及びバッキング310を含む。図示した層は、大カット312及び小カット314を含む。大カット312は、整合層303〜305を通過し、圧電素子308を通過し、さらにバッキング310内まで延びている。大カット312は、圧電素子308の各部の間に電気的分離を提供することが可能である。小カット314は、整合層303〜305を通過しかつ部分的に圧電素子308を通過して延びる。小カットは圧電素子308中を最後まで延びておらず、またバッキング310内まで延びていない。小カット314は、圧電素子308の各部の間に電気的分離を提供することが不可能である。小カット314は、例えば層の隣接する部分間の水平振動を減衰させることによって音響性能を向上させることが可能である。ある種の実施形態では、カット深度対カット幅比を約30対1としたカットを設けることが可能である。ある種の実施形態では、カット深度を約1.282ミリメートルとした大カットを設けることが可能であり、かつカット深度を約1.085ミリメートルとした小カットを設けることが可能であり、この両方のタイプのカットは例えば約0.045ミリメートルのカット幅で設けられる。ある種の実施形態では、例えばカット幅を約0.02〜0.045ミリメートルとしたカットを設けることが可能である。整合層203〜206の厚さを最小化すると、図3に示したようなトランスジューサ層のダイス切断(dicing)が可能となることによって音響性能を向上させることが可能となることが知られている。さらに、整合層203〜206の厚さを最小化すると、カット深度対カット幅比を30対1未満としたダイス切断を可能とし得ることが知られている。ダイス切断ノコを使用したダイス切断などの目下のダイス切断テクノロジーを用いるのでは、30対1を越えるカット深度対カット幅比を得ることは困難である。例えばレーザーや別の周知の方法を用いてトランスジューサ層内にカットを製作することが可能である。
【0041】
図4は、本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサ400の層の断面を表している。トランスジューサ400は、図2Aに示したトランスジューサ200と同様に構成させている。しかしトランスジューサ400は、整合層206に代えて整合層401を含む。整合層401は圧電素子108と整合層205の間に配置されていると共に、図2Aに示した整合層206と同じ材料及び厚さを備えることが可能である。整合層401は、圧電素子108の端部を越えてバッキング110まで延びるウィング402を含む。
【0042】
ウィング402は、圧電素子108の端部を越えて延びるように整合層401を設けることによって形成することが可能である。整合層401の表面内には複数のノッチ403を設けることが可能であり、また整合層401のうち圧電素子108の端部を越えて延びる部分はノッチ403のところから圧電素子108及びバッキング110の方向に折り曲げ、これによりノッチ403が図4に示すような折り曲げの外側ひじ状屈曲の位置及び/またはその周りに配置させるようにしている。この折り曲げ操作は圧電素子108及びバッキング110の端部の周りにウィング402を設け終えたときに完成させることが可能である。
【0043】
ウィング402は、圧電素子108からの熱をバッキング110の位置にあるヒートシンク及び/または温度管理に伝導するように構成されている。整合層401及びウィング402の熱伝導率は比較的高いため、トランスジューサ400のバッキング110に向かいかつレンズ102から逃がすような所望の熱伝達を支援することが可能である。ウィング402はさらに、通常は圧電素子108とバッキング110の間に配置される柔軟な回路などの適当な接地回路に接続することによってトランスジューサ400に関する接地を形成することが可能である。ウィング402はさらに、トランスジューサ400に対する電気的遮蔽の役割もすることが可能である。
【0044】
図5は、本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサ500の層の断面を表している。トランスジューサ500は、図2Aに示したトランスジューサ200と同様に構成されている。しかしトランスジューサ500は整合層206に代えて整合層501を含む。整合層501は、圧電素子108と整合層205の間に配置されると共に、図2Aに示した整合層206と同様の材料及び厚さを備えることが可能である。整合層501は、圧電素子108の端部を越えて延びている。例えば一実施形態では整合層501は、約1ミリメートル以下だけ圧電素子108の端部を越えて延びることが可能である。整合層501の延長部分には、圧電素子108の端部を覆ってバッキング110まで延びるシート502が取り付けることが可能である。シート502は熱伝導性エポキシを用いて整合層501に取り付けられている。シート502は例えば、比較的高い熱伝導率の材料(整合層501と同じ材料など)、グラファイト及び/または熱伝導性エポキシを含む。シート502は、圧電素子108からの熱をバッキング110の位置にあるヒートシンク及び/または温度管理に伝導するように構成されている。整合層501及びシート502の熱伝導率は比較的高いため、トランスジューサ500のバッキング110に向かいかつレンズ102から逃がすような所望の熱伝達を支援することが可能である。
【0045】
図6は、本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサ600の斜視図を表している。トランスジューサ600は、ウィング402を有するインピーダンス整合層401、圧電素子308及びバッキング310を含む。図6にはその他のインピーダンス整合層及びレンズは図示していない。図示した層は、アジマス方向(a)と実質的に直交しかつ上下方向(e)と実質的に平行となった大カット312及び小カット314を含む。大カット312は、整合層を通過し、圧電素子308を通過し、さらにバッキング310内まで延びている。小カット314は、整合層を通過しかつ部分的に圧電素子308を通過して延びる。小カットは、圧電素子308中を最後まで延びておらず、またバッキング310内まで延びていない。ウィング402は、トランスジューサ600の4つの面の周りに配置されており、また圧電素子308及びバッキング310の方向にウィング402を折り曲げると圧電素子308からの熱をバッキング110の位置にあるヒートシンク及び/または温度管理まで伝導させることが可能となる。別の実施形態ではウィング402は、トランスジューサの1つ、2つ、3つまたは4つの面の周りに設けることができる。例えばある種の実施形態ではウィング402は、ウィングがカット312及び314と実質的に直交して配置されるようにトランスジューサの相対する2つの面に沿ってだけ設けることがある。こうした実施形態では、ウィング402はアジマス方向(a)に沿って延びるが上下方向(e)には延びていない。
【0046】
図7は、本テクノロジーの実施形態に従って使用される超音波トランスジューサに関するコンピュータシミュレーション結果を表している。図7に示したのは、3つの整合層を有する3.5MHzの1次元線形アレイトランスジューサに関するシミュレーション研究の結果である。圧電素子の最も近くにある整合層(第1の整合層)は、音響インピーダンスが13.9MRaylのアルミニウム棒から成る。第2の整合層は、音響インピーダンスが6.127MRaylの充填型エポキシから成る。第3の整合層は、音響インピーダンスが2.499MRaylの未規定の物質(プラスチック及び/または例えばシリカ充填材などの充填材を伴ったエポキシとすることが可能)から成る。音響インピーダンスをこのようにしたシミュレーションによれば、各層はそれぞれ0.2540ミリメートル(アルミニウム棒)、0.1400ミリメートル(充填型エポキシ)、0.1145ミリメートル(未規定材料)の厚さとすることが可能であることが示された。コンピュータシミュレーションによって、内側の整合層から外側の整合層までの距離(図2に示したような整合層206から203までの距離yなど)を、共振周波数における送信超音波の所望の波長の約1/4の整合層厚さを有することが可能な図1に示したような従来のトランスジューサの整合層と比べてより薄くすることが可能である。こうしたシミュレーションは所望の特性を決定するために、例えばKLMモデル、Masonモデル、及び/または有限要素シミュレーションを用いることがある。
【0047】
シミュレーション研究は、所望の音響インピーダンス及び熱伝導率を有する整合層を厚さを最小にして設け、これにより切削操作をより効果的に実施可能とするような整合層特性の最適化のために使用することが可能である。
【0048】
図8は、従来のトランスジューサと本テクノロジーの一実施形態に従って構築したトランスジューサとに関するレンズの表面位置での温度計測の実験結果を表したグラフ800である。このグラフは、レンズ表面位置の温度対時間をプロットしたものである。従来のトランスジューサに関する温度計測を線802で示しており、本テクノロジーの一実施形態に従って構築したトランスジューサに関する温度計測を線804で示している。実験中にこの2つのトランスジューサは、同じ条件及び設定の下で超音波システムに接続させた。本テクノロジーの一実施形態に従って構築したトランスジューサは、従来のトランスジューサと比べて摂氏約3〜4度低いレンズ表面温度を40分間にわたって維持した。
【0049】
ある種の実施形態では本明細書に記載した技法を、1次元線形アレイトランスジューサ、2次元トランスジューサ及び/または環状アレイトランスジューサと連携して利用することが可能である。ある種の実施形態では本明細書に記載した技法を、任意の幾何学形状のトランスジューサと連携して利用することが可能である。
【0050】
本明細書の技法の適用によって、音響特性及び/または熱特性の向上という技術的効果を提供することが可能である。例えばトランスジューサレンズから熱を逃がすことによって、より高いパワーレベルでトランスジューサを使用することが可能となり、これにより信号品質及び画質を向上させることが可能である。
【0051】
本明細書に記載した本発明は、本明細書に記載したトランスジューサまでの展開だけではなく、こうしたトランスジューサの製作方法までも展開される。
【0052】
本発明に関して実施形態を参照しながら記載してきたが、本発明の趣旨を逸脱することなく様々な変更が可能であると共に等価物による置換が可能であることは当業者であれば理解するであろう。さらに多くの修正形態により、本発明の趣旨を逸脱することなく具体的な状況や材料を本発明の教示に適応させることができる。したがって、開示した特定の実施形態に本発明を限定しようという意図ではなく、本発明は添付の特許請求の範囲の域内に入るすべての実施形態を包含するように意図している。
【符号の説明】
【0053】
100 超音波トランスジューサ
102 レンズ
104 インピーダンス整合層
106 インピーダンス整合層
108 圧電素子
110 バッキング
112 トランスジューサから送信される超音波及びここで受信される超音波
200 超音波トランスジューサ
203 インピーダンス整合層
204 インピーダンス整合層
205 インピーダンス整合層
206 インピーダンス整合層
300 超音波トランスジューサ
303 インピーダンス整合層
304 インピーダンス整合層
305 インピーダンス整合層
308 圧電素子
310 バッキング
312 大カット
314 小カット
400 超音波トランスジューサ
401 インピーダンス整合層
402 ウィング
403 ノッチ
500 超音波トランスジューサ
501 インピーダンス整合層
502 シート
図2B 整合層の特性に関する表
図7 超音波トランスジューサのコンピュータシミュレーション結果
図8 レンズ表面における温度計測に関する実験結果を表したグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキング(110、310)と、
前記バッキング(110、310)に取り付けられた圧電素子(108、308)であって、電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換するように構成されており、受信した超音波を電気信号に変換するように構成されている圧電素子(108、308)と、
前記圧電素子(108、308)に取り付けられた第1の整合層(206、305、401、501)であって、第1の音響インピーダンス及び概ね30W/mKを超える熱伝導率を有する第1の整合層(206、305、401、501)と、
前記第1の整合層(206、305、401、501)に取り付けられた第2の整合層(205、304)であって、前記第1の音響インピーダンスより低い第2の音響インピーダンスを有する第2の整合層(205、304)と、
を備える超音波トランスジューサ。
【請求項2】
前記第1の音響インピーダンスは約10〜20MRaylである、請求項1に記載の超音波トランスジューサ。
【請求項3】
前記第2の整合層(205、304)に取り付けられた第3の整合層(204、303)であって、前記第2の音響インピーダンスより低い第3の音響インピーダンスを有する第3の整合層(204、303)をさらに備える請求項1に記載の超音波トランスジューサ。
【請求項4】
前記第1の整合層(206、305、401、501)は、圧電素子(108、308)の端部を越えてバッキング(110、310)まで延びるように構成されたウィング(402)を含んでおり、該ウィング(402)は圧電素子(108、308)からバッキング(110、310)まで熱を伝導するように構成されている、請求項1に記載の超音波トランスジューサ。
【請求項5】
前記圧電素子(108、308)は、それらと実質的に平行にウィング(402)を配置させた複数のカット(312、314)を含む、請求項4に記載の超音波トランスジューサ。
【請求項6】
前記第1の整合層(206、305、401、501)は圧電素子(108、308)の端部を越えて延びるように構成された部分を含んでおり、該部分はバッキング(110、310)まで延びるように構成された熱伝導性シート(502)に接続されており、該部分と該シート(502)は圧電素子(108、308)からバッキング(110、310)まで熱を伝導するように構成されている、請求項1に記載の超音波トランスジューサ。
【請求項7】
超音波トランスジューサを製作する方法であって、
バッキング(110、310)を圧電素子(108、308)に取り付けるステップであって、該圧電素子(108、308)は電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換するように構成されており、該圧電素子(108、308)は受信した超音波を電気信号に変換するように構成されている取り付けステップと、
前記圧電素子(108、308)に第1の整合層(206、305、401、501)を取り付けるステップであって、該第1の整合層(206、305、401、501)は第1の音響インピーダンス及び概ね30W/mKを超える熱伝導率を有する取り付けステップと、
前記第1の整合層(206、305、401、501)に第2の整合層(205、304)を取り付けるステップであって、該第2の整合層(205、304)は前記第1の音響インピーダンスより低い第2の音響インピーダンスを有する取り付けステップと、
を含む方法。
【請求項8】
前記第1の整合層(206、305、401、501)は圧電素子(108、308)の端部を越えて延びるように構成されたウィング(402)を含んでおり、該方法はさらに、
前記ウィング(402)の表面上に複数のノッチ(403)を切削するステップと、
前記ウィング(402)が圧電素子(108、308)の端部を越えてバッキング(110、310)まで延びるように該ウィング(402)をノッチ(403)のところから折り曲げるステップであって、該ウィング(402)は圧電素子(108、308)からバッキング(110、310)まで熱を伝導するように構成されている折り曲げステップと、
を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の整合層(206、305、401、501)は圧電素子(108、308)の端部を越えて延びるように構成された部分を含んでおり、該方法はさらに、
前記部分をバッキング(110、310)まで延びるように構成された熱伝導性シート(502)に接続するステップであって、該部分及び該シート(502)は圧電素子(108、308)からバッキング(110、310)まで熱を伝導するように構成されている接続ステップ、
を含む請求項7に記載の方法。
【請求項10】
バッキング(110、310)と、
前記バッキング(110、310)に取り付けられた圧電素子(108、308)であって、電気信号を標的に向けて送信される超音波に変換するように構成されており、受信した超音波を電気信号に変換するように構成されている圧電素子(108、308)と、
レンズ(102)と、
前記圧電素子(108、308)とレンズの間に配置させた整合層(206、305、401、501)であって、圧電素子(108、308)からバッキング(110、310)まで熱を伝導するように構成された整合層(206、305、401、501)と、
を備える超音波トランスジューサ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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