説明

超音波プローブの音響レンズ、超音波プローブ、超音波画像表示装置及び超音波プローブの音響レンズの製造方法

【課題】音響特性や耐薬液特性などの音響レンズの特性に影響を及ぼすことを抑制しつつ、良好な耐磨耗性を持続させることができる超音波プローブの音響レンズ、超音波プローブ、超音波画像表示装置及び超音波プローブの音響レンズの製造方法を提供する。
【解決手段】超音波プローブ3の音響レンズ6は、基材Bに対し、フッ素樹脂の粒子Pを含有させた材料で形成されていることを特徴とする。フッ素樹脂の粒子Pは、前記基材Bにおいて拡散した状態になっており、前記基材Bに対して1〜10重量%の配合割合であることが好ましい。フッ素樹脂は、例えばポリテトラフルオロエチレンであり、前記基材Bは、例えばシリコーンゴムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響特性、耐薬液特性等を損なうことなく耐摩耗性が良好な超音波プローブの音響レンズ、超音波プローブ、超音波画像表示装置及び超音波プローブの音響レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波プローブには、被検体との接触面に、超音波ビームを収束させる音響レンズが設けられている。音響レンズは、被検体に近い音響インピーダンスを有することや、超音波プローブを滅菌する際に用いる薬液に対する耐久性を有していることなどが要求されている。これら音響インピーダンスなどの音響特性や耐薬液特性など音響レンズとして要求される特性を満たす材料としてはシリコーンゴムなどがある。
【0003】
しかし、シリコーンゴムは滑り性が良好ではなく、使用するうちに摩擦による磨耗が生じやすい。音響レンズの磨耗が進むとその曲率の変化による画質の劣化や、超音波プローブに内蔵された電気部品の露出などを生じる。
【0004】
ところで、特許文献1に記載の超音波プローブでは、音響レンズをPTFE(polytetrafluoroethylene:ポリテトラフルオロエチレン)で形成している。また、特許文献2に記載の超音波プローブでは、音響レンズの表面にPTFEやフッ素樹脂を含む保護膜を形成している。PTFEをはじめとするフッ素樹脂は滑り性が良好であり、前記特許文献1,2に記載の超音波プローブによれば、滑り性向上による音響レンズの良好な耐磨耗性が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−45540号公報
【特許文献2】実公平1−43055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載の超音波プローブのように、音響レンズ自体をPTFEで形成してしまうと、音響特性などに影響を与え好ましくない。一方、前記特許文献2に記載の超音波プローブのように、音響レンズの表面にPTFEやフッ素樹脂を含む保護膜を形成した場合、音響特性などへの影響は抑制することができる。しかし、良好な滑り性を有し良好な耐磨耗性を有するとはいえ、全く磨耗が生じないというわけではなく、使用するうちに徐々に前記保護膜が磨耗する。そして、磨耗によって前記保護膜が消滅すると、耐磨耗性が低減する。従って、良好な耐磨耗性を継続的に有する音響レンズとはなっていない。耐磨耗性を持続させようとした場合、保護膜の厚さを厚くすることが考えられるが、保護膜の厚さを厚くすると音響特性への影響が大きくなる。
【0007】
従って、音響特性や耐薬液特性などの音響レンズの特性に影響を及ぼすことを抑制しつつ、良好な耐磨耗性を持続させることができる超音波プローブの音響レンズ、超音波プローブ、超音波画像表示装置及び超音波プローブの音響レンズの製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するためになされた第1の観点の発明は、基材に対し、フッ素樹脂の粒子を含有させた材料で形成されていることを特徴とする超音波プローブの音響レンズである。
【0009】
第2の観点の発明は、第1の観点の発明において、フッ素樹脂の粒子は、前記基材において拡散した状態になっていることを特徴とする超音波プローブの音響レンズである。
【0010】
第3の観点の発明は、第1,2の観点の発明において、フッ素樹脂の粒子は、前記基材に対して1〜10重量%の配合割合であることを特徴とする超音波プローブの音響レンズである。
【0011】
第4の観点の発明は、第1〜3のいずれか一の観点の発明において、フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする超音波プローブの音響レンズである。
【0012】
第5の観点の発明は、第1〜4のいずれか一の観点の発明において、前記基材は、シリコーンゴムであることを特徴とする超音波プローブの音響レンズである。
【0013】
第6の観点の発明は、第1〜5の観点の発明に係る音響レンズを有することを特徴とする超音波プローブである。
【0014】
第7の観点の発明は、第6の観点の発明に係る超音波プローブを備えることを特徴とする超音波画像表示装置である。
【0015】
第8の観点の発明は、基材となる液体状のシリコーンゴムにフッ素樹脂の粒子を混入する混入工程と、フッ素樹脂の粒子が混入されたシリコーンゴムを攪拌してシリコーンゴム中のフッ素樹脂の粒子を拡散させる拡散工程と、フッ素樹脂の粒子が拡散したシリコーンゴムを硬化させて音響レンズを成形する成形工程と、を含むことを特徴とする超音波プローブの音響レンズの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
上記観点の発明によれば、超音波プローブの音響レンズがフッ素樹脂の粒子を含有する材料からなるので、音響レンズの表面に存在するフッ素樹脂の粒子の作用により、滑り性が良好になる。従って、良好な耐磨耗性を有する。しかも、フッ素樹脂の粒子は音響レンズの表面のみではなく全体に含有されているので、音響レンズが磨耗しても常にフッ素樹脂の粒子が表面に存在することになる。これにより、滑り性が良好な状態が継続し、良好な耐磨耗性を持続させることができる。その一方で、基材に対しフッ素樹脂の粒子を含有させた材料で音響レンズが形成されているので、音響特性や耐薬液特性などの音響レンズの特性が確保された材料を前記基材として用いれば、音響レンズの特性に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る超音波画像表示装置の外観を示す概略図である。
【図2】図1に示す超音波画像表示装置における超音波プローブの一部拡大概略断面図である。
【図3】音響レンズの表面付近の一部拡大断面図であり、音響レンズが徐々に磨耗していく様子を示す図である。
【図4】音響レンズの製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図1〜図4に基づいて説明する。図1に示すように、超音波画像表示装置1は、装置本体2と超音波プローブ3とを有している。前記超音波プローブ3は、ケーブル4を介して前記装置本体2と接続されている。
【0019】
前記超音波プローブ3によって超音波の送受信を行なって得られたエコー信号は、前記ケーブル4を介して前記装置本体2へ入力されるようになっている。そして、この装置本体2は、エコー信号の処理を行う信号処理部(図示省略)を備え、この信号処理部で超音波画像が作成されて表示部5に表示されるようになっている。
【0020】
前記超音波プローブ3は、図2に示すように先端部に音響レンズ6を有する。この音響レンズ6は、図示しない超音波振動子などを収容するプローブ筐体7に対して適宜の取付構造によって取り付けられている。
【0021】
前記音響レンズ6は、基材Bにフッ素樹脂の粒子Pを含有させた材料で形成されている。前記基材Bは本例ではシリコーンゴムであり、前記フッ素樹脂は本例ではポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と云う)である。PTFEの粒子Pの粒径は、数μm〜数十μmである。
【0022】
ここで、シリコーンゴムは、音響特性や耐薬液特性などの音響レンズとして要求される特性を満たす材質である。このようなシリコーンゴムに、滑り性を向上させるべくPTFEの粒子Pを含有させても、シリコーンゴム単体で音響レンズを形成した場合と比べて、音響特性や耐薬液特性などの音響レンズの特性に対する影響を抑制することができる。ただし、シリコーンゴムからなる基材Bに対するPTFEの粒子Pの配合量が多くなるほど、滑り性が向上するものの、シリコーンゴム単体で形成した場合における音響特性や耐薬液特性などの音響レンズの特性に対し、影響を及ぼすおそれが高くなる。一方、PTFEの粒子Pの配合量が少なくなるほど、音響レンズの特性に対する影響を及ぼすおそれは少なくなるものの、滑り性が低下するおそれがある。そこで、PTFEの粒子Pは、前記基材Bに対して1〜10重量%の配合割合とすることが好ましい。PTFEの粒子Pの配合が、1重量%未満であると、良好な耐磨耗性を確保するための滑り性が得られなくなるおそれがあり、一方で10重量%を超えると、音響特性や耐薬液特性などの音響レンズの特性に影響を及ぼすおそれがある。
【0023】
PTFEの粒子Pの配合割合は、上述の配合割合の範囲内において、滑り性と音響レンズの特性への影響との兼ね合いで適宜設定する。具体的には、より滑り性を良好にする場合には、上述の配合割合の範囲内において、PTFEの粒子の配合割合をできるだけ大きくする。一方、音響レンズの特性への影響を極力小さくする場合には、上述の配合割合の範囲内において、PTFEの粒子の配合割合をできるだけ小さくする。また、滑り性も音響レンズの特性への影響も両方重視する場合には、上述の配合割合の範囲内において、滑り性をある程度確保でき、なおかつ音響レンズの特性への影響もある程度抑制できるような配合割合に設定する。
【0024】
ここで、前記音響レンズ6の滑り性について、図3に基づいて説明する。この図3に示すように、前記音響レンズ6の基材Bにおいて、PTFEの粒子Pは拡散した状態になっている。また、前記音響レンズ6の表面6a上に、PTFEの粒子Pが露出した状態になっている。従って、このように滑り性がシリコーンゴムよりも良好なPTFEの粒子Pが露出した状態の表面6aの滑り性は、シリコーンゴムにPTFEの粒子Pが含有されていない場合と比べると良好である。
【0025】
そして、前記音響レンズ6の表面6aが、図3(A)に示す状態から図3(B),(C)に示すように磨耗しても、PTFEの粒子Pが拡散した状態になっているので、常にPTFEの粒子が表面6aに露出した状態になる。加えて、PTFEの粒子Pが削られることによって生じたPTFEの粉体(図示省略)が表面6a上に残留することも考えられる。従って、表面6aの磨耗が進んでも滑り性が良好な状態が継続する。
【0026】
ただし、このように前記音響レンズ6が磨耗するとはいえ、前記音響レンズ6の滑り性が良好であり、しかもこの良好な滑り性が持続するので、シリコーンゴムのみで音響レンズを形成した場合と比べて、耐磨耗性が向上しなおかつ良好な耐磨耗性が持続することになる結果、磨耗の進み度合いは遅い。従って、磨耗によって音響レンズの交換が必要になるまでの期間は、シリコーンゴムのみで音響レンズを形成する場合よりも長くなる。
【0027】
また、前記音響レンズ6を形成する材料は、基材Bとしてシリコーンゴムが用いられ、この基材にPTFEの粒子Pを含有させているので、シリコーンゴムの音響特性や耐薬液特性などの特性が発揮され、音響レンズとして要求される音響特性や耐薬液特性などの特性に対する影響を抑制することができる。
【0028】
さらに、PTFEはシリコーンゴムよりも撥水性に優れているので、前記超音波プローブ3を被検体の体表面に当接させて超音波の送受信を行なう際に用いる水溶性ゲルが、音響レンズ6の表面6aの一部に固まって付着することが抑制される。ここで、音響レンズ6の表面6aの一部に固まって水溶性ゲルが付着すると、体表面において前記超音波プローブ3を操作した時に、水溶性ゲルの山がつぶれる際に空気を巻き込み、体表面と音響レンズ6の表面6aとの間に気泡を含みやすくなる。しかし、上述のように本例では水溶性ゲルが音響レンズ6の表面6aの一部に固まって付着することが抑制されるので、シリコーンゴム単体で形成された音響レンズと比べて、体表面と音響レンズ6の表面6aとの間に気泡を含みにくくなり、気泡によって超音波画像の画質の劣化が生じることを防止することができる。
【0029】
次に、本例の音響レンズ6の製造方法について図4のフローチャートに基づいて説明する。先ず、ステップS1においては、基材BとなるシリコーンゴムにPTFEの粒子Pを混入する(混入工程)。この混入工程におけるシリコーンゴムは液体状になっている。
【0030】
次に、ステップS2においては、PTFEの粒子Pが混入された液体状のシリコーンゴムを攪拌し、PTFEの粒子Pを拡散させる(拡散工程)。この拡散工程においては、PTFEの粒子Pがシリコーンゴムにおいてできるだけ均一に分布するように、攪拌を行なう。
【0031】
次に、ステップS3においては、PTFEの粒子Pが拡散した液体状のシリコーンゴムを硬化させて前記音響レンズ6を成形する(成形工程)。この成形工程においては、金型などを用いて成形を行なう。
【0032】
以上、本発明を前記実施形態によって説明したがこれに限られるものではなく、本発明はその主旨を変更しない範囲で種々変更実施可能なことはもちろんである。例えば、フッ素樹脂として、PTFE以外を用いてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 超音波画像表示装置
3 超音波プローブ
6 音響レンズ
B 基材
P PTFEの粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対し、フッ素樹脂の粒子を含有させた材料で形成されていることを特徴とする超音波プローブの音響レンズ。
【請求項2】
フッ素樹脂の粒子は、前記基材において拡散した状態になっていることを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブの音響レンズ。
【請求項3】
フッ素樹脂の粒子は、前記基材に対して1〜10重量%の配合割合であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波プローブの音響レンズ。
【請求項4】
フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波プローブの音響レンズ。
【請求項5】
前記基材は、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の超音波プローブの音響レンズ。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の音響レンズを有することを特徴とする超音波プローブ。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波プローブを備えることを特徴とする超音波画像表示装置。
【請求項8】
基材となる液体状のシリコーンゴムにフッ素樹脂の粒子を混入する混入工程と、
フッ素樹脂の粒子が混入されたシリコーンゴムを攪拌してシリコーンゴム中のフッ素樹脂の粒子を拡散させる拡散工程と、
フッ素樹脂の粒子が拡散したシリコーンゴムを硬化させて音響レンズを成形する成形工程と、
を含むことを特徴とする超音波プローブの音響レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−95178(P2012−95178A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241828(P2010−241828)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】