説明

超音波プローブユニット及び超音波診断装置

【課題】 cMUT等の技術を用いた従来の超音波プローブ及び当該超音波プローブを用いた超音波診断装置と比較して、感度及び指向性が高い超音波送受信を実現可能な超音波プローブユニット及び超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】 被検体に超音波を送信し、当該送信された超音波に起因する反射波を被検体から受信しエコー信号を発生する複数の超音波振動子を有する超音波プロープと、超音波プローブの超音波送受信面側に装着され、音響特性に規則性のある格子を有するアダプタと、を具備する超音波プローブユニット、或いは当該超音波プローブユニットを具備する超音波診断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像診断に用いられる超音波プローブユニット、及び当該超音波プローブユニットを具備する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波プローブに設けられた振動子から発生する超音波パルスを被検体内に放射し、被検体組織の音響インピーダンスの差異によって生ずる超音波反射波を前記振動子により受信して生体情報を収集するものである。超音波プローブを体表に接触させるだけの簡単な操作で画像データのリアルタイム表示が可能であり、例えば、心臓等、動きのある対象物を観察出来るため、循環器領域、各種臓器の形態診断や機能診断に広く用いられている。
【0003】
この様な超音波診断装置では、近年、フェーズドアレイプローブを用いた電子スキャンが主流となっている。このフェーズドアレイプローブでは、ビーム構成に遅延加算処理により、ビームが構成される。また、フェーズドアレイプローブは、開口ジオメトリによる固有アーティファクトを内有しており、例えばグレーティングローブを避けるには周波数を高くするかエレメントピッチを小さくする必要がある。そこで、困難なPZTの微細ダイシング技術以外に、最近MEMS技術をベースとしたcMUT(Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducers)などが登場している。ここで、cMUTとは、半導体技術を応用した容量性超音波トランスデューサであり、シリコン基板上にリソグラフィ技術を用いて多数の微細エレメント(微細センサ:cMUTセル)をパターニングすることにより作製されるものである。このcMUT等の技術により、従来に比して、グレーティングローブの低減、短パルスでの送受信、広帯域での信号の送受信が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】デザインウェーブマガジン編集部、MEMS開発&活用スタートアップ、CQ出版社、2004
【非特許文献2】GABRIEL M.REBEIZ, RF MEMS Theory, Design, and Technology, WILEY-INTERSCIENCE, A JOHN WILEY & SONS PUBLICATION, 2002
【非特許文献3】Vol.53.No.2, Rasim O. Guldiken et al., CMUTS with Dual-Electrode Structure for Improved Transmit and Receive Performance, 2006
【非特許文献4】Vol.53,No.8, Omer Oralkan et al., Experimental Characterization of Collapse-Mode CMUT Operation, 2006
【非特許文献5】Vol.54.No.2, Baris Bayram et al., Finite Element Modeling and Experimental Characterization of Crosstalk in 1-D CMUT Arrays, 2007
【非特許文献6】Vol.55.No.2, Vito Bavaro et al., Element Shape Design of 2-D CMUT Arrays for Reducing Grating Labes, 2008
【非特許文献7】Vol.55.No.9, Serena H. Wong et al., Evaluation of Water Bonded CMUTs with Rectangular Membranes Featuring High Fill Factor, 2008
【非特許文献8】Vol.55.No.9, Edward D Light et al., Real-Time 3-D Ultrasound Guidance of Interventional Devices, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、cMUT等の技術を用いた従来の超音波プローブにおいて、例えばフェーズドアレイによるステアラブル連続波ドプラを行う場合、連続波であることから位相遅延の原理的な制約を受け、その結果、感度やビームの偏向範囲に厳しい制約を受けることになる。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、cMUT等の技術を用いた従来の超音波プローブ及び当該超音波プローブを用いた超音波診断装置と比較して、感度及び指向性が高い超音波送受信を実現可能な超音波プローブユニット及び超音波診断装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る超音波診断装置は、被検体に超音波を送信し、当該送信された超音波に起因する反射波を前記被検体から受信しエコー信号を発生する複数の超音波振動子を有する超音波プロープと、前記超音波プローブの超音波送受信面側に装着され、音響特性に規則性のある格子を有するアダプタと、を具備する超音波プローブユニットと、前記超音波送信のための制御信号を前記各超音波振動子に供給する送信手段と、前記格子及び前記複数の超音波振動子の幾何形状とビームの偏向角とを用いて、前記超音波振動子毎の遅延時間を決定する決定手段と、前記超音波振動子毎の遅延時間を用いて受信したエコー信号を加算することで、前記偏向角からの受信ビームを取得する受信手段と、を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
以上本発明によれば、cMUT等の技術を用いた従来の超音波プローブ及び当該超音波プローブを用いた超音波診断装置と比較して、感度及び指向性が高い超音波送受信を実現可能な超音波プローブユニット及び超音波診断装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図である。
【図2】図2は、超音波プローブユニット(アダプタ40を超音波プローブ12に取り付けた状態)を示した図である。
【図3】図3は、超音波プローブユニット(アダプタ40を超音波プローブ12から取り外した状態)を示した図である。
【図4】図4は、超音波プローブユニットの変形例(アダプタ40を超音波プローブ12に取り付けた状態)を説明するための図である。
【図5】図5は、超音波プローブユニットの変形例(アダプタ40を超音波プローブ12から取り外した状態)を説明するための図である。
【図6】図6は、本超音波プローブユニットを用いた場合の超音波送受信のメカニズムを説明するための概念図である。
【図7】図7は、本超音波プローブユニットを用いた場合の超音波送受信のメカニズムを説明するための概念図である。
【図8】図8は、超音波プローブユニットを用いた連続波ドプラ送受信において、受信ビームを形成するために各超音波振動子120毎に計算される偏向遅延時間を説明するための図である。
【図9】図9は、本実施形態に係る送受信制御により、超音波プローブの開口全域をDBF(ディジタルビームフォーミング)の遅延加算に利用できることを説明するための図である。
【図10】図10は、超音波プローブユニットを用いて実行開口R1+R2+R3により超音波を送信し、隣接しない二方向につき並列同時受信をした場合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0011】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置1は、超音波プローブ12、入力装置13、モニター14、超音波送信ユニット21、超音波受信ユニット22、Bモード処理ユニット23、ドプラ・血流検出ユニット24、RAWデータメモリ25、画像処理ユニット26、表示処理ユニット28、制御プロセッサ(CPU)29、記憶ユニット30、インタフェースユニット31を具備している。以下、個々の構成要素の機能について説明する。
【0012】
超音波プローブ12は、被検体に対して超音波を送信し、当該送信した超音波に基づく被検体からの反射波を受信するデバイス(探触子)であり、その先端に複数の超音波振動子、整合層、バッキング材等を有している。超音波振動子は、超音波送信ユニット21からの駆動信号に基づきスキャン領域内の所望の方向に超音波を送信し、当該被検体からの反射波を電気信号に変換する。整合層は、当該超音波振動子に設けられ、超音波エネルギーを効率良く伝播させるための中間層である。バッキング材は、当該超音波振動子から後方への超音波の伝播を防止する。当該超音波プローブ12から被検体Pに超音波が送信されると、当該送信超音波は、体内組織の音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として超音波プローブ12に受信される。このエコー信号の振幅は、反射することになった不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが、移動している血流で反射された場合のエコーは、ドプラ効果により移動体の超音波送受信方向の速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
【0013】
なお、当該超音波プローブ12は、cMUTに代表される半導体技術を応用した微細エレメントによる複数の超音波振動子を有するものとする。また、当該超音波プローブ12には、専用のアダプタが装着され、当該アダプタと共に、超音波プローブユニットを構成する。装着されるアダプタの構成、及び超音波プローブユニットを用いた超音波送受信に関する制御については、後述する。
【0014】
入力装置13は、装置本体11に接続され、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11にとりこむための各種スイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボード等を有している。
【0015】
モニター14は、表示処理ユニット30からのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や、血流情報を画像として表示する。
【0016】
超音波送信ユニット21は、図示しないトリガ発生回路、遅延回路およびパルサ回路等を有している。トリガ発生回路では、所定のレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)で、送信超音波を形成するためのトリガパルスが繰り返し発生される。また、遅延回路では、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間が、各トリガパルスに与えられる。パルサ回路は、このトリガパルスに基づくタイミングで、プローブ12に駆動パルスを印加する。
【0017】
なお、超音波送信ユニット21は、制御プロセッサ29の指示に従って所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に送信駆動電圧の変更については、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
【0018】
超音波受信ユニット22は、図示していないアンプ回路、A/D変換器、遅延回路、加算器等を有している。アンプ回路では、プローブ12を介して取り込まれたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。A/D変換器では、増幅されたアナログのエコー信号をデジタルエコー信号に変換する。遅延回路では、デジタル変換されたたエコー信号に対し受信指向性を決定し、受信ダイナミックフォーカスを行うのに必要な遅延時間を与え、その後加算器において加算処理を行う。各超音波振動子(チャンネル)に対応する遅延時間は、(超音波プローブ12に装着される)アダプタ4が有する格子40及び超音波振動子アレイの幾何形状、ビームの偏向角から超音波波長λに対する位相(−180°〜+180°)のエリアシング量を時間遅延として換算したものである。ここで、エリアシング量とは、エリアシングを起こす回数のことである。この加算により、エコー信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。
【0019】
Bモード処理ユニット23は、受信ユニット22からエコー信号を受け取り、対数増幅、包絡線検波処理などを施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータを生成する。
【0020】
ドプラ・血流検出ユニット24は、受信ユニット22から受け取ったエコー信号から血流信号を抽出・解析し、ドプラ波形、血流データとしての平均速度、分散、パワー等の血流情報を求める。
【0021】
RAWデータメモリ25は、Bモード処理ユニット23から受け取った複数のBモードデータを用いて、二次元的或いは三次元的なBモードRAWデータを生成する。なお、ノイズ低減や画像の繋がりを良くすることを目的として、RAWデータメモリ25の後にフィルタを挿入し、空間的なスムージングを行うようにしてもよい。
【0022】
画像処理ユニット26は、RAWデータメモリ25から受け取った二次元的或いは三次元的なBモードRAWデータをRAW−ピクセル変換(或いはボクセル変換)を実行することにより、二次元或いは三次元画像データを生成する。また、画像処理ユニット26は、生成した画像データに対して、ボリュームレンダリング、多断面変換表示(MPR:multi planar reconstruction)、最大値投影表示(MIP:maximum intensity projection)等の所定の画像処理を行う。なお、ノイズ低減や画像の繋がりを良くすることを目的として、画像処理ユニット28の後に二次元的なフィルタを挿入し、空間的なスムージングを行うようにしてもよい。
【0023】
制御プロセッサ29は、情報処理装置(計算機)としての機能を持ち、本超音波診断装置本体の動作を制御する。制御プロセッサ29は、記憶ユニット31から後述する超音波送受信を実現するための専用プログラムを読み出して自身が有するメモリ上に展開し、同送受信に関する制御を実行する。
【0024】
表示処理ユニット28は、画像処理ユニット26において生成・処理された各種画像データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、γカーブ補正、RGB変換等の各種を実行する。
【0025】
記憶ユニット30は、後述する超音波送受信を実現するための専用プログラム(例えば、使用するアダプタと偏向角度とに応じた各超音波振動子毎の遅延時間、或いは当該遅延時間を計算するためのプログラム)や、診断情報(患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、送受信条件、スペックル除去機能を実現するためのプログラム、ボディマーク生成プログラム、映像化に用いるカラーデータの範囲を診断部位毎に予め設定する変換テーブル、その他のデータ群が保管されている。また、必要に応じて、図示しない画像メモリ中の画像の保管などにも使用される。記憶ユニット30のデータは、インタフェースユニット31を経由して外部周辺装置へ転送することも可能となっている。
【0026】
インタフェースユニット31は、入力装置13、ネットワーク、新たな外部記憶装置(図示せず)に関するインタフェースである。当該装置によって得られた超音波画像等のデータや解析結果等は、インタフェースユニット31よって、ネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0027】
(超音波プローブユニット)
図2は、超音波プローブユニット(アダプタ40を超音波プローブ12に取り付けた状態)を、図3は、超音波プローブユニット(アダプタ40を超音波プローブ12から取り外した状態)を、それぞれ示した図である。
【0028】
図2、3に示すアダプタ4は、超音波プローブ12のアジマス方向レンズ機能に対応して音響特性に規則性を持つ。ここで、音響特性の規則性とは、例えば図2、3に示す様に、所定の間隔(少なくとも超音波波長λよりも大きな間隔)で配列された短冊形状の複数の格子によりメッシュ構造(複数の開口部41)を形成し、超音波プローブ12の超音波送受信面を規則的に分割するものである。ここで、少なくとも超音波波長λよりも大きな間隔とは、具体的には、超音波波長λが格子の後方で超音波ビーム偏向特性に関わる重篤な回折を起こさない程度の間隔を意味する。各格子は、例えばNA−16等の吸音材で形成されている。また、各格子の間及び格子と各超音波振動子との間には、減衰の小さい(例えば減衰率1.5等)音響インピーダンスマッチング層(樹脂或いはシリコン等)が設けられることが好ましい。
【0029】
図4、5は、超音波プローブユニットの変形例を説明するための図である。当該例に係るアダプタ4は、円筒形状等のスリット(開口部41)が規則的に配列される格子を有する構成となっている。
【0030】
なお、アダプタ40は、使用する超音波周波数帯域に応じて、最適な吸音特性、格子形状、格子の厚さ、格子間隔、格子幅を有するものに適宜交換することが好ましい。
【0031】
(超音波送受信制御)
次に、超音波プローブ12にアダプタ4を装着して構成される超音波プローブユニットの超音波送受信に関する制御について説明する。本実施形態に係る超音波送受信の制御は、使用されるアダプタ4の格子40と振動子アレイの幾何形状、ビームの偏向角から超音波波長λに対する位相(−180°〜+180°)のエリアシング量を時間遅延に換算し、受信する反射波の位相を補正することで、従来に比して大開口で指向性の高い受信ビームを生成するものである。なお、以下においては、説明を具体的にするため、図2、3に示したアダプタ4を用いる場合を例とする。
【0032】
図6は、本超音波プローブユニットを用いた場合の超音波送受信のメカニズムを説明するための概念図であり、アダプタ4を装着した場合の超音波振動子アレイの断面図である。同図に示す様に、格子40の幅(アジマス方向の長さ)をW、格子の間隔(スリット幅)をa、格子の厚さをd、格子40の表面から超音波振動子120の表面までの距離をD、超音波振動子120の配列eとする。図6の様な構成においてビーム偏向角をθとして受信される反射波は、格子40によってその一部が吸収され、図7の様に示す様に、格子40間の開口部41を通過する離散的な同位相波面によって各超音波振動子120に受信される。
【0033】
図8は、超音波プローブユニットを用いた連続波ドプラ送受信において、受信ビームを形成するために各超音波振動子120毎に計算される偏向遅延時間を説明するための図である。同図に示す様に、従来方式では、連続波であるため位相遅延に限界があることから、限られた範囲R2にある(限界的な)超音波振動子を用いて、折り返し(エリアシング)が発生しない−λ/(2c)〜+λ/(2c)の範囲で偏向位相遅延をかけていた。そのため、実質開口は、範囲R2となり、アポダイゼーションにより利用できる開口(利用開口)を広げた場合であっても、範囲R2’が上限であった。ここで、cは超音波の音速である。
【0034】
これに対し、本実施形態に係る超音波送受信制御においては、アダプタ4の格子40と振動子アレイの幾何形状、ビームの偏向角から超音波波長λに対する位相(−180°〜+180°)のエリアシング量を時間遅延に換算する。
【0035】
図9は、本実施形態に係る送受信制御により、超音波プローブの開口全域をDBF(ディジタルビームフォーミング)の遅延加算に利用できることを説明するための図である。具体的には、図9に示すように偏向角θ、格子40の幅W、格子40の表面から超音波振動子120の表面までの距離Dを用いて、隣り合うスリットを通過する超音波の位相遅延Dpは、次の式(1)の様に推定することができる。なお、cは音速である。
【0036】
Dp=c(Dsinθ+W) (1)
従って、範囲R1+R2+R3に存在する複数の超音波振動子を利用して受信された超音波(波長λ)の位相(−180°〜+180°)のエリアシング量を抑制するために、範囲R1に対応する超音波振動子が受信した超音波についてはその位相に位相遅延Dp(或いはその整数倍)を減算することで、範囲R3に対応する超音波振動子が受信した超音波についてはその位相に位相遅延Dp(或いはその整数倍)を加算する。これにより、各超音波振動子が受信した反射波の位相が±180°(±π)を超えることの影響を低減させ、送受信口径を拡大しつつエリアシング量を低減させることができる。
【0037】
さらに、従来に比して大きな送信口径により、超音波を送信することができる。従って、送信エネルギーを有効に使用し超音波走査範囲を広くすることができる。
【0038】
また、本超音波プローブユニットを用いて、多方向同時送受信を行うことも可能である。 図10は、超音波プローブユニットを用いて実行開口R1+R2+R3により超音波を送信し、隣接しない二方向につき並列同時受信をした場合の例である。同図に示す様に、従来に比して大きい実行開口R1+R2+R3から(従来に比して高エネルギーである)超音波が送信される。また、各超音波振動子が受信した各超音波について、各偏向方向毎の位相遅延を格子40と振動子アレイの幾何形状を用いて推定し、位相補正を行う。これにより、並行同時受信を行う場合においても、各超音波振動子が受信した反射波の位相が±180°(±π)を超えることの影響を低減させ、送受信口径を拡大しつつエリアシング量を低減させることができる。
【0039】
さらに、三次元CFMモードの高ボリューム化への応用も可能である。すなわち、FMCW方式の送受信により同時他方高への送受信(特に送信)が可能となるため、ボリューム数を比較的に向上させることができる。
【0040】
なお、実際の超音波診断装置の動作としては、制御プロセッサ29は、偏向角毎に、上記式(1)を用いて超音波振動子毎の遅延時間を決定し、超音波受信ユニット22を制御する。超音波受信ユニット22は、決定された遅延時間を用いて受信加算処理を行うことにより、従来に比して大口径での受信ビームを生成する。
【0041】
(変形例1)
アダプタ4の格子40と振動子アレイの幾何形状、ビームの偏向角等を用いて、超音波振動子毎の上記遅延時間を計算するのみならず、超音波振動子毎の重み係数を計算するようにしてもよい。グレーティングローブなどのアーティファクトを低減させる目的で、超音波振動子毎の重み係数を計算するアポダイゼーションも可能である。
【0042】
(変形例2)
アダプタ4の格子は、例えば液晶等を用いてダイナミックに二次元配置や形状を制御するようにしてもよい。格子をダイナミックに制御する場合には、変更された格子形状等におうじて、各超音波振動子毎の遅延時間も動的に制御されることとなる。また、格子によって形成される開口部41も、上記短冊形状、円形状(円筒形状)の他、多角形形状やこれらの組み合わせを採用することにより、方眼状、ハニカム形状、スパース配置状やこれらの組み合わせにすることも可能である。
【0043】
(効果)
本超音波プローブユニット及び超音波診断装置によれば、アダプタ4の格子40と振動子アレイの幾何形状、ビームの偏向角から超音波波長λに対する位相(−180°〜+180°)のエリアシング量を時間遅延に換算し、受信する反射波の位相を補正することで、従来に比して大開口で指向性の高い受信ビームを生成する。これにより、各超音波振動子が受信した反射波の位相が±180°(±π)を超えることの影響を低減させ、送受信口径を拡大しつつエリアシング量を低減させることができる。その結果、従来に比して指向性及び感度の高い受信ビームを実現することができる。特に、この効果は連続波ドプラ送受信を行う場合に顕著であり、従来に比して、方位分解能を飛躍的に向上させることができる。
【0044】
また、大開口の結果、例えばマルチビーム受信の感度向上と、送信エネルギーを有効に使えるため広範囲同時受信が可能となる。その結果、フレーム数を向上させることができ、画質を向上させることができる。さらに、三次元CFMモードを行う際、FMCW方式の送受信により同時他方高への送受信(特に送信)が可能となるため、ボリューム数を比較的に向上させることができる。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…超音波診断装置、4…アダプタ、12…超音波プローブ、13…入力装置、14…モニター、21…超音波送信ユニット、22…超音波受信ユニット、23…Bモード処理ユニット、24…ドプラ・血流検出ユニット、25…RAWデータメモリ、26…画像処理ユニット、28…表示処理ユニット、29…制御プロセッサ、30…記憶ユニット、31…インタフェースユニット、40…格子、41…開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波を送信し、当該送信された超音波に起因する反射波を前記被検体から受信しエコー信号を発生する複数の超音波振動子を有する超音波プロープと、前記超音波プローブの超音波送受信面側に装着され、音響特性に規則性のある格子を有するアダプタと、を具備する超音波プローブユニットと、
前記超音波送信のための制御信号を前記各超音波振動子に供給する送信手段と、
前記格子及び前記複数の超音波振動子の幾何形状とビームの偏向角とを用いて、前記超音波振動子毎の遅延時間を決定する決定手段と、
前記超音波振動子毎の遅延時間を用いて受信したエコー信号を加算することで、前記偏向角からの受信ビームを取得する受信手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記超音波プローブユニットは、前記超音波プローブの前記超音波送受信面と前記格子との間に設けられ、減衰の小さい音響インピーダンスマッチング層をさらに具備することを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記格子は、
超音波波長λよりも大きな間隔で配列され、
吸音機能を有すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記アダプタは、前記格子により、短冊形状、円形状、多角形形状、方眼状、ハニカム形状の開口部を有することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記アダプタは、前記格子の形状及び位置の少なくとも一方をダイナミックに制御可能な液晶デバイスであることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記アダプタは、送受信に用いる超音波の周波数帯域毎に交換可能であることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記決定手段は、前記格子の幅及び前記格子から前記超音波振動子までの距離を用いて、前記超音波振動子毎の遅延時間を決定することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項8】
被検体に超音波を送信し、当該送信された超音波に起因する反射波を前記被検体から受信しエコー信号を発生する複数の超音波振動子を有する超音波プロープと、
前記超音波プローブの超音波送受信面側に装着され、音響特性に規則性のある格子を有するアダプタと、
を具備する超音波プローブユニット。
【請求項9】
前記超音波プローブの前記超音波送受信面と前記格子との間に設けられ、減衰の小さい音響インピーダンスマッチング層をさらに具備することを特徴とする請求項8記載の超音波プローブユニット。
【請求項10】
前記格子は、
超音波波長λよりも大きな間隔で配列され、
吸音機能を有すること、
を特徴とする請求項8又は9記載の超音波プローブユニット。
【請求項11】
前記アダプタは、前記格子により、短冊形状、円形状、多角形形状、方眼状、ハニカム形状の開口部を有することを特徴とする請求項8乃至10のうちいずれか一項記載の超音波プローブユニット。
【請求項12】
前記アダプタは、前記格子の形状及び位置の少なくとも一方をダイナミックに制御可能な液晶デバイスであることを特徴とする請求項8乃至11のうちいずれか一項記載の超音波プローブユニット。
【請求項13】
前記アダプタは、送受信に用いる超音波の周波数帯域毎に交換可能であることを特徴とする請求項8乃至12のうちいずれか一項記載のプローブユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−100705(P2012−100705A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249145(P2010−249145)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】