説明

超音波プローブ及び超音波診断装置

【課題】複数の超音波振動子からの信号をサブアレイごとに加算して出力する構成において、超音波振動子単位での開口制御を可能とする。
【解決手段】複数の超音波振動子と、複数の遅延回路と、加算器と、を備え超音波の受信開口を制御可能に構成された超音波プローブである。遅延回路は、受信信号に遅延処理を施す。加算器は、受信信号を所定のグループごとに加算して出力する。また超音波プローブは、ゲート手段を備える。ゲート手段は、超音波振動子から加算回路までの間に配置された信号路ごとに、信号路の接続及び遮断を切替える。またゲート手段は、超音波の周期内において、超音波の送信直後の受信期間の初期には、あらかじめ設定された初期受信開口に対応する超音波振動子からの信号路のみを接続させ、受信期間の時間経過に応じて初期受信開口に近い超音波振動子から順に対応する信号路を接続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波プローブ及び超音波診断装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波2次元(2D)アレイプローブ等においては、数百から数千の超音波振動子が用いられる。この場合、超音波診断装置にプローブを直接接続すると、信号線の本数が非常に多く必要であるためにケーブル全体が太くなり、操作に支障をきたす。そのため、このような超音波プローブでは、複数の振動子を1グループ(サブアレイ)とするサブアレイ受信遅延回路を用いる。これにより、超音波プローブ内で部分的に受信遅延処理を施しサブアレイごとに加算することが可能となり、信号線の本数を少なくすることが可能となる。
【0003】
一方で、近距離の受信音場を改善するアパーチャ・グロース(Apertura growth)という技術がある。体表に近い部分からの受信信号の場合、開口中心に近い超音波振動子と開口中心から遠い超音波振動子とでは遅延量の差が大きい。そのため、遅延回路がこの遅延量の差を許容できずに受信品質が劣化する場合がある。アパーチャ・グロースでは、体表近くからの反射波を受信するときには超音波プローブの開口を小さくし、深度が深くなるに従って開口を広げる。これにより、体表近くの反射波を受信するときには開口中心から遠い超音波振動子を使用しないため、大きい遅延量に基づく遅延処理を施す必要が無くなり、近距離の受信音場を改善することが可能となる。
【0004】
アパーチャ・グロースも含め超音波診断装置の開口制御は、超音波診断装置本体の受信回路で行われていた。しかしながら、このような構成では、2Dアレイプローブのように複数の超音波振動子からの信号をサブアレイごとに加算して出力する構成の場合、開口制御がサブアレイ単位となる。そのため、アパーチャ・グロースもサブアレイ単位で行われ、振動子単位のアパーチャ・グロースに比べて画像品質が劣化するという問題が生じる。また、開口中心を移動するタイプのスキャンにおいても、開口中心の位置がサブアレイとしてまとめられた区画に制限されるため、精細なスキャンが困難であった。このような問題は、開口制御を行うための信号線を超音波振動子ごとに設けて、超音波振動子単位で開口制御を行うことで解消される。しかし2Dアレイプローブのように超音波振動子の数が多い場合には、上述したように信号線の本数が増えてケーブル全体が太くなるという問題が発生するので、そのような方法を採用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−167445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の実施形態は上記の問題を解決するためになされたものであり、複数の超音波振動子からの信号をサブアレイごとに加算して出力する構成において、超音波振動子単位での開口制御を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この実施形態の第1の態様は、複数の超音波振動子と、複数の遅延回路と、加算回路と、を備え前記超音波の受信開口を制御可能に構成された超音波プローブである。超音波振動子は、所定の周期の超音波を送信し、被検体内からの超音波エコーを受信する。遅延回路は、前記超音波振動子それぞれから受信信号を受けて、当該受信信号それぞれに遅延処理を施す。加算回路は、前記遅延処理が施された前記受信信号を所定のグループごとに加算して出力する。また超音波プローブは、ゲート手段を備える。ゲート手段は、前記超音波振動子から前記加算回路までの間に配置された信号路ごとに、前記信号路の接続及び遮断を切替え可能に構成されている。またゲート手段は、前記超音波の前記周期内において、前記超音波の送信直後の受信期間の初期には、あらかじめ設定された初期受信開口に対応する超音波振動子からの信号路のみを接続させ、受信期間の時間経過に応じて前記初期受信開口に近い超音波振動子から順に対応する信号路を接続させる。
また、この実施形態の第2の態様は、複数の超音波振動子と、複数の遅延回路と、加算回路と、を備え前記超音波の受信開口を制御可能に構成された超音波プローブを備えた超音波診断装置である。超音波振動子は、所定の周期の超音波を送信し、被検体内からの超音波エコーを受信する。遅延回路は、前記超音波振動子それぞれから受信信号を受けて、当該受信信号それぞれに遅延処理を施す。加算回路は、前記遅延処理が施された前記受信信号を所定のグループごとに加算して出力する。超音波診断装置は、前記超音波プローブから出力された前記受信信号を受けて、該前記受信信号を整相加算し超音波画像を生成する。また超音波プローブは、ゲート手段を備える。ゲート手段は、前記超音波振動子から前記加算回路までの間に配置された信号路ごとに、前記信号路の接続及び遮断を切替え可能に構成されている。またゲート手段は、前記超音波の前記周期内において、前記超音波の送信直後の受信期間の初期には、あらかじめ設定された初期受信開口に対応する超音波振動子からの信号路のみを接続させ、受信期間の時間経過に応じて前記初期受信開口に近い超音波振動子から順に対応する信号路を接続させる。
また、この実施形態の第3の態様は、複数の超音波振動子と、複数の遅延回路と、加算回路と、ゲート手段と、を備えた超音波プローブある。超音波振動子は、超音波を送信し、被検体内からの超音波エコーを受信する。遅延回路は、前記超音波振動子それぞれから受信信号を受けて、当該受信信号それぞれに遅延処理を施す。加算回路は、前記遅延処理が施された前記受信信号を所定のグループごとに加算して出力する。ゲート回路は、前記超音波振動子から前記加算回路までの間に配置された信号路ごとに、当該信号路の接続及び遮断を切替え可能に構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係る超音波診断装置の受信部のブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る超音波プローブの受信部のブロック図である。
【図3A】超音波の送信タイミングと受信タイミングとの関係を説明するための図である。
【図3B】アパーチャ・グロースの動作を説明するための図である。
【図4A】本実施形態におけるアパーチャ・グロースの制御について説明するための図である。
【図4B】本実施形態におけるアパーチャ・グロースの制御について説明するための図である。
【図5】本実施形態における開口移動の制御について説明するための図である。
【図6】第2の実施形態に係る超音波プローブの受信部のブロック図である。
【図7】第3の実施形態に係る超音波プローブの受信部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る超音波診断装置は、複数の超音波振動子で受信した信号(以降、「受信信号」と呼ぶ場合がある)を超音波プローブ内で部分的に整相加算を行う。このような構成を前提として、本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波を受信する開口を超音波振動子ごとに制御する。なお以降で「開口制御」と記載した場合、開口の位置(開口中心の位置)の制御と開口の面積(大きさ)の制御の双方を含むものとする。以降では本実施形態に係る超音波診断装置の構成について、図1及び図2を参照しながら、超音波を受信する構成に特に着目し説明する。まず図1を参照する。本実施形態に係る超音波診断装置の受信部は、超音波プローブ1と、本体受信部2とで構成される。
【0010】
超音波プローブ1は、送信回路10と、超音波振動子群11と、プリアンプ群12と、TGC電圧供給部13と、遅延回路群14と、マトリックススイッチ15と、加算回路16と、プローブ内制御部18とを含んで構成される。
【0011】
送信回路10は、図示しないが、クロック発生器、分周期、送信遅延回路、パルサを含んで構成されている。クロック発生器で発生されたクロックパルスは、分周器で例えば5KHz程度のレートパルスに落とされる。このレートパルスを、送信遅延回路を通してパルサに与えて高周波の電圧パルスを発生させ、この電圧パルスにより超音波振動子群11を駆動させる(機械的に振動させる)。これにより、送信回路10からの電気信号に従って、超音波振動子群11から被観測体に向けて超音波ビームが照射される。
【0012】
超音波振動子群11は、被観測体(例えば心臓)に対して超音波を送受信する。超音波振動子群11を構成する各超音波振動子(以降「各振動子」と呼ぶことがある)から送信された超音波ビームは、被観測体内の構造物の境界等の音響インピーダンスの異なる界面で、当該被観測体内の構造・動き等に対応して反射する。各振動子は、被観測体内で反射された超音波を受信する。各振動子は、受信した超音波を電気信号に変換し、振動子ごとに接続された信号線11aを介してプリアンプ群12に出力する。なお信号線11aは、振動子から加算回路16まで、振動子ごとに形成されている。またこの信号線11aが「信号路」に相当する。
【0013】
ここで図2を参照する。プローブ内制御部18は、超音波プローブ1内の各部の動作を制御する制御部である。プローブ内制御部18は、受信遅延制御部181と、出力切替制御部182と、TGCゲート制御部183とを、プローブ内制御部18に含む。なお受信遅延制御部181、出力切替制御部182、及びTGCゲート制御部183の動作については以降でそれぞれ説明する。
【0014】
プリアンプ群12は、複数のプリアンプにより構成されている。各プリアンプは、超音波振動子群11を構成する振動子に接続された信号線11aを介し、振動子で受信される受信信号を受ける。プリアンプは、振動子から受けた超音波エコー信号を良好に伝送するために、低雑音増幅またはバッファリング等の処理を行う。
【0015】
本実施形態に係るプリアンプは、ゲインを制御可能に構成されている。TGC(Time Gain Control)電圧供給部13は、各プリアンプに対し、信号線12aを介して、ゲインを制御するためのTGC電圧を供給する。つまり、各プリアンプのゲインは、TGC電圧供給部13から供給されるTGC電圧により決定される。TGC電圧供給部13は、超音波を受信するタイミングに応じてTGC電圧を変更する。これにより、例えば、被検体内のより深い位置で反射した超音波を受信する場合にゲインをより大きく制御することで、減衰した超音波を一定のレベルの出力に保つことが可能となる。各プリアンプは、増幅された受信信号を遅延回路群14に出力する。
【0016】
TGC電圧供給部13とプリアンプとを結ぶ信号線12a上には、TGCゲート回路17が設けられている。TGCゲート回路17は、TGCゲート制御部183の指示を受けて、信号線12aを介したTGC電圧の供給を一時的に遮断する。TGCゲート制御部183については後述する。
【0017】
各プリアンプのゲインは、TGC電圧供給部13からのTGC電圧の供給を遮断することで、ゼロまたは非常に低い値に設定される。これによりプリアンプは、信号線11aを介し振動子から出力される信号を遮断すること(または無視できるレベルまでパワーを下げること)が可能となる。つまり、TGC電圧の供給の有無を制御することで、各プリアンプは、信号線11aの接続及び遮断を切替える。なお、本実施形態に係るプリアンプは、TGC電圧の供給の有無を制御することで、信号線11aの接続及び遮断を切替え可能に構成されており、「ゲート手段」に相当する。
【0018】
TGCゲート制御部183は、TGCゲート回路17の動作を制御する。TGCゲート制御部183は、TGCゲート回路17それぞれの動作を個別に制御可能に構成されている。これによりTGC電圧の供給状態をプリアンプごとに供給と遮断とに切替える。TGC電圧の供給が遮断されたプリアンプのゲインは、ゼロまたは非常に低い値となり、対応するプリアンプからの受信信号は遮断されるか、出力の非常に小さい信号となる。このような構成により、信号線11aごとに接続および遮断を切替えることで、アパーチャ・グロース等の開口制御を振動子単位で行う。なお、アパーチャ・グロースの制御の詳細については後述する。
【0019】
遅延回路群14は、複数の遅延回路により構成されている。各遅延回路は、プリアンプから出力される受信信号、つまり振動子から出力されプリアンプで増幅された受信信号を受ける。各遅延回路は、プリアンプからの出力に対し遅延処理を施し出力する。各遅延回路が受信信号に対し遅延処理を施すための遅延データは、受信遅延制御部181が算出し各遅延回路に出力される。受信遅延制御部181については後述する。各遅延回路は、遅延処理が施された受信信号をマトリックススイッチ15に出力する。
【0020】
受信遅延制御部181は、超音波振動子群11を構成する振動子ごとに、振動子と被検体内のフォーカスポイントとの距離に基づき必要な遅延量を算出する。受信遅延制御部181は、算出した遅延量を遅延データとして、遅延量に対応した振動子に接続された遅延回路に出力することで、遅延回路の動作を制御する。これにより、各遅延回路は、受信信号に対し遅延処理を施す。
【0021】
マトリックススイッチ15は、遅延回路群14とサブアレイごとに設けられた加算回路16との間に介在する。マトリックススイッチ15は、遅延回路群14を構成する各遅延回路から入力された信号を加算回路16に出力する。このときマトリックススイッチ15は、遅延回路から入力された信号ごとに、この信号の出力先となる加算回路16を切替える。この場合、例えばサブアレイごとにマトリックススイッチ15を設け、これら複数のマトリックススイッチ15間で信号を転送可能に構成するとよい。これにより、あるマトリックススイッチに入力された信号を、他のマトリックススイッチの出力側に設けられた加算回路16に出力することが可能となり、サブアレイを構成する振動子の組合せを変更することが可能となる。
【0022】
出力切替制御部182は、各振動子とサブアレイとの対応に基づき、マトリックススイッチ15による受信信号の出力先を制御する。これにより、遅延回路群14から出力される振動子からの受信信号が、その振動子が含まれるサブアレイに対応する加算回路16に出力される。具体的には出力切替制御部182は、例えば図2に示すように、振動子E0〜E15からの受信信号が、サブアレイG0に対応付けられた加算回路16に出力されるようにマトリックススイッチ15を制御する。また同様に出力切替制御部182は、振動子En−15〜Enからの受信信号が、サブアレイGmに対応付けられた加算回路16に出力されるようにマトリックススイッチ15を制御する。
【0023】
なお、サブアレイを構成する振動子の組合せを変更する必要が無い場合には、マトリックススイッチ15を設けなくてもよい。この場合、遅延回路群14から出力された受信信号は、加算回路16に入力される。
【0024】
加算回路16は、サブアレイごとに設けられている。加算回路16は、遅延回路群14で遅延処理が施された受信信号を、マトリックススイッチ15を介して受け、これらの受信信号を加算する。加算回路16は、加算した受信信号を本体受信部2に出力する。図2に示すように、加算回路16は、例えば振動子E0〜E15を1つのサブアレイG0とし、これらの振動子からの受信信号を加算して、本体受信部2のチャンネルCH0に出力する。同様にして、加算回路16は、振動子En−15〜Enを1つのサブアレイGmとし、これらの振動子から出力される受信信号を加算して、本体受信部2のチャンネルCHmに出力する。これにより、超音波プローブ1からの出力信号線の数を減少させることができる。つまり、プローブケーブル内の信号線の本数を減少させている。
【0025】
ここで図1を参照する。本体受信部2は、受信主遅延回路20と、信号処理部21と、画像処理部22と、表示部23とを含んで構成される。
【0026】
受信主遅延回路20は、例えばディジタルビームフォーマユニット等の遅延加算回路で構成されており、超音波プローブ1からの信号を受け、該信号を整相加算する。このとき、遅延加算回路の入力側に前置増幅器等の増幅回路を設け、この増幅回路により信号を増幅した後、整相加算を行う構成としてもよい。
【0027】
受信主遅延回路20により整相加算された信号は、信号処理部21にて検波されてエンベロープが抽出される。更に、この抽出されたエンベロープは、画像処理部22にて被観測体の断面に合わせて座標変換されたり、画像表示に適した階調処理等が施されたりした後、超音波画像として表示部23に表示される。
【0028】
次に、本実施形態におけるアパーチャ・グロースの制御について、図3A、図3B、図4A、及び図4Bを参照しながら説明する。まず図3A及び図3Bを参照しながら、アパーチャ・グロースの概要について説明する。図3Aは、超音波の送信タイミングと受信タイミングとの関係を説明するための図である。図3Aの縦軸は超音波のパワーを示しており、横軸は時間を示している。図3Bは、超音波振動子群11をプローブ側面から見た図であり、図3Aに示した超音波の送受信に係るタイミングに基づくアパーチャ・グロースの動作を説明するための図である。図3BのZ軸は超音波を収束するレンズ方向を示しており、X軸は2次元に配列された超音波振動子の一方の配列方向(横軸方向)を示している。
【0029】
本実施形態に係る超音波診断装置は、例えばBモードのように、パルス波を使用し、超音波を送信する期間と超音波を受信する期間とに分けて各超音波振動子を駆動させる。図3AのT1はパルス波を送信する送信周期を示している。送信周期T1は、超音波を送信する期間T2と、被検体内で反射した超音波を受信する期間T3とを含む。期間T3においては、被検体内の異なる深度で反射した超音波を、それぞれ異なる期間T30〜T36で受信する。これは、送信した超音波が被検体内で反射し再び超音波振動子に到達するまでの時間が、その超音波が反射した深度が深くなるに従って長くなるためである。例えば体表付近から深度1、深度2、・・・、深度6の順に深度が深くなっていくとする。この場合、超音波を送信する期間T2の直後の期間T30では、体表付近で反射した超音波が受信される。また、深度1で反射した超音波は期間T31で受信される。このように期間T2内において、浅い深度から深い深度の順に、より早い期間で超音波が受信される。即ち、深度2、深度3、・・・、深度6で反射された超音波が、それぞれ期間T32、T33、・・・、T36内に受信される。なお、期間T2が「受信期間」に相当し、期間T30が「受信期間の初期」に相当する。
【0030】
アパーチャ・グロースの制御を行う場合、図3Aの期間T30、T31、・・・、T36の順に、徐々に超音波の受信開口を広げる。この動作を、図3A及び図3Bを参照しながら具体的に説明する。図3BのW0〜W6は、超音波の受信開口の幅を示している。例えば、図3Aの期間T30、T31、・・・、T36において、図3Bに示すように、超音波を受信し受信信号を出力する振動子の範囲をW0、W1、・・・、W6と徐々に増やしていく。これにより受信開口がW0、W1、・・・、W6と徐々に広がっていく。このように制御することで、例えば体表付近で反射した超音波(期間T30に対応)を受信する場合には、受信開口の幅がW0と狭くなる。この期間T30における幅W0の受信開口が「初期受信開口」に相当する。なお、図3BのW0a〜W2aは、従来の超音波診断装置で設定可能な受信開口の幅を示している。従来の超音波診断装置では、受信開口の制御がサブアレイ111ごととなっていたため、W0a、W1a、W2aのように、受信開口の幅をサブアレイ単位で広げざるを得なかった。これに対し本実施形態に係る超音波診断は、図3BのW0〜W6のように、振動子単位で受信開口を制御することとした。なお以降では、「受信開口を広げる」と記載した場合、超音波を受信し受信信号を出力する振動子を増やすことを意味するものとする。
【0031】
次に図4A及び図4Bを参照しながら、2Dアレイプローブにおけるアパーチャ・グロースの具体的な制御について説明する。まずは図4Aを参照する。図4Aは、超音波振動子群11を超音波の送信方向から見た図である。図4AのX軸は横軸方向を示しており、図3BのX軸方向と対応している。
【0032】
例えば、図4Aの領域A0はX軸方向及びY軸方向の双方に幅W0の幅を持つ領域を示している。体表付近で反射した超音波を受信する場合(図3Aの期間T30に相当)は、この領域A0を受信開口として設定する。受信開口がこの領域A0に設定された状態を初期状態として、より深い深度からの超音波が受信される期間(図3Aの期間T31〜T36)ごとに、初期状態に領域A1、A2、・・・、A6を遂次加えていく。このように制御することで、各深度で反射された超音波を受信するタイミングに応じて、徐々に受信開口を広げる。なお、深度に応じて受信開口が広がるように動作させれば十分であり、受信開口のX軸方向の幅及びY軸方向の幅や、受信開口の形状は、必ずしも上記のものに限定はされない。
【0033】
次に図4Bを参照しながら、本実施形態におけるアパーチャ・グロースの制御について制御タイミングに着目し説明する。図4AのY軸は、X軸と直交する縦軸方向を示している。また図4Bは、本実施形態に係る超音波診断装置におけるアパーチャ・グロースに関する制御タイミングを示している。なお、図4Bの「TGC電圧:共通入力」は、TGC電圧供給部13が、プリアンプ群12へ供給するTGC電圧のパワーを示している。また、図4Bには、図4Aで示した領域(A0〜A6)ごとに、「TGCゲート制御信号」及び「TGC電圧」のグラフを示している。「TGCゲート制御信号」のグラフは、TGCゲート回路17を制御する制御信号のパワーを示している。TGCゲート回路17にこの制御信号が入力されることで、TGC電圧供給部13からのTGC電圧がTGCゲート回路17を通過し、対応するプリアンプに供給される。このときに供給されるTGC電圧のパワーを「TGC電圧」で示している。なおこの明細書では、例えば「領域A0に対応するプリアンプ」と記載した場合、「領域A0に含まれる振動子からの信号を増幅するプリアンプ」を示すものとする。また、例えば「領域A0に対応するTGCゲート回路」と記載した場合、「領域A0に含まれる振動子からの信号を増幅するプリアンプに対するTGC電圧の供給の有無を制御するTGCゲート回路」を示すものとする。
【0034】
まず期間T2において超音波振動子群11を構成する各振動子から被検体に超音波が送信される。この間、TGC電圧供給部13は、図4Bの「TGC電圧:共通入力」に示すように、プリアンプ群12へTGC電圧を供給していない。次に期間T3において各振動子は、被検体内で反射した超音波の受信を開始する。この期間T3の開始にあわせて、TGC電圧供給部13はプリアンプ群12へのTGC電圧の供給を開始する。
【0035】
期間T30では、体表付近で反射した超音波が各振動子で受信される。そのためTGCゲート制御部183は、期間T30では、領域A0に対応するTGCゲート回路17にTGCゲート制御信号の送信を開始し、他の領域に対応するTGCゲート回路17にはTGCゲート制御信号を送信しない。これにより、期間T30の開始にあわせて、領域A0に対応するプリアンプにのみTGC電圧の供給が開始される。すなわち、期間T30において、領域A0に含まれる振動子からの信号のみが各プリアンプにより増幅され遅延回路群14に入力され、他の領域に含まれる振動子からの信号は各プリアンプで遮断される。これにより、領域A0で示された受信開口が形成される。
【0036】
次に期間T31では、深度1で反射した超音波が各振動子で受信される。そのためTGCゲート制御部183は、期間T31の開始にあわせて、領域A0に加え、領域A1に対応するTGCゲート回路17にTGCゲート制御信号の送信を開始する。これにより、期間T31の開始にあわせて、領域A1に対応するプリアンプへのTGC電圧の供給が開始される。即ち、期間T31において、領域A0及びA1に含まれる振動子からの信号のみが各プリアンプにより増幅され遅延回路群14に入力され、他の領域に含まれる振動子からの信号は各プリアンプで遮断される。これにより、領域A0及びA1で示された受信開口が形成される。
【0037】
同様にして、期間T32、T33、・・・、T36それぞれの開始にあわせて、領域A2、A3、・・・、A6に対応するTGCゲート回路17に対するTGC制御信号の送信を遂次開始する。これにより、各深度からの超音波を受信するタイミング(期間T30、T31、・・・、T36)に応じて、受信開口を徐々に広げていく。
【0038】
なお、上記ではアパーチャ・グロースに着目し説明したが、他の開口制御についても同様に振動子単位で行うことが可能である。例えば図5に示すように、開口の位置をP1からP2まで移動させる場合には、移動に伴う開口の位置や開口の大きさに応じて、開口に含まれない振動子に対応するプリアンプへのTGC電圧の供給がTGCゲート回路17により遮断されるように動作させればよい。具体的な動作について、Y1で示した範囲に含まれるX軸方向に並んだ振動子に着目し説明する。まず初期状態では幅W1bの領域に含まれる振動子に対応するプリアンプへTGC電圧が供給されるようにTGCゲート回路17を制御する。これにより位置P1に開口が形成される。以降は、開口の移動にあわせて、W2b、W3b、・・・W17b、W18bの順に、その幅の領域に含まれる振動子に対応するプリアンプへTGC電圧が供給されるようにTGCゲート回路17を制御する。これにより受信開口を、位置P1から位置P2まで振動子単位に移動させることが可能となる。
【0039】
従来の超音波診断装置では、この開口制御がサブアレイ111ごとの制御となっていた。そのため、例えばアパーチャ・グロースの場合、図3BのW0a、W1a、W2aの順に、サブアレイ111単位で受信開口が制御されていた。これに対し、本実施形態に係る超音波診断装置は、TGCゲート制御部183により、プリアンプごとにTGC電圧の供給の有無を切替えることで、信号線11aごとに接続及び遮断を切替える。これにより、図3BのW0〜W6に示すように、振動子ごとの開口制御が可能となる。
【0040】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る超音波診断装置の構成について、図6を参照しながら説明する。図6は本実施形態に係る超音波プローブの受信部のブロック図である。第1の実施形態に係る超音波診断装置では、TGCゲート回路17により各プリアンプへのTGC電圧の供給の有無を個別に制御することで、そのプリンアンプに対応する信号線11aの接続及び遮断を切替える。一方、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、TGCゲート回路17を設ける替わりに、各振動子からの信号線11a上を流れる信号の通過及び遮断を切替える遮断部151を設けている。以降では、第1の実施形態と異なる部分に着目し説明する。
【0041】
遮断部151は、信号線11a上を流れる信号の通過及び遮断を、信号線11aごとに切替え可能に構成されたスイッチである。遮断部151の切替えは、出力切替制御部182Aにより制御される。なお図7では、遮断部151は、遅延回路群14とマトリックススイッチ15との間に介在しているが、超音波振動子群11との加算回路16との間の信号線11a上に設けられていれば、その位置は限定されない。
【0042】
出力切替制御部182Aは、第1の実施形態に係る出力切替制御部182と同様にマトリックススイッチ15の制御を行う。これに加え、出力切替制御部182Aは、遮断部151の切替えを信号線11aごとに個別に制御する。具体的には、出力切替制御部182Aは、開口に含まれる振動子からの受信信号を通過させ、開口に含まれない振動子からの受信信号が遮断されるように遮断部151を制御する。これにより、振動子ごとの開口制御が可能となる。
【0043】
なお、アパーチャ・グロースの制御を行う場合、図4Aに示したTGCゲート制御信号の送信タイミングにあわせて、出力切替制御部182Aが遮断部151を制御し、対応する信号線11a上を流れる受信信号を通過させればよい。即ち、出力切替制御部182Aは、期間T30の開始にあわせて領域A0に含まれる振動子からの受信信号を通過させ、それ以外の領域に含まれる振動子からの受信信号が遮断されるように遮断部151を制御すればよい。また出力切替制御部182Aは、各期間(期間T31、T32、・・・、T36)の開始にあわせて、その期間に対応する領域(領域A1、A2、・・・、A6)に含まれる振動子からの受信信号を遂次通過させればよい。これにより、各深度からの超音波を受信するタイミング(期間T30、T31、・・・、T36)に応じて、受信開口を徐々に広げていく。なお遮断部151による切替えと同様の動作を、マトリックススイッチ15により実現する構成としてもよい。
【0044】
以上、本実施形態に係る超音波診断装置によれば、第1の実施形態に係るTGCゲート回路17を用いたTGC電圧供給の制御に替わり、遮断部151により受信信号の通過及び遮断を制御することで、第1の実施形態と同様に振動子ごとの開口制御が可能となる。
【0045】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成について、図7を参照しながら説明する。図7は本実施形態に係る超音波プローブの受信部のブロック図である。第3の実施形態に係る超音波診断装置は、TGCゲート回路17を設ける替わりに、遅延回路群14を構成する各遅延回路により、各振動子からの信号線11a上を流れる信号の通過及び遮断を切替える。以降では、第1の実施形態と異なる部分に着目し説明する。
【0046】
本実施形態に係る受信回路群14Aは、遅延回路として乗算回路を用いていることを特徴としている。乗算回路の具体例としては、ミキサーがあげられる。本実施形態に係る遅延回路は、受信遅延制御部181Aから遅延データとして参照信号を受信する。遅延回路は、プリアンプ群12から受けた受信信号に対し、この参照信号を乗算(ミキシング)する受信信号の位相をずらす。即ち、遅延量に応じてこの参照信号を変更することで、受信信号に対し遅延処理を施す。
【0047】
受信遅延制御部181Aは、超音波振動子群11を構成する振動子ごとに、振動子と被検体内のフォーカスポイントとの距離に基づき必要な遅延量を算出する。この動作は第1の実施形態に係る受信遅延制御部181と同様である。受信遅延制御部181Aは、算出した遅延量に基づき、振動子からの受信信号に乗算する参照信号を生成する。受信遅延制御部181Aは、生成した参照信号を遅延データとして、遅延量に対応した振動子に接続された遅延回路に出力し、遅延回路の動作を制御する。このように受信信号に対し遅延処理を施す参照信号が遅延回路に出力される場合が、「参照信号が遅延指示を含む場合」に相当する。
【0048】
また受信遅延制御部181Aは、開口に含まれない振動子に対応する遅延回路に対し参照信号の送信を停止する。この場合、遅延回路には参照信号が供給されず、この遅延回路に入力された受信信号は、後段に位置するマトリックススイッチ15に出力さない。即ち、参照信号の送信を停止することで、受信信号を遅延回路で遮断する。このとき遅延回路は、受信信号をアースに逃がす構成にしてもよい。このように参照信号が遅延回路に出力されない場合が、「参照信号が遮断指示を含む場合」に相当する。これにより、各振動子から出力される受信信号の通過及び遮断を個別に制御することが可能となる。即ち、振動子ごとの開口制御が可能となる。
【0049】
なお、アパーチャ・グロースの制御を行う場合、図4Aに示したTGCゲート制御信号の送信タイミングにあわせて、受信遅延制御部181Aが遅延回路を制御し、対応する信号線11a上を流れる受信信号を通過させればよい。即ち、受信遅延制御部181Aは、期間T30の開始にあわせて領域A0に含まれる振動子に対応する遅延回路に参照信号を送信する。これにより遅延回路は、この振動子からの受信信号を通過させる。またこのとき受信遅延制御部181Aは、領域A0に含まれない振動子に対応する遅延回路へは参照信号を送信しない。これにより遅延回路は、この振動子からの受信信号を遮断する。また受信遅延制御部181Aは、各期間(期間T31、T32、・・・、T36)の開始にあわせて、その期間に対応する領域(領域A1、A2、・・・、A6)に含まれる振動子に対応する遅延回路に参照信号を遂次送信すればよい。これにより、各深度からの超音波を受信するタイミング(期間T30、T31、・・・、T36)に応じて、対応する領域の信号を遂次通過させることで、受信開口を徐々に広げていくことが可能となる。
【0050】
以上、本実施形態に係る超音波診断装置によれば、第1の実施形態に係るTGCゲート回路17を用いたTGC電圧供給の制御に替わり、各遅延回路への遅延データの送信を制御することで、第1の実施形態と同様に振動子ごとの開口制御が可能となる。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載されたその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 超音波プローブ
10 送信回路
11 超音波振動子群
12 プリアンプ群
13 TGC電圧供給部
14、14A 遅延回路群
15 マトリックススイッチ
151 遮断部
16 加算回路
17 TGCゲート回路
18 プローブ内制御部
181、181A 受信遅延制御部
182、182A 出力切替制御部
183 TGCゲート制御部
2 本体受信部
20 受信主遅延回路
21 信号処理部
22 画像処理部
23 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周期の超音波を送信し、被検体内からの超音波エコーを受信する複数の超音波振動子と、
前記超音波振動子それぞれから受信信号を受けて、当該受信信号それぞれに遅延処理を施す複数の遅延回路と、
前記遅延処理が施された前記受信信号を所定のグループごとに加算して出力する加算回路と、
を備え、前記超音波の受信開口を制御可能に構成された超音波プローブであって、
前記超音波振動子から前記加算回路までの間に配置された信号路ごとに、前記信号路の接続及び遮断を切替え可能に構成され、前記超音波の前記周期内において、前記超音波の送信直後の受信期間の初期には、あらかじめ設定された初期受信開口に対応する超音波振動子からの信号路のみを接続させ、受信期間の時間経過に応じて前記初期受信開口に近い超音波振動子から順に対応する信号路を接続させるゲート手段を備えたことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記ゲート手段は、前記超音波振動子と前記遅延回路との間の信号路に介在し、前記受信信号を増幅するプリアンプを備え、更に、
前記プリアンプのゲインを制御するためのゲイン制御電圧を供給するゲイン制御電圧供給部と、
前記プリアンプへの前記ゲイン制御電圧の供給及び遮断を制御可能に構成されたゲイン制御ゲート回路と、
を備え、
前記ゲイン制御ゲート回路が前記プリアンプへ前記ゲイン制御電圧を供給することにより、前記プリアンプから前記遅延回路への前記信号路をそれぞれ個別に接続させることで、前記受信開口を制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記ゲート手段は、前記遅延回路と前記加算回路との間の信号路に介在するスイッチであって、
前記スイッチは、前記遅延回路と前記加算回路との間の前記信号路の接続及び遮断を、当該信号路ごとに切替えることで、前記受信開口を制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記遅延回路は、遅延指示及び遮断指示のいずれかを含む参照信号を受けて前記受信信号に乗算することで、前記参照信号が遅延指示を含む場合は、前記受信信号に遅延処理を施し、前記遅延処理が施された当該受信信号を出力し、前記参照信号が遮断指示を含む場合は、前記受信信号の出力を遮断する乗算回路であって、
前記遅延回路への参照信号を切替えることで、前記遅延回路を前記ゲート手段として動作させ、前記受信開口を制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
所定の周期の超音波を送信し、被検体内からの超音波エコーを受信する複数の超音波振動子と、
前記超音波振動子それぞれから受信信号を受けて、当該受信信号それぞれに遅延処理を施す複数の遅延回路と、
前記遅延処理が施された前記受信信号を所定のグループごとに加算して出力する加算回路と、を備え、前記超音波の受信開口を制御可能に構成された超音波プローブを備え、
前記超音波プローブから出力された前記受信信号を受けて、該前記受信信号を整相加算し超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
前記超音波プローブは、前記超音波振動子から前記加算回路までの間に配置された信号路ごとに、前記信号路の接続及び遮断を切替え可能に構成され、前記超音波の前記周期内において、前記超音波の送信直後の受信期間の初期には、あらかじめ設定された初期受信開口に対応する超音波振動子からの信号路のみを接続させ、受信期間の時間経過に応じて前記初期受信開口に近い超音波振動子から順に対応する信号路を接続させるゲート手段を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
超音波を送信し、被検体内からの超音波エコーを受信する複数の超音波振動子と、
前記超音波振動子それぞれから受信信号を受けて、当該受信信号それぞれに遅延処理を施す複数の遅延回路と、
前記遅延処理が施された前記受信信号を所定のグループごとに加算して出力する加算回路と、
前記超音波振動子から前記加算回路までの間に配置された信号路ごとに、当該信号路の接続及び遮断を切替え可能に構成されたゲート手段と、
を備えたことを特徴とする超音波プローブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate