説明

超音波探傷試験方法

【課題】容易かつ正確に溶接箇所における境界部周囲に形成される熱影響部の欠陥を検出可能な超音波探傷試験方法を提供する。
【解決手段】複数の振動子113で構成された探触子110を被検体200の探傷面201に配置し、探触子110から送信させて探傷面201から被検体200内部へと入射させる超音波の屈折角θを、溶接箇所203の境界部204、205のベベル角φ、φの大きさに応じて、当該探触子110の複数の振動子113の少なくとも一部で受信するように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して非破壊検査を行う超音波探傷試験法に関し、特に溶接箇所の熱影響部の欠陥を探傷するための超音波探傷試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力プラント等の配管溶接部検査においては、非破壊検査として超音波探傷試験が実施され、当該試験により溶接箇所の境界部周囲に形成される熱影響部における欠陥を検出している。このような超音波探傷試験法としては、例えば回折波を利用したTOFD(Time of Fright Diffraction)法が知られている。具体的には、溶接箇所の幅方向一方側に送信用の探触子を配置するとともに、幅方向他方側に受信用の探触子を配置する。そして、送信用の探触子から被検体内部へ溶接箇所に向けて超音波を送信し、当該超音波が欠陥で回折されたものを受信用の探触子で受信することで、欠陥を検出している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の方法としては、反射波を利用したタンデム法が知られている。具体的には、溶接箇所の幅方向片側に送信用の探触子及び受信用の探触子を配置する。そして、送信用の探触子から所定の角度で被検体の内部へ探傷面と対向する面に向けて超音波を送信し、当該面及び溶接箇所の境界部で反射したものを受信用の探触子で受信することで、欠陥を検出している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4148959号公報
【特許文献2】特許第3739368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようなTOFD法では、送信用の探触子と受信用の探触子との間で、溶接箇所内部にブローホール等の欠陥が存在すると、当該溶接箇所内部の欠陥で回折したものも受信用の探触子で受信してしまうこととなり、熱影響部の欠陥だけを正確に識別することができなかった。また、TOFD法では、探傷面近傍の欠陥を検出することができないため、溶接箇所の厚さ方向全域を検査するためには、探傷面近傍について斜角探傷法など別の手法を組み合わせる必要があり、片側の熱影響部だけでも2回以上試験を実施する必要があった。さらに、溶接箇所の幅方向両側に探触子を配置する必要があるため、溶接箇所幅方向片側で平坦な探傷面が形成されていない場合には適用できないという問題があった。
一方、特許文献2のようなタンデム法では、溶接箇所幅方向片側で平坦な探傷面が形成されてさえいれば、超音波探傷試験を実施することができ、また、溶接箇所内部におけるブローホール等の欠陥を検出してしまうこともない。しかしながら、送信用の探触子から所定の角度で超音波を送信したとしても、溶接箇所の境界部におけるベベル角の大きさによって、探傷面と対向する面及び境界部で反射されて探傷面に戻ってくる時の位置が異なってしまう。このため、タンデム法では、送信用の探触子と受信用の探触子との相対位置を、境界部のベベル角に応じて設定し、また、検査中は互いの位置関係を正確に保っておく必要があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、最小限の装置構成で容易かつ正確に溶接箇所における境界部周囲に形成される熱影響部の欠陥を検出可能な超音波探傷試験方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、所定のベベル角をもって溶接された被検体における溶接箇所の境界部周囲に形成された熱影響部の欠陥を検出するための超音波探傷試験方法であって、複数の振動子で構成された探触子を前記被検体の探傷面に配置し、前記探触子から送信させて前記探傷面から前記被検体内部へと入射させる超音波の屈折角を、前記溶接箇所の前記境界部のベベル角の大きさに応じて、当該探触子の複数の前記振動子の少なくとも一部で受信するように調整することを特徴としている。
【0008】
この方法によれば、探触子から送信させて前記探傷面から前記被検体内部へと入射させる超音波の屈折角を、前記溶接箇所の前記境界部のベベル角の大きさに応じて、当該探触子の複数の前記振動子の少なくとも一部で受信するように調整していることで、被検体の溶接箇所の幅方向片側からのみで、熱影響部における欠陥を検出することができる。また、境界部のベベル角に応じて、探触子から送信させて探傷面から被検体内部へと入射させる超音波の屈折角を調整して、複数の振動子を有する一つの探触子で送受信可能としていることで、複数の探触子を用いて互いの位置関係を調整する必要なく、容易かつ正確に、熱影響部における欠陥を検出する試験を実施することができる。
【0009】
また、上記の超音波探傷試験方法において、前記境界部で略垂直に反射させるように、前記屈折角を設定し、前記探触子で超音波を送受信させる第一の超音波送受信工程を備えることを特徴としている。
【0010】
この方法によれば、第一の超音波送受信工程では、境界部で略垂直に反射させるように、屈折角を設定することで、探触子から送信された超音波は、境界部で反射した後に再びほぼ同じ経路をもって当該探触子に受信されることとなり、最小限の大きさの探触子で送受信を実施することができる。
【0011】
また、上記の超音波探傷試験方法において、前記第一の超音波送受信工程では、前記探傷面から前記被検体内部へと、超音波を横波のモードの屈折波で入射させ、前記探傷面と対向する面で反射させて縦波のモードに変換させて、該縦波のモードで前記境界部で反射させることを特徴としている。
【0012】
この方法によれば、探触子から送信される超音波を小さな屈折角で横波のモードで探傷面から入射させることで、入射した屈折波は、探傷面と対向する面で、大きな反射角をもって縦波のモードで反射することとなる。このため、ベベル角の大きな境界部においても、探触子を溶接箇所から幅方向に離間させることなく超音波を垂直に反射させて、当該探触子で受信させることができる。
【0013】
また、上記の超音波探傷試験方法において、前記探傷面から前記被検体内部へと入射する屈折波と同一のモードで前記探傷面と対向する面及び前記境界面で反射させた反射波を受信するように、前記探触子で送受信させる第二の超音波送受信工程を備え、前記境界部のベベル角が前記被検体の厚さ方向に変化する場合に、前記ベベル角が相対的に大きい前記厚さ方向の範囲に対しては前記第一の超音波送受信工程を実施し、前記ベベル角が相対的に小さい前記厚さ方向の範囲に対しては前記第二の超音波送受信工程を実施することを特徴としている。
【0014】
この方法によれば、ベベル角の大小により第一の超音波送受信工程と第二の超音波送受信工程を組み合わせることで、同一の探触子で、溶接箇所の幅方向に位置を変えることなく、被検体の厚さ方向全体にわたって熱影響部の欠陥の有無を検出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超音波探傷試験方法によれば、容易かつ正確に溶接箇所における境界部周囲に形成される熱影響部の欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の超音波探傷試験で使用される超音波探傷システムの一例を示す概要図である。
【図2】本発明の実施形態の超音波探傷試験方法で送信される超音波の挙動を説明するための断面図である。
【図3】本発明の実施形態の超音波探傷試験方法において、タンデムスキャン実施工程を説明する断面図である。
【図4】本発明の実施形態の超音波探傷試験方法において、リニアスキャン実施工程を説明する断面図である。
【図5】実施例の超音波探傷試験方法において、タンデムスキャン実施工程を説明する断面図である。
【図6】実施例の超音波探傷試験方法において、リニアスキャン実施工程を説明する断面図である。
【図7】実施例の超音波探傷試験方法において、同一モードで裏面反射させて境界部に垂直反射させる場合を説明する断面図である。
【図8】本発明の実施形態の超音波探傷試験方法において、境界部全体が大きなベベル角を有する場合を説明する断面図である。
【図9】本発明の実施形態の超音波探傷試験方法において、境界部全体が小さなベベル角を有する場合を説明する断面図である。
【図10】本発明の実施形態の超音波探傷試験方法において、探触子が配置された側と反対側の境界部を試験する場合を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図1から図10に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の超音波探傷試験に利用する超音波探傷システムの一例を示している。図1及び図2に示すように、超音波探傷システム100は、二つの探触子110(110A、110B)と、二つの探触子110から送信される超音波の制御、及び受信される超音波の解析を行う信号処理装置120とを備える。信号処理装置120は、情報を入力するためのボタンやノブ等の入力手段121と、情報を出力するためのディスプレイ等の出力手段122とを有する。
【0018】
また、探触子110は、複数の振動子113が配列した送受信面111aを具備して超音波を送受信可能なフェーズドアレイを構成する探触子本体111と、探触子本体111を傾斜して探傷面201上に取り付けるウェッジ112とを有する。探触子本体111を構成する複数の振動子113は、圧電素子からなり、それぞれが信号処理装置120からの電気信号に入力に基づいて、各々独立して振動して超音波を発振し、また、受信することが可能となっている。このため、探触子本体111は、信号処理装置120の制御のもと、複数の振動子113の全部または一部から、所望の角度で超音波を送信させることが可能であるとともに、複数の振動子113の全部または一部で入力される超音波を受信し、電気信号として信号処理装置120へ出力することが可能となっている。
【0019】
ウェッジ112は、探傷面201に密着して取り付けられる接触面112aを有するとともに、探触子本体111における超音波の送受信が行われる送受信面111aが密着して取り付けられる取付面112bを具備する。このため、探触子本体111の送受信面111aから、送受信面111aに交差する方向に縦波のモードで送信される超音波は、探傷面201に対して傾斜した方向にウェッジ112の内部を伝播し、探傷面201においてウェッジ112及び被検体200の材質に応じた屈折角で屈折して、探傷面201から被検体200内部へと入射される。
【0020】
ここで、探傷面201に垂直な軸線Lに対して、探触子本体111から探傷面201に入射する超音波S1の入射角をθ、探傷面201で屈折して被検体200内部へと伝播する屈折波Sの屈折角をθとし、また、ウェッジ112における音速をV、被検体200における音速をVとすると、以下の関係式が成立する。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、探触子110の各振動子113から発振されウェッジ112内を伝播する超音波Sは、縦波のモードであり、Vには縦波のモードにおける音速が入力される。<数1<から、所望のモード(例、鋼の場合Vが縦波の場合5900m/S、横波の場合3200m/S)でフェーズドアレイの制御中心角となる屈折角θとなる入射角θを決定することができる。
【0023】
また、屈折角θで被検体200の内部を伝播する屈折波Sは、溶接箇所の境界部や探傷面201と反対側の裏面202で反射する。なお、以下では説明を容易なものとするために、探傷面201と裏面202は平行であるものとし、裏面202での入射角が探傷面201での屈折角θと等しいものとして説明するが、裏面202が探傷面201と平行でない場合には、以下のθを裏面202に垂直な軸に対する角度に置き換えれば良い。そして、横波のモードで裏面202に入射する場合、入射角θが被検体200の材質によって決定される第2の臨界角θc2より大きい場合には、反射角θが入射角θ1と同じ大きさで同一モードとなる横波のモードだけの反射波Sで反射することとなる。また、入射角θが第2の臨界角θc2以下である場合には、横波のモードで反射するとともに、<数2>を満たす反射角θで縦波のモードの反射波Sで反射することとなる。ここで、縦波のモードでの音速V1Lは、横波のモードでの音速V1Sよりも大きいため、入射角に対して反射角が音速比V1L/V1Sに対応する比率だけ大きくなる。
【0024】
【数2】

【0025】
縦波のモードで裏面202に入射する場合も同様であり、第2の臨界角θc2と対応する角度を臨界角として、当該臨界角未満である場合には入射角と同じ大きさの反射角で同一モードとなる縦波のモードで反射するとともに、<数2>を満たす反射角で横波のモードでも反射し、また、当該第2の臨界角θc2以上である場合には<数2>を満たす反射角で横波のモードだけで反射することになる。
【0026】
そして、本実施形態では、<数1>及び<数2>の関係式に基づいて、探触子本体111から送信され探傷面201から被検体200内部へと伝播する屈折波Sが溶接箇所の境界部で反射した反射波を、同じ探触子110で受信可能とするような屈折角θを求め、当該屈折角θとなるような入射角θとなるように探触子本体111の振動子113から超音波を送信させる。そして、本実施形態の超音波探傷試験方法は、検査対象となる被検体200の溶接箇所において、境界部周囲に形成される熱影響部の欠陥を検出するためのもので、境界部のベベル角に応じて屈折角θを変化させることに特徴がある。
【0027】
次に、被検体200の溶接箇所203の境界部周囲の熱影響部の欠陥を検出方法について具体的に説明する。図1に示すように、被検体200は、2つの同一材料からなる板状部材200A、200Bを突き合わせ溶接して構成されたものである。ここで、各板状部材200A、200Bは、それぞれ厚さ方向に二つの異なるベベル角φ1、φ2を有する開先形状を有しており、表面(探傷面201)に対する角度であるベベル角φ1、φ2は、表面側の第一の境界部204の方が裏面202側の第二の境界部205よりも小さな角度に設定されている。そして、このような被検体200に対して以下のように第一の境界部204及び第二の境界部205の周囲に形成された熱影響部206の欠陥の検出を実施する。
【0028】
まず、図1に示すように、探触子配置工程として、2つの探触子110を溶接箇所203の幅方向両側に配置する。次に、図3に示すように、タンデムスキャン実施工程(第二の超音波送受信工程)として、第一の境界部204についてその周囲の熱影響部206の欠陥の検出を行う。なお、図3では、図1及び図2に示される探触子本体111及びウェッジ112で構成される探触子110を簡略化して表示しており、ウェッジ112における接触面112aの範囲のみを表示している。以下、図4〜図10でも同様である。すなわち、図3に示すように、それぞれの探触子110において、溶接箇所203から離間した範囲Aと対応する複数の振動子113から超音波を送信させ、被検体200内部を伝播させて裏面202で反射させた後、第一の境界部204で反射させて、再び同じ探触子110の溶接箇所203に近接した範囲Bと対応する複数の振動子113で受信させるように、探傷面201から被検体200内部を伝播する屈折波Sの屈折角を設定する。
【0029】
次に、リニアスキャン実施工程(第一の超音波送受信工程)として、第二の境界部205についてその周囲の熱影響部206の欠陥の検出を行う。すなわち、図4に示すように、それぞれの探触子110において、探触子110の全部または一部の振動子113から超音波を送信させ、被検体200内部に横波のモードで伝播させ、裏面202で縦波のモードで反射させて、第二の境界部205で垂直に反射させるように、屈折角を設定する。
すなわち、第二の境界部205のベベル角φから、裏面202での反射角θを求める。次に、反射角θ及び<数2>から、裏面202での入射角θ、すなわち屈折角θを求めることができる。このため、当該屈折角θとなるように範囲Cと対応する振動子113で超音波を送信させることで、同範囲Cにおいて第二の境界部205からの反射波を受信することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本実施形態の実施例について説明する。
図5から図7に示すように、厚さが50mmの2つの板状部材200A、200Bを、表面から深さ30mmまで第一の境界部204として、ベベル角φを5度に設定するとともに、残りの裏面202までを第二の境界部205としてベベル角φを20度に設定して、両者を溶接して構成した被検体200の熱影響部206を検査する場合を例としている。
【0031】
そして、図5に示すように、屈折角θを35度として第一の境界部204にタンデムスキャン実施工程を実施すると、幾何学的条件により送信用の振動子113としては、第一の境界部204上端から65.8mmまで必要となり、当該送信用の振動子113よりも溶接箇所203側を受信用の振動子113として、第一の境界部204で反射して探傷面201に垂直な軸Lに対して45度で入射する超音波を受信することができる。
【0032】
リニアスキャン実施工程では、第二の境界部205のベベル角φが20度であるから、裏面202における反射角θは70度に設定される。このため、モード変換波を利用する場合には<数2>から屈折角(入射角)θを逆算すると、30度となる。すると、図6に示すように、幾何学的条件により、第一の境界部204上端から83.2mmまで必要となる。すなわち、探傷面201において第一の境界部204上端から83.2mmの範囲で送信または受信を実施可能な大きさの探触子110を用いることで、一つの探触子110で上記被検体200に対して、タンデムスキャン実施工程及びリニアスキャン実施工程を、溶接箇所203の幅方向に移動させることなく実施することができる。
【0033】
一方、横波のモードで裏面202で反射させて第二の境界部205に垂直に入射し、その反射波を測定する場合には、図7に示すように、第一の境界部204の上端から192.8mmの範囲で探触子110によって送信または受信することで同様の測定が可能であるが、タンデムスキャン実施工程を同じ位置で実施可能とするには、探触子110の大きさが192.8mmと大きくなってしまう。
以上のように、モード変換を利用することにより、単独のモードの超音波のみを利用する場合と比較して、タンデムスキャン実施工程を同じ位置で実施可能としつつ、探触子110の大きさを192.8mmから83.2mmへと2分1以下にまで小型化することができる。
【0034】
なお、上記においては、二つの大きさの異なるベベル角φ、φに設定された第一の境界部204及び第二の境界部205を有する溶接箇所203について検査するものとしたが、これに限るものではなく、単一のベベル角φを有する溶接箇所203について適用するものとしても良い。
この場合には、ベベル角φが大きい場合には、図8に示すように境界部全体にわたってリニアスキャン実施工程を実施する。また、ベベル角φが小さい場合には、図9に示すように示すように境界部全体にわたってタンデムスキャン実施工程を実施することで、最小限の大きさの探触子110で、境界部全体にわたって探触子110の位置をずらすことなく一度に欠陥の検出を行うことができる。
【0035】
また、上記においては、溶接箇所203幅方向両側に探触子110を配置して、一方の探触子110Aで一方側の境界部周囲の熱影響部206を検査し、他方の探触子110Bで他方側の境界部周囲の熱影響部206を検査するものとしたが、溶接箇所203の片側のみに一つの探触子110を配置して、当該探触子110により両側の熱影響部206を検査するものとしても良い。
すなわち、まず、探触子110が配置された側の片側の熱影響部206について、図3及び図4に基づいて説明した測定方法同様に第一の境界部204及び第二の境界部205のベベル角φ、φに応じて屈折角を設定し、タンデムスキャン実施工程及びリニアスキャン実施工程を実施する。
【0036】
次に、図10に示すように、探触子110が配置された側と反対側の第一の境界部204及び第二の境界部205のそれぞれについて、そのベベル角φ1、φ2に応じて垂直に反射させるように、屈折角θ1を設定する。これにより、第一の境界部204及び第二の境界部205で反射された反射波は、入射波と同じ経路で各振動子113に受信され、欠陥を検出することができる。
このため、図10に示すような管径が軸方向に一定の直管200Cと、管径が軸方向に変化するテーパ管200Dとの溶接継手部においても、直管200C側からのみ、テーパ管200Dの形状の影響を受けることなく両側の熱影響部206の欠陥の検出を行うことができる。
【0037】
以上のように、本実施形態の超音波探傷試験方法によれば、探触子110から送信させて探傷面201から被検体200内部へと入射させる超音波の屈折角θを、溶接箇所203の境界部のベベル角φ、φの大きさに応じて、当該探触子110の複数の振動子113の少なくとも一部で受信するように調整している。このため、被検体200の溶接箇所203の幅方向片側からのみでも、熱影響部206における欠陥を検出することができる。また、本実施形態では、境界部のベベル角φ、φに応じて、探触子110から送信させて探傷面201から被検体200内部へと入射させる超音波の屈折角θを調整して、複数の振動子113を有する一つの探触子110で送受信可能としている。このため、複数の探触子110を用いて互いの位置関係を調整する必要なく、容易かつ正確に、熱影響部206における欠陥を検出する試験を実施することができる。
【0038】
ここで、TOFD法で同じ被検体200について超音波探傷試験を実施する場合には、両側に探触子110を配置して、一方側の境界部について検査をした後に、他方側の境界部について検査を行う。さらに、表面付近については、両側それぞれについて別途斜角探傷法により検査を行う必要があり、計4回の試験を実施する必要がある。しかしながら、本実施形態の超音波探傷試験においては、同じ探触子で送受信を実施することから、両側の探触子でそれぞれ同時に超音波探傷試験を実施することでき、すなわち最大で1試験回数で溶接箇所両側の熱影響部について欠陥を検出することができる。また、本実施形態の超音波探傷試験方法では、反射波を利用して欠陥を検出し、TOFD法のように回折波を利用していないことから、熱影響部で検出される欠陥と、溶接箇所内部における欠陥とを時間的に分離することができ、両者の識別が容易である。
【0039】
また、リニアスキャン実施工程(第一の超音波送受信工程)では、境界部で略垂直に反射させるように、屈折角を設定することで、探触子110から送信された超音波は、境界部で反射した後に再びほぼ同じ経路をもって当該探触子110に受信されることとなり、最小限の大きさの探触子110で送受信を実施することができる。
【0040】
さらに、探触子110から送信される超音波を小さな屈折角で横波のモードで探傷面201から入射させることで、入射した屈折波Sは、探傷面201と対向する面で、大きな反射角をもって縦波のモードで反射することとなる。このため、ベベル角の大きな境界部においても、探触子110を溶接箇所203から幅方向に離間させることなく超音波を垂直に反射させて、当該探触子110で受信させることができる。
【0041】
特に、ベベル角φの大小によりリニアスキャン実施工程(第一の超音波送受信工程)と(タンデムスキャン実施工程)第二の超音波送受信工程を組み合わせることで、同一の探触子110で、溶接箇所203の幅方向に位置を変えることなく、被検体200の厚さ方向全体にわたって熱影響部206の欠陥の有無を検出することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0043】
110、110A、110B 探触子
113 振動子
200 被検体
201 探傷面
202 裏面(探傷面と対向する面)
203 溶接箇所
204 第一の境界部
205 第二の境界部
206 熱影響部
屈折波
θ 屈折角
φ、φ、φ ベベル角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のベベル角をもって溶接された被検体における溶接箇所の境界部周囲に形成された熱影響部の欠陥を検出するための超音波探傷試験方法であって、
複数の振動子で構成された探触子を前記被検体の探傷面に配置し、前記探触子から送信させて前記探傷面から前記被検体内部へと入射させる超音波の屈折角を、前記溶接箇所の前記境界部のベベル角の大きさに応じて、当該探触子の複数の前記振動子の少なくとも一部で受信するように調整することを特徴とする超音波探傷試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷試験方法において、
前記境界部で略垂直に反射させるように、前記屈折角を設定し、前記探触子で超音波を送受信させる第一の超音波送受信工程を備えることを特徴とする超音波探傷試験方法。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波探傷試験方法において、
前記第一の超音波送受信工程では、前記探傷面から前記被検体内部へと、超音波を横波のモードの屈折波で入射させ、前記探傷面と対向する面で反射させて縦波のモードに変換させて、該縦波のモードで前記境界部で反射させることを特徴とする超音波探傷試験方法。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波探傷試験方法において、
前記探傷面から前記被検体内部へと入射する屈折波と同一のモードで前記探傷面と対向する面及び前記境界面で反射させた反射波を受信するように、前記探触子で送受信させる第二の超音波送受信工程を備え、
前記境界部のベベル角が前記被検体の厚さ方向に変化する場合に、前記ベベル角が相対的に大きい前記厚さ方向の範囲に対しては前記第一の超音波送受信工程を実施し、前記ベベル角が相対的に小さい前記厚さ方向の範囲に対しては前記第二の超音波送受信工程を実施することを特徴とする超音波探傷試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−163814(P2011−163814A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24393(P2010−24393)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】