説明

超音波探触子およびそれを備えた超音波診断装置

【課題】受信する超音波における高調波成分は減少させず、かつサイドローブの影響を低減できる超音波探触子を提供する。
【解決手段】超音波探触子2は、圧電材料を備え、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができ、被検体に対して超音波信号を送信する第1圧電部221と、圧電材料を備え、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができ、前記被検体からの超音波信号を受信する第2圧電部223とを備え、第1圧電部221は、サイドローブを含む超音波信号を送信する構成とされ、第2圧電部223は、サイドローブを受信しない構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信可能な超音波探触子およびそれを備えた超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、非破壊および無害でその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断等の様々な分野に応用されている。その応用分野の一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内からの超音波の反射波等から生成した受信信号に基づいて当該被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。医療用分野において、超音波診断装置は、他の医療用画像装置に較べて小型で安価であり、そしてX線等の放射線被爆が無く安全性が高いこと、また、ドップラ効果を応用した血流表示が可能であること等の様々な特長を有している。このため、超音波診断装置は、循環器系(例えば心臓の冠動脈等)、消化器系(例えば胃腸等)、内科系(例えば肝臓、膵臓および脾臓等)、泌尿器系(例えば腎臓および膀胱等)および産婦人科系等で広く利用されている。
【0003】
この超音波診断装置は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送受信する超音波探触子を備えている。この超音波探触子は、圧電現象を利用することによって、送信の電気信号に基づいて機械振動して超音波を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる超音波の反射波等を受けて受信の電気信号を生成する複数の圧電素子を備えて構成されている。このような複数の圧電素子を備えるアレイ型超音波探触子を用いて超音波を送受信する超音波診断装置では、超音波信号として所定の方向(方位)に音圧レベルの高い超音波ビームを形成すると、その構造等からメインローブの側方に1または複数のサイドローブが形成され、このサイドローブによる不要輻射の検出によってアーチファクトが生じてしまい、超音波画像の画質が低下するという問題がある。
【0004】
これを防ぐために、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1に開示の超音波プローブ(超音波探触子)は、複数の圧電体が走査方向に配列された圧電体層が電極を介して複数積層された圧電振動子部を有し、前記複数の圧電体層のうち少なくとも1層の圧電体層を構成する圧電体は、圧電材料部と非圧電材料部とが混在する複合圧電体からなり、この複合圧電体を構成する圧電材料部は、所定の重み付けに従った間隔でスライス方向に配置される構成とされる。これにより、超音波プローブの製造性を確保した上で、広帯域の周波数特性、及び高感度特性を有し、さらにサイドローブを低減できる超音波プローブ及び超音波診断装置を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−320415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献1に記載された超音波プローブおよび超音波診断装置は、送信時のサイドローブを抑制することができるが、サイドローブが抑制されると、被検体に送信される超音波のパワーはサイドローブの分だけ減少する。そのため、超音波が被検体に送信されることで生じた、被検体から発せられる超音波のパワーも減少することになる。そのため、被検体から発せられる超音波に含まれる高調波成分も減少する。つまり、超音波プローブにおいて受信できる高調波成分が減少することから、超音波診断装置においては、十分なハーモニックイメージングを実現できないという問題がある。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、受信する超音波における高調波成分は減少させず、かつサイドローブの影響を低減できる超音波探触子およびそれを備えた超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様に係る超音波探触子は、圧電材料を備え、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができ、被検体に対して超音波信号を送信する第1圧電部と、圧電材料を備え、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができ、前記被検体からの超音波信号を受信する第2圧電部とを備え、前記第1圧電部は、サイドローブを含む超音波を送信する構成とされ、前記第2圧電部は、サイドローブを受信しない構成とされている。
【0009】
これにより、被検体へ超音波信号を送信する場合は、サイドローブを含むことから、大きなパワーの超音波信号を送信できる。そのため、送信された超音波信号に基づいて生じ、被検体から来た超音波信号には、比較的大きな高調波成分が含まれる。したがって、高調波成分を用いる、ハーモニックイメージング技術に好適である超音波探触子を実現できる。また、受信においてはサイドローブを受信しない、すなわちメインローブのみを受信するので、サイドローブの影響を受けにくく、アーチファクトが生じにくい。したがって、より鮮明な超音波画像を得ることができる。
【0010】
本発明のサイドローブを含む超音波とは、メインローブの画像化最大信号強度に対して、−40dB以上の信号のサイドローブを含む超音波を言う。
【0011】
また、上述の超音波探触子において、前記第2圧電部は、配列された複数の第2圧電素子を有し、前記第2圧電部が受信する超音波信号の波長をλとし、走査における振り角の1/2をθとした場合に、前記各第2圧電素子間のピッチpは、以下に示す式で表されることが好ましい。
【0012】
【数1】

【0013】
これにより、第2圧電部はサイドローブを受信することがなく、メインローブのみを受信する。そのため、サイドローブの影響を受けにくく、アーチファクトが生じにくい、より鮮明な超音波画像を得ることができる超音波探触子を実現できる。
【0014】
また、上述の超音波探触子において、前記第2圧電素子は有機圧電素子であることが好ましい。
【0015】
このように、第2圧電素子は、比較的広い周波数に亘って受信可能な特性を持つ有機圧電素子であることから、高調波成分を受信することができ、ハーモニックイメージング技術を用いることができる超音波探触子を実現できる。また、複数の有機圧電素子は、シート状の圧電材料の両面に電極を設置することで作製できる。つまり、圧電材料に溝等を形成する等の加工を施す必要がないことから、容易に作製でき、生産効率が高い。
【0016】
また、上述の超音波診断装置において、前記第1圧電部は、配列された複数の第1圧電素子を有し、前記第1圧電部が送信する超音波信号の波長をλとし、走査における振り角の1/2をθとした場合に、前記各第1圧電素子間のピッチpは、以下に示す式で表されることが好ましい。
【0017】
【数2】

【0018】
これにより、第1圧電部はサイドローブが生じるように超音波信号を送信する。そのため、比較的大きなパワーの超音波信号を送信できるので、被検体からの超音波信号のパワーも大きく、ハーモニックイメージング技術に好適である。それにより、より高精度な超音波画像を得ることができる。
【0019】
また、上述の超音波診断装置において、前記第1圧電素子は無機圧電素子であることが好ましい。
【0020】
これにより、第1圧電部から送信される超音波信号のパワーを大きくすることが可能である。そのため、ハーモニックイメージング技術に好適である。
【0021】
また、本発明の他の一態様に係る超音波診断装置は、上述の超音波探触子を備えている。
【0022】
これにより、ハーモニックイメージング技術を用いて、より高精度であり、サイドローブの影響が抑制され、より鮮明な超音波画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、受信する超音波における高調波成分は減少させず、かつサイドローブの影響を低減できる超音波探触子およびそれを備えた超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】本実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0026】
図1は、本実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、本実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、本実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す図である。
【0027】
図1および図2に示すように、超音波診断装置Sは、図示していない生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信すると共に、被検体で反射した超音波の反射波等の被検体から来た超音波を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して超音波を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体内からの超音波に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。なお、この被検体内から来た超音波は、被検体内における音響インピーダンスの不整合によって被検体内で超音波が反射した反射波だけでなく、例えば微小気泡(マイクロバブル)等の超音波造影剤(コントラスト剤)が用いられている場合には、送信された超音波に基づいて超音波造影剤の微小気泡で生成される超音波もある。超音波造影剤では、超音波の照射を受けると、超音波造影剤の微小気泡は、共振もしくは共鳴し、さらに一定の閾値以上の音圧では崩壊、消滅する。超音波造影剤では、微小気泡の共振によって、あるいは微小気泡の崩壊、消失によって、超音波が生じている。
【0028】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像処理部14と、表示部15と、制御部16とを備えて構成されている。
【0029】
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するものであり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0030】
送信部12は、制御部16の制御に従って、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を供給して超音波探触子2に超音波を発生させる回路である。送信部12は、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。また、超音波探触子2は複数の圧電素子を備えて構成されているので、送信部12は、これら複数の圧電素子によって所定方向(所定方位)にメインローブが形成されるように、送信ビームの超音波を被検体内に送信する。具体的には、送信部12は、高圧パルス発生器により生成されるパルスに遅延時間を付与することによって駆動信号を生成する送信ビームフォーマ等を備えることとすればよい。この送信部12で生成された駆動信号は、複数の圧電素子のそれぞれに対し適宜に遅延時間を個別に設定した、パルス状の複数の信号であり、ケーブル3を介して超音波探触子2における複数の圧電素子のそれぞれに供給される。この複数の駆動信号によって超音波探触子2は、各圧電素子から放射された超音波の位相が特定方向(特定方位)あるいは特定のフォーカス点において一致し、その特定方向にメインローブを形成するよう送信ビームの超音波を発生する。この所定方向は、複数の圧電素子によって形成される超音波の送受信面における法線方向を基準(0度)とした角度によって表される。このような電子走査方式には、リニア走査方式、セクタ走査方式、コンベックス走査方式およびラジアル走査方式等がある。
【0031】
受信部13は、制御部16の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する回路であり、この受信信号を画像処理部14へ出力する。受信部13は、例えば、受信信号の伝送損失を補償するために、受信信号を予め設定された所定の増幅率で増幅する増幅器や、この受信信号のうち所定の周波数帯の受信信号を選択するためのフィルタや、増幅器で増幅された受信信号をアナログ信号からディジタル信号へ変換するアナログ−ディジタル変換器等を備えて構成される。そして、超音波探触子2が複数の圧電素子を備えて構成されているので、受信部13は、増幅器で増幅された各出力信号が入力される受信ビームフォーマ等も備えることとすればよい。受信ビームフォーマは、送信時の送信ビームと同様に、受信時もいわゆる整相加算することによって受信ビームを形成する。すなわち、超音波探触子2における複数の圧電素子のそれぞれから出力される複数の出力信号に対し適宜に遅延時間を個別に設定し、これら遅延された複数の出力信号を加算することによって、各出力信号の位相が特定方向(特定方位)あるいは、特定の受信フォーカス点において一致し、その特定方向にメインローブを形成する。
【0032】
画像処理部14は、制御部16の制御に従って、受信部13から出力された、被検体からの超音波に基づいて、例えばハーモニックイメージング技術等を用いて被検体内の内部状態の画像(超音波画像)を生成する回路である。画像処理部14は、例えば、受信部13の出力に基づいて被検体の超音波画像を生成するDSP(Digital Signal Processor)およびDSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路等を備えている。このDSPは、例えば、Bモード処理回路、ドプラ処理回路およびカラーモード処理回路等を備え、Bモード画像、ドプラ画像、およびカラーモード画像の生成が可能とされている。
【0033】
表示部15は、制御部16の制御に従って、画像処理部14で生成された被検体内の内部状態の画像を表示する装置である。表示部15は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0034】
制御部16は、例えば、マイクロプロセッサ等の演算回路、RAM(Random Access Memory)等の記憶回路およびその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14および表示部15を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0035】
超音波探触子(超音波プローブ)2は、無機圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる、複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とを備えている。なお、有機圧電素子は、複数の無機圧電素子のうちの一部または全体に亘って直接または間接的に積層されるシート状とすればよい。
【0036】
超音波探触子2は、例えば、図3に示すように、平板状の音響制動部材21と、この音響制動部材21の一方主面上に積層された圧電部22と、圧電部22上に積層された音響整合層23と、音響整合層23上に積層された音響レンズ24とを備えて構成される。
【0037】
音響制動部材21は、超音波を吸収する材料から構成された平板状の部材であり、圧電部22から音響制動部材21方向へ放射される超音波を吸収するものである。そして、音響制動部材21を貫通するように導線26が形成されている。図示はされていないが、この導線26は圧電部22の各電極と接続されている。そして、導線26はケーブル3と接続されている。
【0038】
圧電部22は、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換するものである。圧電部22は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信の電気信号を超音波信号へ変換してこの超音波信号を送信すると共に、受信した超音波信号を電気信号へ変換してこの電気信号(受信信号)を、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。超音波探触子2が被検体に当てられることによって圧電部22で生成された超音波信号が被検体内へ送信され、被検体内からの超音波信号の反射波等が圧電部22で受信される。
【0039】
圧電部22は、圧電材料を備え、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる第1および第2圧電部221、223を備えている。そして、本実施形態では、第2圧電部223は、超音波の送受信面(音響レンズ24の外部露出面)と第1圧電部221との間に配置されている。つまり、第1および第2圧電部221、223は、互いに積層されている。また、本実施形態では、第1および第2圧電部221、223は、中間層222を介して互いに積層されている。この中間層222は、第1圧電部221と第2圧電部223とを積層し、第1圧電部221と第2圧電部223との音響インピーダンスを整合させるための部材である。このように圧電部22が2層の第1および第2圧電部221、223を備えるので、その一方、例えば第1圧電部221を、超音波を送信する超音波送信部に用いると共に、その他方、例えば第2圧電部223を、超音波を受信する超音波受信部に用いることができる。すなわち、超音波の送受信を別体により行う。このため、超音波送信部の第1圧電部221を送信用により適したものとすることができると共に、超音波受信部の第2圧電部223を受信用により適したものとすることができる。したがって、第1および第2圧電部221、223がそれぞれ超音波送信部および超音波受信部として最適化が可能となり、より高精度な画像を得ることが可能となる。さらに、第1および第2圧電部221、223が積層されているので、超音波探触子の小型化が可能となる。
【0040】
なお、超音波の送受信を別体により行えばよいことから、第1および第2圧電部221、223の配置は、上記積層された配置には限定されない。第1および第2圧電部221、223を互いに近接して配置すべく、例えば、2次元アレイ状に配列された複数の圧電素子を領域ごとに分割して一方領域を第2圧電部223とするとともに他方領域を第1圧電部221とすることによって、第2圧電部223は、略同一平面で第1圧電部221と隣接して並設される構成としてもよい。また、例えば、第1圧電部221の全体に亘って第2圧電部22が積層された構成ではなく、第1圧電部221の一部に亘って第2圧電部22が積層された構成としてもよい。
【0041】
第1圧電部221は、複数の無機圧電素子35を有している。無機圧電素子35は、無機圧電材料から構成される圧電体36における互いに対向する両面にそれぞれ電極37および38を備えている。これら複数の無機圧電素子35は、ライン上に一列に配列されて構成されていてもよいが、互いに所定の間隔を空けて平面視にて線形独立な2方向に、例えば、互いに直交する2方向にm行×n列で配列される2次元アレイ状に音響制動部材21上に配列されて構成されている(m、nは、正の整数である)。そして、隣接する無機圧電素子35間には、音響吸収材25が設置されている。音響吸収材25は、超音波を吸収する材料から構成され、これら複数の無機圧電素子35の相互干渉を低減する。音響吸収材25が設置されていることによって各無機圧電素子35間におけるクロストークの低減が可能となる。
【0042】
第1圧電部221は、被検体からの超音波を受信するように構成されてもよいが、本実施形態における超音波探触子2および超音波診断装置Sでは、超音波を送信するように構成されている。より具体的には、第1圧電部221には、送信部12からケーブル3および導線26を介して電気信号が入力される。この電気信号は、電極37および38に入力される。そして、第1圧電部221の各無機圧電素子35がこの電気信号を超音波信号に変換することによってこの第1圧電部221は超音波を送信する。
【0043】
共通接地電極層30は、導電性の材料から構成され、図示していない配線によって接地されており、そして、第1圧電部221上に積層されることによって各電極37と電気的に接続されている。したがって、共通接地電極層30によって、第1圧電部221の複数の無機圧電素子35における各電極37は接地される。中間層222は、上述のように、第1圧電部221と第2圧電部223とを積層し、かつ第1圧電部221と第2圧電部223との音響インピーダンスを整合させる部材である。
【0044】
また、第2圧電部223は、複数の圧電素子を備えて構成されている。これら複数の圧電素子は、ライン上に一列に配列されて構成されていてもよいが、互いに所定の間隔を空けて平面視にて線形独立な2方向に、例えば、互いに直交する2方向にp行×q列で配列する2次元アレイ状に中間層222上に配列されて構成されている(p、qは、正の整数である)。
【0045】
第2圧電部223は、所定の厚さを持った平板状の有機圧電材料から成る圧電体31と、この圧電体31の一方主面に形成された互いに分離した複数の電極32と、この圧電体31の他方主面に略全面に亘って一様に形成された電極層33とを備えて構成されたシート状の構成を有する。このように複数の電極32が圧電体31の一方主面に形成されることによって、第2圧電部223は、1個の電極32と圧電体31と電極層33とから構成される圧電素子を、電極32の数だけ備えることとなる。そして、これら各圧電素子が個別に動作することができる。このように第2圧電部223における複数の圧電素子は、無機の圧電素子のように個々に分離されている必要がなく、一体的なシート状で構成され、個別に機能させることが可能である。したがって、第2圧電部223の製造工程において、有機圧電材料から成るシート状の平板状体に溝(間隙、隙間、ギャップ、スリット)を形成する必要がなく、その工程が不要であることから、第2圧電部223の製造工程がより単純化され、より少ない工数で第2圧電部223を形成することができる。また、このような有機圧電素子は、一体的なシート状で構成されているので、その複数の圧電素子の各特性は、略均一となり、素子ピッチを含めてばらつきが少なくなり、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。なお、第2圧電部223において、電極層33ではなく、電極32にそれぞれ対応する電極を、電極32に対向して設置することとしてもよい。このような構成であっても、複数の圧電素子を構成することができる。
【0046】
そして、本実施形態では、圧電部22の第1圧電部221は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して電気信号が入力され、この電気信号を超音波信号へ変換し、この変換した超音波信号を中間層222、第2圧電部223、音響整合層23および音響レンズ24を介して被検体へ送信する。そして、圧電部22の第2圧電部223は、超音波が音響レンズ24および音響整合層23を介して被検体から受信され、この受信された超音波信号を電気信号へ変換し、この変換した電気信号を受信信号としてケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。本実施形態では、上述したように第1圧電部221が無機圧電素子であり、送信パワーを比較的簡単な構造で大きくすることが可能となる。ここで、ハーモニックイメージング技術においては、超音波の高調波成分を得るために比較的大きなパワーで基本波の超音波を送信することが必要である。したがって、第1圧電部221を備えた超音波探触子2はハーモニックイメージング技術にとっては好適であり、これにより、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。そして、本実施形態では、上述したように第2圧電部223が有機圧電素子であり、周波数帯域を比較的簡単な構造で広帯域にすることが可能となるため、基本波だけでなく高調波を受信することが可能である。そのため、このような第2圧電部223を備えた超音波探触子2は、高調波の超音波を受信することが必要なハーモニックイメージング技術に好適であり、これにより、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。
【0047】
なお、第2圧電部223が受信する超音波には、超音波が被検体内で反射した反射波だけでなく、例えば微小気泡(マイクロバブル)等の超音波造影剤(コントラスト剤)が用いられている場合には、超音波に基づいて超音波造影剤の微小気泡で生成される超音波も含まれる。
【0048】
ここで、第1圧電部221における無機圧電素子35間のピッチp1は、以下に示す式1で表される値とすることが好ましい。なお、式1において、λは第1圧電部221から送信する超音波の波長であり、θは主ビームを走査する場合の振り角の1/2である。
例えば、90度の範囲内において主ビームの方向を変えて走査する超音波探触子2においては、θは45度である。また、無機圧電素子35は2次元アレイ配置とされているので、2次元アレイ配置における直交する2方向のいずれの方向におけるピッチp1も式1を満たしていることが好ましい。
【0049】
【数3】

【0050】
無機圧電素子35間のピッチp1が式1に示す値とすると、第1圧電部221から送信した超音波において、メインローブ以外にサイドローブも顕著に発生することが知られている(伊東正安、望月剛、超音波診断装置、コロナ社、(2002.8.26))。
【0051】
これにより、第1圧電部221から送信される超音波のパワーを大きくすることができるため、被検体からの反射波等の、超音波探触子2が受信する超音波のパワーも大きくなる。そのため、より高精度の超音波診断が可能となる。また、比較的大きなパワーで基本波を送信できることから、高調波を受信することが可能であり、そのため、ハーモニックイメージング技術に好適である。
【0052】
また、第2圧電部223における有機圧電素子間のピッチp2、すなわち電極32のピッチp2は、以下に示す式2で表される値とすることが好ましい。なお、式2において、λは第2圧電部223が受信する超音波の波長であり、θは主ビームを走査する場合の振り角の1/2である。なお、有機圧電素子は2次元アレイ配置とされているので、2次元アレイ配置における直交する2方向のいずれの方向におけるピッチp2も式2を満たしていることが好ましい。
【0053】
【数4】

【0054】
有機圧電素子間(電極32間)のピッチp2が式2に示す値とすると、第2圧電部223はメインローブのみを受信し、サイドローブをほとんど受信することがないことが知られている。したがって、超音波診断装置Sにおいては、サイドローブをもとに超音波画像を生成することがないため、生成した超音波画像にアーチファクト等が生じることがなく、鮮明な画像を得ることができる。なお、式2における波長λは、用いる高調波の波長としてピッチp2を求めればよい。それにより、高調波成分においても、第2圧電部223はサイドローブを受信することがなく、ハーモニックイメージング技術に好適である。
【0055】
また、上記式1および式2からわかるように、無機圧電素子35間のピッチp1に比べて、電極32間(有機圧電素子間)のピッチp2は小さくなる。したがって、第1圧電素子221の無機圧電素子35と、第2圧電部223の有機圧電素子とはそれぞれ異なるピッチで作製しなければならない。特に、ピッチp2がより小さいほど、サイドローブが抑制された、より高次の高調波成分を受信できる。上述のように、有機圧電素子は、有機圧電材料から成るシート状の平板状体に溝(間隙、隙間、ギャップ、スリット)を形成する必要がないことから、ピッチp2間隔の小さい有機圧電素子であっても容易に作製できる。そのため、第2圧電部223の生産効率は高い。また、ピッチp1は大きいほど好ましいので、溝加工等により無機圧電素子35を作製する場合であっても、容易に作製でき、第1圧電部221も生産効率は高い。また、ピッチp1を大きくすることで、1個の無機圧電素子35のサイズ(大きさ)を大きくすることができ、その送信パワーを大きくすることもできる。また、ピッチp2を小さくすることで、有機圧電素子の個数を多くすることができ、その受信分解能を向上させることもできる。 上述のように、第1圧電部221においてはサイドローブを含む超音波を送信するような構成とし、かつ第2圧電部223においてはサイドローブを受信しないような構成とすることで、比較的大きなパワーで基本波の超音波を送信することができる。それにより、被検体からの大きな高調波成分を得ることができ、ハーモニックイメージング技術に好適であり、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。さらに受信においてはサイドローブの影響を受けにくいため、より鮮明な超音波画像の提供が可能となる。
【0056】
ここで、本実施形態における第1圧電部221および第2圧電部223に用いられる無機圧電材料および有機圧電材料の具体例を説明する。まず、第1圧電部221に用いられる無機圧電材料について説明する。第1圧電部221は、所定の厚さを有する無機圧電材料である圧電体36を備えて構成されており、この圧電体36の厚さは、例えば、送信すべき超音波の周波数や無機圧電材料の種類等によって適宜に設定される。無機圧電材料は、例えば、いわゆるPZT、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等である。本実施形態の第1圧電部221では、これらの無機圧電材料を用いることで、送信パワーを大きくすることが可能である。
【0057】
次に、第2圧電部223に用いられる有機圧電材料について説明する。第2圧電部223は、シート状の有機圧電材料であり、所定の厚さを有する圧電体31を備えている。そして、この圧電体31の厚さは、例えば、受信すべき超音波の周波数や有機圧電材料の種類等によって適宜に設定されるが、例えば、中心周波数8MHzの超音波を受信する場合では、この圧電体31の厚さは、約50μmである。有機圧電材料は、例えば、フッ化ビニリデンの重合体を用いることができる。また例えば、有機圧電材料は、フッ化ビニリデン(VDF)系コポリマを用いることができる。このフッ化ビニリデン系コポリマは、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体(コポリマ)であり、他の単量体としては、3フッ化エチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレン等を用いることができる。フッ化ビニリデン系コポリマは、その共重合比によって厚み方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化するので、例えば、超音波探触子の仕様等に応じて適宜な共重合比が採用される。例えば、フッ化ビニリデン/3フッ化エチレンのコポリマの場合では、フッ化ビニリデンの共重合比は60mol%〜99mol%とすることが好ましく、有機圧電素子を無機圧電素子に積層する複合素子の場合では、フッ化ビニリデンの共重合比は85mol%〜99mol%とすることがより好ましい。また、このような複合素子の場合では、他の単量体は、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレンが好ましい。また例えば、有機圧電材料は、ポリ尿素を用いることができる。このポリ尿素の場合では、蒸着重合法で圧電体を作成することが好ましい。ポリ尿素用のモノマとして、一般式、H2N−R−NH2構造を挙げることができる。ここで、Rは、任意の置換基で置換されてもよいアルキレン基、フェニレン基、2価のヘテロ環基、ヘテロ環基を含んでもよい。ポリ尿素は、尿素誘導体と他の単量体との共重合体であってもよい。好ましいポリ尿素として、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)を用いる芳香族ポリ尿素を挙げることができる。本実施形態の第2圧電部223には、このように、超音波を比較的広い周波数に亘って受信可能な特性を持つ有機圧電材料が用いられている。
【0058】
そして、音響整合層23は、圧電部22の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとる部材である。また、音響レンズ24は、圧電部22から被検体に向けて送信される超音波を収束する部材であり、例えば、図3に示すように、円弧状に膨出した形状とされている。なお、音響整合層23と音響レンズ24とは一体で形成されていてもよい。
【0059】
このような構成の超音波診断装置Sでは、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部16は、超音波探触子2から超音波を送信し、それらに対する被検体からの超音波を得るべく各部を制御する。まず、制御部16の制御によって送信部12で電気信号の送信信号が生成される。この生成された電気信号の送信信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2へ供給される。さらに、この電気信号の送信信号は、超音波探触子2における圧電部22の第1圧電部221へ導線26を介して供給される。この電気信号の送信信号は、例えば、所定の周期で繰り返される電圧パルスである。第1圧電部221の各無機圧電素子35は、この電気信号の送信信号が供給されることによってその厚み方向に伸縮し、この電気信号の送信信号に応じて超音波振動する。この超音波振動によって、第1圧電部221は、超音波を放射する。なお、第1圧電部221から音響制動部材21方向へ放射された超音波は、音響制動部材21によって吸収される。
【0060】
そして、第1圧電部221から中間層222方向へ放射される超音波は、中間層222、第2圧電部223、音響整合層23および音響レンズ24を介して放射される。例えば超音波探触子2が被検体に当接されていると、これによって超音波探触子2から被検体に対して超音波が送信される。なお、超音波探触子2は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
【0061】
この被検体に対して送信された超音波は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波(エコー)となる。また、超音波造影剤(コントラスト剤)が用いられている場合には、超音波に基づいて超音波造影剤の微小気泡で生成される超音波も生じる。これら被検体からの超音波には、送信された超音波の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍等の第2高調波成分、第3高調波成分および第4高調波成分等も含まれる。これら被検体からの超音波は、超音波探触子2で受信される。より具体的には、この反射波の超音波は、音響レンズ24および音響整合層23を介して圧電部22の第2圧電部223で受信され、第2圧電部223の各有機圧電素子により機械的な振動が電気信号に変換されて超音波信号として取り出される。この取り出された電気信号の超音波信号は、導線26およびケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力される。受信部13は、この入力された信号を受信処理し、より具体的には、例えば増幅した後にアナログ信号からディジタル信号へ変換し、画像処理部14へ出力する。
【0062】
画像処理部14は、制御部16の制御によって、受信部13からの信号に基づいて、送信から受信までの時間や受信強度等から被検体内の内部状態の画像(超音波画像)を生成し、表示部15は、制御部16の制御によって、画像処理部14で生成された被検体内の内部状態の画像を表示する。
【0063】
上述したように、本発明の超音波探触子およびそれを備えた超音波診断装置においては、サイドローブを含む大きいパワーの超音波を送信することから、被検体からの超音波のパワーが大きく、高調波成分についても十分受信することができるため、高調波成分を用いるハーモニックイメージング技術に好適である。さらに受信時にはサイドローブの影響を受けにくいことから、アーチファクトも生じにくく、より鮮明な超音波画像を得ることができる。したがって、本発明の超音波探触子およびそれを備えた超音波診断装置は、ハーモニックイメージング技術によって、より高精度な超音波画像の提供が可能であり、かつ、受信におけるサイドローブが抑制されるため、より鮮明な超音波画像の提供が可能である。
【0064】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0065】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
3 ケーブル
11 操作入力部
12 送信部
13 受信部
14 画像処理部
15 表示部
16 制御部
21 音響制動部材
22 圧電部
23 音響整合層
24 音響レンズ
25 音響吸収材
26 導線
30 共通接地電極層
31、36 圧電体
32、37、38 電極
33 電極層
35 無機圧電素子
221 第1圧電部
222 中間層
223 第2圧電部
S 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料を備え、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができ、被検体に対して超音波信号を送信する第1圧電部と、
圧電材料を備え、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができ、前記被検体からの超音波信号を受信する第2圧電部とを備え、
前記第1圧電部は、サイドローブを含む超音波信号を送信する構成とされ、
前記第2圧電部は、サイドローブを受信しない構成とされていることを特徴とする、超音波探触子。
【請求項2】
前記第2圧電部は、配列された複数の第2圧電素子を有し、
前記第2圧電部が受信する超音波信号の波長をλとし、走査における振り角の1/2をθとした場合に、前記各第2圧電素子間のピッチpは、以下に示す式で表されることを特徴とする、請求項1に記載の超音波探触子。
【数5】

【請求項3】
前記第2圧電素子は有機圧電素子であることを特徴とする、請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記第1圧電部は、配列された複数の第1圧電素子を有し、
前記第1圧電部が送信する超音波信号の波長をλとし、走査における振り角の1/2をθとした場合に、前記各第1圧電素子間のピッチpは、以下に示す式で表されることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の超音波探触子。
【数6】

【請求項5】
前記第1圧電素子は無機圧電素子であることを特徴とする、請求項4に記載の超音波探触子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の超音波探触子を備えたことを特徴とする、超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−10794(P2011−10794A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156679(P2009−156679)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】