説明

超音波探触子保持装置

【課題】単純な構造でありながら、超音波探触子を複雑な曲面にも追従させることが可能な超音波探触子保持装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る超音波探触子保持装置は、超音波探触子20と、筒形のゴム状弾性体3と筒形の硬質材2とが軸方向に沿って交互に複数連結されて、内部に流体が充填される中空部材であり、超音波探触子20が被検体の表面に接触するように超音波探触子20を一端で保持する保持部10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子を保持しつつ曲面に追従させる超音波探触子保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子を用いて物体の内部の欠陥を検出する場合、超音波探傷子は、物体の表面に対する角度が維持され、物体表面に常に押し当てられる必要がある。例えば、特許文献1〜3には、超音波探触子を曲面上で走査する技術が開示されている。
【0003】
特許文献1では、三次元スキャナによって被測定体の形状を取得し、超音波探触子を一定角度でかつ一定距離に保つように制御する技術が記載され、特許文献2では、円弧状のガイドレールによって、超音波探触子の姿勢を制御する技術が記載され、特許文献3では、ばねの伸縮によって超音波探触子を上下させ、超音波探触子が被検体を常に押圧する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2553867号公報
【特許文献2】特開平5−107236号公報
【特許文献3】特開平6−331610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1〜3のような従来技術では、いずれも超音波探触子を保持する装置のサイズが大きく、人の片手しか入らないような筒の内部など狭窄部で使用することは困難であった。
【0006】
また、超音波探触子が円筒等の単純な曲面のみでなく、複雑な曲面にも追従するためには、超音波探触子は、走査方向に対して垂直方向である上下方向に移動するだけでなく、走査方向に対して前後左右方向等の全方向に傾くことが必要である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、単純な構造でありながら、超音波探触子を複雑な曲面にも追従させることが可能な超音波探触子保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の超音波探触子保持装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る超音波探触子保持装置は、超音波探触子と、筒形のゴム状弾性体と筒形の硬質材とが軸方向に沿って交互に複数連結されて、内部に流体が充填される中空部材であり、超音波探触子が被検体の表面に接触するように超音波探触子を一端で保持する保持部とを備える。
【0009】
この発明によれば、被検体に発生する内部の欠陥を超音波によって検出する超音波探触子が、保持部の一端にて保持され、超音波探触子による検出時には、超音波探触子は被検体の表面に接触するように保持される。ここで、保持部は、筒形のゴム状弾性体と筒形の硬質材とが軸方向に沿って交互に複数連結された中空部材であって、内部に流体が充填されることから、ゴム状弾性体や流体が、柔軟性を提供し、超音波探触子による検出時において、超音波探触子が曲面に対して追従できる。また、硬質材は、ゴム状弾性体よりも硬質であり、保持部の横倒れを防止したり、保持部が軸方向に伸び過ぎることを防止したりできる。
【0010】
上記発明において、流体を保持部の内部へ供給したり、保持部の内部から排出したりして、保持部の内圧を調整する内圧調整部をさらに備えてもよい。
【0011】
この発明によれば、流体が保持部の内部へ供給されたり、保持部の内部から排出されたりすることで、保持部の内部に充填された流体の圧力を変化させることができる。そのため、曲面の形状に応じて圧力を調整することで、超音波探触子の曲面に対する追従を向上させることができる。
【0012】
上記発明において、被検体の形状を測定する形状測定部をさらに備え、内圧調整部は、測定された形状に基づいて保持部の内圧を調整してもよい。
【0013】
この発明によれば、保持部の内圧を調整する前に、形状測定部が被検体の形状を測定することで、曲面の形状に応じて短時間で圧力を調整することができ、超音波探触子の曲面に対する追従を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
単純な構造でありながら、超音波探触子を複雑な曲面にも追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波探触子保持装置を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態の変形例に係る超音波探触子保持装置を示す側面図である。
【図3】超音波探触子保持装置が曲面に追従している状態を示す側面図である。
【図4】超音波探触子保持装置が伸長した状態を示す側面図である。
【図5】超音波探触子保持装置が収縮した状態を示す側面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る超音波探触子保持装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
超音波探触子保持装置1は、超音波探触子20を保持し、超音波探触子20が測定対象とする被検体の表面を走査するとき、超音波探触子20が被検体の表面形状に追従しながら、常に被検体の表面に接触するように超音波探触子20を押し付ける。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波探触子保持装置1を示す側面図である。また、図2は、本実施形態の変形例に係る超音波探触子保持装置を示す側面図である。超音波探触子20は、フレーム部材5またはフレーム部材25の下部にて、保持部10によって保持される。フレーム部材5またはフレーム部材25を移動することによって、超音波探傷子20が被検体の表面を走査する。
【0019】
図1の例では、形状測定部8,9がフレーム部材5に設けられ、形状測定部8,9によって被検体の表面を予め測定することによって、保持部10の内圧を調整する。図2の例では、図1の例と異なり、形状測定部8,9が設けられていないが、操作者の目視等に基づいて、内圧調整用栓7の開閉によって、保持部10の内圧を調整することができる。
【0020】
超音波探触子20は、例えば直径10mmであり、超音波によって被検体に含まれる内部の欠陥を検出する。ここで、超音波探触子20が検出する欠陥とは、例えば複合材の剥離や金属内部のボイド(気泡)等である。超音波探触子20は、把持部4によって保持部10の一端側に固定される。図中の符号21は、超音波探触子20に接続されたケーブルである。
【0021】
保持部10は、筒形のゴム状弾性体3と筒形の硬質材2とが軸方向に沿って交互に複数連結された中空部材であって、内部に流体、例えば空気等の気体、水または油等の液体が充填される。保持部10は、超音波探触子20が設けられた端部とは反対側の端部において、把持部6によってフレーム部材5,25に固定される。
【0022】
ゴム状弾性体3は、例えばゴム製であり、柔軟性を提供する。すなわち、ゴム状弾性体3の伸縮によって、保持部10全体が伸縮したり、超音波探触子20の接触面を走査方向に対して前後左右方向等の全方向へ傾けたりすることができる。
【0023】
硬質部材2は、例えば塩化ビニルなどのプラスチック製であり、ゴム状弾性体3よりも硬質な材料である。なお、硬質部材2は金属製でもよいが、超音波探傷では接触媒質として水を使用することもあるため、錆びにくい材質が望ましい。
【0024】
硬質部材2は、超音波探触子20の保持部の横倒れを防止したり、保持部が軸方向に伸びすぎることを防止する。すなわち、保持部全体がゴム状弾性体で構成されるとした場合に比べて、保持部10が最大に伸長するときの長さを制限できる。本実施形態では、ゴム状弾性体3の通常時の長さを短くすることで、保持部10の伸長時と収縮時の長さの差を少なくすることができる。このように、ゴム状弾性体3と硬質部材2を交互に配置することで、保持部材10の方向を自在に変化させることができるだけでなく、超音波探触子20を安定して被検体の表面に当接できる。
【0025】
保持部10の柔軟性は、ゴム状弾性体3の素材や厚さ等を変更することで調整できる。また、保持部10の柔軟性は、内部に充填する流体の種類によっても調整される。
【0026】
以上、保持部10によれば、筒形のゴム状弾性体3と硬質部材2から構成され、構造が単純であり、装置全体の小型化を図れる。また、超音波探触子20を適切に曲面に追従させることができる。
【0027】
次に、本実施形態に係る超音波探触子保持装置1の内圧調整について説明する。
保持部10には、流体が充填されるが、この充填量を増減することで、保持部10の内圧を変化させることが可能である。曲面の形状に応じて圧力を調整することで、超音波探触子20の曲面に対する追従を向上させられる。
【0028】
保持部10は、チューブ18を介して、保持部10外部に設けられた流体を収容可能な容器、例えばシリンダー16と接続される。内圧調整用栓7は、例えば保持部10の上面または側面に設けられ、内圧調整用栓7が開放することで流体を供給したり排出したりすることができ、内圧調整用栓7が閉鎖することで保持部10の内圧を一定に保つことができる。
【0029】
図1では、内圧調整部15として、シリンダー16とピストン17の組み合わせを示した。この構成によって、シリンダー16内をピストン17が往復することによって、流体を保持部10に供給したり、保持部10から排出したりすることができ、保持部10の内圧を調整できる。なお、本発明では、内圧調整部15は、シリンダー16とピストン17の組み合わせに限定されず、保持部10における流体の内圧を調整することができれば、他の手段でもよい。
【0030】
超音波探触子20が走査する被検体の表面の曲率が大きいとき、すなわち急な曲がりでは、保持部10の内圧を低く設定して、保持部10を柔らかくする。一方、被検体の表面の曲率が小さいとき、すなわち緩やかな曲がりでは、保持部10の内圧を高く設定して、保持部10を固くする。これにより、被検体の曲面に応じて柔軟性を調整でき、超音波探触子20の曲面に対する追従を向上させることができる。したがって、超音波探触子20が常に被検体へ接触するようになるため、被検体における欠陥の検出精度を向上させられる。
【0031】
図3に、超音波探触子20が曲面に追従している場合の保持部10の状態の一例を示す。このように、各ゴム状弾性体3が伸長または収縮することで保持部10全体がしなやかに屈曲する。その結果、超音波探触子20の被検体40との接触面が傾いて、超音波探触子20を被検体表面に適切に押圧させることができる。
【0032】
また、図4に、保持部10全体が伸長している状態を示す。例えば、フレーム部材25が一定高さで進行しているとき、フレーム部材25と被検体40の距離が長くなったときに保持部10を伸長させることで、超音波探触子20を全面的に被検体40に押圧させることができる。一方、図5に、保持部10全体が収縮している状態を示す。例えば、フレーム部材25が一定高さで進行しているとき、フレーム部材25と被検体40の距離が短くなったときに保持部10を収縮させることで、超音波探触子20を全面的に被検体40に押圧させることができる。
【0033】
上記の通り、本実施形態によれば、被検体の形状に応じて内圧を調整して、保持部10全体の剛性を変化させることによって、超音波探触子20を所定圧で被検体40の表面に押圧できる。
【0034】
次に、本実施形態に係る超音波探触子保持装置1の形状測定について説明する。
超音波探触子保持装置1に形状測定部8,9を設けることで、保持部10の内圧を調整する前に、形状測定部8,9が被検体の形状を測定できる。その結果、曲面の形状に応じて短時間で圧力を調整でき、超音波探触子20の曲面に対する追従を向上させることができる。
【0035】
形状測定部8,9は、超音波探触子保持装置1の走査方向において、保持部10よりも前方に設けられる。例えば、図1の第1の方向に走査しているときは、形状測定部8にて被検体の形状を測定し、第2の方向に走査しているときは、形状測定部9にて被検体の形状を測定する。これにより、形状測定部8,9の測定結果に基づいて、保持部10の内圧を調整できる。
【0036】
形状測定部8,9は、例えば、支柱11と、車輪12と、エンコーダ13からなる。車輪12は、超音波探触子保持装置1の駆動輪を兼ねてもよい。車輪12が被検体の表面に沿って転がり、車輪12と接続された支柱11が表面の形状に応じてフレーム部材5に対して上下する。エンコーダ13は、支柱11の上下移動を検知して、被検体の表面形状を算出する。そして、エンコーダ13は、算出した結果を内圧調整部15へ送り、内圧調整部15はその結果に基づいて保持部10の内圧を調整する。
【0037】
なお、本発明の形状測定部8,9は、上述した例に限定されない。例えば、保持部10よりも前に、被検体の表面形状を測定することができれば、他の構成でもよい。
【0038】
次に、本実施形態に係る超音波探触子保持装置1の動作について説明する。図6は、本実施形態に係る超音波探触子保持装置1の動作を示すフローチャートである。
【0039】
まず、形状測定部8,9によって、被検体の表面形状の曲率を測定する(ステップS1)。このとき、図2に示した変形例のように形状測定部8,9がない場合は、超音波探触子保持装置1とは別途測定した曲率を取得するようにしてもよい。
【0040】
曲率が測定されると、曲率の大小に応じて、ピストン17の駆動を開始する(ステップS2)。そして、曲率が大きく曲面が急である場合は、ピストン17を引いて、保持部10から流体を排出させ、曲率が小さく曲面が緩やかである場合は、ピストン17を押し込んで、保持部10に流体を供給する(ステップS3)。その結果、曲率が大きい場合は、保持部10の内圧が低くなり、曲率が小さい場合は保持部10の内圧が高くなる。したがって、曲面の形状に応じて、保持部10の柔軟性が変化する。
【0041】
その結果、超音波探触子20による検出の際、超音波探触子20を曲面に倣わせながら、被検体の欠陥を検出できる(ステップS4)。なお、上記説明では、形状測定部8,9が被検体の曲率を測定する場合について説明したが、形状測定部8,9は、フレーム部材5と被検体40の間の距離も測定可能である。すなわち、図5に示すようにフレーム部材5と被検体40の間の距離が長いと判断されたときは、内圧が高くなるようにピストン17を駆動し、図6に示すようにフレーム部材と被検体40の間の距離が短いと判断されたときは、内圧が低くなるようにピストン17を駆動する。
【符号の説明】
【0042】
1 超音波探触子保持装置
2 硬質材
3 弾性体
4,6 把持部材
5,25 フレーム部材
7 内圧調整用栓
8 往路用形状測定部
9 復路用形状測定部
10 保持部
11 支柱
12 車輪
13 エンコーダ
15 内圧調整部
16 シリンダー
17 ピストン
18 チューブ
20 超音波探触子
21 ケーブル
40 被検体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子と、
筒形のゴム状弾性体と筒形の硬質材とが軸方向に沿って交互に複数連結されて、内部に流体が充填される中空部材であり、前記超音波探触子が被検体の表面に接触するように前記超音波探触子を一端で保持する保持部と、
を備える超音波探触子保持装置。
【請求項2】
前記流体を前記保持部の内部へ供給したり、前記保持部の内部から排出したりして、前記保持部の内圧を調整する内圧調整部をさらに備える請求項1に記載の超音波探触子保持装置。
【請求項3】
前記被検体の形状を測定する形状測定部をさらに備え、
前記内圧調整部は、測定された前記形状に基づいて前記保持部の内圧を調整する請求項2に記載の超音波探触子保持装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−159299(P2012−159299A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17092(P2011−17092)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】