説明

超音波探触子

【課題】不要物質の浸透による感度低下や故障を防止し、かつ製造工程の短縮化、管理項目の低減により、安価な超音波探触子を提供する。
【解決手段】超音波を送受信する方向に、順に音響レンズ、1〜10層の音響整合層、圧電振動子、バッキング材が接着され積層された超音波探触子において、該音響レンズと接する該音響整合層の表面と該バッキング材を含む該超音波探触子全体に連続して補強層を施し、かつ、該補強層が、ポリウレア樹脂であることを特徴とする超音波探触子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に用いる超音波探触子に関し、更に詳しくは、機械的強度の改善と薬品の滲入防止を図った超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子は薬剤を用いて定期的に滅菌・消毒処理される。音響レンズなどの部材は水蒸気等の透過率が高いので、薬剤に含まれる微粒子化/イオン化した不要な物質が音響レンズから、接着層、音響整合層などの領域を介して圧電素子に到達し、圧電素子の電極を浸食して感度低下や故障を引き起こしてしまう。
【0003】
そこで不要な物質の浸透による圧電素子の感度低下や故障を防ぐために、圧電素子をパリレンでコーティングした超音波探触子(例えば、非特許文献1参照)や圧電素子、音響整合層、バッキング材等の積層体をパリレンでコーティングした超音波探触子(例えば、特許文献1、2参照)が開発された。またパリレンの代わりに、ポリイミドやポリアミド、ポリエステルのようなポリマーフィルムを音響レンズと音響整合層の間に接着した超音波探触子も開発された(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながらパリレンでコーティングした超音波探触子(特許文献1、2に記載のもの)では、パリレン層が気相重合により形成されるため、超音波探触子の緻密な構造にも均一かつ確実に被覆することができるが、パリレンの表面で他の部材との接着する際、パリレン側の表面エネルギーが低いため、汎用されるシリコン系やエポキシ系の接着剤はそのままでは使用できず、パリレン表面をプラズマ処理、コロナ放電処理やプライマー処理が必要であり、製造プロセスが長くなり、管理項目が増えるなど、品質管理の上で煩雑になる。
【0005】
一方でポリイミドやポリアミド、ポリエステルのようなポリマーフィルムを音響レンズと音響整合層の間に接着した超音波探触子(例えば特許文献3に記載のもの)では、低い水蒸気透過性のため、超音波探触子の劣化を抑制できたが、フィルムの取扱性と探触子の製造上の問題により、該フィルムは厚くなり、その結果、超音波振動子から発信された超音波もしくは外部から受信した超音波がフィルム面で反射・減衰するなど音響上問題があった。さらにフィルムの接着のため、少なくとも接着層が界面に生じる。この接着層の厚みが均一にすることも難しく、できるだけ探触子の製造上の管理項目を減らすことが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第331363号明細書
【特許文献2】特開2006−320512号公報
【特許文献3】特開平8−612号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Transactions on Sonics and Ultrasonics,VOL.SU−27,NO.6,November(1980)pp 295 − 303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、不要物質の浸透による感度低下や故障を防止し、かつ製造工程の短縮化、管理項目の低減により、安価な超音波探触子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0010】
1.超音波を送受信する方向に、順に音響レンズ、1〜4層の音響整合層、圧電振動子、バッキング材が接着され積層された超音波探触子において、該音響レンズに最も近い該音響整合層の表面と該バッキング材を含む該超音波探触子全体に連続して補強層を施し、かつ、該補強層が、ポリウレア樹脂であることを特徴とする超音波探触子。
【0011】
2.前記補強層が直接前記音響整合層に接していることを特徴とする前記1に記載の超音波探触子。
【0012】
3.前記補強層が気相重合法で形成されたポリウレア樹脂であることを特徴とする前記1または2に記載の超音波探触子。
【0013】
4.前記ポリウレア樹脂が少なくとも3つ以上の官能基を有するモノマーより形成されたポリウレア樹脂であることを特徴とする前記1または2に記載の超音波探触子。
【0014】
5.前記補強層の膜厚が、0.5〜5.0μmであることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不要物質の浸透による感度低下や故障を防止し、かつ製造工程の短縮化、管理項目の低減により、安価な超音波探触子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の超音波探触子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(超音波探触子)
本発明の超音波探触子の構成を、図を用いて説明する。
【0019】
図1において、超音波探触子1は、被検体と接する面から、音響レンズ2、音響整合層3、圧電振動子4、バッキング層5から構成される。図示していないが、一般に構成要素間はエポキシ系樹脂やシリコーン樹脂等の接着剤層を介して積層されている。このような接着剤で各構成要素が一体化された超音波探触子は、消毒液や滅菌液等による洗浄のために、洗浄液が音響レンズ2を透過し、さらに音響レンズ内部の構成要素および構成要素間の接着層へ侵入し、音響的特性の低下を生じることがしばしばある。一般に、シリコーンからなる音響レンズ2は、洗浄液で使われる薬品(例えば、アルコール、サイデックス、ディスオーパなど)に対して透過性が高い。本発明はこのような、問題を解決するため、図1に示すように、補強層6を有する。
【0020】
音響レンズ2は、超音波探触子1の被検体と接する側に設けられ、圧電振動子4で発生された超音波を、被検体に効率良く入射させる。音響レンズ2は、概ね被検体および音響整合層3の中間の音響インピーダンスを有する軟質の材料、例えばシリコンゴム、ゴム等により形成される。音響レンズ2は、被検体と接する部分で凸型のレンズ形状を有し、被検体に入射される超音波を、撮像断面と直交する厚み方向で収束させる。
【0021】
音響整合層3は、圧電振動子4の送受信が行われる送受信方向である被検体側の板面に装着される。音響整合層3は、圧電振動子4、音響レンズ2の概ね中間の音響インピーダンスを有する。音響整合層3は、透過する超音波の概ね4分の1波長の厚さを被検体の送受信方向に有し、音響インピーダンスの異なる境界面での反射を抑制する。また、図1では、音響整合層が一層の場合を例示したが、2層あるいは多層とすることもできる。
【0022】
音響整合層3は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂に、充填剤として亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン等を入れて成形したもの等から構成される。
【0023】
圧電振動子4は、超音波を発生し、被検体に超音波を入力すると同時に、被検体の内部で反射された超音波エコーを受信する。
【0024】
一般に、圧電振動子4は、膜状の圧電材料からなる層(又は膜)(「圧電膜」、「圧電体膜」、又は「圧電体層」ともいう。)を挟んで一対の電極を配設して構成される。
【0025】
圧電材料としては、有機圧電材料及び無機圧電材料を挙げることができる。無機圧電材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸タンタル酸カリウム[K(Ta,Nb)O]、チタン酸バリウム(BaTiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、又はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)等を用いることができる。尚、PZTはPb(Zr1−nTi)O(0.47≦n≦1)が好ましい。
【0026】
有機圧電材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−3フッ化エチレン(P(VDF−TrFE))のようなPVDF共重合体、ポリシアン化ビニリデン(PVDCN)、シアン化ビニリデン系共重合体あるはナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロンや、芳香族ナイロン、脂環族ナイロン、あるいはポリ乳酸や、ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸、セルロース系誘導体、ポリウレアなどが挙げられる。
【0027】
圧電振動子4は、圧電体膜(層)の両面上又は片面上に電極を形成し、その圧電体膜を分極処理することによって作製されるものである。当該電極は、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などを主体とした電極材料を用いて形成する。
【0028】
電極の形成に際しては、まず、チタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.02〜1.0μmの厚さに形成した後、上記金属元素を主体とする金属及びそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、その他の適当な方法で1〜10μmの厚さに形成する。これらの電極形成はスパッタ法以外でも微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。
【0029】
さらに、圧電体膜の両面に形成した電極間に、所定の電圧を供給し、圧電体膜を分極することで圧電素子が得られる。
【0030】
バッキング材5は、圧電振動子4の音響整合層3が存在する送受信方向と反対の板面に装着される。バッキング材5は、被検体の方向の反対側から発生する超音波を吸収する。
【0031】
バッキング材5、天然ゴム、フェライトゴム、エポキシ樹脂に酸化タングステンや酸化チタン、フェライト等の粉末を入れてプレス成形した材料、塩化ビニル、ポリビニルブチラール(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0032】
好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材料およびまたはエポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は圧電体や圧電体を含むプローブヘッドの形状に応じて、適宜選択することができる。
【0033】
本発明に係る補強層6は、測定前後に洗浄される際、洗浄液が音響レンズ2を透過し、さらに音響レンズ内部構成要素および構成要素間の接着層へ侵入することを防止し、精度の高い測定を可能にする。本発明に係る補強層6は、ポリウレア樹脂からなり、音響レンズ1と、音響整合層3との密着性の向上にも寄与する。これにより製造工程の短縮化、管理項目の低減にも寄与する。本発明に係る補強層の膜厚は、0.5〜5.0μmであることが好ましいが2.0〜4.0μmがより好ましい。
【0034】
ポリウレア樹脂としては、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を重合して得られる化合物を含有していることが好ましい。
【0035】
一般式(1):R−J−X−J−R
式中、J及びJは、それぞれ2価の連結基を表し、同じでも異なっていても良い。Xは極性を持つ2価の基を表し、−CO−、−NHCO−、−COO−、−SONH−、−SO−、−SO−、−SO−、−NHCOO−、−NHCONH−を表す。R及びRは、それぞれ官能基を表し、−NH、又は−NCOを表す。
【0036】
本発明に係る補強層6を構成するポリウレア膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着重合法を採用することができる。
【0037】
蒸着重合法の具体的方法・条件については、特開平7−258370号公報、特開平5−311399号公報、及び特開2006−49418号公報に開示されている方法等が参考となる。
【0038】
蒸着重合法は、通常、1.33×10−2〜1.33×10−3Pa程度の圧力下で二つの蒸発源からそれぞれ二種類のモノマーを蒸発させて被蒸着面上で重合反応を起こさせ、被蒸着面上に重合体薄膜を形成する方法である。蒸着重合法では、上記圧力下で被蒸着面上に到達したモノマー同士をそれぞれのモノマーに固有の蒸気圧によって定まる一定の滞留時間内に反応させる必要がある。この滞留時間は一般的に非常に短いため、それぞれのモノマーは反応性が極めて高いことが望まれる。蒸着重合法によって2種類のモノマーを重付加してポリウレア樹脂組成物を形成する際には、蒸着装置本体のチャンバー内側上部に、被蒸着面を下側に向けて被蒸着基板がセットされる。チャンバー内側下部にはタングステンボードなどの容器が2つあり、それぞれの容器の底部には抵抗加熱器などの加熱手段が付設され、2つの容器にそれぞれ収容された蒸着源を加熱できるようになっている。
【0039】
補強層6を構成する、ポリウレア樹脂の具体例としては、以下の樹脂を挙げることができる。
【0040】
真空中でアミン成分とイソシアナート成分とを別々の蒸発源から蒸発させ、これを探触子表面上で蒸着重合によりポリウレア膜を形成することが好ましい。
【0041】
原料として使用するアミンは、分子内にアミノ基を2つ以上有するポリアミンが好ましく、ジアミンが最も好ましい。ポリアミンとして、例えば、2,7−ジアミノ−9H−フルオレン、3,6−ジアミノアクリジン、アクリフラビン、アクリジンイエロー、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルジフェニルメタン、4−(フェニルジアゼニル)ベンゼン−1,3−ジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,3−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、1,8−ジアミノナフタレン、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,5−ジアミノペンタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、ジエチレン グリコール ビス(3−アミノプロピル)エーテル、m−キシリレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ベンゾグアナミン、2,4−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メチル−1,3,5−トリアジン、6−クロロ−2,4−ジアミノピリミジン、2−クロロ−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0042】
原料として使用するイソシアネートは、分子内にイソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートであれば特に構わないが、アルキルポリイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートが好ましく、アルキルジイソシアネート又は芳香族ジイソシアネートが更に好ましい。アルキルポリイソシアネートは、複数のイソシアネート基が全てアルキル鎖を介して存在している化合物であり、例えば、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジイソシアン酸イソホロン、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0043】
芳香族ポリイソシアネートとは、複数のイソシアネート基が全て芳香族環と直接結合している化合物であり、例えば、9H−フルオレン−2,7−ジイソシアネート、9H−フルオレン−9−オン−2,7−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,3−フェニレン ジイソシアナート、トリレン−2,4−ジイソシアナート、トリレン−2,6−ジイソシアナート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−イソシアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,5−ジイソシアナトナフタレン等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下実施例により本発明を説明するが本発明はこれにより限定されるものではない。
【0045】
実施例1
(超音波探触子10及び11の作製)
超音波探触子10の作製を図1用いて説明する。
【0046】
定法に従って、順にバッキング層5(エポキシ樹脂にシリコンゴムTSE2233U(モーメンティブ社製)とフェライト微粒子を添加し、混練し、硬化させたもの)と、電極がパターンニングされたフレキシブル基板(FPC)(図示せず)と、両側にスパッタ法により電極を付与したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電振動子4と、超音波射出側に音響インピーダンスが2.5×10kg/m・sであるエポキシ樹脂系の音響整合層3を、エポキシ接着剤DP−460(住友3M社製)を用いて、厚さ方向に均一に加圧・加温させて接着した。なお、それぞれの部材を接着する前にはプライマー処理を施し、密着性の向上を図った。
【0047】
次に長手方向に0.15mmピッチでダイシング加工を行った。その後、真空処理室内に前述の超音波探触子を取り付け、蒸発用容器の一方に4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MDA)と、他方に4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を夫々充填し、シャッターを閉じた状態で処理室内の全圧を真空排気系で1.33×10−3Paに設定した。4,4′−ジアミノジフェニルメタンを温度110±2℃に、また、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを温度70±2℃に夫々加熱し、前述の超音波探触子上に蒸着重合を行い、0.5μmまで蒸着を行い、補強層6を設けた。なお原料モノマー4,4′−ジアミノジフェニルメタンおよび4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートは、化学量論的にポリ尿素膜が形成されるように蒸発量の調整によって1:1のモル比で蒸発するようにした。
【0048】
このようにして補強層を設けた後、音響レンズをシリコーン系の接着剤で加圧・加温させて接着し、超音波探触子11を作製した。尚、補強層を設けないで、音響レンズをシリコーン系の接着剤で加圧・加温させて接着した超音波探触子を超音波探触子10とする。
【0049】
(超音波探触子12〜14の作製)
超音波探触子11の作製の際、補強層6の膜厚をそれぞれ、1.0μm、2.0μm及び3.0μmとした以外は超音波探触子11同様な方法で、超音波探触子12、13及び14を作製した。
【0050】
(超音波探触子21〜24の作製)
超音波探触子10を真空処理室に設置し、ポリクロロパラキシリレン(パリレンC:米国ユニオンカーバイト社)を加熱室に充填して150℃に加熱気化させた後、さらに680℃で熱分解させて、真空処理室にて超音波探触子10に蒸着重合を行い、パリレンCの補強層6の膜厚をそれぞれ、0.5μm、1.0μm、2.0μm及び3.0μmとした以外は超音波探触子11同様な方法で、超音波探触子21、22、23及び24を作製した。
【0051】
(評価方法)
評価は薬品による浸透質量変化率と、90度剥離試験による密着強度を測定した。
【0052】
(浸透質量変化率)
具体的には、薬品による浸透質量変化率は、探触子形状での評価は難しいため、音響レンズ材料であるシリコーンゴムシートに、超音波探触子11〜14の補強層と同蒸着条件で表1に示す膜厚を有するポリウレア層を設けた超音波探触子補強層11〜14を作製した。同様に、比較として表1に示す膜厚を有するポリクロロパラキシリレン層を設けた超音波探触子補強層21〜24を作製した。得られた試料を、それぞれ、エタノール(特級グレード:関東化学(株))に1時間浸漬した場合の浸透質量変化を測定し、結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、本発明であるポリウレアの層を設けることで、膜厚が3.0μmあれば、従来のパリレンと同様に薬品の浸透を防ぐことがわかった。
【0055】
(密着強度)
また密着強度の評価も、探触子形状での評価は難しいため、音響整合層の材料であるエポキシ樹脂シートに、超音波探触子14及び24の補強層と同蒸着条件でポリウレア層ポリクロロパラキシリレン層を3.0μmとなるように設け、音響レンズ材料であるシリコーンゴムシートを接着して、超音波探触子補強層13′及び23′を作製した。シリコーンゴムシートおよび保護層に1cm幅に切りこみを入れた後、デジタルフォースゲージZP−20N(イマダ社製)を用いて、シリコーンゴムシートを一定速度で剥離させた時の保護層とシリコーンシートとの密着強度を測定し、結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2から、本発明のポリウレア層では約4倍の密着強度を有することが確認され、従来よりも密着強度が優れていることがわかった。
【0058】
以上、本発明は、薬品などの浸透による感度低下や故障を防止し、かつ密着性に優れているため、パリレンの表面処理をせずとも製造上問題のない密着強度を維持することができ、故障を防止することができる。このため製造工程の短縮化、管理項目の低減により、安価な超音波探触子を提供することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 超音波探触子
2 音響レンズ
3 音響整合層
4 圧電振動子
5 バッキング層
6 補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する方向に、順に音響レンズ、1〜4層の音響整合層、圧電振動子、バッキング材が接着され積層された超音波探触子において、該音響レンズに最も近い該音響整合層の表面と該バッキング材を含む該超音波探触子全体に連続して補強層を施し、かつ、該補強層が、ポリウレア樹脂であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記補強層が直接前記音響整合層に接していることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記補強層が気相重合法で形成されたポリウレア樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記ポリウレア樹脂が少なくとも3つ以上の官能基を有するモノマーより形成されたポリウレア樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記補強層の膜厚が、0.5〜5.0μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波探触子。

【図1】
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