説明

超音波接合の接合品質判別方法

【課題】接合ホーンの変位量の軌跡に基いて、ワークの接合品質を正確に判別することのできる超音波接合の接合品質判別方法を提供する。
【解決手段】重ね合わせたワーク5、6を接合ホーン2で加圧しつつ超音波振動を付与してワーク5、6を超音波接合する接合品質判別方法であって、接合ホーン2の変位量Lの軌跡が、所定の管理範囲Aを通過するか否かによって接合品質の良否を正確に判別している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせたワークを接合ホーンにより加圧しつつ超音波を付与して各ワークを接合する超音波接合の接合品質判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、超音波接合は、作業台上に重ね合わせたワークを載置し、ワークとの接触面にローレットを設けた接合ホーンをセットして、各ワークを接合ホーンにより加圧しながら超音波振動を付与して、初期の超音波振動により各ワーク同士を擦り合せる表面の洗浄・酸化膜を除去し、清浄な面同士を接触させると共に、その後の超音波振動により原子拡散を誘起させてワークが原子結合して接合されるものである。
【0003】
そこで、従来から、超音波接合の接合品質の良否の判別、すなわち、接合強度が所望強度まで達しているか否かの判別は、接合完了時間における接合ホーンの最終変位量を基にその良否を判別していた。
しかしながら、接合完了時の接合ホーンの最終変位量と接合強度との間には一定の法則がなく、つまり、接合完了時間において、接合ホーンの最終変位量が略同じであっても、それぞれの接合強度が相違しており、接合完了時の接合ホーンの最終変位量を接合品質の良否を判定する際の指標にすることができない。
【0004】
また、超音波接合による接合品質判別方法の従来技術として特許文献1には、ワーク間の接合部を含む変位量を検出すると共に、接合初期の所定時点で検出した変位部の変位量に基いて接合品質の良否を判別することが記載されている。
すなわち、この特許文献1の発明では、ワーク間の変位部の変位量Lを、一方のワークに対するホーンのローレットの食込量L1と、他方のワークに対するアングルの食込量L2と、各ワークの接合部の変形量L3との和とし、異常な溶接の場合では、接合初期にローレットと一方のワークとのグリップ力が不足することにより、一方のワークがホーンの超音波振動に追従できず滑りが発生し、該ワークがローレットによって長時間塑性変形され、一方のワークに対するホーンのローレットの食込量L1が増大すると共に変位量Lが増大することに着目して、接合初期の所定時点における変形量Lに基いて接合品質の良否を判別していた。つまり、特許文献1の発明では、ホーンからの超音波振動がワークに正常に伝達されているか否かを判別することにより各ワークの接合品質の良否を判別していた。
【特許文献1】特開平11−10362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、超音波接合において、ワークが接合不良になる要因としては、上述した特許文献1の発明に記載されているような、接合ホーンからワークへの超音波振動の伝達経路に異常が発生したり、または、ワークが作業台上に微小に傾いて載置され、接合ホーンからの超音波振動がワークに偏重して付与されるために、超音波振動が接合ホーンからワークへ正常に伝達されず、図4に示す不良品の軌跡(1)のように、接合初期において、接合ホーンの変位量の立ち上がりが早くなり、その間ワークの沈み込みが十分に成されずに、ワークの接合品質が不良となる。
さらに、超音波振動がワークに正常に伝達された状態であっても接合品質が不良となる場合があり、その要因として、発明者らは、各ワークの接触面に付着する汚れ等により、図4に示す不良品の軌跡(2)のように、接合初期において、接合ホーンの変位量(ワークの沈み込み量)の立ち上がりが遅れ、接合初期の変位量の軌跡がなだらかな軌跡を画くほど接合品質が不良に成り易いことを発見した。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、接合ホーンの変位量の軌跡に基いて、ワークの接合品質を正確に判別することのできる超音波接合の接合品質判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の超音波接合の接合品質判別方法は、接合ホーンの変位量の軌跡が、所定の管理範囲を通過するか否かによって接合品質の良否を判別することを特徴としている。
これにより、超音波接合による接合品質の良否を容易に且つ正確に判別することができる。
なお、本発明の超音波接合の接合品質判別方法の各種態様およびそれらの作用については、以下の(発明の態様)の項において詳しく説明する。
【0008】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。なお、各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付して、必要に応じて他の項を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施の形態等に参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要件を付加した態様も、また、各項の態様から構成要件を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)乃至(3)の各々が、請求項1乃至3の各々に相当する。
【0009】
(1)重ね合わせたワークを接合ホーンで加圧しつつ超音波振動を付与して各ワークを超音波接合する際の接合品質判別方法であって、前記接合ホーンの変位量の軌跡が、所定の管理範囲を通過するか否かによって接合品質の良否を判別することを特徴とする超音波接合の接合品質判別方法。
従って、(1)項の超音波接合の接合品質判別方法では、接合ホーンの変位量の軌跡が、所定の管理範囲を通過するか否かにより、接合良品と、接合ホーンからワークへの超音波振動の伝達不良に起因する接合不良品及び各ワークの接触面に付着した汚れ等に起因する接合不良品とを、正確に判別することができる。
【0010】
(2)前記所定の管理範囲は、接合初期の所定の時間帯において、前記接合ホーンの変位量が所定範囲で設定される管理領域として設定されることを特徴とする(1)項に記載の超音波接合の接合品質判別方法。
(3)前記所定の管理範囲は、接合初期の所定の時間帯において、前記接合ホーンの変位量が所定値で設定される管理幅、あるいは接合初期の所定時間において、前記接合ホーンの変位量が所定範囲で設定される管理幅として設定されることを特徴とする(1)項に記載の超音波接合の接合品質判別方法。
従って、(2)項及び(3)項の超音波接合の接合品質判別方法では、超音波接合装置の種類(超音波振動の伝達方式の違い)やワークの材料等、超音波接合に係る様々な条件に即した管理範囲が設定される。
【0011】
(4)前記接合ホーンの変位量の軌跡が表示されると共に、前記所定の管理範囲が入力されたモニター装置が付設され、該モニター装置によって前記接合ホーンの変位量の軌跡が、前記所定の管理範囲を通過するか否かを判定することを特徴とする(1)〜(3)項のいずれかに記載の超音波接合の接合品質判別方法。
従って、(4)項の超音波接合の接合品質判別方法では、モニター装置に、接合ホーンの変位量の軌跡が表示されると共に、該モニター装置により、接合ホーンの変位量の軌跡が所定の管理範囲を通過するか否かが判定されて、接合品質の良否結果が表示される。
【0012】
(5)重ね合わせたワークを接合ホーンで加圧しつつ超音波振動を付与して各ワークを超音波接合する際の接合品質判別方法であって、前記接合ホーンの変位量の軌跡が接合初期に設定した所定の管理範囲を通過するか否かを判定する第1判定項目と、接合完了の所定時間に前記接合ホーンの変位量が所定値に到達したか否かを判定する第2判定項目との両方の判定項目によって接合品質の良否を判別することを特徴とする超音波接合の接合品質判別方法。
従って、(5)項の超音波接合の接合品質判別方法では、より高い精度で接合品質の良否を判別することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合ホーンの変位量の軌跡に基いて、ワークの接合品質を正確に判別することのできる超音波接合の接合品質判別方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図3に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る超音波接合の接合品質判別方法は、図1に示すように、重ね合わされた、例えば銅製とアルミ製のワーク5、6を、接合ホーン2により一定の圧力で加圧しながら超音波振動を付与して接合する超音波接合の接合品質判別方法であって、接合ホーン2の変位量Lの軌跡に基いて、ワーク5、6の接合品質の良否を正確に判別するものである。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る超音波接合の接合品質判別方法を具現化するための接合品質判別装置1は、超音波接合装置1aの構成部材の一つである接合ホーン2の上下方向の変位量が入力されると共に、ワーク5、6の接合品質を判定するモニター装置3が付設されて構成されている。
接合ホーン2は、その下面にスリップ防止用のローレット2aが形成されており、超音波接合装置1aの図示しない加圧手段及び超音波発振器が連結されている。そして、この接合ホーン2により各ワーク5、6を一定の圧力で加圧しながら、各ワーク5、6に超音波振動を付与して超音波接合している。
【0016】
モニター装置3には表示部4が備えられ、この表示部4に接合ホーン2の変位量Lの軌跡が表示される。また、モニター装置3には、接合品質が良と判定される所定の管理範囲Aが入力されており、接合ホーン2の変位量Lの軌跡が、接合初期に設定した所定の管理範囲Aを通過するか否かによってワーク5、6の接合品質の良否を判別して、その良否結果を表示部4に表示している。なお、ここで言及した接合初期とは、接合開始から、接合完了時間に対して略中間時点までの時間帯をいう。
【0017】
所定の管理範囲Aは、図2に示すように、接合初期の所定の時間帯(t1〜t2)において、接合ホーン2の変位量Lが同じ所定範囲(L1〜L2)で設定された矩形状の管理領域A1で設定されるものである。
また、他の所定の管理範囲Aとして、図3(a)に示すように、接合初期の所定の時間帯(t1〜t2)において、接合ホーン2の変位量Lが所定値(L1)で設定される管理幅A2で設定されるものもあり、同様に、図3(b)に示すように、接合初期の所定時間(t1)において、接合ホーン2の変位量Lが所定範囲(L1〜L2)で設定される管理幅A3で設定されるものもある。
これら図2及び図3に示す管理範囲A1,A2,A3の設定は、超音波接合装置の種類(超音波振動伝達方式の違い等)やワーク5、6の材料等により適宜選択されるものである。
【0018】
なお、接合ホーン2から各ワーク5、6への超音波振動の伝達異常がなく、超音波振動が接合ホーン2から各ワーク5、6へ正常に伝達され、接合ホーン2の変位量Lをワーク5の沈み込み量としてもよい環境であれば、各ワーク5、6の接触面に付着する汚れ等に起因する接合不良(図4に示す不良品の軌跡(2))だけを考慮すればよいので、図3(a)に示す管理幅A2においては、所定の時間帯の起点t1を接合開始時間(0秒)に限りなく近い時間に設定してもよいし、図3(b)に示す管理幅A3においては、接合初期の所定時間t1における接合ホーン2の変位量Lの所定範囲(L1〜L2)の下限値L2を最終変位量L3に限りなく近い値に設定してもよい。
【0019】
次に、本接合品質判別装置1を使用した超音波接合の接合品質判別方法を説明する。
まず、重ね合わせたワーク5、6の上面に接合ホーン2を配置して、図示しない加圧手段により一定の圧力を付与する。続いて、モニター装置3を作動させると共に、図示しない超音波発振器を作動させて各ワーク5、6に超音波振動を付与してワーク5、6の接合を開始する。
【0020】
次に、モニター装置3には、接合ホーン2の変位量Lが随時入力されると共に、モニター装置3の表示部4に接合ホーン2の変位量Lの軌跡が表示される。
そして、接合完了時間になった時点で、接合ホーン2の変位量Lの軌跡が、所定の管理範囲Aを通過していれば当該ワーク5、6の接合品質は良と判定され、一方、当該軌跡が、所定の管理範囲Aを通過していなければ当該ワーク5、6の接合品質は不良と判定されて、その判定結果がモニター装置3の表示部4に表示される。
【0021】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る超音波接合の接合品質判別方法は、超音波接合に関して、接合ホーン2の変位量Lの軌跡で、特に、接合初期の変位量Lの軌跡において、接合品質が不良になる軌跡が二通り(図4に示す不良品の軌跡(1)(2))あり、接合初期に、該二通りの軌跡を避けるような所定の管理範囲Aを設定し、該所定の管理範囲Aに接合ホーン2の変位量Lの軌跡が通過するか否かによってワーク5、6の接合品質の良否を判別している。
つまり、本接合品質判別方法は、接合開始後の時間経過の中で、ある特定のポイントまたは複数のポイントにおける接合ホーン2の変位量Lに基いてワーク5、6の接合品質の良否を判定するものではなく、時間経過に伴う接合ホーン2の変位量Lの軌跡を検出して表示すると共に、該軌跡が所定の管理範囲Aを通過するか否かによって接合品質の良否を判別するものである。
これにより、所定の管理範囲Aを適宜設定することにより、接合部位に即した最適な接合品質を得ることができ、その結果、接合品質を最適化できると共に、その良否を正確に判別することが可能となる。
【0022】
なお、本発明の実施の形態に係る超音波接合の接合品質判別方法では、接合初期に設定した所定の管理範囲Aに接合ホーン2の変位量Lの軌跡が通過するか否かを判定して、接合品質の良否を判別しており、この判別方法で十分であるが、接合初期に設定した所定の管理範囲Aに接合ホーン2の変位量Lの軌跡が通過するか否かを判定する第1判定項目に、さらに、接合完了時の所定時間t3に接合ホーン2の変位量Lが所定の最終変位量L3に到達しているか否かを判定する第2判定項目を追加することにより、さらに精度の高い接合品質の判別を行うことができる。つまり、発生頻度は大変少ないものの、接合ホーン2の変位量Lの軌跡が、接合初期の所定の管理範囲Aを通過したにもかかわらず、接合後期に何らかの事由で超音波振動のワーク5、6への伝達経路に異常が発生して、ワーク5、6の沈み込みが十分に成されず、接合完了時の所定時間t3に接合ホーン2の所定の最終変位量L3に到達できず、接合品質が不良となる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る超音波接合の接合品質判別方法を具現化するための接合品質判別装置の模式図である。
【図2】図2は、管理範囲の一実施例である管理領域を説明するための図である。
【図3】図3は、管理範囲の一実施例である管理幅を説明するための図である。
【図4】図4は、接合不良品の接合ホーンの変位量の軌跡を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
1 接合品質判別装置,2 接合ホーン,3 モニター装置,5、6 ワーク,A 管理範囲,A1 管理領域,A2、A3 管理幅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせたワークを接合ホーンで加圧しつつ超音波振動を付与して各ワークを超音波接合する際の接合品質判別方法であって、
前記接合ホーンの変位量の軌跡が、所定の管理範囲を通過するか否かによって接合品質の良否を判別することを特徴とする超音波接合の接合品質判別方法。
【請求項2】
前記所定の管理範囲は、接合初期の所定の時間帯において、前記接合ホーンの変位量が所定範囲で設定される管理領域として設定されることを特徴とする請求項1に記載の超音波接合の接合品質判別方法。
【請求項3】
前記所定の管理範囲は、接合初期の所定の時間帯において、前記接合ホーンの変位量が所定値で設定される管理幅、あるいは接合初期の所定時間において、前記接合ホーンの変位量が所定範囲で設定される管理幅として設定されることを特徴とする請求項1に記載の超音波接合の接合品質判別方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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