説明

超音波検査装置および超音波検査方法

【課題】受信波の位相反転の有無の判定を適切に行うことで、超音波検査の精度を向上する。
【解決手段】超音波を発生して送信波として検査対象物へ入射し、検査対象物から反射した反射波を受信波として受信する探触子2を備え、受信波を解析することで、検査対象物の内部状態を検査する超音波検査装置において、送信波は、ダンピング性能を持つ複数のピークを備えることで、ピークの前半部分にある立上りピークは、後半部分にあるピークよりも大きな波高値を示し、超音波検査装置の演算部5は、超音波探触子が受信した受信波が持つピークのうち、当該受信波の立上りピークを特定する制御と、送信波の立上りピークの極性と、受信波の立上りピークの極性とを比較する制御と、送信波の立上りピークの極性と、受信波の立上りピークの極性とが異なれば、検査対象物が剥離していると判定する制御と、を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて、IC(Integrated Circuit)チップなどの検査対象物の内部に剥離などが存在するか否かを検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波検査では、プローブを用いて液槽(主として水槽)内に沈めた検査対象物に対し、超音波を送信波として入射するとともに、検査対象物から反射したエコーを受信波として受信する。この受信波を解析することで、検査対象物の内部状態を評価することができる。もし、検査対象物に剥離が存在していれば、その剥離した箇所から強い反射エコーが得られ、かつ入射した送信波の位相に対して受信波の位相は反転する。そこで、超音波検査では、反射エコー強度とこの反転の有無を判定することで、検査対象物の剥離している箇所を特定する処理が実行される。
【0003】
特許文献1には、正のピークの大きさと負のピークの大きさに十分な差を持たせた送信波を用いて、対応する受信波の正のピークと負のピークとの大小関係を比較することで、受信波の位相反転の有無を判定する旨が開示されている。
また、特許文献2には、受信波の正のピークおよび負のピークが含まれる波形の傾きを求めることで、受信波の位相反転の有無を判定する旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−174653号公報
【特許文献2】特開2010−185822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、超音波検査に用いるプローブの特性により、受信波の正のピークおよび負のピークに期待する波形が得られず、受信波の位相反転の有無の判定が困難になる場合がある。例えば、プローブには、正のピークの大きさと負のピークの大きさに十分な差を持たせた送信波の出力が困難なものがある。そのプローブを用いると、受信波の正のピークの大きさと負のピークの大きさは基本的には同程度になってしまい、両者の大小関係を比較できない。
【0006】
また、特許文献2の技術では、検査対象物の内部構造に起因する受信波の波形の乱れなどにより、受信波の正のピークおよび負のピークが変動してしまい、受信波の位相反転の有無の判定が困難になる場合がある。例えば、音響インピーダンスが異なる複数の層を持つICチップを検査するときは、路程の異なる受信波が合成し、所望の傾きを求められないほど波形の乱れた合成波が得られてしまう場合がある。また、剥離した箇所とそうでない正常な箇所との境界、つまり、剥離端部から反射した受信波についても同様である。
【0007】
一般的に、従来の技術では、送信波に含まれるピークが、受信波に含まれる複数のピークのいずれに対応するかを判定することは容易でない。このため、受信波の所望するピークとは別のピークを誤検出してしまい、受信波の位相反転の有無の判定を誤る可能性がある。
【0008】
このような事情に鑑みて、本発明では、受信波の位相反転の有無の判定を適切に行うことで、超音波検査の精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明では、超音波を発生して送信波として検査対象物へ入射し、検査対象物から反射した反射波を受信波として受信する超音波探触子を備え、前記受信波を解析することで、前記検査対象物の内部状態を検査する超音波検査装置において、
前記送信波は、ダンピング性能を持つ複数のピークを備えることで、前記ピークの前半部分にある立上りピークは、後半部分にあるピークよりも大きな波高値を示し、
前記超音波検査装置の制御部は、
前記超音波探触子が受信した受信波が持つピークのうち、当該受信波の立上りピークを特定する制御と、
前記送信波の立上りピークの極性と、前記受信波の立上りピークの極性とを比較する制御と、
前記送信波の立上りピークの極性と、前記受信波の立上りピークの極性とが異なれば、前記検査対象物の内部状態が異常状態であると判定する制御と、を実行する
ことを特徴とする。
詳細は、後記する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、受信波の位相反転の有無の判定を適切に行うことで、超音波検査の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の超音波検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】超音波検査で用いる送信波の波形を示す図である。
【図3】検査対象物に送信波を入射し、それが受信波として反射する様子を示す図である。
【図4】検査対象物に送信波を入射し、それが受信波として反射する他の様子を示す図である。
【図5】ある検査対象物に送信波を入射したときに反射した受信波の実測例を示す図である。
【図6】検査対象物に送信波を入射し、それが受信波として反射する他の様子を示す図である。
【図7A】超音波検査における検査対象物の剥離の有無の判定を行う処理を示すフローチャートである。
【図7B】超音波検査における検査対象物の剥離の有無の判定を行う処理を示すフローチャートである。
【図7C】超音波検査における検査対象物の剥離の有無の判定を行う処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)について説明する。説明の際には、適宜図面を参照する。
【0013】
図1は、本実施形態の超音波検査装置の構成を示すブロック図である。
符号1は超音波を発生する探触子2を有する探傷器であり、符号2は走査機構部3により保持または駆動され、かつ検査対象物上で走査される探触子(プローブ)である。この走査機構部3は機構部コントローラ4によって制御される。
【0014】
探傷器1は、水を媒介にして検査対象物へ向けて超音波を入射させる前記の探触子2を備え、探触子2は前記の通り走査機構部3によって検査対象物の検査部位へ逐次走査される。
【0015】
また探傷器1は、探触子2に超音波を発生させるためのパルス信号9を送信するパルサ(図示せず)と、検査対象物からの超音波の反射波10を受信し、それに応じたRF(Radio Frequency)信号11を発生させ、増幅するレシーバ(図示せず)を備える。
なお、説明の便宜上、探触子2が発生する超音波を「送信波」と称する場合がある。また、探触子2が受信する反射波10またはRF信号11を「受信波」と称する場合がある。
【0016】
探傷器1は探触子2にパルス信号9を送り、探触子2はパルス信号9を超音波に変換して検査対象物に入射する。検査対象物からの反射波10を探触子2が受信し、探傷器1へと送る。探傷器1は反射波10をRF信号11に変換し、演算部(制御部)5へ送る。演算部5は探触子2を用いて検査対象物の適宜部位を走査させるために機構部コントローラ4へ制御信号を送り、機構コントロールを実現する。演算部5→機構部コントローラ4→走査機構部3→探触子2→探傷器1の系統によって探触子2の自動制御(走査)がなされる。
【0017】
演算部5が得たデータ(RF信号11や、前記自動制御に要する信号を含む)は必要に応じてハードディスク(記憶部)6へ蓄積される。また、演算部5はオシロスコープ(表示部)7およびモニタ(表示部)8に接続され、リアルタイムにAスコープ表示またはCスコープ表示を行うことができる。
なお、「Aスコープ表示」とは、オシロスコープ7の横軸に時間をとり、縦軸にRF信号11の波形の振幅(波高値)をとったときのRF信号11の表示である。また、「Cスコープ表示」とは、探触子2を検査対象物に対して縦横にスキャンし、表示画面の横軸に探触子2の移動の横方向(X方向)距離をとり、縦軸に縦方向(Y方向)距離をとったときの、RF信号11の波形の正のピークの最大値または負のピークの最大値の絶対値の階調表示である。Aスコープ表示は、演算部5によりCスコープ表示と同じモニタに表示されることもある。
【0018】
また、演算部5は、ユーザによってキーボード(入力部;ポインティングデバイスなどでもよい)12から入力された指示、例えば、後記する、評価ゲートの指定やRF信号11のピークの選択に応じた処理を実行する。ハードディスク6には、Cスコープ表示するときに、RF信号11の波形(特に、ピークの大きさ)に応じて使用する色が定義されたカラーパレットが記憶されている。色の定義は、具体的には、RYB(Red Yellow Blue)値を用いてRF信号11の波形と対応付ける。
【0019】
また、ハードディスク6には、本実施形態の超音波検査を演算部5が実行するためのプログラム(超音波検査方法を行うためのプログラム)が記憶されている。
【0020】
なお、Cスコープ表示されるRF信号11は、評価ゲートに含まれている成分のみが表示される。評価ゲートは、探傷器1から入力されたRF信号11の成分のうち検査対象物の検査箇所からの反射波10による成分のみを取出してCスコープ表示させるために、そのRF信号11を所定の遅延時間後に所定の時間だけゲートを開き通過させる機能を有している(ゲーティング)。評価ゲートの設定は、例えばキーボード12からの入力に基づいて演算部5によって行われる。または演算部5がRF信号11を解析し自動的に設定してもよい。演算部5には、評価ゲートを生成するゲート回路が搭載されている。ただ、Aスコープ上では常に、正のピークの最大および負のピークの最大が評価ゲート範囲内に含まれていることを確認する必要がある。正のピークの最大と負のピークの最大の片方もしくは両方が評価ゲート範囲内に含まれていなければ、検査対象箇所ではない箇所が正のピークの最大や負のピークの最大と誤認識され、検査対象箇所の評価が正しくできない恐れがあるからである。
【0021】
また、評価ゲートに含まれているRF信号11の最大値からCスコープを得る際には、例えば、RF信号11において正負のピークのうち高い方のレベルを選択しCスコープに反映する。演算部5は、RF信号11において正負のピークを特定するときには、所定の不感時間を設定する。この設定により、相当量の波高値を示すものの不感時間を超えない瞬間的な波形はピークではないとみなし、例えば、Cスコープに反映させないように処理する。
なお、説明の便宜上、RF信号11が持つピークの正負を「極性」と呼び、ピークの極性が正または負である、といった説明をする場合がある。
【0022】
次に、超音波検査において、探触子2が、検査対象物に送信波を入射してから、検査対象物から反射した受信波を受信するまでの過程について説明する。
図2は、超音波検査で用いる送信波の波形を示す図である。図2の送信波は、横軸に時間をとり、縦軸に振幅、つまり波高値をとったときの波形である。横軸にとった時間は、図2中右方向に向かって進行し、縦軸にとった波高値は中央を0として、そこから図2中上に向かう方向は正の極性を示し、下に向かう方向は負の極性を示す。これらの方向については、後記する送信波および受信波の波形についても同様である。
【0023】
送信波は、検査対象物の内部状態の評価、具体的には剥離の有無を判定するのに十分なダンピング性能を備えるものとする。つまり、送信波は、極性の異なるピークが交互に現れ、それらのピークのうち波高値が最大となるピークaが初期段階に現れ、次第に減少していく波形を持つ。超音波検査においては、少なくとも、ピークaの波高値、およびピークaの次に現れ、ピークaとは極性の異なるピークbの波高値は相当量の大きさを示すものとする。「相当量の大きさ」とは、例えば、当該送信波を検査対象物に入射した後反射される受信波において、ピークaおよびピークbに対応するピークを特定できる程度の大きさを意味する。なお、説明の便宜上、ピークaを「送信波の立上りピーク」と称する場合がある。そして、送信波の立上りピークに対応する受信波のピークを「受信波の立上りピーク」と称する場合がある。また、波高値というときは、極性が負のピークについては絶対値を示すものとする。
【0024】
ピークaよりも早いタイミングで、図2中左側に生じるピークは、探傷器1から探触子2にパルス信号9を送信するときにハンチング現象によって生じるピークであり、無視してよい。よって、送信波の立上りピークは、送信波の最初に出現するピークとなる。また、本実施形態では、ピークaの波高値と、ピークbの波高値との間に十分な差を持たせるようにする。例えば、ピークbの波高値は、ピークaの波高値の0.8倍以下とする。しかし、後記する説明により、本実施形態の超音波検査では、ピークaおよびピークbが発生するタイミングが問題となる。よって、例えば、ピークaの波高値およびピークbの波高値は同程度であってもよい。これにより、本実施形態の超音波検査では、使用する探触子2(プローブ)の特性は問わない。
【0025】
図3は、検査対象物に送信波を入射し、それが受信波として反射する様子を示す図である。図3の右側に示す検査対象物は、層1と層2とが接合したICチップである。層1は、音響インピーダンスがZ1となる材質で形成され、層2は、音響インピーダンスがZ2となる材質で形成されている。一般的には、0<Z1<Z2、そしてZ2−Z1<Z1という関係式を満たし、説明の便宜上、本実施形態でもその関係式を満たすとする。
【0026】
層1と層2との接合面である境界部は、その一部が剥離して剥離部が形成されている。剥離部は空気からなる層とみなすことができ、空気の音響インピーダンスはほぼ0であるため、剥離部の音響インピーダンスはほぼ0である。なお、剥離せず、層1と層2とが正常に接合した境界部を「正常境界部」と称する場合がある。
【0027】
図3の左側には、図2で示したものと同等の送信波の波形および、その送信波が検査対象物に入射して反射した受信波の波形が示されている。前記送信波は、検査対象物の剥離部に入射し、前記受信波は、剥離部から反射している。
【0028】
音響インピーダンスは、材質の密度×音速として求められる。超音波は音響インピーダンスの大きい物質から小さい物質に入射し、反射する場合には、反射波の位相が反転する性質を持つ。したがって、送信波が層1から層2に向かって入射する場合、層1と層2との境界部が剥離していなければ、その境界部で反射する受信波は、位相が反転しない。しかし、境界部に形成されている剥離部に送信波が入射すると、剥離部の音響インピーダンスはほぼ0であるため、その剥離部で反射する受信波は、位相が反転する。図3の左側に示した受信波も、送信波に対して位相が反転している。
【0029】
また、受信波の反射強度、つまり波高値は、反射前後の材質の音響インピーダンスの差が大きいほど大きくなる。層1と剥離部との音響インピーダンスの差(Z1−0=Z1)は、層1と層2との音響インピーダンスの差(Z2−Z1)よりも大きい。よって、剥離部から反射した受信波の波高値は、正常境界部から反射したそれよりも大きい。一般的には、剥離部の音響インピーダンスはほぼ0であるため、剥離部から反射した受信波はほぼ全反射している。そのため、正常境界部から反射した受信波は、一般的に、剥離部から反射した受信波と比べて、波高値が小さくなるとともに、波形の乱れは大きい。
【0030】
図4は、検査対象物に送信波を入射し、それが受信波として反射する他の様子を示す図である。図4の右側に示す検査対象物において、図3に示す検査対象物と同じ点については説明を省略する。図3に示す検査対象物と異なる点は、層1と層2との境界部に剥離部は存在しない点、および層2の内部において、層3が存在している点である。層3は、音響インピーダンスがZ3となる材質で形成されている。説明の便宜上、Z2<Z3という関係式を満たすものとする。層2と層3との境界部において、剥離は存在しないものとする。
【0031】
図4の左側には、図2で示したものと同等の送信波の波形および、その送信波が検査対象物に入射して反射した受信波の波形が示されている。前記受信波には、受信波1および受信波2が存在する。受信波1は、正常境界部から反射した受信波であり、送信波と比べると、位相は同じである。
【0032】
受信波2は、送信波が正常境界部を透過し、層3から反射した受信波である。送信波が層2から層3に向かって入射する場合、層2と層3との境界部は剥離していないので、その境界部で反射する受信波は、送信波と比べて位相は同じである。また、受信波2の路程は、受信波1のそれよりも長いので、受信波2の波高値は、一般的には、受信波1のそれよりも小さくなるとともに、受信波1よりも遅れて探触子2に到達する。
【0033】
結果的に、検査対象物から反射し、探触子2が受信する受信波は、主に、受信波1と受信波2とが合成した合成波となる。一般的に、この合成波の波形は合成がない受信波(例:剥離部から全反射した受信波)と比べてかなり乱れている。しかし、この合成波における受信波1と受信波2との合成は、受信波2の遅れのため、受信波1の後半部分で行われる。したがって、合成波の前半部分は、受信波1の前半部分とほぼ同じであり、受信波2の影響を受けない。よって、探触子2が受信する受信波、つまり合成波を解析し、位相の反転の有無を判定するときは、合成波の前半部分に着目するとよい。以下、このあたりに関する説明を含めた説明を、図5を用いて詳細に説明する。
【0034】
図5は、ある検査対象物に送信波を入射したときに反射した受信波の実測例を示す図である。図5の実測例を得るために用いた送信波は、図2に示した送信波とほぼ同じ形状を持つ。図5(a)は、検査対象物の剥離部から反射した受信波の実測例である。図5(b)は、検査対象物の正常境界部から反射した受信波の実測例である。検査対象物は、ICチップであり、シリコン製のモールドに納まった状態で水槽に沈められている。
【0035】
探触子2の特性、超音波検査を行う環境、検査対象物の構造などの要因により、受信波の波形は多少なりとも乱れる。しかし、図5(a)において、剥離部から反射した受信波は、ほぼ全反射をするため、前半部分のピーク(例:A、B、C、D)の波高値は後半部分の波高値よりも相対的に大きくなり、後半部分の波形の乱れは小さくなる。よって、受信波の解析において、剥離部を特定することは比較的容易であるといえる。なお、前記した「波形の乱れ」は、例えば、ダンピング性能を備え、時間とともに波高値が次第に減少する波形を、受信波の波形の理想とし、その理想の波形とのずれをもって評価する。
【0036】
一方、図5(b)において、正常境界部から反射した受信波は、剥離部のように全反射するわけではないので、前半部分のピーク(例:A、B、C、D)の波高値は後半部分の波高値と比べても大差が無い。それに加えて、一般的には、図4に示した層3から反射する受信波2のように遅れて到達する受信波が合成されるので、後半部分の波形の乱れは大きい。しかし、先にも述べたとおり、前半部分のピークは前記合成の影響を受けず、波形の乱れはそれほど大きくならないので、合成波の前半部分に着目して位相の反転の有無を判定することができる。
なお、図5(a)、(b)それぞれに付した符号A、B、C、Dおよび横一直線の破線で示した閾値については、図7を参照するときの説明において後記する。
【0037】
図6は、検査対象物に送信波を入射し、それが受信波として反射する他の様子を示す図である。図6に右側に示す検査対象物は、図3に示す検査対象物と同等である。図6では、送信波が、剥離部と正常境界部との境界、つまり剥離端部に入射して反射した受信波(受信波1、受信波2、受信波3)について図示されている。
【0038】
図6の左側には、図2で示したものと同等の送信波の波形および、その送信波が検査対象物に入射して反射した受信波1、受信波2、受信波3の波形が示されている。受信波1は、剥離部に入射し、ほぼ全反射した受信波であり、位相は反転している。
【0039】
受信波2は、正常境界部から反射した受信波であり、送信波と比べると、位相は同じである。また、全反射しているわけではないので、受信波1と比べると、一般的には波高値は小さい。さらに、受信波1と受信波2は、同じ境界で反射するといえるため、受信波2の路程は、受信波1の路程と同程度となり、受信波2は、受信波1に対して遅れはない。
【0040】
受信波3は、送信波が正常境界部を透過し、層2の内部から反射した受信波である。境界端部の形状、特性などにより、層2の音響インピーダンスが不均一になり、Z2よりも大きくなったり、小さくなったりする場合がある。その結果、たとえ層2の内部に、層2と異なる層が存在しないとしても、送信波が層2の内部で相当量反射する可能性がある。本実施形態では、受信波3の位相は、送信波の位相と同じであるとする。また、受信波3の路程は、受信波2のそれよりも長いので、受信波3の波高値は、一般的には、受信波2のそれよりも小さくなるとともに、受信波2よりも遅れて探触子2に到達する。
【0041】
結果的に、検査対象物から反射し、探触子2が受信する受信波は、主に、受信波1、受信波2、受信波3が合成した合成波となる。既に述べたとおり、受信波の合成は、後半部分で行われるので、受信波1、受信波2、受信波3により生じる合成波の後半部分は、かなり乱れている。また、受信波1と受信波2との間では、遅れがないことに加えて、互いの位相が逆であるため、合成波の前半部分はピークが相殺して、合成波において受信波の立上りピークを特定できない状態になるといえる。よって、ピークを特定できない受信波が受信されたときは、検査対象物の該当する箇所は、剥離端部であると評価できる可能性がある。
【0042】
図3から図6を参照した説明により、検査対象物の剥離の有無を調べるときには、受信波の前半部分に着目すればよいことがわかる。つまり、送信波の立上りピークに対応する受信波の立上りピークを特定し、両ピークの極性を比較すれば、検査対象物が剥離しているか否かを判断することができる。ただし、受信波の波形の乱れが後半にあるとはいえ、受信波の立上りピークを特定することは容易でない。
【0043】
次に、探触子2が受信した受信波を用いて、検査対象物に剥離が存在するか否かを判定する過程について説明する。
図7(図7A、図7Bおよび図7Cの総称)は、超音波検査における検査対象物の剥離の有無の判定を行う処理を示すフローチャートである。この処理の主体は、演算部5である。送信波は、図2に示したものを用いる。図7に示す処理を行うときには、演算部5は、事前に、評価ゲートの設定、および評価ゲートに収まる受信波のピークの特定に要する処理は済んでいるものとする。また、この処理は、受信波として反射した検査対象物の箇所ごとに繰り返し行われ、すべての受信波、つまり検査対象物が占める全範囲から反射した受信波について実行される。なお、図7の説明をする際、適宜、図5を参照する。
【0044】
図7に示す処理が開始すると、まず、ステップS01に進む。
ステップS01において、演算部5は、受信波に存在する極性が正のピークのうち波高値が最大となる正の最大ピークを抽出する。また、受信波に存在する極性が負のピークのうち波高値が最大となる負の最大ピークを抽出する。
図5(a)の剥離部からの受信波においては、「D」と付したピークを正の最大ピークとして抽出し、「A」と付したピークを負の最大ピークとして抽出する。また、図5(b)の正常境界部からの受信波においては、「A」と付したピークを正の最大ピークとして抽出し、「D」と付したピークを負の最大ピークとして抽出する。ステップS01の後、ステップS02に進む。
【0045】
ステップS02において、演算部5は、ステップS01において抽出した正の最大ピーク、負の最大ピークのうち、時間的により先に発生した最大ピークをピークAと特定する。また、他方の最大ピーク、つまりステップS01において抽出した正の最大ピーク、負の最大ピークのうち、ピークAであると特定した最大ピークではないほうの最大ピークをピークDと特定する。ステップS02の処理により、最大の波高値を示すピークAが受信波の立上りピークの候補として選ばれる。
図5(a)においては、「A」と付した負のピークが「D」と付した正のピークよりも先に発生しているので、「A」と付した負のピークを図7における「ピークA」として特定する。そして、「D」と付した正のピークを図7における「ピークD」として特定する。また、図5(b)においては、「A」と付した正のピークが「D」と付した負のピークよりも先に発生しているので、「A」と付した正のピークを図7における「ピークA」として特定する。そして、「D」と付した負のピークを図7における「ピークD」として特定する。ステップS02の後、ステップS03に進む。
【0046】
ステップS03において、演算部5は、特定したピークAの直前のピーク、つまり時間的に1つ前のピークをピークB(前方ピーク)と特定する。既に説明したとおり、ピークを特定するときには、少なくとも不感時間を超えているという条件を満たす波形をピークとして扱う。ピークBを特定するときには、前記条件に加えてピークBの波高値が、ピークAよりも前の時間帯において予め設定した閾値を超えているという条件も満たすか否かによって判定する。しかし、本実施形態では、ステップS03においては前記判定の結果によらず、ピークAの直前のピークをピークBと特定する。もし、ピークBの波高値が閾値よりも小さければ、少なくともピークBが受信波の立上りピークである可能性は極めて低く、ピークBを受信波の立上りピークの候補から除外するように処理する。
【0047】
もし、受信波においてピークAから時間的に遡ったときに、不感時間を超えない瞬間的な波形がある程度の時間帯に亘って続き、その後不感時間を超える波形が出現したときは、その波形をピークBとし、ピークAの直前のピークとみなす。ただし、送信波がダンピング性能を備えているため、受信波も基本的にはダンピング性能を備えており、ピークBの極性は、ピークAの極性とは異なる。
また、ピークAよりも前の時間帯においてピークが存在しないと判定されたときは、ピークBの波高値を0(0%(後記参照))とみなして、ピークBを特定することにする。なお、ピークの開始または終了は、例えば、当該ピークの裾を含む範囲にある波形の波高値の符号が変化したとき、つまり正から負へ、または負から正へ変化したことにより定まる。
【0048】
前記閾値は、例えば、探傷器1が備えるレシーバによりRF信号11を増幅することで設定される波高値に関する尺度において設定する。つまり、RF信号11の増幅により、前記尺度における波高値の最大値が求まり、その最大値を100%とすれば、前記閾値は、例えば、5%と設定する。前記閾値は、一般的には、電気的なノイズであるか否かを判定し、そのノイズを無視するために設定されるが、後記する処理において、ピークBの取り扱いを決定するためにも設定される。前記閾値は、例えば、キーボード12からの入力により設定してもよいし、予めハードディスク6に記憶しておき、必要なときにハードディスク6から読み出すことで設定してもよい。ちなみに、本実施形態では、ピークA、ピークDの波高値はこの閾値を超えているものとする。図5(a)、(b)に示すピークA、ピークDについても同様である。
図5(a)においては、「B」と付した正のピークを図7における「ピークB」として特定する。また、図5(b)においては、「B」と付した負のピークを図7における「ピークB」として特定する。ステップS03の後、ステップS04に進む。
【0049】
ステップS04において、演算部5は、特定したピークBの直前のピーク、つまり時間的に1つ前のピークをピークC(前方ピーク)と特定する。ピークCの特定は、閾値の設定なども含めてピークBの特定(ステップS03参照)に準拠する。ピークCを特定するときには、ピークCの波高値が、ピークBよりも前の時間帯において閾値を超えているという条件を満たすか否かによって判定する。そして、本実施形態では、ステップS04においては前記判定の結果によらず、ピークBの直前のピークをピークCと特定する。ただし、ピークCの波高値が閾値よりも小さければ、少なくともピークCが受信波の立上りピークである可能性は極めて低く、ピークCを受信波の立上りピークの候補から除外するように処理する。また、ピークBを受信波の立上りピークの候補から除外したときは、ピークCの波高値に関係なく、ピークCも受信波の立上りピークの候補から除外する。
【0050】
もし、受信波においてピークBから時間的に遡ったときに、不感時間を超えない瞬間的な波形がある程度の時間帯に亘って続き、その後不感時間を超える波形が出現したときは、その波形をピークCとし、ピークBの直前のピークとみなす。ただし、ピークCの極性は、ピークBの極性とは異なる。
また、ピークBよりも前の時間帯においてピークが存在しないと判定されたときは、ピークCの波高値を0(0%)とみなして、ピークCを特定することにする。
【0051】
図5(a)においては、「C」と付した負のピークを図7における「ピークC」として特定する。また、図5(b)においては、「C」と付した正のピークを図7における「ピークC」として特定する。ステップS04の後、ステップS05に進む。
なお、ステップS03、ステップS04のような処理を行うのは、ピークAは、実は偶然に最大の波高値を示した受信波の後半部分のピークであって、受信波の立上りピークではない可能性があるからである。
【0052】
ステップS05において、演算部5は、ピークBについて、ピークBの波高値をPとしたとき、前記閾値と比較して、

< 閾値

という関係式を満たすか否かを判定する。満たす場合には(ステップS05でYes)、ステップS06に進む。この場合、ピークBはノイズと同程度の小さな波高値を示し、ピークBを受信波の立上りピークの候補から除外する。そして、ステップS04の処理の説明によれば、ピークCも受信波の立上りピークの候補から除外する。よって、ピークAは、受信波の立上りピークであるとみなすことができることを意味する。
一方、前記関係式を満たさない場合には(ステップS05でNo)、ステップS09に進む。この場合、ピークBは有意に大きな波高値を示すため、ピークBが受信波の立上りピークの候補として選ばれることを意味する。ただし、この段階では、ピークAが受信波の立上りピークであるという可能性も残っている。
図5(a)においては、ピークBについては、ステップS05の関係式を満たすので、ピークAを受信波の立上りピークであるとみなし、ステップS06に進む。また、図5(b)においては、ピークBについては、ステップS05の関係式を満たさないので、ピークBを受信波の立上りピークの候補として選び、ステップS09に進む。
【0053】
ステップS06において、演算部5は、ピークAの極性と、図2に示した送信波の立上りピークaの極性は同じであるか否かを判定する。同じである場合には(ステップS06でYes)、ステップS07に進み、同じでない場合には(ステップS07でNo)、ステップS08に進む。
図5(a)においては、図2に示した送信波の立上りピークaの極性は正であり、ピークAの極性は負であるため、ステップS08に進む。
【0054】
ステップS07において、演算部5は、ピークAの極性と、ピークaの極性が同じであるため、位相は反転せず、検査対象物の該当箇所には剥離は存在しないものと処理する。ステップS07の処理により、検査対象物の該当箇所における図7に示す処理全体が終了し、検査対象物の別の箇所において図7に示す処理を開始する。
【0055】
ステップS08において、演算部5は、ピークAの極性と、ピークaの極性が異なるため、位相は反転し、検査対象物の該当箇所には剥離は存在するものと処理する。ステップS08の処理により、検査対象物の該当箇所における図7に示す処理全体が終了し、検査対象物の別の箇所において図7に示す処理を開始する。
図5(a)においては、図2に示した送信波の立上りピークaの極性と、ピークAの極性が異なるため、検査対象物の該当箇所には剥離は存在するものと処理する。
【0056】
ステップS09において、演算部5は、ピークCについて、ピークCの波高値をPとしたとき、前記閾値と比較して、

< 閾値

という関係式を満たすか否かを判定する。満たす場合には(ステップS09でYes)、ステップS10に進む。この場合、ピークCはノイズと同程度の小さな波高値を示し、ピークCを受信波の立上りピークの候補から除外する。
一方、前記関係式を満たさない場合には(ステップS09でNo)、ステップS15に進む。この場合、ピークCは有意に大きな波高値を示すため、ピークCが受信波の立上りピークの候補として選ばれることを意味する。ただし、この段階では、ピークAおよびピークBが受信波の立上りピークであるという可能性も残っている。
図5(b)においては、ピークCについては、ステップS05の関係式を満たさないので、ピークCを受信波の立上りピークの候補として選び、ステップS15に進む。
【0057】
ステップS10において、演算部5は、ピークAの波高値をPとしたとき、ピークAおよびピークBについて、

/P < 0.25(所定値)

という関係式を満たすか否かを判定する。満たす場合には(ステップS10でYes)、ステップS06に進む。この場合、ピークBは、閾値を超えるものの、ピークAとの比較において相当小さな波高値を示すことになるため、ピークAが受信波の立上りピークであるとみなすことができることを意味する。
一方、前記関係式を満たさない場合には(ステップS10でNo)、ステップS11に進む。この場合、ピークBは、ピークAとの比較において相当大きな波高値を示すため、ピークAとの比較だけでは、受信波の立上りピークの判定が不十分であることを意味している。
【0058】
ステップS11において、演算部5は、ピークDの波高値をPとしたとき、ピークDおよびピークBについて、

/P < 0.25(所定値)

という関係式を満たすか否かを判定する。満たす場合には(ステップS11でYes)、ステップS06に進む。この場合、ピークBは、ピークAとの比較において相当大きな波高値を示すものの、ピークDとの比較において相当小さな波高値を示すことになるため、ピークAが受信波の立上りピークであるとみなすことができることを意味する。
一方、前記関係式を満たさない場合には(ステップS11でNo)、ステップS12に進む。この場合、ピークBは、ピークAだけでなくピークDとの比較においても相当大きな波高値を示すため、ピークBが受信波の立上りピークであり、ピークAは、単に、最大の波高値を示した受信波の後半部分のピークであったとみなすことができることを意味する。
【0059】
ステップS12において、演算部5は、ピークBの極性と、図2に示した送信波の立上りピークaの極性は同じであるか否かを判定する。同じである場合には(ステップS12でYes)、ステップS13に進み、同じでない場合には(ステップS12でNo)、ステップS14に進む。
【0060】
ステップS13において、演算部5は、ピークBの極性と、ピークaの極性が同じであるため、位相は反転せず、検査対象物の該当箇所には剥離は存在しないものと処理する。ステップS13の処理により、検査対象物の該当箇所における図7に示す処理全体が終了し、検査対象物の別の箇所において図7に示す処理を開始する。
【0061】
ステップS14において、演算部5は、ピークBの極性と、ピークaの極性が異なるため、位相は反転し、検査対象物の該当箇所には剥離は存在するものと処理する。ステップS14の処理により、検査対象物の該当箇所における図7に示す処理全体が終了し、検査対象物の別の箇所において図7に示す処理を開始する。
【0062】
ステップS15において、演算部5は、ピークA、ピークBおよびピークCについて、

/P > 0.5(所定値) かつ P/P > 0.5(所定値)

という関係式を満たすか否かを判定する。満たす場合には(ステップS15でYes)、ステップS18に進む。この場合、ピークBおよびピークCは、ピークAとの比較において相当大きな波高値を示すとともに、ピークCは、ピークBとの比較においても相当大きな波高値を示す。このため、そのように大きな波高値を示すピークCが受信波の立上りピークであるとみなすことができることを意味する。
一方、前記関係式を満たさない場合には(ステップS15でNo)、ステップS16に進む。この場合、ピークBおよびピークCのどちらかが、ピークAと比較して、相当小さな波高値を示すことになる。しかし、送信波のダンピング性能を考慮すると、ピークCが受信波の立上りピークであると仮定した場合、ピークCに対し、相当大きな波高値を期待するのは当然であるが、ピークCの直後にあるピークBに対しても相当大きな波高値を期待することができる。よって、前記関係式を満たさない場合には、前記仮定が間違いであると判断するのが妥当であり、少なくともピークCは、受信波の立上りピークの候補から除外できることを意味する。
図5(b)においては、ピークBおよびピークCについては、ステップS15の関係式を満たすので、ピークCを受信波の立上りピークであるとみなし、ステップS18に進む。
なお、ステップS15の関係式に用いた比率(本実施形態では0.5)は、ステップS10やステップS11などの関係式に用いた比率(0.25)よりも大きくすることが好ましい。ピークBやピークCは、最大であるピークAほど大きくはないので、ピークBとピークCとの比較において一定以上の信頼性を持たせるためである。なお、前記した比率は、前記信頼性を確保できる範囲内で適宜変更することができる。
【0063】
ステップS16において、演算部5は、ピークA、ピークBおよびピークCについて、

/P > P/P

という関係式を満たすか否かを判定する。満たす場合には(ステップS16でYes)、ステップS06に進む。この場合、ピークA、ピークBおよびピークCにおいて、ピークBの波高値は相対的に小さく、ピークAの波高値は相対的に大きいことを示し、換言すれば、ピークBからピークAへの変化が相当大きいことを示す。よって、相対的に大きな波高値を示すピークAが受信波の立上りピークであるとみなすことができることを意味する。また、ピークCの波高値が相対的に大きい場合も前記関係式を満たすが、この場合、ピークCを受信波の立上りピークとみなすことは妥当ではない。ステップS15の関係式によれば、ピークAやピークCと比較するとピークBの波高値は相当大きいとはいえず、受信波の前半部分のピークに期待する波高値であるとはいえない。よって、受信波は、ピークAから開始し、ピークBよりも前にあるピークCは、偶然に大きな波高値を示したに過ぎない、と解釈することが妥当である。
一方、前記関係式を満たさない場合には(ステップS16でNo)、ステップS17に進む。この場合、ピークA、ピークBおよびピークCにおいて、ピークBの波高値は相対的に大きく、ピークAの波高値は相対的に小さいことを示し、換言すれば、ピークCからピークBへの変化が相当大きいことを示す。よって、相対的に大きな波高値を示すピークBが受信波の立上りピークであるとみなすことができる可能性があることを意味している。しかし、ステップS10の説明と同様、そのように大きな波高値を示すピークBに対し、ピークAやピークCとの比較だけでは、受信波の立上りピークの判定が不十分である。
【0064】
ステップS17において、演算部5は、ピークDおよびピークBについて、

/P < 0.25(所定値)

という関係式を満たすか否かを判定する。満たす場合には(ステップS17でYes)、ステップS06に進む。この場合、ピークBは、ピークAとの比較において相当大きな波高値を示すものの、ピークDとの比較においては相当小さな波高値を示すことになるため、ピークAが受信波の立上りピークであるとみなすことができることを意味する。
一方、前記関係式を満たさない場合には(ステップS17でNo)、ステップS12に進む。この場合、ピークBは、ピークAだけでなくピークDとの比較においても相当大きな波高値を示すため、ピークBが受信波の立上りピークであり、ピークAは、単に、最大の波高値を示した受信波の後半部分のピークであったとみなすことができることを意味する。
【0065】
ステップS18において、演算部5は、ピークCの極性と、図2に示した送信波の立上りピークaの極性は同じであるか否かを判定する。同じである場合には(ステップS18でYes)、ステップS19に進み、同じでない場合には(ステップS18でNo)、ステップS20に進む。
図5(b)においては、図2に示した送信波の立上りピークaの極性は正であり、ピークCの極性は正であるため、ステップS19に進む。
【0066】
ステップS19において、演算部5は、ピークCの極性と、ピークaの極性が同じであるため、位相は反転せず、検査対象物の該当箇所には剥離は存在しないものと処理する。ステップS19の処理により、検査対象物の該当箇所における図7に示す処理全体が終了し、検査対象物の別の箇所において図7に示す処理を開始する。
図5(b)においては、図2に示した送信波の立上りピークaの極性と、ピークCの極性が同じであるため、検査対象物の該当箇所には剥離は存在しないものと処理する。
【0067】
ステップS20において、演算部5は、ピークCの極性と、ピークaの極性が異なるため、位相は反転し、検査対象物の該当箇所には剥離は存在するものと処理する。ステップS20の処理により、検査対象物の該当箇所における図7に示す処理全体が終了し、検査対象物の別の箇所において図7に示す処理を開始する。
【0068】
なお、図7に示す処理に基づいて、検査対象物の剥離の有無の判定に関するシミュレーションを行った。検査員の経験による判定が絶対的に正しいと前提した場合において、本実施形態の判定と、特許文献1や特許文献2などに示す従来の判定とを比較した。その結果、本実施形態の判定結果のほうが、検査員の経験による判定結果と合致する度合いが高く、良好な判定結果が得られることが確認された。
以上で、超音波検査における検査対象物の剥離の有無の判定を行う処理の説明を終える。
【0069】
≪まとめ≫
以上の説明から、本実施形態によれば、受信波の位相反転の有無の判定を適切に行うことで、超音波検査の精度を向上することができる。具体的には、受信波のピークのうち、送信波の立上りピークに対応するピークを的確に特定することができるので、送信波の立上りピークの極性と受信波の立上りピークの極性とを比較して位相の反転の有無を判定することができる。
【0070】
≪その他≫
なお、前記実施形態は、本発明を実施するための最良のものであるが、その実施形式はこれに限定するものではない。したがって、本発明の要旨を変更しない範囲において、その実施形式を種々変形することが可能である。
【0071】
例えば、本実施形態では、検査対象物の内部状態を評価する際に、検査対象物の境界部の剥離の有無を判定した。しかし、剥離の他にも検査対象物内部に存在するクラック、ボイド、および異物混入などといった異常状態の有無の判定も行うことができる。基本的には、クラックやボイドは、空気の層が存在するものと考えることができる。検査対象物内部に混入した異物については、当該異物が持つ音響インピーダンスと、当該異物が混入した箇所周辺の検査対象物の材質が持つ音響インピーダンスとを特定できれば、それらの比較により、超音波の位相の反転の有無を判定することができる。
【0072】
また、本実施形態では、送信波の立上りピークの極性および受信波の立上りピークの極性の比較により、受信波の位相反転の有無を判定するようにした。しかし、特許文献2に示すように、ピークの傾きを求めて受信波の位相反転の有無を判定する方法を併用したり、補助的に用いたりしてもよい。
【0073】
また、本実施形態では、受信波のピークにおいて、最大の波高値を示すわけではないが相当大きな波高値を示すピークが最大ピークよりも前に存在していれば、そのピークを受信波の立上りピークとみなすようにした(図7のステップS10、ステップS15など参照)。しかし、評価ゲートの範囲内において、さらに前に存在し、相当大きな波高値を示すピークを受信波の立上りピークとみなすようにしてもよい。そのようなピークは少なくとも、遅れて受信される受信波との合成による波形の乱れの影響はより小さいといえる。換言すれば、このような場合には、偶然に最大ピークを含む受信波の後半部分を主に捉えるように評価ゲートが設定されている可能性が高いといえる。よって、受信波の前半部分を主に捉えるように評価ゲートを設定し直すことも含め、時間的に遡って受信波のピークを追跡するように処理することが好ましい。
【0074】
また、本実施形態では、図7のフローにおいて、互いに極性が異なる最大ピークであるピークAおよびピークDの両方を用いることで、当該最大ピークよりも早いタイミングで出現したピークBやピークCが受信波の立上りピークであるか否かを判定した(例えば、図7のステップS09〜ステップS11、ステップS15〜ステップS17参照)。このような判定は、様々な条件、手順などで実行することができる。
例えば、ピークDよりも早いタイミングで出現する最大ピークであるピークAのみを用いて、ピークBやピークCが受信波の立上りピークであるか否かを判定することができる。また、ピークAよりも遅いタイミングで出現する最大ピークであるピークDのみを用いて、ピークBやピークCが受信波の立上りピークであるか否かを判定することができる。
図7に示したように、ピークAおよびピークDの両方を用いる場合であっても、最初に、ピークAを用いて、ピークBやピークCに関する判定を行い、その次に、ピークDを用いて、ピークBやピークCに関する判定を行うようにしてもよい。また、最初に、ピークDを用いて、ピークBやピークCに関する判定を行い、その次に、ピークAを用いて、ピークBやピークCに関する判定を行うようにしてもよい。
また、図7のフローでは、主に、各ピークの波高値の比を求めて受信波の立上りピークに関する判定を行った。しかし、これに限らず、各ピークの和、差、積などのように、1以上のピークの波高値について四則演算を組み合わせた関係式を用いて前記判定を行うようにしてもよい。
【0075】
また、本実施形態の超音波検査は、インラインタイプの検査や、スタンドアローンタイプの検査にも適用可能であり、他の検査態様にも適用できる。
【0076】
また、本実施形態においてハードウェアで構成した手段は、ソフトウェアで構成することもでき、ソフトウェアで構成した手段は、ハードウェアで構成することもできる。
また、本実施形態で説明した種々の技術を適宜組み合わせた技術を実現することもできる。
【0077】
その他、ハードウェア、ソフトウェア、各フローチャート等の具体的な構成について、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 探傷器
2 探触子(超音波探触子)
3 走査機構部
4 機構部コントローラ
5 演算部(制御部)
6 ハードディスク(記憶部)
7 オシロスコープ(表示部)
8 モニタ(表示部)
9 パルス信号
10 反射波
11 RF信号
12 キーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発生して送信波として検査対象物へ入射し、検査対象物から反射した反射波を受信波として受信する超音波探触子を備え、前記受信波を解析することで、前記検査対象物の内部状態を検査する超音波検査装置において、
前記送信波は、ダンピング性能を持つ複数のピークを備えることで、前記送信波の前半部分にある立上りピークは、後半部分にあるピークよりも大きな波高値を示し、
前記超音波検査装置の制御部は、
前記超音波探触子が受信した受信波が持つピークのうち、当該受信波の立上りピークを特定する制御と、
前記送信波の立上りピークの極性と、前記受信波の立上りピークの極性とを比較する制御と、
前記送信波の立上りピークの極性と、前記受信波の立上りピークの極性とが異なれば、前記検査対象物の内部状態が異常状態であると判定する制御と、を実行する
ことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項2】
前記超音波検査装置の制御部は、前記受信波の立上りピークを特定する制御において、
前記超音波探触子が受信した受信波が持つピークのうち、極性が正である最大の波高値を持つ正の最大ピーク、および極性が負である最大の波高値を持つ負の最大ピークを特定する制御と、
前記正の最大ピークおよび前記負の最大ピークのいずれかよりも早いタイミングで発生するピークである前方ピークの波高値が閾値を超えるか否かを判定する制御と、
前記前方ピークが前記閾値を超えると判定した場合は、前記前方ピークの波高値と、前記正の最大ピークおよび前記負の最大ピークのうち、より早いタイミングで発生した最大ピークの波高値との比が所定値を超えるか否かを判定することで、前記前方ピークが前記受信波の立上りピークであるか否かを判定する制御と、を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項3】
前記超音波検査装置の制御部は、前記前方ピークが前記閾値を超えると判定した場合において、
さらに、前記前方ピークの波高値と、前記正の最大ピークおよび前記負の最大ピークのうち、より遅いタイミングで発生した最大ピークの波高値との比が所定値を超えるか否かを判定することで、前記前方ピークが前記受信波の立上りピークであるか否かを判定する制御、を実行する
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波検査装置。
【請求項4】
超音波を発生して送信波として検査対象物へ入射し、検査対象物から反射した反射波を受信波として受信する超音波探触子を備え、前記受信波を解析することで、前記検査対象物の内部状態を検査する超音波検査装置における超音波検査方法において、
前記送信波は、ダンピング性能を持つ複数のピークを備えることで、前記送信波の前半部分にある立上りピークは、後半部分にあるピークよりも大きな波高値を示し、
前記超音波検査装置の制御部は、
前記超音波探触子が受信した受信波が持つピークのうち、当該受信波の立上りピークを特定するステップと、
前記送信波の立上りピークの極性と、前記受信波の立上りピークの極性とを比較するステップと、
前記送信波の立上りピークの極性と、前記受信波の立上りピークの極性とが異なれば、前記検査対象物の内部状態が異常状態であると判定するステップと、を実行する
ことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項5】
前記超音波検査装置の制御部は、前記受信波の立上りピークを特定するステップにおいて、
前記超音波探触子が受信した受信波が持つピークのうち、極性が正である最大の波高値を持つ正の最大ピーク、および極性が負である最大の波高値を持つ負の最大ピークを特定するステップと、
前記正の最大ピークおよび前記負の最大ピークのいずれかよりも早いタイミングで発生するピークである前方ピークの波高値が閾値を超えるか否かを判定するステップと、
前記前方ピークが前記閾値を超えると判定した場合は、前記前方ピークの波高値と、前記正の最大ピークおよび前記負の最大ピークのうち、より早いタイミングで発生した最大ピークの波高値との比が所定値を超えるか否かを判定することで、前記前方ピークが前記受信波の立上りピークであるか否かを判定するステップと、を実行する
ことを特徴とする請求項4に記載の超音波検査方法。
【請求項6】
前記超音波検査装置の制御部は、前記前方ピークが前記閾値を超えると判定した場合において、
さらに、前記前方ピークの波高値と、前記正の最大ピークおよび前記負の最大ピークのうち、より遅いタイミングで発生した最大ピークの波高値との比が所定値を超えるか否かを判定することで、前記前方ピークが前記受信波の立上りピークであるか否かを判定するステップ、を実行する
ことを特徴とする請求項5に記載の超音波検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公開番号】特開2012−154877(P2012−154877A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16171(P2011−16171)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】