説明

超音波流体計測装置

【課題】受信時点の特定に対するノイズの影響を回避するとともに、受信信号の周期遷移による誤差を補正して、流量計測の基礎となる超音波の伝搬時間を正確に測定する。
【解決手段】2つのトランスデューサ2a,2bの間での超音波Wtの送受信により被験流体の流量Q等を算出する。受信側のトランスデューサが出力を発生した後、所定の検知許可時刻tga以降の周期の波における受信時点tdaを特定する。各トランスデューサを送信用に設定した場合のそれぞれについて特定した受信時点td1a,td2aをもとに、被験流体に関する音速換算値を第1の音速Cg1として算出する。被験流体の音速を参照上の第2の音速Cg2として測定し、算出したCg1及び測定したCg2をもとに、特定した受信時点tdaの周期誤差を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流体計測装置に関し、詳細には、超音波の受信信号に重畳するノイズの影響によらず、流量演算等の基礎となる超音波の伝搬時間を正確に測定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のトランスデューサを流れの方向にずらして配置し、上流側のトランスデューサから流れに対して順方向に超音波を発射し、これが下流側のトランスデューサにより受信されるまでの第1の伝搬時間を測定するとともに、下流側のトランスデューサから流れに対して逆方向に超音波を発射し、これが上流側のトランスデューサにより受信されるまでの第2の伝搬時間を測定し、測定された各伝搬時間をもとに、被験流体の流量等を算出する流体計測装置が知られている。この超音波流体計測装置では、第1及び第2の伝搬時間を測定する際に、ゼロクロス点と呼ばれる、トランスデューサの出力電圧がゼロレベルを過ぎる時点を特定し、超音波が発射された時点からこのゼロクロス点までの経過時間を測定する。受信側のトランスデューサへの先頭波の到達時点からゼロクロス点までの時間を検知遅れ時間として設定し、測定した経過時間からこの検知遅れ時間を減算して、伝搬時間を算出する。
【0003】
このため、正確な流量等の算出には、ゼロクロス点を正確に特定することが重要となる。被験流体の温度、圧力の変化又はトランスデューサの劣化等に対応してゼロクロス点が特定される超音波流体計測装置として、次のものが知られている。すなわち、前回の計測時に得られた受信信号の最大振幅を検出し、検出した最大振幅に基づいてゼロクロス点を特定する際の判定の基準となる閾値を算出する。受信信号が算出した閾値を超えた直後にゼロレベルを過ぎる時点をゼロクロス点として特定するのである(特許文献1)。被験流体の温度等の変化に対し、受信信号の大きさが相対的に変化するものの、その位相は不変であることから、ゼロクロス点の特定精度を維持することができる。
【特許文献1】特開2002−323361号公報(段落番号0026,0027)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この公知の超音波流体計測装置には、次のような問題がある。すなわち、被験流体として水素ガス等の音響エネルギーの減衰が大きい流体を採用する場合は、受信信号の大きさが減少する一方、これに重畳する電磁ノイズ又は音響ノイズが相対的に大きくなり、ゼロクロス点の正確な特定が困難となることである。水素ガス等を被験流体とする場合は、音響減衰により受信信号自体が小さくなることで、その周期毎の振幅増加量が減少し、ノイズの大きさがこれを上回るからである。このため、先頭波の到達から6周期目の波でゼロクロス点が特定されるように設定した場合を想定すると、重畳したノイズの大きさ次第では、その1つ前の5周期目の波でゼロクロス点が特定されることが考えられる。他方、ノイズの影響緩和を狙いとして、判定閾値を大きめに設定したとすると、受信信号の大きさのばらつき等により、本来の6周期目ではなく、その1つ後の7周期目でゼロクロス点が特定されることが考えられる。このように特定されたゼロクロス点に含まれる誤差は、受信信号の1周期相当分を単位とする大きな計測誤差を来す。水素ガス等の流体は、音速が高いことが一般的に知られているが、このような音速の高い被験流体において、ゼロクロス点に含まれる誤差が流量等の計測精度に及ぼす影響がより顕著となることは、超音波流体計測装置に関する流量等の一般式から容易に理解し得るところである。また、装置自体が小型であり、トランスデューサの間隔が短い場合も、この影響が顕著となる。
【0005】
本発明は、受信時点の特定に対するノイズの影響を回避するとともに、これに関連して生じる場合のある受信信号の周期遷移による誤差を補正することで、超音波の伝搬時間を正確に測定し、被験流体の流量等を高い精度で測定することのできる超音波流体計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、超音波流体計測装置を提供する。本発明に係る装置は、被験流体の測定管を横断させて超音波伝搬線(すなわち、第1の超音波伝搬線)が設定されるとともに、この超音波伝搬線上に設置され、流れに対して順方向に超音波を発射する第1のトランスデューサと、超音波伝搬線上でこの第1のトランスデューサよりも下流に設置され、流れに対して逆方向に超音波を発射する第2のトランスデューサとを含んで構成される。第1のトランスデューサ又は第2のトランスデューサから発射された超音波を受信したトランスデューサが出力を発生した後、所定の検知許可時刻以降の周期の波における受信時点を特定する。第1のトランスデューサから発射された超音波に関して特定した受信時点と、第2のトランスデューサから発射された超音波に関して特定した受信時点とをもとに、被験流体に関する音速換算値を第1の音速として算出する。被験流体の音速を参照上の第2の音速として測定し、算出した第1の音速及び測定した第2の音速をもとに、特定した受信時点の周期誤差を補正する。この周期誤差を補正した受信時点をもとに、被験流体に関する所定の演算を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、受信時点の特定を所定の検知許可時刻以降の周期の波を対象に行うことで、この特定に対するノイズの影響を回避し、受信時点を正確に特定することができる。また、検知許可時刻の採用に伴い、被験流体の音速等の変化により受信信号の位相に大きなずれが生じた場合に、このずれに起因して特定した受信時点に周期誤差が生じることとなるが、第1及び第2の音速に基づいてこの周期誤差を補正し、伝搬時間の測定精度を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
以下の説明において、Lmは、超音波の送受信を行うトランスデューサ(超音波振動子)の間の距離を、Cgは、被験流体の音速を、Vgは、被験流体の流速を、Tgは、被験流体の温度を、Cwは、被験流体の湿度を示す。また、θは、測定管1の中心軸と第1の超音波伝搬線At1とのなす角を示す。
【0009】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波流体計測装置(以下、単に「計測装置」という。)101の構成を示している。本実施形態では、「被験流体」として、水素ガスを採用することとしている。計測装置101を燃料電池のアノード配管に設置することで、燃料ガスとしての水素ガスの流量等を検出することができる。本実施形態では、この場合を想定し、「被験流体」として、特に湿度を持たせた水素ガスを採用する。
【0010】
測定管1は、流量等の計測用通路を形成するものであり、軸方向の各端に形成されたフランジ(図示せず。)により、隣接する配管6(図1には、上流側のもののみを示す。)に接続されている。上流側の配管6には、方向切換弁7が介装されており、測定管1は、方向切換弁7により、配管6と他の配管8とに対して選択的に接続されるように構成されている。他の配管8には、窒素ガスを充填したタンク9が接続されており、タンク9内の窒素ガスを測定管1に流通させることができる。配管6は、図示しない燃料電池のアノード配管に接続されており、配管6を介して所定の湿度を持たせた水素ガスを測定管1に流通させることができる。なお、タンク9内の窒素ガスは、後述する検知遅れ時間trの校正処理に際して校正流体として採用され、他の配管8を介して測定管1に供給される。
【0011】
測定管1は、直線状の中心軸との間に角度θを形成する軸(第1の超音波伝搬軸At1に一致する。)を中心として、流れの方向に関して前後にずれた2箇所で筒状に膨出している。このように形成される一対のトランスデューサケース1a,1bに、第1のトランスデューサ2aと、第2のトランスデューサ2bとが夫々収納されている。
各トランスデューサ2a,2bは、測定用超音波Wtを発生させる振動板を含んで構成され、伝搬時間測定回路3及び流量・濃度演算回路4を含んで構成される計測コントローラ5に接続されている。計測コントローラ5は、各トランスデューサ2a,2bに対し、超音波Wtを発射させるための駆動信号を発生させるとともに、発射された超音波Wtを受信したトランスデューサから出力された受信信号s1,s2を入力する。各トランスデューサ2a,2bは、計測コントローラ5からの駆動信号を受け、第1の超音波伝搬線At1に沿って超音波Wtを発射する。計測コントローラ5は、入力した受信信号s1,s2をもとに、測定管1を流れる被験流体の流量Q及び密度ρを算出し、出力する。密度ρは、被験流体の濃度に相関する。出力された流量Q等は、図示しないモニターに表示されるか、あるいは燃料電池のコントローラに出力され、燃料電池の制御に反映される。
【0012】
また、本実施形態では、第1の超音波伝搬線At1に加え、測定管1の中心軸に対して垂直に第2の超音波伝搬線At2が設定されており、この中心軸を基準とする各側で測定管1を筒状に膨出させて、トランスデューサケース1c,1dが形成されている。この一対のトランスデューサケース1c,1dに、第1及び第2のトランスデューサ1a,1bと同様の構成の第3のトランスデューサ2c及び第4のトランスデューサ2dが夫々収納されている。第3及び第4のトランスデューサ2c,2dは、後述する周期補正量Nの調整処理に際して参照として採用される「第2の音速(Cg2)」を測定するためのものである。第3及び第4のトランスデューサ2c,2dは、第1及び第2のトランスデューサ2a,2bと同様に、計測コントローラ5からの駆動信号を受け、第2の超音波伝搬線At2に沿って超音波Wtを発射する。発射された超音波Wtを受信したトランスデューサにより、計測コントローラ5に対して受信信号s3,s4が出力される。
【0013】
ここで、計測装置101による流量Q及び密度ρの検出原理について、図2を参照して説明する。
図2は、超音波の送信波Wt及び受信波Wr1,Wr2を示している。第1のトランスデューサ2aから流れに対して順方向に超音波Wtを発射した場合に得られる受信波をWr1とし、第2のトランスデューサ2bから流れに対して逆方向に超音波Wtを発射した場合に得られる受信波をWr2とする。超音波Wtが発射された後、受信信号s1,s2が所定のレベルVthに達した後の時点(ここでは、その後の最初の立ち下がりのゼロクロス点)を受信時点td1a,td2aとして特定し、受信側のトランスデューサにより先頭の超音波(以下「先頭波」という。)が受信されてから受信時点td1a,td2aが特定されるまでの時間を検知遅れ時間tr1,tr2とし、超音波Wtが発射されてから先頭波が受信側のトランスデューサに到達するまでの時間を伝搬時間t1,t2とする。既述の通り被験流体の音速及び流速、超音波Wtの伝搬距離をCg,Vg,Lmとすると、超音波Wtを順方向に発射したときと、逆方向に発射したときとで、これらの時刻tda及び時間tr,tの間には、下式(1)及び(2)の関係が成り立つ。なお、本実施形態では、所定のレベルVthによる受信時点tdaの特定に代え、受信波Wrの振幅が信号処理上充分な大きさを持つに至る時刻をトランスデューサの特性に基づいて設定し、これを「検知許可時刻」として、検知許可時刻tga(図4)後のゼロクロス点を特定することとしている。
【0014】
td1=t1+tr1
=Lm/(Cg+Vg×cosθ)+tr1 ・・・(1)
td2=t2+tr2
=Lm/(Cg−Vg×cosθ)+tr2 ・・・(2)
流量Qを検出する場合は、(1)及び(2)式をもとに、流速Vgに関する次式(3)を得る。
【0015】
Vg={Lm/(2×cosθ)}×{1/(td1−tr1)−1/(td2−tr2)} ・・・(3)
(3)式により算出した流速Vgを次式(4)に代入し、流量Qを算出する。なお、測定管1の断面積をAとし、測定管1における流速分布係数をKとする。
Q=Vg×A×K ・・・(4)
他方、密度ρを検出する場合は、次式(5)により音速Cgを算出する。
【0016】
Cg=(Lm/2)×{1/(td1−tr1)+1/(td2−tr2)} ・・・(5)
(5)式により算出した音速Cgを次式(6)に代入し、密度ρを算出する。なお、比熱比をγとし、ガス定数をRとし、温度をTとする。
ρ=γ×{R×T/(22.4×Cg)} ・・・(6)
本実施形態では、超音波伝搬線At(すなわち、第1の超音波伝搬線At1)を直線状に設定し、一対のトランスデューサ2a,2bを、中心軸を基準とした測定管1の各側に配置している。しかしながら、このような配置に限らず、超音波伝搬線Atを測定管1の内壁上で屈曲させて設定することで、双方のトランスデューサ2a,2bを測定管1の片側のみに配置してもよい。
【0017】
図3は、計測コントローラ5の構成をブロック毎に示している。計測コントローラ5の構成について、図4に示すタイムチャートを参照しつつ、図3により説明する。
本実施形態では、計測コントローラ5に対し、超音波Wtの発射後、検知許可時刻tga前における受信時点tdaの特定を禁止する機能を持たせ、受信波Wrに重畳したノイズにより誤った受信時点が特定されるのを回避することとしている。また、濃度等の変化により被験流体の音速に変化が生じた場合に、特定した受信時点tdaに含まれる周期誤差を補正する機能を持たせ、受信時点tdaの変化に後述する「折り返し」が生じた場合に、この折り返しによる伝搬時間tの測定誤差を解消することとしている。なお、この折り返しは、音速の変化に限らず、被験流体の流量の変化によっても生じる場合があるが、ここでは、音速の変化により代表して説明する。
【0018】
方向切替スイッチ3aは、第1及び第2のトランスデューサ2a,2bのうち一方(たとえば、トランスデューサ2b)を送信用に設定するとともに、他方(2a)を受信用に設定する。
送信駆動部3bは、送信用に選択されたトランスデューサ2bに対する駆動信号を発生させる。発生した駆動信号は、方向切替スイッチ3aを介してトランスデューサ2bに出力され、このトランスデューサ2bから超音波Wtが発射される(時刻t0)。送信駆動部3bは、駆動信号の発生と同時に、受信制御部3c及び受信時間測定部3fに対し、計時開始信号startを出力する。
【0019】
受信制御部3cは、次の受信検知部3eに対し、超音波Wtの発射(すなわち、startの入力)から所定の検知許可時刻tgaに至るまでの間、受信時点tdaの特定を禁止する受信制御信号Sgを出力する。Sgは、この禁止期間tgに亘りLoレベルに設定され、禁止期間tgの経過に伴いHiレベルに切り換えられる。SgがLoレベルに設定されている間、受信検知部3eによる受信時点tdaの特定が禁止され、SgがHiレベルに切り換えられることで、この特定が許可される。tgの長さは、禁止期間設定部3dにより設定される。本実施形態では、禁止期間設定部3dは、tgとして、超音波Wtの発射後、受信信号s(=s1)が重畳するノイズに対して充分な大きさを持つに至るまでの長さに相当する所定の値を保持する。
【0020】
受信検知部3eは、方向切替スイッチ3aにより受信用に選択されたトランスデューサ2aから受信信号sを入力する。受信検知部3eは、受信制御部3cから入力した受信制御信号Sgが禁止の解除を示すHiレベルに切り換えられるまで、受信信号sを矩形信号Sbに変換しつつ、受信時点tdaの特定を留保する。SgがHiレベルに切り換えられた後、最初に得られた矩形信号Sb(=P6)の立ち上がり点C1(又は立ち下がり点)を受信時点tda(=td2a)として特定するとともに、特定した受信時点tdaにおいて、受信時間測定部3fに対し、計時終了信号stopを出力する。
【0021】
受信時間測定部3fは、計時開始信号startの入力によりタイマーを作動させるとともに、計時終了信号stopの入力によりこのタイマーを停止させ、計時結果の時間td(=td2)を受信時間として伝搬時間算出部3g(及び後述する検知遅れ時間算出部3h、補正量算出部3i、音速算出部3j)に出力する。
伝搬時間算出部3gは、受信時間td、検知遅れ時間tr(=tr2)及び周期補正量Nをもとに、下式(7)により伝搬時間t(=t2)を算出するとともに、算出したtをこの伝搬時間測定回路3の演算結果として流量・濃度演算回路4に出力する。trは、後述する校正処理に従い検知遅れ時間算出部3hにより算出され、Nは、被験流体の音速の変化に起因する受信時点tdaの周期誤差を補正するためのものとして、補正量算出部3iにより算出される。なお、受信波Wr(=Wr2)の周期をtpとする。
【0022】
t=td−tr−tc
=td−tr−N×tp ・・・(7)
検知遅れ時間算出部3hは、校正処理により、測定管1に音速Cgcalが既知の校正流体(ここでは、窒素ガス)を充填した状態で超音波Wtを発射した場合に得られる受信時間tdcalをもとに、既知の音速Cgcalに基づいて得られる伝搬時間tcalをこのtdcalから減算することで、検知遅れ時間trを算出する。検知遅れ時間算出部3hは、算出したtrを保持する。音速Cgcalは、乾燥状態での音速Cg0を校正流体の実際の温度Tg及び湿度Cw等により補正して算出することができる。この校正処理は、校正流体の流れのない状態で行うのが好ましい。
【0023】
tr=tdcal−tcal ・・・(8)
tcal=Lm1/Cgcal ・・・(9)
また、検知遅れ時間trの算出は、下式(10)又は(11)により簡単に行うこととしてもよい。すなわち、矩形信号Sbの立ち上がり点C1を受信時点tdaとして特定する場合のtrは、(10)式により、受信波Wrの周期tpに整数nを乗算することにより与えられる。他方、矩形信号Sbの立ち下がり点を受信時点tdaとして特定する場合のtrは、(11)式により、Wrの半周期tp/2に整数mを乗算することにより与えられる。たとえば、図4に示す例において、先頭波S1から6周期目の波S6の立ち上がり点Cを受信時点tda(=td2a)として特定する場合のtrは、(10)式によりtr=5×tpとして与えられる。
【0024】
tr=n×tp ・・・(10)
tr=m×tp/2 ・・・(11)
補正量算出部3iは、校正時を基準とした被験流体の音速Cgの変化に対する補正量として周期補正量Nを算出し、算出したNを伝搬時間算出部3gに出力する。本実施形態では、Nは、受信時点tdaの「折り返し」に対する基本補正量Nを、「第2の音速」Cg2を参照して得られる音速調整量ΔNにより補正して算出する。ΔNは、後述する調整量算出部3lにより算出される。
【0025】
N=N+ΔN ・・・(12)
音速算出部3jは、第3又は第4のトランスデューサ2c,2dのうち一方(ここでは、トランスデューサ2c)を送信用に設定して超音波Wtを発射した場合に以上と同様にして得られる受信時間tdを入力し、下式(13)及び(14)により第2の音速Cg2を算出する。音速算出部3jは、算出したCg2を誤差判定部3kに出力する。なお、(14)式において、trとして検知遅れ時間算出部3hにより保持されるtrが、Nとして補正量算出部3iにより前回の計測時に算出された周期補正量Nが採用される。また、本実施形態では、第2の超音波伝搬線At2が測定管1の中心軸に対して垂直に設定されており、超音波Wtの伝搬方向により受信時間tdに差が生じないため、(13)式の1つにより音速Cg2を算出することとしている。しかしながら、At2は、中心軸に対して傾斜させて設定することもでき、この場合は、第3及び第4のトランスデューサ2c,2dから超音波Wtを発射した場合の各受信時間td3,td4をもとに、下式(15)により音速Cg2を算出する。
【0026】
Cg2=Lm2/t ・・・(13)
t=td−tr−N×tp ・・・(14)
Cg2=(Lm2/2)×(1/t3+1/t4) ・・・(15)
誤差判定部3kは、第2の音速Cg2と「第1の音速」Cg1とを比較し、被験流体の音速に、受信波Wr(=Wr2)の位相に1周期を超えるずれを与えるだけの変化が生じたか否かを判定する。本実施形態では、この判定として、Cg1,Cg2の差の絶対値ABS(=|Cg1−Cg2|)が所定の値(=Cth)を超えるか否かを判定し、その判定結果を、Cg1,Cg2の各値とともに調整量算出部3lに出力する。音速Cg1は、伝搬時間算出部3gにより算出された伝搬時間t1,t2に基づいて下式(16)により算出され、音速記憶部3nに保持されており、この判定に際して誤差判定部3kに入力される。
【0027】
Cg1=(Lm1/2)×(1/t1+1/t2) ・・・(16)
調整量算出部3lは、差の絶対値ABSが所定の値Cthを超える場合に、この差(=Cg1−Cg2)の極性に応じた音速調整量ΔNを算出する。本実施形態では、補正量算出部3iにより、受信時点tdaの変化の折り返しに対する基本補正量Nを算出することとするが、このNによる周期誤差の補正は、性質上、1回の計測の間に、受信波Wrの位相に1周期を超える(すなわち、2周期以上の)ずれが生じた場合に対応することができない(この点について、更に後述する。)。本実施形態に係る音速調整量ΔNは、この1周期を超える分のずれを調整し、折り返しの検出漏れを補償するものである。調整量算出部3lは、算出したΔNを補正量算出部3iに出力する。
【0028】
流量・濃度演算回路4は、伝搬時間t(=t1,t2)をもとに、(3)〜(6)式により被験流体の流量Q及び密度ρを算出する。流量・濃度演算回路4は、誤差判定部3kによる差の絶対値ABSが所定の値Cthを超えるとの判定後、音速調整量ΔNによる補正によりABSがCth以下となるまでの間、この判定前に算出した流量Q等を保持し、出力対象のデバイスに提供する。たとえば、燃料電池のコントローラに出力する場合に、誤った流量Qの出力を防止し、制御を安定させるためである。
【0029】
ここで、周期補正量Nによる周期誤差の補正について、更に説明する。
図5は、計測時において、被験流体の濃度を増大させたときの受信波Wrの位相の変化、及び信号処理の動作を示している。前回の計測で得られた受信波Wrを点線で、今回の計測で得られた受信波Wr’を実線で示している。濃度の増大により被験流体の音速Cgが上昇することで、受信波Wrの位相が早まり、超音波Wtの伝播時間tが短縮されている。
【0030】
受信波Wrのうち、先頭波S1から4周期目の波S4を対象とし、受信時点tdaとして、その波S4の減少方向のゼロクロス点Fを採用する場合について説明する。前回の計測では、受信制御信号Sgは、この4番目の周期において、ゼロクロス点Fに至る前にHiレベルに切り換えられており、受信時点tdaの特定が許可されている。矩形信号Sbは、この特定の許可に伴いHiレベルに遷移し、その直後の立ち下がり点IでLoレベルに遷移している。このため、矩形信号Sbのうち、最初の立ち下がり点Iを検出することで、正確な受信時点tdaを特定することができる。他方、今回の計測では、被験流体の音速Cgが上昇したことで、受信波Wrの位相が前回の計測時におけるよりも早まっている。このため、受信制御信号Sgによる制約がないとすれば、音速Cgの上昇に応じ、特定される受信時点tdaも早まることとなる。しかしながら、このCgの変化が大きく、SgがHiレベルに切り換えられる時点tgaが本来のゼロクロス点F’よりも遅くなったとすると、このF’後に受信時点tdaの特定が許可されるため、次の5周期目の波S5に対応する矩形信号P5の立ち下がり点J’により受信時点tdbが特定されることとなり、特定されたtdbには、受信波Wrの1周期相当の誤差(=tc)が含まれることとなる。このように特定された受信時点tdaが本来の方向とは逆に変化することを、受信時点tdaの「折り返し」という。
【0031】
補正量算出部3iは、この折り返しを次のように検出し、受信時点tdaの周期誤差を補正する。すなわち、補正量算出部3iに対し、受信制御信号SgがHiレベルに切り換えられる時点(「検知許可時刻」に相当する。)tgaを始期として、受信波Wrの1周期相当の長さ(=tp)を持たせた折返検出期間(=tga〜tga+tp)が設定されるとともに、この折返検出期間が3つに等分され、区間毎に対応させた検出判定値a=1〜3が設定されている。tgaから受信時点tdaまでの時間tmを算出するとともに、算出したtmに基づいてtdaがこの3つの区間のいずれにあるかを判定し、検出判定値aを算出する。本実施形態では、tgaから遅い区間に対する検出判定値aほど大きな値に設定されている。音速Cgの上昇により受信波Wrの位相が早まる場合に、仮に折り返しが生じないとすれば、Cgの上昇に伴い検出判定値aは減少するはずであるから、今回の計測時と前回の計測時とで検出判定値aの差(=a−an−1:nは、計測の順を示す。)を算出すれば、この差は、1以下の値として与えられることとなる。このため、算出した差が2であるときは、受信時点tdaの変化に折り返しが生じたと判定することができ、かつこの差の極性(=+,−)をもとに、折り返しの方向を判断することもできる。なお、折返検出期間を分割する数は、3に限らず、想定される音速Cgの変化の大きさに応じ、適宜に設定することができる。
【0032】
図5の説明から明らかなように、この折り返しの検出による補正の方法では、1回の計測の間に、受信波Wrの位相に1周期を超える(すなわち、2周期以上の)ずれが生じた場合に対応することができない。受信時点tdaの変化に2回以上の折り返しが生じた場合は、先の1回の折り返しは、検出漏れとしてカウントされないからである。調整量算出部3lは、第1及び第2の音速Cg1,Cg2をもとに、この1周期超過分のずれ(又は検出漏れ)を解消するための音速調整量ΔNを算出する。
【0033】
次に、計測コントローラ5の動作をフローチャートにより説明する。
図6は、計測制御に関する基本ルーチンのフローチャートである。なお、この基本ルーチン及び後述する補正量調整ルーチンによる超音波Wtの送受信及び流量Q等の演算は、時分割により行われる(図8)。計測コントローラ5は、計測装置101に対する電源の投入後、基本ルーチンを所定の時間毎に実行する。計測の開始に際し、計測コントローラ5は、検知遅れ時間trとして仮の値を設定する。
【0034】
S101では、トランスデューサ2a,2bの間で超音波Wtの伝搬方向を切り換えるとともに、トランスデューサ2c,2dの間で超音波Wtの伝搬方向を設定する。本実施形態では、第2の超音波伝搬線At2が測定管1の中心軸に対して垂直に設定されているので、トランスデューサ2cを常に送信用として、トランスデューサ2dを常に受信用として採用する。
【0035】
S102では、トランスデューサ2a〜2dのうち送信用に選択したものから超音波Wtを発射させるとともに、タイマーをスタートさせ、受信時間tdの測定を開始する。
S103では、禁止期間tgが経過したか否かを判定する。経過したときは、S104へ進み、経過していないときは、tgが経過するまで、このステップの処理を繰り返す。
S104では、矩形信号Sgの立ち上がり点又は立ち下がり点により受信時点tdaを特定し、超音波Wtの発射時点t0から特定したtdaまでの経過時間を受信時間tdとして測定する。
【0036】
S105では、校正時であるか、又は計測時であるかを判定する。校正時であるときは、S106へ進み、計測時であるときは、S109へ進む。校正時には、測定管1に校正流体である窒素ガスを充填し、計測時には、測定管1に被験流体である水素ガスを流通させる。
S106では、(9)式により、校正流体(音速Cgcalが既知である。)を媒体とした超音波Wtの伝搬時間tcalを算出する。
【0037】
S107では、測定したtd(=tdcal)及び算出したtcalをもとに、(8)式により検知遅れ時間trを算出する。算出したtrは、検知遅れ時間算出部3hに記憶する。
S108では、周期補正量Nを0に設定する。
S109では、受信時点tdaの変化の折り返しを検出し、その折り返しの方向、すなわち、検出判定値aの差(=a−an−1)の値及びその極性に応じて周期補正量Nに1を加算し、又はNから1を減算する。すなわち、被験流体の濃度が上昇し、音速Cgが上昇する場合は、この差が1以上であるときにNに1を加算し、受信時点tdaの特定に受信波Wrの1周期相当の遅れが生じたことを記憶する。他方、Cgが低下する場合は、この差が−1以下であるときにNから1を減算し、tdaの特定にWrの1周期相当の進みが生じたことを記憶する。結果、このNは、校正時に得られた基準となる受信波Wrに対し、計測時に得られたWrに何周期相当の位相のずれが生じたかを示すことになる。なお、このステップで算出されるNは、周期補正量Nの「基本値」を与えるものである。
【0038】
S110では、S109で算出したNに後述する補正量調整ルーチンで算出される音速調整量ΔNを加算する。
N=N+ΔN ・・・(17)
S111では、受信時間td、検知遅れ時間tr及び(ΔNによる補正後の)周期補正量Nをもとに、(7)式により伝搬時間t(=t1,t2)を算出する。
【0039】
S112では、調整実行フラグFLGが0であるか否かを判定する。0であるときは、S113へ進み、0でないときは、このルーチンを終了する。このFLGは、補正量調整ルーチンで0又は1に設定されるものである。音速調整量ΔNによる周期誤差の補正が行われている間、FLGが1に設定され、次のS113の処理による流量Q等の演算が禁止される。このため、燃料電池の制御は、このΔNによる補正の開始前に算出された流量Q等に基づいて行われる。
【0040】
S113では、算出したtをもとに、(3)〜(6)式により被験流体の流量Q及び濃度ρを算出する。
図7は、補正量調整ルーチンのフローチャートである。
S111aでは、第1の音速Cg1を読み込む。Cg1は、トランスデューサ2a,2bの間での超音波Wtの送受信毎に、伝搬時間t1,t2に基づいて(16)式により算出され、音速記憶部3nに記憶されている。
【0041】
S111bでは、第2の音速Cg2を算出する。Cg2は、トランスデューサ2cを送信用に選択した場合に得られる伝搬時間t(=t3)をもとに、(13)式により算出される。
S111cでは、読み込んだCg1と算出したCg2との差の絶対値ABS(=|Cg1−Cg2|)が所定の値Cthよりも大きいか否かを判定する。Cthよりも大きいときは、S111dへ進み、Cth以下であるときは、S111hへ進む。
【0042】
S111dでは、受信波Wrの位相に1周期を超えるずれが生じた(言い換えれば、1回以上の折り返しの未検出があった)として、調整実行フラグFLGを1に設定し、この1周期超過分のずれを解消するための処理を行う。
S111eでは、第1の音速Cg1が第2の音速Cg2よりも大きいか否かを判定する。Cg2よりも大きいときは、S111fへ進み、Cg2以下であるときは、S111gへ進む。
【0043】
S111fでは、実際の値よりも高い音速Cgのもとで伝搬時間t1,t2が測定されたことになるので、音速調整量ΔNを−1に設定し、受信時点tdaが早まる方向の周期誤差を調整する。
S111gでは、実際の値よりも低いCgのもとでt1,t2が測定されたことになるので、ΔNを1に設定し、tdaが遅れる方向の周期誤差を調整する。
【0044】
S111hでは、Wrの位相に1周期を超える大きなずれは生じていない、又はそのような大きなずれのΔNによる調整が終了したとして、調整実行フラグFLGを0に設定する。
S111iでは、ΔNを0に設定する。
本実施形態に関し、図3に示す受信検知部3cが「受信時点特定手段」に、音速記憶部3nが「音速算出手段」に、音速算出部3jが「音速測定手段」に、補正量算出部3i、誤差判定部3k及び調整量算出部3lが「周期誤差補正手段」に(このうち、補正量算出部3iが「基本補正量算出手段」に、調整量算出部3lが「音速調整量算出手段」に相当する。)、流量・濃度演算回路4が「演算手段」及び「出力保持手段」に相当する。
【0045】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
すなわち、本実施形態では、超音波Wtの発射後、検知許可時刻tgaを終期とする所定の禁止期間tgが経過するまでの間、受信時点tdaの特定を禁止し、このtgの経過後の波を対象にtdaの特定を許可することとしたので、この特定に対するノイズの影響を回避し、tdaを正確に特定することができる。また、禁止期間tgの採用に伴い、被験流体の音速Cgの変化により受信波Wrの位相に1周期を超える大きなずれが生じた場合に、音速調整量ΔNによりこのずれに起因するtdaの周期誤差を補正し、伝搬時間t1,t2の測定精度を維持することができる。
【0046】
また、音速調整量ΔNの算出に関し、流量計測用のものとは別に調整用のトランスデューサ2c,2dを採用し、かつこのトランスデューサ2c,2dを、トランスデューサ2a,2bの間の距離Lm1よりも短い距離Lm2で設置したので、1周期超過分のずれを的確に解消することができる。
更に、2つの音速Cg1,Cg2の差の絶対値ABSが所定の値Cthよりも大きいときにのみ、音速調整量ΔNによる調整を行うこととしたので、頻繁な調整による流量演算等への悪影響を回避することができる。
【0047】
更に、ΔNによる調整が終了するまでの間、計測装置101の出力としてこの調整の開始前に算出された流量Q等を保持することとしたので、流量Q等を基礎情報とする制御又は動作(燃料電池の制御、モニターの表示)を安定させることができる。
なお、ここでは、周期補正量として無次元数Nを採用し、音速調整量ΔNによりこのNを1ずつ増減させて受信時点tdaの周期誤差を補正することとしたが、周期補正量は、Nに限らず、時間tcとして定めることもできる。この場合は、Cg1及びCg2の差の絶対値ABS(=|Cg1−Cg2|)と所定の値Cthとの比較の結果に応じ(図7のS111c)、次式(18)により受信波Wrの周期tpをtcから減算し、又はこれをtcに加算すればよい。補正後のtcは、(7)式に代入され、伝搬時間tの算出に反映される。
【0048】
ABS>Cth、かつCg1>Cg2;
tc=tc−tp
ABS>Cth、かつCg1≦Cg2;
tc=tc+tp ・・・(18)
以下に、本発明の他の実施形態について説明する。
【0049】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る計測コントローラ5の構成をブロック毎に示している。計測コントローラ5以外の計測装置101の構成は、第1の実施形態のものと同様である。本実施形態では、周期誤差の補正を、禁止期間tg(又は検知許可時刻tga)を変更することにより行う。すなわち、受信波Wrの周期遷移による誤差を補正するため、以上では、周期補正量Nにより検知遅れ時間tr(又は受信時点tda)を補正することとしたが((7)式)、ここでは、このNによりtgを延長又は短縮する。このため、先頭波S1の到達時刻から受信時点tdaまでの時間が一定となり、伝搬時間tを算出する下式(19)において、trの補正のための時間tcは、登場しない。
【0050】
t=td−tr ・・・(19)
計測コントローラ5は、図9に示す構成を有し、図6に示す基本ルーチンに従い計測制御を実行する。図9において、方向切替スイッチ3aにより2つのトランスデューサ2a,2bのうちから送信用のトランスデューサが選択され、超音波Wtが発射される。受信用に選択されたトランスデューサから出力された受信信号sは、受信検知部3eに入力され、矩形信号Sbに変換される。変換されたSbは、受信時間測定部3fに出力され、これに基づいて禁止期間tgが経過した後の受信時点tdaが特定される。特定されたtdaは、伝搬時間算出部3gに出力され、伝搬時間tの算出に用いられる。流量・濃度演算回路4は、算出されたtに基づいて被験流体の流量Q及び濃度ρを算出する。
【0051】
他方、補正量算出部3iは、第1の実施形態におけると同様に、折返検出期間(=tga〜tga+tp)における受信時点tdaの変化の履歴をもとに、tdaの折り返しを検出して、周期補正量Nを算出する(図6のS109)が、算出したNを禁止期間設定部3dに出力する。周期補正量Nが校正時を基準とした被験流体の音速Cgの変化に対する補正量であることは、第1の実施形態におけると同様である(S108)。また、調整量算出部3lから第1及び第2の音速Cg1,Cg2の差に応じた音速調整量ΔNを入力し、入力したΔNにより周期補正量Nを補正する(S110、図7のS111c〜S111g)。
【0052】
禁止期間設定部3dは、ΔNによる補正後の周期補正量Nを入力し、これをもとに、次式(20)により禁止期間tgの長さを変更する。このため、次回の計測において、変更後のtgにより受信時点tgaが特定されることになるので、tgaにおける周期誤差が解消される。
tg=tg−N×tp ・・・(20)
図10は、本発明の第3の実施形態に係る計測装置101の構成を示している。本実施形態では、流量計測用の一対のトランスデューサ2a,2b以外に、調整用の一対のトランスデューサ2b,2cを採用し、かつ流量計測用のものと調整用のものとで一方のトランスデューサ2bを共用することとしている。測定管1の中心軸に対し、第1の超音波伝搬線At1を傾斜させる一方、第2の超音波伝搬線At2を垂直に設定し、At1上で下流側に位置するトランスデューサ(すなわち、第2のトランスデューサ)2bを共用している。計測コントローラ5の構成、計測制御の基本ルーチン及び補正量調整ルーチンの流れは、第1の実施形態におけると同様である。本実施形態によれば、使用するトランスデューサ2a〜2cの数が少なくて済むため、第1の実施形態のものに対し、製作費用を削減することができる。
【0053】
更に、別の実施形態として、第1の実施形態で折り返しの検出及び音速Cg1,Cg2の差に応じた調整により得られた周期補正量Nを、受信時間td及び検知遅れ時間trをもとに、下式(21)により直接的に算出することとしてもよい。taは、被験流体の実際の音速Cgのもとで得られる超音波Wtの伝搬時間であり、密度センサ等により検出したCgをもとに、下式(22)により算出することができる。調整用に採用されたトランスデューサ2c,2dの間の距離が受信波Wrの周期遷移が生じないほどに短く、実際の音速Cgを測定可能である場合は、トランスデューサ2c,2dにより測定されたCgを採用することができる。なお、(21)式において、INTは、小数点以下を切り捨て、整数部分を抽出する演算子である。
【0054】
N=INT{(td−tr−ta)/tp} ・・・(21)
ta=Lm1/Cg ・・・(22)
以上では、判定閾値Cthを一定としたが、図11に示す傾向を持たせたテーブルデータの検索によりこれを可変としてもよく、被験流体の音速Cgがある程度の幅をもって変動する場合に、周期補正量Nの調整に適度な不感帯を設定し、流量Q等の計測を安定させることができる。Cthは、Cg2に対して受信波Wrの1周期相当の差を持たせた音速として定められるので、下式(23)により算出することができる。図11は、この(23)式が示すCthの特性を示しており、Cthは、Cg2が増大するほど、大きな値として設定され、かつCg2の増大に対して指数曲線的に変化する。
【0055】
Cth=Cg2−(Lm2/(Lm2/Cg2+tp)) ・・・(23)
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波流体計測装置の構成
【図2】同上実施形態に係る受信時点の特定原理及び伝搬時間の説明
【図3】同上実施形態に係る計測コントローラの構成
【図4】受信時点の特定に関する信号処理の説明
【図5】折り返しの検出に関する信号処理の説明
【図6】計測制御の基本ルーチンのフローチャート
【図7】補正量調整ルーチンのフローチャート
【図8】計測制御の各処理の順を示すタイムチャート
【図9】本発明の第2の実施形態に係る計測コントローラの構成
【図10】本発明の第3の実施形態に係る超音波流体計測装置の構成
【図11】判定閾値Cthの設定テーブル
【符号の説明】
【0057】
101…超音波流体計測装置、1…測定管、1a〜1d…トランスデューサケース、2a〜2d…トランスデューサ、3…伝搬時間測定回路、4…流量・濃度演算回路、5…計測コントローラ、6…配管、7…方向切換弁、8…配管、9…タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験流体の測定管と、
この測定管を横断させて設定した第1の超音波伝搬線上に設置され、流れに対して順方向に超音波を発射する第1のトランスデューサと、
この第1の超音波伝搬線上で前記第1のトランスデューサよりも下流に設置され、流れに対して逆方向に超音波を発射する第2のトランスデューサと、
前記第1のトランスデューサ又は前記第2のトランスデューサから発射された超音波を受信したトランスデューサが出力を発生した後、所定の検知許可時刻以降の周期の波における受信時点を特定する受信時点特定手段と、
前記受信時点特定手段により特定された、前記第1のトランスデューサから発射された超音波の受信時点及び前記第2のトランスデューサから発射された超音波の受信時点をもとに、前記被験流体に関する音速換算値を第1の音速として算出する音速算出手段と、
前記被験流体の音速を参照上の第2の音速として測定する音速測定手段と、
前記音速算出手段により算出された第1の音速及び前記音速測定手段により測定された第2の音速をもとに、前記受信時点特定手段により特定された受信時点の周期誤差を補正する周期誤差補正手段と、
この手段により前記周期誤差が補正された受信時点をもとに、前記被験流体に関する所定の演算を行う演算手段と、を含んで構成される超音波流体計測装置。
【請求項2】
前記音速測定手段は、前記測定管を横断させて設定した、前記第1の超音波伝搬線とは異なる第2の超音波伝搬線上で、前記第1及び第2のトランスデューサの間の距離よりも短い距離で設置された第3のトランスデューサ及び第4のトランスデューサを含んで構成され、この第3又は第4のトランスデューサから発射された超音波について特定される受信時点をもとに得られる音速換算値を、前記第2の音速として出力する請求項1に記載の超音波流体計測装置。
【請求項3】
前記第3及び第4のトランスデューサが前記測定管の中心軸を基準とする各側に設置された請求項2に記載の超音波流体計測装置。
【請求項4】
前記第2の超音波伝搬線が前記測定管の中心軸に対して垂直に設定された請求項3に記載の超音波流体計測装置。
【請求項5】
前記第3及び第4のトランスデューサのうち一方が前記第1のトランスデューサ又は前記第2のトランスデューサにより兼用される請求項3又は4に記載の超音波流体計測装置。
【請求項6】
前記周期誤差補正手段は、
前記検知許可時刻から開始し、かつ前記受信したトランスデューサの出力波の1周期相当の長さを持つ期間を前記受信時点の折返検出期間として、この期間における前記受信時点の変化の履歴をもとに、前記周期誤差の補正量の基本値を算出する基本補正量算出手段と、
前記第1及び第2の音速をもとに、前記補正量の音速調整量を算出する音速調整量算出手段と、を含んで構成され、
前記基本補正量算出手段により算出された基本補正量を前記音速調整量算出手段により算出された音速調整量により補正し、この補正後の最終補正量により前記周期誤差を補正する請求項2〜5のいずれかに記載の超音波流体計測装置。
【請求項7】
前記周期誤差補正手段は、前記第1及び第2の音速の差の絶対値が所定の値よりも大きいときにのみ、前記音速調整量による補正を行う請求項6に記載の超音波流体計測装置。
【請求項8】
前記所定の値は、前記第2の音速が高いときほど、大きな値として設定される請求項7に記載の超音波流体計測装置。
【請求項9】
前記所定の値よりも大きい前記差の絶対値が得られた後、前記音速調整量による補正により前記所定の値以下の前記差の絶対値が得られるまでの間、前記演算手段の出力としてこの期間前の出力を保持する出力保持手段を更に含んで構成される請求項7又は8に記載の超音波流体計測装置。
【請求項10】
前記演算手段は、前記所定の演算として、前記補正された受信時点に基づいて前記被験流体の流量又は濃度を算出する請求項1〜9のいずれかに記載の超音波流体計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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