説明

超音波流量計

【課題】多層流路の高い測定性能を確保しつつ、多層構造の簡略化で低コスト化と小型化を図る。
【解決手段】層状の流路よりなる計測流路1と、計測流路1の同一壁面側に設置され対向側の壁面での反射を利用した超音波の伝播路を構成するよう配置した一対の超音波センサ7、8により流量を検出する構成であり、多層部を構成する仕切り板10a、10b、10cの上流側の手前に流体制御手段なる抑制棒9を設置することにより、多層流路12の外層と内層の流速差の発生を抑制し、測定時の計測誤差を少なくすることができ、流量係数のフラット化を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスなどの流量を計測する超音波流量計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の流量計測装置は、図8に示すように、上流側に流体供給路13を、下流側に流体流出路14をそれぞれ接続した計測流路15の上流と下流に対向して配置した一対の超音波送受波器(図示せず)からなる流速検知手段を配置していた。
【0003】
また、流体が2次元性の層流となるように前記計測流路15の内部は複数の平板状の仕切板16で分割してあった。
【0004】
そして、前記流速検知手段は、超音波送受波器間の超音波の伝搬時間を基に計測流路15を流れる流体の流速を測定し、この測定した流速をもとに流量を演算するようにしていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−43015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、計測流路入り口で計測流体が計測流路に流れ込む時の縮流の影響や、流路が仕切り板により層状になる前の壁面との摩擦による計測流体の流速分布の影響などで、外層と内層とで計測流量により流速分布が異なる。また、超音波センサは流路全体高さに対して均一に超音波の伝播を行うことは難しく、かつセンサの送受信強度は均一では無く、各層の超音波の伝播に対して、その層の領域における超音波センサに応じた超音波放出の強度に分布ができる。また、層によって流速が異なると、層毎の超音波の伝播時間が変わるため、このことが計測流路を流れる全体の計測流量の誤差要因となり、流路全体の流速の計測の信頼性に悪影響をもたらしていた。
【0007】
さらに、流量計の生産時においては計測流量範囲において真の流量値と計測流量値が所定の仕様の誤差範囲に入るように実際に流量を測定し真値との差を器差補正して正しく流量が計測できるように補正する必要があるが、この際、流量係数(=真値/計測値)が計測流量範囲でフラットであることが望ましい。すなわち、流量係数がフラットであれば任意の流量で1点補正するだけで器差補正を完了させることができる。もちろん、流量係数が1でフラットであれば器差補正の必要がないことは言うまでもない。
【0008】
そして、前述した課題により計測流量により各層の流速比が計測流量により異なるとこの流量係数のフラット性に悪影響がでていた。
【0009】
特に伝播路がV字型のような超音波の壁面反射を利用する場合は反射を利用しない場合の倍の距離を超音波が伝播するため、計測における時間分解能が上がるメリットはあるが層間の流量差の影響をより大きく受けることになる。
【0010】
この影響を小さくするため、従来は計測流路入り口に整流部材を設けたりして、流れが均一になるように対応しているが、構造が複雑になり、コストが上がる、などの課題が生じている。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、計測流路内での流れの安定化のため1層当たりの高さを小さくするための層状の流路を形成し、課題である外層と内層の流速差による測定への影響を少なくし、構成の簡易化・小型化を図り、かつ流量係数がフラットである超音波流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の超音波流量計は、平板状の仕切り板により区切られた複数の層状流路からなり被計測流体が流れる多層流路と、前記多層流路の上流と下流に配置した一対の超音波センサと、前記超音波センサ間の超音波の伝搬時間に基づいて前記被計測流体の流量を検出する流量検出手段と、を有し、前記仕切り板の上流側近傍に棒状の流体制御手段を設置したものである。
【0013】
これによって、仕切り板手前の計測流路部においては低流量域では流れが安定的な層流流れであるため仕切り板手前に流体制御手段としての棒状の抑制棒を設置しても、流体は抑制棒の壁面に沿って流れるために層状流路での各層に流れ込む流量比にはほとんど影響を与えないが、大流量域では抑制棒を通過する時の流速が早いため流体は抑制棒の壁面から剥離を起こし、抑制棒以後の流速分布に影響を及ぼし外層と内部の層との流速比を変化させることができ、流量計として重要な性能指標である流量係数のフラット化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超音波流量計は、計測範囲の大流量域での外層と内側の層の流速差を減らし層状の流路各層で等しい流速になるため流路高さ全域を均等に測定しなくても正確に流速を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における超音波流量計の構成図
【図2】本発明の実施の形態1における超音波流量計の計測流路正面構成図
【図3】(a)図2のA−A断面図、(b)図2のB−B断面図
【図4】本発明の実施の形態1における超音波流量計の動作説明図
【図5】本発明の超音波流量計の制御棒の有無による流量と流量係数の関係を示すグラフ
【図6】本発明の抑制棒の取付け位置を示す概念図
【図7】(a)流体制御手段無しの場合の流れの概念図、(b)流体制御手段有りの場合の流れの概念図
【図8】従来の超音波流量計の構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、平板状の仕切り板により区切られた複数の層状流路からなり被計測流体が流れる多層流路と、前記多層流路の上流と下流に配置した一対の超音波センサと、前記超音波センサ間の超音波の伝搬時間に基づいて前記被計測流体の流量を検出する流量検出手段と、を有し、前記仕切り板の上流側近傍に棒状の流体制御手段を設置したことにより、多層流路の外層と内層の流速差の発生を抑制し、測定時の計測誤差を少なくすることができ、流量係数のフラット化を図ることが可能となる。
【0017】
第2の発明は、特に、第1の発明の流体制御手段を、多層流路の層方向の流路高さの略中心位置で、被計測流体の流れに直交し、且つ、前記仕切り板と平行に設置された構成としたものである。
【0018】
第3の発明は、特に、第1または2の発明の流体制御手段を、仕切り板から2mm以上上流側に配置したことを特徴とするもので、多層流路における外層と内層の間に発生する流速差を抑制する効果をより高め、計測における測定誤差を少なくすることにより、流量係数のフラット化をより図ることが可能となる。
【0019】
第4の発明は、特に、第1〜3のいずれか1つの発明の流体制御手段の断面は円形であり、断面直径は前記層状流路の高さの1/2以下としたもので、円形形状とすることで不必要に計測流路内の流れを乱す事無く、多層流路の外層と内層の流速差が発生することを最適状態で抑制することが可能で、計測誤差を少なくすることができ、流量係数のフラット化を図ることが可能となる。
【0020】
第5の発明は、特に、第1〜4いずれか1つの発明において、一対の超音波センサは、前記層状流路の同一側面に設置され、一方の超音波センサから発信された超音波が対向側の流路内壁面で反射して他方の超音波センサに受信される構成としたことで、流路を小型にしても超音波の伝播路が長くなり、計測上の時間分解能が上がり、計測精度を向上することが可能となる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1において、流体供給路3は、途中にステッピングモータなどの電磁装置による駆動部4と連係した弁体で開閉される遮断弁5を有する。白抜き矢印は、被計測流体の流れ方向を示すのもで、弁が開放状態においては流体供給路3より被計測流体がメータ筐体2内部に流出される。計測流路1は、断面長方形をなす矩形としてあり、メータ筐体2内部に充満した被計測流体が計測流路入口側1aから計測流路1に流入し、さらにはその下流側1bに接続された流体流出路6を経てメータ筐体2外部へ流出する。
【0023】
なお、遮断弁5は流体流動に異常があった時や、地震発生時などに閉じるようにしてある。
【0024】
図2は、流量計測ユニット17の断面を示すもので、計測流路1には、流速検知手段を構成する一対の超音波センサ7、8が対向壁で反射し送受信するように斜めに配置され、この一対の超音波センサ7、8間の超音波の伝播時間を計測し、被計測流体の流速や流量を求めるための流量検出手段18が配置されて、流量計測を行うための計測ユニットとして構成している。
【0025】
ここで、被計測流体が一度メータ筐体2内部に充填されてから計測流路1に流入するため、メータ筐体2がチャンバーとなり、被計測流体が流入部から屈曲された配管で直接計測流路へ接続する方式に比較して計測流路へ流入する流れに偏流が起こり難くなり計測の信頼性が向上する。
【0026】
本実施例の計測流路1は前記したように矩形断面を有しているが、図3(a)に示すように、短編側を平板状の仕切り板10a、10b、10cでほぼ均等の高さに区分して、層状流路11a、11b、11c、11dを形成して、この複数の層状流路11a、11b、11c、11dで多層通路(図3(b)のC間)を構成している。
【0027】
つまり、流路を仕切り板10a、10b、10cで狭く仕切ることで被計測流体の流れが2次元性になるようにしてあり、流路の高さ方向の流れを層状流路11a、11b、11c、11dで分散することで従来の単層の流路に比較し、流速分布を均一化し、超音波
による計測の安定を図っている。
【0028】
さらに、仕切り板10bの上流側には、流体制御手段としての抑制棒9が、所定の距離をおいて配置してある。この抑制棒9は、被計測流体の流れ方向に対して、直交し、かつ、仕切り板10bに平行に配置されている。
【0029】
本実施例では仕切り板の枚数は3枚で4層状に構成しているが、4層以外の構成も3層以上であれば可能である。
【0030】
次に、超音波による流量計測動作を図4を用い説明する。図1、2、3に示すように本発明においては一対の超音波センサ7,8をユニット化するため計測流路1の矩形断面の同一面上に超音波センサ7、8を配置する構成としており、超音波の送受信の伝播経路は他短面1cで反射させたV字型(Vパス伝搬路)となり、この伝播経路で、超音波センサ間の超音波の送受が行われる。
【0031】
この構成において、上流側の超音波センサ7から発せられた超音波が下流側の超音波センサ8で受信されるまでの伝搬時間T1を計測する。また一方、下流側の超音波センサ8から発せられた超音波が上流側の超音波センサ7で受信されるまでの伝搬時間T2を計測する。
【0032】
このようにして測定された伝搬時間T1およびT2を基に、以下の演算式により演算手段で流量が算出される。
【0033】
いま、計測流路の流動方向の被計測流体の流速Vと超音波伝搬路とのなす角度をθとし、超音波センサ間の距離を2×L、被測定流体の音速をCとすると、流速Vは以下の式にて算出される。
【0034】
式(1) T1=2×L/(C+Vcosθ)
式(2) T2=2×L/(C−Vcosθ)
T1の逆数からT2の逆数を引き算する式より音速Cを消去して
式(3) V=(2×L/2cosθ)((1/T1)−(1/T2))
ここで、θおよびLは既知なのでT1およびT2の値より流速Vが算出できる。いま、空気の流量を計ることを考え、角度θ=45度、距離L=35mm、音速C=340m/s、流速V=8m/sを想定すると、T1=2.0×10−4秒、T2=2.1×10−4秒であり、瞬時計測ができる。
【0035】
そして、計測流路1を流れる被計測流体の流量Qは、流路の断面積をS、流路係数をKとするとき、次式で求めることができる。
【0036】
式(4) Q=K×V×S
なお、上記したようなVパス伝播路以外の超音波の伝播路であっても流路を少なくとも一回以上流路を横切り、流速により超音波の伝播時間が変化する経路を形成できるものであれば流速の計測は可能であり、本発明の構成に関しても効果がある。
【0037】
図5に本実施による流量係数実測の実験データを示すもので、図5の横軸は計測流路1を流れる被計測流体の流量Qで縦軸は流量係数Kを示す。
【0038】
図5中には流体制御手段である抑制棒9が無い場合と、図6に示す位置関係で流体制御手段なる抑制棒を取り付けた時の計測値を示す。
【0039】
図5に示すように、抑制棒9が無い場合、流量係数は流量が多いほど小さく右肩下がりのグラフとなる。
【0040】
この要因としては、流速が速くなるほど計測流路の入口での縮流の影響が大きく壁に近い外層に流れる流量と内側に流れる流量の比が少ない流量時に比べて小さくなる。すなわち大流量時は内側の層に多く流体が流れて流速が速くなるため、前述したように超音波センサは中心ほど超音波の強度分布が強いため流路全体の平均流速より速い流速を計測することになり、その結果上記のように流量が多くなると流量係数が小さくなり、流量係数がフラットで無くなる。
【0041】
前述した大流量側の流量係数を上げるためには、流速計での流速の計測値が小さくなるようにする必要があり、すなわち上記した縮流の影響による流れの変化を抑制する必要があり、そのために本発明では仕切り板の手前に流体制御手段としての抑制棒9を配置するという簡易な構成でこの目的を達成している。
【0042】
本発明の作用・効果に関して図7を参照に説明する。
【0043】
計測流量が少ない場合は計測流路1内の流れが層流流れとなるため、抑制棒9の有無に関わらず、多層流路の各層に略均等に分かれて流れる。流速が速くなりと計測流路入り口で起こる縮流が激しくなると、図7(a)に示すように抑制棒9が無い場合は流れは内部に集中していく。
【0044】
抑制棒9がある場合は、図7(b)に示すように流体が抑制棒9に沿って流れる事ができず剥離などにより後ろ側には流れが行きにくくなり、縮流により起こった流れの中心方向への集中が分散されて、結果、多層各層に均等に流れるようになり、小さな流量から大流量まで、多層の各層への均等流れを実現でき、流量係数のフラット化を図ることが可能となる。
【0045】
なお、本実施の形態の場合、流体制御手段としての抑制棒9の最適位置は、仕切り板手間2mm以上であり、その断面形状としては流体がその壁面をスムーズに流れるため円形形状としており、また、その直径は層状流路の高さの1/2以下とすることで、上記した縮流の抑制の効果を適切に発揮できる。
【0046】
なお、流路の構成によっては上記した仕様が変わる事は考えうる事であり、本発明の仕様を上記内容で限定するものでは無い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明にかかる超音波流量計は、計測流量が変化しても外層と内層の流速比の差を減らし、正確に流速を計測することが可能となり、さらに小型、低コスト化が可能なためガスメータをはじめとして種々の流量計として応用展開が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 計測流路
2 メータ筐体
7、8 超音波センサ
9 抑制棒(流体制御手段)
10a、10b、10c 仕切り板
11a、11b、11c、11d 層状流路
12 多層流路
18 流量検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の仕切り板により区切られた複数の層状流路からなり被計測流体が流れる多層流路と、
前記多層流路の上流と下流に配置した一対の超音波センサと、
前記超音波センサ間の超音波の伝搬時間に基づいて前記被計測流体の流量を検出する流量検出手段と、を有し、
前記仕切り板の上流側近傍に棒状の流体制御手段を設置した超音波流量計。
【請求項2】
前記流体制御手段は前記多層流路の層方向の流路高さの略中心位置で、被計測流体の流れに直交し、且つ、前記仕切り板と平行に設置された構成である請求項1記載の超音波流量計。
【請求項3】
前記流体制御手段は、前記仕切り板から2mm以上上流側に配置したことを特徴とする請求項1または2記載の超音波流量計。
【請求項4】
前記流体制御手段の断面は円形であり、断面直径は前記層状流路の高さの1/2以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波流量計。
【請求項5】
前記一対の超音波センサは、前記層状流路の同一側面に設置され、一方の超音波センサから発信された超音波が対向側の流路内壁面で反射して他方の超音波センサに受信される構成とした請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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