超音波生体組織測定装置
【課題】超音波プローブの押し付け力と組織の変形の関係から組織の硬さに関する値を計算することができる超音波生体組織測定装置を提供する。
【解決手段】組織11に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブ4と、組織11に対して、超音波プローブ4を押し付ける力を測定する押し付け力測定センサ5と、弾性指標算出部9とを備え、弾性指標算出部9は押し付け力測定センサ5から受信した測定結果と、超音波プローブ4が受信した超音波信号から検出した組織11の厚さの変化とから組織11の弾性指標を算出するものであり、押し付け力測定センサ5は、歪みセンサ又は圧力センサである。
【解決手段】組織11に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブ4と、組織11に対して、超音波プローブ4を押し付ける力を測定する押し付け力測定センサ5と、弾性指標算出部9とを備え、弾性指標算出部9は押し付け力測定センサ5から受信した測定結果と、超音波プローブ4が受信した超音波信号から検出した組織11の厚さの変化とから組織11の弾性指標を算出するものであり、押し付け力測定センサ5は、歪みセンサ又は圧力センサである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波生体組織測定装置に関するものであり、例えば、組織に対する押し付け力と組織の厚さの変化から組織の硬さに関する情報を得ることができる超音波生体組織測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の医療現場で使用されている超音波エコー装置は、映し出される画像の形状から組織の状態を診断している。その際、経験的にプローブを体に押し付けて組織の同定の参考にしている。
【0003】
従来の超音波エコー装置に組織弾性率を測定できる機能を付加したエラストグラフィーという装置が開発されている。これはプローブを体に押し付け組織の変形の程度を画像から読み取り、そのひずみ量から相対的な弾性率を推定する装置である。装置の構成は通常の超音波エコー装置と同じである。押し付け前後の超音波信号から装置に組み込まれたソフトウェアで計算している。この装置では押し付け力を測定していないため、弾性率は周りの組織に対する相対的な値しか得られない。
【0004】
既存特許などでは、押し付け力及びプローブの移動量を測定し、硬さに関する値を計算する技術がある。例えば、下記の技術がある。
【0005】
(1)特許文献1に記載されている超音波を利用した軟組織の粘弾性推定装置及びプログラムに関する技術は、体組織のように皮膚、脂肪、筋、骨等と階層構造をなす軟組織に対しても、各階層に弾性、粘性、慣性を推定することを目的とする技術である。具体的には、超音波信号を送受信するための超音波プローブと、そこで受信したデータの時間変化から対象物形状の変形量を計算する対象物変形量計算部と、超音波プローブを移動させるための移動機構と、それを制御するプローブ制御部と、プローブの位置を計測するための位置センサと、プローブ部に負荷される力を計測する力センサと、位置センサ、力センサ、対象物変形量計算部のそれぞれから得られる値をもとに対象物の粘弾性を推定する粘弾性推定部と、推定した粘弾性を使用者に提示する粘弾性表示部から構成されている。
【0006】
(2)特許文献2には超音波診断装置が記載されている。具体的には、磁気センサに代表される3次元の位置情報を検出する位置検出手段を超音波探触子に取り付け、位置検出手段が、ある点に固定された基点をもとに、磁気センサにより空間位置を把握する。
【0007】
(3)特許文献3には超音波探触子及び超音波診断装置に関する技術が記載されている。具体的には、超音波探触子の被検体に当接する当接面に設けられている振動子の周囲に圧力伝達媒体を満たしたチューブを設け、チューブ内の圧力伝達媒体の圧力を検出する圧力センサを設け、これによって、外部の測定機器などでこの超音波探触子の当接面が被検体に押し付けられる接触圧力を測定する。
【0008】
(4)特許文献4にはエラストグラフィー測定、撮像法及びこの方法を実施する装置に関する技術が記載されている。具体的には、標準型トランスデューサ又は軸方向に並進されるトランスデューサデバイスを使用し、ターゲット体の近位端区域を既知の小増分だけ圧縮または移動させる。ここで、各増分において、パルスが放出され、ターゲット中の音走行通路またはトランスデューサビームに沿った区域からエコー系列(A−ライン)が検出される。ターゲット中のフィーチャに対応するエコーセグメント中の時間ずれが音通路にそって音速の変動する各区域について修正されて、圧縮によって生じた歪に関する相対的定量的情報を提供する。
【0009】
(5)特許文献5には超音波診断装置に関する技術が記載されている。具体的には、断層走査手段によって得た時系列の二つの断層像間で演算を行なって断層像上の各点の移動量又は変位を計測する変位計測手段と、被検体の診断部位の体腔内圧力を計測又は推定する圧力計測手段と、各計測手段で求めた変位及び圧力から断層像上の各点の弾性率を演算して弾性画像データを生成する弾性率演算手段と、弾性率演算手段からの弾性画像データを入力して色相情報を付与する色相情報変換手段と、断層走査手段からの白黒の断層像データと色相情報変換手段からのカラーの弾性画像データとを加算又は切り換える切換加算手段とを備え、切換加算手段からの画像データを画像表示手段に表示するようにしたものである。
【0010】
(6)特許文献6には生体軟組織の硬さ検出方法及びこれに用いる検出装置に関する技術が記載されている。具体的には、この検出装置は、対物接触振動子及び振動検出部からなるセンサ部と、該センサ部からの出力信号を増幅器で増幅し、これを帯域フィルター又はピーキング増幅器を通して、対物接触振動子に強制帰還してなる自励発振回路部と、該自励発振回路の周波数変化量を計測する計測部とから構成されている。
【0011】
(7)特許文献7には、探触子を被測定部に押圧したときの押圧力と押圧前後の筋肉層の厚さの変化量とから筋肉層の圧縮率を演算する筋肉硬さ測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−144155号公報(2005年6月9日公開)
【特許文献2】特開2004−89362号公報(2004年3月25日公開)
【特許文献3】特開平08−033623号公報(1996年2月6日公開)
【特許文献4】特表2001−519674号公報(2001年10月23日公開)
【特許文献5】特開平05−317313号公報(1993年12月3日公開)
【特許文献6】特開平8−29312号公報(1996年2月2日公開)
【特許文献7】特開2008−168063号公報(2008年7月24日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の技術は、押し付け力の測定機構に加えて、組織の変形量を計算するためプローブの移動量を何らかの形で測定する必要があり、そのため移動量を測定するための機構が必要となり、装置機構が大がかりになり、実際の測定現場では使いにくい。また、使用時にプローブ周りの取り回しが困難になり、また可搬性を確保することが難しいという問題がある。
【0014】
特許文献2に記載の技術は、プローブの3次元位置情報を検出する機構が必要となる。また、押し付け力の測定は行わない。
【0015】
特許文献3に記載の技術は、押し付け力を測定し、プローブと生体の接触圧力が所定の圧力以上になった場合に、アラーム音等による警告を発する技術であり、正確な測定ができない。
【0016】
特許文献4に記載の技術は、モータで超音波プローブを移動し、組織を変形させるので、モータ周りの制御装置等を別途必要とし、更に押し付け力の測定は行わない。
【0017】
特許文献5に記載の技術は、生体内に圧力センサを挿入して内部応力を測定する侵襲方式である。
【0018】
特許文献6に記載の技術は、超音波の周波数を変化させて弾性率を測定する技術であり、測定結果から周波数の影響を排除する校正処理が困難な処理となり、実用的でない。
【0019】
特許文献7に記載の技術は、押圧した際の筋肉の圧縮率を算出するが、組織の硬さを測定することはできない。また、圧力センサとの探触子との間にバネがあるため正確に押圧力を測定することができない。
【0020】
本発明の目的は、上記従来例の問題点に鑑み、非侵襲で、超音波プローブの押し付け力と組織の変形の関係から組織の硬さに関する値を算出することができる超音波生体組織測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明に係る超音波生体組織測定装置は、測定対象組織に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブと、
測定対象組織に対して、上記超音波プローブを押し付ける力を測定する押し付け力測定部と、弾性指標算出部とを備え、上記弾性指標算出部は上記押し付け力測定部から受信した測定結果と、上記超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出するものであり、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサ、又は、上記超音波プローブが筐体に格納されており、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサである。
【0022】
上記の構成によれば、組織に対する押し付け力に対応した組織の厚さの変化と、押し付け力とに基づいて、弾性指標算出部が組織の弾性指標を、非侵襲で、算出できる。また、歪みセンサ又は圧力センサによって、押し付け及び押し付け力の測定を簡便に行なうことができる。
【0023】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサであってもよい。
【0024】
超音波プローブ自体の歪みを押し付け力測定部が直接測定するので、測定部の構造を簡易にすることができる。
【0025】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記超音波プローブが、開口部を有する筐体に、当該開口部から上記超音波プローブの測定対象組織に押し付ける端面が出た状態で、格納されており、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサであり、上記圧力センサは、上記端面の重心を通り、上記端面に垂直な線上であって、上記超音波プローブの表面と上記筐体との間に設置されていてもよい。
【0026】
上記端面の重心上に圧力センサが設置されていることにより、超音波プローブを押し付けたときに発生する超音波プローブと筐体との間の圧力をより正確に測定することができる。例えば、上記端面の重心上に圧力センサがないとき、当該端面に垂直で圧力センサを通る直線と当該端面とが交わる点から重心の距離に応じたモーメントの影響を受けるが、上記構成によればこのモーメントの影響を抑制して圧力を測定できる。
【0027】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記弾性指標算出部は、予め設定されている、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報との関係を示す関係情報から、測定された変化量及び押し付け力に基づいて弾性指標を算出するものであることがより好ましい。
【0028】
上記関係情報にて、測定対象組織の厚さの変化量、測定対象組織に対する押し付け力及び測定対象組織が層構造であるときにどこの層が測定対象であるかを示す情報と弾性指標との関係が予め定まっているので、上記関係情報に基づいてより正確に弾性指標を算出することができる。また、例えば、測定対象組織の種類を予め決定しておき、当該種類の組織に対応した関係情報を予め設定しておく(メモリ等の記録部に記録させておく)ことによって、より正確に当該測定対象組織の弾性指標を算出することができる。
【0029】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記関係情報は、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報と、さらに、測定対象組織の種類を示す情報との関係を示す情報であることがより好ましい。
【0030】
関係情報に測定対称組織の種類を示す情報が含まれることにより、様々な種類の組織について弾性指標を算出することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、測定対象組織に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブと、測定対象組織に対して、上記超音波プローブを押し付ける力を測定する押し付け力測定部と、弾性指標算出部とを備え、上記弾性指標算出部は上記押し付け力測定部から受信した測定結果と、上記超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出するものであり、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサ、又は、上記超音波プローブが筐体に格納されており、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサであるので、超音波プローブの押し付け力と組織の変形の関係から組織の硬さに関する値を、非侵襲で、算出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1が備える測定部2の構成を模式的に示す図である。
【図3】超音波による組織の測定方法の種類を示す図である。
【図4】組織位置を求める方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の処理を説明するための図である。
【図6】エコー画像及び組織の層の位置を示す図である。
【図7】押し付け力を変化させたときの組織の様子、厚さの変化を示す図である。
【図8】図7の(d)の初期押し付け力からの変化率の特性表をグラフ化したものを示す図である。
【図9】組織に押し付け力を加えたときの組織各層の伸縮態様を模式的に示す図である。
【図10】図5における組織のB−C層及びC−D層の押し付け力に対する弾性指標の特性図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の動作の一例を示すフロー図である。
【図12】本発明における状態−厚さ相関情報の一例を示す図である。
【図13】被験者毎の大腿直筋厚と皮下脂肪厚との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る超音波生体組織測定装置の一実施形態について、詳細に説明する。
【0034】
<超音波生体組織測定装置1の構成>
まず、本実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は超音波生体組織測定装置1の構成を模式的に示す図である。図2は測定部2の構成を模式的に示す図である。図1に示すように超音波生体組織測定装置1は、測定部2、解析部3を備えている。なお、本実施形態では、組織(測定対象組織)11の硬度を測定するものとする。
【0035】
〔測定部2の構成〕
測定部2は、超音波プローブ4及び押し付け力測定センサ(押し付け力測定部)5を備えている。
【0036】
測定部2は、図2の(a)に示すように、超音波プローブ4の周囲に4つの押し付け力測定センサ5が貼り付けられている。押し付け力測定センサ5は、超音波プローブ4が組織11に押し付けられたときに生じる超音波プローブ4の歪みを測定する歪みセンサである。また、本実施形態では測定部2は矢印Aの方向に組織11に押し付けられる。
【0037】
超音波プローブ4の材質としては、超音波を発し且つ反射してくる超音波(エコー)を検知することが可能であり、組織に押し付けられることによって歪みを生じるものであればよく、例えば、金属、高分子材料、ABS樹脂、PBT、アクリル、ポリカーボネイト、それらの複合体等が挙げられる。また、超音波プローブ4は組織11から反射した超音波を後述の超音波送受信部6に送信するための超音波信号に変換する。
【0038】
また、押し付け力測定センサ5(歪みセンサ)としては、超音波プローブ4の歪みを測定できるものであればよく、例えば、従来公知の歪みセンサを採用できる。押し付け力測定センサ5を設ける位置としては、超音波プローブ4の歪みを測定できる位置であればよいが、2個の押し付け力測定センサ5が、超音波プローブ4の表面上であって、超音波プローブ4の組織11に押し付けられる端面の中心を通る線上の互いに対称に配置することが好ましい。これにより、超音波プローブ4を押し付ける力をより正確に測定できる。また、このように対称に配置された2個1組の押し付け力測定センサ5を図2の(a)に示すように2組設けることがより好ましく、より正確に測定する観点から3組以上であってもよい。
【0039】
なお、符号12はケーブルを示している。ケーブル12は、解析部3から超音波プローブ4に超音波を発するための信号を伝え、超音波プローブ4が検知した超音波の信号を解析部3に伝え、また、押し付け力測定センサ5が測定した歪みを示す信号を解析部3に伝えるためのケーブルである。なお、後述の測定部2の変形例においては、ケーブル12は歪みではなく、ロードセルが測定した圧力を解析部3に伝える。なお、ケーブル12の代わりに電磁波、赤外線等で測定部2から解析部3に歪み、圧力等を伝えてもよい。
【0040】
(測定部2の別の形態1)
ここで、測定部2の別の形態について説明する。
【0041】
測定部2の別の形態の一つである測定部202は、図2の(b)に示すように、超音波プローブ204、押し付け力測定センサ205、筐体212を備えている。
【0042】
超音波プローブ204は超音波プローブ4とほぼ同じ構成であるが、筐体212の内側に設けられた平行移動確保用溝に突合するための平行移動確保用突起213が形成されている点で異なる。平行移動確保用溝及びこれに突合するための平行移動確保用突起213が形成されていることにより、超音波プローブ204を矢印A方向へより正確に移動させ、押し付け力測定センサ205により、正確に、超音波プローブ204と筐体212との間に生じる圧力を測定することができる。但し、本形態については、後述のように押し付け力測定センサ205が端面204aの重心を通り端面204aに垂直な線上(押し付ける方向に平行な線上)にあるので、押し付け力測定センサ205は、平行移動確保用溝及び平行移動確保用突起213が無くても超音波プローブ204と筐体212との間の圧力を正確に測定することができる。
【0043】
また、超音波プローブ204の端面204aが、組織11に押し付けられ、端面204aから超音波を発し、また、端面204aにて組織11から反射してきた超音波を受ける。
【0044】
筐体212は超音波プローブ204を格納するものである。筐体212は開口部212aを有している。超音波プローブ204は、開口部212aから端面204aが筐体212の外に出た状態で格納されている。
【0045】
押し付け力測定センサ205は、超音波プローブ204が組織11に押し付けられたときに超音波プローブ204が筐体212に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサである。押し付け力測定センサ205の具体例としては、例えば、従来公知のロードセルが挙げられる。
【0046】
押し付け力測定センサ205(圧力センサ)は、端面204aの重心を通り、端面204aに垂直な線上(本形態において押し付ける方向に平行な線上と一致している)であって、超音波プローブ204の表面と筐体212との間に設置されている。これにより、超音波プローブ204と筐体212との間の圧力を正確に測定できる。つまり、後述する図2の(e)のモーメントBを排除して当該圧力を正確に測定できる。また、特許文献7のように超音波プローブと圧力センサとの間にバネ等の弾性体を備えていないので、弾性体による影響を受けず圧力を正確に測定することができる。
【0047】
(測定部2の別の形態2)
測定部2の別の形態である測定部202’について図2の(c)を用いて説明する。なお、説明の便宜上、上記測定部2の別の形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0048】
測定部202’は、押し付け力測定センサ205の数及び位置が測定部202と異なる。つまり、押し付け力測定センサ205は、2個設けられている。そして、2個の押し付け力測定センサ205は、互いに、端面204aの重心上であって、押し付け方向に平行な直線を中心として対象に設置されている。このような配置であれば、後述する図2の(e)のモーメントBを排除して当該圧力を正確に測定できる。
【0049】
(測定部2の別の形態3)
測定部2の別の形態である測定部202’’について図2の(d)及び図2の(e)を用いて説明する。なお、説明の便宜上、上記測定部2の別の形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0050】
測定部202’’は、押し付け力測定センサ205の位置が測定部202と異なる。つまり、図2の(d)に示すように押し付け力測定センサ205は、測定部202のように、端面204aの重心を通り、端面204aに垂直な線上(押し付ける方向に平行な線上)ではない場所に設けられている。そのため、超音波プローブ204を、より正確に矢印Aの方向に移動させることが必要であるため平行移動確保用溝及び平行移動確保用突起213を設けることが好ましい。
【0051】
また、平行移動確保用溝及び平行移動確保用突起213を設けたとしても、測定部202’を組織11に押し付けると、図2の(e)に示す矢印Bの方向にモーメントが発生し、正確な押し付け力を測定できない場合がある。よって、このモーメントを補正する計算を行なうことが好ましい。
【0052】
〔解析部3の構成〕
解析部3は超音波送受信部6、押し付け力受信部7、組織変形量検出部8、弾性指標算出部9及び表示部10を備えている。
【0053】
超音波送受信部6は、超音波プローブ4に超音波を発せさせる発信信号を送信するものであり、且つ、組織11から反射して超音波プローブ4によって変換された超音波信号を受信して、組織変形量検出部8及び表示部10に出力するものである。例えば、超音波送受信部6は電圧によって超音波プローブ4による超音波の発射を制御する。
【0054】
押し付け力受信部7は、押し付け力測定センサ5から受信した測定結果を弾性指標算出部9に送信するものである。
【0055】
組織変形量検出部8は、超音波送受信部6から受信した超音波信号から組織11の厚さの変化を検出し、検出結果を弾性指標算出部9へ出力するものである。ここで、厚さとは、組織11における力の押し付け方向の厚さをいい、厚さの変化は、組織11の表面から押し付け方向における位置座標xの、力を押し付けられたことによる位置の変化であるΔxで表すことができる。
【0056】
弾性指標算出部9は押し付け力受信部7から受信した測定結果と組織変形量検出部8から受信した組織11の厚さの変化から組織11の弾性指標を算出するものである。具体的な計算方法については後述する。また、算出結果を表示部10に送信する。
【0057】
表示部10は、弾性指標算出部9が算出した弾性指標等の様々な情報を表示するものである。
【0058】
〔組織変形量の測定〕
次に、組織変形量検出部8が行なう組織変形量の測定方法について、図3及び図4を用いて説明する。
【0059】
超音波による測定には、Bモードと呼ばれる超音波信号の振幅を輝度に変換して2次元画像として表示する方法と、Aモードと呼ばれる超音波の振幅を曲線として描く方法がある。図3にAモードとBモードの例を示す。図3は超音波による組織の測定方法の種類を示す図である。
【0060】
図3の(a)はBモード(輝度モード)の2次元画像で、破線方向が組織の表面からの深さ方向で、画像中白色部分は輝度が高い箇所で黒色部分は輝度が低い箇所を表す。
【0061】
図3の(b)はAモード(輝度の振幅モード)の特性図で、Bモードの2次元画像における破線部(1次元画像)の輝度変化特性を表し、その縦軸は組織の深さ方向の距離を表し、その横軸は輝度値を表す。Bモード画像中の破線部の輝度を抜き出して超音波信号の変化として表示したグラフがAモードに相当する。
【0062】
各組織の変形量は、このAモードの超音波信号変化から求める。
【0063】
位置の変化を算出する基準となる位置(組織位置)を求める方法について図4を用いて説明する。図4は組織位置を求める方法を説明するための説明図である。図4において縦軸は輝度値、横軸は深さ方向の距離を表す。予め、超音波信号(エコー信号)は、組織11から反射して超音波プローブ4によって電圧に変換された超音波信号として超音波送受信部6から出力されている。
【0064】
そこで、図4に示すxを組織の表面からの深さ方向の位置とすると、組織変形量検出部8は、超音波送受信部6を介して得た超音波信号(エコー信号)変化b(x)に対してある幅をもった窓を設定し、その窓幅Wの中で超音波信号の最大値を見つけ出す。この窓を順次、窓の幅より小さい間隔(十分に小さい間隔が好ましく、例えば窓の幅の1/10)の間隔でx軸方向にずらしながら最大値の曲線p(x)を求める。数式で表すと下記数式1のようになる。maxは最大値を求める関数である。
【0065】
【数1】
【0066】
この最大値が予め設定した値(許容変動値At)以上に変化しない部分が窓幅W以上連続している部分の中心位置を組織の位置(組織位置)とする。窓幅を組織の厚みが最小となる値とすることで適切に組織の位置を同定することができる。押し付け力によって変化する組織の厚みの変化(Δx)は、2種類の押し付け力による組織の厚みを比較することで算出できる。生体組織において上腕部又は大腿部では皮下脂肪部分が組織の厚さの最小となるので、窓幅は10mmとすることが適切である。
【0067】
〔弾性指標の算出〕
次に、弾性指標算出部9による弾性指標の算出方法の例を説明する。
【0068】
本実施形態では、弾性指標算出部9は、予め設定されている、弾性指標と、組織11の厚さの変化量と、組織11に対する押し付け力と、組織11が層構造であるときにどこの層かを表す情報(以下、説明の便宜のため「層情報」という)と、組織11の種類を示す情報との関係を示す関係情報から、測定された変化量及び押し付け力に基づいて弾性指標を計算する。
【0069】
関係情報の具体的な態様は、例えば、テーブルである。つまり、弾性指標と、組織11の厚さの変化量と、組織11に対する押し付け力と、層情報と、組織11の種類を示す情報との関係をテーブルにしておき、測定された変化量及び押し付け力、並びに、例えばユーザ等によって入力された測定対象組織の種類及び層情報とに基づいて弾性指標を算出する。一般式で表すと次の式(2)で表される。
【0070】
kt=TABLE(m,Δx,n,f)・・・(2)
式(2)において、ktは弾性指標であり、mは組織11の種類を示す情報であり、Δxは組織11の厚さの変化量であり、nは層情報であり、fは組織11に対する押し付け力である。
【0071】
テーブルは記憶部(図示せず)に予め格納しておき、必要に応じて弾性指標算出部9が当該テーブルを読み出せるようにしておけばよい。
【0072】
なお、層情報とは、例えば、弾性指標の算出対象の組織が、筋肉の層の上から1番目、2番目・・・のいずれであるかを示す情報であり、組織11の表皮からの位置番号を予め決めておいて当該位置番号で表してもよい。
【0073】
また、組織の種類を示す情報とは、測定対象の組織が筋肉か皮下脂肪か等を示す情報である。測定対象の組織が予め固定されている場合には、組織の種類を示す情報を除いたテーブルにしてもよい。つまり、例えば、測定対象の組織が筋肉であることが予め決まっている場合、筋肉用のテーブルを作成して記憶部に格納しておけばよい。
【0074】
ここで、テーブルについて例示する。まずは、測定対象組織mが1種類の場合に必要なテーブルについて説明する。
【0075】
測定対象組織mの組織が1層の場合は、例えば表1に示すテーブルを作成しておけばよい。以下のテーブルは、Δx(mm)とf(表では「F(gf)」)とからktを求める表である。なお、数値等の以下に示す表の構成は例示に過ぎず、本発明において用いるテーブル(関係情報)の態様はこれに限定されない。
【0076】
【表1】
【0077】
組織が2層の場合は、例えば、以下の表2に示す2種類のテーブルを作成しておけばよい。層情報が1層目を示す情報であれば「1層目のテーブル」を用いてktを算出し、層情報が2層目を示す情報であれば「2層目のテーブル」を用いてktを算出する。
【0078】
【表2】
【0079】
組織が3層の場合は、例えば、以下の表3に示す3種類のテーブルを作成しておけばよい。層情報が1層目を示す情報であれば「1層目のテーブル」を用いてktを算出し、層情報が2層目を示す情報であれば「2層目のテーブル」を用いてktを算出し、層情報が3層目を示す情報であれば「3層目のテーブル」を用いてktを算出する。
【0080】
【表3】
【0081】
次に、測定対象組織mが2種類(m1、m2)の場合に必要なテーブルを示す。なお、m1及びm2は、それぞれ、例えば、皮下組織及び筋肉等のように組織の種類を示す情報である。
【0082】
まず、m1がm2の上にある組織の場合、以下の表4に示すようにm1のテーブルとm2のテーブルを作成する。
【0083】
【表4】
【0084】
組織の種類を示す情報がm1であるかm2であるかを取得すると共に、m1とm2のどちらが上にあるかを示す、組織の上下関係を示す情報を入手して、これらの情報に対応するテーブルを用いる。換言すれば、m1がm2の下にある場合には、そのことを示す上下関係を示す情報を入手して、以下の表5に示すm1のテーブルとm2のテーブルを作成する。このように上下関係によって用いるテーブルを分ける理由は、同じ種類の組織でも他の組織の上にあるか下にあるかによって弾性指標が異なるからである。
【0085】
【表5】
【0086】
組織が3層の場合は、これまでの説明と同様にテーブルを作成する。例えば、(i)m1、m21、m22となっている場合(m21、m22は同じ種類の組織だが2層構造になっている)、(ii)m11、m12、m2となっている場合(m11、m12は同じ組織だが2層構造になっている)、(iii)m11、m2、m12となっている場合(m11、m12はm2を挟んでいる)等には、それぞれの組織の種類、上下関係に応じたテーブルを作成すればよい。同じ種類の組織の場合は、組織の種類を示す情報にさらに1番目、2番目等の識別情報を関連付けて管理してもよいし、組織の種類を示す情報を同じにしておき、層情報で区別できるようにしてもよい。このように、層及び組織の種類の増加に応じてテーブルを追加すれば、様々な組織に対応した弾性指標を算出できる。なお、図5では1層の皮下脂肪(m1)と2層の筋肉層(m21、m22)の例を示している。
【0087】
また、これらのテーブルを年齢別、性別、人種別、身長別、体重別等に分けて作成してもよい。
【0088】
なお、本実施形態では上述したテーブルを用いる場合について説明するが、組織11を1次元のバネで単純化しフックの法則を適応してもよい。つまり、以下の数式を用いて弾性指標を算出してもよい。
F=−kΔx
ただし、Fは押し付け力、kは弾性指標、Δxは組織の移動量である。
【0089】
組織11を押し付け、弾性指標kを求めるためには、
k=−F/Δx
を計算すればよい。
【0090】
ここで、本発明に係る超音波生体組織測定装置を用いた硬度(弾性指標)の評価の一例について図5〜図10を用いて説明する。
【0091】
図5は、超音波生体組織測定装置1の解析部3の処理を説明するための図である。図5の上段の押し付け力の特性図は押し付け力の増減の態様を示す。
【0092】
図5の中段のイメージ画像は、エコー画像(Bモード)であり、その隣の特性図(線図:Aモード)はエコー画像における中心の点線の特性を表す。画像1は荷重150gfで20/100コマ目で取得した画像であり、画像2は荷重4500gfで90/100コマ目で取得した画像である。イメージ画像中の記号A、B、C、Dは、となりの線図における頂点位置を示す。なお、記号A、B、C、Dは、イメージ画像上の輝度が変化するAモードの特性位置を示す。具体的にはAからBまでが皮下脂肪を示し、BからCまでが筋肉の第一層を示し、CからDまでが筋肉の第二層を示す。下段の特性表は、画像1および画像2におけるA〜Dの位置までの端点からの距離と、画像1の値と画像2の値との差(計測値差異)と、変化率(単位面積当たりの力の値を意味し、次元は(N/m)又は(m3/kg))である。押し付け力が加えられたことにより、AからBまでの厚さ、BからCまでの厚さ、CからDまでの厚さが変化した。
【0093】
図6はエコー画像及び組織の層の位置を示す図である。人間の上腕前部のエコー画像を取得すると図6の(a)のようになり、大腿前部のエコー画像を取得すると図6の(b)のようになる。
【0094】
図7は、押し付け力を変化させたときの組織の様子、厚さの変化を示す図である。図7の(a)に示すように押し付け力を連続的に変化させると、図7の(b)に示すように組織部位が変化した。図7の(b)はエコー画像である。また、組織部位の変化に伴う各層の間隔表は図7の(c)に示すようになり、初期押し付け力からの変化率は図7の(d)に示す特性表のようになった。
【0095】
図8に、図7の(d)の初期押し付け力からの変化率の特性表をグラフ化したものを示す図である。
【0096】
図9は組織に押し付け力を加えたときの組織各層の伸縮態様を模式的に示す図である。層状の組織は図9の(a)のように複数のバネがつながったものに模式化できる。これに力Fを加えると図9の(b)のようになる。組織各層は全体的に伸縮する。
【0097】
図10は、組織のB−C層及びC−D層の押し付け力に対する弾性指標の特性図である。
【0098】
一般的に図8のように押し付け力に対して組織の厚さの変化は線形にはならない。これは押し付け力に伴って組織の硬度が増す、ひずみ硬化と呼ばれる現象である。そのため組織の評価のために必要となる、押し付け力に対して一定の(押し付け力に依存しない)指標を得るためには、押し付け力をある関数で変換し線形の近似を行なう必要がある。利用する関数を自然対数(ln)とし、Fを押し付け力、k’を弾性指標、Δxを組織の移動量とすると、
k’=−ln(F)/Δx
と表される。図10は押し付け力Fに対する弾性指標k’を計算してグラフ化したものである。
【0099】
以上のように、本実施形態では、超音波送受信部6、押し付け力受信部7、組織変形量検出部8等の部材を備える場合について説明したが、本発明に係る超音波生体組織測定装置は、このような構成に限定されるものではない。本発明に係る超音波生体組織測定装置は、押し付け力測定部から受信した測定結果と、超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出する弾性指標算出部を備え、押し付け力測定部は歪みセンサ又は圧力センサであればよい。
【0100】
〔超音波生体組織測定装置1の動作の例1〕
次に、図11を用いて超音波生体組織測定装置1の動作の一例について説明する。図11は超音波生体組織測定装置1の動作の一例を示すフロー図である。
【0101】
まず、メモリ(記録部)に、弾性指標kt、組織11の種類を示す情報、押し付け力による組織11の変化量Δx、層情報n及び押し付け力fの関係を表すテーブル並びに窓幅w、当該窓の移動間隔を記憶させておき(ステップS0)、その後、処理を開始する。
【0102】
次に、超音波送受信部6が超音波プローブ4から組織11の深度に応じた超音波を組織11に対して発するように制御する。そして、組織11からのエコーを超音波プローブ4を介して受信し、エコーの深度−輝度特性(1次元及び2次元)を得て、その深度−輝度特性(1次元及び2次元)を示す信号を組織変形量検出部8及び表示部10に出力する(ステップS1)。
【0103】
次に、組織変形量検出部8は、超音波送受信部6から受信した深度−輝度特性(1次元及び2次元)を示す信号に対して、メモリより読み出した窓幅wの窓を、メモリより読み出した移動間隔だけ、深さ方向にずらしながら最大値を算出していき、その最大値の曲線を求め、当該最大値が窓を窓幅の値だけ移動させても変化しない部分の中心位置を組織位置とする(ステップS2)。
【0104】
一方、押し付け力受信部7は、押し付け力測定センサ5から押し付け力の測定値Fを受信し、弾性指標算出部9に送信する(ステップS3)。
【0105】
弾性指標算出部9は、複数の押し付け力における組織位置の位置の変化量を、組織の厚さの変化量Δxとして、当該Δxと、押し付け力受信部7から得た押し付け力Fとを、メモリから読み出したテーブルに当てはめて、弾性指標ktを算出する。このとき、弾性指標を算出する対象の組織11の種類を示す情報及び層情報を、例えばユーザに入力を要求するなどして、入力部(図示せず)に入力させて、取得する。この組織11の種類を示す情報及び層情報の取得は、ステップS0のとき等、弾性指標算出部9による処理の前に予め行なっておいてもよいし、弾性指標算出部9が処理する過程で、ユーザに入力を要求して取得してもよい。次に、弾性指標算出部9は、算出したkt、算出に用いたΔx及び押し付け力Fを表示部10に送信する(ステップS4)。
【0106】
最後に、超音波送受信部6から受信したエコーの深度−輝度特性(1次元及び2次元)を示す情報、弾性指標算出部9から受信したΔx、押し付け力F及び弾性指標ktを表示部10が表示して(ステップS5)処理を終える。
【0107】
以上のように本発明によれば、組織の硬さに関する指標を容易に取得することができる。また、本発明によれば、超音波測定の精度を向上させることにより、体組織のように皮膚、脂肪、筋、骨等と階層構造をなす軟組織に対しても、各階層毎に弾性指標を算出できる。
【0108】
〔超音波生体組織測定装置1の動作の例2〕
超音波生体組織測定装置1の動作の別の例について説明する。この例では、皮下組織の種類によって異なる、押し付けによる変形で分類することで、組織の状態を判定する。例えば、皮下脂肪及び筋肉の厚みと、被験者がリンパ浮腫に該当するかとの相関情報を図12に示す。図12は、本発明における状態−厚さ相関情報の一例を示す図である。超音波プローブを押し付ける前の測定対象組織の厚さを横軸にし、初期皮下脂肪厚としている。また、超音波プローブを押し付けることによる測定対象組織の厚さの変化を含む指標として、大腿直筋厚変化に対する皮下脂肪厚変化を縦軸としている。これは図5における、AからBの厚さ/BからCの厚さである(図12中「A−B/B−C」と示している。)。測定対象の組織11の状態とは、図12のグラフのプロット領域を4種類に分類したもののうちの、所属する領域である。領域I及び領域IIはリンパ浮腫の症例が無いグループであり、領域III及び領域IVはリンパ浮腫の症例があるグループである。図12中に、四角枠で囲った数字は被験者の番号を示す。また、エラーバーは図13に基づいて算出したものである。図13は被験者毎の大腿直筋厚と皮下脂肪厚との関係を示す図である。図13に示すように被験者毎の大腿直筋厚及び皮下脂肪厚をグラフ上にプロットした上で、直線回帰させる。そのとき算出される標準誤差が上記エラーバーである。
【0109】
図12のグラフで示される、状態−厚さ相関情報は、弾性指標算出部9のメモリ等に保存されていてもよく、外部の記録媒体に保存されていてもよい。
【0110】
超音波プローブ4により、組織11の厚さの変化を測定し、測定結果が弾性指標算出部9に送られ、弾性指標算出部9が状態−厚さ相関情報に基づいて、測定した組織11の厚さの変化に対応する組織11の状態を判定する。つまり、弾性指標算出部9は、組織11が領域I〜IVのいずれの領域に属するかを判定する。組織11がいずれの領域に属するかという結果が、弾性指標の一つである。即ち、組織11が属する領域は、組織11の弾性の指標ということができる。症例があるか否かと弾性とに相関関係があるからである。なお、初期の皮下脂肪の厚さは予め弾性指標算出部9のメモリ又は外部の記録媒体等に保存しておけばよい。
【0111】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、組織の硬さ及び柔らかさ等の質を、非侵襲で測定することが求められる分野、例えば健康医療、農業(肉質の評価)、漁業(肉質の評価)で利用することができる。また超音波プローブ部分に移動機構等の大がかりな装置が必要ないので、屋内だけでなく屋外等に持ち運ぶための携帯用の装置としても使用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 超音波生体組織測定装置
2、202、202’、202’’ 測定部
3 解析部
4、204、 超音波プローブ
5 押し付け力測定センサ(押し付け力測定部、歪みセンサ)
6 超音波送受信部
7 押し付け力受信部
8 組織変形量検出部
9 弾性指標算出部
10 表示部
11 組織(測定対象組織)
204a 端面
205 押し付け力測定センサ(押し付け力測定部、圧力センサ)
212 筐体
212a 開口部
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波生体組織測定装置に関するものであり、例えば、組織に対する押し付け力と組織の厚さの変化から組織の硬さに関する情報を得ることができる超音波生体組織測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の医療現場で使用されている超音波エコー装置は、映し出される画像の形状から組織の状態を診断している。その際、経験的にプローブを体に押し付けて組織の同定の参考にしている。
【0003】
従来の超音波エコー装置に組織弾性率を測定できる機能を付加したエラストグラフィーという装置が開発されている。これはプローブを体に押し付け組織の変形の程度を画像から読み取り、そのひずみ量から相対的な弾性率を推定する装置である。装置の構成は通常の超音波エコー装置と同じである。押し付け前後の超音波信号から装置に組み込まれたソフトウェアで計算している。この装置では押し付け力を測定していないため、弾性率は周りの組織に対する相対的な値しか得られない。
【0004】
既存特許などでは、押し付け力及びプローブの移動量を測定し、硬さに関する値を計算する技術がある。例えば、下記の技術がある。
【0005】
(1)特許文献1に記載されている超音波を利用した軟組織の粘弾性推定装置及びプログラムに関する技術は、体組織のように皮膚、脂肪、筋、骨等と階層構造をなす軟組織に対しても、各階層に弾性、粘性、慣性を推定することを目的とする技術である。具体的には、超音波信号を送受信するための超音波プローブと、そこで受信したデータの時間変化から対象物形状の変形量を計算する対象物変形量計算部と、超音波プローブを移動させるための移動機構と、それを制御するプローブ制御部と、プローブの位置を計測するための位置センサと、プローブ部に負荷される力を計測する力センサと、位置センサ、力センサ、対象物変形量計算部のそれぞれから得られる値をもとに対象物の粘弾性を推定する粘弾性推定部と、推定した粘弾性を使用者に提示する粘弾性表示部から構成されている。
【0006】
(2)特許文献2には超音波診断装置が記載されている。具体的には、磁気センサに代表される3次元の位置情報を検出する位置検出手段を超音波探触子に取り付け、位置検出手段が、ある点に固定された基点をもとに、磁気センサにより空間位置を把握する。
【0007】
(3)特許文献3には超音波探触子及び超音波診断装置に関する技術が記載されている。具体的には、超音波探触子の被検体に当接する当接面に設けられている振動子の周囲に圧力伝達媒体を満たしたチューブを設け、チューブ内の圧力伝達媒体の圧力を検出する圧力センサを設け、これによって、外部の測定機器などでこの超音波探触子の当接面が被検体に押し付けられる接触圧力を測定する。
【0008】
(4)特許文献4にはエラストグラフィー測定、撮像法及びこの方法を実施する装置に関する技術が記載されている。具体的には、標準型トランスデューサ又は軸方向に並進されるトランスデューサデバイスを使用し、ターゲット体の近位端区域を既知の小増分だけ圧縮または移動させる。ここで、各増分において、パルスが放出され、ターゲット中の音走行通路またはトランスデューサビームに沿った区域からエコー系列(A−ライン)が検出される。ターゲット中のフィーチャに対応するエコーセグメント中の時間ずれが音通路にそって音速の変動する各区域について修正されて、圧縮によって生じた歪に関する相対的定量的情報を提供する。
【0009】
(5)特許文献5には超音波診断装置に関する技術が記載されている。具体的には、断層走査手段によって得た時系列の二つの断層像間で演算を行なって断層像上の各点の移動量又は変位を計測する変位計測手段と、被検体の診断部位の体腔内圧力を計測又は推定する圧力計測手段と、各計測手段で求めた変位及び圧力から断層像上の各点の弾性率を演算して弾性画像データを生成する弾性率演算手段と、弾性率演算手段からの弾性画像データを入力して色相情報を付与する色相情報変換手段と、断層走査手段からの白黒の断層像データと色相情報変換手段からのカラーの弾性画像データとを加算又は切り換える切換加算手段とを備え、切換加算手段からの画像データを画像表示手段に表示するようにしたものである。
【0010】
(6)特許文献6には生体軟組織の硬さ検出方法及びこれに用いる検出装置に関する技術が記載されている。具体的には、この検出装置は、対物接触振動子及び振動検出部からなるセンサ部と、該センサ部からの出力信号を増幅器で増幅し、これを帯域フィルター又はピーキング増幅器を通して、対物接触振動子に強制帰還してなる自励発振回路部と、該自励発振回路の周波数変化量を計測する計測部とから構成されている。
【0011】
(7)特許文献7には、探触子を被測定部に押圧したときの押圧力と押圧前後の筋肉層の厚さの変化量とから筋肉層の圧縮率を演算する筋肉硬さ測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−144155号公報(2005年6月9日公開)
【特許文献2】特開2004−89362号公報(2004年3月25日公開)
【特許文献3】特開平08−033623号公報(1996年2月6日公開)
【特許文献4】特表2001−519674号公報(2001年10月23日公開)
【特許文献5】特開平05−317313号公報(1993年12月3日公開)
【特許文献6】特開平8−29312号公報(1996年2月2日公開)
【特許文献7】特開2008−168063号公報(2008年7月24日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の技術は、押し付け力の測定機構に加えて、組織の変形量を計算するためプローブの移動量を何らかの形で測定する必要があり、そのため移動量を測定するための機構が必要となり、装置機構が大がかりになり、実際の測定現場では使いにくい。また、使用時にプローブ周りの取り回しが困難になり、また可搬性を確保することが難しいという問題がある。
【0014】
特許文献2に記載の技術は、プローブの3次元位置情報を検出する機構が必要となる。また、押し付け力の測定は行わない。
【0015】
特許文献3に記載の技術は、押し付け力を測定し、プローブと生体の接触圧力が所定の圧力以上になった場合に、アラーム音等による警告を発する技術であり、正確な測定ができない。
【0016】
特許文献4に記載の技術は、モータで超音波プローブを移動し、組織を変形させるので、モータ周りの制御装置等を別途必要とし、更に押し付け力の測定は行わない。
【0017】
特許文献5に記載の技術は、生体内に圧力センサを挿入して内部応力を測定する侵襲方式である。
【0018】
特許文献6に記載の技術は、超音波の周波数を変化させて弾性率を測定する技術であり、測定結果から周波数の影響を排除する校正処理が困難な処理となり、実用的でない。
【0019】
特許文献7に記載の技術は、押圧した際の筋肉の圧縮率を算出するが、組織の硬さを測定することはできない。また、圧力センサとの探触子との間にバネがあるため正確に押圧力を測定することができない。
【0020】
本発明の目的は、上記従来例の問題点に鑑み、非侵襲で、超音波プローブの押し付け力と組織の変形の関係から組織の硬さに関する値を算出することができる超音波生体組織測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明に係る超音波生体組織測定装置は、測定対象組織に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブと、
測定対象組織に対して、上記超音波プローブを押し付ける力を測定する押し付け力測定部と、弾性指標算出部とを備え、上記弾性指標算出部は上記押し付け力測定部から受信した測定結果と、上記超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出するものであり、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサ、又は、上記超音波プローブが筐体に格納されており、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサである。
【0022】
上記の構成によれば、組織に対する押し付け力に対応した組織の厚さの変化と、押し付け力とに基づいて、弾性指標算出部が組織の弾性指標を、非侵襲で、算出できる。また、歪みセンサ又は圧力センサによって、押し付け及び押し付け力の測定を簡便に行なうことができる。
【0023】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサであってもよい。
【0024】
超音波プローブ自体の歪みを押し付け力測定部が直接測定するので、測定部の構造を簡易にすることができる。
【0025】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記超音波プローブが、開口部を有する筐体に、当該開口部から上記超音波プローブの測定対象組織に押し付ける端面が出た状態で、格納されており、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサであり、上記圧力センサは、上記端面の重心を通り、上記端面に垂直な線上であって、上記超音波プローブの表面と上記筐体との間に設置されていてもよい。
【0026】
上記端面の重心上に圧力センサが設置されていることにより、超音波プローブを押し付けたときに発生する超音波プローブと筐体との間の圧力をより正確に測定することができる。例えば、上記端面の重心上に圧力センサがないとき、当該端面に垂直で圧力センサを通る直線と当該端面とが交わる点から重心の距離に応じたモーメントの影響を受けるが、上記構成によればこのモーメントの影響を抑制して圧力を測定できる。
【0027】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記弾性指標算出部は、予め設定されている、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報との関係を示す関係情報から、測定された変化量及び押し付け力に基づいて弾性指標を算出するものであることがより好ましい。
【0028】
上記関係情報にて、測定対象組織の厚さの変化量、測定対象組織に対する押し付け力及び測定対象組織が層構造であるときにどこの層が測定対象であるかを示す情報と弾性指標との関係が予め定まっているので、上記関係情報に基づいてより正確に弾性指標を算出することができる。また、例えば、測定対象組織の種類を予め決定しておき、当該種類の組織に対応した関係情報を予め設定しておく(メモリ等の記録部に記録させておく)ことによって、より正確に当該測定対象組織の弾性指標を算出することができる。
【0029】
また、本発明に係る超音波生体組織測定装置では、上記関係情報は、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報と、さらに、測定対象組織の種類を示す情報との関係を示す情報であることがより好ましい。
【0030】
関係情報に測定対称組織の種類を示す情報が含まれることにより、様々な種類の組織について弾性指標を算出することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、測定対象組織に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブと、測定対象組織に対して、上記超音波プローブを押し付ける力を測定する押し付け力測定部と、弾性指標算出部とを備え、上記弾性指標算出部は上記押し付け力測定部から受信した測定結果と、上記超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出するものであり、上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサ、又は、上記超音波プローブが筐体に格納されており、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサであるので、超音波プローブの押し付け力と組織の変形の関係から組織の硬さに関する値を、非侵襲で、算出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1が備える測定部2の構成を模式的に示す図である。
【図3】超音波による組織の測定方法の種類を示す図である。
【図4】組織位置を求める方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の処理を説明するための図である。
【図6】エコー画像及び組織の層の位置を示す図である。
【図7】押し付け力を変化させたときの組織の様子、厚さの変化を示す図である。
【図8】図7の(d)の初期押し付け力からの変化率の特性表をグラフ化したものを示す図である。
【図9】組織に押し付け力を加えたときの組織各層の伸縮態様を模式的に示す図である。
【図10】図5における組織のB−C層及びC−D層の押し付け力に対する弾性指標の特性図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の動作の一例を示すフロー図である。
【図12】本発明における状態−厚さ相関情報の一例を示す図である。
【図13】被験者毎の大腿直筋厚と皮下脂肪厚との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る超音波生体組織測定装置の一実施形態について、詳細に説明する。
【0034】
<超音波生体組織測定装置1の構成>
まず、本実施形態に係る超音波生体組織測定装置1の構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は超音波生体組織測定装置1の構成を模式的に示す図である。図2は測定部2の構成を模式的に示す図である。図1に示すように超音波生体組織測定装置1は、測定部2、解析部3を備えている。なお、本実施形態では、組織(測定対象組織)11の硬度を測定するものとする。
【0035】
〔測定部2の構成〕
測定部2は、超音波プローブ4及び押し付け力測定センサ(押し付け力測定部)5を備えている。
【0036】
測定部2は、図2の(a)に示すように、超音波プローブ4の周囲に4つの押し付け力測定センサ5が貼り付けられている。押し付け力測定センサ5は、超音波プローブ4が組織11に押し付けられたときに生じる超音波プローブ4の歪みを測定する歪みセンサである。また、本実施形態では測定部2は矢印Aの方向に組織11に押し付けられる。
【0037】
超音波プローブ4の材質としては、超音波を発し且つ反射してくる超音波(エコー)を検知することが可能であり、組織に押し付けられることによって歪みを生じるものであればよく、例えば、金属、高分子材料、ABS樹脂、PBT、アクリル、ポリカーボネイト、それらの複合体等が挙げられる。また、超音波プローブ4は組織11から反射した超音波を後述の超音波送受信部6に送信するための超音波信号に変換する。
【0038】
また、押し付け力測定センサ5(歪みセンサ)としては、超音波プローブ4の歪みを測定できるものであればよく、例えば、従来公知の歪みセンサを採用できる。押し付け力測定センサ5を設ける位置としては、超音波プローブ4の歪みを測定できる位置であればよいが、2個の押し付け力測定センサ5が、超音波プローブ4の表面上であって、超音波プローブ4の組織11に押し付けられる端面の中心を通る線上の互いに対称に配置することが好ましい。これにより、超音波プローブ4を押し付ける力をより正確に測定できる。また、このように対称に配置された2個1組の押し付け力測定センサ5を図2の(a)に示すように2組設けることがより好ましく、より正確に測定する観点から3組以上であってもよい。
【0039】
なお、符号12はケーブルを示している。ケーブル12は、解析部3から超音波プローブ4に超音波を発するための信号を伝え、超音波プローブ4が検知した超音波の信号を解析部3に伝え、また、押し付け力測定センサ5が測定した歪みを示す信号を解析部3に伝えるためのケーブルである。なお、後述の測定部2の変形例においては、ケーブル12は歪みではなく、ロードセルが測定した圧力を解析部3に伝える。なお、ケーブル12の代わりに電磁波、赤外線等で測定部2から解析部3に歪み、圧力等を伝えてもよい。
【0040】
(測定部2の別の形態1)
ここで、測定部2の別の形態について説明する。
【0041】
測定部2の別の形態の一つである測定部202は、図2の(b)に示すように、超音波プローブ204、押し付け力測定センサ205、筐体212を備えている。
【0042】
超音波プローブ204は超音波プローブ4とほぼ同じ構成であるが、筐体212の内側に設けられた平行移動確保用溝に突合するための平行移動確保用突起213が形成されている点で異なる。平行移動確保用溝及びこれに突合するための平行移動確保用突起213が形成されていることにより、超音波プローブ204を矢印A方向へより正確に移動させ、押し付け力測定センサ205により、正確に、超音波プローブ204と筐体212との間に生じる圧力を測定することができる。但し、本形態については、後述のように押し付け力測定センサ205が端面204aの重心を通り端面204aに垂直な線上(押し付ける方向に平行な線上)にあるので、押し付け力測定センサ205は、平行移動確保用溝及び平行移動確保用突起213が無くても超音波プローブ204と筐体212との間の圧力を正確に測定することができる。
【0043】
また、超音波プローブ204の端面204aが、組織11に押し付けられ、端面204aから超音波を発し、また、端面204aにて組織11から反射してきた超音波を受ける。
【0044】
筐体212は超音波プローブ204を格納するものである。筐体212は開口部212aを有している。超音波プローブ204は、開口部212aから端面204aが筐体212の外に出た状態で格納されている。
【0045】
押し付け力測定センサ205は、超音波プローブ204が組織11に押し付けられたときに超音波プローブ204が筐体212に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサである。押し付け力測定センサ205の具体例としては、例えば、従来公知のロードセルが挙げられる。
【0046】
押し付け力測定センサ205(圧力センサ)は、端面204aの重心を通り、端面204aに垂直な線上(本形態において押し付ける方向に平行な線上と一致している)であって、超音波プローブ204の表面と筐体212との間に設置されている。これにより、超音波プローブ204と筐体212との間の圧力を正確に測定できる。つまり、後述する図2の(e)のモーメントBを排除して当該圧力を正確に測定できる。また、特許文献7のように超音波プローブと圧力センサとの間にバネ等の弾性体を備えていないので、弾性体による影響を受けず圧力を正確に測定することができる。
【0047】
(測定部2の別の形態2)
測定部2の別の形態である測定部202’について図2の(c)を用いて説明する。なお、説明の便宜上、上記測定部2の別の形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0048】
測定部202’は、押し付け力測定センサ205の数及び位置が測定部202と異なる。つまり、押し付け力測定センサ205は、2個設けられている。そして、2個の押し付け力測定センサ205は、互いに、端面204aの重心上であって、押し付け方向に平行な直線を中心として対象に設置されている。このような配置であれば、後述する図2の(e)のモーメントBを排除して当該圧力を正確に測定できる。
【0049】
(測定部2の別の形態3)
測定部2の別の形態である測定部202’’について図2の(d)及び図2の(e)を用いて説明する。なお、説明の便宜上、上記測定部2の別の形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0050】
測定部202’’は、押し付け力測定センサ205の位置が測定部202と異なる。つまり、図2の(d)に示すように押し付け力測定センサ205は、測定部202のように、端面204aの重心を通り、端面204aに垂直な線上(押し付ける方向に平行な線上)ではない場所に設けられている。そのため、超音波プローブ204を、より正確に矢印Aの方向に移動させることが必要であるため平行移動確保用溝及び平行移動確保用突起213を設けることが好ましい。
【0051】
また、平行移動確保用溝及び平行移動確保用突起213を設けたとしても、測定部202’を組織11に押し付けると、図2の(e)に示す矢印Bの方向にモーメントが発生し、正確な押し付け力を測定できない場合がある。よって、このモーメントを補正する計算を行なうことが好ましい。
【0052】
〔解析部3の構成〕
解析部3は超音波送受信部6、押し付け力受信部7、組織変形量検出部8、弾性指標算出部9及び表示部10を備えている。
【0053】
超音波送受信部6は、超音波プローブ4に超音波を発せさせる発信信号を送信するものであり、且つ、組織11から反射して超音波プローブ4によって変換された超音波信号を受信して、組織変形量検出部8及び表示部10に出力するものである。例えば、超音波送受信部6は電圧によって超音波プローブ4による超音波の発射を制御する。
【0054】
押し付け力受信部7は、押し付け力測定センサ5から受信した測定結果を弾性指標算出部9に送信するものである。
【0055】
組織変形量検出部8は、超音波送受信部6から受信した超音波信号から組織11の厚さの変化を検出し、検出結果を弾性指標算出部9へ出力するものである。ここで、厚さとは、組織11における力の押し付け方向の厚さをいい、厚さの変化は、組織11の表面から押し付け方向における位置座標xの、力を押し付けられたことによる位置の変化であるΔxで表すことができる。
【0056】
弾性指標算出部9は押し付け力受信部7から受信した測定結果と組織変形量検出部8から受信した組織11の厚さの変化から組織11の弾性指標を算出するものである。具体的な計算方法については後述する。また、算出結果を表示部10に送信する。
【0057】
表示部10は、弾性指標算出部9が算出した弾性指標等の様々な情報を表示するものである。
【0058】
〔組織変形量の測定〕
次に、組織変形量検出部8が行なう組織変形量の測定方法について、図3及び図4を用いて説明する。
【0059】
超音波による測定には、Bモードと呼ばれる超音波信号の振幅を輝度に変換して2次元画像として表示する方法と、Aモードと呼ばれる超音波の振幅を曲線として描く方法がある。図3にAモードとBモードの例を示す。図3は超音波による組織の測定方法の種類を示す図である。
【0060】
図3の(a)はBモード(輝度モード)の2次元画像で、破線方向が組織の表面からの深さ方向で、画像中白色部分は輝度が高い箇所で黒色部分は輝度が低い箇所を表す。
【0061】
図3の(b)はAモード(輝度の振幅モード)の特性図で、Bモードの2次元画像における破線部(1次元画像)の輝度変化特性を表し、その縦軸は組織の深さ方向の距離を表し、その横軸は輝度値を表す。Bモード画像中の破線部の輝度を抜き出して超音波信号の変化として表示したグラフがAモードに相当する。
【0062】
各組織の変形量は、このAモードの超音波信号変化から求める。
【0063】
位置の変化を算出する基準となる位置(組織位置)を求める方法について図4を用いて説明する。図4は組織位置を求める方法を説明するための説明図である。図4において縦軸は輝度値、横軸は深さ方向の距離を表す。予め、超音波信号(エコー信号)は、組織11から反射して超音波プローブ4によって電圧に変換された超音波信号として超音波送受信部6から出力されている。
【0064】
そこで、図4に示すxを組織の表面からの深さ方向の位置とすると、組織変形量検出部8は、超音波送受信部6を介して得た超音波信号(エコー信号)変化b(x)に対してある幅をもった窓を設定し、その窓幅Wの中で超音波信号の最大値を見つけ出す。この窓を順次、窓の幅より小さい間隔(十分に小さい間隔が好ましく、例えば窓の幅の1/10)の間隔でx軸方向にずらしながら最大値の曲線p(x)を求める。数式で表すと下記数式1のようになる。maxは最大値を求める関数である。
【0065】
【数1】
【0066】
この最大値が予め設定した値(許容変動値At)以上に変化しない部分が窓幅W以上連続している部分の中心位置を組織の位置(組織位置)とする。窓幅を組織の厚みが最小となる値とすることで適切に組織の位置を同定することができる。押し付け力によって変化する組織の厚みの変化(Δx)は、2種類の押し付け力による組織の厚みを比較することで算出できる。生体組織において上腕部又は大腿部では皮下脂肪部分が組織の厚さの最小となるので、窓幅は10mmとすることが適切である。
【0067】
〔弾性指標の算出〕
次に、弾性指標算出部9による弾性指標の算出方法の例を説明する。
【0068】
本実施形態では、弾性指標算出部9は、予め設定されている、弾性指標と、組織11の厚さの変化量と、組織11に対する押し付け力と、組織11が層構造であるときにどこの層かを表す情報(以下、説明の便宜のため「層情報」という)と、組織11の種類を示す情報との関係を示す関係情報から、測定された変化量及び押し付け力に基づいて弾性指標を計算する。
【0069】
関係情報の具体的な態様は、例えば、テーブルである。つまり、弾性指標と、組織11の厚さの変化量と、組織11に対する押し付け力と、層情報と、組織11の種類を示す情報との関係をテーブルにしておき、測定された変化量及び押し付け力、並びに、例えばユーザ等によって入力された測定対象組織の種類及び層情報とに基づいて弾性指標を算出する。一般式で表すと次の式(2)で表される。
【0070】
kt=TABLE(m,Δx,n,f)・・・(2)
式(2)において、ktは弾性指標であり、mは組織11の種類を示す情報であり、Δxは組織11の厚さの変化量であり、nは層情報であり、fは組織11に対する押し付け力である。
【0071】
テーブルは記憶部(図示せず)に予め格納しておき、必要に応じて弾性指標算出部9が当該テーブルを読み出せるようにしておけばよい。
【0072】
なお、層情報とは、例えば、弾性指標の算出対象の組織が、筋肉の層の上から1番目、2番目・・・のいずれであるかを示す情報であり、組織11の表皮からの位置番号を予め決めておいて当該位置番号で表してもよい。
【0073】
また、組織の種類を示す情報とは、測定対象の組織が筋肉か皮下脂肪か等を示す情報である。測定対象の組織が予め固定されている場合には、組織の種類を示す情報を除いたテーブルにしてもよい。つまり、例えば、測定対象の組織が筋肉であることが予め決まっている場合、筋肉用のテーブルを作成して記憶部に格納しておけばよい。
【0074】
ここで、テーブルについて例示する。まずは、測定対象組織mが1種類の場合に必要なテーブルについて説明する。
【0075】
測定対象組織mの組織が1層の場合は、例えば表1に示すテーブルを作成しておけばよい。以下のテーブルは、Δx(mm)とf(表では「F(gf)」)とからktを求める表である。なお、数値等の以下に示す表の構成は例示に過ぎず、本発明において用いるテーブル(関係情報)の態様はこれに限定されない。
【0076】
【表1】
【0077】
組織が2層の場合は、例えば、以下の表2に示す2種類のテーブルを作成しておけばよい。層情報が1層目を示す情報であれば「1層目のテーブル」を用いてktを算出し、層情報が2層目を示す情報であれば「2層目のテーブル」を用いてktを算出する。
【0078】
【表2】
【0079】
組織が3層の場合は、例えば、以下の表3に示す3種類のテーブルを作成しておけばよい。層情報が1層目を示す情報であれば「1層目のテーブル」を用いてktを算出し、層情報が2層目を示す情報であれば「2層目のテーブル」を用いてktを算出し、層情報が3層目を示す情報であれば「3層目のテーブル」を用いてktを算出する。
【0080】
【表3】
【0081】
次に、測定対象組織mが2種類(m1、m2)の場合に必要なテーブルを示す。なお、m1及びm2は、それぞれ、例えば、皮下組織及び筋肉等のように組織の種類を示す情報である。
【0082】
まず、m1がm2の上にある組織の場合、以下の表4に示すようにm1のテーブルとm2のテーブルを作成する。
【0083】
【表4】
【0084】
組織の種類を示す情報がm1であるかm2であるかを取得すると共に、m1とm2のどちらが上にあるかを示す、組織の上下関係を示す情報を入手して、これらの情報に対応するテーブルを用いる。換言すれば、m1がm2の下にある場合には、そのことを示す上下関係を示す情報を入手して、以下の表5に示すm1のテーブルとm2のテーブルを作成する。このように上下関係によって用いるテーブルを分ける理由は、同じ種類の組織でも他の組織の上にあるか下にあるかによって弾性指標が異なるからである。
【0085】
【表5】
【0086】
組織が3層の場合は、これまでの説明と同様にテーブルを作成する。例えば、(i)m1、m21、m22となっている場合(m21、m22は同じ種類の組織だが2層構造になっている)、(ii)m11、m12、m2となっている場合(m11、m12は同じ組織だが2層構造になっている)、(iii)m11、m2、m12となっている場合(m11、m12はm2を挟んでいる)等には、それぞれの組織の種類、上下関係に応じたテーブルを作成すればよい。同じ種類の組織の場合は、組織の種類を示す情報にさらに1番目、2番目等の識別情報を関連付けて管理してもよいし、組織の種類を示す情報を同じにしておき、層情報で区別できるようにしてもよい。このように、層及び組織の種類の増加に応じてテーブルを追加すれば、様々な組織に対応した弾性指標を算出できる。なお、図5では1層の皮下脂肪(m1)と2層の筋肉層(m21、m22)の例を示している。
【0087】
また、これらのテーブルを年齢別、性別、人種別、身長別、体重別等に分けて作成してもよい。
【0088】
なお、本実施形態では上述したテーブルを用いる場合について説明するが、組織11を1次元のバネで単純化しフックの法則を適応してもよい。つまり、以下の数式を用いて弾性指標を算出してもよい。
F=−kΔx
ただし、Fは押し付け力、kは弾性指標、Δxは組織の移動量である。
【0089】
組織11を押し付け、弾性指標kを求めるためには、
k=−F/Δx
を計算すればよい。
【0090】
ここで、本発明に係る超音波生体組織測定装置を用いた硬度(弾性指標)の評価の一例について図5〜図10を用いて説明する。
【0091】
図5は、超音波生体組織測定装置1の解析部3の処理を説明するための図である。図5の上段の押し付け力の特性図は押し付け力の増減の態様を示す。
【0092】
図5の中段のイメージ画像は、エコー画像(Bモード)であり、その隣の特性図(線図:Aモード)はエコー画像における中心の点線の特性を表す。画像1は荷重150gfで20/100コマ目で取得した画像であり、画像2は荷重4500gfで90/100コマ目で取得した画像である。イメージ画像中の記号A、B、C、Dは、となりの線図における頂点位置を示す。なお、記号A、B、C、Dは、イメージ画像上の輝度が変化するAモードの特性位置を示す。具体的にはAからBまでが皮下脂肪を示し、BからCまでが筋肉の第一層を示し、CからDまでが筋肉の第二層を示す。下段の特性表は、画像1および画像2におけるA〜Dの位置までの端点からの距離と、画像1の値と画像2の値との差(計測値差異)と、変化率(単位面積当たりの力の値を意味し、次元は(N/m)又は(m3/kg))である。押し付け力が加えられたことにより、AからBまでの厚さ、BからCまでの厚さ、CからDまでの厚さが変化した。
【0093】
図6はエコー画像及び組織の層の位置を示す図である。人間の上腕前部のエコー画像を取得すると図6の(a)のようになり、大腿前部のエコー画像を取得すると図6の(b)のようになる。
【0094】
図7は、押し付け力を変化させたときの組織の様子、厚さの変化を示す図である。図7の(a)に示すように押し付け力を連続的に変化させると、図7の(b)に示すように組織部位が変化した。図7の(b)はエコー画像である。また、組織部位の変化に伴う各層の間隔表は図7の(c)に示すようになり、初期押し付け力からの変化率は図7の(d)に示す特性表のようになった。
【0095】
図8に、図7の(d)の初期押し付け力からの変化率の特性表をグラフ化したものを示す図である。
【0096】
図9は組織に押し付け力を加えたときの組織各層の伸縮態様を模式的に示す図である。層状の組織は図9の(a)のように複数のバネがつながったものに模式化できる。これに力Fを加えると図9の(b)のようになる。組織各層は全体的に伸縮する。
【0097】
図10は、組織のB−C層及びC−D層の押し付け力に対する弾性指標の特性図である。
【0098】
一般的に図8のように押し付け力に対して組織の厚さの変化は線形にはならない。これは押し付け力に伴って組織の硬度が増す、ひずみ硬化と呼ばれる現象である。そのため組織の評価のために必要となる、押し付け力に対して一定の(押し付け力に依存しない)指標を得るためには、押し付け力をある関数で変換し線形の近似を行なう必要がある。利用する関数を自然対数(ln)とし、Fを押し付け力、k’を弾性指標、Δxを組織の移動量とすると、
k’=−ln(F)/Δx
と表される。図10は押し付け力Fに対する弾性指標k’を計算してグラフ化したものである。
【0099】
以上のように、本実施形態では、超音波送受信部6、押し付け力受信部7、組織変形量検出部8等の部材を備える場合について説明したが、本発明に係る超音波生体組織測定装置は、このような構成に限定されるものではない。本発明に係る超音波生体組織測定装置は、押し付け力測定部から受信した測定結果と、超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出する弾性指標算出部を備え、押し付け力測定部は歪みセンサ又は圧力センサであればよい。
【0100】
〔超音波生体組織測定装置1の動作の例1〕
次に、図11を用いて超音波生体組織測定装置1の動作の一例について説明する。図11は超音波生体組織測定装置1の動作の一例を示すフロー図である。
【0101】
まず、メモリ(記録部)に、弾性指標kt、組織11の種類を示す情報、押し付け力による組織11の変化量Δx、層情報n及び押し付け力fの関係を表すテーブル並びに窓幅w、当該窓の移動間隔を記憶させておき(ステップS0)、その後、処理を開始する。
【0102】
次に、超音波送受信部6が超音波プローブ4から組織11の深度に応じた超音波を組織11に対して発するように制御する。そして、組織11からのエコーを超音波プローブ4を介して受信し、エコーの深度−輝度特性(1次元及び2次元)を得て、その深度−輝度特性(1次元及び2次元)を示す信号を組織変形量検出部8及び表示部10に出力する(ステップS1)。
【0103】
次に、組織変形量検出部8は、超音波送受信部6から受信した深度−輝度特性(1次元及び2次元)を示す信号に対して、メモリより読み出した窓幅wの窓を、メモリより読み出した移動間隔だけ、深さ方向にずらしながら最大値を算出していき、その最大値の曲線を求め、当該最大値が窓を窓幅の値だけ移動させても変化しない部分の中心位置を組織位置とする(ステップS2)。
【0104】
一方、押し付け力受信部7は、押し付け力測定センサ5から押し付け力の測定値Fを受信し、弾性指標算出部9に送信する(ステップS3)。
【0105】
弾性指標算出部9は、複数の押し付け力における組織位置の位置の変化量を、組織の厚さの変化量Δxとして、当該Δxと、押し付け力受信部7から得た押し付け力Fとを、メモリから読み出したテーブルに当てはめて、弾性指標ktを算出する。このとき、弾性指標を算出する対象の組織11の種類を示す情報及び層情報を、例えばユーザに入力を要求するなどして、入力部(図示せず)に入力させて、取得する。この組織11の種類を示す情報及び層情報の取得は、ステップS0のとき等、弾性指標算出部9による処理の前に予め行なっておいてもよいし、弾性指標算出部9が処理する過程で、ユーザに入力を要求して取得してもよい。次に、弾性指標算出部9は、算出したkt、算出に用いたΔx及び押し付け力Fを表示部10に送信する(ステップS4)。
【0106】
最後に、超音波送受信部6から受信したエコーの深度−輝度特性(1次元及び2次元)を示す情報、弾性指標算出部9から受信したΔx、押し付け力F及び弾性指標ktを表示部10が表示して(ステップS5)処理を終える。
【0107】
以上のように本発明によれば、組織の硬さに関する指標を容易に取得することができる。また、本発明によれば、超音波測定の精度を向上させることにより、体組織のように皮膚、脂肪、筋、骨等と階層構造をなす軟組織に対しても、各階層毎に弾性指標を算出できる。
【0108】
〔超音波生体組織測定装置1の動作の例2〕
超音波生体組織測定装置1の動作の別の例について説明する。この例では、皮下組織の種類によって異なる、押し付けによる変形で分類することで、組織の状態を判定する。例えば、皮下脂肪及び筋肉の厚みと、被験者がリンパ浮腫に該当するかとの相関情報を図12に示す。図12は、本発明における状態−厚さ相関情報の一例を示す図である。超音波プローブを押し付ける前の測定対象組織の厚さを横軸にし、初期皮下脂肪厚としている。また、超音波プローブを押し付けることによる測定対象組織の厚さの変化を含む指標として、大腿直筋厚変化に対する皮下脂肪厚変化を縦軸としている。これは図5における、AからBの厚さ/BからCの厚さである(図12中「A−B/B−C」と示している。)。測定対象の組織11の状態とは、図12のグラフのプロット領域を4種類に分類したもののうちの、所属する領域である。領域I及び領域IIはリンパ浮腫の症例が無いグループであり、領域III及び領域IVはリンパ浮腫の症例があるグループである。図12中に、四角枠で囲った数字は被験者の番号を示す。また、エラーバーは図13に基づいて算出したものである。図13は被験者毎の大腿直筋厚と皮下脂肪厚との関係を示す図である。図13に示すように被験者毎の大腿直筋厚及び皮下脂肪厚をグラフ上にプロットした上で、直線回帰させる。そのとき算出される標準誤差が上記エラーバーである。
【0109】
図12のグラフで示される、状態−厚さ相関情報は、弾性指標算出部9のメモリ等に保存されていてもよく、外部の記録媒体に保存されていてもよい。
【0110】
超音波プローブ4により、組織11の厚さの変化を測定し、測定結果が弾性指標算出部9に送られ、弾性指標算出部9が状態−厚さ相関情報に基づいて、測定した組織11の厚さの変化に対応する組織11の状態を判定する。つまり、弾性指標算出部9は、組織11が領域I〜IVのいずれの領域に属するかを判定する。組織11がいずれの領域に属するかという結果が、弾性指標の一つである。即ち、組織11が属する領域は、組織11の弾性の指標ということができる。症例があるか否かと弾性とに相関関係があるからである。なお、初期の皮下脂肪の厚さは予め弾性指標算出部9のメモリ又は外部の記録媒体等に保存しておけばよい。
【0111】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、組織の硬さ及び柔らかさ等の質を、非侵襲で測定することが求められる分野、例えば健康医療、農業(肉質の評価)、漁業(肉質の評価)で利用することができる。また超音波プローブ部分に移動機構等の大がかりな装置が必要ないので、屋内だけでなく屋外等に持ち運ぶための携帯用の装置としても使用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 超音波生体組織測定装置
2、202、202’、202’’ 測定部
3 解析部
4、204、 超音波プローブ
5 押し付け力測定センサ(押し付け力測定部、歪みセンサ)
6 超音波送受信部
7 押し付け力受信部
8 組織変形量検出部
9 弾性指標算出部
10 表示部
11 組織(測定対象組織)
204a 端面
205 押し付け力測定センサ(押し付け力測定部、圧力センサ)
212 筐体
212a 開口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象組織に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブと、
測定対象組織に対して、上記超音波プローブを押し付ける力を測定する押し付け力測定部と、
弾性指標算出部とを備え、
上記弾性指標算出部は上記押し付け力測定部から受信した測定結果と、上記超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出するものであり、
上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサ、又は、上記超音波プローブが筐体に格納されており、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサである、超音波生体組織測定装置。
【請求項2】
上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサである、請求項1に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項3】
上記超音波プローブが、開口部を有する筐体に、当該開口部から上記超音波プローブの測定対象組織に押し付ける端面が出た状態で、格納されており、
上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサであり、
上記圧力センサは、上記端面の重心を通り、上記端面に垂直な線上であって、上記超音波プローブの表面と上記筐体との間に設置されている、請求項1に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項4】
上記弾性指標算出部は、予め設定されている、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報との関係を示す関係情報から、測定された変化量及び押し付け力に基づいて弾性指標を算出するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項5】
上記関係情報は、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報と、さらに、測定対象組織の種類を示す情報との関係を示す情報である、請求項4に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項6】
上記弾性指標算出部は、超音波プローブを押し付ける前の測定対象組織の厚さと、超音波プローブを押し付けることによる測定対象組織の厚さの変化を含む指標と、測定対象組織の状態との関係を示す状態−厚さ相関情報から、超音波プローブを押し付けることによって測定された測定対象組織の厚さの変化に基づいて、上記弾性指標である測定対象組織の状態を判定する、測定対象組織状態判定手段をさらに含む、請求項1に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項1】
測定対象組織に超音波を発し、且つ、測定対象組織から反射した超音波を受信する超音波プローブと、
測定対象組織に対して、上記超音波プローブを押し付ける力を測定する押し付け力測定部と、
弾性指標算出部とを備え、
上記弾性指標算出部は上記押し付け力測定部から受信した測定結果と、上記超音波プローブが受信した超音波信号から検出した測定対象組織の厚さの変化とから測定対象組織の弾性指標を算出するものであり、
上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサ、又は、上記超音波プローブが筐体に格納されており、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサである、超音波生体組織測定装置。
【請求項2】
上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに生じる上記超音波プローブの歪みを測定する歪みセンサである、請求項1に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項3】
上記超音波プローブが、開口部を有する筐体に、当該開口部から上記超音波プローブの測定対象組織に押し付ける端面が出た状態で、格納されており、
上記押し付け力測定部は、上記超音波プローブが測定対象組織に押し付けられたときに上記超音波プローブが上記筐体に押し付けられることによって生じる圧力を測定する圧力センサであり、
上記圧力センサは、上記端面の重心を通り、上記端面に垂直な線上であって、上記超音波プローブの表面と上記筐体との間に設置されている、請求項1に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項4】
上記弾性指標算出部は、予め設定されている、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報との関係を示す関係情報から、測定された変化量及び押し付け力に基づいて弾性指標を算出するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項5】
上記関係情報は、弾性指標と、測定対象組織の厚さの変化量と、測定対象組織に対する押し付け力と、測定対象組織が層構造であるときにどこの層かを表す情報と、さらに、測定対象組織の種類を示す情報との関係を示す情報である、請求項4に記載の超音波生体組織測定装置。
【請求項6】
上記弾性指標算出部は、超音波プローブを押し付ける前の測定対象組織の厚さと、超音波プローブを押し付けることによる測定対象組織の厚さの変化を含む指標と、測定対象組織の状態との関係を示す状態−厚さ相関情報から、超音波プローブを押し付けることによって測定された測定対象組織の厚さの変化に基づいて、上記弾性指標である測定対象組織の状態を判定する、測定対象組織状態判定手段をさらに含む、請求項1に記載の超音波生体組織測定装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−86002(P2012−86002A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118509(P2011−118509)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(510170361)株式会社グローバルヘルス (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(510170361)株式会社グローバルヘルス (1)
【Fターム(参考)】
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