超音波診断システム

【課題】メタボリックシンドロームの検診において、従来、腹囲長が計測されていたが、それは必ずしも内臓脂肪量との良好な相関を有するものではなかった。
【解決手段】腹部の表面上に3つの当接位置が定められ、それらにおいてプローブを当接して生体内における3つの所定距離が計測される。具体的には、下大動脈の中心点Oを出発点とする3つの計測経路36B,36A,36Cが設定され、各計測経路上において中心点Oから体表側の脂肪層表面(内面)までの距離a,b,cが観測される。それらの距離a,b,cと角度θb,θcから内臓脂肪エリア20のおおよその面積を求めることができ、それに基づき指標値が演算される。
【解決手段】腹部の表面上に3つの当接位置が定められ、それらにおいてプローブを当接して生体内における3つの所定距離が計測される。具体的には、下大動脈の中心点Oを出発点とする3つの計測経路36B,36A,36Cが設定され、各計測経路上において中心点Oから体表側の脂肪層表面(内面)までの距離a,b,cが観測される。それらの距離a,b,cと角度θb,θcから内臓脂肪エリア20のおおよその面積を求めることができ、それに基づき指標値が演算される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断システムに関し、特に、内臓脂肪を計測するための超音波診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において超音波診断システムが利用されている。超音波診断システムは、一般に、超音波診断装置により構成され、あるいは、超音波診断装置とコンピュータとを組み合わせたものとして構成される。超音波診断装置は、生体に対して超音波を送波し生体内からの反射波を受波する超音波探触子と、超音波探触子からの受信信号に基づいて画像形成や各種の計測を行う装置本体と、により構成される。超音波診断によれば、X線診断において生じる被ばくという問題を回避でき、またX線診断のような大掛かりな機構が不要である。そのような利便性から、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)の健診に超音波診断を利用することが望まれている。
【0003】
現在、メタボリックシンドロームの健診では、一般に、腹囲長の計測が行われる。腹囲長と内臓脂肪量との間には一定の相関が認められるためである。しかし、腹囲長は皮下脂肪(筋肉を含む)を含んだ長さ情報でしかなく、腹腔内における内臓脂肪の量あるいはそれが存在する可能性がある範囲の大きさを表すものではない。腹部に微弱電流を流し、その電気抵抗から内臓脂肪量を推定する手法も提案されているが、そのような手法の実現には大掛かりな装置が必要となるし、腹部内の構造を十分考慮できるものではないので、その意味で計測値の信頼性を高められない。X線CT装置を利用して内臓脂肪量を計測する手法によれば、高精度での計測を実現できるが、そのためには非常に大掛かりなシステムを構築する必要があり、規模やコストの面で問題があり、特に、被ばくという面での問題を指摘できる。そこで、非侵襲で体内構造を観測できる超音波診断をメタボリックシンドロームの健診、つまり内臓脂肪計測に適用することが研究されている。
【0004】
非特許文献1は、内臓脂肪と心臓血管危険因子との関係を記述した論文である。内臓脂肪量は、詳細不明なるものの、超音波画像を利用して計測演算されているものと推認される。具体的には、同文献の図1に示す腹部の横断面(腰椎を垂直に横切る断面)上において、腰椎から腹部前面側へ放射状に広がる3つの経路が設定され、各経路上において腰椎から皮下脂肪までの距離a,b,cが求められ、更にその平均値((a+b+c)/3)が内臓脂肪量に相当する情報VFD(Visceral fat distance)として演算されているようである。3つの異なる経路上で3つの距離を計測するものの、それらは結局平均値演算に供されている。つまり、それら相互間の角度までは考慮されていない。この手法では、一次元の距離情報しか利用されておらず、二次元情報あるいは構造情報は利用されていないと解される。この論文には3つの経路を再現性良く設定するための機構上の工夫も開示されていない。
【0005】
特許文献1には超音波画像上の画像処理により皮下脂肪の断面面積と腹膜前脂肪の断面面積との比を演算する内蔵脂肪肥満検査装置が開示されている。しかし、この装置は、腹部内の広い範囲を計測対象とするものではないし、再現性を良好にするための計測条件や計測を支援する治具を備えるものでもない。
【0006】
特許文献2には、超音波画像上で、肝臓近傍での腹膜前脂肪厚と、臍近傍での腹膜前脂肪厚とを特定し、それらの情報に基づいて内臓脂肪量に依存した内臓脂肪係数を求める内臓脂肪測定装置が開示されている。これは背骨の伸長方向に離れた2点で内臓脂肪を観測するものであり、背骨に直交する断面内の形状や構造を考慮するものではない。
【0007】
特許文献3には超音波プローブ用アタッチメントが開示されている。これは超音波プローブの当接時に脂肪厚が変化してしまうことを防止するものである。但し、1つのプローブ保持部しか備えていないものである。なお、特許文献4には、帯状の紐を備えた近赤外光型の体脂肪測定装置が開示されている。紐には臍位置あわせ部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−135980号公報
【特許文献2】特開2008−194240号公報
【特許文献3】特開2008−284136号公報
【特許文献4】特開2006−296770号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yu CHIBA et al.,"Relationship between Visceral Fat and Cardiovascular Disease Risk Factors:The Tanno and Sobetsu Study",Hypertens Res Vol.30,No.3,2007,pp.229-236.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
メタボリックシンドロームの検査においては、特に、その集団検診においては、簡易かつ速やかに、しかも信頼性良く内臓脂肪量に相当する情報を計測することが要請されているが、従来の技術では必ずしもそのような要請を十分に満たすことができない。
【0011】
本発明の目的は、超音波を使って内臓脂肪量に相当する情報を精度良く計測できるようにすることにある。
【0012】
本発明の目的は、生体の横断面上において複数の内臓脂肪計測経路を再現性良く設定できるようにすることにある。
【0013】
本発明の目的は、メタボリックシンドロームの集団検診に適する医療用手段として、簡易でありながら信頼性ある計測結果を得られる超音波診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る超音波診断システムは、生体に当接され、超音波の送受波を行って受信信号を出力する送受波手段と、前記受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段と、前記生体の横断面上において放射状に設定される複数の計測経路を含んだ複数の超音波画像を用いて、前記各計測経路上において、深部に位置する基準部位と浅部に位置する所定の境界面との間の距離を計測する距離計測手段と、前記複数の計測経路の幾何学的関係及び前記複数の計測経路上で計測された複数の距離に基づいて、内臓脂肪量との相関性が認められる指標値を演算する指標値演算手段と、前記指標値を出力する出力手段と、を含むことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、生体内における複数の計測経路上において内臓脂肪が存在する可能性がある範囲が複数の距離として特定され、複数の計測経路の幾何学的関係(望ましくは交差角度)と、複数の距離とに基づいて、内臓脂肪量に相関性が認められる指標値が演算される。腹囲長の計測では、皮下脂肪や筋肉の厚さまで計測対象に含まれてしまうが、上記構成によれば、皮下脂肪層等を除外しつつ内臓脂肪が存在する可能性がある範囲を特定し、それを指標値演算の基礎とすることができる。その場合、複数の計測経路上において複数の距離が計測されるから、二次元サイズを考慮できるのであり、つまり内臓脂肪が存在する可能性がある範囲の二次元形状まで考慮することができるから、指標値の信頼性を高めることができる。X線CT装置を利用した場合には被ばくという問題が生じるし、大掛かりな機構が必要となるが、上記構成によれば、非侵襲で迅速に指標値を計測できるので、医療上の高い有用性が認められる。所定の境界面は、内臓脂肪が存在するエリアを取り囲む境界面であり、一般的に見て内臓脂肪が存在しない皮下層の内面であり、具体的には、筋肉層の内面あるいは皮下脂肪層の内面である。
【0016】
計測経路の個数は2つ以上であり、望ましくは、3つである。3つの計測経路を設定すれば内臓脂肪が存在する可能性がある範囲の広がりのみならずそれについての大凡の形状(あるいは左右の形態差)まで考慮することが可能となる。4つ以上の計測経路を設定してもよい。距離計測がマニュアルであるいは半自動的に行われる場合、その負担を考慮するならば、3つの計測経路を用いるのが望ましい。勿論、距離の計測を自動化することも可能である。複数の計測経路が体内深部において交わっているのが望ましい。内臓脂肪が存在する可能性がある範囲あるいは体腔の形状は大凡楕円形状であるから、その中央付近に基準部位を設定し、そこから放射状に広がる複数の計測経路を設定するのが望ましい。複数の計測経路上での距離計測を実現するために、生体表面上における複数の当接位置にプローブが段階的にあるいは同時に当接される。
【0017】
望ましくは、前記基準部位は血管であり、前記各計測経路に対応した各超音波画像が断層画像として表示され、前記各断層画像上において前記血管と前記所定の境界面との間の距離が計測される。断層画像を表示すれば視覚的に所定の境界面を特定するのが容易となる。また、血管の特定も容易となる。血管の特定を超音波ドプラ法を用いて自動的に行ってもよい。望ましくは、前記血管は拍動する下大動脈である。そのような拍動する血管は断層画像上において極めて認識しやすいものであり、それを基準として各計測経路を設定すればマニュアル計測であってもその信頼性を向上できる。
【0018】
望ましくは、前記複数の断層画像は、前記生体の横断面に直交し且つ前記下大動脈上において相互にクロスする複数の走査面に対応するものである。望ましくは、前記複数の走査面の内で中央走査面は臍を避けた位置に形成される。
【0019】
望ましくは、前記複数の走査面は中央走査面、右側走査面及び左側走査面を含み、前記右側走査面及び前記左側走査面は前記中央走査面に対して実質的に左右同一の傾斜角度をもって設定される。望ましくは、前記複数の計測経路は中央経路、右側経路及び左側経路を含み、前記指標値演算手段は、前記中央経路上の距離と、前記右側経路上の距離と、前記中央経路と前記右側経路との間の右側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記右側経路とに挟まれる右側部分の右側部分面積を求める手段と、前記中央経路上の距離と、前記左側経路上の距離と、前記中央経路と前記左側経路との間の左側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記左側経路とに挟まれる左側部分の左側部分面積を求める手段と、前記右側部分面積及び前記左側部分面積を少なくとも用いて前記指標値を演算する手段と、を含む。
【0020】
演算された面積値をそのまま指標値として出力するようにしてもよいし、生体の各位置においてそのような面積値を演算して体積値を求め、それを指標値として出力するようにしてもよい。面積演算及び体積演算の手法としては各種の手法が考えられる。いずれにしても放射状の複数の計測経路上において複数の距離を求め、二次元的な形状の情報を基礎として指標値が演算されるのが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超音波を使って内臓脂肪量に相当する情報を精度良く計測できる。あるいは、生体の横断面上において複数の内臓脂肪計測経路を再現性良く設定できる。あるいは、メタボリックシンドロームの集団検診に適する医療用手段として、簡易でありながら信頼性ある計測結果を得られる超音波診断システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】指標値を演算するための3つの計測経路を説明するための図である。
【図2】3つの計測経路に対応した3つの断層画像上における距離計測を説明するための図である。
【図3】3つの距離に基づく面積演算を説明するための図である。
【図4】面積演算における具体的な演算例を示す概念図である。
【図5】右側の部分面積と左側の部分面積の演算例を説明するための図である。
【図6】テーブルを利用した面積演算方法を説明するための図である。
【図7】計測経路上における自動的な距離演算を説明するための図である。
【図8】内臓脂肪量に相関がある指標値を演算する機能を備えた超音波診断システムを示す図である。
【図9】図8に示した装置の動作例を示すフローチャートである。
【図10】体表面上における複数の位置にプローブを固定する際に用いられる器具を説明するための斜視図である。
【図11】図10に示した器具の断面図である。
【図12】図10に示した器具の全体構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1には、生体における腹部の横断面が模式的に示されている。図1においては、特に、内臓脂肪量に相関がある指標値を計測及び演算する際の状況を表している。ちなみに、X方向を背骨方向として、Z方向は生体の厚み方向であり、Y方向は左右方向である。図1においては、足側から頭部側へ見た場合の断面が示されている。
【0025】
図1において、生体10は腹部であり、その下側が背中であり、その上側が腹部表面12である。例えば生体はベッド上に仰向けで載せられている。生体10の内部には皮下脂肪層14が存在する。この皮下脂肪層14は皮膚及び筋肉を含む層である。その内側には筋肉16が存在し、さらにその内側には内臓脂肪エリア20が存在する。内臓脂肪エリア20は図1においてYZ面に広がる隙間領域であり、臓器の周囲に存在している。もちろん、人によってその存在割合は異なるが、以下に説明する本手法によれば内臓脂肪量にかなり相関性が認められる指標値を演算することが可能である。
【0026】
図1において符号18は腰椎を表しており、符号24は臓器等の他の組織を表している。ここで注目すべき組織は下大動脈22であり、それは太い動脈であり、超音波画像上において拍動を容易に視認することができるものである。下大動脈22は腹部のほぼ中心に位置し、それが基準組織或いは基準部位として利用される。
【0027】
指標値の計測に際しては、本実施形態において、3つの計測経路36A,36B,36Cが設定される。図1においてはそれらが3つのラインとして表されており、それらのラインは下大動脈22の中心においてクロスしている。ちなみに中央の計測経路36Aに対して他の2つの計測経路36B,36Cは互いに同じ角度だけ傾斜している。その角度は例えば40度であるが、もちろんそれが30度〜50度の範囲内あるいはそれ以外の値に設定されてもよい。3つの計測経路36A,36B,36Cを放射状に設定するために、3つの当接位置A,B,Cが定められている。
【0028】
具体的には、腹部表面12上には保持器具26が設けられ、その保持器具26により3つの当接位置A,B,Cにおいてプローブ32が順次保持される。保持器具26は、3つの保持部30A,30B,30Cを有しており、プローブ32を選択的にいずれかの保持部30A,30B,30Cに差し込んでそれを保持させることが可能である。例えば、図1において、当接位置Aにプローブ32が設けられ、具体的には、プローブ32が保持部30A内に差し込まれている。その送受波面は腹部表面12上に密着しており、その状態で超音波の送受波、具体的には超音波ビームの電子走査が実行される。その位置での計測が完了すると、次に、プローブ32が当接位置Bに移動され、そこにおいて同様の超音波計測が実行される。その後、さらに当接位置Cにおいて上記同様の超音波計測が実行される。ちなみに、符号28は保持器具26のベース部分を表しており、符号32−2,符号32−3はそれぞれ差し替え後のプローブを示している。なお、プローブ32の電子走査方向はX方向であり、すなわち図1に示される横断面に直交する方向に電子走査が実行され、当該方向に走査面が形成される。中央の当接位置Aは、へそ位置を若干避けた位置に設定されており、これによって常に良好な音響伝搬が確保されている。そのような位置は下大動脈22の直上に位置している。
【0029】
本実施形態においては、図1に示した内臓脂肪エリア20の面積に相当する値を測定するために、上述したように3つの計測経路36A,36B,36Cが設定され、各計測経路36A,36B,36C上において、下大動脈の中心から生体前面側に存在する境界面16Aまでの距離がマニュアルであるいは自動的に計測される。マニュアルでの計測を行う場合の例が図2に示されている。境界面16Aは、筋肉層の内面である。皮下脂肪層14の内面を利用することもできる。
【0030】
図2において、上述した3つの当接位置A,B,Cに対応して3つの断層画像Fa,Fb,Fcが示されている。それらの断層画像Fa,Fb,Fcは3つの走査面上のエコーデータに基づいて形成されたものである。ここで各走査面は超音波ビームの電子走査によって形成される。なお、図2においては、各当接位置に設置されたプローブ32が概念的に示されている。
【0031】
ここで、例えば中央の断層画像Faに着目すると、そこにおいて計測経路が符号Laで示されている。距離計測を行う場合、下大動脈の中心Oがユーザーにより指定され、また境界面Raの深さ位置に相当する点40Aがユーザーにより指定される。それらの2つの点O,40Aは、中心ラインに相当する計測経路La上において指定される。もちろんそのような経路を傾斜、偏向させるようにしてもよい。境界面Raは一般に容易に視覚的に特定可能なものであり、また下大動脈の特定も画像上において極めて容易である。したがって距離を高精度で特定できる。これと同様に、当接位置Bにおいても、計測経路Lb上において下大動脈の中心Oと境界面Rb上の点40Bとがユーザーにより指定され、その結果として距離bが自動的に特定される。同じく、当接位置Cにおいても、計測経路Lc上において、中心点Oと境界面Rc上における点40Cとがユーザーにより特定され、これによって自動的に距離cが演算される。以上のようなプロセスを経ることにより、3つの距離a,b,cが認識されることになる。
【0032】
図3には、再び生体の横断面が示されている。計測経路36A,36B,36C上において、符号38A,38B,38Cはそれぞれ送受波面上の中心点を表しており、Oは上述したように下大動脈の中心点を表している。符号40A,40B,40Cは上述したプロセスによって指定された境界面上の点である。ここで中央の計測経路36Aは本実施形態において垂直に設定されており、それに対する他の2つの計測経路36B,36Cの傾斜角度θb,θcは既知であり、例えばそれはいずれも40度である。これによって2つの三角形を特定する4点が定められたことになる。すなわち、中心点O,境界点40B,境界点40A,境界点40Cの4つの点によって囲まれる四角形あるいは2つの三角形の二次元形状を特定することが可能となる。そのような二次元形状は腹腔内における内臓脂肪量に強く相関していることが経験則上明らかになっており、そのような情報を用いて内臓脂肪量の大小を示す指標値を演算することが可能となる。
【0033】
そのような指標値を得る手法として、関数演算法とテーブル法があり、以下においてはまず関数演算法を説明する。それは幾何学的な見地から面積を求めるものである。
【0034】
具体的に説明すると、まず2つの三角形の面積Sb,Scはすでに求められている距離a,b,cと2つの角度θb,θcから容易に求められる。本実施形態においては、このような手法を拡張してさらに4つの三角形の面積が演算されている。すなわち、部分面積Sb1,Sb2,Sc1,Sc2が演算されている。
【0035】
具体的に説明すると、面積Sb1は点O,40B,R1で囲まれる三角形の面積であり、それは角度θb1と2つの辺の長さb,b1から演算できる。角度θb1は既知の値であり、辺の長さb1は本実施形態において辺bの長さと同じかそれに所定の係数を掛けたものとして定義される。また、面積Sb2は3点O,R1,R2で囲まれる三角形の面積であり、それは辺の長さb1,b2および角度θb2から求められる。θb2は既知の値であり、長さb2は例えばbおよびcから所定の係数を用いて求めることが可能である。これと同様の手法により、部分面積Sc1および部分面積Sc2が求められる。前者はcとc1とθc1から演算され、後者はc1とc2とθc2から求められる。θc1とθc2も既知であることから、c1およびc2をcあるいはcとbから推定するようにすればよい。結局それらの部分面積Sb,Sc,Sb1,Sb2,Sc1,Sc2をあわせた面積Sが求められ、それがそのまま内臓脂肪量を表す指標値として出力され、あるいは、その面積値を換算あるいは補正することにより指標値が求められる。いずれにしても内臓脂肪エリア20の大小を二次元的な観点から計測することにより、腹囲長の計測よりも、より信頼性の高い指標値を得ることが可能となる。
【0036】
図4には、以上説明した手法が概念図として表されている。符号52は演算モジュールを表している。そこでの演算は例えばソフトウェアの機能により実現される。モジュール52に対しては符号42〜50で示される各数値a,b,c,θb,θcが入力される。また必要に応じて符号54〜符号60で示されるθb1,θb2,θc1,θc2が与えられる。そのような値に基づき、符号62〜72で示されるように、6つの部分面積Sb〜Scが図示のような関数をもって演算される。もちろん図示の例は一例であり、いずれにしても計測された3つの距離a,b,cと2つの角度θb,θcを用いるのが望ましい。符号74は6つの部分面積の加算を表している。その加算結果である面積値Sをそのまま指標値として出力するようにしてもよいし、あるいは体積値として出力することも可能である。また体型や年齢あるいは性別等を考慮する演算を実行するようにしてもよい。それが符号76で示されている。すなわち、加算結果であるSに対して諸条件に応じた補正を行い、最終的な指標値S’を求めるようにしてもよい。それが体積値V’であってもよい。体積値を求める場合には、生体における複数の位置において面積値を求め、それらに基づいて体積値を求めるのが望ましい。もちろん、経験則上、面積値から体積値が換算できるのであれば、そのような換算演算を実行するようにしてもよい。
【0037】
図5には基本的な2つの部分面積の演算式が例示されている。(A)においては符号78により部分面積Sbの計算方法が示されている。ここでは1/2・absinθbが演算されている。同様に(B)には符号80によって部分面積Scの演算式の例が示されている。それは1/2・acsinθcにより求められている。
【0038】
また図6で示されるように、入力値としてa,b,c,θb,θcを与え、出力値としてSを求めるテーブル82を容易しておいてもよい。例えば多数の被検者からデータを取得し、それを蓄積することによりそのようなテーブルを構築することが可能である。
【0039】
図7には、距離の自動演算方法が示されている。フレームF上には中央ラインとしての計測ラインLが設定されている。Wは探索範囲を表している。例えば探索範囲Wの原点からエッジ検出処理を行うことにより境界面R上にエッジ点40を特定することが可能である。探索方向は上方であってもよい。また超音波ドプラ法を利用すれば血流部Dを抽出することが可能であり、そのような画像処理を基礎として2つのエッジ点84,86を特定し、その中間点として中心点Oを特定することも可能である。ドプラ情報を利用することなく二値化処理等によって血流部を特定することも可能である。このような自動化によればユーザーの負担を大幅に軽減できるので、特に集団検診等において実効性がある。
【0040】
図8には、上述した指標値を演算する機能を備えた超音波診断装置がブロック図として示されている。
【0041】
プローブ180は本体に対してケーブルを介して接続されるものであり、プローブ180は本実施形態において1Dアレイ振動子を有している。1Dアレイ振動子は複数の振動素子を直線状あるいは円弧状に配列してなるものであり、それらによって超音波ビームが形成される。超音波ビームは電子的に走査される。そのような走査方式として電子リニア走査、電子セクタ走査が知られている。本実施形態においては円弧状のアレイ振動子が用いられており、いわゆるコンベックス走査が実行されている。ちなみにプローブ180は単一のものが利用されており、複数の当接位置に対しては段階的に同じプローブが当接されることになる。
【0042】
送受信部182は送信ビームフォーマおよび受信ビームフォーマとして機能するものである。送信時において、送受信部182はアレイ振動子に対して複数の送信信号を並列的に供給する。これによってプローブ180において送信ビームが形成される。生体内からの反射波はプローブ180において受波され、これによって複数の受信信号が送受信部182へ出力される。送受信部182はそのような受信時において複数の受信信号に対して整相加算処理を実行し、これによって整相加算後の受信信号としてビームデータを出力する。そのビームデータは信号処理部184へ与えられる。信号処理部184は対数変換器、検波器等を備えている。
【0043】
信号処理後のビームデータは画像形成部186へ送られる。画像形成部186はデジタルスキャンコンバータにより構成されている。それは座標変換機能、補間処理機能を備えるものである。複数のビームデータによりBモード白黒断層画像が形成される。画像データは表示処理部188へ送られる。表示部192には断層画像が表示される。
【0044】
計測部190は自動的な距離計測を行うモジュールであり、あるいは手動によって入力された位置に基づく距離演算を行うモジュールである。制御部194は図1に示される各構成の動作制御を行っている。制御部194はCPUと動作プログラムによって構成されるものである。入力部196は操作パネルにより構成され、それは具体的にはキーボードやトラックボールなどを有している。ユーザーは、入力部196を利用して位置の指定を行える。
【0045】
図9には図8に示した装置の動作が示され、特に、指標値を演算する際の動作が示されている。
【0046】
生体がベッド上に仰向けで寝た状態において、腹部に対して保持器具が設置される。そして、S101においてAポジションにプローブがセットされる。ここでAポジションは例えば中央位置である。S102では、そのように設置されたプローブによる断層画像上において血管中心点および境界点がユーザーにより入力される。それに先だって、プローブの姿勢をユーザーにより調整し、所望の断面が描かれるようにする。それは中央計測ラインの設定に相当するものである。そのような傾斜運動すなわち煽り運動が許容されるように保持器具が柔らかい材料によって構成されている。
【0047】
中央位置において距離計測が完了すると、S103において、プローブがBポジションにセットされ、S104においてプローブの姿勢および位置の調整が行われた上で、Bモード断層画像上において血管中心および境界点がユーザーにより指定される。こうやって2番目の距離が観測される。これと同様に、S105においては、Cポジションにプローブがセットされ、S106においてはプローブの位置および姿勢が調整された上で、超音波画像上においてユーザーにより血管中心点および境界点が指定される。これによって3つ目の距離が認識されることになる。
【0048】
S107においては、3つの距離および予め定められている2つの角度に基づいて内臓脂肪量に高い相関が認められる指標値が演算されることになる。それは内臓脂肪量の推定に相当する。S108においてはそのような指標値が表示される。集団検診において単に腹囲長を計測するのではなく、以上のように超音波診断を用いてしかも二次元形状として腹腔内の内臓脂肪存在エリアを求めることにより、メタボリックシンドロームの診断あるいは評価に当たって、より有益な指標値を得ることが可能となる。指標値と内臓脂肪量との相関性をより高めるために、診断に当たっては、性別、体格、その他の情報に基づく補正値を作用させるようにするのが望ましい。そのような補正値は経験則あるいは実験則により求められるものである。
【0049】
次に図10乃至図12を用いて以上のような指標値の計測に用いられる保持器具について詳述する。ただし、このような保持器具は上述した計測以外の用途においても用いることが可能なものである。
【0050】
図10には保持器具100の要部構成が示されている。符号100Aは本体部を表している。その本体部100Aはベース102を有し、そのベース102上には3つの保持部104,106,108が設けられている。各保持部104,106,108はそれぞれ中空の部分104A,106A,108Aを有しており、それらにはプローブが差し込まれ、それが緩やかに保持される。中空の部分104A,106A,108Aの水平断面形状は、上下方向に不変であるが、プローブの形状に合った形状を採用するようにしてもよい。
【0051】
本体部100Aは例えばゴムなどの柔らかい材料により構成されており、また本体部100Aに連なるベルト部110もゴムなどによって構成される。ただしベルト部110を用いて腹囲長を計測するような場合には、伸縮性のない材料によってそれを構成するのが望ましい。ベルト部110を設けることにより腹部周囲を取り囲んだ状態で本体部100Aを固定することが可能であり、プローブの保持状態を安定化することが容易となる。被検者を基準とした直交座標系も定義しやすい。またこのような保持器具100を用いれば呼吸があったような場合においても生体の表面運動と共にプローブを追従運動させることができ、計測上の位置ずれといった問題を軽減でき、さらに計測の再現性を向上することが可能となる。
【0052】
上述した指標値の計測にあたっては、3つのプローブポジションが定められているため、図10に示す本体部100Aは3つの保持部104,106,108を備えている。中央の保持部104は垂直に起立しており、すなわちZ方向に伸長した垂直姿勢を有している。それに対して所定角度、具体的には40度の傾斜角度を持って2つの他の保持部106,108が設けられている。それらはYZ平面上において傾斜している。本体部100Aそれ自体が柔らかい材料で構成されているので、各保持部に挿入されたプローブを傾斜運動をさせることができる。ただし、運動可能な方向はYZ面内の運動であり、それ以外の方向にプローブを運動させることは制限される。これにより下大動脈のサーチを容易に行うことが可能になるとともに、3つの走査面を下大動脈上において正確にクロスさせることが容易となる。ちなみに、符号112はへそマーカーを表しており、その突起部分がへその位置に合わせられる。これにより計測の再現性および超音波伝搬の良好性を確保することができる。
【0053】
図11には本体部100Aの断面が示されている。上述したように3つの保持部104,106,108がそれぞれ中空体として放射状に配列されており、角度θ1は例えば40度であり、角度θ2も例えば40度である。但し、装着時にそのような角度が実現されるようにこの段階ではより小さな角度となっていてもよい。中央の保持部104は垂直に起立している。中空内部104A,106A,108Aはプローブの外側をちょうど包み込む形状を有しており、それが保持された状態においては、中空内部における運動自由度及び本体の弾性により、プローブを傾斜させることが可能であるが、プローブが保持部から容易に脱落してしまうことはない。ちなみに符号114Aは上部開口を表しており、符号114Bは下部開口を表しており、同じく符号116Aは上部開口を表しており、符号116Bは下部開口を表している。また符号118Aは上部開口を表しており、符号118Bは下部開口を表している。プローブがセットされた状態においてはその送受波面、具体的には音響レンズ表面が体表面上に密着しているのが望ましく、送受波面と生体表面との間における空気層を排除するために例えばゼリー状の音響カップリング材が用いられる。本体部100Aは視認性を確保するため透明な材料で構成されてもよい。
【0054】
図12には保持器具100の全体が概念的に示されている。上述したように保持器具100は本体部100Aとその両端に連なるベルト部110とを含んでおり、ベルト部110は生体の胴部周囲に巻き付けられるものである。ベルト部110それ自身が伸縮可能であってもよいし、例えば符号120で示されるようにその長さを調整可能な機構を備えていてもよい。また長さ調整に際して腹囲長を計測できるようにベルト部110上に目盛りを設けるようにしてもよい。本体部110Aにはその一方側および他方側の両部側に突起状のマーカー112が設けられており、いずれの向きに本体部100Aを設置してもへその位置にそのようなマーカー112を合わせることができ、設置のやり直しといった問題を未然に防止することができる。へそマーカー112の採用によりプローブ当接位置を常に所定距離だけ生体中心から一方側へシフトさせることができ、良好な伝搬経路の形成と計測の再現性を両立させることが可能である。そのような位置は下大動脈の上部に相当し、垂直の位置決めも同時に行えるようになっている。
【0055】
図10乃至図12に示した保持器具は、生体内における深部のある基準部位に複数の走査面を交差する状態でセットすることが容易となるため、上述した指標値の演算以外において同じような計測が求められる場合一般に用いることが可能なものである。用途に応じてその弾性や保持作用の程度を調整するようにしてもよい。このような保持器具を用いれば、集団検診において、医師は順番に保持部にプローブを差し込むだけで容易にプローブの位置決めを完了させることができるので、その負担を大幅に軽減することが可能であり、また計測の再現性を極めて良好にできるので、集団検診の効率を高められる。
【0056】
本実施形態においては生体が横向きの状態において指標値の計測が行われたが、立位の状態において同じような保持器具を使って指標値を計測するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 生体、20 内臓脂肪エリア、22 下大動脈、26 保持器具、a,b,c 距離。
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断システムに関し、特に、内臓脂肪を計測するための超音波診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において超音波診断システムが利用されている。超音波診断システムは、一般に、超音波診断装置により構成され、あるいは、超音波診断装置とコンピュータとを組み合わせたものとして構成される。超音波診断装置は、生体に対して超音波を送波し生体内からの反射波を受波する超音波探触子と、超音波探触子からの受信信号に基づいて画像形成や各種の計測を行う装置本体と、により構成される。超音波診断によれば、X線診断において生じる被ばくという問題を回避でき、またX線診断のような大掛かりな機構が不要である。そのような利便性から、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)の健診に超音波診断を利用することが望まれている。
【0003】
現在、メタボリックシンドロームの健診では、一般に、腹囲長の計測が行われる。腹囲長と内臓脂肪量との間には一定の相関が認められるためである。しかし、腹囲長は皮下脂肪(筋肉を含む)を含んだ長さ情報でしかなく、腹腔内における内臓脂肪の量あるいはそれが存在する可能性がある範囲の大きさを表すものではない。腹部に微弱電流を流し、その電気抵抗から内臓脂肪量を推定する手法も提案されているが、そのような手法の実現には大掛かりな装置が必要となるし、腹部内の構造を十分考慮できるものではないので、その意味で計測値の信頼性を高められない。X線CT装置を利用して内臓脂肪量を計測する手法によれば、高精度での計測を実現できるが、そのためには非常に大掛かりなシステムを構築する必要があり、規模やコストの面で問題があり、特に、被ばくという面での問題を指摘できる。そこで、非侵襲で体内構造を観測できる超音波診断をメタボリックシンドロームの健診、つまり内臓脂肪計測に適用することが研究されている。
【0004】
非特許文献1は、内臓脂肪と心臓血管危険因子との関係を記述した論文である。内臓脂肪量は、詳細不明なるものの、超音波画像を利用して計測演算されているものと推認される。具体的には、同文献の図1に示す腹部の横断面(腰椎を垂直に横切る断面)上において、腰椎から腹部前面側へ放射状に広がる3つの経路が設定され、各経路上において腰椎から皮下脂肪までの距離a,b,cが求められ、更にその平均値((a+b+c)/3)が内臓脂肪量に相当する情報VFD(Visceral fat distance)として演算されているようである。3つの異なる経路上で3つの距離を計測するものの、それらは結局平均値演算に供されている。つまり、それら相互間の角度までは考慮されていない。この手法では、一次元の距離情報しか利用されておらず、二次元情報あるいは構造情報は利用されていないと解される。この論文には3つの経路を再現性良く設定するための機構上の工夫も開示されていない。
【0005】
特許文献1には超音波画像上の画像処理により皮下脂肪の断面面積と腹膜前脂肪の断面面積との比を演算する内蔵脂肪肥満検査装置が開示されている。しかし、この装置は、腹部内の広い範囲を計測対象とするものではないし、再現性を良好にするための計測条件や計測を支援する治具を備えるものでもない。
【0006】
特許文献2には、超音波画像上で、肝臓近傍での腹膜前脂肪厚と、臍近傍での腹膜前脂肪厚とを特定し、それらの情報に基づいて内臓脂肪量に依存した内臓脂肪係数を求める内臓脂肪測定装置が開示されている。これは背骨の伸長方向に離れた2点で内臓脂肪を観測するものであり、背骨に直交する断面内の形状や構造を考慮するものではない。
【0007】
特許文献3には超音波プローブ用アタッチメントが開示されている。これは超音波プローブの当接時に脂肪厚が変化してしまうことを防止するものである。但し、1つのプローブ保持部しか備えていないものである。なお、特許文献4には、帯状の紐を備えた近赤外光型の体脂肪測定装置が開示されている。紐には臍位置あわせ部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−135980号公報
【特許文献2】特開2008−194240号公報
【特許文献3】特開2008−284136号公報
【特許文献4】特開2006−296770号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yu CHIBA et al.,"Relationship between Visceral Fat and Cardiovascular Disease Risk Factors:The Tanno and Sobetsu Study",Hypertens Res Vol.30,No.3,2007,pp.229-236.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
メタボリックシンドロームの検査においては、特に、その集団検診においては、簡易かつ速やかに、しかも信頼性良く内臓脂肪量に相当する情報を計測することが要請されているが、従来の技術では必ずしもそのような要請を十分に満たすことができない。
【0011】
本発明の目的は、超音波を使って内臓脂肪量に相当する情報を精度良く計測できるようにすることにある。
【0012】
本発明の目的は、生体の横断面上において複数の内臓脂肪計測経路を再現性良く設定できるようにすることにある。
【0013】
本発明の目的は、メタボリックシンドロームの集団検診に適する医療用手段として、簡易でありながら信頼性ある計測結果を得られる超音波診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る超音波診断システムは、生体に当接され、超音波の送受波を行って受信信号を出力する送受波手段と、前記受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段と、前記生体の横断面上において放射状に設定される複数の計測経路を含んだ複数の超音波画像を用いて、前記各計測経路上において、深部に位置する基準部位と浅部に位置する所定の境界面との間の距離を計測する距離計測手段と、前記複数の計測経路の幾何学的関係及び前記複数の計測経路上で計測された複数の距離に基づいて、内臓脂肪量との相関性が認められる指標値を演算する指標値演算手段と、前記指標値を出力する出力手段と、を含むことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、生体内における複数の計測経路上において内臓脂肪が存在する可能性がある範囲が複数の距離として特定され、複数の計測経路の幾何学的関係(望ましくは交差角度)と、複数の距離とに基づいて、内臓脂肪量に相関性が認められる指標値が演算される。腹囲長の計測では、皮下脂肪や筋肉の厚さまで計測対象に含まれてしまうが、上記構成によれば、皮下脂肪層等を除外しつつ内臓脂肪が存在する可能性がある範囲を特定し、それを指標値演算の基礎とすることができる。その場合、複数の計測経路上において複数の距離が計測されるから、二次元サイズを考慮できるのであり、つまり内臓脂肪が存在する可能性がある範囲の二次元形状まで考慮することができるから、指標値の信頼性を高めることができる。X線CT装置を利用した場合には被ばくという問題が生じるし、大掛かりな機構が必要となるが、上記構成によれば、非侵襲で迅速に指標値を計測できるので、医療上の高い有用性が認められる。所定の境界面は、内臓脂肪が存在するエリアを取り囲む境界面であり、一般的に見て内臓脂肪が存在しない皮下層の内面であり、具体的には、筋肉層の内面あるいは皮下脂肪層の内面である。
【0016】
計測経路の個数は2つ以上であり、望ましくは、3つである。3つの計測経路を設定すれば内臓脂肪が存在する可能性がある範囲の広がりのみならずそれについての大凡の形状(あるいは左右の形態差)まで考慮することが可能となる。4つ以上の計測経路を設定してもよい。距離計測がマニュアルであるいは半自動的に行われる場合、その負担を考慮するならば、3つの計測経路を用いるのが望ましい。勿論、距離の計測を自動化することも可能である。複数の計測経路が体内深部において交わっているのが望ましい。内臓脂肪が存在する可能性がある範囲あるいは体腔の形状は大凡楕円形状であるから、その中央付近に基準部位を設定し、そこから放射状に広がる複数の計測経路を設定するのが望ましい。複数の計測経路上での距離計測を実現するために、生体表面上における複数の当接位置にプローブが段階的にあるいは同時に当接される。
【0017】
望ましくは、前記基準部位は血管であり、前記各計測経路に対応した各超音波画像が断層画像として表示され、前記各断層画像上において前記血管と前記所定の境界面との間の距離が計測される。断層画像を表示すれば視覚的に所定の境界面を特定するのが容易となる。また、血管の特定も容易となる。血管の特定を超音波ドプラ法を用いて自動的に行ってもよい。望ましくは、前記血管は拍動する下大動脈である。そのような拍動する血管は断層画像上において極めて認識しやすいものであり、それを基準として各計測経路を設定すればマニュアル計測であってもその信頼性を向上できる。
【0018】
望ましくは、前記複数の断層画像は、前記生体の横断面に直交し且つ前記下大動脈上において相互にクロスする複数の走査面に対応するものである。望ましくは、前記複数の走査面の内で中央走査面は臍を避けた位置に形成される。
【0019】
望ましくは、前記複数の走査面は中央走査面、右側走査面及び左側走査面を含み、前記右側走査面及び前記左側走査面は前記中央走査面に対して実質的に左右同一の傾斜角度をもって設定される。望ましくは、前記複数の計測経路は中央経路、右側経路及び左側経路を含み、前記指標値演算手段は、前記中央経路上の距離と、前記右側経路上の距離と、前記中央経路と前記右側経路との間の右側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記右側経路とに挟まれる右側部分の右側部分面積を求める手段と、前記中央経路上の距離と、前記左側経路上の距離と、前記中央経路と前記左側経路との間の左側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記左側経路とに挟まれる左側部分の左側部分面積を求める手段と、前記右側部分面積及び前記左側部分面積を少なくとも用いて前記指標値を演算する手段と、を含む。
【0020】
演算された面積値をそのまま指標値として出力するようにしてもよいし、生体の各位置においてそのような面積値を演算して体積値を求め、それを指標値として出力するようにしてもよい。面積演算及び体積演算の手法としては各種の手法が考えられる。いずれにしても放射状の複数の計測経路上において複数の距離を求め、二次元的な形状の情報を基礎として指標値が演算されるのが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超音波を使って内臓脂肪量に相当する情報を精度良く計測できる。あるいは、生体の横断面上において複数の内臓脂肪計測経路を再現性良く設定できる。あるいは、メタボリックシンドロームの集団検診に適する医療用手段として、簡易でありながら信頼性ある計測結果を得られる超音波診断システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】指標値を演算するための3つの計測経路を説明するための図である。
【図2】3つの計測経路に対応した3つの断層画像上における距離計測を説明するための図である。
【図3】3つの距離に基づく面積演算を説明するための図である。
【図4】面積演算における具体的な演算例を示す概念図である。
【図5】右側の部分面積と左側の部分面積の演算例を説明するための図である。
【図6】テーブルを利用した面積演算方法を説明するための図である。
【図7】計測経路上における自動的な距離演算を説明するための図である。
【図8】内臓脂肪量に相関がある指標値を演算する機能を備えた超音波診断システムを示す図である。
【図9】図8に示した装置の動作例を示すフローチャートである。
【図10】体表面上における複数の位置にプローブを固定する際に用いられる器具を説明するための斜視図である。
【図11】図10に示した器具の断面図である。
【図12】図10に示した器具の全体構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1には、生体における腹部の横断面が模式的に示されている。図1においては、特に、内臓脂肪量に相関がある指標値を計測及び演算する際の状況を表している。ちなみに、X方向を背骨方向として、Z方向は生体の厚み方向であり、Y方向は左右方向である。図1においては、足側から頭部側へ見た場合の断面が示されている。
【0025】
図1において、生体10は腹部であり、その下側が背中であり、その上側が腹部表面12である。例えば生体はベッド上に仰向けで載せられている。生体10の内部には皮下脂肪層14が存在する。この皮下脂肪層14は皮膚及び筋肉を含む層である。その内側には筋肉16が存在し、さらにその内側には内臓脂肪エリア20が存在する。内臓脂肪エリア20は図1においてYZ面に広がる隙間領域であり、臓器の周囲に存在している。もちろん、人によってその存在割合は異なるが、以下に説明する本手法によれば内臓脂肪量にかなり相関性が認められる指標値を演算することが可能である。
【0026】
図1において符号18は腰椎を表しており、符号24は臓器等の他の組織を表している。ここで注目すべき組織は下大動脈22であり、それは太い動脈であり、超音波画像上において拍動を容易に視認することができるものである。下大動脈22は腹部のほぼ中心に位置し、それが基準組織或いは基準部位として利用される。
【0027】
指標値の計測に際しては、本実施形態において、3つの計測経路36A,36B,36Cが設定される。図1においてはそれらが3つのラインとして表されており、それらのラインは下大動脈22の中心においてクロスしている。ちなみに中央の計測経路36Aに対して他の2つの計測経路36B,36Cは互いに同じ角度だけ傾斜している。その角度は例えば40度であるが、もちろんそれが30度〜50度の範囲内あるいはそれ以外の値に設定されてもよい。3つの計測経路36A,36B,36Cを放射状に設定するために、3つの当接位置A,B,Cが定められている。
【0028】
具体的には、腹部表面12上には保持器具26が設けられ、その保持器具26により3つの当接位置A,B,Cにおいてプローブ32が順次保持される。保持器具26は、3つの保持部30A,30B,30Cを有しており、プローブ32を選択的にいずれかの保持部30A,30B,30Cに差し込んでそれを保持させることが可能である。例えば、図1において、当接位置Aにプローブ32が設けられ、具体的には、プローブ32が保持部30A内に差し込まれている。その送受波面は腹部表面12上に密着しており、その状態で超音波の送受波、具体的には超音波ビームの電子走査が実行される。その位置での計測が完了すると、次に、プローブ32が当接位置Bに移動され、そこにおいて同様の超音波計測が実行される。その後、さらに当接位置Cにおいて上記同様の超音波計測が実行される。ちなみに、符号28は保持器具26のベース部分を表しており、符号32−2,符号32−3はそれぞれ差し替え後のプローブを示している。なお、プローブ32の電子走査方向はX方向であり、すなわち図1に示される横断面に直交する方向に電子走査が実行され、当該方向に走査面が形成される。中央の当接位置Aは、へそ位置を若干避けた位置に設定されており、これによって常に良好な音響伝搬が確保されている。そのような位置は下大動脈22の直上に位置している。
【0029】
本実施形態においては、図1に示した内臓脂肪エリア20の面積に相当する値を測定するために、上述したように3つの計測経路36A,36B,36Cが設定され、各計測経路36A,36B,36C上において、下大動脈の中心から生体前面側に存在する境界面16Aまでの距離がマニュアルであるいは自動的に計測される。マニュアルでの計測を行う場合の例が図2に示されている。境界面16Aは、筋肉層の内面である。皮下脂肪層14の内面を利用することもできる。
【0030】
図2において、上述した3つの当接位置A,B,Cに対応して3つの断層画像Fa,Fb,Fcが示されている。それらの断層画像Fa,Fb,Fcは3つの走査面上のエコーデータに基づいて形成されたものである。ここで各走査面は超音波ビームの電子走査によって形成される。なお、図2においては、各当接位置に設置されたプローブ32が概念的に示されている。
【0031】
ここで、例えば中央の断層画像Faに着目すると、そこにおいて計測経路が符号Laで示されている。距離計測を行う場合、下大動脈の中心Oがユーザーにより指定され、また境界面Raの深さ位置に相当する点40Aがユーザーにより指定される。それらの2つの点O,40Aは、中心ラインに相当する計測経路La上において指定される。もちろんそのような経路を傾斜、偏向させるようにしてもよい。境界面Raは一般に容易に視覚的に特定可能なものであり、また下大動脈の特定も画像上において極めて容易である。したがって距離を高精度で特定できる。これと同様に、当接位置Bにおいても、計測経路Lb上において下大動脈の中心Oと境界面Rb上の点40Bとがユーザーにより指定され、その結果として距離bが自動的に特定される。同じく、当接位置Cにおいても、計測経路Lc上において、中心点Oと境界面Rc上における点40Cとがユーザーにより特定され、これによって自動的に距離cが演算される。以上のようなプロセスを経ることにより、3つの距離a,b,cが認識されることになる。
【0032】
図3には、再び生体の横断面が示されている。計測経路36A,36B,36C上において、符号38A,38B,38Cはそれぞれ送受波面上の中心点を表しており、Oは上述したように下大動脈の中心点を表している。符号40A,40B,40Cは上述したプロセスによって指定された境界面上の点である。ここで中央の計測経路36Aは本実施形態において垂直に設定されており、それに対する他の2つの計測経路36B,36Cの傾斜角度θb,θcは既知であり、例えばそれはいずれも40度である。これによって2つの三角形を特定する4点が定められたことになる。すなわち、中心点O,境界点40B,境界点40A,境界点40Cの4つの点によって囲まれる四角形あるいは2つの三角形の二次元形状を特定することが可能となる。そのような二次元形状は腹腔内における内臓脂肪量に強く相関していることが経験則上明らかになっており、そのような情報を用いて内臓脂肪量の大小を示す指標値を演算することが可能となる。
【0033】
そのような指標値を得る手法として、関数演算法とテーブル法があり、以下においてはまず関数演算法を説明する。それは幾何学的な見地から面積を求めるものである。
【0034】
具体的に説明すると、まず2つの三角形の面積Sb,Scはすでに求められている距離a,b,cと2つの角度θb,θcから容易に求められる。本実施形態においては、このような手法を拡張してさらに4つの三角形の面積が演算されている。すなわち、部分面積Sb1,Sb2,Sc1,Sc2が演算されている。
【0035】
具体的に説明すると、面積Sb1は点O,40B,R1で囲まれる三角形の面積であり、それは角度θb1と2つの辺の長さb,b1から演算できる。角度θb1は既知の値であり、辺の長さb1は本実施形態において辺bの長さと同じかそれに所定の係数を掛けたものとして定義される。また、面積Sb2は3点O,R1,R2で囲まれる三角形の面積であり、それは辺の長さb1,b2および角度θb2から求められる。θb2は既知の値であり、長さb2は例えばbおよびcから所定の係数を用いて求めることが可能である。これと同様の手法により、部分面積Sc1および部分面積Sc2が求められる。前者はcとc1とθc1から演算され、後者はc1とc2とθc2から求められる。θc1とθc2も既知であることから、c1およびc2をcあるいはcとbから推定するようにすればよい。結局それらの部分面積Sb,Sc,Sb1,Sb2,Sc1,Sc2をあわせた面積Sが求められ、それがそのまま内臓脂肪量を表す指標値として出力され、あるいは、その面積値を換算あるいは補正することにより指標値が求められる。いずれにしても内臓脂肪エリア20の大小を二次元的な観点から計測することにより、腹囲長の計測よりも、より信頼性の高い指標値を得ることが可能となる。
【0036】
図4には、以上説明した手法が概念図として表されている。符号52は演算モジュールを表している。そこでの演算は例えばソフトウェアの機能により実現される。モジュール52に対しては符号42〜50で示される各数値a,b,c,θb,θcが入力される。また必要に応じて符号54〜符号60で示されるθb1,θb2,θc1,θc2が与えられる。そのような値に基づき、符号62〜72で示されるように、6つの部分面積Sb〜Scが図示のような関数をもって演算される。もちろん図示の例は一例であり、いずれにしても計測された3つの距離a,b,cと2つの角度θb,θcを用いるのが望ましい。符号74は6つの部分面積の加算を表している。その加算結果である面積値Sをそのまま指標値として出力するようにしてもよいし、あるいは体積値として出力することも可能である。また体型や年齢あるいは性別等を考慮する演算を実行するようにしてもよい。それが符号76で示されている。すなわち、加算結果であるSに対して諸条件に応じた補正を行い、最終的な指標値S’を求めるようにしてもよい。それが体積値V’であってもよい。体積値を求める場合には、生体における複数の位置において面積値を求め、それらに基づいて体積値を求めるのが望ましい。もちろん、経験則上、面積値から体積値が換算できるのであれば、そのような換算演算を実行するようにしてもよい。
【0037】
図5には基本的な2つの部分面積の演算式が例示されている。(A)においては符号78により部分面積Sbの計算方法が示されている。ここでは1/2・absinθbが演算されている。同様に(B)には符号80によって部分面積Scの演算式の例が示されている。それは1/2・acsinθcにより求められている。
【0038】
また図6で示されるように、入力値としてa,b,c,θb,θcを与え、出力値としてSを求めるテーブル82を容易しておいてもよい。例えば多数の被検者からデータを取得し、それを蓄積することによりそのようなテーブルを構築することが可能である。
【0039】
図7には、距離の自動演算方法が示されている。フレームF上には中央ラインとしての計測ラインLが設定されている。Wは探索範囲を表している。例えば探索範囲Wの原点からエッジ検出処理を行うことにより境界面R上にエッジ点40を特定することが可能である。探索方向は上方であってもよい。また超音波ドプラ法を利用すれば血流部Dを抽出することが可能であり、そのような画像処理を基礎として2つのエッジ点84,86を特定し、その中間点として中心点Oを特定することも可能である。ドプラ情報を利用することなく二値化処理等によって血流部を特定することも可能である。このような自動化によればユーザーの負担を大幅に軽減できるので、特に集団検診等において実効性がある。
【0040】
図8には、上述した指標値を演算する機能を備えた超音波診断装置がブロック図として示されている。
【0041】
プローブ180は本体に対してケーブルを介して接続されるものであり、プローブ180は本実施形態において1Dアレイ振動子を有している。1Dアレイ振動子は複数の振動素子を直線状あるいは円弧状に配列してなるものであり、それらによって超音波ビームが形成される。超音波ビームは電子的に走査される。そのような走査方式として電子リニア走査、電子セクタ走査が知られている。本実施形態においては円弧状のアレイ振動子が用いられており、いわゆるコンベックス走査が実行されている。ちなみにプローブ180は単一のものが利用されており、複数の当接位置に対しては段階的に同じプローブが当接されることになる。
【0042】
送受信部182は送信ビームフォーマおよび受信ビームフォーマとして機能するものである。送信時において、送受信部182はアレイ振動子に対して複数の送信信号を並列的に供給する。これによってプローブ180において送信ビームが形成される。生体内からの反射波はプローブ180において受波され、これによって複数の受信信号が送受信部182へ出力される。送受信部182はそのような受信時において複数の受信信号に対して整相加算処理を実行し、これによって整相加算後の受信信号としてビームデータを出力する。そのビームデータは信号処理部184へ与えられる。信号処理部184は対数変換器、検波器等を備えている。
【0043】
信号処理後のビームデータは画像形成部186へ送られる。画像形成部186はデジタルスキャンコンバータにより構成されている。それは座標変換機能、補間処理機能を備えるものである。複数のビームデータによりBモード白黒断層画像が形成される。画像データは表示処理部188へ送られる。表示部192には断層画像が表示される。
【0044】
計測部190は自動的な距離計測を行うモジュールであり、あるいは手動によって入力された位置に基づく距離演算を行うモジュールである。制御部194は図1に示される各構成の動作制御を行っている。制御部194はCPUと動作プログラムによって構成されるものである。入力部196は操作パネルにより構成され、それは具体的にはキーボードやトラックボールなどを有している。ユーザーは、入力部196を利用して位置の指定を行える。
【0045】
図9には図8に示した装置の動作が示され、特に、指標値を演算する際の動作が示されている。
【0046】
生体がベッド上に仰向けで寝た状態において、腹部に対して保持器具が設置される。そして、S101においてAポジションにプローブがセットされる。ここでAポジションは例えば中央位置である。S102では、そのように設置されたプローブによる断層画像上において血管中心点および境界点がユーザーにより入力される。それに先だって、プローブの姿勢をユーザーにより調整し、所望の断面が描かれるようにする。それは中央計測ラインの設定に相当するものである。そのような傾斜運動すなわち煽り運動が許容されるように保持器具が柔らかい材料によって構成されている。
【0047】
中央位置において距離計測が完了すると、S103において、プローブがBポジションにセットされ、S104においてプローブの姿勢および位置の調整が行われた上で、Bモード断層画像上において血管中心および境界点がユーザーにより指定される。こうやって2番目の距離が観測される。これと同様に、S105においては、Cポジションにプローブがセットされ、S106においてはプローブの位置および姿勢が調整された上で、超音波画像上においてユーザーにより血管中心点および境界点が指定される。これによって3つ目の距離が認識されることになる。
【0048】
S107においては、3つの距離および予め定められている2つの角度に基づいて内臓脂肪量に高い相関が認められる指標値が演算されることになる。それは内臓脂肪量の推定に相当する。S108においてはそのような指標値が表示される。集団検診において単に腹囲長を計測するのではなく、以上のように超音波診断を用いてしかも二次元形状として腹腔内の内臓脂肪存在エリアを求めることにより、メタボリックシンドロームの診断あるいは評価に当たって、より有益な指標値を得ることが可能となる。指標値と内臓脂肪量との相関性をより高めるために、診断に当たっては、性別、体格、その他の情報に基づく補正値を作用させるようにするのが望ましい。そのような補正値は経験則あるいは実験則により求められるものである。
【0049】
次に図10乃至図12を用いて以上のような指標値の計測に用いられる保持器具について詳述する。ただし、このような保持器具は上述した計測以外の用途においても用いることが可能なものである。
【0050】
図10には保持器具100の要部構成が示されている。符号100Aは本体部を表している。その本体部100Aはベース102を有し、そのベース102上には3つの保持部104,106,108が設けられている。各保持部104,106,108はそれぞれ中空の部分104A,106A,108Aを有しており、それらにはプローブが差し込まれ、それが緩やかに保持される。中空の部分104A,106A,108Aの水平断面形状は、上下方向に不変であるが、プローブの形状に合った形状を採用するようにしてもよい。
【0051】
本体部100Aは例えばゴムなどの柔らかい材料により構成されており、また本体部100Aに連なるベルト部110もゴムなどによって構成される。ただしベルト部110を用いて腹囲長を計測するような場合には、伸縮性のない材料によってそれを構成するのが望ましい。ベルト部110を設けることにより腹部周囲を取り囲んだ状態で本体部100Aを固定することが可能であり、プローブの保持状態を安定化することが容易となる。被検者を基準とした直交座標系も定義しやすい。またこのような保持器具100を用いれば呼吸があったような場合においても生体の表面運動と共にプローブを追従運動させることができ、計測上の位置ずれといった問題を軽減でき、さらに計測の再現性を向上することが可能となる。
【0052】
上述した指標値の計測にあたっては、3つのプローブポジションが定められているため、図10に示す本体部100Aは3つの保持部104,106,108を備えている。中央の保持部104は垂直に起立しており、すなわちZ方向に伸長した垂直姿勢を有している。それに対して所定角度、具体的には40度の傾斜角度を持って2つの他の保持部106,108が設けられている。それらはYZ平面上において傾斜している。本体部100Aそれ自体が柔らかい材料で構成されているので、各保持部に挿入されたプローブを傾斜運動をさせることができる。ただし、運動可能な方向はYZ面内の運動であり、それ以外の方向にプローブを運動させることは制限される。これにより下大動脈のサーチを容易に行うことが可能になるとともに、3つの走査面を下大動脈上において正確にクロスさせることが容易となる。ちなみに、符号112はへそマーカーを表しており、その突起部分がへその位置に合わせられる。これにより計測の再現性および超音波伝搬の良好性を確保することができる。
【0053】
図11には本体部100Aの断面が示されている。上述したように3つの保持部104,106,108がそれぞれ中空体として放射状に配列されており、角度θ1は例えば40度であり、角度θ2も例えば40度である。但し、装着時にそのような角度が実現されるようにこの段階ではより小さな角度となっていてもよい。中央の保持部104は垂直に起立している。中空内部104A,106A,108Aはプローブの外側をちょうど包み込む形状を有しており、それが保持された状態においては、中空内部における運動自由度及び本体の弾性により、プローブを傾斜させることが可能であるが、プローブが保持部から容易に脱落してしまうことはない。ちなみに符号114Aは上部開口を表しており、符号114Bは下部開口を表しており、同じく符号116Aは上部開口を表しており、符号116Bは下部開口を表している。また符号118Aは上部開口を表しており、符号118Bは下部開口を表している。プローブがセットされた状態においてはその送受波面、具体的には音響レンズ表面が体表面上に密着しているのが望ましく、送受波面と生体表面との間における空気層を排除するために例えばゼリー状の音響カップリング材が用いられる。本体部100Aは視認性を確保するため透明な材料で構成されてもよい。
【0054】
図12には保持器具100の全体が概念的に示されている。上述したように保持器具100は本体部100Aとその両端に連なるベルト部110とを含んでおり、ベルト部110は生体の胴部周囲に巻き付けられるものである。ベルト部110それ自身が伸縮可能であってもよいし、例えば符号120で示されるようにその長さを調整可能な機構を備えていてもよい。また長さ調整に際して腹囲長を計測できるようにベルト部110上に目盛りを設けるようにしてもよい。本体部110Aにはその一方側および他方側の両部側に突起状のマーカー112が設けられており、いずれの向きに本体部100Aを設置してもへその位置にそのようなマーカー112を合わせることができ、設置のやり直しといった問題を未然に防止することができる。へそマーカー112の採用によりプローブ当接位置を常に所定距離だけ生体中心から一方側へシフトさせることができ、良好な伝搬経路の形成と計測の再現性を両立させることが可能である。そのような位置は下大動脈の上部に相当し、垂直の位置決めも同時に行えるようになっている。
【0055】
図10乃至図12に示した保持器具は、生体内における深部のある基準部位に複数の走査面を交差する状態でセットすることが容易となるため、上述した指標値の演算以外において同じような計測が求められる場合一般に用いることが可能なものである。用途に応じてその弾性や保持作用の程度を調整するようにしてもよい。このような保持器具を用いれば、集団検診において、医師は順番に保持部にプローブを差し込むだけで容易にプローブの位置決めを完了させることができるので、その負担を大幅に軽減することが可能であり、また計測の再現性を極めて良好にできるので、集団検診の効率を高められる。
【0056】
本実施形態においては生体が横向きの状態において指標値の計測が行われたが、立位の状態において同じような保持器具を使って指標値を計測するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 生体、20 内臓脂肪エリア、22 下大動脈、26 保持器具、a,b,c 距離。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に当接され、超音波の送受波を行って受信信号を出力する送受波手段と、
前記受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段と、
前記生体の横断面上において放射状に設定される複数の計測経路を含んだ複数の超音波画像を用いて、前記各計測経路上において、深部に位置する基準部位と浅部に位置する所定の境界面との間の距離を計測する距離計測手段と、
前記複数の計測経路の幾何学的関係及び前記複数の計測経路上で計測された複数の距離に基づいて、内臓脂肪量との相関性が認められる指標値を演算する指標値演算手段と、
前記指標値を出力する出力手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記基準部位は血管であり、
前記各計測経路に対応した各超音波画像が断層画像として表示され、
前記各断層画像上において前記血管と前記所定の境界面との間の距離が計測される、
ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項3】
請求項2記載のシステムにおいて、
前記血管は拍動する下大動脈である、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項4】
請求項3記載のシステムにおいて、
前記複数の断層画像は、前記生体の横断面に直交し且つ前記下大動脈上において相互にクロスする複数の走査面に対応する、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項5】
請求項4記載のシステムにおいて、
前記複数の走査面の内で中央走査面は臍を避けた位置に形成される、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項6】
請求項5記載のシステムにおいて、
前記複数の走査面は、中央走査面、右側走査面及び左側走査面を含み、
前記右側走査面及び前記左側走査面は前記中央走査面に対して実質的に左右同一の傾斜角度をもって設定される、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記複数の計測経路は中央経路、右側経路及び左側経路を含み、
前記指標値演算手段は、
前記中央経路上の距離と、前記右側経路上の距離と、前記中央経路と前記右側経路との間の右側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記右側経路とに挟まれる右側部分の右側部分面積を求める手段と、
前記中央経路上の距離と、前記左側経路上の距離と、前記中央経路と前記左側経路との間の左側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記左側経路とに挟まれる左側部分の左側部分面積を求める手段と、
前記右側部分面積及び前記左側部分面積を少なくとも用いて前記指標値を演算する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項1】
生体に当接され、超音波の送受波を行って受信信号を出力する送受波手段と、
前記受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段と、
前記生体の横断面上において放射状に設定される複数の計測経路を含んだ複数の超音波画像を用いて、前記各計測経路上において、深部に位置する基準部位と浅部に位置する所定の境界面との間の距離を計測する距離計測手段と、
前記複数の計測経路の幾何学的関係及び前記複数の計測経路上で計測された複数の距離に基づいて、内臓脂肪量との相関性が認められる指標値を演算する指標値演算手段と、
前記指標値を出力する出力手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記基準部位は血管であり、
前記各計測経路に対応した各超音波画像が断層画像として表示され、
前記各断層画像上において前記血管と前記所定の境界面との間の距離が計測される、
ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項3】
請求項2記載のシステムにおいて、
前記血管は拍動する下大動脈である、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項4】
請求項3記載のシステムにおいて、
前記複数の断層画像は、前記生体の横断面に直交し且つ前記下大動脈上において相互にクロスする複数の走査面に対応する、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項5】
請求項4記載のシステムにおいて、
前記複数の走査面の内で中央走査面は臍を避けた位置に形成される、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項6】
請求項5記載のシステムにおいて、
前記複数の走査面は、中央走査面、右側走査面及び左側走査面を含み、
前記右側走査面及び前記左側走査面は前記中央走査面に対して実質的に左右同一の傾斜角度をもって設定される、ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記複数の計測経路は中央経路、右側経路及び左側経路を含み、
前記指標値演算手段は、
前記中央経路上の距離と、前記右側経路上の距離と、前記中央経路と前記右側経路との間の右側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記右側経路とに挟まれる右側部分の右側部分面積を求める手段と、
前記中央経路上の距離と、前記左側経路上の距離と、前記中央経路と前記左側経路との間の左側角度と、に基づいて、前記中央経路と前記左側経路とに挟まれる左側部分の左側部分面積を求める手段と、
前記右側部分面積及び前記左側部分面積を少なくとも用いて前記指標値を演算する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断システム。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図11】


【図12】


【図10】




【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図11】


【図12】


【図10】


【公開番号】特開2011−101679(P2011−101679A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256886(P2009−256886)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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