説明

超音波診断装置および方法

【課題】関心領域の大きさに制限を受けることなく関心領域の高画質化と省電力化を図ることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】時刻t1に振動子アレイを構成する各トランスデューサに駆動信号が供給されても、受信信号処理部はOFF状態のままON状態とならず、関心領域の測定深度に応じて、時刻t4に関心領域からの超音波エコーの受信が開始された後、時刻t5に関心領域からの超音波エコーの受信が終了するまでの間のみ受信信号処理部がON状態とされ、その後、受信信号処理部は再びOFF状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および方法に係り、特に、超音波プローブの振動子アレイから超音波を送受信することにより生成された超音波画像に基づいて診断を行う超音波診断装置の省電力化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体に向けて超音波を送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
近年、ベッドサイドや救急医療現場等に搬送して使用することができるポータブル型の超音波診断装置が開発されているが、このような超音波診断装置では、その電源にバッテリが用いられており、装置の消費電力が連続使用時間に大きな影響を及ぼすこととなる。また、消費電力が大きいと、装置内の発熱量も大きくなるので、放熱対策のために装置サイズの大型化を余儀なくされ、ポータブル型という利便性が損なわれてしまう。
【0004】
特に、超音波プローブと装置本体とを無線接続するワイヤレスプローブ等では、振動子からの超音波の送信および超音波エコーの受信に関わる送受信回路を小さなプローブ内に配置する必要があるため、これらの回路の大幅な省電力化が要求される。
ところが、通常の超音波診断装置では、振動子の駆動電圧として50〜100Vが用いられるのに対して、上記のワイヤレスプローブ等では、実装空間制限から振動子の駆動電圧は低く抑えられているので、高画質を得るために受信回路のS/Nを上げる必要がある。一般に、受信回路のS/Nはその消費電力と関係があり、高S/Nを得るためには受信回路の消費電力を低減することは難しいのが現状である。
【0005】
超音波診断装置における省電力化については、例えば特許文献1に、受信に関与しないチャンネルのバッファアンプのバイアスを停止するようにした装置が示されている。また、特許文献2には、測定ラインの本数を維持しつつ関心領域のみについて測定ラインの密度を上げ、それ以外の範囲については測定ラインの密度を低下させる超音波診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−296610号公報
【特許文献2】特開平9−192130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置は、使用するチャンネルと使用しないチャンネルとを区別し、使用しないチャンネルのバッファアンプのバイアスを停止するので、省電力化を図ろうとすると、画質が低下するという問題がある。
また、特許文献2の装置では、1フレームの測定ライン数を維持しながらも、測定ラインの粗密を変化させて関心領域の空間分解能を維持しようとするため、測定ラインに直交する方向に関して画質が不均一となり、この方向における関心領域の長さが制限されてしまうという問題がある。
【0008】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、関心領域の大きさに制限を受けることなく関心領域の高画質化と省電力化を図ることができる超音波診断装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る超音波診断装置は、送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波診断装置であって、振動子アレイから出力される受信信号の処理が測定深度に応じて選択的に停止される省電力モードで動作するように受信信号処理部を制御する制御手段を備えたものである。
【0010】
好ましくは、制御手段は、複数の測定ラインを第1のライン群と第2のライン群とに分割し、第1のライン群の測定ラインに対しては測定深度に関わらずに振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードで動作し、第2のライン群の測定ラインに対しては省電力モードで動作するように受信信号処理部を制御する。
この場合、第1のライン群の測定ラインと第2のライン群の測定ラインは、交互に配列することができる。あるいは、第1のライン群は、複数の測定ラインのうち中央部に配列された測定ラインからなり、第2のライン群は、第1のライン群の両側部に配列された測定ラインからなるように構成してもよい。
【0011】
また、制御手段は、省電力モードにおいて、関心領域に対しては振動子アレイから出力される受信信号の処理を行い、他の領域に対しては振動子アレイから出力される受信信号の処理を停止することもできる。
この場合、関心領域を手動により設定してもよく、また、画像生成部で生成された超音波画像から輝度に基づいて関心領域を自動選択する関心領域選択部をさらに備えてもよく、さらに、関心領域を予め設定された超音波の送受信のフォーカス点の周辺領域に設定することもできる。
制御手段は、フレームに応じて選択的に、測定深度に関わらずに振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードと省電力モードを切り替えて動作するように受信信号処理部を制御してもよい。
【0012】
この発明に係る超音波診断方法は、送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波診断方法であって、振動子アレイから出力される受信信号の処理が測定深度に応じて選択的に停止される省電力モードで動作するように受信信号処理部を制御する方法である。
【0013】
好ましくは、複数の測定ラインを第1のライン群と第2のライン群とに分割し、第1のライン群の測定ラインに対しては測定深度に関わらずに振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードで動作し、第2のライン群の測定ラインに対しては省電力モードで動作するように受信信号処理部を制御する。
この場合、第1のライン群の測定ラインと第2のライン群の測定ラインは、交互に配列することができる。あるいは、第1のライン群は、複数の測定ラインのうち中央部に配列された測定ラインからなり、第2のライン群は、第1のライン群の両側部に配列された測定ラインからなるように構成してもよい。
【0014】
また、省電力モードにおいて、関心領域に対しては振動子アレイから出力される受信信号の処理を行い、他の領域に対しては振動子アレイから出力される受信信号の処理を停止することもできる。
この場合、関心領域を手動により設定してもよく、また、画像生成部で生成された超音波画像から輝度に基づいて関心領域を自動選択してもよく、さらに、関心領域を予め設定された超音波の送受信のフォーカス点の周辺領域に設定することもできる。
また、フレームに応じて選択的に、測定深度に関わらずに振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードと省電力モードを切り替えて動作するように受信信号処理部を制御してもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、振動子アレイから出力される受信信号の処理が測定深度に応じて選択的に停止される省電力モードで動作するように受信信号処理部を制御するので、関心領域の大きさに制限を受けることなく関心領域の高画質化と省電力化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】高画質モードにおける駆動信号と受信信号処理部の動作を示すタイミングチャートである。
【図3】高画質モードにおける各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示す図である。
【図4】実施の形態1における駆動信号と受信信号処理部の動作を示すタイミングチャートである。
【図5】実施の形態1における各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示す図である。
【図6】実施の形態2における各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示す図である。
【図7】実施の形態2の変形例における各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示す図である。
【図8】実施の形態3における関心領域の設定方法を示す図である。
【図9】実施の形態3における各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示す図である。
【図10】実施の形態4における各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示し、(A)は奇数フレーム、(B)は偶数フレームを示す図である。
【図11】実施の形態4の変形例における各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示し、(A)は奇数フレーム、(B)は偶数フレームを示す図である。
【図12】実施の形態4の他の変形例における各測定ライン上の受信信号処理の様子を模式的に示し、(A)は奇数フレーム、(B)は偶数フレームを示す図である。
【図13】実施の形態5に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図14】実施の形態5における関心領域の判別方法を示す図である。
【図15】実施の形態6における関心領域の設定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1と無線通信により接続された診断装置本体2とを備えている。
【0018】
超音波プローブ1は、1次元又は2次元の振動子アレイを構成する複数の超音波トランスデューサ3を有し、これらトランスデューサ3にそれぞれ対応して受信信号処理部4が接続され、さらに受信信号処理部4にパラレル/シリアル変換部5を介して無線通信部6が接続されている。また、複数のトランスデューサ3に送信駆動部7を介して送信制御部8が接続され、複数の受信信号処理部4に受信制御部9が接続され、無線通信部6に通信制御部10が接続されている。そして、パラレル/シリアル変換部5、送信制御部8、受信制御部9および通信制御部10にプローブ制御部11が接続されている。
【0019】
複数のトランスデューサ3は、それぞれ振動子を形成するもので、送信駆動部7から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各トランスデューサ3は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0020】
送信駆動部7は、例えば、複数のパルサを含んでおり、送信制御部8によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数のトランスデューサ3から送信される超音波が被検体内の組織のエリアをカバーする幅広の超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数のトランスデューサ3に供給する。
【0021】
各チャンネルの受信信号処理部4は、受信制御部9の制御の下で、対応するトランスデューサ3から出力される受信信号に対して直交検波処理又は直交サンプリング処理を施すことにより複素ベースバンド信号を生成し、複素ベースバンド信号をサンプリングすることにより、組織のエリアの情報を含むサンプルデータを生成して、サンプルデータをパラレル/シリアル変換部5に供給する。受信信号処理部4は、複素ベースバンド信号をサンプリングして得られるデータに高能率符号化のためのデータ圧縮処理を施すことによりサンプルデータを生成してもよい。
パラレル/シリアル変換部5は、複数チャンネルの受信信号処理部4によって生成されたパラレルのサンプルデータを、シリアルのサンプルデータに変換する。
【0022】
無線通信部6は、シリアルのサンプルデータに基づいてキャリアを変調して伝送信号を生成し、伝送信号をアンテナに供給してアンテナから電波を送信することにより、シリアルのサンプルデータを送信する。変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)等が用いられる。
無線通信部6は、診断装置本体2との間で無線通信を行うことにより、サンプルデータを診断装置本体2に送信すると共に、診断装置本体2から各種の制御信号を受信して、受信された制御信号を通信制御部10に出力する。通信制御部10は、プローブ制御部11によって設定された送信電波強度でサンプルデータの送信が行われるように無線通信部6を制御すると共に、無線通信部6が受信した各種の制御信号をプローブ制御部11に出力する。
【0023】
プローブ制御部11は、診断装置本体2から送信される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
超音波プローブ1には、図示しないバッテリが内蔵され、このバッテリから超音波プローブ1内の各回路に電源供給が行われる。
なお、超音波プローブ1は、リニアスキャン方式、コンベックススキャン方式、セクタスキャン方式等の体外式プローブでもよいし、ラジアルスキャン方式等の超音波内視鏡用プローブでもよい。
【0024】
一方、診断装置本体2は、無線通信部13を有し、この無線通信部13にシリアル/パラレル変換部14を介してデータ格納部15が接続され、データ格納部15に画像生成部16が接続されている。さらに、画像生成部16に表示制御部17を介して表示部18が接続されている。また、無線通信部13に通信制御部19が接続され、シリアル/パラレル変換部14、画像生成部16、表示制御部17および通信制御部19に本体制御部20が接続されている。さらに、本体制御部20には、操作者が入力操作を行うための操作部21と、動作プログラムを格納する格納部22がそれぞれ接続されている。
【0025】
無線通信部13は、超音波プローブ1との間で無線通信を行うことにより、各種の制御信号を超音波プローブ1に送信する。また、無線通信部13は、アンテナによって受信される信号を復調することにより、シリアルのサンプルデータを出力する。
通信制御部19は、本体制御部20によって設定された送信電波強度で各種の制御信号の送信が行われるように無線通信部13を制御する。
シリアル/パラレル変換部14は、無線通信部13から出力されるシリアルのサンプルデータを、パラレルのサンプルデータに変換する。データ格納部15は、メモリまたはハードディスク等によって構成され、シリアル/パラレル変換部14によって変換された少なくとも1フレーム分のサンプルデータを格納する。
【0026】
画像生成部16は、データ格納部15から読み出される1フレーム毎のサンプルデータに受信フォーカス処理を施して、超音波診断画像を表す画像信号を生成する。画像生成部16は、整相加算部23と画像処理部24とを含んでいる。
整相加算部23は、本体制御部20において設定された受信方向に応じて、予め記憶されている複数の受信遅延パターンの中から1つの受信遅延パターンを選択し、選択された受信遅延パターンに基づいて、サンプルデータによって表される複数の複素ベースバンド信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれたベースバンド信号(音線信号)が生成される。
【0027】
画像処理部24は、整相加算部23によって生成される音線信号に基づいて、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。画像処理部24は、STC(sensitivity time control)部と、DSC(digital scan converter:デジタル・スキャン・コンバータ)とを含んでいる。STC部は、音線信号に対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。DSCは、STC部によって補正された音線信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)し、階調処理等の必要な画像処理を施すことにより、Bモード画像信号を生成する。
【0028】
表示制御部17は、画像生成部16によって生成される画像信号に基づいて、表示部18に超音波診断画像を表示させる。表示部18は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部17の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0029】
本体制御部20は、操作者により操作部21から入力された関心領域の測定深度に基づき、超音波プローブ1の受信信号処理部4を測定深度に応じて選択的に停止する省電力モードで動作するように制御する。すなわち、本体制御部20は、操作部21から入力された関心領域の測定深度に対してはON状態となり、その他の測定深度に対してはOFF状態となるように、無線通信により超音波プローブ1の受信信号処理部4を制御する。
【0030】
このような診断装置本体2において、シリアル/パラレル変換部14、画像生成部16、表示制御部17、通信制御部19および本体制御部20は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。上記の動作プログラムは、格納部22に格納される。格納部22における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROMまたはDVD−ROM等を用いることができる。
【0031】
ここで、省電力モードについて説明するが、その前に、省電力化を図らない高画質モードについて説明する。
高画質モードにおいては、図2に示されるように、振動子アレイを構成する各トランスデューサ3に送信駆動部7から周期ΔTaで駆動信号が供給される場合に、被検体の検査領域の最深部からの超音波エコーを受信するに十分な時間ΔTbだけ受信信号処理部4がON状態とされる。例えば、時刻t1にトランスデューサ3に駆動信号が供給されると、これと同時に対応する受信信号処理部4がON状態とされ、時間ΔTbにわたって受信信号処理部4のON状態が維持され、時刻t1から時間ΔTbが経過した時刻t2に検査に有効な超音波エコーの受信が完了したとして受信信号処理部4がOFF状態にされる。その後、時刻t1から周期ΔTaが経過した時刻t3に次の駆動信号がトランスデューサ3に供給されると共に再び受信信号処理部4がON状態とされる。以降、同様の動作が繰り返される。
【0032】
これにより、図3に示されるように、全ての測定ラインに対して、検査領域の最深部からの超音波エコーを受信するに十分な時間ΔTbにわたって受信信号処理部4で受信信号の処理が行われ、高画質の画像を得ることができる。
【0033】
これに対して、省電力モードにおいては、図4に示されるように、振動子アレイを構成する各トランスデューサ3に送信駆動部7から周期ΔTaで駆動信号が供給される場合に、操作部21から入力された関心領域の特定の測定深度に対応する時間のみ受信信号処理部4がON状態とされ、他の時間は受信信号処理部4がOFF状態にされる。例えば、時刻t1にトランスデューサ3に駆動信号が供給されても、受信信号処理部4はまだON状態とされず、時刻t1から時間ΔTcが経過した時刻t4にON状態とされる。この時間ΔTcは、超音波を送信してから関心領域からの超音波エコーの受信が開始されるまでに要する時間である。すなわち、受信信号処理部4は、関心領域からの超音波エコーの受信が開始される時刻t4にON状態とされ、関心領域からの超音波エコーの受信が終了する時刻t5までの時間ΔTdにわたって受信信号処理部4のON状態が維持される。そして、時刻t5に関心領域の全域からの超音波エコーの受信が完了したとして受信信号処理部4がOFF状態にされ、その後、時刻t1から周期ΔTaが経過した時刻t3に次の駆動信号がトランスデューサ3に供給される。以降、同様の動作が繰り返される。
【0034】
これにより、図5に示されるように、全ての測定ラインに対して、関心領域からの超音波エコーを受信するに必要な時間ΔTdのみ受信信号処理部4で受信信号の処理が行われ、他の時間は受信信号の処理が停止される。その結果、省電力化を図ることができる。
【0035】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
まず、操作者により操作部21から被検体の関心領域の測定深度が入力される。例えば、検査部位等に応じて被検体の体表からの深さを概ね把握することができ、この深さに基づいて関心領域の測定深度を推定し、入力することができる。なお、操作部21から入力された関心領域の測定深度は、無線通信により診断装置本体2の本体制御部20から超音波プローブ1のプローブ制御部11へ伝送される。
【0036】
超音波診断が開始されると、プローブ制御部11および送信制御部8の制御の下で送信駆動部7から供給される駆動信号に従って振動子アレイを構成する複数のトランスデューサ3から超音波が送信される。被検体からの超音波エコーを受信した各トランスデューサ3から出力された受信信号がそれぞれ対応する受信信号処理部4に供給されるが、このとき、プローブ制御部11は、受信制御部9を介して、関心領域の測定深度に対してはON状態となり、その他の測定深度に対してはOFF状態となるように受信信号処理部4を制御する。
【0037】
これにより、関心領域の測定深度に対してのみ受信信号処理部4でサンプルデータが生成され、パラレル/シリアル変換部5でシリアル化された後に無線通信部6から診断装置本体2へ無線伝送される。診断装置本体2の無線通信部13で受信されたサンプルデータは、シリアル/パラレル変換部14でパラレルのデータに変換され、データ格納部15に格納される。さらに、データ格納部15から1フレーム毎のサンプルデータが読み出され、画像生成部16で画像信号が生成され、この画像信号に基づいて表示制御部17により超音波診断画像が表示部18に表示される。
【0038】
このようにして、超音波プローブ1の受信信号処理部4が省電力モードで動作され、関心領域を高画質で画像表示しながらも省電力化を図ることが可能となる。
なお、測定ラインの本数は制限されず、関心領域に関わらない測定深度に対してのみ受信信号処理部4をOFF状態とするので、関心領域の大きさに制限を受けることなく、関心領域の高画質化と省電力化を両立させることができる。
【0039】
実施の形態2
実施の形態1では、全ての測定ラインに対して、関心領域の測定深度に対応する時間ΔTdのみ受信信号処理部4で受信信号の処理を行い、他の時間は受信信号の処理を停止したが、これに限るものではなく、測定ラインを第1のライン群と第2のライン群とに分割し、第1のライン群の測定ラインに対しては測定深度に関わらずに受信信号の処理を行う高画質モードで動作し、第2のライン群の測定ラインに対しては関心領域の測定深度に対してのみ受信信号の処理を行う省電力モードで動作するように受信信号処理部4を制御することもできる。
【0040】
例えば、図6に示されるように、複数の測定ラインのうち、奇数ラインを第1のライン群L1とし、偶数ラインを第2のライン群L2として、第1のライン群L1の測定ラインと第2のライン群L2の測定ラインが交互に配列されるように設定する。そして、第1のライン群L1の測定ラインに対しては高画質モードで、第2のライン群L2の測定ラインに対しては省電力モードで動作するように受信信号処理部4が制御される。すなわち、第1のライン群L1の測定ラインでは、被検体の検査領域の最深部からの超音波エコーを受信するに十分な時間ΔTbにわたって受信信号が処理され、第2のライン群L2の測定ラインでは、関心領域からの超音波エコーを受信するに必要な時間ΔTdのみ受信信号が処理される。
【0041】
このようにすれば、画面の全領域にわたる超音波画像を得ることができると共に関心領域の測定深度のみを高画質で画像表示することが可能となる。
なお、偶数ラインを第1のライン群L1として高画質モードで動作し、奇数ラインを第2のライン群L2として省電力モードで動作するように、受信信号処理部4を制御してもよい。
また、測定ライン1本毎に第1のライン群L1と第2のライン群L2とに分けるのではなく、数本の測定ライン毎に第1のライン群L1と第2のライン群L2とに分割してもよい。
【0042】
さらに、図7に示されるように、複数の測定ラインのうち中央部に配列された複数の測定ラインを第1のライン群L1として高画質モードで動作し、第1のライン群L1の両側部に配列された複数の測定ラインを第2のライン群L2として省電力モードで動作するように、受信信号処理部4を制御することもできる。
これにより、省電力化を図りながらも、中央部と関心領域の測定深度のみを高画質で画像表示することが可能となる。
【0043】
実施の形態3
上記の実施の形態1および2では、関心領域の測定深度について全ての測定ラインに対して受信信号の処理を行ったが、図8に示されるように、関心領域Rの測定深度だけでなく、関心領域Rの形状をも、操作者により表示部18の表示パネルあるいは操作部21等から手動で入力設定するようにすれば、図9に示されるように、関心領域Rのみに対して受信信号の処理を行うことができる。すなわち、関心領域Rが存在する測定ラインで且つ関心領域Rが存在する測定深度に対して受信信号の処理を行い、その他の領域に対しては受信信号の処理が停止される。
このようにすることにより、さらに効果的に省電力化を図ることができる。
【0044】
実施の形態4
上記の実施の形態1〜3では、フレームによって変化することなく、受信信号処理部4の制御が行われたが、これに限るものではなく、フレームに応じて選択的に、高画質モードと省電力モードを切り替えて動作するように受信信号処理部4を制御することもできる。
例えば、奇数フレームでは、図10(A)に示されるように、全ての測定ラインに対して測定深度に関わらずに受信信号が処理される高画質モードで動作し、偶数フレームでは、図10(B)に示されるように、全ての測定ラインに対して、関心領域からの超音波エコーを受信するに必要な時間ΔTdのみ受信信号の処理が行われ、他の時間は受信信号の処理が停止されるように、受信信号処理部4を制御する。
【0045】
このようにすれば、1フレーム毎に画面の全領域にわたる超音波画像を得ることができると共に関心領域の測定深度のみを高画質で画像表示することが可能となる。
なお、偶数フレームを高画質モードで動作させ、奇数フレームを省電力モードで動作させるように、受信信号処理部4を制御してもよい。
また、1フレーム毎に高画質モードと省電力モードを切り替えるのではなく、数フレーム毎に高画質モードと省電力モードを切り替えてもよい。
【0046】
また、奇数フレームでは、図11(A)に示されるように、全ての測定ラインに対して測定深度に関わらずに受信信号が処理される高画質モードで動作し、偶数フレームでは、図11(B)に示されるように、複数の測定ラインのうち中央部に配列された複数の測定ラインを高画質モードで動作し、両側部に配列された複数の測定ラインを省電力モードで動作するように、受信信号処理部4を制御することもできる。
【0047】
さらに、実施の形態3と同様に、関心領域Rの測定深度だけでなく、関心領域Rの形状をも、操作者により表示部18の表示パネルあるいは操作部21等から手動で入力設定し、奇数フレームでは、図12(A)に示されるように、全ての測定ラインに対して測定深度に関わらずに受信信号が処理される高画質モードで動作し、偶数フレームでは、図12(B)に示されるように、関心領域Rのみに対して受信信号の処理を行うように、受信信号処理部4を制御してもよい。
【0048】
実施の形態5
図13に、実施の形態5に係る超音波診断装置に用いられた診断装置本体31の構成を示す。この診断装置本体31は、図1に示した実施の形態1における診断装置本体2において、画像生成部16に関心領域選択部32が接続され、この関心領域選択部32に本体制御部20を接続したものである。関心領域選択部32は、図14に示されるように、画像生成部16で生成された超音波画像から輝度に基づいて被検体の関心領域Rを自動選択する。
【0049】
このような関心領域選択部32を備えることにより、画像生成部16で生成された超音波画像から輝度に基づいて関心領域Rが自動選択される。本体制御部20は、関心領域選択部32で自動選択された関心領域Rに基づき、上述した実施の形態3と同様に、関心領域Rのみに対して受信信号の処理を行い、その他の領域に対しては受信信号の処理が停止されるように、無線通信により超音波プローブ1の受信信号処理部4を制御する。
また、本体制御部20は、図12に示した実施の形態4のように、フレームに応じて、高画質モードでの動作と、関心領域Rのみに対して受信信号の処理を行う省電力モードでの動作を切り替えるように、受信信号処理部4を制御してもよい。
【0050】
実施の形態6
図1に示した実施の形態1における診断装置本体2において、本体制御部20が、予め設定された超音波の送受信のフォーカス点Fの周辺領域を関心領域Rとして自動選択することもできる。このようにして自動選択された関心領域Rに基づき、本体制御部20は、実施の形態1〜4に記載したように受信信号処理部4を制御する。
【0051】
なお、上述した実施の形態1〜6では、超音波プローブ1と診断装置本体2または31とが互いに無線通信により接続されていたが、これに限るものではなく、接続ケーブルを介して超音波プローブ1が診断装置本体2または31に接続されていてもよい。この場合には、超音波プローブ1の無線通信部6および通信制御部10、診断装置本体2または31の無線通信部13および通信制御部19等は不要となる。
【符号の説明】
【0052】
1 超音波プローブ、2,31 診断装置本体、3 トランスデューサ、4 受信信号処理部、5 パラレル/シリアル変換部、6 無線通信部、7 送信駆動部、8 送信制御部、9 受信制御部、10 通信制御部、11 プローブ制御部、13 無線通信部、14 シリアル/パラレル変換部、15 データ格納部、16 画像生成部、17 表示制御部、18 表示部、19 通信制御部、20 本体制御部、21 操作部、22 格納部、23 整相加算部、24 画像処理部、32 関心領域選択部、L1 第1のライン群、L2 第2のライン群、R 関心領域、F フォーカス点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
前記振動子アレイから出力される受信信号の処理が測定深度に応じて選択的に停止される省電力モードで動作するように前記受信信号処理部を制御する制御手段を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、複数の測定ラインを第1のライン群と第2のライン群とに分割し、第1のライン群の測定ラインに対しては測定深度に関わらずに前記振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードで動作し、第2のライン群の測定ラインに対しては前記省電力モードで動作するように前記受信信号処理部を制御する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
第1のライン群の測定ラインと第2のライン群の測定ラインは、交互に配列されている請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
第1のライン群は、前記複数の測定ラインのうち中央部に配列された測定ラインからなり、第2のライン群は、第1のライン群の両側部に配列された測定ラインからなる請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記省電力モードにおいて、関心領域に対しては前記振動子アレイから出力される受信信号の処理を行い、他の領域に対しては前記振動子アレイから出力される受信信号の処理を停止する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記関心領域は、手動により設定される請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記画像生成部で生成された超音波画像から輝度に基づいて前記関心領域を自動選択する関心領域選択部をさらに備えた請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記関心領域は、予め設定された超音波の送受信のフォーカス点の周辺領域である請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記制御手段は、フレームに応じて選択的に、測定深度に関わらずに前記振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードと前記省電力モードを切り替えて動作するように前記受信信号処理部を制御する請求項1〜8のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
送信駆動部から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信信号処理部で処理し、処理された受信信号に基づいて画像生成部で超音波画像を生成する超音波診断方法であって、
前記振動子アレイから出力される受信信号の処理が測定深度に応じて選択的に停止される省電力モードで動作するように前記受信信号処理部を制御することを特徴とする超音波診断方法。
【請求項11】
複数の測定ラインを第1のライン群と第2のライン群とに分割し、第1のライン群の測定ラインに対しては測定深度に関わらずに前記振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードで動作し、第2のライン群の測定ラインに対しては前記省電力モードで動作するように前記受信信号処理部を制御する請求項10に記載の超音波診断方法。
【請求項12】
第1のライン群の測定ラインと第2のライン群の測定ラインは、交互に配列されている請求項11に記載の超音波診断方法。
【請求項13】
第1のライン群は、前記複数の測定ラインのうち中央部に配列された測定ラインからなり、第2のライン群は、第1のライン群の両側部に配列された測定ラインからなる請求項11に記載の超音波診断方法。
【請求項14】
前記省電力モードにおいて、関心領域に対しては前記振動子アレイから出力される受信信号の処理を行い、他の領域に対しては前記振動子アレイから出力される受信信号の処理を停止する請求項10に記載の超音波診断方法。
【請求項15】
前記関心領域は、手動により設定される請求項14に記載の超音波診断方法。
【請求項16】
前記画像生成部で生成された超音波画像から輝度に基づいて前記関心領域が自動選択される請求項14に記載の超音波診断方法。
【請求項17】
前記関心領域は、予め設定された超音波の送受信のフォーカス点の周辺領域である請求項14に記載の超音波診断方法。
【請求項18】
フレームに応じて選択的に、測定深度に関わらずに前記振動子アレイから出力された受信信号の処理が行われる高画質モードと前記省電力モードを切り替えて動作するように前記受信信号処理部を制御する請求項10〜17のいずれか一項に記載の超音波診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−55559(P2012−55559A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203073(P2010−203073)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】