説明

超音波診断装置及びレポート画像作成方法

【課題】乳房等の組織における特定の診断部位を表す三次元画像単独ではその診断部位が組織のどこに存在しているのかが把握困難であった。
【解決手段】レポート画像100は背景画像としてのグラフィック画像と1または複数の三次元画像とで構成される。グラフィック画像はイメージ104,106を有し、それらのイメージは乳房等の組織を模式的に表すものである。実際の組織と診断部位との位置関係がイメージ104,106上においてもそのまま再現されるように、三次元画像114,116,118の合成位置が演算される。レポート画像100上において距離計測等を行うことも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置及びレポート画像作成方法に関し、特に超音波の送受波により形成された超音波画像を含むレポート画像の作成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乳房内に生じる疾患(例えば腫瘍)を診断するために超音波診断が利用される。例えば、集団検診において、乳房の超音波診断は検査者によって実施され、超音波診断によって得た超音波画像は写真として印刷された上で、その写真が検査レポート用紙に添付される。医師は検査レポート用紙の内容を参照しながら、写真上で疾患の有無、疾患の位置、疾患の広がり具合(例えば腫瘍であれば浸潤度)、等を判断する。勿論、医師が自ら超音波診断を遂行する場合もある。そのような場合でも、超音波画像は通常、写真として印刷され、それが検査レポートあるいはカルテの一部として保存される。
【0003】
近時、三次元超音波画像技術が普及しつつあり、腫瘍等の対象部位を三次元画像として観察することが可能となっている。例えば、超音波探触子を視点として見た腫瘍の三次元形態を三次元画像として表示することもできる。この場合、超音波の送受波領域(あるいは送受波面)が大きな超音波探触子を用いれば、乳房全体の三次元画像を一度に表示することができるが、そのような超音波探触子はどうしても大きく且つ重く、取扱いが困難である。また、仰向けに寝た被検者の乳房に対して、重い超音波探触子をあてがうと、その自重で乳房を押し潰してしまい、超音波画像上で腫瘍等の位置や範囲を正確に把握できなくなるおそれがある。
【0004】
特許文献1にはボディマーク及びプローブマークを合成表示する超音波診断装置が開示されている。当該超音波診断装置は磁気を利用して超音波探触子の空間的な座標を計測する機能を有する。特許文献2には乳房患部を自動的に検出する超音波診断装置が開示されている。特許文献3には穿刺経路等を合成表示する超音波診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−118142号公報
【特許文献2】特開2005−193017号公報
【特許文献3】特開2005−323669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳房の超音波診断によって得られた超音波画像写真を観察する場合、そこに含まれる疾患を特定、視認できても、その疾患部位が乳房のどの位置にあるのかを判断することは非常に難しい。すなわち、通常、疾患部位は、乳頭を基準とした座標系における方位と距離とによって特定されるが、乳房の一部を表わす超音波画像写真からそのような情報を得ることは困難である。勿論、乳房全体の超音波画像を取得すれば乳房全体との関係から疾患部位の位置や広がりを把握できるが、そのような超音波画像を得るための超音波探触子を用いると、上記で指摘したような問題が生じやすい。あるいは、そのような超音波探触子を利用して超音波画像を得たとしても、やはり超音波画像上の疾患部位が乳房中のどこに存在しているのかを直感的に理解することは難しい。このような問題は検査者が超音波診断を行って事後的に医師が画像診断を行う場合、医師が超音波診断を行う場合の双方において生じ、やはり超音波画像には座標系が明示されていないので、それだけから実際の疾患位置を特定するのは容易ではない。また、この種の問題は、乳房の超音波診断において顕著に指摘できるものであるが、他の組織の超音波診断においても同様に指摘できるものである。
【0007】
本発明の目的は、超音波画像を観察する際に対象部位の空間的な位置を直感的に把握できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、対象組織中の診断部位に対して超音波を送受波する送受波手段と、前記診断部位についての座標情報を計測する計測手段と、前記超音波の送受波によって得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する超音波画像作成手段と、前記対象組織が模式的に表された背景画像上に前記超音波画像を合成してレポート画像を形成する手段であって、前記座標情報に基づいて前記超音波画像の合成位置を定めるレポート画像作成手段と、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、背景画像と超音波画像とが合成されてレポート画像が作成される。その場合に、診断部位についての座標情報に基づいて超音波画像の合成位置が定められる。背景画像は対象組織を表すグラフィック画像、写真画像、その他であり、それを背景として超音波画像において診断部位の観察を行えるので、対象部位と診断部位との位置関係を直感的に理解することが容易となる。背景画像上に超音波画像が重合されるのが望ましいが、変形例としては、背景画像上に超音波診断エリアあるいは位置を特定するマーカーを表示し、そのマーカーに関連付けながら超音波画像を表示するようにしてもよい。この場合にも背景画像に超音波画像が合成されることになる。超音波画像は三次元画像、投影画像等であるのが望ましい。
【0010】
なお、例えば、乳房の平面図として背景画像が構成される場合、乳房に対して垂直に超音波探触子を当ててそれを視点として三次元画像が形成されるようにしてもよい。そのような三次元画像を背景画像に合成する場合、2つの水平方向において合成位置が調整される。超音波探触子が乳房に対して斜めから当接される場合、その当接角度に応じて視点変更を行って垂直方向から見た三次元画像を構築するようにしてもよいし、傾斜角度があまり大きく無ければ斜めから見た三次元画像をそのまま合成してもよい。乳房の断面を模式的に表した背景画像上に断層画像を合成表示する態様も本発明の範囲に含まれる。いずれにしても、超音波画像それ自体では空間的な位置関係を特定するのが困難であるような場合に、位置関係の特定を容易化する背景画像に対して超音波画像を合成するのが望ましい。つまり、両画像の利点を巧みに組み合わせて、超音波画像の評価をより的確なものにする。
【0011】
望ましくは、前記対象組織は乳房であり、前記背景画像には基準部位としての乳頭の位置を表す画像要素が含まれる。望ましくは、前記背景画像には前記乳房の輪郭を表す画像要素が含まれる。背景画像がグラフィック画像であれば、そのグラフィック画像には画像要素として、乳頭を表すグラフィック要素、乳房の輪郭を表すグラフィック要素、等が含まれる。前者により、基準座標あるいは座標原点を認識でき、後者によって背景画像の大凡のスケールあるいは縮尺率を認識できる。レポート画像は印刷されてもよいし、記録媒体に格納されてもよい。
【0012】
望ましくは、前記計測手段は実際の乳頭位置を計測する機能を具備し、前記レポート画像作成手段は前記実際の乳頭位置と診断部位位置との位置関係が前記レポート画像上で再現されるように前記超音波画像の合成位置を定める。このような構成によれば、超音波画像が乳房の一部だけを表すものであったとしても、超音波画像が表す診断部位が乳房におけるどの部位を表すものであるのかを直感的に理解できる。なお、診断部位は、画像化される送受波領域の全体又はその一部に相当する。超音波探触子の座標から送受波領域の座標を容易に特定できる。
【0013】
望ましくは、前記実際の乳頭位置からの前記診断部位位置の方位及び距離に対して、前記レポート画像上における基準位置からの前記超音波画像の合成位置の方位及び距離が対応付けられる。例えば、腫瘍の外科的処置を行う場合、腫瘍の位置が超音波画像に基づき特定されるが、その場合に、上記構成によればレポート画像を観察することによって実際の乳頭を基準として腫瘍が存在する方位や距離を正確に把握できる。
【0014】
望ましくは、前記レポート画像上の座標スケールと前記超音波画像の座標スケールとが一致又は近似する。この構成によれば、例えば腫瘍の浸潤度(広がり)を正確に把握することができる。
【0015】
望ましくは、前記レポート画像上において前記基準部位から前記診断部位までの距離を計測する手段を含む。この構成によれば、計測機能を具備することにより、例えば腫瘍の大きさをレポート画像上で定量評価でき、レポートとしての品質、情報価値を向上できる。望ましくは、左右の乳房を判別する手段を含む。この構成によれば、左右の乳房を自動的に識別できるので、取り違いを防止できる。例えば、原点あるいは基準位置として乳頭の位置を登録する場合に、その位置がベット上の右側か左側かを判断基準として右乳房か左乳房かを識別できる。勿論、左右の別をユーザー入力させるようにしてもよい。
【0016】
望ましくは、前記計測手段は、前記送受波手段としての超音波プローブに設けられた座標マーカーと、前記座標マーカーの空間座標を計測する手段と、前記座標マーカーの空間座標に基づいて診断部位位置の空間座標を特定する手段と、を含むことを特徴とする。診断部位についての座標情報は基本的には画像化領域についての座標情報に相当するが、画像化領域中の注目部分(患部)の空間的座標が直接的に計測されてもよい。一般には、超音波探触子の空間的な位置及び姿勢を計測することによって、間接的に診断部位(画像化領域)についての座標情報が求められる。ちなみに、超音波探触子の位置及び姿勢を計測できても、被検者についての座標系が未知であれば、画像合成を行えないため、それに先立って、被検者の基準部位(例えば乳頭部位)についての座標情報が予め登録される。それが基準となって超音波探触子の相対的な位置又は当接位置が演算される。
【0017】
また、本発明は、乳房に当接された超音波探触子について座標情報を計測する工程と、前記超音波探触子を用いて得られた受信信号により形成される超音波画像を背景画像と組み合わせてレポート画像を形成する工程であって、前記計測された座標情報に基づいて前記背景画像上における前記超音波画像の重合位置又は関連付け位置を決定する工程と、を含むことを特徴とする。上記各工程は超音波診断装置上で実行され、あるいは、情報処理装置等の超音波画像処理装置上において実行される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、超音波画像を観察する際に診断部位の空間的な位置を直感的に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る超音波診断装置のブロック図である。
【図2】乳房に当接された超音波探触子を示す概念図である。
【図3】超音波検査における各工程を示すフローチャートである。
【図4】一般的な検査レポート上に描かれる内容を示す図である。
【図5】レポート画像の一例を示す図である。
【図6】レポート画像の他の例を示す図である。
【図7】レポート画像の更に他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1は超音波診断装置の全体構成を示すブロック図である。本実施形態においては超音波診断対象組織が乳房であるが、本発明はそれ以外の組織を診断する場合においても適用可能である。
【0022】
超音波探触子10は本実施形態において3Dプローブである。超音波探触子10は、図示されるように、アレイ振動子12,登録SW14、及び、赤外線反射体16を有している。アレイ振動子12は、本実施形態において2Dアレイ振動子であり、このアレイ振動子12によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームは二次元走査される。これによって三次元エコーデータ取込領域(三次元空間)が形成される。ちなみに、1Dアレイ振動子を機械的に走査することにより三次元空間を形成するようにしてもよい。
【0023】
登録SW14は、超音波探触子10の外表面上に設けられ、超音波探触子10を把持している手によって操作されるものである。この登録SW14がONされるとその時点における超音波探触子10の空間的な座標(あるいはその時の走査面又は三次元空間の座標)が原点として登録される。これについては後に説明する。赤外線反射体16は、後述する赤外線センサユニット18と共に測位部20を構成するものである。測位部20は、超音波探触子についての座標情報を計測する手段として設けられており、本実施形態においては赤外線を用いた三点測量の原理に基づき超音波探触子10の空間的な位置及び姿勢が観測されている。赤外線反射体16は、複数の反射要素によって構成され、赤外線センサユニット18から放射された赤外線をそれぞれ反射する。赤外線センサユニット18では、反射された赤外線を受波することにより、受波信号を出力している。
【0024】
座標演算部32は、その受波信号に基づいて超音波探触子10の空間的な位置及び姿勢を演算する。この場合において、超音波探触子10における特定部位についての座標情報を演算するようにしてもよいし、超音波探触子10によって形成される三次元空間の原点又は中心点についての座標情報を演算するようにしてもよい。あるいは三次元空間内に存在する診断部位(例えば悪性腫瘍)についての座標情報を演算するようにしてもよい。
【0025】
本実施形態においては、上述したように赤外線を用いた計測が実施されていたが、それに替えて、例えば磁気センサ及び磁場発生器を利用した機構などを用いて座標情報を計測するようにしてもよい。また、ユーザーにより座標情報を直接的にあるいは間接的に指定させることにより、超音波診断装置に座標情報が与えられるようにしてもよい。
【0026】
原点座標メモリ34には、超音波診断に先立って登録される原点の座標情報が格納される。本実施形態において、その原点は診断対象となっている乳房における乳頭位置である。超音波診断に先立って、後に説明するように、超音波探触子が乳頭に当接され、具体的には、超音波探触子10における送受波面の中央が垂直に乳頭に当接されるように超音波探触子10の位置決めがなされ、その時点における座標情報が原点座標メモリ34に格納されることになる。
【0027】
合成位置演算部36は、三次元画像(三次元超音波画像)をリアルタイムで形成している過程において、各超音波画像についての座標情報と原点についての座標情報とに基づいて、それらの相対的な関係で定まる合成位置を演算するユニットである。すなわち、後に説明するように、背景画像としてのグラフィック画像上に、ユーザーによって指定されたタイミングで格納された三次元画像が合成されるが、その合成位置がこの合成位置演算部36によって演算される。この場合においては、乳頭に対する診断部位の相対的な位置関係が背景画像上においてもそのままできる限り再現されるように合成位置が演算されることになる。三次元画像はリアルタイムで作成する必要はなく、背景画像との合成の際に作成するようにしてもよい。
【0028】
送信部22は、送信ビームフォーマーとして機能し、アレイ振動子12に対して複数の送信信号を並列的に供給する。これによって送信ビームが形成される。受信部24は受信ビームフォーマーとして機能し、アレイ振動子12から出力される複数の受信信号に対して整相加算処理を実行し、これによって電子的に受信ビームを形成する。その受信ビームに相当する受信信号は信号処理部26に出力される。
【0029】
信号処理部26は検波、対数圧縮等の信号処理を実行し、その信号処理後の受信信号すなわち受信ビームデータが断層画像形成部27及び三次元画像形成部28へ出力される。断層画像形成部27は、Bモードが選択されている場合に、入力されるビームデータに対して座標変換等を実行し、白黒断層画像としてのBモード画像を形成する。断層画像形成部27は公知のDSC(デジタル・スキャン・コンバータ)などによって構成される。断層画像の画像データは表示処理部29へ出力される。
【0030】
一方、三次元画像形成部28は、三次元画像表示モードにおいて機能し、入力されるビームデータあるいは複数のビームデータからなるボリュームデータに対してレンダリング処理を実行し、これによって三次元画像を形成するモジュールである。レンダリング方法としては公知のボリュームレンダリング法などが考えられ、それ以外にも各種の画像形成方法を適用可能である。超音波探触子を視点として三次元画像を形成する場合には、各ビームデータ単位ですなわち時系列順でレンダリング処理を進行させることが可能である。一方、ボリュームデータに対して任意の視点を設定し、その視点から伸びる視線に沿ってレンダリング処理を進行させる場合には、ボリュームデータが図示されていない三次元メモリに一旦格納された後、各視線に沿って処理が行われることになる。本実施形態においては、超音波探触子側を視点として三次元画像が形成されているが、例えば超音波探触子の当接角度が垂直方向から大きく傾斜しているような場合には、ボリュームデータに対して垂直軸方向に視点を設定し、それに基づいてレンダリング処理を行わせてもよい。三次元画像を構成する画像データは表示処理部29へ出力される。
【0031】
表示処理部29は、画像形成機能、カラー演算機能等を有している。特に、本実施形態においては、表示処理部29がレポート画像作成部38を有している。このレポート画像作成部38は、グラフィック画像作成部44によって作成された背景画像としてのグラフィック画像上に三次元画像を合成し、これによってレポート画像を作成する機能を有する。その画像合成位置は、上述した合成位置演算部36によって演算される。
【0032】
本実施形態においては、グラフィック画像として、後に図5等を用いて説明するように、乳房を模式的に表すイメージが用いられており、そのようなイメージは主制御部40の制御に従って生成される。主制御部40は、図1に示される各構成の動作制御を行っており、主制御部40には操作パネル42が接続されている。操作パネル42はキーボードやトラックボールなどを含むものである。
【0033】
表示部46はフラットパネルディスプレイとしての液晶表示器あるいはCRTなどによって構成され、表示部46の表示画面上には断層画像、三次元画像、レポート画像等の各種画像が表示される。ちなみに、超音波探触子10に設けられる登録SW14に替えてフットスイッチ方式の登録スイッチ30を用いるようにしてもよい。
【0034】
図2には、図1に示した超音波探触子10の外観が概略的に示されている。符号52は乳房を表しており、符号56は乳頭を表している。乳房52内には乳腺が走行しており、図2に示す例では乳房52内に腫瘍54が存在している。その腫瘍54を超音波画像として観察するために、乳房52に対して超音波探触子10が当接される。超音波探触子10は上述したようにアレイ振動子を有しており、そのアレイ振動子は送受波面48Aを介して超音波の送受波を行う。送受波面48Aは当接面を構成している。超音波探触子10の本体48上にはユーザーによって操作可能な位置に登録SW14が設けられている。符号50は取り付け金具を有しており、その取り付け金具50の一端には赤外線反射体16が設けられている。この赤外線反射体16は例えば3つあるいは4つ以上の反射球によって構成される。
【0035】
図2に示す例では、仰向けに寝ている被験者の乳房52に対して垂直方向から超音波探触子10が当接されているが、乳房52における表面の傾きに沿って斜め方向から超音波探触子10を当接させることも可能である。後に説明するように、グラフィック画像は乳房を上方から見た平面図に相当しており、超音波探触子を垂直方向から当接して形成される三次元画像についてはそのまま平面図としてのグラフィック画像上に合成することが可能である。その場合に必要に応じて拡大率等が調整される。すなわち、グラフィック画像のスケールと超音波画像のスケールとが一致あるいはできる限り一致するように座標系が合わせられる。一方、超音波探触子10を斜め方向から当接させる場合であって、超音波探触子10が三次元画像形成の視点となるような場合、そのような態様において構築された三次元画像をそのまま平面図としてのグラフィック画像に合成するようにしてもよいし、上述したように、視点変更を行って垂直方向から見た三次元画像を再構成し、それを合成するようにしてもよい。ちなみに、乳房の断面を表す模式図としてのグラフィック画像上にBモード画像を合成表示することも考えられる。
【0036】
図3には、超音波検査を行う場合の各工程がフローチャートとして示されている。S101では、Bモードが選択され、すなわち二次元の走査面のみが形成された状態で、超音波探触子が乳房の乳頭に当接される。この場合における断層画像を観察しながら、Bモード画像における垂直中心線が乳頭を通過するように超音波探触子の位置決めがユーザーによってなされ、位置決め完了時点において上述した登録SWが操作される。すると、その時点の座標情報が上述したようにメモリ上に格納される。
【0037】
S102では、診断対象となっている乳房が右側の乳房であるのかあるいは左側の乳房であるのかが判別される。この判別はユーザーの入力によって行うようにしてもよいが、ユーザー負担を軽減するため自動的な判別を実行するようにしてもよい。例えば、登録された座標情報に基づき、ベットの右側領域に乳頭が存在しているのか左側領域に乳頭が存在しているのかを識別し、これによって診断対象を区別するようにしてもよい。
【0038】
S103においては、三次元画像表示モードが選択され、リアルタイムで三次元画像が表示される。すなわち、三次元空間からのボリュームデータが三次元画像として形成され、それが画像表示される。超音波探触子を移動させれば、それに伴って三次元画像の内容も順次更新されることになる。乳房の各部分について三次元診断を繰り返し行いながら、ある部位について疾患あるいはそれが疑われるような病態が発見されると、所定の入力により、当該三次元画像がメモリ上に格納されることになる。その際、その三次元画像に対応づけてその三次元画像を取得した時点での座標情報も格納される。
【0039】
任意数の三次元画像の格納が完了すると、S104においては、レポート画像作成モードが選択される。すると、背景画像としてのグラフィック画像上にS103で取得した1または複数の三次元画像が合成され、これによってレポート画像が形成される。そのレポート画像は画面上に表示される。この場合においては、実際の乳頭の位置と診断部位の位置との位置関係が、レポート画像上においてもそのまま反映されるように画像合成が行われる。すなわち、レポート画像においては、乳頭を表すマーカーと乳房の輪郭を表すマーカーとが表示されており、それらによって定義される乳頭の座標系上に実体関係がそのまま反映されるように三次元画像の合成が行われることになる。この場合においては、上述したようにグラフィック画像のスケールと超音波画像のスケールが一致するように、画像の拡大率を調整するのが望ましい。
【0040】
S106においては、レポート画像上においてソフトウェアの機能による計測が実行される。例えば、乳頭から患部までの距離及び方位が数値として計測され、あるいは、腫瘍の大きさや面積が自動的に計測される。患部の位置を特定する場合には、重心演算を自動的に行わせ、演算された重心を対象部位の中心とみなすようにしてもよい。このような計測結果はレポート画像の一部として記録されることになる。
【0041】
図4には、従来において用いられている検査レポート用紙上に描かれている模式図が例示されている。一般的には、図示されるようにA〜Dの4つの領域と中央の領域Eとが定義されており、疾患が見つかるとそれがどこの領域に属するのかが診断される。本実施形態においては、このような従来の模式図をグラフィック画像として再現し、しかもそれに対して三次元画像との合成処理を適用している。以下に、これを具体的に説明する。
【0042】
図5には、レポート画像100が示されている。レポート画像100は、この例において、右側乳房を模式的に表すイメージ104と、左側乳房を模式的に表すイメージ106とを有しており、更に1または複数の三次元画像114,116,118を有している。イメージ104及びイメージ106は基本的には同じ構成を有しており、具体的には左右対称関係にある。ここではイメージ104を代表して説明する。中央に設けられているマーク110は乳頭を表すグラフィック要素であり、符号108は乳房の外縁あるいはその目安を表すマークとしてのグラフィック要素である。従来の検査方法と同様に、イメージ104には4つの領域A,B,C,Dが定義されている。それらの領域は4本のライン112によって区分けされている。超音波画像114は専ら領域A上に合成されており、その場合においては、実体的な位置関係がそのまま再現されるように、合成位置が定められている。同様に、三次元画像116は領域C及び領域Dにまたがって合成されている。これは、三次元画像118についても同様であり、左側乳房のイメージ106上において領域B上に当該三次元画像118が合成されている。従って、このようなレポート画像100を観察すれば、三次元画像単独では把握困難な位置関係を直感的に認識することが可能である。具体的には、患部が乳頭から見てどの方位にどのような距離をもって存在しているのかを容易に理解でき、しかもスケールが一致しているので、患部がどの程度広がっているのかを乳房の大きさとの関係において直感的に理解することが可能である。従って、このような検査レポートに基づいて外科的処置を検討すれば、より適切な手技を選択することができ、また、より正確な外科的処置を行うことが可能となる。従って、医療上の効果は極めて大きい。
【0043】
本実施形態においては、超音波診断装置が計測機能を具備しており、例えばイメージ106上に示されるように、乳頭を表すマークの中心すなわち原点120と患部の中心点122との間の距離がベクトル124として計測されている。ベクトル124は原点から伸びる矢印状のマークであり、その先端位置を所望の位置に合わせることにより、方位及び長さを自動的に計算することが可能である。ちなみに、患部に対して自動的なトレース処理を適用し、その重心点を自動的に演算し、重心点と原点との間の距離を求めるようにしてもよい。
【0044】
また、イメージ104上に示されるように、2つのマーカー130,132を用いて患部のサイズを計測することも可能である。あるいは、マニュアルトレースを行うことにより、患部の面積あるいは近似体積を求めることも可能である。このように計測された数値情報は符号102で示されるようにレポート画像100上に埋め込まれる。ちなみに、画像間のリンク機能を用いて2つの画像を合成関係におくことも可能である。
【0045】
図6には、上述したレポート画像の変形例が示されている。この例においてはイメージ140が複数の円環状のマーク141,142,143,144を有している。それぞれのマークは内側から段階的に大きなサイズで描かれており、それらは原点148からの距離を表す目盛として機能する。符号160は三次元画像を表しており、ベクトル162の先端を患部の中心に合わせることにより、上述したように距離計測や方位計測を行うことができる。ちなみに符号146は乳頭を表すマークを表している。このようなメモリあるいは乳房の外縁を形成する場合、合成表示される三次元画像の最遠点を基準とするようにしてもよい。例えば、図6に示す例では、三次元画像150におけるエッジ位置150Aが参照され、その位置150Aと原点148との間の距離がもっとも大きな円形のマーク141の半径として定義されている。そのようなマーク141の内側に均等間隔で複数のリング状のマークが形成されている。
【0046】
図7には、レポート画像の変形例が示されている。イメージ164は上述したように乳房を模式的に表すものである。図7に示す例では、三次元画像166,168が直接的にイメージ164上に合成されておらず、それらの三次元画像166,168に相当するエリアを表す矩形のマーク170,172が合成されている。そして、マーク170と三次元画像166は例えばライン等によって視覚的に関連づけられており(データ上でも関連づけられている)、三次元画像166が、上述した実施形態における合成方式よりも、より拡大して表示されている。これは三次元画像168についても同様であり、これに相当するエリアを表すマーク172と三次元画像168とがラインによって視覚的に関連づけられており、しかも、三次元画像168は拡大表示されている。
【0047】
このような構成によれば、患部の位置を認識しつつも、その患部をより大きなサイズをもって認識することができるので、診断精度を向上できるという利点がある。またこのような方式によれば、模式図としてのイメージ164それ自体が三次元画像によって隠されることはない。例えば複数の三次元画像が互いにオーバーラップするような場合においてもそれらを別々に表示してそれぞれの三次元画像を詳細に観察することが可能となる。図7に示す方式を採用する場合においても、計測機能を働かせてベクトルを利用して距離Lや方位θを自動的に計測することが可能である。図5又は図7に示すレポート画像において、ユーザによって三次元画像が選択されると、その三次元画像における部位の三次元斜視図又は断層像を表示するようにしてもよい。例えば三次元画像化された部位の三次元斜視図と3方向からの断面図とを並べて表示することで、当該部位の性状を多面的に観察することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、三次元画像単独では認識困難な空間的な位置関係を背景画像を併用することにより容易に認識できるという利点がある。従って、仮に検査者が超音波診断を行って検査レポートだけが医師に渡される場合であっても、医師は検査レポートから患部の位置を正確に把握することができ、また患部の広がりといった情報も正確に認識できるという利点がある。上記実施形態においては診断部位が乳房であったが、勿論他の部位についても本発明を適用可能である。また、上記実施形態においては画像処理が超音波診断装置上において実行されていたが、パーソナルコンピューターなどの情報処理装置上において上記の画像処理を実行させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 超音波探触子、12 アレイ振動子、14 登録SW、16 赤外線反射体、18 赤外線センサユニット、20 測位部、28 三次元画像形成部、29 表示処理部、32 座標演算部、34 原点座標メモリ、36 合成位置演算部、38 レポート画像作成部、44 グラフィック画像作成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象組織中の診断部位に対して超音波を送受波する送受波手段と、
前記診断部位について座標情報を計測する計測手段と、
前記超音波の送受波によって得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する超音波画像作成手段と、
前記対象組織が表された背景画像上に前記超音波画像を合成してレポート画像を形成する手段であって、前記座標情報に基づいて前記超音波画像の合成位置を定めるレポート画像作成手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記対象組織は乳房であり、
前記背景画像には基準部位としての乳頭の位置を表す画像要素が含まれる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記背景画像には前記乳房の輪郭を表す画像要素が含まれる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、
前記計測手段は実際の乳頭位置を計測する機能を具備し、
前記レポート画像作成手段は前記実際の乳頭位置と診断部位位置との位置関係が前記レポート画像上で再現されるように前記超音波画像の合成位置を定める、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、
前記実際の乳頭位置からの前記診断部位位置の方位及び距離に対して、前記レポート画像上における基準位置からの前記超音波画像の合成位置の方位及び距離が対応付けられる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項4記載の装置において、
前記レポート画像上の座標スケールと前記超音波画像の座標スケールとが一致又は近似する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、
前記レポート画像上において前記基準部位から前記診断部位までの距離を計測する手段を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項2記載の装置において、
左右の乳房を判別する手段を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項1記載の装置において、
前記計測手段は、
前記送受波手段としての超音波プローブに設けられた座標マーカーと、
前記座標マーカーの空間座標を計測する手段と、
前記座標マーカーの空間座標に基づいて前記診断部位についての座標情報を演算する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
乳房に当接された超音波探触子により診断部位の超音波診断を行う際に、前記診断部位についての座標情報を計測する工程と、
前記超音波探触子を用いて得られた受信信号により形成される超音波画像を背景画像と組み合わせてレポート画像を形成する工程であって、前記計測された座標情報に基づいて前記背景画像上における前記超音波画像の重合位置又は関連付け位置を決定する工程と、
を含むことを特徴とするレポート画像作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−55774(P2012−55774A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282672(P2011−282672)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2006−347682(P2006−347682)の分割
【原出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】