説明

超音波診断装置及び超音波プローブ

【課題】振動子に高い送信電圧を印加することのできる送信回路を備え、高い受信感度が得られる受信回路を備える超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】超音波診断装置本体内の送受信部から出力された送信信号は、ノード32を介して、昇圧側ゲート回路36に入力される。昇圧側ゲート回路36の信号ライン上には変圧器T11が設けられているので、送信信号は変圧器T11を経由した後、ノード34を介して振動素子X11に伝送される。一方、振動素子X11で検出された受信信号は、ノード34を介して、バイパス側ゲートG3に入力される。受信信号は、バイパス側ゲートG3を通過することで変圧器T11を迂回し、ノード32を介して装置本体内の送受信部に伝送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、超音波の送受波に伴う送受信信号の信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波断層法においては、一般に振動子から中心周波数f0の基本波パルスが送信され、生体組織より戻ってきたエコー信号が受信され、超音波画像が形成されている。つまり、従来の超音波断層法では、基本波の周波数成分を用いて超音波画像が作られている。超音波においては、厳密には縦波の疎密部位に応じてわずかに音速が異なるために、疎である部分では音速が遅く、蜜である部分では速くなる。従って、生体組織内を超音波が進むにつれて超音波の波形が歪み、波形が歪むにつれて基本波以外の周波数成分である2次高調波等が発生する。つまり、生体組織内を伝播する超音波波形のスペクトラムの中には、基本波の中心周波数f0のほかに中心周波数2f0の2次高調波成分が含まれることになる。周波数の違いを利用すると、基本波と高調波を分別することが可能となり、高調波に基づいて超音波映像を形成することができる。このように超音波が伝播する媒質中での音圧と音速との非線形性を利用して高調波成分を映像化する手法をハーモニックイメージングという。
【0003】
ハーモニックイメージングにおいて、特に、超音波が生体組織を伝播する際に、組織自身から発生する2次高調波を映像化するものをティッシュハーモニックイメージング(tissue harmonic imaging : 以下THIと記す)という。THIを利用した超音波画像では、従来の超音波画像と比べてノイズの少ない良好な画像が得られるので、THIの技術は広く用いられている。但し、THIでは、基本波と比べて振幅の小さい2次高調波に基づいて画像を形成する。その振幅を大きくするためには、送信時に振動子に印加される送信電圧を上昇させることが有効である。
【0004】
以下の特許文献には、超音波の送受信回路に変圧器(トランス)を用いた技術が開示されている。特許文献1では超音波を送信するためのパルス送信信号に含まれる高調波成分を低減し、画質向上を目的とするための送信回路が記されている。特許文献1に示される昇圧器はパルス送信信号の極性を反転させるための手段である。また特許文献1には受信信号の処理方法について記載はない。特許文献2には、送信回路及び受信回路に変圧器を使用した超音波診断装置の回路が示されている。特許文献2に示す変圧器の1次側には、2本の信号線が送信信号用として接続されている。更に、変圧器の2次側には振動子に接続される信号線と受信用信号線とがそれぞれ接続される構成となっている。つまり、特許文献2において、送信信号及び受信信号はいずれも変圧器を経由して伝送される構成となっている。なお、超音波診断装置においては、振動子側と送受信器側を電気的に整合させるために、変圧器が用いられることがある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−315748号公報
【特許文献2】特開2004−57477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基本波と比べて振幅の小さい2次高調波に関して、その振幅は基本波の2乗に比例して大きくなるので、その振幅を大きくするためには送信信号の電圧を上昇させることが有効である。送信信号の昇圧のための手段としては変圧器を用いることができる。しかし、昇圧手段として変圧器を用いると次のような問題が発生してしまう。例えば、1次と2次の巻線比が1:Nの変圧器を用いると、送信時には送信電圧をN倍に昇圧することができる。しかし、受信時には、信号の伝送方向が反転して、本来の受信信号の電圧を1/Nに降圧することになるので、受信電圧を不必要に抑圧してしまうという問題があった。
【0007】
もちろん、送信電圧を上昇させるために、超音波診断装置本体の送受信部で生成される送信信号の電圧自体を高くすることも考えられる。しかし、その場合は送信信号が流される回路を高い耐電圧の電気部品で構成しなければならない。よって、適用可能な部品がなかったり、部品の点数が増えたりするという問題があった。
【0008】
以上、ハーモニックイメージングを例に挙げて、送信電圧の上昇の必要性について述べたが、この必要性はハーモニックイメージングに限られず、従来方式の超音波診断装置においても存在する。
【0009】
本発明の目的は、送受信部が発信する送信信号の電圧と比べて、高い駆動電圧を振動子に印加することができる超音波診断装置を提供することである。あるいは、本発明の他の目的は、受信信号に影響を与えることなく、高い駆動電圧を振動子に印加することができる超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生体に対して超音波を送受波する振動子と、前記振動子に対して送信信号を出力し、前記振動子から出力される受信信号を処理する送受信部と、前記送受信部と前記振動子との間の信号ラインの途中に設けられ、前記信号ラインを伝送する前記送信信号を昇圧する昇圧器と、前記送受信部からの前記送信信号を前記昇圧器を経由して前記振動子に与え、前記振動子からの前記受信信号を前記昇圧器を迂回させて前記送受信部へ与える伝送制御回路と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、送受信部から出力される送信信号は、昇圧器を経由して振動子に供給され、昇圧器で昇圧されることにより振動子に高い電圧を印加することができる。よって、生体内に大きな振幅の送信波を出力することが可能となり、それに伴って、受信波の受信感度を向上させることができる。更に、受信信号は、送信信号が伝送される信号ラインを共用しながら、昇圧器を迂回して送受信部に伝送される。よって、受信信号は、昇圧器を逆方向に通過することに伴う様々の影響を受けることなく送受信部に伝送される。
【0012】
望ましくは、前記伝送制御回路は、前記昇圧器への前記送信信号の入力を許容し、前記昇圧器への前記受信信号の入力を制限する昇圧側ゲート回路と、前記昇圧器を迂回して設けられたバイパスライン上に設けられ、前記送信信号の通過を制限し、前記受信信号の通過を許容するバイパス側ゲート回路と、を含むことを特徴とする。
【0013】
昇圧側ゲート回路とバイパス側ゲート回路は、双方とも信号入力の許容あるいは制限を行う回路であるが、これらの回路の動作については信号の電圧の高低に応じてゲート動作を行ってもよいし、送信信号及び受信信号が各ゲート回路を通過あるいは制限されるタイミングに合わせて時分割で動作するゲート動作を行ってもよい。
【0014】
望ましくは、前記昇圧側ゲート回路は、前記昇圧器の前記送受信部側に設けられた第1の昇圧側ゲート回路と、前記昇圧器の前記振動子側に設けられた第2の昇圧側ゲート回路と、を含むことを特徴とする。第1の昇圧側ゲート回路と第2の昇圧側ゲート回路は、共通の構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。
【0015】
望ましくは、前記バイパス側ゲート回路は、前記バイパスライン上に設けられた逆向き配置関係にあるダイオードペアと、前記ダイオードペアに対してバイアス電流を流すバイアス回路と、を含むことを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、バイアス電流によってダイオードペアを順方向にオン動作させることが可能となり、その結果、送信信号と比べて低い電圧である受信信号が、バイパスラインを通過することが可能となる。
【0017】
望ましくは、前記振動子は複数の振動素子により構成され、前記昇圧器及び前記伝送制御回路からなる回路モジュールが前記各振動素子ごとに並列的に設けられ、更に、前記送受信部と前記複数の回路モジュールとの間に設けられ、動作させる回路モジュール及び振動素子を選択する切換えスイッチを含むことを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、振動素子と同数の回路モジュールが設けられる。送受信部との接続は、これら複数の回路モジュール及び振動素子の中から切換えスイッチの動作によって選択される。送受信部から出力される送信信号は、切換えスイッチを経由した後に回路モジュールに入力されて電圧増幅されるので、切換えスイッチには昇圧後の高い送信電圧が印加されることがない。つまり、切換えスイッチの耐電圧性を低く設定することができる。
【0019】
本発明は、振動子に対して送信信号を出力すると共に前記振動子から出力される受信信号を処理する送受信部を有する超音波診断装置本体に接続される超音波プローブであって、生体に対して超音波を送受波する振動子と、前記送受信部と前記振動子との間の信号ラインの途中に設けられ、前記信号ラインを伝送する前記送信信号を昇圧する昇圧器と、前記送受信部からの前記送信信号を前記昇圧器を経由して前記振動子に与え、前記振動子からの前記受信信号を前記昇圧器を迂回させて前記送受信部へ与える伝送制御回路と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、送受信部が発信する送信信号の電圧と比べて、高い駆動電圧を振動子に印加することができる超音波診断装置を提供することができる。あるいは、受信信号に影響を与えることなく、高い駆動電圧を振動子に印加することができる超音波診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る超音波診断装置について、送受信信号の伝送に関する主要な機能ブロックを示した図である。図1に示す機能ブロックは、超音波診断装置本体10側の回路構成と、超音波プローブ20側の回路構成とに大別される。
【0023】
超音波プローブ20は、超音波を送受波する1次元アレイ振動子12を有する。1次元アレイ振動子12は複数の振動素子から構成されており、振動素子の総数は例えば100個以上の多数になる。図1から分かるように、それらの振動素子はn個ずつのグループに分けられている。例えば、図1においてハッチング表示で示すように、振動素子X11、X12・・・X1nのn個の振動素子が1つのグループを構成する。図1には、これらのn個の振動素子と接続されるユニットとして、送受伝送部30が示してある。送受伝送部30は、複数の回路モジュール18を有する。回路モジュール18と超音波診断装置本体10の構成については図2を用いて詳述する。
【0024】
図2は、図1の部分的な構成を示す図である。超音波プローブ20は、コネクタボックス22とプローブケーブル24とプローブヘッド26とを有する。プローブヘッド26内には、1次元アレイ振動子12が実装されている。図2においては、送受伝送部30に接続されたn個の振動素子が示されている。プローブケーブル24は、複数の信号線を束ねて1本のプローブ用ケーブルとして構成され、各振動素子にはそれぞれ信号線が接続される。コネクタボックス22は、複数の伝送制御回路F11と複数の変圧器T11と1つのプラグコネクタ28を有する。伝送制御回路F11は、信号線W11と接続され、プラグコネクタ28の端子C21にも信号線を介して接続される。超音波プローブは、プラグコネクタ28によって、超音波診断装置本体10と接続される。
【0025】
超音波診断装置本体10には、超音波プローブ20のコネクタボックス22を接続するためのレセプタクル16が設けられる。超音波診断装置本体10は、受信プリアンプA11、送信アンプP11、送受切換えスイッチS11、アナログスイッチS21を有する。送信アンプP11と受信プリアンプA11とは、送受切換えスイッチS11により、アナログスイッチに対して選択的に接続可能に構成される。送受切換えスイッチS11はアナログスイッチS21の一方側の端子に接続される。アナログスイッチS21は、そのデバイスの内部において、信号の接続先を複数の端子の中から指定する機能を有する。アナログスイッチS21の他方側の複数の端子には、レセプタクル16が有するn個の端子(C11、C12、・・・、C1n)がそれぞれに接続される。コネクタボックス22は前述したようにプラグコネクタ28を備えている。プラグコネクタ28が備えるn個の端子(C21、C22・・・C2n)は、レセプタクル16が備えるn個の端子(C11、C12・・・C1n)に接続される。なお、図2においては、プラグコネクタ28の各端子とレセプタクル16の各端子とが接続されている様子を模式的に示している。
【0026】
図2に示す送受伝送部30内の各回路モジュール18は、3つのゲートG1、G2、G3からなる伝送制御回路F11と変圧器T11を有する。回路モジュール18は、1つの振動素子X11に対して伝送される送信信号と、振動素子X11にて検出した受信信号を伝送するための回路である。超音波プローブ20には、複数の振動素子と複数の回路モジュールとが実装され、両方の数は同数である。そして、それぞれの振動素子に接続される回路モジュールは全て同一の構成である。そこで、以下には1つの振動素子X11に電気的に接続されている回路モジュール18についての説明を記し、他の振動素子及び回路モジュールについては、その機能が共通であることから説明を省略する。
【0027】
回路モジュール18におけるゲートG1は端子C21と変圧器T11の1次側巻線端子の間に接続される。ゲートG1は、ある一定の閾値電圧を超えなければ導通状態が形成されない特性を有しており、その閾値電圧をV1とする。閾値電圧V1は受信信号として想定される最大受信電圧値よりも高い一定の電圧値である。ゲートG1は、電圧の絶対値として、V1より低い電圧の信号は通過させず、V1よりも高い電圧の送信信号のみを端子C21から変圧器T11の1次側巻線の方向に通過させることができる。
【0028】
回路モジュール18におけるゲートG2は、変圧器T11の2次側巻線端子と信号線W11の間に接続される。ゲートG2はゲートG1と同様の構成であり、その閾値電圧をV2とする。閾値電圧V2は受信信号として想定される最大受信電圧値よりも高い一定の電圧値である。ゲートG2はゲートG1と同様の機能である。
【0029】
回路モジュール18におけるゲートG3は、端子C21と信号線W11との間に接続されるバイパスライン上に設けられる。ゲートG3は、ある一定の閾値電圧を下回れば導通状態が形成される特性を有しており、その閾値電圧をV3とする。閾値電圧V3は受信信号として想定される最大受信電圧値よりも高い一定の電圧値である。ゲートG3は、電圧の絶対値としてV3より高い電圧の信号は通過させず、V3よりも低い電圧の受信信号のみを信号線W11から端子C21の方向に通過させる機能を有する。
【0030】
これら3つのゲートG1,G2,G3の作用によって、変圧器T11には受信信号が入力されず、送信信号だけが入力される。送信信号の昇圧を行う変圧器T11の具体的な作用については後述する。
【0031】
図3は、図2に示す回路モジュール18、すなわち昇圧器T11と伝送制御回路F11とを抜粋して示した図である。図3には、図2において示した3つのゲートG1、G2、G3が具体的な回路図として示してある。この3つのゲート回路以外の回路構成は、図2に示す回路構成として同一の構成である。
【0032】
端子C21とノード32との間は送受用の共通の信号線によって接続される。ノード32は、昇圧側ゲート回路36とバイパス側ゲートG3との分岐点である。端子C21は、ノード32を介して、昇圧側ゲート回路36と接続される。昇圧側ゲート回路36は、第1の昇圧側ゲートG1と第2の昇圧側ゲートG2とから構成される。第1の昇圧側ゲートG1は、相互に逆向きに並列接続された2つのダイオードD11、D12を有し、第2の昇圧側ゲートG2は、相互に逆向きに並列接続された2つのダイオードD21、D22を有する。本実施形態においては、ダイオードD11,D12,D21,D22は同一の仕様品である。これらのダイオードはシリコン・ダイオードであり、ダイオードの静特性に基づく順方向への閾値電圧は約0.6Vである。第2の昇圧側ゲートG2は、ノード34を介して、信号線W11と接続される。
【0033】
本実施形態において、変圧器T11は、数十MHzの高周波にも対応可能な周波数特性に優れたパルストランスが適用される。その寸法は、プリント基板の上に多数を表面実装できる程度に小さい方が望ましい。また、変圧器は電源が不要であるので省電力の面で利点がある。変圧器T11の巻線比は、例えば1次側:2次側の比較で1:2である。変圧器の種類としては1次側と2次側が分離された絶縁トランスであってもよいし、電気的に導通している巻線から入力端と出力端を取り出すオートトランスであってもよい。
【0034】
次に、バイパス側ゲートG3の構成を記す。バイパス側ゲートG3は、バイアス回路44とダイオードペア48を有する。バイアス回路44は、+2〜+5Vの範囲内における正の一定バイアス電圧(+VB)が印加される2つの抵抗R1、R3を有し、−5〜−2Vの範囲内の負の一定バイアス電圧(−VB)が印加される1つの抵抗R2を有する。これらの抵抗R1,R2,R3は、バイパスラインL11上に供給されるバイアス電流を適正な電流値に制限するために用いられる。ダイオードペア48は、相互に逆向きに接続された2つのダイオードD31、D41で構成される。ダイオードD31とダイオードD41のカソード同士が接続されており、これらのダイオードはバイパスラインL11の一部を形成している。本実施形態において、ダイオードD31、D41はシリコン・ダイオードであり、同一の仕様品である。ダイオードD31、D41は、共に順方向にバイアス電流が流れるので通電状態になっている。端子C21は、ノード32を介してダイオードD31のアノードと接続され、ダイオードD41のアノードはノード34を介して信号線W11と接続される。
【0035】
端子C21から入力された送信信号は、ノード32を介して、昇圧側ゲート回路36とバイパス側ゲートG3との両方向に入力される。送受信部から出力される送信電圧は、本実施形態においては、交流成分を含むパルス電圧であり、電圧の振幅値は例えば50〜100Vp-p(peak-to-peak voltage)である。この送信信号は、第1の昇圧側ゲート回路に印加される。第1の昇圧側ゲートG1に、正電圧の送信信号が印加された場合はダイオードD11がオン動作し、負電圧の送信信号が印加された場合には、ダイオードD12がオン動作する。よって、変圧器T11の1次側巻線には、正負方向の振幅を示す送信電圧が印加される。1次側巻線に印加される電圧は、巻線比1:2の変圧器T11を経由することにより、2次側巻線において100〜200Vp-pに昇圧される。昇圧後の送信信号は、第1の昇圧側ゲートG1と同一の構成の第2の昇圧側ゲートG2も通過する。昇圧された送信電圧は、信号線W11を経由して振動素子X11に印加される。
【0036】
一方、端子C21から入力された送信信号は、ノード32を介してバイパス側ゲートG3にも入力されるが、ダイオードD31とD41による整流作用と静特性によって、高い電圧の送信電圧はバイパス側ゲートG3を通過しない。すなわち、ダイオードD31とD41の閾値電圧を上回る電圧の信号はバイパス側ゲートG3を通過することができない。よって、振動素子X11には、変圧器T11で昇圧された送信信号の電圧が印加される。
【0037】
振動素子X11は、圧電効果により超音波を送信する。生体内で反射される超音波は、電気信号に変換される。反射波に基づく受信信号の電圧レベルは、送信信号と比較して非常に微弱であり本実施形態においては最大で0.1V程度である。受信信号は、信号線W11を介してバイパス側ゲートG3に伝送される。それと同時に、受信信号は昇圧側ゲート回路36にも伝送される。
【0038】
昇圧側ゲート回路36に入力された受信信号は、第2の昇圧側ゲートG2に伝送される。第2の昇圧側ゲートG2を構成する2つのダイオードD21、D22は、いずれも順方向に対して+0.6Vの閾値電圧特性を有している。よって、ダイオードを互いに逆向きに並列接続した第2の昇圧側ゲート回路は、−0.6Vから+0.6Vまでの範囲の電圧を通過させないゲート回路となる。従って、最大で0.1V程度である受信信号は、第2の昇圧側ゲート回路を通過することができず、変圧器T11には入力されない。
【0039】
一方、ノード34を介してバイパス側ゲートG3に入力される受信信号は、ダイオードD41に伝送される。バイアスとは、半導体の動作に適した直流の回路条件を予め整えることであり、本実施形態においては、バイパス側ゲートG3を構成するダイオードD31とD41は、バイアス回路44によって順方向にバイアス動作がなされているので、いずれも低インピーダンスの状態になっている。よって、受信信号はバイパス側ゲートG3を経由して、ノード32を介し、端子C21まで伝送される。
【0040】
ちなみに、バイパス側ゲート回路38を通過後、ノード32において検出される受信信号は、第1の昇圧側ゲート回路に対しても入力されようとする。しかし、第1の昇圧側ゲートG1も、第2の昇圧側ゲートG2と同様に、−0.6Vから+0.6Vまでの範囲の電圧を通過させないゲート機能を備えている。よって、受信信号は、第1の昇圧側ゲートG1を通過することは防止される。
【0041】
以上の構成によれば、送信信号は、変圧器T11によって昇圧されるので、振動素子X11に従来よりも大きな電圧を印加することが可能となる。それに伴って、振動素子から生体に発信される超音波の振幅を大きくすることができる。超音波の送信波の振幅が大きくなると自ずと反射波の振幅も大きくなり、受信信号の感度も向上する。そして、感度が向上した受信信号は受信時においては変圧器T11を迂回するので、変圧器T11を経由することに伴う影響を受けることなく、装置本体の送受信部まで伝送される。従って、受信信号のS/N比も改善され、ひいては明瞭な超音波画像を形成することができる。特に、微弱な振幅の2次高調波を感度よく検出することが可能となるので、THIによる画像形成を行う上で有利な効果を奏する。
【0042】
図4は、図3に示した具体的な電気回路の機能を説明するための図である。なお、図3に示した回路と同一の構成部品には、図4においても同一符号を付しその説明を省略する。
【0043】
まず、超音波の送信時の回路動作について記す。送信時には、変圧器入力スイッチS31は、その接点を閉じて導通状態になる。また、送受ライン切換えスイッチS41は、変圧器T11の2次側に接続される。2つのスイッチが上記のように設定されると、送信時には、送信信号が変圧器T11を通過する往路が形成され、その電圧が昇圧される。
【0044】
次に、超音波の受信時には、2つのスイッチの設定が送信時と逆になり、変圧器T11を通過しない復路が形成される。受信信号は、送受ライン切換えスイッチS41を介して、バイパスラインL11を経由し端子C21に伝送される。なお、図4に示した2つの切換えスイッチは、超音波の送受信の切換え動作に追従できる程度に高速な応答性を示し、かつ接点抵抗の小さい部品を用いることが望ましい。
【0045】
以上、好適な実施形態の機能と作用を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎない。特に、図3に示した具体的な電気回路の構成は、単なる1つの実施形態であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
また、図1及び図2に示す回路構成においては、複数の振動素子の中から駆動させる振動素子を選択するためのアナログスイッチS21が、送受信部と伝送制御回路F11との間に備えられている。すなわち、アナログスイッチS21は、変圧器T11の1次側に接続されており、振動素子は変圧器T11の2次側に接続されている。よって、この回路構成によればアナログスイッチS21には、変圧器T11の1次側を伝送する低電圧だけが印加され、変圧器T11の2次側に発生する高電圧が印加されることはない。振動素子に印加する高電圧は、変圧器の巻線比を選定することにより設計的な自由度をもって昇圧することが可能である。よって、現行のアナログスイッチの耐電圧の仕様等を変更することなく、振動素子に対しては従来よりも高い送信電圧を印加することができる。
【0047】
なお、図2に示す実施形態においては、変圧器T11および伝送制御回路F11が、超音波プローブ20のコネクタボックス22内に設けられているが、実装位置の制限はなくプローブヘッド26側に設けられてもよい。また、図2においては、送受伝送部30が超音波プローブ側に設けられているが、このユニットを超音波診断装置側に設けてもよい。
【0048】
ちなみに、送受伝送部30を、図2に示すように超音波プローブ側に設ける場合においては、バイアス回路44にて必要とされるバイアス電流は、レセプタクル16とプラグコネクタ28との接続により形成される接点群の一部分を電源供給線として割り当てることによって供給される。
【0049】
なお、振動素子X11に印加可能な送信電圧は、アレイ振動子12の仕様に依存する。また、その送信電圧は変圧器T11の仕様とも密接不可分の関係にある。従って、複数の変圧器T11と複数の振動素子X11とは、ユニットとして別々の構成であるよりも、超音波プローブ20として一体の構成であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】超音波の送受信信号に関する主要部の機能ブロックを示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係る具体的な回路構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る具体的な回路構成を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る具体的な回路構成を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 超音波診断装置本体、12 アレイ振動子、16 レセプタクル、18 回路モジュール、20 超音波プローブ、22 コネクタボックス、24 プローブケーブル、26 プローブヘッド、28 プラグコネクタ、30 送受伝送部、32,34 ノード、36 昇圧側ゲート回路、44 バイアス回路、48 ダイオードペア、C11,C21 端子、CG コモングランド、D11,D12,D21,D22,D31,D41 ダイオード、F11 伝送制御回路、R1,R2,R3 抵抗、S21 アナログスイッチ、T11 変圧器、W11 信号線、X11 振動素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に対して超音波を送受波する振動子と、
前記振動子に対して送信信号を出力し、前記振動子から出力される受信信号を処理する送受信部と、
前記送受信部と前記振動子との間の信号ラインの途中に設けられ、前記信号ラインを伝送する前記送信信号を昇圧する昇圧器と、
前記送受信部からの前記送信信号を前記昇圧器を経由して前記振動子に与え、前記振動子からの前記受信信号を前記昇圧器を迂回させて前記送受信部へ与える伝送制御回路と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記伝送制御回路は、
前記昇圧器への前記送信信号の入力を許容し、前記昇圧器への前記受信信号の入力を制限する昇圧側ゲート回路と、
前記昇圧器を迂回して設けられたバイパスライン上に設けられ、前記送信信号の通過を制限し、前記受信信号の通過を許容するバイパス側ゲート回路と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記昇圧側ゲート回路は、
前記昇圧器の前記送受信部側に設けられた第1の昇圧側ゲート回路と、
前記昇圧器の前記振動子側に設けられた第2の昇圧側ゲート回路と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記バイパス側ゲート回路は、
前記バイパスライン上に設けられ、逆向き配置関係にあるダイオードペアと、
前記ダイオードペアに対してバイアス電流を流すバイアス回路と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記振動子は複数の振動素子により構成され、
前記昇圧器及び前記伝送制御回路からなる回路モジュールが前記各振動素子ごとに並列的に設けられ、
更に、前記送受信部と前記複数の回路モジュールとの間に設けられ、動作させる回路モジュール及び振動素子を選択する切換えスイッチを含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
振動子に対して送信信号を出力すると共に前記振動子から出力される受信信号を処理する送受信部を有する超音波診断装置本体に接続される超音波プローブであって、
生体に対して超音波を送受波する振動子と、
前記送受信部と前記振動子との間の信号ラインの途中に設けられ、前記信号ラインを伝送する前記送信信号を昇圧する昇圧器と、
前記送受信部からの前記送信信号を前記昇圧器を経由して前記振動子に与え、前記振動子からの前記受信信号を前記昇圧器を迂回させて前記送受信部へ与える伝送制御回路と、
を含むことを特徴とする超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−73137(P2008−73137A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253798(P2006−253798)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】