説明

超音波診断装置

【課題】反射超音波信号に蓄積できる高調波成分の振幅の大きさを従来以上に増加させることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】被検体に超音波信号を送信する圧電部を備えた送信手段と、超音波信号が被検体において反射して生成された反射超音波信号を受信し電気信号に変換する圧電部を備えた受信手段と、電気信号から被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、反射超音波信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部と、を有する超音波診断装置であって、超音波信号は、基本波と、前記反射超音波信号に含まれるn次高調波を相殺するような位相を持つn次高周波成分とを含む超音波診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内に超音波信号を送信し、反射波に基づいて被検体内部の超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、通常、16000Hz以上の音波をいい、非破壊、無害及び略リアルタイムでその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断等の様々な分野に応用されている。その一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内から来た超音波の反射波(エコー)から生成した受信信号に基づいて当該被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。この超音波診断装置は、医療用では、他の医療用画像装置に較べて小型で安価であり、そしてX線等の放射線被爆が無く安全性が高いこと、また、ドップラ効果を応用した血流表示が可能であること等の様々な特長を有している。このため、超音波診断装置は、循環器系(例えば心臓の冠動脈等)、消化器系(例えば胃腸等)、内科系(例えば肝臓、膵臓及び脾臓等)、泌尿器系(例えば腎臓及び膀胱等)及び産婦人科系等で広く利用されている。
【0003】
超音波診断装置には、被検体に対して超音波(超音波信号)を送受信する超音波探触子が用いられている。超音波探触子は、圧電現象を利用することによって、送信の電気信号に基づいて機械振動して超音波(超音波信号)を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる超音波(超音波信号)の反射波を受けて受信の電気信号を生成する複数の圧電素子を備え、これら複数の圧電素子が例えばアレイ状に2次元配列されて構成されている。
【0004】
また、近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の周波数(基本周波数)成分ではなく、その高調波成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。ハーモニックイメージング技術は、基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(Signal to Noise ratio)が良くなってコントラストが向上すること、周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、及び、焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深速度を大きく取れること等の様々な利点を有している。(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−118065号公報
【特許文献2】特開2007−185525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非線形現象によって発生する高調波は蓄積効果により、衝撃波形成距離以内の範囲で伝搬距離にしたがって大きくなるが、その基本波からのエネルギーの移動は緩やかに減少し、その結果、蓄積量の割合は距離が大きくなるにしたがって小さくなる傾向にある(新超音波医学1 医用超音波の基礎 医学書院 第4章 参照)。従って、十分に伝搬を行った場合でもその高調波成分の振幅の大きさをある一定の大きさ以上に上げることができないという課題があった。この課題を以下の解析により説明する。
【0007】
超音波を被検体に送信した際には、被検体内には非線形媒質が存在すると考えられるので、被検体を伝搬する超音波の挙動は、平面波の非線形伝搬を解析することで明らかになる。図10は、z方向に正弦波の平面音波を放射したときの波形の計算結果である。
【0008】
横軸は遅延時間τ=t−z/cである。tは時間、cは被検体中の音速である。σは衝撃波形成距離で規格化した伝搬距離である。τ軸を用いて見るこの波形は、cと同じ速さで移動しながら観測した波形である。
【0009】
図10の非線形現象は次のように定式化される。超音波探触子から送信され、被検体内を微小距離Δzだけ伝搬した超音波信号は、音圧pの時間軸τ軸上での位置が微小時間Δτずれる。このΔτは式1のように表される。
【0010】
【数1】

【0011】
ここで、βは非線形パラメータ、ρは被検体の密度である。Δzが十分に小さい場合、式1は微分形式で式2のように表される。
【0012】
【数2】

【0013】
式2において、(∂r/∂z)・(∂z/∂p)・(∂p/∂r)を適用すると、式3のように表される。
【0014】
【数3】

【0015】
これは、非線形歪みの過程を表す方程式となる。平面波の非線形歪みを考えるために、z=0の初期音圧が、p=p×sintなる正弦波について考える。
【0016】
この場合の非線形歪みは、式1にまで戻って定式化することが可能である。つまり、距離zだけ伝搬後の音圧波形(図10のσ=0.4)は、非線形歪みのない音圧波形(図10のσ=0)p=p×sinωτ、をτ軸の方向に−βpz/ρ、だけ移動させたものであるので、式4で表される。
【0017】
【数4】

【0018】
ここで、ωは周波数である。σ>1の場合には波形に衝撃波面が現れ、基本波成分だけでなく波のエネルギー全体も伝搬とともに急激に減少する(つまり高調波の蓄積もないということとなる。この減衰は粘性や熱伝導性に起因する音波の吸収減衰とは発生機構が異なる)。式4を、σ<1の範囲でフーリエ級数展開(Fubiniの解)を行うと、σ<1の範囲では正弦波が歪んでも奇関数の条件が保たれるから、式5のようになる。
【0019】
【数5】

【0020】
ここでのフーリエ係数bは、ωτ’=ωτ+σp/p、に変数変換して求めることができるので、式6を得る。
【0021】
【数6】

【0022】
ここでJはn次のベッセル関数を表す。以上より、非線形歪みを受けた平面波は式7のように表される。
【0023】
【数7】

【0024】
この式7から、横軸σ、縦軸p=p/pとした時の基本波、2次高調波、3次高調波の強度は図11のようになる。図11は、平面波における非線形ひずみ音圧の高調波振幅を表す。
【0025】
図11より衝撃波形成距離における基本波、2次高調波、3次高調波の振幅は蓄積量の限界値を有し、表1のようになる。
【0026】
【表1】

【0027】
非線形伝搬による波形歪みの強弱は、装置起因の音圧や検体起因の非線形パラメータなどで変化するが、衝撃波形成距離での高調波振幅を得るのは不可能であることが分かる。
【0028】
そこで、本発明は、反射超音波信号に蓄積できる高調波成分の振幅の大きさを従来以上に増加させることができる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0030】
1.被検体に超音波信号を送信する圧電部を備えた送信手段と、
前記超音波信号が被検体において反射して生成された反射超音波信号を受信し電気信号に変換する圧電部を備えた受信手段と、
前記電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
前記反射超音波信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部と、
を有する超音波診断装置であって、
超音波信号は、基本波と、前記反射超音波信号に含まれるn次高調波を相殺するような位相を持つn次高周波成分とを含むことを特徴とする超音波診断装置。
【0031】
2.前記n次高調波の蓄積量を算出し、前記n次高周波のパワーを算出された蓄積量と同じ値に設定することを特徴とする前記1に記載の超音波診断装置。
【0032】
3.前記位相はπであることを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0033】
4.前記反射超音波信号に含まれる高調波の次数は2次であり、送信する超音波信号に含ませる高周波成分の次数は2次であることを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0034】
5.前記位相はπであり、前記反射超音波信号に含まれる高調波の次数は2次であり、送信する超音波信号に含ませる高周波成分の次数は2次であることを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0035】
6.前記n次高周波は2m(mは自然数)次高調波である超音波信号を送信すると供に、
前記基本波に対してπずれた位相を持つ基本波である超音波信号と、
2m次高周波である超音波信号と、
を時間をおいて送信し、各々の反射超音波信号の電気信号を加算することで2m次高調波の電気信号を抽出することを特徴とする前記1から5の何れか一項に記載の超音波診断装置。
【0036】
7.前記超音波信号は2回送信され、
1回目と2回目の超音波信号における基本波とn次高調波のパワーの比は同じであってパワーは異なり、
変換後の基本波とn次高調波の電気信号の大きさが同じになるように一方の基本波及びn次高調波を電気的に増幅又は減衰させ、
変換後の1回目の基本波及びn次高調波と、変換後の2回目の基本波及びn次高調波との差分を演算することで、反射超音波信号に含まれる高調波成分を抽出することを特徴とする前記1から5の何れか一項に超音波診断装置。
【発明の効果】
【0037】
反射超音波信号に含まれる高調波成分の振幅の大きさを従来以上に増加させることができる超音波診断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係る超音波診断装置の外観構成を示す概要図である。
【図2】実施形態に係る超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る超音波診断装置の超音波探触子の構成を示す概要図である。
【図4】衝撃波形成距離で規格化した伝搬距離σをパラメータとした超音波の伝搬過程の非線形歪みを表す。
【図5】平面波における非線形ひずみ音圧の高調波振幅の計算例である。
【図6】逆歪み波形と従来法による2次高調波蓄積量の差の計算例である。
【図7】基本波と高調波の関係を示す模式図である。
【図8】発生した高調波と送信波に含まれる高周波を分離する手法の概要図である。
【図9】発生した高調波と送信波に含まれる高周波を分離する他の手法の概要図である。
【図10】z方向に正弦波の平面音波を放射したときの波形の計算結果である。
【図11】平面波における非線形ひずみ音圧の高調波振幅を表す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に本発明の実施形態を図面により説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られるものではない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0040】
図1は、実施形態に係る超音波診断装置の外観構成を示す概要図である。図2は、実施形態に係る超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態に係る超音波診断装置の超音波探触子の構成を示す概要図である。
【0041】
超音波診断装置Sは、図1及び図2に示すように、図略の生体等の被検体Hに対して超音波信号を送信すると共に、被検体Hで反射した超音波信号の反射超音波信号を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体Hに対して超音波信号を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体H内からの反射超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体H内の内部状態を超音波画像として医用画像に画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0042】
超音波診断装置本体1には、超音波探触子2を使用しない時に、超音波探触子2を保持させておく超音波探触子フォルダ4が備えられている。
【0043】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、本発明の受信信号処理部14と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17と、記憶部19と、本発明の送信信号処理部18と、を備えて構成されている。
【0044】
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体Hの個人情報等のデータを入力するものであり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0045】
本発明の送信信号処理部18は、制御部17の制御に従って、後述する第1圧電部321を駆動する電気信号の送信信号を生成する機能を有する回路である。詳細は後述する。
【0046】
送信部12は、送信信号処理部18が生成した電気信号を増幅し、超音波探触子2内の第1圧電部へ、ケーブル3を介して送信信号を供給し、超音波探触子2に超音波信号を発生させる。送信部12は、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。
【0047】
受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する回路であり、この受信信号を受信信号処理部14へ出力する。受信部13は、例えば、受信信号を予め設定された所定の増幅率で増幅する増幅器、及び、この増幅器で増幅された受信信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換するアナログ−デジタル変換器等を備えて構成される。
【0048】
受信信号処理部14は、制御部17の制御に従って、受信部13からの電気信号に、所定の信号処理を施す回路であり、その信号処理した反射受信信号を画像処理部15へ出力する。詳細は後述する。
【0049】
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、受信信号処理部14で信号処理された反射受信信号に基づいて、ハーモニックイメージング技術等を用いて被検体H内の内部状態の超音波画像を生成する回路である。また、例えば、反射受信信号に対して包絡線検波処理を施すことにより、反射超音波信号の振幅強度に対応したBモード信号を生成する。
【0050】
記憶部19はRAMやROMで構成され、制御部17に用いられるプログラムが記録され、また、表示部16で表示する各種画像のテンプレートが記録されている。
【0051】
制御部17は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子及びその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、受信信号処理部14、画像処理部15、表示部16、送信信号処理部18、記憶部19を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0052】
表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された超音波画像を表示する装置である。表示部16は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、ELディスプレイ及びプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0053】
一方、超音波探触子2は、振動部30を備える。振動部30は、図略の生体等の被検体Hに対して超音波信号を送信すると共に、被検体Hからの反射超音波信号を受信する。振動部30は、例えば、図3に示すように、音響制動部材31と、圧電部32と、音響整合層33と、音響レンズ34とを備えて構成される。
【0054】
音響制動部材31は、超音波を吸収する材料から構成された平板状の部材であり、圧電部32から音響制動部材31方向へ放射される超音波を吸収するものである。
【0055】
圧電部32は、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換するものである。圧電部32は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信信号の電気信号を超音波信号へ変換して超音波信号を送信すると共に、受信した反射超音波信号を電気信号へ変換してこの電気信号(受信信号)を、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。超音波探触子2が被検体Hに当接されることによって圧電部32で生成された超音波信号が被検体H内へ送信され、被検体H内からの反射超音波信号が圧電部32で受信される。
【0056】
圧電部32は、例えば、本実施形態では、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる第1圧電部321及び第2圧電部323を備え、第1圧電部321及び第2圧電部323は、互いに積層されている。
【0057】
本実施形態では、第1圧電部321及び第2圧電部323は、中間層322を介して互いに積層されている。この中間層322は、第1圧電部321と第2圧電部323とを積層するための部材であり、第1圧電部321と第2圧電部323との音響インピーダンスを整合させるものである。
【0058】
このように圧電部が2層の第1圧電部321及び第2圧電部323を備える。第1圧電部321は超音波信号を送信する複数の送信用圧電素子からなる。第2圧電部323は反射超音波信号を受信する複数の受信用圧電素子からなる。
【0059】
このため、第1圧電部321を送信用により適したものとすることができると共に、第2圧電部323を受信用により適したものとすることができる。従って、第1圧電部321及び第2圧電部323がそれぞれ超音波信号の送信用圧電素子、及び反射超音波信号の受信用圧電素子として最適化が可能となり、より高精度な画像を得ることが可能となる。さらに、第1圧電部321及び第2圧電部323が積層されているので、小型化が可能となる。
【0060】
そして、本実施形態では、例えば、圧電部32における第2圧電部323は、有機圧電材料を材料とする有機圧電素子から構成されており、有機圧電素子は両面に一対の電極を備えて構成されている。この有機圧電素子の厚さは、例えば、受信すべき超音波の周波数や有機圧電材料の種類等によって適宜に設定されるが、例えば、中心周波数8MHzの超音波を受信する場合では、この有機圧電素子の厚さは、約50μmである。
【0061】
有機圧電材料には、例えば、フッ化ビニリデンの重合体や、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体を用いることができる。フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体の場合、共重合比によって厚み方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化するので、例えば、前者の共重合比が60〜99モル%が好ましいが、無機圧電素子と有機圧電素子を重ねる時に使用する有機結合剤の使用方法にもよるので、その最適値は変化する。最も好ましい前者の共重合比の範囲は85〜99モル%である。フッ化ビニリデンを85〜99モル%にして、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルコキシエチレン、パーフルオロヘキサエチレン等を1〜15モル%にしたポリマーは、送信用無機圧電素子と受信用有機圧電素子との組み合わせにおいて、送信における基本周波波を抑制して、高調波受信の感度を高めることができる。
【0062】
フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体は、薄膜化、大面積化等の加工性に比較的優れ、任意の形状、形態の物が作ることができ、弾性率が低い、誘電率が低い等の特徴を持つため、超音波信号を受信する圧電素子としての使用に際しては、高感度な検出を可能とする特徴を持っている。また、これらの有機圧電材料は、高周波特性、広帯域特性を必要とするハーモニックイメージング技術における圧電材料として適している。
【0063】
また、本実施形態では、圧電部32の第1圧電部321は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して電気信号が入力され、この電気信号を超音波信号へ変換し、この変換した超音波信号を中間層322、第2圧電部323、音響整合層33及び音響レンズ34を介して被検体Hへ送信する。そして、圧電部32の第2圧電部323は、反射超音波信号が音響レンズ34及び音響整合層33を介して被検体Hから受信され、この受信された反射超音波信号を電気信号へ変換し、この変換した電気信号を受信信号としてケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。本実施形態では、上述したように第1圧電部321が無機圧電素子であり、送信パワーを比較的簡単な構造で大きくすることが可能となるため、このような圧電部32を備えた超音波探触子2は、高調波の反射波を得るために比較的大きなパワーで基本波の超音波信号を送信することが必要なハーモニックイメージング技術に好適であり、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。そして、本実施形態では、上述したように第2圧電部323が有機圧電素子であり、周波数帯域を比較的簡単な構造で広帯域にすることが可能となるため、このような圧電部32を備えた超音波探触子2は、高調波の反射超音波信号を受信することが必要なハーモニックイメージング技術に好適であり、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。
【0064】
次いで、本発明者は、従来には課題となっていた高調波に存在する蓄積限界を、従来以上に大きくすることができることを見出したので、以下に説明する。
【0065】
図4は、衝撃波形成距離で規格化した伝搬距離σをパラメータとした超音波の伝搬過程の非線形歪みを表す。図4(a)は、本実施形態に係る超音波信号の場合の伝搬過程の非線形歪みを表し、図4(b)は、従来法に係る超音波信号の場合の伝搬過程の非線形歪みを表す。
【0066】
従来法のような単一の周波数波形の送信では伝搬過程の非線形歪みにおいて図4(b)や式4のような挙動を示し、σの制約を受けている。この制約は衝撃波形成距離を越えた波形の急激なエネルギー減衰を考慮すると、高調波信号のS/Nにおいて望ましくなく、診断画像の画質劣化を誘発する。
【0067】
この課題に対して本実施形態では以下の式で表されるような調整波形を送信することを特徴とする。
【0068】
【数8】

【0069】
この調整波形は図4(b)で表される。式8で表される波形は従来法の波形が受ける非線形歪みとは逆のひずみを受けた波形、すなわち高調波成分を加えた波形と同等である。σは超音波発生装置側で定める逆歪みの度合いである。この式8で表される波形が受ける非線形歪みは従来法と同様に導くことができ、式8のように表される。
【0070】
【数9】

【0071】
式9は、従来法ではσ>1で衝撃波が発生していたが、本実施形態ではσ−σ>1の場合に衝撃波が発生することを表しており、σ=1と設定すれば衝撃波形成距離を従来の2倍にすることができる。これは非線形歪みの蓄積を許容できる距離が長くなることを示しており(図4参照)、蓄積する高調波の量が増加させることができる。式9を従来法と同様にフーリエ級数展開を行った時の係数bnは式10のように記述される。
【0072】
【数10】

【0073】
式10を数値シミュレーションで解析すると、横軸σ、縦軸p/pとした時の基本波、2次高調波、3次高調波の強度は図5のようになる。図5は、平面波における非線形ひずみ音圧の高調波振幅の計算例である。
【0074】
図5から逆歪み波形がとる衝撃波形成距離σ=2における基本波、2次高調波、3次高調波の振幅は従来法と同等である。しかし、2次高調波の蓄積量(σ=0とσ=2の振幅の差分値)としては図6のように従来法の2倍となっていることが分かる。図6は、逆歪み波形と従来法による2次高調波蓄積量の差の計算例である。
【0075】
基本波と高調波の関係は具体的に次のようになる。以下、高調波は2次高調波であるとして説明するが、3次以上の高調波であってもよい。図7は、基本波と高調波の関係を示す模式図である。図7(a)のように基本波k1を送信した場合、基本波k1に対して位相がπずれた2次高調波S1が発生する。2次高調波S1は前述のように距離が大きいほど蓄積し、全体量が大きくなるが、増加率は次第に小さくなる。そして、例えば、図7(b)の振幅Aのように、ある一定量で、ほぼ増加が止まる状態、すなわち殆ど増加が見られず、信号歪が進まない状態となる。これに対して図7(c)のように送信波に2次高周波を含ませることで発生した2次高調波を含めた2次高調波S1の総量は増加し、A+Bの振幅となる。すなわち実際の非線形による信号の歪は非線形で進む歪と逆に歪をもった状態から始まることになり、より多くの非線形成分を蓄積できるようになる。
【0076】
これは、反射超音波信号に含まれる2次高調波を相殺するような位相を持つ2次高周波成分を含む超音波信号を送信することで、より多くの非線形成分を蓄積できるようになると言える。
【0077】
ここで、反射超音波信号に含まれる高調波はn次高調波を用い、この高調波を相殺するような位相を持つn次高周波成分を含む超音波信号を送信することに依っても、同様により多くの非線形成分を蓄積できるようになる。
【0078】
そして、この高調波を相殺するような位相はπであることが好ましい。
【0079】
また、予め、被検体におけるn次高調波の蓄積量を算出し、n次高周波成分のパワーを算出された蓄積量と同じにしてやってもよい。
【0080】
以上のように、従来には課題となっていた高調波に存在する蓄積限界を、従来以上に大きくすることが可能となった。
【0081】
次いで、発生した高調波と送信波に含まれる高周波を分離し、蓄積した高調波を取り出す手段について説明する。
【0082】
以下、送信信号処理部18は送信波形を生成する機能を有する。受信信号処理部14は、被検体からの超音波信号を受信して得られた電気信号から基本波や高調波を抽出する高調波抽出部の機能を有する。送信信号処理部18と受信信号処理部14の各々は制御部17の制御の下に機能するとして説明する。
【0083】
図8は、発生した高調波と送信波に含まれる高周波を分離する手法の概要図である。
【0084】
最初に超音波探触子2から図8(a)の1回目の送信波形の超音波信号を送信する。この送信波形には、基本波k1と2次高周波SS1が含まれている。
【0085】
基本波k1と2次高周波SS1の振幅は所定の値に定める。
【0086】
この送信波形は被検体の中を伝搬し、図8(b)の1回目の波形に示されているように、2次高周波SS1に対して位相がπ異なる2次高調波S1が発生する。この2次高調波S1は、前述のように従来に比べて大きな振幅を有する。この超音波信号を超音波探触子2で受信して電気信号に変換する。変換された電気信号には、図8(c)の1回目に示す電気信号が含まれている。この電気信号の時間波形を記憶部19に記憶しておく。
【0087】
次いで、超音波探触子2から被検体に向けて、2回目の超音波信号を送信する。
【0088】
この送信波形には、基本波k2と2次高周波SS2が含まれている。
【0089】
基本波k2の大きさは基本波k1の大きさと異ならせる。2次高周波SS2の振幅の大きさは2次高周波SS1の振幅の大きさと異ならせる。
【0090】
この送信波形は被検体の中を伝搬し、図8(b)の2回目の波形に示されているように、2次高周波SS2に対して位相がπ異なる2次高調波S2が発生する。この2次高調波S2は、前述のように従来に比べて大きな振幅を有する。この超音波信号を超音波探触子2で受信して電気信号に変換する。変換された電気信号には、図8(c)の2回目に示す電気信号が含まれている。ここで、得られた電気信号をK倍する。Kの大きさは、掛けることで、送信された2次高周波SS2の振幅が、2次高周波SS1の振幅と同じになる値にする。この電気信号の時間波形を記憶部19に記憶しておく。
【0091】
ここで、基本波kと基本波k2とは振幅が異なるので、非線形媒体である被検体で発生する2次高調波S1と2次高調波S2の振幅は異なる。
【0092】
次に、図8(d)に示すように、記憶させておいた1回目と2回目の電気信号の時間波形の差分を算出する。この算出結果には、基本波k1と基本波k2とは相殺され、2次高周波SS1、2次高周波SS2とは含まれず、蓄積された2次高調波のみ含まれている。以上のように、被検体で発生した2次高調波を検出することができる。
【0093】
なお、超音波探触子2で得られた電気信号から基本波k1を取り除くローパスフィルタ等を用いて、2次高調波のみ取り出し、1回目と2回目の電気信号の差分を算出しても検体で発生した2次高調波を検出することができる。
【0094】
また、次のようにしても2次高調波を抽出することが可能である。図9は、発生した高調波と送信波に含まれる高周波を分離する他の手法の概要図である。
【0095】
最初に超音波探触子2から図9(a)の1回目の送信波形の超音波信号を送信する。この送信波形には、基本波k1と2次高周波SS1が含まれている。基本波k1と2次高周波SS1の振幅は所定の値に定める。
【0096】
この送信波形は被検体の中を伝搬し、図9(b)の2回目の波形に示されているように、2次高周波SS1に対して位相がπ異なる2次高調波S1が発生する。
【0097】
2次高調波S1は、前述のように従来に比べて大きな振幅を有する。この超音波信号を超音波探触子2で受信して電気信号に変換する。この電気信号の時間波形を記憶部19に記憶しておく。
【0098】
次に超音波探触子2から図9(a)の2回目の送信波形の超音波信号を送信する。この送信波形には、基本波k1とは位相がπ異なる基本波k2を送信する。
【0099】
基本波k2の振幅は基本波k1の振幅と同じ値に設定する。
【0100】
この送信波形は被検体の中を伝搬し、図9(b)の2回目の波形に示されているように、基本波k2と同相の位相を有する2次高調波S2が発生する。
【0101】
この超音波信号を超音波探触子2で受信して電気信号に変換する。この電気信号の時間波形を記憶部19に記憶しておく。
【0102】
次に超音波探触子2から図9(a)の3回目の送信波形の超音波信号を送信する。この送信波形には、基本波k1とは位相がπ異なる2次高周波SS3が含まれている。
【0103】
2次高周波SS3の振幅は2次高周波SS1の振幅と同じ値に設定する。
【0104】
この送信波形は被検体の中を伝搬し、図9(b)の3回目の波形に示されているように、2次高周波SS1の振幅を保ったまま送信される。
【0105】
この超音波信号を超音波探触子2で受信して電気信号に変換する。この電気信号の時間波形を記憶部19に記憶しておく。
【0106】
次に、図9(c)に示すように、記憶させておいた1回目と2回目と3回目の電気信号の時間波形の和を算出する。この算出結果には、基本波k1、k2、2次高周波SS1、2次高周波SS2とが含まれず、蓄積された2次高調波のみ含まれている。
【0107】
以上のように、被検体で発生した2次高調波を検出することができる。
【0108】
なお、上記したように、超音波探触子2で得られた電気信号から基本波k1、k2を取り除くローパスフィルタ等を用いて、2次高調波のみ取り出し、1回目と2回目と3回目の電気信号の差分を算出しても検体で発生した2次高調波を検出することができる。
【0109】
以上のように、本実施形態によれば、被検体に超音波信号を送信する圧電部を備えた送信手段と、超音波信号が被検体において反射して生成された反射超音波信号を受信し電気信号に変換する圧電部を備えた受信手段と、電気信号から被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、反射超音波信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部と、を有する超音波診断装置であって、超音波信号は、基本波と、前記反射超音波信号に含まれるn次高調波を相殺するような位相を持つn次高周波成分とを含む超音波診断装置を構成することで、n次高調波の蓄積量を増大させることができる。
【0110】
また、本実施形態によれば、n次高調波の蓄積量を算出し、n次高周波成分のパワーを算出された蓄積量と同じにすることで、所望量のn次高調波の蓄積量を得ることができる。
【0111】
また、本実施形態によれば、位相はπであることで、送信するn次高周波成分により、反射超音波信号に含まれるn次高調波を相殺することができる。
【0112】
また、本実施形態によれば、反射超音波信号に含まれる高調波の次数は2次であり、送信する超音波信号に含ませる高周波成分の次数は2次であることで、2次高調波の蓄積量を増大させることができる。
【0113】
また、本実施形態によれば、位相はπであり、反射超音波信号に含まれる高調波の次数は2次であり、送信する超音波信号に含ませる高周波成分の次数は2次であることで、反射超音波信号に含まれる2次高調波を相殺することができ、2次高調波の蓄積量を増大させることができる。
【0114】
また、本実施形態によれば、n次高周波は2m(mは自然数)次高調波である超音波信号を送信すると供に、基本波に対してπずれた位相を持つ基本波である超音波信号と、2m次高周波である超音波信号と、を時間をおいて送信し、各々の反射超音波信号の電気信号を加算することで2m次高調波の電気信号を抽出することで、反射超音波信号に蓄積した高調波のみ抽出することができる。
【0115】
また、本実施形態によれば、前記超音波信号は2回送信され、1回目と2回目の超音波信号における基本波とn次高調波のパワーの比は同じであってパワーは異なり、変換後の基本波とn次高調波の電気信号の大きさが同じになるように一方の基本波及びn次高調波を電気的に増幅又は減衰させ、変換後の1回目の基本波及びn次高調波と、変換後の2回目の基本波及びn次高調波との差分を演算することで、反射超音波信号に含まれる高調波成分を抽出することで、反射超音波信号に蓄積した高調波のみ抽出することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
3 ケーブル
4 超音波プローブフォルダ
11 操作入力部
12 送信部
13 受信部
14 受信信号処理部
15 画像処理部
16 表示部
17 制御部
18 送信信号処理部
19 記憶部
30 振動部
31 音響制動部材
32 圧電部
33 音響整合層
34 音響レンズ
321 第1圧電部
322 中間層
323 第2圧電部
H 被検体
S 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波信号を送信する圧電部を備えた送信手段と、
前記超音波信号が被検体において反射して生成された反射超音波信号を受信し電気信号に変換する圧電部を備えた受信手段と、
前記電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
前記反射超音波信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部と、
を有する超音波診断装置であって、
超音波信号は、基本波と、前記反射超音波信号に含まれるn次高調波を相殺するような位相を持つn次高周波成分とを含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記n次高調波の蓄積量を算出し、前記n次高周波のパワーを算出された蓄積量と同じ値に設定することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記位相はπであることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記反射超音波信号に含まれる高調波の次数は2次であり、送信する超音波信号に含ませる高周波成分の次数は2次であることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記位相はπであり、前記反射超音波信号に含まれる高調波の次数は2次であり、送信する超音波信号に含ませる高周波成分の次数は2次であることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記n次高周波は2m(mは自然数)次高調波である超音波信号を送信すると供に、
前記基本波に対してπずれた位相を持つ基本波である超音波信号と、
2m次高周波である超音波信号と、
を時間をおいて送信し、各々の反射超音波信号の電気信号を加算することで2m次高調波の電気信号を抽出することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記超音波信号は2回送信され、
1回目と2回目の超音波信号における基本波とn次高調波のパワーの比は同じであってパワーは異なり、
変換後の基本波とn次高調波の電気信号の大きさが同じになるように一方の基本波及びn次高調波を電気的に増幅又は減衰させ、
変換後の1回目の基本波及びn次高調波と、変換後の2回目の基本波及びn次高調波との差分を演算することで、反射超音波信号に含まれる高調波成分を抽出することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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