説明

超音波診断装置

【課題】 プローブから外れた方向へ反射した穿刺針の反射信号を検出し、穿刺針を適切に描出することができる超音波診断装置を提供すること。
【解決手段】 一実施形態に係る超音波診断装置は、所定の送信方向及び所定の送信焦点に対応する送信ビームを前記超音波プローブから送信し、送信方向とは異なる少なくとも二つの受信方向に対応する、少なくとも二つの受信ビームを生成し、少なくとも二つの受信ビームを用いて、送信ビームが送信された被送信領域内に存在する所定の反射体の位置及び当該反射体からのエコー信号を計算し、計算された反射体の位置及びエコー信号を用いて、反射体が映像化された第1の超音波画像を生成し、第1の超音波画像を表示するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
被検体内を超音波で走査して臓器等の断層等を画像化し、疾患などを画像診断するため、或いは穿刺術等において患部をリアルタイムでモニタリングするために用いる超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は生体内情報の画像を表示する診断装置であり、X線診断装置やX線コンピュータ断層撮影装置などの他の画像診断装置に比べ、安価で被曝が無く、非侵襲性に実時間で観測するための有用な装置として利用されている。超音波診断装置の適用範囲は広く、心臓などの循環器から肝臓、腎臓などの腹部、抹消血管、産婦人科、乳癌の診断などに適用されている。
【0003】
通常、超音波診断装置は、1本の走査線(走査方向)に沿った送信方向つき収束超音波(送信ビーム)を1回送信し、当該送受信方向に焦点を設定した受信を行うことで当該走査線上の診断情報(超音波画像データ)を取得し、さらに逐次走査方向を変えて各走査線につき同様の超音波送受信を繰り返すことで、最終的に2次元あるいは3次元の診断画像を生成する。また、近年では、1回の送信で複数の走査線上の診断情報を得る方法(同時受信)も用いられている。これは、収束超音波を送信し、これによって各超音波振動子において得られるエコー信号に対して、送信超音波のメインビーム幅内の複数の(異なる)受信方向に対応する受信遅延を与え並列的に複数回の遅延加算を実行することで、複数方向に対応する複数の受信ビームを作り出すものである。なお、超音波画像診断においては、最も良質な診断画像を得るため、受信焦点は送信方向上に設定され、送信方向と受信方向とを一致させた超音波送受信が行われるのが一般的である。
【0004】
ところで、超音波診断装置のフレームレートは通常30Hz或いはそれ以上であり、リアルタイムに臓器あるいは血流の動態を観察できることは大きな特長である。この特長を活かし、超音波診断装置は穿刺針のガイドにも多用されている。穿刺針の用途としては、組織の採取(バイオプシ)や、近年ではマイクロ波やラジオ波を針先から放射する穿刺照灼治療等の穿刺術がある。術者は、超音波診断画像を使用して得られる超音波画像を介して、例えば針が腫瘍などの治療部位に到達するまでの状態をリアルタイムにモニタする。
【0005】
なお、穿刺針の視認性を向上させる従来の技術としては、例えば、2つの送信パルスからの受信信号の位相差を検出することで、穿刺針の動きの情報から針の存在位置を強調した超音波画像を生成するもの(例えば、特許文献1参照)、超音波受信信号の位相情報を解析することで、生体組織から人工物の特徴を抽出しようとするもの(例えば、特許文献2参照)、超音波送信方向を複数変化させ、最も強い受信信号からなる画像を針の画像として採用するもの(例えば、特許文献3参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−150069号公報
【特許文献2】特開2009−254780号公報
【特許文献3】特許第4381344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の超音波診断装置は、穿刺針の描画性に関して、例えば次のような問題がある。通常の穿刺針は、金属製であり超音波パルスを多大に反射させるはずであるが、エコー信号として画像化されないケースも起こりえる。これは、通常の被検体組織は散乱体と呼ばれるように、超音波を全方向に散乱させ、微弱でも受信信号として検出可能となるのに対して、穿刺針表面は滑らかであるため超音波は鏡面反射を起こすからである。すなわち、仮に針面での反射方向がプローブに戻る角度であれば、穿刺針は強い受信信号と共に画像化される。一方、超音波が針に対して斜めに入射するときは、プローブと異なる方向に反射してしまうため、針からの反射信号は良好に受信されない。そのため、臨床では、穿刺針を超音波プローブの振動子とできるだけ平行になるような角度で挿入する手法が採られることがある。しかしながら、穿刺の目標が深部にある場合や,コンベックス型プローブを用いた場合は、反射信号がプローブに戻るような角度を作るのは困難なケースが多い。
【0008】
上記事情を鑑みてなされたもので、従来の診断法とは全く異なる方向で送受信を組み合わせることで、プローブから外れた方向へ反射した穿刺針の反射信号を検出し、穿刺針を適切に描出することができる超音波診断装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態に係る超音波診断装置は、それぞれが供給される駆動信号に応答して超音波を発生し且つ受信した超音波に応答してエコー信号を発生する複数の超音波振動子を有する超音波プローブと、異なる送信遅延が与えられた前記駆動信号を前記各超音波振動子に供給し前記各超音波振動子から前記超音波を所定のタイミングで発生させることで、所定の送信方向及び所定の送信焦点に対応する送信ビームを前記超音波プローブから送信させる送信手段と、前記各超音波振動子が発生する各エコー信号に前記超音波振動子毎に異なる受信遅延を与えると共に、当該受信遅延が与えられた前記各エコー信号を加算することで、前記送信方向とは異なる少なくとも二つの受信方向に対応する、少なくとも二つの受信ビームを生成する受信手段と、前記少なくとも二つの受信ビームを用いて、前記送信ビームが送信された被送信領域内に存在する所定の反射体の位置及び当該反射体からのエコー信号を計算する計算手段と、前記計算された反射体の位置及びエコー信号を用いて、前記反射体が映像化された第1の超音波画像を生成する画像生成手段と、前記第1の超音波画像を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。
【図2】図2は、強反射体である穿刺針が被走査領域(例えば二次元断面内)に斜めに挿入され状態を示した模式図である。
【図3】図3は、電子的遅延によって形成される収束超音波の音場の典型例を示した図である。
【図4】図4は、穿刺針が被走査領域に斜めに挿入され状態において超音波送受信を実行した場合の超音波の伝搬経路を示した模式図である。
【図5】図5は、穿刺針描出機能に従う送受信によって得られる各走査線上のエコー信号を模式的に示した図である。
【図6】図6は、穿刺針の各位置における信号値の計算手法を説明するための図である。
【図7】図7は、穿刺針描出処理の流れを示したフローチャートである。
【図8】図8は、穿刺針描出機能に従う送受信によって得られる各走査線上のエコー信号を示した図である。
【図9】図9は、第2の実施形態に係る穿刺針描出機能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第1実施形態及び第2実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置1は、装置本体11、超音波プローブ12、入力装置13、モニタ14を具備している。装置本体11には、超音波送信ユニット21、超音波受信ユニット22、Bモード処理ユニット23、ドプラ処理ユニット24、画像生成ユニット25、画像メモリ26、表示処理ユニット27、制御プロセッサ28、記憶ユニット29、インタフェースユニット30が設けられている。
【0013】
なお、装置本体11に内蔵される超音波送信ユニット21及び受信ユニット22等は、集積回路などのハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたソフトウェアプログラムである場合もある。以下、個々の構成要素の機能について説明する。
【0014】
超音波プローブ12は、超音波受信ユニット21からの駆動信号に基づき超音波を発生し、被検体からの反射波を電気信号に変換する複数の圧電振動子、当該圧電振動子に設けられる整合層、当該圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有している。当該超音波プローブ12から被検体Pに収束超音波(送信ビーム)が送信されると、当該送信超音波は、体内組織の音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として超音波プローブ12に受信される。このエコー信号の振幅は、反射することになった不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合のエコーは、ドプラ効果により移動体の超音波送信方向の速度成分を依存して、周波数偏移を受ける。
【0015】
入力装置13は、装置本体11に接続され、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11に取り込むための各種スイッチ、ボタン、トラックボールの他、マウス、キーボード等を有している。
【0016】
モニタ14は、画像生成ユニット25からのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や、血流情報を画像として表示する。
【0017】
超音波送信ユニット21は、パルス発生器21A、送信遅延ユニット21B、パルサ21Cを有している。パルス発生器21Aでは、所定のレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)で、送信超音波を形成するためのレートパルスが繰り返し発生される。また、送信遅延ユニット21Bでは、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性(送信方向)を決定するのに必要な遅延時間(送信遅延)が、振動子毎の各レートパルスに与えられる。パルサ21Cは、このレートパルスに基づくタイミングで、プローブ12に駆動信号(駆動パルス)を印加する。
【0018】
超音波受信ユニット22は、プリアンプ22A、A/D変換器22B、受信遅延ユニット22C、加算器22D等を有している。プリアンプ22Aでは、プローブ12を介して取り込まれたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。A/D変換器22Bは、アナログ信号としてのエコー信号をディジタル信号に変換する。受信遅延ユニット22Cでは、振動子毎のエコー信号に対し受信指向性(受信方向)を決定するのに必要な遅延時間(受信遅延)を与え、その後加算器22Dにおいて加算処理を行う。この加算により、エコー信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的な受信ビームが形成される。
【0019】
なお、超音波受信ユニット22直後の出力信号の形態は、radio frequency(RF)信号と呼ばれる位相情報が含まれる信号である場合や、包絡線検波処理後の振幅情報である場合など、種々の形態を選択可能となっている.
Bモード処理ユニット23は、受信ユニット22からエコー信号を受け取り、対数増幅、包絡線検波処理などを施し、信号強度が輝度の明るさで表現される各走査線のデータを生成する。このデータは、画像生成ユニット25に送信され、反射波の強度を輝度にて表したBモード画像としてモニタ14に表示される。
【0020】
ドプラ処理ユニット24は、受信ユニット22から受け取ったエコー信号から速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の血流情報を多点について求める。得られた血流情報は画像生成ユニット25に送られ、平均速度画像、分散画像、パワー画像、これらの組み合わせ画像としてモニタ14にカラー表示される。
【0021】
画像生成ユニット25は、超音波スキャンによって得られた複数の走査線信号列を、テレビなどに代表される一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換し、表示画像としての超音波診断画像を生成する。画像生成ユニット25は、画像データを格納する記憶メモリを搭載しており、例えば診断の後に操作者が検査中に記録された画像を呼び出すことが可能となっている。さらに、画像生成ユニット25は、必要に応じて、得られたボリュームデータに対し、ボリュームレンダリング、多断面変換表示(MPR:multi planar reconstruction)、最大値投影表示(MIP:maximum intensity projection)等の所定の画像処理を行う。なお、当該画像生成ユニット25に入る以前のデータは、「生データ」と呼ばれることがある。
【0022】
画像メモリ26は、Bモードユニット23もしくはドプラ処理ユニット24から受信した走査線データを格納する記憶メモリから成る。この走査線データは、例えば診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成ユニット25を経由して超音波診断画像となる。この画像は静止画的に、あるいは複数枚を使って動画的に再生することが可能である。
【0023】
表示処理ユニット27は、画像生成ユニット25において生成・処理された各種画像データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、γカーブ補正、RGB変換等の各種を実行する。
【0024】
制御プロセッサ28は、情報処理装置(計算機)としての機能を持ち、本超音波診断装置本体の動作を制御する。制御プロセッサ28は、記憶ユニット29から後述する穿刺針描出機能を実現するための専用プログラム、各種計算処理を実行するための専用プログラムを読み出して各種処理に関する演算・制御等を実行する。特に、制御プロセッサ28は、記憶ユニット29に記憶された送信遅延パタン、受信遅延パタンを読み出して、送信方向や受信方向に応じて送信遅延及び受信遅延を切り替える。後述する後述する穿刺針描出機能における送受信遅延パタンも該プロセッサにて制御可能となっている.
記憶ユニット29は、後述する後述する穿刺針描出機能における穿刺針位置、当該穿刺針位置における信号値の推定演算、推定された穿刺針位置等を用いて生成される超音波画像の表示等を実現するための専用プログラム、送信遅延の複数の組み合わせパタン、受信遅延の複数の組み合わせパタン、等の各種計算処理を実行するための専用プログラム、所定のスキャンシーケンス、画像生成、表示処理を実行するための制御プログラムや、診断情報(患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、送受信条件、その他のデータ群が保管されている。また必要に応じて、画像メモリ26中の画像の保管などにも使用される。記憶ユニット29のデータは、インタフェースユニット30を経由して外部周辺装置へ転送することも可能となっている。
【0025】
インタフェースユニット30は、入力装置13、ネットワーク、新たな外部記憶装置(図示せず)に関するインタフェースである。当該装置によって得られた超音波画像等のデータや解析結果等は、インタフェースユニット30よって、ネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0026】
(穿刺針描出機能)
次に、本超音波診断装置が具備する穿刺針描出機能について説明する。本機能は、従来の診断法とは全く異なる方向で送受信を組み合わせることで、プローブから外れた方向へ反射した穿刺針の反射信号を検出し、穿刺針を適切に描出するものである。
【0027】
図2は、強反射体である穿刺針が被走査領域(例えば二次元断面内)に斜めに挿入され状態を示した模式図である。同図を用いて、被走査領域において発生する穿刺針の超音波反射メカニズム、及び当該メカニズムを利用した本穿刺針描出機能において実現される描出方法について説明する。なお、電子的遅延によって形成される収束超音波の音場(すなわち、送信ビーム、受信ビーム)は、例えば図3のB1に示すごとく、焦点で収束するような形状となる。しかしながら、図2に示した例、及び以下の説明においては、説明を具体的にするため、ビームを代表する中心線102を用いて、送信方向T1、受信方向R1、R2、或いは走査線を表すものとする。また、説明の簡単のため、送信方向T1、受信方向R1、R2のそれぞれに沿った各走査線は、平行であるとする。
【0028】
本穿刺針描出機能においては、図2に示すように、受信方向R1は、送信超音波にて形成されるメインビームの幅から実質的に外れた位置に設定される。通常の超音波画像診断においては、受信焦点は送信方向上に設定され、送信方向と受信方向とを一致させた超音波送受信が行われるのが一般的である。従って、図2に示した様な送信方向と受信方向とを一致させない超音波送受信によっては、(送信方向と受信方向とを一致させ)通常の超音波送受信によって得られるエコー信号を実質的に取得することはできない。
【0029】
ところが、送信超音波は、現実には図2に示す様に、送信方向T1と穿刺針が交差する位置(点A)において、入射角θと同じ角度θで反射し、反射ビームとなって位置Bの方向へ伝搬する。位置Bに存在する散乱体は、この反射ビームを散乱させ、結果として受信方向をR1とする受信ビームとして受信される。
【0030】
すなわち、当該送受信における超音波の伝搬経路は、超音波振動子から送信方向T1に沿った走査線を通り、A、Bを経由して受信方向R1に沿った走査線を通り、再び振動子へ戻るものとなる。当該経路によって取得されるエコー信号は、現実の超音波診断装置においては、受信方向R1に沿った走査線上で往復の伝搬距離が等しい位置(点C)の位置からの信号として現れることになる。一方、受信方向R1に沿った走査線上の他の位置からは、受信方向R1が送信方向T1から実質的に外れているため、適正なエコー信号を取得することができない。その結果、受信方向R1に沿った走査線上おいては、位置Cにおけるエコー信号が相対的に強調されて受信データが得られる。
【0031】
図4は、穿刺針が被走査領域(例えば二次元断面内)に斜めに挿入され状態において、送信方向をT1とし、受信方向をR2とする超音波送受信を実行した場合の超音波の伝搬経路を示した模式図である。同図に示す様に、受信方向R2は、送信方向T1を基準として受信方向R1とは反対側に位置する。送信方向T1に沿った走査線上から受信方向R2に沿った走査線と穿刺針との交点を見込んだ場合、送信ビームに起因して角度θとなる位置(点A’)で発生した散乱エコーは、位置B(点B)で反射して受信方向R2に沿った走査線を通り超音波振動子へ戻る。すなわち、このときの伝搬経路は、振動子から送信方向T1に沿った走査線を通り、位置A’、位置B’を経由して、受信方向R2に沿った走査線を通り、再び振動子へ戻るものとなる。その結果、受信方向R2に沿った走査線上おいては、位置C’におけるエコー信号が相対的に強調されて受信データが得られることになる。以上により、送信方向T1に沿った送信ビームを用いて、穿刺針で反射されたエコー信号を受信することが可能となる。
【0032】
ところで、位置C、位置C’の位置は、送信方向T1に沿った走査線上における実際の穿刺針の深さdとは異なる。従って、位置C、位置C’から得られたエコー信号を送信方向T1に沿った走査線上に重畳したとしても、穿刺針を正しく描出したことにはならない。しかしながら、例えば送信方向T1と受信方向R1との相対的位置関係を保ったまま、送受信の位置を少しずつずらしながら各受信方向において取得されたエコー信号を映像化すれば、結果的には図5の51に示すような線状のパターンが2次元画像として得られることになる。また、同様にして、送信方向T1と受信方向R2との相対的位置関係を保ったまま、受信の位置を少しずつずらしながら各受信方向のエコー信号を映像化すれば、図5の52のようなパタンが得られる。このとき、穿刺針の位置は、パタン51とパタン52との間に存在することは明らかである。
【0033】
図5のパタン51、パタン52の間に存在する穿刺針の位置は、例えば以下の解析的(数学的)な手法によって推定することができる。すなわち、図2、図4に示す様に各走査線の距離をw、送信方向T1に沿った走査線上に存在する穿刺針の深さ(被検体表面からの現実の深さ)をdとし、位置Cの現れる深さ(偽の観測点D1)をd+h、入射角(反射角)をθとする。なお、説明の簡単のため,走査線は平行としているので、θはどこでも同一である。
【0034】
位置Cの現れる深さ(偽の観測点D1)は次の式(1)で表すことができる。
【数1】

【0035】
ここで、hは次の式(2)で表すことができる。
【数2】

【0036】
次に、送信方向T1を基準にして受信方向R1とは逆側に存在する受信方向R2を考えると、距離B’C’は、幾何学的関係よりhに等しい。また、AとB’の深さの違いはw/tanθである。従って、位置C’の観測深さD2は、次の式(3)によって表すことができる。
【数3】

【0037】
観測点D1とD2との深度の差は、次の式(4)によって表すことができる。
【数4】

【0038】
ここで、観測点深度D1、D2は、超音波送受信による実際の観測で取得することができる。観測深度D1、D2が分れば、式(4)よりθが、式(2)よりhがそれぞれ判明し、最終的に式(1)より穿刺針の深さdが判明する。
【0039】
距離hは「観測深度D1と真の深度とのずれ」に等しい。従って、受信方向R1に沿った走査線上に観測される輝度を、送信方向T1に沿った走査線上にhだけ上方向にずらして描画することで(すなわち、点Cから点Aにずらして描画することで)、真の(現実の)穿刺針の位置に輝度をマッピングすることができる。
【0040】
ところで、観測点深度D1、D2の位置は、明瞭かつ単一的に検出されることが望ましい。しかしながら、実際には図6のごとく、ぼやけて幅を持つ状態として検出されることが予想される。そこで、両者の相互相関係数R12を、次の式(5)によって定義する。
【数5】

【0041】
ただし、式(5)において、I(t)、I(t)は、受信方向R1、R2のそれぞれに沿った各走査線上の深度tにおける振幅値(あるいはエコー強度)を、E[ ]は[ ]内の期待値を、それぞれ意味する。
【0042】
送信方向T1に沿った走査線上に穿刺針が描画された画像を再構成する手続きは以下のようになる。
【0043】
まず、受信方向R1、R2の各走査線上の信号の相互相関係数の大きさを元にした係数α(x)を、例えば次の式(6)によって定義する。
【数6】

【0044】
次に、式(6)においてxを少しずつずらして係数α(x)を計算し、対応するI(t)の「混合比」を次の式(7)によって算出する。
【数7】

【0045】
こうして得られた一つの受信方向に対応する一走査線のデータは、穿刺針において反射される超音波の信号値に対応する。当該信号値を、送信方向T1に沿った走査線上に描画すると、送信方向T1に沿った走査線と穿刺針との交点で輝度が増強された画像を生成することができる。なお、相互相関係数R12を計算する際のずらし幅と、Iと重畳する際のずらし幅は異なることには注意が必要である。
【0046】
以上述べた解析的手法を、図5に示したパタン51、パタン52上の対応する点同士についても実行することで穿刺針上の各位置がマッピングされ、結果的に穿刺針が好適に描出された二次元画像を取得することができる。
【0047】
なお、以上の説明においては、送信方向に対応する走査線及び受信方向に対応する走査線群が平行である場合を説明した。これに対し、セクタープローブの様に走査線群が扇形になる場合であっても、上記実施形態に係る穿刺針描出機能は適用可能である。係る場合には、反射角(入射角)θが走査線ごとに変化することなる。係る場合においても、幾何学的関係を利用して、同様に解析することができる。
【0048】
(動作)
次に、本超音波診断装置によって実現される穿刺針描出機能に従う処理(穿刺針描出処理)について説明する。
【0049】
図7は、穿刺針描出処理の流れを示したフローチャートである。同図に従って、各ステップにおいて実行される処理の内容について説明する。
【0050】
[患者情報、撮像モード等の入力:ステップS1]
まず、入力装置13を介して患者情報の入力、送受信条件(被走査領域、焦点位置、送信電圧、送信方向と受信方向との位置関係等)、被検体の所定領域を超音波走査するための撮像モード、スキャンシーケンス等の入力・選択が実行される(ステップ1)。入力、選択された各種情報・条件等は、自動的に記憶ユニット31に記憶される。ここでは、撮像モードとして、穿刺針描出モードが選択される。
【0051】
[穿刺針描出用超音波走査:ステップS2]
次に、制御プロセッサ28は、穿刺針描出用超音波走査が実行されるように、超音波送信ユニット21、超音波受信ユニット22を制御する(ステップS2)。すなわち、制御プロセッサ28は、例えば送信方向をT1とし、当該T1上の所定の位置を送信焦点とする超音波送信が実行される様に超音波送信ユニット21を制御し、受信方向をR1とする超音波受信が実行される様に超音波受信ユニット22を制御する。これにより、受信方向R1に沿った走査線に対応する受信データが取得される。同様に、制御プロセッサ28は、例えば送信方向をT1とする超音波送信が実行される様に超音波送信ユニット21を制御し、受信方向をR2とする超音波受信が実行される様に超音波受信ユニット22を制御する。これにより、受信方向R2に沿った走査線に対応する受信データが取得される。
【0052】
さらに、制御プロセッサ28は、送信方向と受信方向との間の相対的位置関係を維持しながら、送信方向及び受信方向の位置を少しずつ変更し(少しずつずらし)、同様の穿刺針描出用超音波走査を複数回実行する。その結果、各受信方向に沿った走査線上において、図5に示したパタン51、パタン52の様な受信データを取得することができる。なお、図8に、発明者等が取得した実際の画像を示した。同図においては、パタン81、パタン82がそれぞれパタン51、パタン52に対応する。
【0053】
[穿刺針位置/穿刺針信号値の計算:ステップS3]
画像生成ユニット25は、制御プロセッサ28の制御のもと、得られた受信信号に基づいて穿刺針位置、穿刺針において反射される超音波の信号値(穿刺針信号値)を計算する(ステップS3)。すなわち、画像生成ユニット25は、一つの送信方向と当該送信方向を基準として取得された少なくとも二つの受信方向との幾何学的関係(位置関係)、音速、当該各受信方向に沿った各走査線上での受信タイミングに基づいて、上述した式(1)〜(4)を用いた解析を実行し、穿刺針位置を計算する。また、画像生成ユニット25は、各受信方向に沿った各走査線上での受信信号を用いて、上述した式(5)〜(7)を用いた解析を実行し、穿刺針信号値を計算する。この穿刺針位置、穿刺針信号値を求める計算は、各穿刺針描出用超音波走査毎に実行される。
【0054】
[穿刺針描出画像の生成・表示:ステップS4]
ステップS1〜S3における各処理は、フレーム毎に逐次繰り返して実行される。画像生成ユニット25は、ステップS3において計算した各穿刺針位置に、対応する穿刺針信号値をマッピングすることで、穿刺針の軌跡が明示されたフレーム毎の穿刺針描出画像を生成する。当該穿刺針描出画像は、フレーム毎にリアルタイムで生成される。各穿刺針描出画像は、表示処理ユニット27において所定の表示処理を受けた後、モニタ14において、例えば穿刺針描出画像と併せて随時取得されるBモード断層像と、重畳させて或いは並列的にリアルタイム表示される(ステップS4)。
【0055】
(変形例1)
上記説明では、受信方向R1に沿った走査線上の受信信号と、送信方向T1を基準として受信方向R1と反対側にある受信方向R2に沿った走査線上の受信信号とを用いて、穿刺針の位置及び信号値を計算する例を示した。しかしながら、本穿刺針描出機能は、当該例に拘泥されず、受信方向R1に沿った走査線上の受信信号と、送信方向T1を基準として受信方向R1と同じ側にあり受信方向R2とは異なる受信方向R3に沿った走査線上の受信信号とを用いて、同様の解析により穿刺針の位置及び信号値を計算するようにしても良い。すなわち、本穿刺針描出機能によれば、一つの送信方向と当該送信方向を基準として取得された少なくとも二つの受信方向に対応する受信信号とこれらの幾何学的関係を用いることで、穿刺針の正確な位置及び当該位置における信号値を計算することができる。
【0056】
(変形例2)特徴抽出に関する別の例>
上記実施形態においては、例えば式(1)〜(4)に従う解析的手法によって穿刺針の位置を求め、式(5)〜(7)に従う解析的手法によって穿刺針信号値を求める例を示した。これに対し、例えば図5に示したパタン51、パタン52を用いた所定の特徴量抽出を行うことで、穿刺針の位置等を求めるようにしてもよい。画像中から直線などの特徴を抽出する方法は、画像処理分野で古くから多数報告されている。本穿刺針描出機能においても、例えばハフ変換(Hough transform)等の代表的な特徴量抽出アルゴリズムを利用することができる。係る場合には、当該アルゴリズムを実行する専用プログラムを記憶ユニット29に格納しており、例えばステップS3において、当該専用プログラムを用いて特徴量抽出が実行され、その結果として抽出された線状のパタンとして各穿刺針信号値が適切な位置にマッピングされた穿刺針描出画像を生成することができる。
【0057】
(効果)
以上述べた本超音波診断装置においては、送信超音波にて形成されるメインビームTの幅から実質的に外れた位置に受信方向を複数設定し、当該各受信方向に対応して取得された複数の受信ビームを用いて、超音波走査された領域内に存在する所定の反射体(穿刺針)の位置及び当該反射体の各位置に対応する信号値を、幾何学的解析或いは特徴量抽出によって計算する。そして、計算された反射体の位置に対応する信号値をマッピングすることで穿刺針描出画像を生成し、通常のBモード断層画層と共にリアルタイム表示する。従って、術者は、穿刺針が正確に描出された穿刺針描出画像及びBモード画像を同時にリアルタイムで観察することができ、被検体内における穿刺針を正確かつ迅速に視認することができる。その結果、超音波診断装置を用いたモニタリングを行う穿刺術等における質の向上に寄与することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る穿刺針描出機能について説明する。本実施形態に係る穿刺針描出機能は、並列同時受信によって複数の受信方向に対応する受信信号を取得し、これに基づいて穿刺針位置及び穿刺針信号値を計算するものである。
【0059】
図9は、本実施形態に係る穿刺針描出機能を説明するための図である。本実施形態においては並列同時受信を行うため、送信方向T1と受信方向R1との間隔を順次変化さることで、受信方向R1に沿った複数の走査線(図7の例では、a,b,c,d,eの5本分)に対応する受信ビームを形成するものとする。この様な実質的に指向性の異なる複数の受信ビームは、送信方向T1に沿った1回の送信ビームに対して、例えばプリアンプ22Aの受信遅延を各チャンネル毎に変化させた受信処理を行うことで可能となる。
【0060】
なお、必要であれば、T1へのビーム送信、R1−aからのビーム受信、T1へのビーム送信、R1−bからのビーム受信、・・・といった具合に、複数回の超音波送受信を実行するようにしてもよい。
【0061】
各走査線R1−a〜R1−eから得られる受信信号には、既述の通り送信方向T1と交差する穿刺針からの反射信号が含まれている。画像生成ユニット25は、この反射信号を用いて、幾何学的関係に基づいて記述の方法に従って各走査線R1−a〜R1−e上にマッピングすることで、例えば図7のパタン53を生成する。さらに、画像生成ユニット25は、このパタン53を線状であると見なして例えばハフ変換等の所定の特徴量抽出を行うことで、送信方向T1との交点を求める。これにより、送信方向T1上における穿刺針の位置(すなわち、穿刺針上の送信ビームの反射位置)を推定し、穿刺針の位置を求めることができる。
【0062】
以上述べた構成によっても、第1の実施形態と同様の効果を実現することができる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0064】
(1)本実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0065】
(2)上記各実施形態においては、穿刺針描出画像として、例えば図5に示したパタン51、パタン52から計算した穿刺針の軌跡を明示するものであった。しかしながら、当該例に拘泥されず、例えば穿刺針の軌跡と併せてパタン51、パタン52を表示するようにしてもよい。また、係る場合には、穿刺針の軌跡とパタン51、パタン52とが区別可能な形態にて表示することが好ましい。
【0066】
(3)上記各実施形態においては、被走査領域を二次元領域(二次元断面)とする場合を例とした。これに対し、被走査領域を三次元領域として穿刺針描出を行うことも可能である。係る場合には、被走査領域内に存在する所定の反射体の位置及び当該反射体の各位置に対応する信号値を、三次元的な幾何学的解析、或いは特徴量抽出によって計算すればよい。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…超音波診断装置、11…装置本体、12…超音波プローブ、13…入力装置、14…モニター、21…超音波送信ユニット、22…超音波受信ユニット、23…Bモード処理ユニット、24…ドプラ処理ユニット、25…画像生成ユニット、26…画像メモリ、27…表示処理ユニット、28…制御プロセッサ(CPU)、29…記憶ユニット、30…インターフェースユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが供給される駆動信号に応答して超音波を発生し且つ受信した超音波に応答してエコー信号を発生する複数の超音波振動子を有する超音波プローブと、
異なる送信遅延が与えられた前記駆動信号を前記各超音波振動子に供給し前記各超音波振動子から前記超音波を所定のタイミングで発生させることで、所定の送信方向に対応する送信ビームを前記超音波プローブから送信させる送信手段と、
前記各超音波振動子が発生する各エコー信号に前記超音波振動子毎に異なる受信遅延を与えると共に、当該受信遅延が与えられた前記各エコー信号を加算することで、前記送信方向とは異なる少なくとも二つの受信方向に対応する、少なくとも二つの受信ビームを生成する受信手段と、
前記少なくとも二つの受信ビームを用いて、前記送信ビームが送信された被送信領域内に存在する所定の反射体の位置及び当該反射体からのエコー信号を計算する計算手段と、
前記計算された反射体の位置及びエコー信号を用いて、前記反射体が映像化された第1の超音波画像を生成する画像生成手段と、
前記第1の超音波画像を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記受信手段は、前記送信方向とは異なる第1の受信方向に対応する第1の受信ビームと、前記第1の受信方向と前記送信方向を基準として反対側に位置する第2の方向に生成する受信ビームと、を少なくとも生成することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記受信手段は、前記送信方向とは異なる第1の受信方向に対応する第1の受信ビームと、前記第1の受信方向と前記送信方向を基準として同じ側に位置し前記第1の受信方向と異なる第3の方向に生成する受信ビームと、を少なくとも生成することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記計算手段は、前記送信方向と前記少なくとも二つの受信方向との幾何学的関係を用いて所定の反射体の位置及び当該反射体からのエコー信号を計算することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記計算手段は、前記少なくとも二つの受信方向を用いた特徴量抽出処理によって所定の反射体の位置及び当該反射体からのエコー信号を計算することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記表示手段は、前記第1の超音波画像と前記被送信領域内の構造物が映像化されたBモード画像とを、重畳して又は並列的に表示することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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