説明

超音波診断装置

【課題】Bモード又はMモードを実行する場合に、アーチファクトの増加を抑制することが可能な超音波診断装置を提供する。
【解決手段】この実施形態に係る超音波診断装置は、送受信手段とスイッチング電源と制御手段と画像生成手段とを有する。送受信手段は、繰り返し周波数に従って被検体に超音波を送信し、被検体からエコー信号を受信する。スイッチング電源は、スイッチング周波数に従ったスイッチングにより電圧を生成して、送受信手段に電圧を供給する。制御手段は、Bモード又はMモードの実行の指示を受けた場合に、スイッチング電源のスイッチングのタイミングに対して、同じ走査線に対する超音波の送受信それぞれのタイミングをずらして、送受信手段に超音波を送受信させる。画像生成手段は、同じ走査線への超音波の送受信により得られる複数のエコー信号を加算して超音波画像データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の撮影モードには、Bモード、Mモード、及びドプラモードがある。Bモードは、被検体内の組織の形状を表すBモード画像データを生成するための撮影モードである。Mモードは、1本の走査線に関する1次元の画像が時間軸に沿って並べられたMモード画像データを生成するための撮影モードである。ドプラモードは、被検体の血流速度を定量的に計測するための撮影モードである。
【0003】
ドプラモードを実行する超音波診断装置においては、小型化が可能なスイッチング電源が電源装置として用いられる場合がある。この場合、スイッチング電源に起因するスイッチングノイズによって、ドプラモードで得られる画像データにアーチファクトが発生することがある。アーチファクトを回避するために、スイッチング電源のスイッチング周波数を超音波の繰り返し周波数(Pulse Repetition Frequency:PRF)の整数倍にする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−130992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スイッチング周波数を繰り返し周波数(PRF)の整数倍にしてBモード又はMモードを実行した場合、Bモード又はMモードで得られる画像データにアーチファクトが発生することがある。例えばパルスインバージョン法などのように、同じ方向(同じ走査線)に対する超音波の送受信によって得られた複数のエコー信号を加算し、加算された複数のエコー信号に基づいて画像データを生成する場合に、画像データにアーチファクトが発生することがある。スイッチング周波数を繰り返し周波数(PRF)の整数倍にして超音波の送受信を行うと、特定の深さからのエコー信号を検出する時間にスイッチング電源のスイッチングが行われる。そのため、同じ走査線から得られた各エコー信号において、それぞれ同じ深さからのエコー信号を検出する時間にスイッチング電源のスイッチングが行われることとなる。すなわち、同じ走査線から得られた各エコー信号において、それぞれ同じ時相にスイッチング電源のスイッチングが行われることとなる。そのため、各エコー信号のそれぞれ同じ時相にスイッチングノイズが発生することとなる。同じ走査線から得られた複数のエコー信号を加算した場合、各エコー信号のそれぞれ同じ時相に発生したスイッチングノイズが加算されてしまう。そのため、加算されるエコー信号の数に応じてスイッチングノイズの増加し、その結果、Bモード画像又はMモード画像におけるアーチファクトが増加してしまう。
【0006】
この実施形態は、Bモード又はMモードを実行する場合に、アーチファクトの増加を抑制することが可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この実施形態に係る超音波診断装置は、送受信手段と、スイッチング電源と、制御手段と、画像生成手段とを有する。送受信手段は、繰り返し周波数に従って被検体に超音波を送信し、被検体からエコー信号を受信する。スイッチング電源は、スイッチング周波数に従ったスイッチングにより電圧を生成して、送受信手段に電圧を供給する。制御手段は、ドプラモードの実行の指示を受けた場合に、繰り返し周波数に応じてスイッチング周波数を変えてスイッチング電源に電圧を供給させる。制御手段は、Bモード又はMモードの実行の指示を受けた場合に、スイッチング電源のスイッチングのタイミングに対して、同じ走査線に対する超音波の送受信それぞれのタイミングをずらして、送受信手段に超音波を送受信させる。画像生成手段は、Bモード又はMモードの実行の指示を受けた場合に、同じ走査線への超音波の送受信により得られる複数のエコー信号を加算して超音波画像データを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【図2】スイッチング電源によるスイッチングのタイミングと超音波の送信タイミングとを示すタイミングチャートである。
【図3】スイッチング電源によるスイッチングのタイミングと超音波の送信タイミングとを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照して、この実施形態に係る超音波診断装置について説明する。この実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、送受信部2と、スイッチング電源3と、画像生成部4と、表示処理部5と、表示部6と、制御部7と、入力部8とを有する。
【0010】
(超音波プローブ1)
超音波プローブ1には、複数の超音波振動子が走査方向に1列に配置された1次元アレイプローブ、又は、複数の超音波振動子が2次元的に配置された2次元アレイプローブが用いられる。超音波プローブ1は被検体に超音波を送信し、被検体からの反射波をエコー信号として受信する。
【0011】
(送受信部2)
送受信部2は、送信部21と受信部22とを有する。送受信部2は、超音波プローブ1に電気信号を供給して超音波を発生させ、超音波プローブ1が受信したエコー信号を受信する。
【0012】
(送信部21)
送信部21は、超音波プローブ1に電気信号を供給して超音波を発生させる。送信部21は、超音波プローブ1に電気信号を供給して所定の焦点にビームフォームした(送信ビームフォームした)超音波を送信させる。送信部21は、例えば図示しないクロック発生器と、送信遅延回路と、パルサ回路とを有する。クロック発生器は、超音波信号の送信タイミングや送信周波数を決めるクロック信号を発生する。送信遅延回路は、超音波を所定の深さに集束させるための集束用遅延時間と、超音波を所定方向に送信するための偏向用遅延時間とに従って、超音波の送信時に遅延をかけて送信フォーカスを実施する。パルサ回路は、各超音波振動子に対応する個別チャンネルの数分のパルサを有する。パルサ回路は、遅延がかけられた送信タイミングで駆動パルスを生成し、超音波プローブ1の各超音波振動子に駆動パルスを供給する。
【0013】
(受信部22)
受信部22は、超音波プローブ1が受信したエコー信号を受信する。受信部22は超音波プローブ1が受信したエコー信号を受信し、そのエコー信号に対して遅延処理を行うことにより、アナログの受信信号を整相された(受信ビームフォームされた)デジタルの受信データに変換する。受信部22は、例えば図示しないプリアンプ回路と、A/D変換器と、受信遅延回路と、加算器と有する。プリアンプ回路は、超音波プローブ1の各超音波振動子から出力されるエコー信号を受信チャンネルごとに増幅する。A/D変換器は、増幅されたエコー信号をデジタル信号に変換する。受信遅延回路は、デジタル信号に変換されたエコー信号に、受信指向性を決定するために必要な遅延時間を与える。具体的には、受信遅延回路は、所定の深さからの超音波を集束させるための集束用遅延時間と、所定方向に対して受信指向性を設定するための偏向用遅延時間とを、デジタルのエコー信号に与える。加算器は、遅延時間が与えられたエコー信号を加算する。その加算によって、受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。すなわち、受信遅延回路と加算器とによって、所定方向から得られた受信信号は整相加算される。
【0014】
送受信部2は、ハーモニックイメージングのためにパルスインバージョン法を実行してもよい。例えば送受信部2は制御部7の制御の下、超音波を2回、同一方向(同一の走査線)に送信し、同一方向(同一の走査線)から2回、エコー信号を受信する。例えば操作者が入力部8を用いてパルスインバージョン法の実行を指示すると、その指示を示す情報が入力部8から制御部7に出力される。制御部7は、その指示に従って送受信部2にパルスインバージョン法を実行させる。
【0015】
(スイッチング電源3)
スイッチング電源3は、図示しないスイッチング素子を備えている。スイッチング電源3は、制御部7から出力されたスイッチング周波数の信号を受けて、例えば商用の交流電圧をスイッチング周波数によって所定のディーティ比でオン/オフして、所定の直流電圧を送受信部2に供給する。
【0016】
(画像生成部4)
画像生成部4は、Bモード処理部41とDモード処理部42とを有する。
【0017】
(Bモード処理部41)
Bモード処理部41はエコー信号の振幅情報の映像化を行い、エコー信号からBモード画像データを生成する。具体的には、Bモード処理部41は、受信信号に対してバンドパスフィルタ処理を行い、その後、出力信号の包絡線を検波し、検波されたデータに対して対数変換による圧縮処理を施すことによりBモード画像データを生成する。また、Bモード処理部41は、1本の走査線における1次元の画像を時間軸に沿って並べることによりMモード画像データを生成してもよい。例えば表示部6にBモード画像が表示されている場合に、操作者が入力部8を用いて任意の走査線を指定すると、指定された走査線を示す情報(位置情報)が入力部8から制御部7に出力される。制御部7は、指定された走査線の位置情報をBモード処理部41に出力する。Bモード処理部41は、走査線の位置情報に基づいて、指定された走査線におけるエコー信号を用いてMモード画像データを生成する。
【0018】
また、Bモード処理部41は、同じ方向(同じ走査線)に対する超音波の送受信によって得られた複数のエコー信号を加算し、加算された複数のエコー信号に基づいてBモード画像データ又はMモード画像データを生成してもよい。例えばパルスインバージョン処理を実行する場合、Bモード処理部41は、同じ走査線から得られた複数のエコー信号を加算し、加算された複数のエコー信号に基づいてBモード画像データを生成する。これにより、基本波成分が除去され、非線形な高調波成分のみが抽出される。また、スペックルパターンを低減するために、Bモード処理部41は、同じ走査線から得られた複数のエコー信号を加算し、加算された複数のエコー信号に基づいてBモード画像データを生成してもよい。また、ホワイトノイズを低減するために、Bモード処理部41は、複数フレームのBモード画像データのエコー信号を加算することにより、1つのフレームのBモード画像データを生成してもよい。また、Bモード処理部41は、2次元画像の空間フィルタ又は3次元画像の空間フィルタを用いて、Bモード画像データに対してスムージング処理を施してもよい。また、Bモード処理部41は、複数のMモード画像データを時間方向に平均化してもよい。いずれの処理においても、Bモード処理部41は、同じ方向(同じ走査線)に対する超音波の送受信によって得られた複数のエコー信号を加算することにより、Bモード画像データ又はMモード画像データを生成する。以下、同じ方向(同じ走査線)に対する超音波の送受信によって得られた複数のエコー信号を加算する処理を、「加算処理」と称することとする。
【0019】
例えば操作者が入力部8を用いて、加算処理の有無及び加算処理の種類を指定する。加算処理の有無及び加算処理の種類を示す情報が、入力部8から制御部7に出力される。制御部7は、加算処理の有無及び加算処理の種類に応じて、送受信部2とBモード処理部41とを制御する。
【0020】
(Dモード処理部42)
Dモード処理部42は、エコー信号を位相検波することによりドプラ偏移周波数成分を取り出し、FFT処理を施すことにより血流速度を表すドプラ周波数分布(ドプラモード画像データ)を生成する。
【0021】
画像生成部4はCFM(Color Flow Mapping)処理部を有していてもよい。CFM処理部は血流情報の映像化を行い、カラー画像データを生成する。血流情報には、速度、分布、又はパワーなどの情報があり、血流情報は2値化情報として得られる。
【0022】
(表示処理部5)
表示処理部5は、画像生成部4によって生成された画像データを処理して、画像データに基づく画像を表示部6に表示させる。表示処理部5は、例えばDSC(Digital Scan Converter:デジタルスキャンコンバータ)を有する。表示処理部5は、画像生成部4から出力された画像データを、直交座標系で表される画像データに変換し(スキャンコンバージョン処理)、変換後の画像データに基づく画像を表示部6に表示させる。例えば表示処理部5は、Bモード画像データに基づくBモード画像を表示部6に表示させたり、Mモード画像データに基づくMモード画像を表示部6に表示させたりする。
【0023】
(制御部7)
制御部7は、演算部71とクロック生成部72とを有する。制御部7は、送受信部2による超音波の送受信を制御する。また、制御部7は、スイッチング周波数の信号(スイッチング周期の信号)をスイッチング電源3に出力して、スイッチング電源3によるスイッチングを制御する。制御部7は、ドプラモードを実行する場合と、Bモード又はMモードの加算処理を実行する場合とで、送受信部2とスイッチング電源3とに対する制御方法を変える。以下、ドプラモードを実行する場合と、Bモード又はMモードの加算処理を実行する場合とに分けて、制御部7による制御について説明する。例えば操作者が入力部8を用いて所望のモードの実行を指示すると、その指示を示す情報が入力部8から制御部7に出力される。制御部7は、その指示が示すモードに従った制御を行う。
【0024】
(ドプラモードを実行する場合)
制御部7は、ドプラモードの実行の指示を受けると、超音波の繰り返し周波数(PRF)に応じてスイッチング電源3のスイッチング周波数を変えて、繰り返し周波数(PRF)の整数倍のスイッチング周波数の信号をスイッチング電源3に出力する。操作者が入力部8を用いて、超音波の繰り返し周波数(PRF)を入力してもよい。この場合、繰り返し周波数(PRF)を示す情報が、入力部8から制御部7に出力される。例えば生体内の浅い部分を調べたい場合には、繰り返し周波数(PRF)を高い値に設定すればよい。生体内の深い部分を調べたい場合には、繰り返し周波数(PRF)を低い値に設定すればよい。また、制御部7は、繰り返し周波数(PRF)の信号を送受信部2に出力する。
【0025】
スイッチング電源3は、制御部7から受けたスイッチング周波数の信号によって動作して、所定の直流電圧を送受信部2に供給する。送受信部2は、スイッチング電源3から供給された電圧で、超音波プローブ1の超音波振動子を駆動するための駆動パルスを生成し、超音波振動子に駆動パルスを供給する。また、送受信部2は、制御部7から受けた繰り返し周波数(PRF)に従って超音波を送受信する。Dモード処理部42は送受信部2からエコー信号を受けて、そのエコー信号に基づいてドプラモード画像データを生成する。
【0026】
このようにスイッチング電源3のスイッチング周波数が、超音波の繰り返し周波数(PRF)の整数倍に制御されるため、ドプラモード画像におけるアーチファクトの発生を低減することが可能となる。
【0027】
(Bモード又はMモードの加算処理を実行する場合)
制御部7は、Bモード又はMモードの加算処理の実行の指示を受けると、スイッチング電源3のスイッチングのタイミング(位相)に対して、同じ方向(同じ走査線)から得られる複数のエコー信号を取得するための超音波の送受信それぞれのタイミングをずらして、送受信部2に超音波を送受信させる。すなわち、制御部7は、スイッチング電源3のスイッチングのタイミング(位相)に対して、同じ走査線に対する超音波の送受信それぞれのタイミングをずらして、送受信部2に超音波を送受信させる。
【0028】
例えば制御部7は、複数のエコー信号の加算の数に応じて、超音波の繰り返し周期(Pulse Pepetition Interval:PRI)を変えて、送受信部2に超音波を送受信させる。超音波の繰り返し周期(PRI)は、超音波の送信の時間間隔に相当する。具体的には、制御部7は、スイッチング電源3のスイッチングの周期の整数倍から、複数のエコー信号の加算の数に応じた時間をずらし、ずらした後の時間を繰り返し周期(PRI)として、送受信部2に超音波を送受信させる。スイッチング周期と繰り返し周期(PRI)とは、演算部71によって求められる。以下、演算部71について説明する。
【0029】
(演算部71)
例えば操作者が入力部8を用いて、被検体内に超音波を送信する深さ(目標深さ)と、被検体内での音速の値と、加算されるエコー信号の数(以下、「加算数」と称する)とを入力する。目標深さ、音速の値、及び加算数を示す情報は、入力部8から制御部7に出力される。演算部71は、被検体内に超音波を送信する深さ(目標深さ)と、被検体内での音速とに基づいて、デフォルトの繰り返し周期(PRIt)を求める。
生体内の音速(v)、目標深さ(zt)、加算数(ncmp)、及びデフォルトの繰り返し周期(PRIt)の一例を以下に示す。一例として、8個のエコー信号を加算する場合について説明する。
v=1530[m/s]
zt=170[mm]
PRIt=(zt)/(v/2)=222.222×10−6[s]
ncmp=8
【0030】
また、スイッチング電源3のデフォルトのスイッチング周波数(fsnom)と、デフォルトのスイッチング周期(tsnom)とは、図示しない記憶部に予め記憶されている。
デフォルトのスイッチング周波数(fsnom)、及びデフォルトのスイッチング周期(tsnom)の一例を以下に示す。
fsnom=200[kHz]
tsnom=1/fsnom=5×10−6[s]
【0031】
演算部71は、デフォルトの繰り返し周期(PRIt)と、デフォルトのスイッチング周期(tsnom)とに基づいて、デフォルトの繰り返し周期(PRIt)内に行われるスイッチング電源3のスイッチングの回数を求める。演算部71は、スイッチングのタイミング(位相)をずらさない場合の第1のスイッチング回数(nsb)を求める。以下に、第1のスイッチング回数(nsb)を求めるための式と具体的な値とを示す。
nsb=round((PRIt/tsnom)、0)
nsb=44×10
【0032】
次に、演算部71は、スイッチングのタイミング(位相)をずらさない場合の第1のスイッチング回数(nsb)と加算数(ncmp)とに基づいて、スイッチングのタイミング(位相)をずらした場合の第2のスイッチング回数(nsw)を求める。例えば、演算部71は、第1のスイッチング回数(nsb)から加算数(ncmp)の逆数を減算することにより、第2のスイッチング回数(nsw)を求める。以下に、第2のスイッチング回数(nsw)を求めるための式と具体的な値とを示す。
nsw=nsb−(1/ncmp)
nsw=43.875×10
または、演算部71は、第1のスイッチング回数(nsb)に加算数(ncmp)の逆数を加算することにより、第2のスイッチング回数(nsw)を求めてもよい。
【0033】
次に、演算部71は、デフォルトの繰り返し周期(PRIt)と第2のスイッチング回数(nsw)とに基づいて、スイッチングのタイミング(位相)をずらした場合のスイッチング周期(tst)を求める。具体的には、演算部71は、デフォルトの繰り返し周期(PRIt)を第2のスイッチング回数(nsw)で除算することにより、スイッチング周期(tst)を求める。以下に、スイッチング周期(tst)を求めるための式と具体的な値とを示す。
tst=PRIt/nsw
tst=5.0649×10−6[s]
【0034】
また、繰り返し周波数(PRIt)は、以下の式で表される。
PRIt=tst×nsw=tst×(nsb−1/ncmp)
すなわち、繰り返し周期(PRIt)は、スイッチング周期(tst)の整数倍(nsb倍)から、加算数(ncmp)に応じた時間をずらした時間間隔となる。
【0035】
また、クロック生成部72は、この実施形態に係る超音波診断装置の各部の動作クロックを定めるシステムクロックを生成する。システムクロック周波数(fm)、及びシステムクロック周期(dtm)の一例を以下に示す。
fm=160[MHz]
dtm=1/fm=6.25×10−9[s]
【0036】
演算部71は、システムクロック周期(dtm)で実際に動作可能なスイッチング周期(ts)を求める。以下に、スイッチング周期(ts)を求めるための式、システムクロック周期(dtm)でのカウント数(ncs)、スイッチング周期(ts)の値、及びスイッチング周波数(fs)の値を示す。
ncs=ncmp×ceil{(tst/ncmp)/dtm}
ncs=816×10
ts=dtm×ncs=5.1×10−6[s]
fs=1/ts=196.0784×10[1/s]
【0037】
演算部71は、システムクロック周期(dtm)で実際に動作可能な繰り返し周期(RPI)を求める。以下に、繰り返し周期(PRI)を求めるための式と、システムクロック周期(dtm)でのカウント数(ndp)とを示す。
PRI=ts×nsw=223.762×10−6[s]
ndp=PRI/dtm=35.802×10
【0038】
制御部7は、スイッチング周期(ts)の信号をスイッチング電源3に出力し、スイッチング周期(ts)に従ってスイッチング電源3によるスイッチングを制御する。これにより、スイッチング電源3は、スイッチング周期(ts)に従って動作して、所定の直流電圧を送受信部2に供給する。また、制御部7は、超音波の繰り返し周期(PRI)に従って送受信部2による超音波の送受信を制御する。これにより、送受信部2は、繰り返し周期(PRI)に従って超音波を送受信する。
【0039】
(表示部6、入力部8)
表示部6は、CRTや液晶ディスプレイなどのモニタであり、Bモード画像やMモード画像やドプラモード画像を表示する。入力部8は、ジョイスティックやトラックボールなどのポインティングデバイス、スイッチ、各種ボタン、キーボード、又はTCS(Touch Command Screen)などで構成されている。
【0040】
画像生成部4、表示処理部5、及び制御部7のそれぞれの機能は、プログラムによって実行されてもよい。一例として、画像生成部4と表示処理部5と制御部7とはそれぞれ、CPU、GPU、又はASICなどの図示しない処理装置と、ROM、RAM、又はHDDなどの図示しない記憶装置とによって構成されていてもよい。記憶装置には、画像生成部4の機能を実行するための画像生成プログラムと、表示処理部5の機能を実行するための表示処理プログラムと、制御部7の機能を実行するための制御プログラムとが記憶されている。画像生成プログラムは、Bモード処理部41の機能を実行するためのBモード処理プログラムと、Dモード処理部42の機能を実行するためのDモード処理プログラムとを含む。制御プログラムは、演算部71の機能を実行するための演算プログラムと、クロック生成部72の機能を実行するためのクロック生成プログラムとを含む。CPUなどの処理装置が、記憶装置に記憶されている各プログラムを実行することにより、各部の機能が実行される。
【0041】
以上の構成を有する超音波診断装置の動作について、図2のタイミングチャートを参照して説明する。図2は、スイッチング電源3のスイッチングのタイミングと、超音波の送信のタイミングとを示している。横軸は時間を示している。一例として、エコー信号の加算数を「8」とする。図2は、繰り返し周期(PRI)で規定された超音波の送信タイミングTと、同じ方向(同じ走査線)から得られた8個のエコー信号(S1〜S8)に対するスイッチングのタイミングとを示している。
【0042】
送受信部2は、演算部71によって求められた繰り返し周期(PRI)に従って超音波を送受信し、スイッチング電源3は、演算部71によって求められたスイッチング周期(ts)に従ってスイッチングする。超音波の繰り返し周期(PRI)は、スイッチング周期(ts)の整数倍から、加算数に応じた時間(ΔT)がずれた時間となっている。図2に示す例では、超音波の繰り返し周期(PRI)は、スイッチング周期(ts)の整数倍から、加算数に応じた時間(ΔT)が減算された時間間隔となっている。他の例として、超音波の繰り返し周期(PRI)は、スイッチング周期(ts)の整数倍に、加算数に応じた時間が加算された時間間隔であってもよい。
【0043】
以上のように繰り返し周期(PRI)とスイッチング周期(ts)とを制御することにより、同じ走査線から得られたエコー信号S1〜S8において、それぞれ異なる深さからのエコー信号を検出する時間にスイッチング電源3のスイッチングが行われることとなる。すなわち、同じ走査線から得られたエコー信号S1〜S8において、それぞれ異なる時相にスイッチング電源3のスイッチングが行われることとなる。そのため、スイッチングノイズが発生する場合であっても、エコー信号S1〜S8のそれぞれ異なる時相にスイッチングノイズが発生することとなる。従って、Bモード処理部41が、同じ走査線から得られたエコー信号S1〜S8を加算した場合であっても、スイッチングノイズが発生する時相がエコー信号S1〜S8でそれぞれ異なるため、複数のスイッチングノイズが同じ時相において加算されることがない。その結果、Bモード画像又はMモード画像におけるアーチファクトの増加を抑制することが可能となる。
【0044】
図3を参照して、スイッチング電源3のスイッチング周波数を、超音波の繰り返し周波数(PRF)の整数倍にして超音波を送受信する場合について説明する。図3は、スイッチング電源3のスイッチングのタイミングと、超音波の送受信のタイミングとを示している。横軸は時間を示している。図3は、繰り返し周期(PRI)で規定された超音波の送信タイミングTと、同じ方向(同じ走査線)から得られた8個のエコー信号(S1〜S8)に対するスイッチングのタイミングとを示している。
【0045】
スイッチング周波数を繰り返し周波数(PRF)の整数倍にして超音波の送受信を行うと、図3に示すように、特定の深さからのエコー信号を検出する時間にスイッチング電源3のスイッチングが行われることとなる。そのため、同じ走査線から得られたエコー信号S1〜S8において、それぞれ同じ深さからのエコー信号を検出する時間にスイッチング電源のスイッチングが行われることとなる。例えば図3に示すように、同じ走査線から得られたエコー信号S1〜S8において、それぞれ同じ時相(例えば時相Ta、Tb)にスイッチング電源のスイッチングが行われることとなる。そのため、エコー信号S1〜S8のそれぞれ同じ時相(例えば時相Ta、Tb)にスイッチングノイズが発生することとなる。従って、同じ走査線から得られた複数のエコー信号S1〜S8を加算した場合、エコー信号S1〜S8のそれぞれ同じ時相(例えば時相Ta、Tb)に発生したスイッチングノイズが加算されてしまう。そのため、加算されるエコー信号の数に応じて、スイッチングノイズの増加し、その結果、Bモード画像又はMモード画像におけるアーチファクトが増加してしまう。また、複数のエコー信号を加算した場合、ホワイトノイズは、加算数の平方根倍に増加する。一方、スイッチング電源によるスイッチングノイズは、同じ時相のノイズが加算されるため、加算数倍に増加する。そのため、ホワイトノイズに対するスイッチングノイズの振幅比が増大し、スイッチングノイズがアーチファクトとして表される。
【0046】
これに対して、この実施形態に係る超音波診断装置によると、加算処理を行う場合に、スイッチングノイズが同じ時相において加算されないため、Bモード画像又はMモード画像におけるアーチファクトの増加を抑制することが可能となる。
【0047】
(変形例1)
次に、変形例1について説明する。Bモード処理部41は、複数フレームのエコー信号を加算することにより、1つのフレームのBモード画像データを生成してもよい。この場合、制御部7は、スイッチング電源3のスイッチング周期の整数倍から、複数フレームの加算の数に応じた時間をずらし、ずらした後の時間間隔をフレーム周期とする。フレーム周期とは、1フレームのBモード画像データを生成するための複数のエコー信号を、超音波の送受信によって取得するための時間間隔である。
【0048】
フレーム周期は、演算部71によって求められる。演算部71は、例えば以下に示す式に従ってフレーム周期を求める。
フレーム周期=スイッチング電源3のスイッチング周期の整数倍+(スイッチング電源3のスイッチング周期/加算されるフレーム数)
なお、操作者が入力部8を用いて、加算されるフレーム数を入力すればよい。
【0049】
制御部7は、演算部71によって求められたフレーム周期に従って送受信部2による超音波の送受信を制御する。これにより、送受信部2は、フレーム周期に従って超音波を送受信する。
【0050】
制御部7は、各フレームに含まれる複数の走査線のうちの所定の走査線に対する超音波の送受信において、超音波の繰り返し周期(PRI)を制御することにより、フレーム周期を調整すればよい。具体的には、制御部7は、各フレームの最後の走査線に対する繰り返し周期(PRI)を、他の走査線に対する繰り返し周期(RPI)よりも長くしたり短くしたりして、送受信部2に超音波を送受信させればよい。または、Bモード処理部41が制御部7の制御に従って、各フレームに対してダミーのエコー信号を追加することにより、フレーム周期を調整してもよい。
【0051】
以上のように、複数フレームのエコー信号を加算する場合も、フレーム周期とスイッチング周期とを制御することにより、同じ走査線から得られる複数のエコー信号において、それぞれ異なる時相にスイッチング電源3のスイッチングが行われることとなる。そのことにより、複数のスイッチングノイズが同じ時相において加算されないため、加算後のBモード画像におけるアーチファクトの増加を抑制することが可能となる。
【0052】
(変形例2)
次に、変形例2について説明する。変形例2では、スイッチング電源3として、自励発振により動作可能なスイッチング電源を用いる。制御部7は、ドプラモードの実行の指示を受けると、超音波の繰り返し周波数(PRF)に応じてスイッチング電源3のスイッチング周波数を変えて、スイッチング周波数の信号をスイッチング電源3に出力する。スイッチング電源3は、制御部7から受けたスイッチング周波数の信号によって動作して、所定の直流電圧を送受信部2に供給する。
【0053】
一方、制御部7は、Bモード又はMモードの加算処理の実行の指示を受けると、自励発振の指示をスイッチング電源3に出力する。すなわち、制御部7は、スイッチング周波数の信号をスイッチング電源3に出力せずに、自励発振の指示をスイッチング電源3に出力する。これにより、スイッチング電源3は、スイッチング電源3に予め設定されているスイッチング周波数に従って自励発振して、所定の直流電圧を送受信部2に供給する。
【0054】
以上のように、ドプラモードにおいては、スイッチング周波数を超音波の繰り返し周波数(PRF)に同期させ、Bモード又はMモードの加算処理においては、スイッチング周波数を繰り返し周波数(PRF)に同期させない。このように、スイッチング周波数と繰り返し周波数(PRF)との同期を外すことにより、同じ走査線から得られた複数のエコー信号において、それぞれ異なる深さからのエコー信号を検出する時間に、スイッチング電源3のスイッチングが行われることとなる。そのため、Bモード処理部41が、同じ走査線から得られた複数のエコー信号を加算した場合であっても、スイッチングノイズが発生する時相が各エコー信号でそれぞれ異なるため、複数のスイッチングノイズが同じ時相において加算されることがない。その結果、Bモード画像又はMモード画像におけるアーチファクトの増加を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 超音波プローブ
2 送受信部
3 スイッチング電源
4 画像生成部
5 表示処理部
6 表示部
7 制御部
8 入力部
21 送信部
22 受信部
41 Bモード処理部
42 Dモード処理部
71 演算部
72 クロック生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し周波数に従って被検体に超音波を送信し、前記被検体からエコー信号を受信する送受信手段と、
スイッチング周波数に従ったスイッチングにより電圧を生成して、前記送受信手段に前記電圧を供給するスイッチング電源と、
ドプラモードの実行の指示を受けた場合に、前記繰り返し周波数に応じて前記スイッチング周波数を変えて前記スイッチング電源に前記電圧を供給させ、Bモード又はMモードの実行の指示を受けた場合に、前記スイッチング電源の前記スイッチングのタイミングに対して、同じ走査線に対する超音波の送受信それぞれのタイミングをずらして、前記送受信手段に超音波を送受信させる制御手段と、
前記Bモード又は前記Mモードの実行の指示を受けた場合に、前記同じ走査線への超音波の送受信により得られる複数のエコー信号を加算して超音波画像データを生成する画像生成手段と、
を有する超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記Bモード又は前記Mモードの実行の指示を受けた場合に、前記複数のエコー信号の加算の数に応じて超音波の送信の繰り返し周期を変えて、前記送受信手段に超音波を送信させる、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記スイッチングの周期の整数倍から前記加算の数に応じた時間をずらした時間を、超音波の送信の前記繰り返し周期として、前記送受信手段に超音波を送信させる、
請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記Bモード又は前記Mモードの実行の指示を受けた場合に、前記スイッチング周期の整数倍から前記加算の数に応じた時間をずらした時間を、1フレームの超音波画像データを生成するための複数のエコー信号を超音波の送受信によって取得するためのフレーム周期とし、前記フレーム周期に従って前記送受信手段に超音波を送受信させ、
前記画像生成手段は、前記Bモード又は前記Mモードの実行の指示を受けた場合に、複数フレームのエコー信号を加算して前記超音波画像データを生成する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
繰り返し周波数に従って被検体に超音波を送信し、前記被検体からエコー信号を受信する送受信手段と、
スイッチング周波数に従ったスイッチングにより電圧を生成して、前記送受信手段に前記電力を供給する自励発振型のスイッチング電源と、
ドプラモードの実行の指示を受けた場合に、前記繰り返し周波数に応じて前記スイッチング周波数を変えて前記スイッチング電源に前記電圧を供給させ、Bモード又はMモードの実行の指示を受けた場合に、前記スイッチング電源に前記自励発振させて前記スイッチング電源に前記電圧を供給させる制御手段と、
前記Bモード又は前記Mモードの実行の指示を受けた場合に、同じ走査線への超音波の送受信により得られる複数のエコー信号を加算して超音波画像データを生成する画像生成手段と、
を有する超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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