説明

超音波診断装置

【課題】圧迫力に対する生体各部の弾性情報のバラツキ度合に関する情報を提供して、組織鑑別の精度ないし信頼性を一層向上させる。
【解決手段】被検体に超音波ビームを繰り返し走査するとともに、被検体からの反射エコー信号を受信する送受信手段と、反射エコー信号からなるフレームデータを取得するフレームデータ取得手段と、フレームデータに基づいて走査面の複数の計測点における弾性と相関する弾性情報を求める計測手段と、各計測点における弾性情報のバラツキ度合を表すバラツキ画像を生成する画像生成手段と、バラツキ画像を表示する表示手段とを有し、バラツキ度合は、各計測点の弾性情報をその計測点を取巻く局所領域に含まれる複数の計測点の弾性情報を母集団とし、その母集団に基づいて統計処理して得られる各計測点における弾性情報のバラツキに関する統計的特徴量としてなる超音波診断装置により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に係り、具体的には、被検体に加えられる圧迫力に対する生体各部の変位のバラツキ度合を表す画像をユーザに提供して、診断における鑑別性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、被検体の表面に超音波探触子を当て、その探触子から被検体に超音波を送信し、被検体内部からの超音波の反射波を受信し、その受信信号である反射エコー信号に基づいて被検体の各部の生体情報を断層像などの画像により表示して診断に供するものである。
【0003】
特に、最近は、特許文献1、2等に記載されているように、被検体に用手法又は機械的な方法により圧迫力を加え、その圧迫力を変化させながらRF信号からなる複数のフレームデータを時系列的に取得し、取得時間が異なる一対のフレームデータに基づいて生体各部の変位を求め、求めた変位を空間微分して生体各部の歪みを求めることにより、生体各部の硬さ又は軟らかさに関する弾性画像を生成して表示することが行われている。さらに、圧迫により生じた生体内部の応力分布を求め、求めた応力分布と歪みとから生体各部のヤング率等の弾性率を求めて弾性率画像を生成して表示することが提案されている。これらの弾性画像又は弾性率画像は、生体組織の硬さや柔らかさの程度に応じて異なる色相を付したり、輝度を階調化して表示される。これによって、検者は、圧迫力を加減しながら計測される弾性画像又は弾性率画像を観察することにより、正常組織、ガン細胞、腫瘍などを鑑別することを可能にしている。
【0004】
ところで、生体各部の組織の硬さは、圧迫力の大きさによって変わることが知られており、例えば、変位や歪みの計測値は定性的な相対値である。したがって、圧迫力の加え方によって弾性画像の色相等が違ってくるから、検者の経験や熟練度によって鑑別が異なることがある。この点、弾性率の計測値は、生体内部の応力分布を考慮して求めた定量的な値であることから、検者の経験や熟練度などの個人差によらず、客観的ないし普遍的な鑑別が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−317313号公報
【特許文献2】特開2000−60853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、弾性率を求めるためには、圧迫力を検出して生体内部の応力を演算により求める必要があるが、生体内部の応力を精度よく、かつ短時間で求めることについては改善の余地がある。
【0007】
一方、画像診断において、ガン細胞や腫瘍などの組織の弾性情報だけでなく、腫瘍等の組織と周辺組織の変位のバラツキ度合が判れば、腫瘍等の組織鑑別の精度ないし信頼性が向上することが考えられる。
【0008】
また、嚢胞などは細胞組織ではないから、歪みや弾性率等の弾性情報では識別することができないため、嚢胞などを識別できれば、鑑別の精度ないし信頼性を一層向上させることができると考えられる。
【0009】
本発明は、圧迫力に対する生体各部の変位のバラツキ度合に関する情報を提供して、組織鑑別の精度ないし信頼性を一層向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の原理について説明する。まず、被検体に圧迫力を加えたときの生体各部の組織の動的振舞いを検討すると、腫瘍等の組織と周辺組織との組織間の結合の強さの度合いによって、動的な振舞いに顕著な相違が現れることが判った。例えば、ガン腫瘍等を形成する組織は、細胞の密度が高く、組織結合度が高いことから纏まって同じ動きをする。これに対し、ガン腫瘍等の周辺の組織は必ずしも組織結合度が高くないので、ガン腫瘍等に比べて動きの大きさや方向にバラツキを有する動きになる。一方、繊維腺腫のような比較的柔らかい組織の場合は、圧迫力を受けた位置に応じて動きの大きさや方向が分散して変位にバラツキが現れる。さらに、嚢胞のような非細胞組織の場合は、胞内には組織の結合がないので、嚢胞内の計測点の変位の大きさや方向にバラツキが顕著に現れる。したがって、被検体に圧迫力を加えたときの生体各部の変位のバラツキ度合によって、組織鑑別の精度ないし信頼性を一層向上させることができることになる。
【0011】
そこで、本発明の第1の態様は、被検体に超音波ビームを繰り返し走査するとともに、被検体からの超音波の反射エコー信号を受信し、超音波ビームの走査面に対応する反射エコー信号からなるフレームデータを被検体における圧力が変化する過程で取得し、取得時刻が異なる一対のフレームデータに基づいて超音波ビームの走査面の複数計測点における変位ベクトルを求め、各計測点における変位のバラツキ度合を表す変位バラツキ画像を生成して表示することを特徴とする。
【0012】
すなわち、被検体に圧迫力を加えたときの生体各部位の変位(ベクトル)の大きさ及び方向は、生体組織の結合の強弱及び周辺組織の結合の強弱に相関して異なってくる。したがって、各部の組織及び周辺組織の結合度合いに関連して、各計測点における変位にバラツキが現れる。そこで、変位の大きさ及び方向を図形化(例えば、矢印)して表示すると、圧迫力の方向に対して各計測点の変位のバラツキを観察できる。その変位のバラツキは、ガン腫瘍、繊維腺腫あるいは嚢胞など、組織の結合度合いに応じて生ずる。また、それら特定組織の影響を受けて、周辺組織の変位のバラツキの様子も異なってくる。したがって、各計測点における変位を図形化した変位バラツキ画像を表示することにより、検者はその図形を観察して変位のバラツキ度合により組織の鑑別を行うことができる。
【0013】
この場合において、走査面に対応する反射エコー信号に基づいて被検体の断層像を再構成し、その断層像に変位バラツキ画像を重ねて表示させることが好ましい。これにより、断層像に現れた生体組織の画像と、変位バラツキ画像との対比観察が容易になり、断層像に現れた関心部位の組織鑑別の精度が向上する。
【0014】
また、変位の大きさは定性的な相対値であるが、各計測点の変位を、各計測点を取巻く局所領域に含まれる複数計測点の変位の平均値で正規化することにより、組織結合度を定量化することができる。これによれば、検者の経験や熟練度などの個人差によらず、客観的あるいは普遍的な鑑別を行うことが可能になる。
【0015】
本発明の第2の態様は、変位バラツキあるいは正規化した変位バラツキを可視化した画像を生成することに代えて、変位計測手段により求めた各計測点の変位を、各計測点を取巻く局所領域に含まれる複数計測点の変位を母集団として統計処理し、走査面における変位バラツキの統計的特徴量を求め、求めた統計的特徴量を各計測点に対応付けて画像化した特徴量分布画像を表示することを特徴とする。ここで、統計的特徴量は、各計測点の変位のバラツキ度合を示す数値であり、例えば、局所領域に含まれる複数計測点の変位の標準偏差と分散値のいずれか一方を、局所領域に含まれる複数計測点の変位の平均値で正規化した値を採用することができる。
【0016】
本発明の特徴量分布画像は、定量的な弾性画像に相当し、かつ各計測点の応力を求めることなく得られることから、従来の弾性率画像に代えて、リアルタイムで断層像と対比可能になる。この場合、本発明の特徴量分布画像は、周知の断層像、弾性画像、又は弾性率画像に、並べて又は重ねて表示させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧迫力に対する生体各部の変位のバラツキ度合に関する情報を提供できるから、組織鑑別の精度ないし信頼性を一層向上させることができる。また、変位バラツキの特徴量分布画像を正規化した場合は、弾性率画像に代わる定量的な弾性画像として断層像とリアルタイムで表示可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の超音波診断装置のブロック構成図である。
【図2】本発明の特徴部に係る一実施形態の変位バラツキ評価部のブロック構成図である。
【図3】探触子の実施形態を示す外観図である。
【図4】変位フレームデータの概念を示す図である。
【図5】本発明による変位バラツキ画像とその統計的特徴量の分布画像を説明する図である。
【図6】変位バラツキデータの処理に用いる局所領域を説明する図である。
【図7】変位バラツキ特徴量画像と断層像と弾性率画像とを並べて表示した一例の表示状態を示す図である。
【図8】断層像に重ねて変位バラツキ特徴量画像を表示した一例の表示状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。図1に、本発明の一実施形態の超音波診断装置のブロック構成図を示し、図2に、本発明の特徴部に係る一実施形態の変位バラツキ評価部のブロック構成図を示す。図1に示すように、被検体1に当接して用いられる超音波の探触子2は、被検体1との間で超音波を送信及び受信する複数の振動子を整列して形成されている。探触子2は、送信回路3から供給される超音波パルスにより駆動される。送受信制御回路4は、探触子2の複数の振動子を駆動する超音波パルスの送信タイミングを制御して、被検体1内に設定される焦点に向けて超音波ビームを形成するようになっている。また、送受信制御回路4は、探触子2の振動子の配列方向に電子的に超音波ビームを走査するようになっている。
【0020】
一方、探触子2は、被検体1内から発生する反射エコー信号を受信して受信回路5に出力する。受信回路5は、送受信制御回路4から入力されるタイミング信号に従って、反射エコー信号を取り込んで増幅などの受信処理を行う。受信回路5により受信処理された反射エコー信号は、整相加算回路6において複数の振動子により受信された反射エコー信号の位相を合わせて加算処理される。整相加算回路6において整相加算された反射エコー信号(以下、RF(高周波)信号という。)は、信号処理部7に入力され、ゲイン補正、ログ圧縮、検波、輪郭強調、フィルタ処理等の信号処理がなされる。なお、整相加算回路6において生成されるRF信号は、複合復調したI、Q信号であっても良い。
【0021】
信号処理部7により処理されたRF信号は白黒スキャンコンバータ8に導かれ、ここにおいてディジタル信号に変換されるとともに、超音波ビームの走査面に対応した2次元の断層像データに変換される。これらの信号処理部7と白黒スキャンコンバータ8によって断層像の画像再構成手段が構成される。白黒スキャンコンバータ8から出力される断層像データは、切替加算部9を介して画像表示器10に供給されて断層像が表示されるようになっている。
【0022】
一方、整相加算回路6から出力されるRF信号は、RF信号フレームデータ取得部11に導かれる。RF信号フレームデータ取得部11は、超音波ビームの走査面に対応するRF信号群を、フレームデータとして複数フレーム分を取得してメモリなどに格納する。変位計測部12は、RF信号フレームデータ取得部11に格納されている取得時刻が異なる複数対のフレームデータを順次取り込み、取り込んだ一対のフレームデータに基づいて超音波ビームの走査面における複数計測点の変位ベクトルを求め、変位フレームデータとして歪み(弾性率)演算部13に出力するようになっている。歪み(弾性率)演算部13は、入力される変位フレームデータに基づいて走査面における複数計測点の歪みを求め、弾性フレームデータとして弾性データ処理部14に出力するようになっている。弾性データ処理部14は、歪み(弾性率)演算部13から入力される弾性フレームデータに座標平面内におけるスムージング処理、コントラスト最適化処理や、フレーム間における時間軸方向のスムージング処理などの様々な画像処理を施して、カラースキャンコンバータ15に送出するようになっている。変位データに基づいて弾性フレームデータを生成する処理は、特開2004−261198号公報に記載されている。
【0023】
カラースキャンコンバータ15は、弾性データ処理部14から出力される弾性フレームデータを変換してカラーの弾性画像を生成し、切替加算部9を介して画像表示器10に表示させるようになっている。つまり、カラースキャンコンバータ15は、予め設定された弾性の上限値及び下限値の範囲に基づいて、弾性画像に赤、緑、青などの色相情報を付与する。例えば、弾性フレームデータの歪みが大きく計測された領域は赤色コードに変換し、逆に歪みが小さく計測された領域は青色コードに変換する。なお、カラースキャンコンバータ15に代えて、白黒スキャンコンバータを用いることができる。この場合は、歪みが大きく計測された領域は輝度を明るく、逆に歪みが小さく計測された領域は輝度を暗くすることにより、歪みの分布を表すことができる。
【0024】
また、切替加算部9は、白黒スキャンコンバータ8から出力される白黒の断層像データと、カラースキャンコンバータ15から出力されるカラーの弾性画像データとを入力し、両画像を切り替えていずれか一方を表示させる機能と、両画像の一方を半透明にして加算合成して画像表示器10に重ねて表示させる機能と、両画像を並べて表示させる機能を有して形成されている。また、シネメモリ部18は、切替加算部9から出力される画像データをメモリに格納し、装置制御インターフェイス17からの指令に従って、過去の画像データを呼び出して画像表示器10に表示するようになっている。さらに、選択された画像データをMOなどの記録メディアへ転送することが可能になっている。
【0025】
次に、本発明の特徴部の実施形態である変位バラツキ評価部16について説明する。変位バラツキ評価部16は、図2に示すように、変位計測部12から出力される変位フレームデータを取り込んで記憶するメモリ部21と、メモリ部21に格納された変位フレームデータから、変位バラツキ又はその統計的特徴量を求める変位バラツキデータ演算部22と、変位バラツキデータ演算部22により求めた変位バラツキの分布を画像化する画像構築部23を備えて構成される。画像構築部23は、構築した組織変位分布画像データを切替加算部9を介して画像表示器10に出力して表示させるようになっている。また、変位バラツキ評価部16には、装置制御インターフェイス部17から、制御指令が入力されるようになっている。
【0026】
次に、本実施形態の基本的な動作について説明する。まず、探触子2により被検体1における圧力を変化させながら、被検体1に超音波ビームを走査するとともに、走査面からの反射エコー信号を連続的に受信して、整相加算回路6からRF信号が出力される。このRF信号に基づいて信号処理部7及び白黒スキャンコンバータ8により、走査面における断層像が再構成されて画像表示器10に表示される。
【0027】
一方、RF信号フレームデータ取得部11は、被検体1に加えられる圧迫力が変化する過程で、RF信号を取り込んでフレームレートに同期させてRF信号フレームデータを繰り返し取得し、内蔵されたフレームメモリ内に時系列順に保存する。そして、取得時刻が異なる一対のRF信号フレームデータを単位として、連続的に複数対のRF信号フレームデータを選択して変位計測部12に出力する。変位計測部12は、選択された一対のRF信号フレームデータを1次元もしくは2次元相関処理し、走査面における各計測点の変位 (大きさ及び方向を有するベクトル)を計測して変位フレームデータを生成する。この変位ベクトルの検出法としては、例えば特開平5−317313号公報等に記載されているブロックマッチング法又はグラジェント法が知られている。ブロックマッチング法は、画像を例えばN×N画素からなるブロックに分け、現フレーム中の着目しているブロックに最も近似しているブロックを前フレームから探索し、これに基づいて計測点の変位を求める。また、一対のRF信号フレームデータの同一領域における自己相関を計算して変位を算出することができる。
【0028】
変位計測部12で求められた変位フレームデータは、歪み(弾性率)演算部13に入力され、各計測点の歪みを演算して歪みデータ(弾性フレームデータ)として弾性データ処理部14に出力される。歪みの演算は、公知のように変位を空間微分することによって計算される。また、歪み(弾性率)演算部13は、求めた歪みに基づいて各計測点の弾性率を演算する機能を持たせることができる。但し、弾性率を求める場合は、各計測点における応力データが必要である。したがって、弾性率を求める場合は、図1に破線で示した圧力計測部19を設ける必要がある。圧力計側部19は、例えば、図3の(A)に示すように、探触子2の超音波送受面の周囲に設けられた圧迫板31の表面に圧力センサー32を複数設け、圧力センサー32の検出信号に基づいて、被検体1内部の計測点における応力を演算するようになっている。また、図3の(B)に示すように、圧迫板31の表面に参照変形体33を設け、参照変形体33の変形を基準にして被検体1内部の計測点における応力を演算するようにすることもできる。このようにして、圧力計測部19で求めた計測点における応力と、変位計測部12で求めた変位フレームデータから走査面上の各計測点の弾性率(例えば、ヤング率Ym)を演算し、弾性データ処理部14に出力する。弾性データ処理部14は、歪み又は弾性率に基づいて弾性画像データ又は弾性率画像データを生成し、カラースキャンコンバータ15と切替加算部9を画像表示器10に弾性画像又は弾性率画像を表示する。
【0029】
次に、本実施形態の特徴部である変位バラツキ評価部16に係る詳細構成を動作とともに説明する。まず、変位計測部12により求められた変位フレームデータは、歪み(弾性率)演算部13で用いる従来の変位フレームデータと同じであり、図4(A)、(B)に示すように、各計測点における2次元の変位ベクトル(Xi,j、Yi,j)で表される。つまり、画像縦軸方向(y方向)成分と画像横軸方向(x方向)成分の要素データ群を、それぞれ、
Xi,j(t) (i=1,2,3,・・・、N、j=1,2,3,・・・M)
Yi,j(t) (i=1,2,3,・・・、N、j=1,2,3,・・・M)
として表す。添え字のiは横軸方向の座標を、jは縦軸方向の座標を示している。変位バラツキ評価部16は、メモリ部21に格納された図4の変位フレームデータに基づいて、本発明の特徴である変位バラツキデータを演算し、その変位バラツキデータに基づいて変位バラツキ画像を生成して、画像表示器10に表示させるようになっている。以下に、変位バラツキデータの実施例を説明する。
【実施例1】
【0030】
図5に示すように、被検体1に一定方向の圧迫力を加えたときの生体各部の組織の動的振舞いは、(A)非常に硬い充実性組織(例えば、ガン腫瘍等)、(B)柔らかい充実性組織(例えば、繊維腺腫)、あるいは(C)流動的な嚢胞組織(例えば、嚢胞)等に応じて顕著な相違がある。例えば、(A)のように、ガン腫瘍等を形成する組織は、細胞の密度が高く、組織の結合度が高いことから纏まって同じ動きをする。つまり、ガン腫瘍等で形成する組織は、圧迫方向とほぼ同一方向に移動する。これに対し、ガン腫瘍等の周辺の組織は必ずしも組織結合度が高くないので、ガン腫瘍等に比べて動きの大きさや方向にバラツキを有する。このような組織の動的な振舞いの違いを変位のバラツキ度合として評価することによって、ガン腫瘍等の存在を鑑別したり、ガン腫瘍等の大きさを鑑別することができる。一方、(B)のように、繊維腺腫のような比較的柔らかい組織の場合は、圧迫力を受けた位置に応じて変位の大きさや方向が分散して、圧迫方向に対して傾斜を持つバラツキが現れ、圧迫の中心から外れるほどその傾きが大きくなる。この場合、繊維腺腫などを識別できる。さらに、(C)に示すように、嚢胞のような非細胞組織の場合は、胞内には組織の結合がないので、各部位の動きが完全に自由であるから、変位の大きさや方向のバラツキが顕著に現れた分布になる。
【0031】
そこで、実施例1では、変位バラツキデータ演算部22において、図5に示す矢印のように、各計測点の変位の大きさ及び方向を示す図形を、そのまま各計測点の位置に対応付けてなる変位バラツキデータを演算し、その変位バラツキデータに基づいて画像構築部23において変位バラツキ画像データを生成することを特徴とする。ところで、変位は圧迫力の大きさに相関するから、変位の大きさ及び方向を示す変位バラツキ画像をそのまま表示すると、組織が同じであっても、異なる組織として誤認する場合が生ずる。
【0032】
そこで、変位の大きさ及び方向を定量的な値にするため、図6に示すように、各計測点の変位を、その計測点を取巻く局所領域に含まれる複数点の変位の平均値で正規化して、変位バラツキ度合を求めることを特徴とする。図6の例では、計測点(4,4)を取巻く15点の計測点を含む領域を局所領域として設定しているが、局所領域の大きさ及び形状はこれに限られるものではない。このように、正規化することによって、各計測点の変位バラツキを定量的な矢印で表せるから、変位バラツキ度合を観察して、組織の鑑別を客観的ないし普遍的に行うことができる。
【実施例2】
【0033】
実施例1においては、各計測点における変位バラツキ度合を、変位に基づいてそのまま、又は正規化して矢印で表示するようにした。これにより、検者は矢印の大きさ及び方向を観察することにより、ガン腫瘍の動的振舞いや、周辺組織の動的振舞いを直感的に観察することができる。しかし、矢印の大きさ及び方向により組織結合度の大きさ及び方向を判断するのは煩雑な場合がある。
【0034】
そこで、本実施例2では、関心部位における変位バラツキ度合を局所的な統計処理により求めることを特徴とする。変位バラツキデータ演算部22は、メモリ部21に格納されている変位フレームデータを基本分布とした広域分布から、図6で説明したと同様の局所領域を設定し、その局所領域における変位の局所分布を抽出し、その局所領域の変位データに基づいて統計的特徴量を演算するようになっている。本実施例では、次に述べるように、局所分布において2次元変位ベクトルの標準偏差を統計的特徴量として演算する。
【0035】
図6に示すように、変位フレームデータ内において注目している計測点の座標を例えば(4、4)とし、計測点(4、4)の座標を中心とした3×5の周辺の計測点からなる局所領域を設定する。そして、この局所領域内に分布する15点の変位データ群を母集団とし、統計的特徴量として、例えば平均、標準偏差を以下の式により演算する。ここで、 3≦i≦5, 2≦j≦6 である。
(X成分の平均)4,4 = {Σ(変位フレームデータXi,j)}/15
(Y成分の平均)4,4 = {Σ(変位フレームデータYi,j)}/15
(平均)4,4 = (X成分の平均)4,4 (Y成分の平均)4,4
{ (標準偏差)4,4 }2
= Σ{(X成分の平均)4,4−(変位フレームデータXi,j)}2 /15
+Σ{(Y成分の平均)4,4−(変位フレームデータYi,j)}2 /15
同様にして、注目する計測点(i, j)についても (標準偏差)i,j、(平均)i,jを演算し、変位バラツキ特徴量の各要素データZi,jに対応させて、以下のように設定するようになっている。ここで、i=1,2,3,・・・、N、j=1,2,3,・・・Mである。
(変位バラツキ特徴量データZi,j)=(標準偏差)i,j / (平均) i,j
このようにして求められる変位バラツキ特徴量データを構成する各要素データZi,jには、変位フレームデータにおいて設定された局所領域に分布する要素データ群を母集団とした変位ベクトルのバラツキの度合が反映された値となる。
【0036】
そして、画像構築部23において、変位バラツキ特徴量データに基づいて画像を構築する。この場合、変位バラツキ特徴量データは、変位分布の標準偏差を平均で除した値で規格化されているから、変位バラツキ特徴量データの取りうる値の範囲は一義的に決まる。そこで、変位バラツキ特徴量の最小値Vmin、最大値Vmaxを変位バラツキ画像データの階調に最大値と最小値に対応付けることにより、変位バラツキ特徴量を適切に画像化することができる。
【0037】
(統計評価画像データIi,j)
= 255×{(統計評価数値データZi,j)-Vmin}/(Vmax-Vmin)
つまり、変位バラツキ画像データの各要素データIi,jは、変位バラツキ特徴量データの大きさに応じて0から255までのいずれかの値を持ったデータとして構成される。
【0038】
例えば、Vmax=1.0、Vmin=0.0の場合、図7に示すように、輝度階調(S.D)の範囲が設定され、変位バラツキ特徴量の大きさに輝度強度が対応した変位バラツキ特徴量画像データが構築されて、切替加算部9を介して画像表示器10に変位バラツキ特徴量画像43として表示される。なお、図7において、符号41は断層像であり、符号42は弾性率画像であり、それらの画像は、切替加算部9の制御により一つの画面に並べて表示させることができる。また、図8に示すように、断層像に重ねて変位バラツキ特徴量画像を表示することができる。
【0039】
例えば、ガンを疑う病変部の性状として、例えば乳腺の領域では、「乳ガン」の部位の組織は充実性を有し、ガン細胞は胞密度が高くかつ硬く、周囲組織に浸潤しているため可動性は低いという性質があるから、変位バラツキの度合は極めて小さい。一方、「繊維腺腫」の組織は、繊維性(結合性は中程度)であり、可動性は高いから、変位バラツキの度合は中程度である。さらに、「嚢胞(シスト)」の組織は液状であるから、流動性が高く、組織相互間の結合性はない。したがって、圧迫に対する組織の動的な振舞いは不規則で、可動性は高いから、変位バラツキの度合は高い。このように、組織要素の局所分布の統計的特徴を捉えることにより、例えば、図8に例示するように、組織の鑑別を行うことが可能となる。
【0040】
また、図5の(A)、(B)、(C)に示した実施例1の変位バラツキ画像に対比して、同図(D)、(E)、(F)に、実施例2の変位バラツキ特徴量画像を示す。同図から、変位バラツキを矢印で示した変位バラツキ画像よりも、変位バラツキ特徴量画像の方が変位のバラツキ度合を直感的に把握することができる。
【0041】
(変形例1)
上記の実施例では、変位をベクトル量として説明したが、1次元の変位データでもよい。つまり、例えば、変位ベクトルのY成分のみで構成された1次元の変位フレームデータを変位バラツキ評価部16に入力して変位バラツキ画像又は特徴量画像を構築するようにしてもよい。
【0042】
(変形例2)
上記実施例では、変位データに基づいて変位バラツキデータを求めたが、本発明はこれに限らず、図1の歪み(弾性率)演算部13で求めた歪みデータ、弾性率データを用いることも可能である。さらに、従来の方法によるドプラ法やティシュードプラ法により演算される速度情報や歪み率(ストレインレート)情報により構成された速度分布、歪み率分布を基本分布として変位バラツキ評価部16に入力して変位バラツキ度合のデータを得ることができる。要は、弾性と相関する情報を基本分布として用いることにより、各実施例と同様の変位バラツキ度合のデータを得ることができる。
【0043】
(変形例3)
図1の弾性データ処理部14において画像処理された後の弾性フレームデータを基本分布として変位バラツキ評価部に入力して、変位バラツキ度合のデータを得ることができる。同様に、カラースキャンコンバータ15において演算された弾性画像データを基本分布として、変位バラツキ評価部に入力して、変位バラツキ度合のデータを得ることができる。
【0044】
(変形例4)
実施例2においては、変位のバラツキ度合を表す統計的な特徴量として、規格化した標準偏差を用いたが、本発明はこれに限らず、一般的な分散や、周囲のデータ要素間との差分の和を演算した量などであってもよく、局所分布内のデータ要素のバラツキ具合を表す量であればいずれの数式に従ったものでもよい。
【0045】
(変形例5)
実施例1、2では、基本分布に設定する局所領域として、注目座標を中心とした3×5の計測点を含む領域を設定したが、本発明はこれに限らず、局所領域のサイズや要素の選択方法は任意でよく、例えば、注目する座標とその周囲の4点を併せた5点でのみ構成するなど、円形状の領域として選択するようにしてもよい。また、装置制御インターフェイス部17から局所領域を設定、選択、変更するようにすることができる。
【0046】
(変形例6)
実施例2において、画像構築部23は、変位バラツキ特徴量の大きさに応じて線形に対応した256段階(8 bit)のグレースケールの輝度強度の特徴量分布画像を構築する例を説明したが、本発明はこれに限らず、階調の分解能は例えば、512段階や128段階であってよく、また、変位バラツキ特徴量の大きさと特徴量分布画像の輝度の関係も線形に限らず、指数関数や2次関数など、任意の適切な関係式に従っていればよい。
【0047】
更にまた、ある所定のカラーマップに従い、変位バラツキ特徴量の大きさに応じて色相が割り当てて、特徴量分布画像を構築することができる。また、図8に示したように、色相を付してなる特徴量分布画像を断層像とを同一座標間で半透明的に合成して重ねて表示することができる。また、これらの設定は、装置制御インターフェイス部17から指令により選択、変更するようにできる。
【0048】
(変形例7)
変位バラツキ評価部16の画像構築部23において、特徴量分布画像に対して時間的な平滑処理(パーシスタンスなど)や空間的な平滑処理(スムージングなど)などの信号処理を施すことができる。
【0049】
(変形例8)
実施例1、2においては、変位計測部12において演算された2次元の変位フレームデータに基づいて、変位バラツキ評価部16により変位バラツキ画像又は特徴量分布画像を、断層像の画像処理とリアルタイムで行うことを前提として説明した。しかし、本発明はこれに限らず、図1に示したシネメモリ部18に時間的に過去の変位フレームデータを格納し、装置制御インターフェイス部17からの制御信号により断層像の計測をフリーズした後でも、シネメモリ部18に格納された過去の変位フレームデータに基づいて変位バラツキ画像又は特徴量分布画像を構築して画像表示器10に表示するようにすることができる。
【0050】
(変形例9)
図1の実施形態では、被検体1の体表面に探触子2を接触させる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、経直腸探触子、経食道探触子、術中用探触子、血管内探触子など、任意の超音波探触子にも同様に適用できる。
【0051】
以上説明したように、従来の超音波診断装置による弾性画像化方法において、生体組織を圧迫し、内部の各領域に生じた歪みや弾性率を演算し、その大きさの程度を階調化して表現した弾性画像を構築して表示しているが、注目する領域が、その周囲の組織とどのような硬さの関係で結合しているかを把握することは不可能であったが、本発明の各実施例によれば、関心部位の組織の局所的な結合度合を統計的特徴量として求め、その統計的特徴量の分布画像を生成して検者にフィードバックすることが可能となる。その結果、検者が注目する領域と、その周囲の組織との結合関係を客観的、定量的に評価することが可能となる。例えば、組織の充実性や嚢胞性などの組織性状の識別が容易になるなど、組織鑑別を行うための新たな情報を提供することができる。
【0052】
特に、変位や歪みの大きさなどの情報は圧迫の方法により変わる定性的な情報であるが、それらを基本情報として利用しても、局所的な統計的特徴量を規格化して評価することにより、組織性状を圧迫の方法に依存しない定量的な方法で評価することが実現する。
【0053】
また、弾性画像における輝度(色調)の大小やその変化の仕方など、検者の主観に依存した診断により、検者によっては異なる診断結果が下されることがあったが、このようなことが回避され、客観的、普遍的な診断が確立され、臨床上有用な超音波診断装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 被検体
2 探触子
3 送信回路
4 送受信制御回路
5 受信回路
6 整相加算回路
7 信号処理部
8 白黒スキャンコンバータ
9 切替加算部
10 画像表示器
11 RF信号フレームデータ取得部
12 変位計測部
16 変位バラツキ評価部
21 メモリ部
22 変位バラツキデータ演算部
23 画像構築部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波ビームを繰り返し走査する送信手段と、前記被検体からの超音波の反射エコー信号を受信する受信手段と、前記超音波ビームの走査面に対応する前記反射エコー信号からなるフレームデータを前記被検体における圧力が変化する過程で取得するフレームデータ取得手段と、取得時刻が異なる一対の前記フレームデータに基づいて前記走査面の複数の計測点における変位を求める変位計測手段と、前記各計測点における前記変位のバラツキ度合を表す変位バラツキ画像を生成する変位バラツキ画像生成手段と、該変位バラツキ画像を表示する表示手段とを有してなる超音波診断装置。
【請求項2】
前記変位バラツキ画像は、前記変位の大きさ及び方向を矢印で表示した画像であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記走査面に対応する前記反射エコー信号に基づいて前記被検体の断層像を再構成する画像再構成手段と、前記断層像に前記変位バラツキ画像を重ねて前記表示手段に表示させる加算手段とを備えてなることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記変位計測手段により求めた前記各計測点の変位を、前記各計測点を取巻く局所領域に含まれる複数の計測点の変位の平均値で正規化する正規化手段を有し、
前記変位バラツキ画像生成手段は、前記正規化された変位の大きさ及び方向を矢印で表示した変位バラツキ画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
被検体に超音波ビームを繰り返し走査する送信手段と、前記被検体からの超音波の反射エコー信号を受信する受信手段と、前記超音波ビームの走査面に対応する前記反射エコー信号からなるフレームデータを前記被検体における圧力が変化する過程で取得するフレームデータ取得手段と、取得時刻が異なる一対の前記フレームデータに基づいて前記走査面における複数の計測点の変位を求める変位計測手段と、該変位計測手段により求めた前記各計測点の前記変位を前記各計測点を取巻く局所領域に含まれる複数の計測点の変位を母集団として統計処理して、前記各計測点における前記変位のバラツキの統計的特徴量を求める統計処理手段と、前記統計的特徴量を前記各計測点に対応付けて画像化した特徴量分布画像を生成する特徴量分布画像生成手段と、該特徴量分布画像を表示する表示手段とを有してなる超音波診断装置。
【請求項6】
前記特徴量は、前記変位のバラツキ度合の数値であることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記特徴量は、前記局所領域に含まれる複数の計測点の変位の標準偏差と分散値のいずれか一方を、前記局所領域に含まれる複数の計測点の変位の平均値で正規化した値であることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記走査面に対応する前記反射エコー信号に基づいて前記被検体の断層像を再構成する画像再構成手段と、前記断層像に前記特徴量分布画像を並べて又は重ねて前記表示手段に表示させる切替加算手段とを備えてなることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記変位計測手段により求めた前記各計測点の変位に基づいて前記各計測点の歪みを求める歪み演算手段と、該求めた歪みに基づいて弾性画像を生成する弾性画像生成手段とを備え、前記断層像に前記特徴量分布画像と前記弾性画像を並べて又は重ねて前記表示手段に表示させる切替加算手段とを備えてなることを特徴とする請求項8に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記圧迫力を計測する圧迫力計測手段と、該圧迫力計測手段により計測され圧迫力に基づいて前記被検体の断層像の各部の応力分布を求める応力演算手段と、前記歪み演算手段により求められた歪みと前記応力演算手段により求められた応力分布に基づいて前記各計測点における弾性率を求める弾性率演算手段と、該求めた弾性率に基づいて弾性率画像を生成する弾性率画像生成手段とを備え、前記断層像に前記特徴量分布画像と前記弾性率画像を並べて又は重ねて前記表示手段に表示させる切替加算手段とを備えてなることを特徴とする請求項9に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−78675(P2013−78675A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19765(P2013−19765)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2011−277111(P2011−277111)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】