説明

超音波通信装置及び超音波通信方法

【課題】通信相手との間で生じる送受信タイミングのズレを補正することで、送受信タイミングのズレによる通信の途絶を回避する。
【解決手段】親機100は、超音波を検出又は生成する圧電素子部109と、超音波を用いて通信する通信部101と、一定の時間長さを有するスロットが時系列に割り当てられたテーブルであって、子機200と共通のテーブルを記憶する記憶部105と、子機200との距離に関する距離情報を取得する距離取得部112と、子機200から送信された信号を通信部101が受信するまでに所要する時間から距離を算出する距離算出部113と、取得した距離情報及び算出した距離情報に基づいて、親機100と子機200との同期のズレ時間を算出するスロットタイミング監視部108と、ズレ時間の補正を指示するスロットタイミング修正指示部110と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波通信装置及び超音波通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潜水中のダイバーは、自身の安全を確保すべく、他のダイバーや母船との通信を行う必要があり、水中では電波の減衰が大きいため、超音波を用いた通信が広く行われている。
このように水中で使用する通信装置は小型化や低消費電力化が望まれており、例えば、下記特許文献1に示すように、1つの周波数を用いて同期スロットで同期を取り、送受信のタイミングを合わせることで半2重による双方向の通信を行う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−212268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような通信装置は、通信相手との同期を取るために正確に計時する必要があり、水晶振動子を用いて時間を計測している。しかしながら、通信装置が水中で使用される場合、使用環境の温度が低下することで水晶振動子の特性が変化し、計時誤差が生じて通信相手との送受信タイミングに時間的なズレが生じ、正常に通信が出来なくなる虞があった。本発明は、通信相手との間で生じる送受信タイミングの時間的なズレを補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で通信する超音波通信装置であって、前記超音波を検出又は生成する超音波トランスデューサーと、前記超音波を用いて通信する通信部と、制御部と、を備え、前記制御部は、一定の時間長さを有するスロットが時系列に割り当てられたテーブルであり、かつ、前記他の通信装置との間で共有する前記テーブルを記憶する記憶部と、前記他の通信装置との間の距離情報を前記他の通信装置から取得する距離取得部と、前記テーブルに従って送信する信号を前記他の通信装置が受信した後、前記他の通信装置から送信された信号を受信するまでに要する所要時間に基づいて前記他の通信装置との間の距離を算出する距離算出部と、前記距離取得部が取得した距離情報A及び前記距離算出部が算出した距離情報Bに基づいて、前記他の通信装置との前記スロットの所定のタイミングの差異時間を算出し、算出した前記差異時間に応じて、前記他の通信装置の前記スロットの所定のタイミングの修正を前記他の通信装置に通知するか否かを判断するスロットタイミング監視部と、前記スロットタイミング監視部の判断に基づいて、前記他の通信装置に前記スロットの所定のタイミングの修正を指示するスロットタイミング修正指示部と、を有することを特徴とする超音波通信装置。
【0007】
これによれば、通信指示が時系列に割り当てられ、他の通信装置と共通のテーブルに基づき、他の通信装置と同期を取って送信状態と受信状態と待機状態とを切り替えるため、通信装置は1つの周波数の超音波を用いて他の通信装置と双方向に通信できる。また、スロットタイミング監視部は、通信装置から送信された信号を他の通信装置が受信し、他の通信装置から送信された信号を、通信装置が受信するまでに所要する所要時間及び距離情報に基づいて、他の通信装置との同期の差異時間を算出し、算出した差異時間に応じてスロットタイミング修正指示部は他の通信装置へ同期の修正を指示する。この結果、他の通信装置は差異時間に応じて同期を修正する。したがって、他の通信装置との送受信タイミングにズレが生じても、そのズレは補正されるため、送受信タイミングのズレにより他の通信装置と通信できなくなることを回避できる。
【0008】
[適用例2]水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で通信する超音波通信装置であって、前記超音波を検出又は生成する超音波トランスデューサーと、前記超音波を用いて通信する通信部と、制御部と、を備え、前記制御部は、一定の時間長さを有するスロットが時系列に割り当てられたテーブルであり、かつ、前記他の通信装置との間で共有する前記テーブルを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記スロットを前記他方の通信装置との間で送信あるいは受信した結果に基づいて決定し、かつ、前記他の通信装置が備える、スロットの送信あるいは受信に関する所定のタイミングの修正情報を、前記他の通信装置から受信することによって、前記スロットの所定のタイミングの修正を指示するスロットタイミング修正指示部と、を備えることを特徴とする超音波通信装置。
【0009】
これによれば、スロットタイミング修正指示部からのスロットタイミング修正情報に基づいて他の通信装置との差異時間に応じて同期を修正する。したがって、送受信タイミングにズレが生じても、そのズレは補正されるため、送受信タイミングのズレにより他の通信装置と通信できなくなることを回避できる。
【0010】
[適用例3]上記超音波通信装置であって、前記他の通信装置が前記テーブルに従って送信した信号を前記通信部が受信するまでに要する時間に基づいて、前記他の通信装置との間の距離情報を算出する距離算出部をさらに備えることを特徴とする超音波通信装置。
【0011】
[適用例4]水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で共有するテーブルに割り当てられた一定の時間長さを有するスロットに基づき他の通信装置との間で通信する超音波通信方法であって、前記他の通信装置との間の距離に関する距離情報Aを取得する距離取得工程と、前記テーブルに従って前記他の通信装置に向けて送信した後、前記他方の通信装置から返信を受信するまでに要する所要時間に基づいて、前記他の通信装置との間の距離情報Bを算出する距離算出工程と、前記距離情報A及び前記距離情報Bに基づいて、前記他の通信装置との間で前記スロットの所定のタイミングの差異時間を算出する算出工程と、算出した前記差異時間に応じて前記スロットの所定のタイミングの修正を行う修正工程と、を有することを特徴とする超音波通信装置。
【0012】
これによれば、距離情報A及び距離情報Bに基づいて、他の通信装置のスロットタイミングの差異時間を算出し、算出した差異時間に応じてスロットタイミングの修正を行うことにより、他の通信装置は差異時間に応じて同期を修正することができる。したがって、他の通信装置との送受信タイミングにズレが生じても、そのズレは補正されるため、送受信タイミングのズレにより他の通信装置と通信できなくなることを回避できる。
【0013】
[適用例5]水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で共有するテーブルに割り当てられた一定の時間長さを有するスロットに基づき他の通信装置との間で通信する超音波通信方法であって、前記他の通信装置によって割り当てられた前記スロットに基づき、該スロットの所定のタイミングで送信を開始することを特徴とする超音波通信方法。
【0014】
これによれば、他の通信装置へ直接送信することができるため、通信のスループットを向上し利便性を向上するという効果を得ることができる。
【0015】
[適用例6]水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で通信する超音波通信方法であって、前記他の通信装置との間で、スロットの所定のタイミングの差異時間に応じて、前記スロットの所定のタイミングの修正を行う第1通信方法と、前記他の通信装置が、該他の通信装置によって割り当てられた前記スロットに基づいて、前記他の通信装置との間でスロットの所定のタイミングによって送信を開始する第2通信方法と、を備え、前記第1通信方法及び前記第2通信方法は、所定時間毎に切り換えることを特徴とする超音波通信方法。
【0016】
これによれば、同期の取れた安定した通信の確保と、通信のスループットを向上し利便性を向上するという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る超音波通信装置を適用した水中通信システムを説明する図。
【図2】親機と子機との機能構成を説明する図。
【図3】スロットの構成を説明する図。
【図4】スロットに基づくパケットの送受信を説明する図。
【図5】スロットタイミングのズレの算出方法を説明する図。
【図6】親機と子機とのハードウェア構成を説明する図。
【図7】親機がスロットタイミングを修正する処理の流れを示すフローチャート。
【図8】交信テーブルの構成を説明する図。
【図9】交信テーブル2におけるスロットに基づくパケットの送受信を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、水中で送受信可能な超音波通信装置について図面を参照して説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る超音波通信装置を適用した水中通信システムの適用例を説明する図である。この水中通信システム50は、水中を潜水するダイバー10に備えられた親機100と、水中を潜水するダイバー5の腕に装着された子機200との間で、所定の周波数の超音波により通信を行う。
【0020】
親機100は、防水処理や耐水圧処理が施されたダイバーウォッチの様態であり、親機100で生成された通信信号は、圧電素子から超音波として水中に放射される。また、水中の子機200から送信された超音波は、圧電素子で通信信号に変換されて親機100で受信処理される。
【0021】
子機200は、防水処理や耐水圧処理が施されたダイバーウォッチの様態であり、親機100の圧電素子から放射された超音波を受信すると共に、親機100に対して超音波を送信する。
【0022】
尚、超音波の周波数は、10KHzから2MHzの間の周波数を想定し、親機100と子機200の大きさ、通信信号のパワーおよび回路構成における利点等を考慮して決定される。例えば、周波数として455KHzを採用し、ビットレートとして2kbps〜8kbpsを採用しても良い。また、親機100と子機200との間の通信距離は、40m〜50m程度を想定する。
【0023】
図2は、親機100と子機200との機能構成を説明する図である。尚、1台の親機100に対する子機200の台数は、1台に限定されるものではなく、略同一の機能部で構成される複数台であっても良い。
【0024】
本実施形態では、親機100と子機200とは、図3に示すような交信手順で交信する。この場合、親機100は、一方の交信テーブル(タイムスロット)300に従い、2台の子機200A,200Bは、一方のタイムスロット300に対応する他方のタイムスロット310A,310Bに従い通信する。これらのタイムスロット300,310A,310Bは、一定の時間長さT0を有し、他との通信を指示するスロット毎に交互に通信することで、1つの周波数による双方向通信を実現する。尚、他方のタイムスロット310A,310Bは、親機100が一方のタイムスロット300を決定することで一意的に決定される。他方のタイムスロット310A,310Bは、子機200A,200Bが予め記憶していても良く、親機100から送信されても良い。尚、以降では、各々の実施形態の子機は子機200A、子機200Bと呼び、各実施形態に共通して子機を指す場合には子機200と呼ぶことにする。
【0025】
1つのスロットは、親機100から子機200に対する送信パケットPKSと、子機200から親機100に対する応答パケットPKRを含む。送信パケットPKSと応答パケットPKRとのデータ構成は、例えば、先頭を示し同期を取るためのプリアンブル領域、ID情報領域、伝達情報領域及びエラーチェックのための巡回冗長検査(CRC)領域等を想定する。
【0026】
タイムスロット300,310A,310Bに示すように、親機100と2台の子機200A,200Bとの通信は、最初に、第1スロットで子機200Aとの間で交信を行い、続いて、第2スロットで子機200Bとの間で交信を行うことで1サイクルを完了する。タイムスロット300,310A,310Bでは、第1スロットから第6スロットにより6サイクルが実行され、親機100と2台の子機200A,200Bは、通信終了が指示されない限り、タイムスロット300,310A,310Bによる通信を繰り返す。尚、子機200A及び子機200Bは、自身が親機100と通信しない時は、スタンバイ状態に遷移する。尚、親機100のタイムスロット300(図3)に応じて子機200のタイムスロット310A,310B(図3)は一意に決まり、動作の基準となる子機200のクロックは、親機100のクロックと使用を開始する際に同期される。本実施形態では、制御部206は、親機100と子機200間で情報をやり取りする前に、タイムスロット300(図3)に対応するタイムスロット310A,310B(図3)の情報を、送信部103を介して子機200に伝達するべく指示し、これを受けて、子機200は親機100のクロックと同期を取る。ここで、図3に示すようにタイムスロットの各スロットの区切りをスロットタイミングと呼び、親機100と子機200とでクロックの同期を取った時点で、親機100のスロットタイミングと子機200のスロットタイミングは一致している。
【0027】
図2に戻り、親機100の機能構成について説明する。
【0028】
親機100は、通信部101、受信部102、送信部103、操作部104、記憶部105、制御部106、切替え部107、スロットタイミング監視部108、圧電素子部109、スロットタイミング修正指示部110、表示部111、距離取得部112、及び距離算出部113を備える。
【0029】
操作部104は、親機100を保持するダイバー10により操作され、操作に応じた操作指示が制御部106に送られる。本実施形態では、操作部104は、親機100上に配置されたボタン(図示は略す。)を想定する。
【0030】
制御部106は、スロットタイミング監視部108、スロットタイミング修正指示部110、距離取得部112、及び距離算出部113を備える。この制御部106は、操作部104から送られる操作指示に基づき、親機100の各機能部の動作を制御する。
【0031】
ここで、制御部106の各機能について、図4を参照して説明する。スロットタイミング監視部108は、親機100のクロックを参照して生成されたタイムスロット300と子機200Bのクロックを参照して生成されたタイムスロット310Bとのタイミングを監視する。より詳細には、スロットタイミング監視部108は、距離取得部112、距離算出部113からの情報を元に、子機200Aのタイムスロット310A、子機200Bのタイムスロット310Bが、自身のタイムスロット300とどれくらいずれているかを監視する。したがって、スロットタイミング監視部108は、各子機200A,200Bのスロットタイミングが親機100のスロットタイミングとそれぞれどれくらい差を持っているかを一元管理することができる。
【0032】
距離取得部112は、子機200との距離に関する情報を子機200から取得する。取得した距離情報は、スロットタイミング監視部108から必要に応じて参照される。
【0033】
距離算出部113は、タイムスロット300のタイミングに基づいて、親機100が送信した信号を子機200が受信し、その返答として子機200が送信した信号を親機100が受信するのに要する所要時間を計測し、計測した時間から親機100と子機200との間の距離を計算する。より詳細には、水中での音速は約1500m/秒であり、計測した時間は超音波が親機100と子機200との間を往復した時間を表し、音速を乗算することで親機100と子機200との往復距離が算出でき、1/2にする事で親機100と子機200との距離を算出できる。通信信号を親機100から送信して子機200が応答して返るまでの時間から親機100と子機200との間の通信距離を算出する技術は、例えば、特開2008−265527号公報に開示されている。
【0034】
スロットタイミング監視部108は、距離算出部113が計測した距離情報と、距離取得部112が取得した距離情報とに基づき、親機100のスロットタイミングと子機200のスロットタイミングの差異時間を算出し、算出したズレ時間が所定値を越えた場合、スロットタイミング修正指示部110に指示する。スロットタイミングの差異時間の算出方法については後述する。
【0035】
通信部101は、送信部103と受信部102を備える。送信部103は、送信する定型文や要求信号によって変調された所定の周波数の通信信号を生成し、生成した通信信号を所定の出力まで増幅することにより高周波信号を生成する。送信時には、切替え部107は送信部103と圧電素子部109とを電気的に接続する。この結果、生成した高周波信号は圧電素子部109に送られる。
【0036】
また、受信時には、切替え部107は、受信部102と圧電素子部109とを電気的に接続する。この結果、受信部102は、圧電素子部109から送られる高周波信号から通信信号を取得する。子機200から送信される通信信号には定型文が含まれ、定型文は表示部111に表示される。
【0037】
記憶部105は、タイムスロット310に関する情報、通信条件、通信手順、自身や通信相手の属性情報及び定型文等を記憶する。
【0038】
圧電素子部109は、一定の共振周波数を有する超音波トランスデューサーである。本実施形態では、圧電素子部109として、弾性振動により超音波を送受信する超音波振動子(図示は略す。)を採用する。この超音波振動子は、特開平8−275294号公報に示すように、超音波振動を検出した場合には高周波信号に変換して出力し、高周波信号が入力された場合には高周波信号に応じた超音波振動を生成して放射する。
【0039】
図2を用いて子機200の機能構成について説明する。子機200は、通信部201、受信部202、送信部203、操作部204、記憶部205、制御部206、切替え部207、距離計測部208、圧電素子部209及び表示部210を備える。
【0040】
操作部204は、操作に応じた操作指示が制御部206に送られる。本実施形態では、操作部204は、子機200上に配置されたボタン(図示は略す。)を想定する。
【0041】
制御部206は、操作部204から送られる操作指示に基づき、子機200の各機能部の動作を制御する。尚、子機200Bが通信を行う場合、制御部206は、送受信や非通信の指示を、タイムスロット310B(図3)に割り当てられたスロットに基づいて行う。より詳細には、制御部206は、通信部201を送信又は受信の通信状態(通信モード)、又は送信及び受信を行わない非通信状態(スタンバイ状態)に遷移させるべく制御する。
【0042】
距離計測部208は、タイムスロット310Bのタイミングに基づいて、親機100が送信した信号を子機200Bが受信するのに所要する時間を計測し、親機100と子機200Bとの距離を算出する。ここで、計測した時間は、親機100と子機200Bとの距離を反映した値になるが、タイムスロット310Bのタイミングに基づいて計測しているため、タイムスロット300とタイムスロット310Bのずれを含んだ情報となる。計測した所要時間から算出した距離に関する情報は、通信部201へ送られ、他の情報と一緒に送信データとして親機100へ送信される。
【0043】
通信部201は、送信部203と受信部202を備える。送信部203は、送信する定型文や制御信号によって変調された一定の周波数の通信信号を生成し、生成した通信信号を所定の出力まで増幅することにより高周波信号を生成する。切替え部207は、送信時には送信部203と圧電素子部209とを電気的に接続し、受信時には受信部202と圧電素子部209とを電気的に接続する。この結果、生成した高周波信号は圧電素子部209に送られる。
【0044】
また、受信部202は、圧電素子部209から送られる高周波信号から通信信号を取得する。親機100から送信される通信信号には定型文が含まれ、定型文は表示部210に表示される。
【0045】
圧電素子部209は、一定の共振周波数を有する超音波トランスデューサーである。本実施形態では、圧電素子部209として、弾性振動により超音波を送受信する超音波振動子(図示は略す。)を採用する。記憶部205には、タイムスロット300B(図3)に関する情報、通信条件、通信手順、自身や通信相手の属性情報及び定型文等が記憶されている。親機100から送信される通信信号には定型文が含まれ、定型文は表示部210に表示される。
【0046】
ここで、図4に基づいて、スロットタイミングの修正について説明する。尚、図4では、2台の子機200A,200Bのうち、子機200Aは親機100との間でスロットタイミングとの誤差が生じないものとして無視し、子機200Bと親機100とのやり取りのみに着目する。また、図4の横軸は時間経過を示す。
【0047】
最初に、親機100は、第1スロットを実行し、子機200Aとの間でパケットを送受信した後、親機100は、第2スロットを実行し、時刻t5において「2」の送信パケットPKSを子機200Bに送信し、子機200Bからの「2」の応答パケットPKRを時刻t8に受信する。この場合、2つのタイムスロット300,310Bは同期された状態であるため、タイミングのズレ時間は生じない。したがって、スロットタイミング監視部108は、子機200Bのスロットタイミングの修正をスロットタイミング修正指示部110に指示しない。
【0048】
次に、子機200Bに対し、第(M+1)スロットにおいて、親機100は、時刻t13において「2」の送信パケットPKSを子機200Bに送信し、子機200Bは時刻t14に受信した後、時刻t15に「2」の応答パケットPKRを送信する。この結果、親機100は時刻t16に「2」の応答パケットPKRを受信する。ここで、親機100と子機200Bとのクロックの僅かなずれにより、子機200Bのタイムスロット310Bにズレが生じ、親機100のタイムスロット300との間でΔTのズレ時間が生じる。
【0049】
子機200Bの距離計測部208では、自身のスロットタイミングにより(図5)時間計測を開始し、親機100の送信パケットPKSを受信する時刻t14で時間計測を終了する。この計測値から親機100と子機200Bとの距離を算出する。算出した距離情報は親機100への応答パケットPKRの伝達情報領域に含められて、親機100へ伝送される。尚、距離計測部208では、第(M+1)スロットのスロットタイミングでカウントを開始するが、受信したパケットが親機100の第(M+1)スロットのスロットタイミングで送信されたパケットか否かはパケットのID情報領域又は伝達情報領域の情報を参照することで確認ができる。
【0050】
スロットタイミング監視部108は、距離算出部113が計測した距離情報と、距離取得部112が取得した距離情報とから、親機100との距離により生じる遅延時間成分を計測した時間から除外して、親機100のタイムスロット300に対して子機200Bのタイムスロット310Bとの遅れや進みを示すズレ時間(ΔT)を算出する。詳細には、距離取得部112が取得した距離に関する情報は、子機200Bの距離計測部により計測されたものであり、図5のAの時間に水中での音速は約1500m/秒を乗算した値である。一方、距離算出部113が計測した距離に関する情報は、図5のBの時間に水中での音速は約1500m/秒を乗算した値である。よってΔTは、ΔT=(B−A)により求められる。
【0051】
さらに、スロットタイミング監視部108は算出したΔTが所定の値よりも大きい場合には、子機200Bのスロットタイミングの修正を行う為に、スロットタイミング修正指示部110に通知する。スロットタイミング修正指示部110では、第(N+1)スロットにおいて、スロットタイミング修正の制御信号を含んだパケットを子機200Bに送信する。その結果、2つのタイムスロット300,310Bは同期された状態になり、時刻t21における第(N+1)スロット以降においてタイミングのズレ時間は大幅に改善される。
【0052】
ここで、ΔTのズレ時間を改善するか、否かは、次のように判定される。例えば、子機200Bが自分のスロットタイミングを起点に測定した時間が7ミリ秒であったとし、親機100との通信距離が10mであった場合、音波が水中を伝わる速度(約1500m/秒)では、10mは6.7ミリ秒であるので、子機200Bのスロットタイミングは、親機100のスロットタイミングとほぼ同期していると判定される。少なくとも、同期が外れるレベルのズレではないと判定される。
【0053】
また、子機200Bが自分のスロットタイミングから測定した時間が14ミリ秒であったとし、親機100との通信距離が10mであった場合、子機200BのスロットタイミングでONしたタイミングが早くなっていると推定され、子機200Bのスロットタイミングを遅くするように判定される。
【0054】
また、子機200Bが自分のスロットタイミングから測定した時間が4ミリ秒であったとし、親機100との通信距離が10mであった場合、子機200BのスロットタイミングでONしたタイミングが遅くなっていると推定され、子機200Bのスロットタイミングを早めるように判定される。
【0055】
実用上は親機100と子機200Bとの通信距離を1m程度の分解能で把握した場合、670マイクロ秒程度の時間分解能で親機100と子機200Bのスロットタイミングを同期させることができる。
【0056】
尚、親機100及び子機200は、図6に示すように、ハードウェアとして、CPU254、メモリー252、水晶振動子256、及び種々の電子回路を含む制御装置250や、液晶パネル等の表示装置260、操作ボタン265、通信装置270及び電源装置275等を備える。上述した各機能部は、これらのハードウェアとメモリー252に記憶されたソフトウェアとが協働することにより実現される。
【0057】
図7は、親機100が子機200にスロットタイミングの修正を指示する処理の流れを示すフローチャートである。
【0058】
この処理が開始されると、最初に、親機100のCPU254は送信を開始すると同時に時間計測を開始する(ステップS350)。次に、CPU254は、子機200からの信号を受信したか、否かを判定する(ステップS351)。ここで、子機200からの信号を受信しないと判定した場合(ステップS351でNo)、ステップS350に戻り、時間計測を繰り返す。他方で、子機200からの信号を受信したと判定した場合(ステップS351でYes)、CPU254は、時間計測を終了する(ステップS352)<距離計測工程1>。
【0059】
次に、CPU254は、受信した情報から子機が計測した距離情報を取得する(ステップS353)<距離計測工程2>。次に、距離計測工程1で所得した情報と距離計測工程2で取得した情報とからスロットタイミングのズレに関する情報を取得する(ステップS354)<算出工程>。
【0060】
続いて、CPU254は、スロットタイミングのズレが許容範囲を超えているか、否かを判定する(ステップS355)。
【0061】
ここで、スロットタイミングのズレが許容範囲を超えていると判定した場合(ステップS355でYes)、CPU254は、スロットタイミング修正指示を出し(ステップS356)、子機200への次の送信情報に修正情報を含めて送信し(ステップS357)<修正工程>、一連の処理を終了する。他方で、スロットタイミングのズレが許容範囲を超えていないと判定した場合(ステップS355でNo)、一連の処理を終了する。
【0062】
以上述べた実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
親機100と子機200との同期が確保できるので、同期ズレによる通信不能状態を回避できる。
【0063】
本実施形態について、図面を参照して説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、スロットタイミング監視部108が算出するズレ時間は、全てのスロットを対象としなくとも良く、所定の割合でズレ時間を算出しても良い。また、以上のような手法を実施する装置は、単独の装置によって実現される場合もあれば、複数の装置を組み合わせることによって実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。
【0064】
(第2実施形態)
第1実施形態では、一定の時間長さを有するスロットが時系列に割り当てられたテーブルに従って通信する場合に同期を取る方法について記載したが、本実施形態ではテーブルを変更することによって、同期を取りながら通信のスループットを向上する。
【0065】
本実施形態では、親機100と子機200とは、図8に示すような交信手順で交信する。この場合、交信テーブル1に従って通信する場合には第1実施形態に記載した方法により、親機100は子機200のスロットタイミングの監視を行い、必要に応じてスロットタイミングの調整を指示することで親機100と子機200とは同期した状態となる。一方、交信テーブル2に従って通信する場合には、親機100は子機200のスロットタイミングの監視を行わず、子機200はスロットタイミングの調整を行わない。
【0066】
本実施形態では、図8に示す交信テーブル1において、親機100と子機200とは、図3に示すような交信手順で交信する。この場合、親機100は、一方の交信テーブル(タイムスロット)300に従い、2台の子機200A,200Bは、一方のタイムスロット300に対応する他方のタイムスロット310A,310Bに従い通信する。これらのタイムスロット300,310A,310Bは、一定の時間長さT0を有し、他との通信を指示するスロット毎に交互に通信することで、1つの周波数による双方向通信を実現する。尚、他方のタイムスロット310A,310Bは、親機100が一方のタイムスロット300を決定することで一意的に決定される。他方のタイムスロット310A,310Bは、子機200が予め記憶していても良く、親機100から送信されても良い。
【0067】
交信テーブル1に従って通信を行う場合、タイムスロットの構成として、親機100が送信したパケットを子機200が受信し、その返信として子機200が送信したパケットを親機100が受信するという一連のやり取りを1スロットとしている。一方交信テーブル2では、図9に一例を示すように、親機100が送信したパケットを子機200が受信する、又は子機200が送信したパケットを別の子機200が受信する、やり取りを1スロットとしている。こうすることで、子機200が割り当てられたスロットタイミングで送信を開始することができ、図9の5スロット目、6スロット目に示すように、親機100を介さずに子機200Aと子機200Bとが通信を行うことができる。これにより交信テーブル1のように常に親機100を介した通信を行う場合に比べ、子機200同士が通信したい場合に直接送信できるため、利便性を向上することができる。また、親機100を介するのに要するスロットを省くことができるため、通信のスループットを向上することができる。
【0068】
本実施形態における親機100と子機200とは図2に示した第1実施形態と略同一の機能部で構成される。図8に示す交信テーブル1と交信テーブル2との切替えは、図2に示す親機100の制御部106が制御を行う。詳細には通信の開始時又は交信テーブル1により同期を取った時点から、一定時間経過した場合、交信テーブル2から交信テーブル1に移行し、親機100とすべての子機200のスロットタイミングのずれを監視し、スロットタイミングのずれが大きいと判断された子機200についてはスロットタイミングの修正を指示する。尚、図9に示した各スロット間に一定の空白期間を持たせても良い。これにより子機200のスロットタイミングのずれの許容値を大きくすることができ、交信テーブル2で同期を取らずに通信する時間を長く設定できる。
【0069】
交信テーブル2に従って通信を行う場合の子機200の距離計測部208について説明する。距離計測部208では、交信テーブル1に従って通信を行う場合、自身のタイムスロットのタイミングに基づいて、親機100が送信した信号を子機200Aが受信するのに所要する時間を計測し、親機100と子機200Aとの距離を算出する。一方、交信テーブル2に従って通信を行う場合、距離情報を取得したい子機200Bが送信するスロットの場合、自身のタイムスロットのタイミングに基づいて、子機200Bが送信した信号を子機200Aが受信するのに所要する時間を計測し、子機200Aと子機200Bとの距離を算出する。ここで、子機200Aと子機200Bとのタイムスロットのタイミングは、交信テーブル1の通信により親機100と同期が取られている為、略同一のタイミングを持っていると判断できる。その為、子機200Bが送信した信号を子機200Aが受信するまでの時間を、子機200Aのタイムスロットに基づいて計測することで、子機200Aと子機200Bとの距離を算出することができる。ここで、距離算出のためには受信したパケットの伝達情報領域は必要なく、例えば、先頭を示し同期を取るためのプリアンブル領域やID情報領域のみを見ればよい。
【0070】
以上述べた実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
(1)親機100と子機200との同期が確保できるので、同期ズレによる通信不能状態を回避できる。
(2)子機200が自らのスロットタイミングで送信することができるので、常に子機200が親機100の返信として送信する場合に比べ、スループットを向上し利便性を向上することができる。
【0071】
本実施形態について、図面を参照して説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、以上のような手法を実施する装置は、単独の装置によって実現される場合もあれば、複数の装置を組み合わせることによって実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。
【符号の説明】
【0072】
5…ダイバー、10…ダイバー、50…水中通信システム、100…親機、101…通信部、102…受信部、103…送信部、104…操作部、105…記憶部、106…制御部、107…切替え部、108…スロットタイミング監視部、109…圧電素子部、110…スロットタイミング修正指示部、111…表示部、200…子機、201…通信部、202…受信部、203…送信部、204…操作部、205…記憶部、206…制御部、207…切替え部、208…距離計測部、209…圧電素子部、210…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で通信する超音波通信装置であって、
前記超音波を検出又は生成する超音波トランスデューサーと、
前記超音波を用いて通信する通信部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
一定の時間長さを有するスロットが時系列に割り当てられたテーブルであり、かつ、前記他の通信装置との間で共有する前記テーブルを記憶する記憶部と、
前記他の通信装置との間の距離情報を前記他の通信装置から取得する距離取得部と、
前記テーブルに従って送信する信号を前記他の通信装置が受信した後、前記他の通信装置から送信された信号を受信するまでに要する所要時間に基づいて前記他の通信装置との間の距離を算出する距離算出部と、
前記距離取得部が取得した距離情報A及び前記距離算出部が算出した距離情報Bに基づいて、前記他の通信装置との前記スロットの所定のタイミングの差異時間を算出し、算出した前記差異時間に応じて、前記他の通信装置の前記スロットの所定のタイミングの修正を前記他の通信装置に通知するか否かを判断するスロットタイミング監視部と、
前記スロットタイミング監視部の判断に基づいて、前記他の通信装置に前記スロットの所定のタイミングの修正を指示するスロットタイミング修正指示部と、
を有することを特徴とする超音波通信装置。
【請求項2】
水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で通信する超音波通信装置であって、
前記超音波を検出又は生成する超音波トランスデューサーと、
前記超音波を用いて通信する通信部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
一定の時間長さを有するスロットが時系列に割り当てられたテーブルであり、かつ、前記他の通信装置との間で共有する前記テーブルを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記スロットを前記他方の通信装置との間で送信あるいは受信した結果に基づいて決定し、かつ、前記他の通信装置が備える、スロットの送信あるいは受信に関する所定のタイミングの修正情報を、前記他の通信装置から受信することによって、前記スロットの所定のタイミングの修正を指示するスロットタイミング修正指示部と、
を有することを特徴とする超音波通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波通信装置において、
前記他の通信装置が前記テーブルに従って送信した信号を前記通信部が受信するまでに要する時間に基づいて、前記他の通信装置との間の距離情報を算出する距離算出部をさらに備えることを特徴とする超音波通信装置。
【請求項4】
水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で共有するテーブルに割り当てられた一定の時間長さを有するスロットに基づき他の通信装置との間で通信する超音波通信方法であって、
前記他の通信装置との間の距離に関する距離情報Aを取得する距離取得工程と、
前記テーブルに従って前記他の通信装置に向けて送信した後、前記他方の通信装置から返信を受信するまでに要する所要時間に基づいて、前記他の通信装置との間の距離情報Bを算出する距離算出工程と、
前記距離情報A及び前記距離情報Bに基づいて、前記他の通信装置との間で前記スロットの所定のタイミングの差異時間を算出する算出工程と、
算出した前記差異時間に応じて前記スロットの所定のタイミングの修正を行う修正工程と、
を有することを特徴とする超音波通信方法。
【請求項5】
水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で共有するテーブルに割り当てられた一定の時間長さを有するスロットに基づき他の通信装置との間で通信する超音波通信方法であって、
前記他の通信装置によって割り当てられた前記スロットに基づき、該スロットの所定のタイミングで送信を開始することを特徴とする超音波通信方法。
【請求項6】
水中において、超音波を伝送媒体として他の通信装置との間で通信する超音波通信方法であって、
前記他の通信装置との間で、スロットの所定のタイミングの差異時間に応じて、前記スロットの所定のタイミングの修正を行う第1通信方法と、
前記他の通信装置が、該他の通信装置によって割り当てられた前記スロットに基づいて、前記他の通信装置との間でスロットの所定のタイミングによって送信を開始する第2通信方法と、
を備え、
前記第1通信方法及び前記第2通信方法は、所定時間毎に切り換えられることを特徴とする超音波通信方法。

【図2】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−65073(P2012−65073A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206407(P2010−206407)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】